二次小説投稿サイト「にじファン」の閉鎖後、同主旨のサイト「暁」に移転した銀英伝二次小説「銀河英雄伝説~新たなる潮流」は、すっかり更新ペースが遅くなってしまいました。
更新自体も、以前は「本編」と「亡命編」の長編一本に絞っての頻繁な更新だったものが、「にじファン」閉鎖後は「異伝」や「美しい夢」など、長年放置されていたシリーズの執筆が多くなっています。
両シリーズの更新が遅々たるものになったのは、「本編」はもはや消化試合的な感が否めなくなっており、「亡命編」はストーリー自体があまりにもトンデモ&無理筋&主人公を勝たせ過ぎなために、それぞれ話の展開がやりづらくなったという事情が、少なからぬ影響を与えているのではないかと思われます。
しかし、「では今まで放置されていたシリーズがなぜ突然再開されたのか?」という疑問はどうにも拭えないところですね。
「本編」と「亡命編」以外のシリーズは途中放棄されていたも同然の惨状を呈していたのですから、そのまま継続して放置か、もしくは「本編」「亡命編」の完結で再開されるかのどちらかとばかり考えていましたし。
そもそも、あんな風に複数のシリーズの同時並行的な進行などやっていては、よほどの速筆でもない限り1シリーズ毎の更新速度が遅くなる上、田中芳樹のごとく収集がつかなくなった挙句の「燃え尽き症候群」にも陥りかねないのではないかと思えてならないのですけどね。
「本編」「亡命編」がなかなか先に進められないことに対する逃避行為、という要素もあるのかもしれませんが……。
作者氏の思惑はともかく、銀英伝の原作者たる田中芳樹の壮絶な遅筆&作品劣化ぶりに悩まされ続けてきた一読者的には、「1話完結等の短編ならまだしも、新しい長編シリーズを始めるのであれば、既存のシリーズを完結OR断筆宣言させてからにして欲しい」というのが正直なところです。
四方八方に色々なシリーズを立ち上げた挙句にことごとく放置してしまった田中芳樹の悪癖を、こんな形でなぞる必要はないでしょうにねぇ(T_T)。
というわけで、今回は久々にエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察を再開してみたいと思います。
以前に比べれば亀のごとく鈍重なペースながらも、ようやくある程度話数もたまってきたわけですし。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓
亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~116
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 その9 その10 その11 その12 その13 その14 その15 その16
さて今回はヴァレンシュタイン本人ではなく、その周辺および敵対陣営の人間による発言を追ってみたいと思います。
今回取り上げるそれらの発言には、明らかに作者氏がヴァレンシュタインの言動を擁護することを最優先目的に作り上げたとしか思えない内容が含まれており、しかもそのことによって作品の合理性までもが大きく損なわれてしまっています。
その最初のものは、73話でラインハルトと幕僚達がヴァレンシュタインの過去の動向について推察していた際に発生しています↓
http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/1916/novel_id~116
> 「小官が思うに事態はもっと深刻かもしれません」
> 「?」
> 言葉通り、クレメンツは深刻な表情をしている。クレメンツは何に気付いた?ケスラーを見た、彼はクレメンツを見ている。
>
> 「第六次イゼルローン要塞攻略戦で反乱軍の総司令官、ロボス元帥を解任したのは参謀長のグリーンヒル大将と言われていますが、それを提案したのはヴァレンシュタインです」
> クレメンツの声が会議室に流れる。何かを確かめるような声だ、そして表情も厳しい。
>
> 「軍法会議ではロボス元帥は軍の勝利よりも己個人の野心を優先させようとした、従って解任は止むを得ないものと判断されました」
> 「それがどうかしたか」
> 俺の問いかけにクレメンツが俺を、ケスラーを交互に見た。
>
> 「ロボス元帥解任後、宇宙艦隊司令長官になったのはシトレ元帥……。これが最初から仕組まれたものだとしたら……」
> 「……仕組まれた……、どういう事だ、副参謀長……」
> ケスラーの声が震えている。クレメンツがまた俺を、そしてケスラーを見た。昏い眼だ、どこか怯えのような色が有る様に見えたのは気のせいだろうか。
>
> 「ロボス元帥が解任された遠因はヴァンフリート星域の会戦に有ると小官は考えています。あの戦いはヴァレンシュタインの作戦により反乱軍の勝利に終わりました。しかし、あの戦いでロボス元帥は決戦に間に合わず面目を潰した……」
>
> 「覚えている、ヴァンフリート4=2に来た反乱軍は第五艦隊、そして第十二艦隊の二個艦隊だった。総司令官であるロボス元帥はあそこには来なかった。何度も戦闘詳報を読んだから覚えている……」
>
> 味方を収容して逃げる俺には状況を確認する余裕などなかった。何が起きたのかを知るため何度も戦闘詳報を読んだ。読む度に体が震えた、負けるとはこういう事なのかと思った。苦い思い出だ。
>
> 面目を潰されたロボス元帥は第六次イゼルローン要塞攻略戦で焦りから不適切な命令を出し解任されました、解任の提案者はヴァレンシュタイン……」
> クレメンツの声が続く。ヴァンフリート星域会戦を勝利に導いたのはヴァレンシュタイン、そして第六次イゼルローン要塞攻略戦でロボス元帥の解任を提案したのもヴァレンシュタイン……。
>
> 「……ロボス元帥は嵌められたと卿は考えているのか?」
> 「そうとしか思えません」
> 俺の問いかけにクレメンツが頷いた。
ここで挙げられている仮説「ロボスが嵌められた」というのは、亡命編のストーリーを見れば過大評価の類に属するものでしかありません。
73話における会話シーンは、ヴァレンシュタインを過大評価して必要以上に恐れおののく元原作主人公率いる敵対陣営の構図という、典型的なメアリー・スー的描写を描くために準備されたものだったのでしょう。
しかし実際の真相を知ろうものならば、彼らは作者氏の意図に反して、「事実は小説よりも奇なり」「現実って一体何なのだろう?」と、その桁外れな非現実性にむしろさらに目を剥いて驚愕せざるをえなかったことでしょうね(苦笑)。
何しろ、ロボスとヴァレンシュタインとの間には、「他人を嵌める」だけのことが可能となるだけの人間関係など皆無なばかりか、むしろ「いつ殴り合いを演じてもおかしくないほどの敵対関係」にすらあったのですから。
そもそもヴァレンシュタインは、会戦当初は、ロボスに陸戦部隊を壊滅させた後、会戦終了後に「兵を無為に死なせた」という責任を問うことでロボスを処断する方法を画策していましたし、表面的な態度でさえも露骨なまでに敵意剥き出しな言動に終始してもいました。
第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインのロボスに対する態度に深慮遠謀とか一貫性とかいった高尚なシロモノなど一切なく、上官侮辱罪ものの罵倒を繰り出した後に誠実な提言を行なったりするという支離滅裂な言動を披露してすらいるわけでしょう
ロボスがヴァレンシュタインに嵌められるためには、ロボスとヴァレンシュタインとの間に一定の信頼関係が醸成されており、ヴァレンシュタインの言動をロボスがある程度受け入れる人間関係が存在することが前提条件とならざるをえないのですが、両者はそのような関係には全くなかったのです。
公衆の面前でロボスに対し面と向かって直截的に罵倒を並べ立てるなどという、上官侮辱罪を立派に構成する違反行為を堂々とやらかしてすらいるヴァレンシュタインがロボスを嵌めるなど、どうやっても不可能そのものでしょうね。
しかし、陰謀論の観点からヴァレンシュタインを検証するのであれば、むしろ「何故ヴァレンシュタインはロボスから全く処断されることがなかったのか?」という点から問題視すべきだったでしょう。
一連のヴァレンシュタインの言動は、ロボスの個人的感情はむろんのこと、政治的立場や軍司令官としての権限から見てさえも、処断される口実としては充分過ぎるものがあったのですから。
ロボス失脚後のヴァレンシュタイン自身、「軍のトップの意に従わないものはクビにすれば良い」と主張したり、各艦隊司令官達や部下から直接意見を述べることすら憚られるほど恐れられたりもしているのですから、軍のナンバー2の立場にあるロボスが、それも新参者のヴァレンシュタイン相手に断固たる処罰ができない理由など、宇宙の果てまで探してもあるはずがないでしょうに。
むしろ、理屈もへったくれもなく感情任せに処断してもおかしくないくらいなのですし。
第6次イゼルローン要塞攻防戦においては、総司令部内部で交わされた作戦内容の節々に至るまで帝国側に網羅されていることが明示されている(39話)のですから、ラインハルト一派もロボスに対するヴァレンシュタインの上官侮辱罪行為を当然熟知しているはずでしょうに、何故その驚愕の事実は完全無視を決め込んでメアリー・スーな推論を掲げたりするのでしょうかねぇ(-_-;;)。
「亡命編」だけでなく、「銀河英雄伝説~新たなる潮流」の各シリーズに登場するヴァレンシュタインを論じるに際しては、「アレだけ好き勝手なことをやりまくっていて何故罰せられないのか?」というテーマを避けて通ることはできないはずなのですが……。
また、ラインハルト一派の推論にはもうひとつ大きな問題があります。
それは、「不適切な命令だからと言って、新参者の大佐(当時)でしかなかったヴァレンシュタインが総司令官の解任を進言するような行為が果たして妥当と言えるのか?」という視点と疑問がないことです。
たとえ如何に不当なものであったとしても、軍において上官の命令が絶対であることは、古今東西、また帝国・同盟を問わず基本中の基本な鉄則です。
その例外兼緊急避難措置として下位の軍人による上官の排除を定めた自由惑星同盟軍規定第214条にしたところで、それが認められるのは「指揮官が精神的、肉体的な要因で指揮を執れない、或いは指揮を執るには不適格だと判断された場合(指揮官が指揮を執ることで味方に重大な損害を与えかねない場合)」という特殊な場合のみに過ぎないわけです。
考察11でも述べたことですが、「亡命編」におけるロボスの場合は214条で挙げられているケースのいずれにも該当することはなく、このようなことが認められようものならば、それが判例となって今後の軍の運用それ自体に重要な支障をきたすようなシロモノですらありえるでしょう。
法的な観点から見れば、ヴァレンシュタインの主張などは到底認められるものではなく、逆にヴァレンシュタインの方こそが「軍の秩序を悪戯に乱し軍規に違反した」として処罰を受けなければならないシロモノでしかないのです。
そして、身分制度があるが故に同盟以上に上意下達を絶対なものとしているであろう帝国の軍人であるラインハルト一派が、このヴァレンシュタインの行為の妥当性について何ら疑問を抱くことがないというのは実に不思議な話でしかありません。
さらに笑止なのは、メアリー・スー的な「原作主人公による二次創作主人公礼賛&恐怖から来る過大評価や陰謀論」を描く意図があったであろう作者氏の思惑に反して、実は彼らの主張こそが作中のストーリーにおいて最も正鵠を射た有力な説になってしまっていることです。
ラインハルト一派の面々は、38話における軍法会議に至るまでの顛末を以下のように推測しているのですが↓
http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/1916/novel_id~116
> 「有り得ない、総司令官を嵌めるなど……」
> ケスラーが呻くような口調で呟いている。俺も同感だ、そんな事が有るとは思えない。
> 「卿の考えすぎではないか」
> しかしクレメンツはそうではないと言うように首を横に振った。
>
> 「彼一人でやったわけではないでしょう、ヴァンフリートにヴァレンシュタインを派遣したのはシトレ元帥です」
> 「つまり、シトレ元帥とヴァレンシュタインが手を組んでロボス元帥を陥れた……」
> 声が掠れた。そんな俺をクレメンツが見ている、そして頷いた。
>
> 「第五次イゼルローン要塞攻略戦、ヴァレンシュタインが亡命した戦いですが、この時の反乱軍の総司令官がシトレ元帥です。あの二人はそこで出会っているのですよ……」
> 顔が強張る、ケスラーも顔が強張っている。有り得ない、有り得ない事だ。しかし……その有り得ない事を行ってきたのがヴァレンシュタインではなかったか……。クレメンツの声が続いた。
>
> 「小官はこう考えています。ヴァレンシュタインは両親を殺害された後、士官学校に入校しました。理由は貴族達への復讐と帝国の改革のためだったと思います。そのためには力が必要だと思ったのでしょう」
> 「……」
>
> ごく自然に頷けた。俺も力が欲しかった。姉上を救い、皇帝になるために……。だから力を得るために軍に入った。俺もヴァレンシュタインも無力な存在だ、力を得ようと思えば考える事は同じだ。クレメンツの声が続く、ゆっくりと自分の考えを確かめながら話しているような口調だ。
>
(中略)
>
> 「シトレ元帥はそんなヴァレンシュタインの力を見抜いたのだと思います。そして積極的に彼を受け入れるべきだと考えた。しかしロボス元帥は違った。彼はシトレ元帥とは敵対していた。当然ヴァレンシュタインに対する扱いも違ったのでしょう」
>
> 「シトレ元帥はそんなロボス元帥に不満を持った、卿はそういうのだな」
> 俺の問いかけにクレメンツは無言で頷いた。確かにシトレは不満に思っただろう。ヴァレンシュタインを用いれば帝国との戦いを有利に進められる、そう思ったはずだ。そしてヴァレンシュタインを活用できるのは自分だけだと思った……。
>
> 「シトレ元帥だけではないでしょう、ヴァレンシュタインも同様だったはずです。彼はカストロプ公によって全てを失った。それがリヒテンラーデ侯の、帝国の方針だと知っていた……」
> 「……」
>
> 「である以上、彼はカストロプ公が粛清されるまで自分が帝国に戻れる可能性は無いと思ったはずです。そして何よりもヴァレンシュタインのカストロプ公、リヒテンラーデ侯への恨みは強かったでしょう。彼に残されたのは帝国への報復しかなかった。そして彼が帝国に報復するには同盟の力を借りるしかない……」
>
> 「シトレ元帥とヴァレンシュタイン……、この二人が結びつくのは必然という事か」
> 「その通りです、ケスラー参謀長」
> クレメンツとケスラーが顔を見合わせて頷き合っている。二人とも顔色が良くない。
作者氏が意図しているであろう「過大評価な陰謀論」らしく、ところどころに事実の間違いが含有されている推論ではあるのですが、ことシトレに関してだけは事実関係的にも全面的に正しいことを述べていると評価しても良いのではないですかね?
でなければ、ヴァレンシュタインは「伝説の17話」や38話の軍法会議でとっくの昔に「亡命編」の世界から退場を余儀なくされていたでしょうし、他にも軍紀違反に問われる違法行為の数々がありながら、しかも亡命者の身で、あそこまで出世などできるはずもないのですから。
シトレの超がつくレベルの強力なバックアップがあり、ロボスに対しても「ヴァレンシュタインに何かしたら、ありとあらゆる手段を用いてお前を社会的に抹殺する」的な脅しないし圧力でもかけていたというのであれば、ロボスがヴァレンシュタインを処断できなかった理由もある程度は説明可能なのですし。
権力も出自も何もない同盟における亡命者としてのヴァレンシュタインが、あそこまで好き勝手やりまくりながら何の処罰も受けない理由が、皮肉にもシトレのバックアップ説でかなりの部分が説明できてしまうわけです。
とはいえこの説では、メアリー・スー的なヴァレンシュタインの「強さ」が実は門閥貴族もビックリな要素で構成されている、ということにもなりかねないのですけどね。
シトレが権力に物を言わせて押しまくっている豪奢な乳母車にふてぶてしく鎮座し、その威光を背景に好き勝手な言動を披露しまくり、しかもそれによって罪に問われることなく免罪されていることを自分の実力がもたらしたものであると勘違いしている。
そんな原作知識ともヴァレンシュタイン自身の才幹とも全く関係のない「虎の威を借るキツネ」的な構図の一体どこに、メアリー・スー的な最強主人公のチートぶりを楽しめる部分があるというのでしょうか?
自分の足で立って歩いている、とは到底言えたものではないでしょう、ヴァレンシュタインは。
ヴァレンシュタインがのし上がっていく過程のストーリーがトンデモ&無理筋だらけで、作中における肝心要な問題点をスルーしていったがために、本来根拠のない過大評価&陰謀論が却って説得力のある正論になってしまっている、という図式ですね(笑)。
それとも作品や作者氏的には、かくのごときヴァレンシュタインに纏わる醜悪な権力構図を露わにすることで、ヴァレンシュタインを卑小な人間として描く的な意図でもあったりしたのでしょうか?
作中のストーリーの流れを見る限り、とてもそのような「高尚な」意図があるようには思えないのですが……。
さて、ラインハルト一派によるヴァレンシュタイン論については、それでもまだ、彼らが同盟と敵対する側であり、かつヴァレンシュタインという人間そのものを間近で常に見ることがないが故の過大評価として見ることも不可能ではないかもしれません。
しかし、76話におけるヤンが「伝説の17話」をフレデリカに話しているシーンについては、そういう擁護論すら適用することができません。
相も変わらず、擦り切れたテープレコーダーのごとき十年一昔な破綻論理を繰り出すしかないときていますし↓
http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/2687/novel_id~116
> 連絡艇の窓からハトホルが見える。第三艦隊旗艦ク・ホリンに比べるとアンテナが多い、通信機能を充実したようだ。ハトホルを見ているとヤン提督の呟きが聞こえた。
> 「ヴァンフリートの一時間か……」
>
> 驚いて提督に視線を向けると提督は私に気付いたのだろう、視線を避ける様に顔を背けた。“ヴァンフリートの一時間”、以前にも聞いた事が有る。あれは第七次イゼルローン要塞攻略戦でのことだった。あの時、ワイドボーン提督がヤン提督に言った言葉だった。“ヴァンフリートの一時間から目を逸らすつもりか?”……。一体どういう意味なのか、分かっているのはそれがヴァレンシュタイン提督に関係しているという事だけだ……。
>
(中略)
>
> 「私は当時第八艦隊司令部に居た。だがヴァレンシュタイン提督の要請で第五艦隊司令部に異動になった」
> 「第五艦隊?」
> ヤン提督が頷いた。提督の表情は暗い。
>
> 第五艦隊はヴァンフリート星域の会戦に参加している。ヤン提督はヴァレンシュタイン提督の要請で第五艦隊に異動になった……。つまりヤン提督の協力が必要だったという事だろう……。ヤン提督は憂欝そうな表情をしている。提督は協力できなかった、そういう事なのだろうか? しかし戦争は同盟の大勝利で終わっている。第五艦隊は決戦の場で活躍した殊勲艦隊のはずだ。ヴァンフリートの一時間、一体何を意味するのか……。
>
(中略)
>
> ヴァレンシュタイン提督は当時まだ少佐だったはずだ。しかも総司令部の参謀でもなかった……。
> 「可能だと思ったのだろうね。そして実際に会戦はヴァレンシュタイン提督のコントロール下に置かれた……。彼が私に望んだ事はロボス総司令官が軍を把握できなくなった場合、そして帝国軍がヴァンフリート4=2に襲来した場合、第五艦隊を速やかにヴァンフリート4=2へ導く事だった……」
>
> ヤン提督はそれきり黙り込んだ。憂鬱そうな横顔だ、視線は小さくなりつつあるハトホルに向けられている。
> 「……一時間と言うのは……」
> 私が問いかけるとヤン提督は微かに横顔に笑みを浮かべた。苦笑? 自嘲だろうか、そして口を開いた。
>
> 「そう、ヴァンフリート4=2への移動が一時間遅れた。第五艦隊が基地からの救援要請を受け取った時、私は基地の救援をビュコック提督に進言したんだが第五艦隊司令部の参謀達がそれに反対した……。最終的にはビュコック提督が基地の救援を命じたが一時間はロスしただろう」
>
> ヤン提督はまだ笑みを浮かべている。多分自嘲だろう、提督はヴァレンシュタイン提督の期待に応えられなかった……。ヤン提督が私を見た、そして直ぐに視線を逸らした。まるで逃げるかのように……。
>
> 「会戦後、ヴァレンシュタイン提督に自分の予測より一時間来援が遅いと指摘されたよ。そしてエル・ファシルで味方を見殺しにしたように自分達を見殺しにするつもりだったのかと非難された……」
>
> 「そんな! あれはリンチ少将が私達を見捨てたのです。提督は私達を救ってくれました。非難されるなど不当です! 何も知らないくせに!」
> 許せない! あの時の私達の不安、絶望を知らないくせに……。リンチ少将、あの恥知らずが逃げた時、ヤン提督が居なければ私達は皆帝国に連れ去られていた。それがどれほど怖かったか……。私の身体は小刻みに震えていた、怒り、恐怖、そしてヴァレンシュタイン提督への憎悪……。
>
> 「彼の言うとおりだ」
> 「提督!」
> 驚いて提督を見た。ヤン提督は薄い笑みを浮かべている。
> 「提督……」
>
> 「彼の言うとおりなんだ。私はリンチ少将が私達を見捨てる事を知っていた。そしてそれを利用した。私のした事はリンチ少将のした事と何ら変わらない……。今、リンチ少将がここに居たら私は彼と目を合わせる事が出来ないだろう、やましさからね。……私は、……私は英雄なんかじゃない!」
> 「……」
ありとあらゆる意味で破綻だらけな「伝説の17話」こと「ヴァンフリートの一時間」を、この期に及んでもなお執拗に取り上げ続けるつもりなのですねぇ、「亡命編」は。
そりゃストーリー的にはこのエピソードが少なからず重要な位置を占めてはいるのでしょうが、普段は礼賛調な投稿が多くを占める感想欄でさえ非難轟々だった「伝説の17話」は、そこまでして軌道修正すらも拒否して絶対的に正当化しなければならないものなのでしょうか?
ヴァレンシュタインが言うところの「一時間遅れた」云々の発言は、その根拠が原作知識というヴァレンシュタインの脳内にしか存在せず、しかもそれをヤンに提示できていない時点で誇大妄想の域を出ることなんてないでしょう。
しかもその原作知識に基づく歴史の流れ自体、考察4でも述べていたようにヴァレンシュタイン自身の行動によって改変されていた可能性が少なくないわけですし。
リンチの件に至っては、「自分が同じ状況に置かれていたらどういう行動を取るのか?」という命題を故意に無視したダブスタ&ブーメラン発言でしかありえないでしょう。
リンチはヤンや民間人を、それも軍務を放棄してまで見捨てようとしていたのに、見捨てられた側のヤンや民間人がリンチを見殺しにしてはならない理由などどこにもありはしません。
自分が生き残るなどという自己一身の利己的な目的のために、歴史を改変し本来死ぬはずのない人間を戦場で殺してきたヴァレンシュタインごときが、上から目線で偉そうに他者に説教して良いものではないですね。
何度も同じことを言っていますが、全く同じことを自分がやるのはOKなのに、他人がすると途端にNGになるというヴァレンシュタインのダブスタ&ブーメランぶりにはつくづく呆れ果てるものがあります。
で、当事者ではない私でさえあまりの不当ぶりにウンザリせざるをえないヴァレンシュタインの暴走ぶりに対し、ヤンが何故ここまで全面屈服に近い態度を取らなければならないのか、原作におけるヤンの性格から考えてさえも理解に苦しむものがあります。
原作のヤンは、原作3巻の査問会や6巻の不当逮捕劇などを見ても、自分が不当に評価されたり冤罪を着せられたりすることを著しく嫌う性格であることが見て取れますし、その際には「そこで黙って従うのは奴隷であって市民ではない」として全身全霊を挙げて戦うことを全面的に肯定してすらいるくらいなのですが。
ヴァレンシュタインを礼賛したいがために、原作設定を改竄してまでヤンに不当な懺悔の発言をさせるというのは、原作ファンとして見ても気分が良いものとは到底言い難いですね。
さらにその上、原作設定云々以前にいっぱしの社会人ともあろう者が、以下のごときタワゴトな論理をネタではなく真顔で展開できるという事実には、ある意味驚きを隠せないのですが↓
http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/2687/novel_id~116
> 吐き捨てるような口調だった。ヤン提督は苦しんでいる、でも私は何も言えなかった……。どれほど提督に非が無いと私が言っても提督は納得しないだろう。それでも無言で居る事は耐えられなかった。なんとか提督を救いたい、そんな気持ちで言葉を出した。
> 「ですが……、ヴァンフリート星域の会戦は同盟軍の勝利で終わりました。その一時間が問題になるとは思えないのですが……」
>
> ヤン提督が私を見て苦笑を漏らした。
> 「バグダッシュ准将が大尉と同じ事を言ったよ。戦争は勝った、何故その一時間に拘るのかと」
> 「……」
>
> 「第五艦隊はヴァンフリート4=2に停泊中のグリンメルスハウゼン艦隊を撃破した。一万二千隻程の敵艦隊の内、逃れる事が出来たのは五百隻程度だったはずだ。本来なら大勝利と言って良い、だがその五百隻の中にラインハルト・フォン・ミューゼルの艦隊が有ったんだ……」
> 「!」
>
> ラインハルト・フォン・ミューゼル、ヴァレンシュタイン中将が天才だと評し恐れている人物。その人物がヴァンフリート4=2に居た、そして逃げた……。彼は今帝国軍中将になり宇宙艦隊司令長官、オフレッサー元帥の信頼が厚いと聞く。驚愕する私の耳朶にヤン提督の自嘲交じりの声が聞こえる。
>
> 「ヴァレンシュタイン中将は私達にこう言った。彼を相手に中途半端な勝利など有り得ない、だが彼は未だ階級が低くその能力を十分に発揮できない。だから必ず勝てる、必ず彼を殺せるだけの手を打った。おそらく最初で最後のチャンスだったはずだと……。そしてこのチャンスを逃した以上、いずれ自分は彼に殺されるだろうと……」
> 「……」
>
> 必死に驚愕を押さえヤン提督を見た。提督は昏い眼をしている。
> 「第五艦隊の来援が一時間早ければグリンメルスハウゼン艦隊を殲滅し、逃げ場を失ったミューゼル中将を捕殺できたはずだった。だがそのチャンスを私が潰してしまった」
> 提督の声は苦みに満ちていた……。
それはヤンが反省すべきことではありません。
一番問題なのは、そういう重要な情報を事前に同盟軍、あるいはシトレとヤンにだけでも提示することなく、会戦終了後に自分の支離滅裂な主張が論破されそうだからと言って後付で出してきたヴァレンシュタイン自身なのですから。
社会人としての基本中の基本である「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」の心得を、ヴァレンシュタインは前世でも今世でも全く学ぶことがなかったとでもいうのでしょうか?
「ほうれんそう」が全く為されていない事案について後付でクレームをつけたところで、普通であれば「じゃあ何故そのような情報を隠していたんだ?」と逆に糾弾されるのがオチですし、ましてやこれが軍であれば重罪に問われても文句は言えない行為ですらあるでしょうに。
というか「亡命編」の作中にさえ、事前に行う「ほうれんそう」の重要性を描写している箇所があったりするのですが↓
http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/1876/novel_id~116
> オフレッサーが唸るような口調で話し始めた。呆れているのかもしれない。
> 「カストロプ公は大貴族だ、そして財務尚書でもある。彼を排除するとなれば事前に根回しが要るだろうが」
> 「……」
>
> 「いざ潰すという時になってリッテンハイム侯が反対したらどうなる? その時点で贄の秘密を話すのか? 侯はへそを曲げるぞ、何故前もって教えなかったとな。それに後任の財務尚書の事もある。おそらくは既にリヒテンラーデ侯、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯の三者で話し合いがもたれたはずだ、その中で全ての秘密が共有され、そして後任の財務尚書も決まった……」
リッテンハイム侯には普通に通用する論理が、何故ヴァレンシュタインが発信者になると途端に適用されなくなってしまうのでしょうか?
ラインハルトの脅威を隠蔽されていたヤンやシトレだって、ヴァレンシュタインに対して「何故前もって教えなかった」と「へそを曲げる」権利くらいは当然のごとくあるはずなのですが(苦笑)。
前述のように、「ヴァンフリートの一時間」にしたところでヴァレンシュタインの電波な「迷推理」の可能性が濃厚な上に他者に根拠が明示されない以上、ヴァンフリート星域会戦におけるヤンは、その権限から考えても充分に最善を尽くしたと言えます。
それに満足できないのは、ヴァレンシュタインのごとき常軌を逸した被害妄想クレーマーだけです。
ヴァンフリート星域会戦でラインハルトを取り逃がした最大の元凶は、「ほうれんそう」を怠り脳内世界だけで戦争をコントロールしようとしたヴァレンシュタイン自身にこそあるのです。
その責任問題から目を背け、本来一番反省すべき人間が他者に責任を転嫁し、その不当な冤罪行為に一番怒るべき人間が委縮して懺悔をする。
釣りか炎上マーケティングでも意図していたのであれば間違いなく大成功だったと評価もできるのでしょうが、そうでなければこれほどまでに原作ファンを敵に回す描写もそうはないのではないかと。
76話におけるこれ以降の会話なんて、「俺が悪かった、ヴァレンシュタインは素晴らしい」と嘆きまくるヤンと、その場にいなかったにもかかわらず必要以上にヴァレンシュタインの心情を思いやるフレデリカという、実に気持ち悪いメアリー・スー描写のオンパレードですからねぇ(-_-;;)。
原作設定を尊重せず愚劣な理論でもって原作主人公を貶め、オリジナルな主人公を礼賛する行為というのは、メアリー・スーの中でも特に最悪の部類に入る所業なのではないかと、つくづく思えてならないですね。
物語の演出にしてもこれほどまでに自分の作品および原作を貶める愚かな描写というのはそうそうあるものではないですし、もし万が一にも作者氏自身がこんな言動を社会通念的に正しいものであると本気で考えているとしたら、その頭の中身と具合を疑わざるをえない惨状を呈しているとしか評しようがないのですが。
本当に読者に対してヴァレンシュタインを有能に見せたいのであれば、「神(作者)の奇跡」「神(作者)の祝福」などに依存することなく、もちろん朝日新聞の中国礼賛報道のごとき原作主人公達の盲目的なマンセー発言で文章を埋め尽くすでもない、本当の意味での才幹と「有能な敵キャラ」を見せつける必要があるのではないかと思うのですけどね。
次回の考察は、ヴァレンシュタインのフェザーン謀略戦?について述べてみたいと思います。