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銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察16

2012年7月7日に、死生観と転生をテーマとして扱った映画「スープ ~生まれ変わりの物語~」という作品を観賞する機会があったのですが、エーリッヒ・ヴァレンシュタインという転生者を考察の題材として取り上げてきた私としては、映画自体の感想とは別に、個人的に色々と考えさせられるものがありました。
この映画では、突然の落雷事故で死んでしまった主人公が、あの世で「前世の記憶を保ったまま転生する方法」を探すべく奮闘するのですが、主人公以外の作中の登場人物達は「転生」について否定的な見解ばかり示しているんですよね。
作中に登場する「記憶を保ったまま3回も転生した」という人物は、3回の転生の末に「自分の親しい人間がいなくなっていく中で転生を続けても虚しいだけ」という結論を出しており、次は記憶を消して転生するとの決意を表明していますし、主人公と行動を共にしていた女性上司も、DVな父親に虐待された不幸な人生の記憶を全て消した上で生まれ変わる意思を示しています。
また、念願叶って前世の記憶を保ったまま新たな人間へと転生した主人公は、前世の娘にとにかく再会したい一心であちこち尋ね回ることで、今世の両親に余計な心配をかけていますし、息子に不安を抱いた母親が「あなたは何をしているの?」と話しかけてきた際も、「親に対する息子の反応」とは思えないどこか他人行儀な態度に終始していました。
いくら「自分は新しい人間として転生したのだ」と自覚していても、前世の記憶がある限り、前世のしがらみや人間関係と完全に無縁でいることはできない。
そんな「前世の記憶を持って生まれ変わる」ことの問題ないしは後遺症的なものが上手く表現されていて、結構頷くところが多かったです。
地味な予告編や映画紹介に反して、映画単独として見てもなかなかに面白い作品なので、機会があれば是非観賞されることをオススメします。

さて今回、この映画をあえて引き合いに出したのは、この映画と同じく「前世の記憶を保ったまま生まれ変わった転生者」であるはずのヴァレンシュタインこと佐伯隆二が、前世のしがらみや人間関係と全く無縁であるかのごとく振る舞っていることに、改めて違和感を覚えざるをえなかったからです。
彼は転生直後においてさえ、前世の両親や恋人や親しい友人などといった人達に会いたいと考えていた形跡すらも全く示していません。
前世の恋人に至っては、会いたいと考えたり心配したりといった思いを抱くどころか、「俺を毒殺したのではあるまいな」などと猜疑すらする始末でしたし。
ヴァレンシュタインの場合、転生してからの3年間は「自分が銀英伝世界に転生したという事実」すら完全には把握できる状況になく、それどころか(赤子だったために)身体の自由さえ満足に効かない植物人間同然の状態にあり、さらにはその時点ではどこの馬の骨ともしれなかった赤の他人な人間に周囲を囲まれての生活を余儀なくされていたというのに、よくまあ前世および前世の人間関係について哀愁や郷愁の念を僅かたりとも抱くことすらなかったよなぁ、と。

また転生の事実を知った後は後で、今度はあまりにも割り切りが良すぎる感が否めないところです。
ヴァレンシュタインは今世の新しい両親をいともあっさりと受け入れているのですが、前世の記憶を持つヴァレンシュタインこと佐伯隆二にとって、今世の両親を「自分の親」として受け入れるのは、本来相応の違和感や困惑が伴うものなのではないのでしょうか?
佐伯隆二にとっての「本当の生みの親」はあくまでも「前世の親」であり、それ以外の人間にその立ち位置を代行することなどできないのですから。
転生という要素を抜きにして考えても、これって子供の視点から見て相当に違和感を伴わざるをえない事象なのではないかと思うのですけどね。
たとえば、今まで一緒にいた「育ての両親」と普通の関係を築いていたところに、突然「本当の両親」なる2人組の存在が出現し、DNA鑑定結果等の証拠でもってそれが本当であることが立証されたとします。
その場合、子供はその結果に基づいて素直に「育ての両親」の元を離れ、「本当の両親」と一緒になることを何ら躊躇することなく選択することができるものなのでしょうか?
実際には、「育ての両親」に対する感謝や愛情の念もあれば、「本当の両親」への不安や違和感があってもおかしくはないところですし、下手すれば不信感や嫌悪感、最悪は憎悪や殺意の類すら発生しても不思議なことではないのではないかと。
転生後の両親の場合は、すくなくとも当人達には何の落ち度もないわけですから、問題はあくまでも「転生者の心情」のみに限定されることにはなるのでしょうが、それでも「本当の生みの親」に対する何らかの感情や思いなどはどうやっても残らざるをえないわけで。
「本当の生みの親」と良好な関係を構築していれば、「新しい両親」を受け入れることに「この人達は自分の親ではない」という違和感や拒絶感、さらには「自分は前世の親を裏切っているのではないか?」的な後ろめたさを覚えてしまうものでしょう。
また逆に「本当の生みの親」がDVを駆使して威張り散らすしか能のないロクデナシの類だったとしても、今度は「あんな奴らに比べれば今の親は……」と比較する形で、やっぱり無視はできないだろうと思えてならないところですし。
前世の恋人や友人関係にしても、転生のせいでもう二度と会うことができないと分かっていても、ふとした拍子に昔を思い出し懐かしむ程度のことくらい、普通にあってもおかしくない光景なのではないのかと。

ヴァレンシュタインに纏わるこの「転生者でありながら前世に対する執着心が著しく欠如している」問題は、身も蓋もないことを言えば「転生が抱える構造的な問題について、作者の認識が著しく甘くかつ何も考えていなかったから発生した」という結論しか出しようはないでしょう。
ただ、「本編」で見られたヴァレンシュタインの原作考察のようなスタンスで考えれば、この問題は案外、ヴァレンシュタインのキチガイ狂人&被害妄想狂患者な性格設定のルーツを解明する糸口のひとつになりえるのではないかと、そう考える次第です。
ヴァレンシュタインこと佐伯隆二は、前世の人生について「ごく普通の一般人だったと思う」などとのたまっていますが、これまでのヴァレンシュタインのキチガイ言動の前歴を見る限り、彼が主張する「普通」とやらが、一般的にイメージされるそれと同一である保証などどこにもありはしません。
ひょっとすると、前世の佐伯隆二はヤクザか指定暴力団組長の息子か何かで、親の威光と暴力を背景に弱い者イジメばかりやらかしていた人生を「普通」などと思い込んでいるのかもしれないのですし(苦笑)。
ヴァレンシュタインは原作の記述の矛盾点や穴について、原作者である田中芳樹からして「そんなことは考えたこともないよ」と言い出しそうな考察の数々を繰り広げているのですから、作中で全く言及されていない佐伯隆二の前世人生について色々推察されても、文句が言える立場には全くないと思うのですけどね。

それでは、今回は第7次イゼルローン要塞攻防戦終結以降のヴァレンシュタインの言動についての考察を行っていきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11  その12  その13  その14  その15

第7次イゼルローン要塞攻防戦のラストを飾ったヴァレンシュタインの「毒発言」とやらでショックでも受けたのか、帝国ではフリードリヒ四世が急逝してしまいました。
原作よりも早い死の上、ヴァレンシュタインの「毒発言」が行われた直後ということもあり、巷では「ヴァレンシュタインがフリードリヒ四世を呪い殺した」との噂が広まるに至りました。
で、それを受けて同盟軍首脳陣達の密談で出てきた会話の一部がこれ↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/61/
> 「さて、ヴァレンシュタイン准将、以前君が言っていた不確定要因、フリードリヒ四世が死んだ。世間では君が呪い殺したと言っているようだが、この後君は帝国はどうなると見ている?」
>
>
嬉しそうに聞こえたのは俺の耳がおかしい所為かな、トリューニヒト君? 君の笑顔を見るとおかしいのは君の根性のように思えるんだがね、このロクデナシが! 何が呪い殺しただ、俺は右手に水晶、左手に骸骨を持った未開部族の呪術師か? お前を呪い殺してやりたくなってきたぞ、トリューニヒト。俺は腹立ちまぎれにミートソースのピザを一口食べて、水を飲んだ。少し塩辛い感じがする。釣られたのか、他の四人も思い思いにピザを手に取った。

「前世の記憶と原作知識を保持したまま銀英伝世界に転生した」などという、呪いと同レベルかそれ以上の「非科学的な超常現象」をその身に具現させている人にそんなことを言われましても(苦笑)。
転生という現象が作中世界において実際に存在するのであれば、呪いだって存在しても何ら不思議なことではないだろう、とは寸毫たりとも考えることができないのですかねぇ。
科学的に説明不能なオカルト的要素に溢れた超自然現象という点では、どちらも全く同じカテゴリーに分類されるわけなのですし。
そもそも、あの世界には「神(作者)の祝福」「神(作者)の奇跡」などという、転生・原作知識・呪いが束になっても敵わない「全知全能の超常現象」さえも実在するのですからね。
ヴァレンシュタインが「伝説の17話」「軍法会議の38話」に象徴されるトンデモ言動の数々をいくら繰り返しても何のお咎めもなく済んでいるのも、また原作キャラクター能力が自由自在に改変されていく原作レイプな珍現象も、全てこの「神(作者)の祝福」「神(作者)の奇跡」の恩恵によるものなのですし。
呪殺が非科学的だというのであれば、転生や原作知識や「神(作者)の祝福」「神(作者)の奇跡」があの世界に実在している理由を、ヴァレンシュタインには是非とも「科学的に」説明してもらいたいものです。
もちろん、「作者の御都合主義」などという身も蓋もない理由以外の理論に基づいて、ですが(爆)。

それにしても、「オカルトに依存しながらオカルトを否定する」などという愚かしい構図にそれと気づかず固執するのは、創竜伝や薬師寺シリーズを書き殴っている田中芳樹くらいなものだろうと思っていたのですが、同じようなことを考える人って意外に多いのでしょうかねぇ(-_-;;)。
普通に考えれば、超常現象を論じる際に「転生物なのだから転生だけは【無条件に】特別」なんて論理が、マトモに通用なんてするはずもないというのに。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/63/
> 七月五日、今回の戦いの論功行賞、そしてそれに伴う人事異動が発表された。ビュコック、ボロディン両大将が元帥に昇進した。当初、二人を昇進させるとシトレと同じ階級になる、後々シトレが遣り辛いのではないかという事で勲章だけで済まそうと言う話が国防委員会で有ったらしい。
>
> だがシトレはそれを一笑に付した。“ビュコック、ボロディンは階級を利用して総司令官の権威を危うくするような人間ではない、心配はいらない”その言葉でビュコック、ボロディン両大将の元帥昇進が決まった。
>
> 上手いもんだ、二人を昇進させて恩を売るとともにちゃんと枷を付けた。これであの二人がシトレに逆らうことは無いだろう。おまけに自分の評価も急上昇だ。同盟市民のシトレに対する評価は“将の将たる器”、だそうだ。狸めが良くやるよ!
>
> ウランフ、カールセン、モートン、クブルスリーの四人も大将に昇進した。もっともクブルスリーにとっては素直には喜べない昇進だろう。他の三人が功績を立てたのに対してクブルスリー率いる第一艦隊は明らかに動きが鈍かった。当然働きも良くない。周囲の昇進のおこぼれに預かったようなものだ。
>
>
俺、ヤン、ワイドボーンも昇進した、皆二階級昇進だ。そして宇宙艦隊司令部参謀から艦隊司令官へと異動になった。ヤンとワイドボーンは良い、でも俺も艦隊司令官に転出? 亡命者に艦隊を任せるなんて何考えてるんだか……、さっぱり分からん。原作ではメルカッツだって客将だ、ヤンの代理で艦隊は指揮したが司令官では無かった。

「亡命者に艦隊を任せる」という人事以前に「そもそも何故自分は今生きていられるのだろう?」ということからして疑問視すべきなのではないですかね、ヴァレンシュタインは(笑)。
何度も述べていますが、「伝説の17話」「軍法会議の38話」の件で処刑台への直行を免れただけでも、「神(作者)の奇跡」と呼ばれるに充分な超常現象と言えるものなのですから。
そもそもヴァレンシュタインの異常な昇進自体、原作における亡命者の一般的な扱いを完全に無視して行われたものでもあるのですし。
そして「原作の設定を無視」と言えば、二階級昇進をここまで大盤振る舞いするという行為自体も、完全無欠の原作無視でしかありませんね。
原作における同盟軍の二階級昇進は、あくまでも戦没者に対する特別措置という意味合いを持つものであり、だからこそエル・ファシル脱出後のヤンや、ヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインは、時間差をおいて昇進するという措置が取られていたというのに。

第一、第7次イゼルローン要塞攻防戦におけるヤンとワイドボーンは、ほとんどこれといった目立つ活躍など何もしておらず、ヴァレンシュタインが戦闘詳報で功績をでっち上げただけでしかないのですが。
いくらシトレやトリューニヒトら政軍上層部と共謀しているとはいえ、よくまあそんな事実歪曲行為が許されるなぁ、とはつくづく思わざるをえないところです。
こんなことを許していたら、ロクな功績を上げていない人間が戦闘詳報を弄ることで絶賛され昇進するという前例と禍根を自ら作り出してしまうことにもなりかねないでしょうに。
第6次イゼルローン要塞攻防戦における214条発動の件でも垣間見られたことですが、どうにも「亡命編」は、順法精神や判例の影響などといった法の問題について軽く考えすぎているのではないかという感が拭えないところですね。

さらに、原作知識から「将来の有望性」についての情報が得られるヤンはまだしも、何故ヴァレンシュタインがワイドボーンにそこまで肩入れするのかも理解不能です。
原作におけるワイドボーンはロクでもない扱いでしたし、実のところ「亡命編」の作中でさえも、彼は「ヴァレンシュタインの茶坊主」的な役どころを担っているだけで、第7次イゼルローン要塞攻防戦終結時点では、これといった軍事的な実績を示しているとは到底言えたものではありません。
まさか「自分に忠実な茶坊主だから」などという理由だけでワイドボーンを持ち上げているわけではないでしょうが、それにしても「亡命編」におけるワイドボーンの扱いとヴァレンシュタインの高評価ぶりは、原作と比較してもあまりにも説明不足で必然性に乏しいと評さざるをえないところです。
ただでさえ原作設定を改竄して原作キャラクターの能力を好き勝手にコントロールしているのですから、その理由くらいきちんと明示しないと「原作破壊」としての効果しか持ちえないでしょうに。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/63/
> サアヤの処遇はちょっと迷った。副官にするか、それとも後方参謀にするか……。情報参謀、作戦参謀でも良かった。彼女は元々情報部だし、戦術シミュレーションも下手じゃないからな。だが結局は副官にした。気心も知れているし、他の奴を新たに副官に任命しても下手に怖がられては仕事にならない。最近俺を怖がる人間が増えて困っている。敵はともかく味方まで怖がるってどういう事だ? 俺は化け物か? 母さんが泣いてるよ、私の可愛いエーリッヒがって。

「俺は化け物か?」って、今さら何を言っているのでしょうかね、ヴァレンシュタインは(爆)。
「原作知識を持つ転生者」というだけでも、周囲にとってはその得体の知れなさだけで充分に「化け物」そのものですし、これまでの暴言妄言の数々とそれを支える「神(作者)の祝福」もまた、他者から「化け物」として恐れられるに充分過ぎる要素です。
何しろ、どれだけ目上の人間を罵り軍の威信や信用を踏みにじっても、罰せられるどころか内々に咎められることすらないと来ているのですから。
ましてや、そんな人間を自分の上司として迎えさせられる羽目になる部下にしてみれば、ヴァレンシュタインはブラック企業のパワハラ上司並に恐怖そのものの存在です。
いつ自分がヴァレンシュタインの罵倒と攻撃の餌食になるのか気が気ではない、そう考える人が多いのは至極当然というものでしょう。
しかも、上層部にヴァレンシュタインの不当な支配ぶりを訴えても、ヴァレンシュタインと上層部の関係から考えれば、訴え自体を握り潰された挙句に報復を食らうのも最初から目に見えているのですし。
ヴァレンシュタインが他者から恐れられる理由は、もちろん周囲に対する容赦のなさというのも理由のひとつではあるでしょうが、それ以上に「いくら好き勝手に振る舞われても『神(作者)の祝福』の妨害で止めることができない」というのが何よりも大きいのです。
まあそれ以前に、ヴァレンシュタインを守護する「神(作者)の祝福」の存在は、ヴァレンシュタインの人物評価的には本来マイナスに作用しかねないのではないかと思えてならないのですけどね。
自分は上司に対してすら平気で食ってかかり、しかもそれで咎められることが全くないにもかかわらず、部下がヴァレンシュタインに同じことをしようとすれば徹底的に攻撃し貶める。
「神(作者)の祝福」を駆使してそんなダブルスタンダードを派手に披露しまくるヴァレンシュタインが、部下の目から見てどのように映るのかは【本来ならば】火を見るよりも明らかなはずでしょう。

もちろん、作中におけるヴァレンシュタインがそのように見られていない理由もまた、「神(作者)の祝福」の効果によるものなのですが。
原作知識など比較にならないヴァレンシュタインの「神(作者)の祝福」の恩恵ぶりは、ヴァレンシュタインの独善性とダブルスタンダードを際立たせ、ヴァレンシュタイン自身と作品の評価を下げる効果しかもたらしていないのではないかと思えてならないのですけどね。

また、いくら「気心も知れているし、他の奴を新たに副官に任命しても下手に怖がられては仕事にならない」からと言って、ヴァレンシュタインがこの期に及んでなおミハマ・サアヤを重用するというのも理解に苦しむものがありますね。
そもそもヴァレンシュタインは、48話でバグダッシュから「ミハマ・サアヤを疑わないでほしい」と懇願された際、「手駒は多い方が良い、本人は切れたと思っても実際には切れていなかった、なんてことはいくらでもある。彼女が協力したくないと思っても協力させる方法もいくらでもあるだろう」という懸念を抱いていたのではありませんでしたっけ?
本人の意思にかかわらず自分を裏切る懸念がある以上、「気心も知れている」というのはヴァレンシュタインにとって何の安全保障にもならないはずなのですが。
これも以前から何度も述べていることですが、ミハマ・サアヤの立ち位置は「ヴァレンシュタインをいつでも恫喝&暗殺することを容易にする」という点において、ヴァレンシュタインの生命と安全を脅かす最大の脅威のひとつに充分なりえるのです。
ミハマ・サアヤにその気がなくても、その立ち位置を利用しようとする人間なんていくらでも存在しえるでしょう。
帝国・同盟を問わず、ヴァレンシュタインは他者から憎悪と殺意を抱かれるに充分な「実績」を大量に積み重ねているのですから(苦笑)。
ヴァレンシュタインが本当に「自分が生き残る」ことに拘るのであれば、テロや暗殺に対する警戒なんて本来最優先事項で考えなければならないことですし、その手の害意に利用されそうな要素は真っ先に排除して然るべきではないのかと。
その脅威の筆頭的存在とすら言えるミハマ・サアヤを、ヤンやラインハルトなどといった原作キャラクターに対してすら「ヤクザのいいがかり」的な不信と殺意を平然と抱くほどのヴァレンシュタインが、何故ここまで無警戒に信用などできるのか、その思考パターンは謎もいいところなのではないでしょうかね。

通常の艦隊よりも艦艇数が多く配備されながらも本質的には寄せ集めの集団でしかない第一特設艦隊なる艦隊の司令官に就任したヴァレンシュタインは、その「化け物」の本質に怯えられながら、ヤンとワイドボーンと共に艦隊訓練に従事することになります。
「私は身体が弱いからいつ倒れるか分からない」と言いながら、作中の描写を見ても日常生活や軍の指揮に支障をきたしているようには全く見えないヴァレンシュタインの指揮の下、寄せ集め集団としての欠点を露呈しながらも少しずつまとまっていく第一特設艦隊の面々でしたが……↓

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> 宇宙艦隊司令部から連絡が入ってきた。艦橋に居る人間は殆どが迷惑そうな顔をしている。無理もないだろう、第一特設艦隊は第一、第三艦隊に見つからないように行動しているのだ。そんなときに長距離通信などどう見ても有難い事ではない。
>
> おそらく宇宙艦隊司令部の参謀が通常業務の連絡でも入れてきたと思っているのだろう。内心では俺達は忙しいんだ、暇人の相手などしていられるかと毒づいているに違いない。まあ、俺自身は三割ぐらいはシトレからの連絡かなと思っている。その場合は帝国で何か起きたか、イゼルローン方面でラインハルトが攻めてきたかだろう。
>
> 現実には作戦行動中に上級司令部からの通信が有る事は珍しい事じゃない、頻繁とは言わないがしばしばある事だ。
上級司令部が下級司令部の都合を考えることなど無いだろう。訓練の一環だと思えば良いのだが第一特設艦隊は既に二回も第一艦隊の奇襲を受けている。これがきっかけで三度目の奇襲になったらと皆考えているのだ。
>
> 訓練なんだからともう少し割り切れれば良いんだが、艦隊の錬度が余りに低いのでそこまで余裕が持てないでいる。それでも少しずつだが良くはなってきているし、成果が上がっているのも確かだ。余裕が出るのはもう少し時間がかかるだろう。
>
> 平然としているのは俺とサアヤ、嬉しそうにしているのはシェーンコップだ。こいつの性格の悪さは原作で良く分かっている。可愛げなんてものは欠片も持っていない男だ。何でこいつが俺みたいな真面目人間に近づくのかさっぱり分からん。
>
> スクリーンに人が映った、シトレだ。宇宙艦隊司令長官自らの連絡か、どうやら何か起きたらしい。席を立ち敬礼すると皆がそれに続いた。
> 『訓練中に済まない、さぞかし迷惑だったろう。少し長くなるかもしれん、座ってくれ』
>
> 低い声には幾分笑いの成分が含まれている。参謀長達の考えなど御見通し、そんなところだろう。皆バツが悪そうな表情をしているが遠慮しなくていいんだ、迷惑なのは事実なんだからな。皆の代わりに俺が言ってやろう。
>
>
「お気になさらないでください、訓練の一環だと思えば良い事です。下級司令部の都合を上級司令部が気にする事など滅多に有りませんから」
> 座りながら答えるとシトレがクスクス笑い出した。
>
> 『相変わらずだな、君は。私はもう慣れたから良いが、君の幕僚達は皆困っているようだ』
>
「皆の気持ちを代弁しただけです。感謝されると思いますよ」
> シトレが耐えきれないといったように大きな声で笑い出した。
チュン参謀長は天を仰いでいる。なんでそんな事をする、俺は皆の気持ちを上に伝えたんだぞ。握りつぶした方が良いのかね、その方が問題だと思うんだが。

この場合、ヴァレンシュタインは「自分の発言の責任を部下に擦りつけた」ということにもなりかねないのですが、それで良いのですかね?
「俺はそんなこと微塵も考えていないが、部下がそう考えているようだから代弁してやった。だから俺には責任などないし、部下からは感謝されて然るべき」
と言っているも同然なのですから。
それにしても、本当に上司相手には好き勝手な反抗や妄言暴言の類を繰り広げていながら、部下相手には問答無用の服従を要求する存在なのですね、ヴァレンシュタインは。
せめて上司部下の相手共にどちらか一方に統一してくれれば、まだ一貫性くらいは評価できたはずなのに、自分と他人でこんなダブルスタンダードを堂々と披露して部下に示しなんてつくのかと。
「ヴァレンシュタインに対してだけ何故そんな態度が許されるんだ? 俺達には絶対服従を強制していながら!」と誰もが不満を抱かざるをえないでしょうに。
それ以前に、特定の人間だけ特別扱いが許される、という状況は、軍の秩序の維持や活動などにも多大なまでの悪影響を与えかねないのですが。
他ならぬヴァレンシュタイン自身、原作でも「亡命編」でも、ロボスやフォークという「生きた実例」をその目でまざまざと直視させられていたはずなのに、どうしてそれと全く同じ行為を繰り返して恥じることすらないのでしょうかねぇ(-_-;;)。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/69/
> 「皇帝になったのは軽蔑するフリードリヒ四世の血を引く唯一の男子、そしてその皇帝を支えるのが全ての元凶であるリヒテンラーデ侯……。クロプシュトック侯がテロに走ってもおかしくは無いでしょう」
> 『……』
>
> 「ブラウンシュバイク公もリッテンハイム侯も頭が痛いでしょう。彼らにとってエルウィン・ヨーゼフ二世、リヒテンラーデ侯の死は予想外の事だったはずです。これから帝国がどう動くか、要注意ですね」
>
> 『君はブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯が改革を進める可能性は有ると思うかね』
> “要注意ですね”の言葉にようやくシトレは反応を見せた。
頼むよ、しっかりしてくれ。俺は以前よりはあんたを高く評価しているんだからな。食えないところが良い、上に立つのはそのくらいじゃないと駄目だ。

ヴァレンシュタインの脳内評価的には、シトレってむしろ昔の方がはるかに「食えない人間」だったのではありませんでしたっけ?
何しろ、ヴァレンシュタインに様々な援助を与えていたことを棚に上げ、ヴァレンシュタインを見殺しにして邪魔者を排除しようとしているとか、ヴァレンシュタインの死を政治的に利用して自分の立場を固めようとしているとか、ロクでもない被害妄想を繰り広げてシトレを罵倒しまくっていたのですから(爆)。
当時のシトレは、ヴァレンシュタインの脳内的には間違いなく「悪賢い&狡賢い&油断がならない=食えない人間」ということになっていたはずなのですが、それにしてはえらく評価が低かったよなぁ、と(笑)。
かくのごとく、ヴァレンシュタインは他者の人物評価に「自分の利害」というものを大量に含有させるものだから、全く同じことをやっていてもその時その時で評価が全くの正反対になる、ということがザラにあったりするんですよね。
人物に限らず、何かを評価する際には、自分の主観とか利害とかいった要素は可能な限り排除し、可能な限り客観的な視点に基づいて観察するように努めないと、評価自体が本来あるべきところから著しくズレるという事態をも引き起こしかねないのですが。
その評価対象が自分の利害にどう関わるのか、敵になるのか味方になるのか、利益になるのか害悪になるのかといった判断は、正しい「評価」を下した後で【評価とは別に】行うべきものでしょう。
「評価」と「利害」をゴッチャにしていれば、そりゃ「こいつらはバカだから俺に害を与えるんだろう」とか「常に正しい俺に異を唱える奴はいつも間違っている」的な被害妄想&自己中心主義なタワゴトもバンバン出てこようというものです。
まあ、精神年齢が5歳児以下にしか見えない「心は永遠の保育園児」な狂人ヴァレンシュタインに、「評価」と「利害」の区別を求めるのも酷な要求ではあろうとは思うのですが(笑)。

さて2012年7月14日現在、一連のヴァレンシュタイン考察は、今回の記事でとりあえず「亡命編」の最新話までほぼ追いつくことになりました。
「銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察」と名付けている一連の記事は、「亡命編」の物語が完結か中断するまで続けていく予定なのですが、最新話まで追いついたとなると、話が進まないと考察も先に進めなかったりするんですよね(T_T)。
そんなわけで、今後のヴァレンシュタイン考察は、今後の「亡命編」のストーリー進行および話の内容を見て記事をアップする形式になります。
いずれ話数がたまってくれば再開の時を迎えることになるでしょうが、当面は「一区切りがついた」ということで、一旦筆を置きたいと思います。

「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」の製作発表記者会見

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2012年7月12日に、銀河英雄伝説@TAKARAZUKAの製作発表記者会見が行われたそうですね。
銀英伝の登場人物に扮した女優さん達が多数登場し、役柄に応じた衣装で舞台を彩っている写真が公開されています↓

宝塚歌劇宙組『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』制作発表 その1
http://enterminal.jp/2012/07/gineiden1/

記事冒頭に掲載している写真を見ても分かるように、記者会見の場には田中芳樹もはせ参じています(真ん中にいる禿げた初老のオッサンが田中芳樹)。
社長氏曰く、田中芳樹はこんな感想を抱いていたようで↓

http://twitter.com/adachi_hiro/status/223393574996279297
<今日は、田中さんと「銀河英雄伝説」@TAKARAZUKA の制作発表会に行って来ました。なんともきらびやかな世界に圧倒されました。田中さんは「長生きはするもんだなぁ」って言ってました。>

衣装などは確かにきらびやかで、かつ以前の舞台版よりも気合が入っているのが素人目にもよく分かるのですが、個人的には以前の舞台版の方が違和感もなく受け入れやすいですし好みではありますね。
女性が男性役をこなす「オール女優体制」なんて、映画ではまずお目にかかることがないですし、個人的な第一印象も「ケバい」という言葉が先に来たくらいで(-_-;;)。
以前の舞台版は普通に観賞もできるのですが、こちらは完全なる「別世界」的な感がどうにも拭えないですね、やっぱり。

銀英伝2次小説「銀河英雄伝説 異伝、フロル・リシャール」の移転騒動

現在閉鎖騒動が持ち上がっている「にじファン」で、銀英伝二次小説のひとつが「勇み足」をやらかしてしまったようですね。
「銀河英雄伝説 異伝、フロル・リシャール」という二次小説が、「小説家になろう」運営に「らいとすたっふルール2004」を掲げて移転許可申請のメールを送ったところ、メールの返答が来なかったために独断で「小説家になろう」への移転を強行してしまったようで↓

http://megalodon.jp/2012-0711-2232-23/mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/132925/blogkey/496787/
7月5日 最初の問い合わせメール送信
> 送信日時:7月5日(木)
> 件名:にじファン小説から小説家になろうへの移管
> にじファンにおいて、「銀河英雄伝説 異伝、フロル・リシャール」を書いている碧海かせなと申します。
> 銀河英雄伝説においては著者の田中芳樹が所属するらいとすたっふが、「らいとすたっふルール2004」(URL:http://www.wrightstaff.co.jp/free.php?fId=3)として、二次創作を認めています。
> よって
銀河英雄伝説の二次創作については、上記ルールに従っていることを明示している作品において、一律に移管を許可していただけると幸いです。
> 宜しくお願いします。
>
> 碧海かせな

7月10日
> 先日、フロル・リシャールを<小説家になろう>に移行しました。当然、にじファンの閉鎖に伴ったものです。すると、今日運営から「二次創作をなろうに上げんな!」とメールが来ました。5日に問い合わせたメールにはまだ返信もないのに。

7月11日 運営側からのメール
> 先日、小説家になろうにて通常検索を行った際に碧海 かせな様の二次創作作品が結果として表示されてしまうことを確認いたしました。
>
> ▼対象作品
> Nコード:N2211R
> タイトル:銀河英雄伝説 異伝、フロル・リシャール
>
> 運営対応と致しまして当該小説に対し、原作名設定を行わせていただきました。
> それにより小説の掲載は小説家になろうではなく、二次創作専用サイト「にじファン」へ移行となりますので、予めご了承下さい。
>
>
小説家になろうでは運営側が権利者様より掲載許可を得た作品を原作とした二次創作のみ投稿を受け付けております。
>
> 掲載受付開始を行いました作品以外を原作とした二次創作小説の原作名設定の解除はご遠慮いただきますようお願い申し上げます。
>
> 掲載受付を行っております作品は以下のページにて告知を行っておりますのでご確認を頂きますようお願い申し上げます。

正直、運営側の返答がないままに「小説家になろう」への移転を強行してしまった作者氏の行動も全く問題がないわけではないのですが、今の現状では、運営側が掲げているような掲載許可の確認方法は実行不能に近いものがあると言わざるをえないですね。
そもそも、「小説家になろう」の運営が本当にきちんと問い合わせを行っているのか否かすらも、外部からは分からないのですし。
問い合わせを行っているフリをして放置状態にしている、という可能性も、半月弱の猶予期間だけで突然閉鎖を宣言してしまった前科を鑑みれば、充分ありえそうな話に見えてしまいますしねぇ(-_-;;)。
運営側にしてみれば、著作権者から訴訟を起こされるリスクを勘案せざるをえないからこその「自らの確認」ではあるのでしょうけど、下手すれば何千何百もあるであろうエンターテイメント作品の二次創作許可について確認を「自分達だけで」取るというのは、あまりにも現実性がないと言わざるをえません。
しかも、「小説家になろう」自体は企業が運営しているのですから、正面切って問われれば著作権者側も拒否せざるをえない一面もあったりするのですし。
元々二次創作自体、著作権の観点から言えばグレーゾーンな部分も少なくないわけですから。
運営側の掲載許可確認の方針は、どうにも「寝た子を起こす」「パンドラの箱を開ける」的なものにしか見えないのが何とも言えないところで(-_-;;)。
一方では突然「にじファン」の閉鎖を宣言しておきながら、他方では「小説家になろう」で中途半端に二次小説受け入れの表明などを行っている辺り、運営側の方針自体が準備不足かつ一貫性を欠いているように思えてならないですね。
いっそ、「全ての二次小説は全面的に禁止します、著作権者の許可があってもダメ!」というスタンスを明確にしていた方が、変な希望を抱いて「小説家になろう」への移転を進める投稿者もいなくなり、結果的には余計な混乱を招かずに済んだのではないかと思うのですが。

「らいとすたっふルール2004」の存在があることもあり、銀英伝をはじめとする田中作品は「小説家になろう」で二次小説の掲載が許可される作品の有力候補のひとつと目されていたのですが、こんな惨状では、2012年7月20日の「にじファン」閉鎖までに掲載許可が下りる可能性は相当なまでに低いと言わざるをえないですね。
既存の二次創作の文章自体は年内一杯まで「作者のみ閲覧可能」という形で残ると言っても、二次小説の投稿者達にしてみれば、読者に見せることができない二次小説投稿サイトに「保管庫」として以外の意味などないわけで。
かといって、移転先の有力候補とされている他の二次小説投稿サイト、特に「Arcadia」や「シルフェニア」などでは、大量の「にじファン」難民の流入で大混乱を来たしているという話ですし。
やはり、あまりにも突然な閉鎖宣言と短すぎる猶予期間が大きく祟っている、としか評しようがないのではないかと。
「にじファン」が閉鎖されれば、現時点では様子見をしている人達も動かざるをえなくなりますから、ますます混乱が加速するのは必至でしょうし、この一連の騒動、収束するまでにはかなりの時間を要することになりそうですね。

「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」の作者氏が連載継続の意向を表明

銀英伝二次創作「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」の作者氏が、どうやら連載継続の意向を表明したようですね↓

http://megalodon.jp/2012-0706-2023-07/mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/101342/blogkey/491459/
> 残念な事ににじファンが消滅する事になりました。
>
自分としてはこの小説をなんとか完結まで持っていきたいと思います。
> 現在なろうの方に移転できるかもしれないので様子を見ているところです。
>
> ただ、なろうでも二、三年後には中止となる可能性も有ると思いますので全く別のサイトで連載を開始するかもしれません。今、その辺りも含めて様子見です。
>
> 色々と温かいメッセージ、感想、ありがとうございました。

正直、「アイデアも枯渇していたし、良い機会だから連載を中止してしまおう」と考える可能性も全くないわけではなかったので、ファン的には朗報と言えるところでしょうか。
ただ、いくら「らいとすたっふルール2004」を遵守しているとは言え、現時点でも「小説家になろう」への移転はかなり難しいのではないかとは思わずにいられないですね。
2012年7月6日時点では、「らいとすたっふ」公式サイドは今回の問題について何も知らないかのような態度を取り続けています。
「にじファン」の読者や二次小説作者、場合によっては運営からも、相当数の連絡が行っているはずなので、今回の問題の所在すら知らないというのはありえないのですが。
ただでさえ二次創作アレルギー的なところがある田中芳樹や「らいとすたっふ」が、「小説家になろう」における二次創作掲載の許可を出すとは考えにくいものがありますし。
それに実際問題、いくら原作側で二次創作に対して寛大なスタンスを表明しているところであっても、下手すれば数十人~百人単位の数で「二次創作の許可」を求められたりしたら、拒絶せざるをえない部分も多々あるのではないかと。
下手すれば、「公式から貰った許可」を錦の御旗のごとく振り回して好き勝手をやらかす二次小説作者が出ないとも限らないのですし。
運営側にしてみれば、訴訟対策の観点から事前に許可が得られたものだけを掲載するようにしたい、というのが正直なところではあるのでしょうが、そんな形で許可を求めるというのは、原作側にも二次創作側にも、何よりも読者にとっても不幸な結果しかもたらさないのではないかと思うのですけどね。

かと言って、「にじファン」以外の二次小説投稿サイトに小説データ諸共移転するというのも、かなり問題な部分はあるでしょうね。
「にじファン」の閉鎖発表以降、これまで「にじファン」で小説を投稿していた作者達の一部が他の二次小説投稿サイトへの移転を進めているのですが、移転先の原住民からは「こっち来るな」の大合唱が頻発しているありさま。
大量投稿に伴うサーバ負荷の増大や、新着情報・ランキングなどの混乱に加え、今年の3月に「にじファン」で一次作品の規制が行われた際にも同じことが起こったことから「にじファン」投稿者に対する心証そのものが悪化していたことが主な原因のようですが。
原住民側にしてみれば、「にじファン」からの【難民流入】は自身の小説掲載にも悪影響を及ぼしかねないわけで、そりゃ「にじファン」に対して拒絶的な反応も抱こうというものです。
またそれに加えて、当の「難民」達自身も「亡命編」におけるヴァレンシュタインのごとき倣岸不遜な態度を移転先で堂々と披露しまくっていることが、その悪感情にさらにガソリンを注ぎ込むような効果を生み出してしまっている状況もあるわけで。
……ひょっとして、「亡命編」のあの辺りの描写は、「にじファン」の今現在の状況を予見して書かれたものだったりするのでしょうかね(苦笑)。
もちろん、「その手の好き勝手を受け入れ側は無条件に受け入れてくれる」という図式は見事に外れてしまっているわけなのですが(爆)。

「にじファン」閉鎖問題はまだまだ混沌とした様相を呈していますが、7月20日の閉鎖までに頻発するであろう騒動の数々は、二次創作本体以上に面白い題材とテーマをウォッチャーに提示してくれそうではありますね。

二次小説投稿サイト「にじファン」が閉鎖を発表

二次小説投稿サイト「にじファン」が、2012年7月20日正午をもって閉鎖すると公式発表しました。
原作者および二次小説投稿者からの問い合わせが殺到し、運営側が対応できないと判断したのが主な理由とのことです↓

http://megalodon.jp/2012-0704-2053-57/nizisosaku.com/nizi/news1/
> いつも小説家になろう・にじファンをご利用いただきまして、ありがとうございます。
>
> この度、
運営上の理由により、二次創作専門投稿サイト「にじファン」のサービス提供を終了させていただくことといたしました。具体的な日程に関しましては以下の通りです。
>
>  ◆サービス終了日時
>  2012年7月20日(金) 12:00(正午)
>
> 2012年3月15日以降、にじファンではサイト内での適切な作品掲載を目指し、規制対応を行ってまいりました。しかしながら、
複数の権利者様より直接のご連絡をいただき、ユーザの方からも権利確認に関する多数のお問い合わせをいただいている現状がございます。
>
> 現在、にじファンには多くの権利者様の関連二次創作の投稿が行われております。
今回の規制理由となります権利問題を解決する為には、それら全ての作品の権利者様に対し、運営より掲載の確認を行わせていただくべきであると考えております。ですが、にじファンの現在の投稿規模では、そういった個別対応を行なうことが現実的ではない状況となっております。
>
> その為、
現在のにじファンのサービス継続を行いますことはユーザの皆様並びに権利者様に対し、さらなる不信とご迷惑を重ねる行為であると判断いたしました。よって、今回のサービス終了を決定いたしました次第です。
>
> にじファンのサービスを開始いたしました2010年8月より約2年の間、当サービスをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。
>
> ヒナプロジェクトではご利用の皆様にご満足いただけるサービスの運営・提供に努めて参りますので、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
>
>
> ■投稿作品の取り扱いに関して
>
>
ご投稿いただいておりました二次創作小説に関しましては、全作品を公開停止とすることで対応を行なわせていただきます。
>
> 公開停止となりました小説は外部よりの閲覧が不可能となりますが、作者の方はユーザページ内「投稿済み小説一覧」にてデータをご確認いただくことが可能です。
>
>
公開停止となりました小説データに関しましては、2012年中はこれを維持し、2013年1月上旬より、順次削除を行なう予定です。ただし、権利者様からの申し立てがございました場合は、早期の削除を実施する場合がございます。あらかじめご了承ください。
>
>
小説家になろう内での二次創作小説の受け入れに関しましては、別途お知らせとガイドラインを掲載いたしました。二次創作小説の投稿をご検討中の作者の皆様は必ずご確認をいただきますようお願い申し上げます。
>
> サービスの終了にあたり、これまでご利用いただいておりましたユーザの皆様には、多大なるご迷惑をおかけいたしますこと、心よりお詫び申し上げます。

しかし、下手すれば万の単位にまで届くかもしれない二次小説が半月弱で全て消滅を余儀なくされるというのは、何とも理不尽な話ではありますねぇ。
それらの中には、現在進行形で続いている作品もあれば、既に完結したものや更新が完全に止まった作品もあるのでしょうけど、味噌も糞も一緒に削除というのはちょっと……。
いい機会だからと作品を消す投稿者や他所の投稿サイトへの移転を検討する投稿者、それに「消される前に!」と保存に走る読者と、「にじファン」界隈はこれから半月の間、閉鎖に向けての様々な人間ドラマが展開されることになりそうではありますね。

ところで「にじファン」といえば、我らの偉大なるキチガイ兼狂人にして被害妄想狂患者なエーリッヒ・ヴァレンシュタインさんは一体どうなるのでしょうか?
作者氏は「にじファン」以外に自作のサイトやブログを持ってはいないようですし。
あちらのサイトの感想欄では、「にじファン」と同じ企業が運営する「小説家になろう」への移転説も囁かれているようですが……。
これを機会に区切りをつけて作品執筆を放棄するのか、他所の投稿サイトなり自作のサイト&ブログを作って継続するのか、作者氏の決断が待たれるところです。
とりあえず、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」の「本編」および「亡命編」については、万が一のことも考えて全ログを保存しておきました。
せっかく複数の考察まで作ったのですから、消えてもらっては困る部分もありますし。
ちなみに、「にじファン」の投稿小説を保存するのには、以下のサイトのダウンロードサービスを使うのが便利です↓

小説家になろう~テキストダウンロード支援~
http://narou.dip.jp/download/

「にじファン」には「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」以外にも銀英伝の二次小説が少なからず存在しますから、「らいとすたっふ」側も対応を迫られることになるかもしれませんね。
この手の二次創作に関する規約を定めた「らいとすたっふルール2004」に照らせば、「にじファン」に掲載されている大抵の二次小説はOKだろうとは思うのですが……。
ただ、「らいとすたっふ」や田中芳樹側にしてみれば、銀英伝を含めた二次創作の跳梁跋扈はあまり好ましいものではないでしょうし、いつぞやの銀英伝パチンコ化問題の前例もありますから、ひょっとすると無視黙殺するか、内容の検閲まがいのことをやらかしたりする懸念も全くないとは言えないところで(-_-;;)。
ある程度の著作権料は接収しているにせよ、客にカネを支払わせて公演している舞台版の完全オリジナルストーリーをすら容認する田中芳樹サイドが、無償の二次創作を拒否するというのは、まあ普通はありえないだろうと思いたいところですけど、果たしてどうなることやら。

それにしても、今回の「にじファン」閉鎖騒動は、巨大なSNSやレンタルサイトの脆い部分が一挙に噴出したような感すらありますね。
SNSやレンタルサーバの軒先を借りてのサイト&ブログの運営は、運営側の意向ひとつでいともたやすく危機的状況に直面することにもなりかねない、という事実が、今回誰の目にもはっきり分かる形で明示されてしまったわけです。
これが自分の意思や自己管理でそうなるというのであれば、まだ諦めもつくでしょうが、
そんなものと関係のないところでトラブルが発生するというのでは怒り狂っても不思議なことではありません。
かくいう私自身、ずっと使うつもりだった初代の場外乱闘掲示板やタナウツ本家の4代目掲示板を、自分の意思ではなく運用側のトラブルや閉鎖などで放棄を余儀なくされた過去がありましたし。
つい最近も、顧客から預かった大事なデータをバックアップ諸共消滅させてしまったファーストサーバの事件があったばかりですし、SNSやレンタルサーバ【だけ】に依存するのも正直考えものだろうとは思わずにいられないですね。
まあ、自分でサーバを管理運用してサイトやブログを営むのも、それはそれでカネも手間暇もかかり苦労させられるものではあるのですが。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察15

この考察の中では、もはや「キチガイで狂人な被害妄想狂患者」の代名詞と化しているエーリッヒ・ヴァレンシュタイン。
そうなってしまったのは本人の自業自得以外の何物でもないのですが、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン」という名前の元ネタにされてしまった人達にとっては何とも傍迷惑な話ではあるでしょうね。
エーリッヒ・ヴァレンシュタインの名前の起源と推察される元ネタは2人います。
ひとりは「エーリッヒ」というファーストネームの元ネタとなった人物で、第二次世界大戦でドイツの軍人として活躍した名将エーリッヒ・フォン・マンシュタイン
皮肉にもこれは、「反銀英伝 大逆転!リップシュタット戦役」の主人公エーリッヒ・フォン・タンネンベルクと全く同じだったりします。
しかも両者共に、身内の中に「ハインツ」という名を持つ身近な人間がいるという設定まで実は全く同じ(ヴァレンシュタインは父親の法律事務所の共同経営者が、タンネンベルクは父親が、それぞれ「ハインツ」というファーストネーム持ち)というオマケ付き。
この「ハインツ」もまた、マンシュタインと同時期に活躍したドイツ軍人ハインツ・グデーリアンが元ネタと考えられます(こちらも「大逆転!」では確定事項なので)。
……まさか、タンネンベルクこそがヴァレンシュタインの本当の元ネタである、などということはさすがにないだろうとは思うのですが……(苦笑)。

そしてもうひとり、こちらは「ヴァレンシュタイン」という姓の元ネタであろうと考えられる人物は、17世紀のドイツ三十年戦争で活躍した傭兵隊長アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタイン
アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインは、1618年~1648年の長きにわたって繰り広げられたドイツ三十年戦争の第2期(デンマーク・ニーダーザクセン戦争)および第3期(スウェーデン戦争)にかけて、ハプスブルク朝神聖ローマ帝国に与して勝利に貢献し名将として歴史に名を残した人物です。
成り上がりの貴族としてのし上がったアルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインは、その出自、および独自に考案した軍税徴収システム(占領地から軍税を徴収し資金源とすることで、それまでは難しかった大軍の編成および長期的な軍事活動を容易にした)で帝国内の諸侯達から反発を買う(ヴァレンシュタイン軍に自領土を占領されて問答無用に軍税を何度も徴収される諸侯が少なくなかったため)と共に、時の神聖ローマ帝国皇帝フェルディナント2世にも警戒され、最終的には皇帝が放った暗殺団に殺されてしまうという末路を辿っていたりします。
このアルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインという人物は、エーリッヒ・ヴァレンシュタインの「ヴァレンシュタイン」姓のみならず、性格設定の元ネタでもあるように思えてなりませんね。
成り上がりで皇帝の信任を得て出世し、軍事力と名声を背景とした傲岸不遜な態度を諸侯のみならず皇帝に対してまで示していた、という点ではエーリッヒ・ヴァレンシュタインにも通じるところがあるのですから。
となると、エーリッヒ・ヴァレンシュタインの末路もまた、アルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインと同じく「野心ないしは危険要素を上層部から警戒されて暗殺」ということになるのではないかなぁ、とついつい考えてしまいますね(苦笑)。
帝国の上層部から後継者扱いされているらしい「本編」はまだしも、「亡命編」で同盟上層部が能力面?以外でヴァレンシュタインを重用すべき理由なんてどこにもないのですから。
というか現状ですら、対人コミュニケーション能力および同盟に対する忠誠心の面で、今すぐ処刑されてもおかしくないレベルの多大かつ致命的な問題が常に付き纏っているのですし。
いくら同盟の上層部の面々といえども、まさかヴァレンシュタインの人徳(笑)や人格的魅力(爆)に感銘などを受け拝謁すらしてしまうところまで「人間として」堕ちてはいないでしょうから、用済みとなればすぐにでも排除されてしまう危険性を、エーリッヒ・ヴァレンシュタインは史実のアルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタイン以上に持ち合わせているはずなのですけどね。
まあ、ヴァレンシュタインのごときキチガイに「そのような自身の立場を理解しえるだけの自己客観視の視点を持て」というのも無理な注文ではあるのでしょうが……。

さて、今回は第7次イゼルローン要塞攻防戦の締めを飾ることになる、ヴァレンシュタインとラインハルトの通信会談をメインに論じてみたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11  その12  その13  その14

第7次イゼルローン要塞攻防戦でヴァレンシュタインは、イゼルローン回廊内で10万隻もの艦隊を総動員して帝国軍を殲滅させることに成功します。
……正直、原作のイゼルローン回廊の設定から見ても、回廊内におけるそこまでの自由自在な艦隊運用が果たして可能なのかという疑問は尽きないのですが、それはさておき。
敵の殲滅が完了したところで、ヴァレンシュタインは戦闘の経緯と今後の方針について考え始めます。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/57/
> 目の前にイゼルローン要塞が有る、艦隊戦力を失った要塞だ。攻撃する最大のチャンスなのだが同盟軍は要塞から距離を置き、包囲するでもなく遠巻きにイゼルローン要塞を見ている。
>
> 普通なら各艦隊司令官から攻撃要請が出ても良いのだが誰も総司令部に要請をしてこない。七万隻近い敵の大軍を殲滅した、その事実が艦隊司令官達を大人しくさせている。良い傾向だ、
馬鹿で我儘で自分勝手な艦隊司令官等不要だ。総司令部の威権は確立された。
>
> 既にこの状態で二十四時間が過ぎた。要塞を攻撃するつもりは無い、要塞など攻略しても同盟にとっては一文の得にもならない。帝国は要塞を国防の最前線基地として使うつもりだろうが俺にとっては要塞はあくまで敵艦隊を誘引するための餌だ。敵を釣る餌を自分で食う馬鹿は居ない。
>
> もう間もなくラインハルトの艦隊が此処に現れるはずだ、味方は十万隻、ラインハルトは三万隻、叩き潰すチャンスだがラインハルトがまともに戦うはずはないな。いざとなれば帝国領に撤退、いや後退戦をしかけようとするかもしれない。まあいい、
無理に殲滅することは無い。ラインハルトの艦隊は生かして利用する。今回はそれが出来る。

同盟の艦隊司令官たちも、亡命者な上に自分達よりも階級の低い「馬鹿で我儘で自分勝手な」作戦参謀ごときに好き勝手言われたくなどないでしょうねぇ(苦笑)。
第6次イゼルローン要塞攻防戦で、いくらロボスが無能とはいえ、上官侮辱罪や214条発動などを乱発しまくって総司令部の権威を悪戯に損ねまくっていたのは一体どこの誰でしたっけ?
のみならず、これまでヴァレンシュタインの言動を見ても、まさに「馬鹿で我儘で自分勝手な」言動の実態がそこかしこに露呈しているのですし。
「伝説の17話」や38話の軍法会議でヴァレンシュタインが無罪放免になったのも、ヴァレンシュタインの実力や根回しの賜物などではなく、単なる「神(作者)の奇跡」の大盤振る舞いでしかなかったのですが。
ヴァレンシュタインの論理からすれば、他ならぬヴァレンシュタイン自身こそが「不要」な存在そのものでしかないのですが、相変わらずブーメランな構図について無頓着なその厚顔無恥な図太い神経は大変にスバラシイですね。

そして、それ以上に笑えるブーメランは、「無理に殲滅することは無い。ラインハルトの艦隊は生かして利用する」などと堂々とのたまったことですね。
前回の考察でも取り上げたように、55話でヴァレンシュタインは「イゼルローン駐留艦隊まで無理に殲滅する必要はないのでは?」と困惑しながら話しかけてきたヤンに対して、ここぞとばかりにヤンに対する罵倒を繰り広げまくって快楽にふけりまくった挙句、次の56話では「帝国と同盟じゃ動員兵力だって圧倒的に帝国の方が有利なんだ。そんな状況で敵兵を殺す機会を見逃す……。有り得んだろう、後で苦労するのは同盟だ、そのあたりをまるで考えていない」とまで断じています。
であれば、戦力的には10万隻対3万隻で圧倒的に優位に立ち、しかも友軍が殲滅されたことで士気が低く練度も不十分なラインハルト艦隊を、ここで完全に殲滅しない手はないでしょう。
しかも、ヴァレンシュタインの予測と違い、実はこの状況におけるラインハルトは撤退することができないのです。
ラインハルトはイゼルローン要塞の保持を帝国軍上層部から命じられているため、イゼルローンが陥落することなく同盟軍による攻撃の危機に晒されている限りは、その命令に従ってイゼルローン要塞の防衛を行わなければならないのです。
同盟軍は、ラインハルトが撤退戦に移行しようとしたら、すかさずイゼルローン要塞を攻撃する構えを見せるだけでその意図を頓挫させることが可能なのであり、それでも無理にラインハルトが撤退したとしても、彼の艦隊は軍上層部の命令に拘束されて否応なくイゼルローン要塞に再接近せざるをえなくなります。
何なら、常に1万~2万くらいの戦力をイゼルローン要塞に張り付け、攻撃するそぶりを見せつけ続けても良いでしょう。
もし、それでもラインハルトがイゼルローン要塞の死守命令を無視して帝都オーディンに帰還でもしようものならば、彼は命令違反&敵前逃亡の罪に敗戦責任まで押し付けられる形で軍法会議にかけられ、最悪は銃殺刑に処されてしまうことにもなりかねません。
イゼルローン要塞が陥落するか、軍上層部が死守命令を撤回しない限り、ラインハルトにどれだけの軍事的才能があっても、常に手足を縛られた状態での戦いを余儀なくされてしまうのです。
いや、仮に軍上層部が死守命令を撤回する命令を出したとしても、徹底した通信妨害を行うことでラインハルトの下に命令が行かないようにすることも可能なのですから、実質的には「同盟軍がイゼルローン要塞を陥落させる」までラインハルトは要塞を死守し抗戦を続けなければならないことになります。
ラインハルトにとってはまさに勝算皆無の絶望的な状況、としか評しようがないでしょう。
イゼルローン要塞が帝国にとって重要な要塞であることは同盟側も最初からお見通しなわけですし、そもそも今回の作戦自体が「要塞を利用して艦隊を殲滅する」という方針に則って行われているのですから、ラインハルトが艦隊救援と共にイゼルローン要塞死守の任を受けているであろうことは、別にヴァレンシュタインでなくても同盟軍の誰もが簡単に察知しえる程度の事情でしかないはずなのですけどね。
その上で、58話で展開されているような「毒」とやらを流し込みたいのであれば、ラインハルトの艦隊を殲滅し追い詰めた状態で降伏勧告と共に行い、かつイゼルローン要塞に常駐している数十万~百万単位の軍人達を証人に仕立て上げる、という形で行えば良いのです。
その状況であれば、たとえその後でラインハルトが帝国に帰還しえたとしても、ダゴン星域会戦で敗軍をまとめて帰還したゴッドリーブ・フォン・インゴルシュタットのごとく、帝国の手でラインハルトに敗戦の罪をかぶせて処刑させることも不可能ではなくなるのですから。
これだけの好条件が揃っていて、何故ヴァレンシュタインがむざむざとラインハルトを、しかも艦隊すら無傷の状態で逃がさなければならないのか、はなはだ疑問であると言わざるをえません。
しかも、ヴァンフリートでラインハルトを逃がした際には「伝説の17話」の自爆発言までやらかして他者を論難しまくっていたほどに深刻な、ヴァレンシュタインの「ラインハルト恐怖症」から考えればなおのことです。
自分が何よりも恐れてやまないというか「自分を殺せる唯一の可能性」と考えている感すら多々あるラインハルトを、しかも戦場で、それも必勝必殺の体制で殺すことが可能な千載一遇の好機を、みすみす自分から潰してしまうヴァレンシュタイン。
元々そうでなかったことはまずないと思うのですが、ヴァレンシュタインのその行動原理はますますもって支離滅裂かつ混迷な惨状を呈しつつある、としか言いようがありませんね。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/57/
> 第四、第六艦隊は十分以上に働いてくれた。モートン、カールセンの二人は信頼できる。これで使えるのは第四、第五、第六、第十、第十二の五個艦隊か……。第一は引き締めが必要だ。クブルスリーの能力以前に艦隊の練度が低すぎる、話にならない。
>
> まあ原作でもそんな傾向は有った。ランテマリオ星域の会戦では同盟軍は帝国軍相手に暴走しまくった。あの時の同盟軍は第一、第十四、第十五艦隊だった。あれは同盟の命運を決める一戦に興奮したわけではなかった。練度不足、実戦不足がもろに出たわけだ。
>
> 第一艦隊の練度を上げれば使える艦隊は六個艦隊だが、それでも宇宙艦隊の全戦力の半分だ、
残り半分は当てにならないって一体この国はどうなってるんだ。早急に残り半分もどうにかしなくてはならんが誰を後任に持ってくるか……。一人はヤンとして他をどうする? どう考えても艦隊司令官が足りない。
>
> これから見つけていくしかないな、多少強引でも引き立てて艦隊司令官にする。候補者はコクラン、デュドネイ、ブレツェリ、ビューフォート、デッシュ、アッテンボロー、ラップ……。そんなところかな。能力を確認しつつ昇進させていく、
時間はかかるかもしれんがやらないとな。戦争は何年続くか分からん。人材の確保も戦争の行方を左右する大きな要因だ、手を抜くことはできん。

何と言うか、「狡兎死して走狗煮らる」の格言通りの路線を自ら積極的に爆走しているとしか思えないシロモノですね、ヴァレンシュタインの思考パターンは。
確かに同盟にとっては、艦隊司令官を刷新することで艦隊の指揮能力と練度、ひいては戦力がアップすることは、軍にとっても国家としても大きな利益になります。
しかし、同盟軍の戦力が強化されることが、ヴァレンシュタイン個人の利益と必ずしも合致するとは限らないのです。
前回の考察でも述べたように、対帝国戦で同盟軍および同盟にある程度の余裕ができてしまうと、その分ヴァレンシュタインに依存する必要性が減少してしまうわけですから、却ってヴァレンシュタインの身が危なくなる可能性が増えてしまいます。
「ヴァレンシュタインがいなくても同盟はやっていける」と同盟の政軍上層部が考え出した時、彼らがヴァレンシュタインの排除に動かないという保証は全くありません。
特に同盟が帝国と和平を結ぶ場合、帝国はもちろんのこと、同盟にとってもヴァレンシュタインが邪魔になってしまう可能性は濃厚に存在します。

単純に考えても、亡命者ごときに同盟の政治や軍事が壟断されることを面白く思わない人間は少なからず存在するでしょうし、ましてやヴァレンシュタインは性格破綻者な上にヤン以上に同盟に対する国家的な忠誠心が皆無どころかマイナスですらあるのですから。
「狡兎死して走狗煮らる」どころか、今すぐ殺されても何ら不思議なことではないくらいに好き勝手やり過ぎているのですけどね、ヴァレンシュタインは。

そして何よりも、この「狡兎死して走狗煮らる」の構図をさらに凄まじい勢いで完成に近づけてしまっているのが、58話におけるヴァレンシュタインの独演説です。
帝国内では機密事項になっているらしいカストロプ公に纏わる秘密を暴露することで「毒」とやらを流し込んだ「つもりになっている」ヴァレンシュタインは、よせば良いのに自ら求めてむやみやたらと無用な敵を作り始めるんですよね↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/58/
> 「それにしてもクレメンツ教官、余計な事をしてくれましたね」
> 俺の言葉にクレメンツが身構えるのが分かった。俺が怖いのかな、だとしたら良い傾向だ。
>
> 『余計な事とは?』
> 「オフレッサー元帥府に帝国でも一線級の指揮官を集めた、ロイエンタール、ビッテンフェルト、ワーレン、ミッターマイヤー、ミュラー……、皆貴方の教え子です、そうでしょう」
> 『……それがどうかしたか』
>
>
「何のためにイゼルローンで七百万人を捕殺したと思っているんです? 彼らを殺す為ですよ」
> 『馬鹿な、何を言っている……』
> クレメンツの声が震えている。ラインハルトとケスラーがギョッとした表情で俺を見ている。まだまだ、これからだ。
>
> 「彼らは有能です。馬鹿な指揮官では彼らは使えない、
いずれ彼らはミューゼル提督の所に行く。だからその前に殺してしまおうと思ったのです。ミューゼル提督と彼らが一緒になれば厄介ですからね。それなのに……、シュターデン教官も役に立たない、戦術が重要だと言いながら戦術能力に優れた人物を簡単に手放してしまうのですから……。所詮は理論だけの人だ」
>
>
『そのために七百万の帝国人を捕殺したと言うのか』
> 震えているのは声か、体か、それとも心か……。
> 「帝国軍に打撃を与えると言う目的も有りました。でも
主目的はそちらです。捕殺できたのはメルカッツ、ケンプ、ルッツ、ファーレンハイト……。皆教官と接点の無い人ばかりですよ。当初の予定の半分にも満たない。おまけに気が付けばあなたの他にケスラー、メックリンガー、アイゼナッハまで揃っている」
> 全くだ、バグダッシュからリストを見せられた時はうんざりした。クレメンツ教官、あんたは本当に余計な事をしてくれたよ。

相も変わらず自分のことしか眼中にない被害妄想狂ですね、ヴァレンシュタインは。
ここでヴァレンシュタインが自身の亡命の経緯とカストロプ公の関係について演説していたそもそもの目的は、演説を視聴している一般の軍人達に真実を教えることで、帝国政府や門閥貴族体制に対する平民達の不満と反感と憎悪を煽り、帝国を内部分裂の危機に追い込むことにありました。
そして、カストロプ公に自分の親を殺され、自身も謀殺されかけて同盟への亡命を余儀なくされ、さらにはその背後に帝国政府の要人が蠢いていた、という事実が提示されただけであれば、戦没者遺族の感情は別にしても、ヴァレンシュタインに対する同情と共感、およびその反動で発生する帝国政府への悪感情が惹起されるという形で、ある程度の目的を達成することも決して不可能ではなかったでしょう。
元々帝国の平民達は、帝国政府および門閥貴族体制に対して長きにわたって蓄積された不満を抱え込んでいるという問題もあるのですし。
ところが何を血迷ったのか、ヴァレンシュタインは自身の個人的事情とは全く何の関係もない人間に対する敵意と殺意まで一緒に表明してしまいました。
ここで名指しされている帝国軍の将帥達は、別にヴァレンシュタインに仇なしたわけではなく、下手すれば(「亡命編」では)面識すらもなかったかもしれないのに、一方的にマークされた上に殺戮のターゲットとして名指しを受ける羽目になってしまったわけです。
名指しされた方にしてみれば、帝国政府や門閥貴族体制に対する不信以上に、まずはヴァレンシュタインに対して恐怖を、次に敵意と殺意を抱かざるをえないでしょう。
ヴァレンシュタインと同じく「自分が生き残る」という観点から言ってさえ、そちらの方が優先度は高いのですから。
ヴァレンシュタインが本来復讐の対象として名指しすべきは、事実関係のみならず政略的な観点から見てさえも「門閥貴族体制や帝国政府」に限定されるべきであり、それを逸脱して無関係な人間に対してまで敵意と殺意を示すのは、政治的にも大きなマイナスとならざるをえないでしょう。
黙っていれば彼らも帝国政府や門閥貴族体制に対する不信のみに邁進してくれたものを、わざわざ余計なことをくっちゃべって無用な敵を作り出してしまうヴァレンシュタインには、外交的なセンスというものが欠片たりとも見出せないですね。
さらに頭に乗ったヴァレンシュタインは、とうとう自分の当初の目論見から言ってさえも完全に逆効果でしかない致命的な発言を繰り出してしまうに至ります↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/58/
> スクリーンには蒼白になっている三人が居る。
> 「ミューゼル中将、教えて欲しい事が有ります」
> 『……何を聞きたい』
> そう警戒するな、ラインハルト。警戒しても無駄だからな。
>
> 「私の両親の墓の事です。無事ですか?」
> 『……』
> ラインハルトの蒼白な顔が更に白くなった。正直な男だな、ラインハルト。知らないと言えば良かったのだ。この場合の沈黙は知っているが答え辛いと言っているようなものだ。この通信を見ている人間全てが墓は破壊されたと分かっただろう。
>
> 俺は答えを既に知っている。バグダッシュが教えてくれた。フェザーン経由で調べたらしい。覚悟はしていたがそれでもショックだった。
> 「答えが有りませんね、正直に答えてください、墓は壊されたのですね?」
> 『……そうだ』
> ラインハルトは目を閉じている。この男はそういう下劣さとは無縁だ。少し胸が痛んだがやらねばならない。
>
> 「遺体はどうなりました。無事ですか」
> 『……残念だが、掘り出されて遺棄されたと聞いている』
> 遺棄じゃない、罪人扱いされて死刑になった罪人の遺体同様に打ち捨てられた。ヴァンフリートの戦死者の遺族がそれを望み、政府がそれを率先して行ったらしい。政府にしてみればそれで遺族が納得してくれれば安いものだと思ったのだろう。カストロプの真実は話せないからな。
>
>
「帝国は私から全てを奪った、両親、家、そして友……。それだけでは足りず私の両親の安眠と名誉も奪ったという事ですか。……つまり私はルドルフの墓を暴く権利を得たわけだ、鞭打つ権利を」
> 笑い声が出た。計算して出した笑い声じゃない、自然と出た。
>
> 『ヴァレンシュタイン!』
> 「何です、クレメンツ教官。不敬罪ですか、名誉なことですよ、今の私は反逆者なんですから。
これからも何百万、何千万人の帝国人を殺してあげますよ。帝国の為政者達に自分達が何をしたのかを分からせるためにね……、悪夢の中でのたうつと良い
> 笑い声が止まらない、スクリーンの三人が顔を強張らせて俺を見ている。

何かもう、「ヴァレンシュタインの末路はこれで決まったな(笑)」とでも言いたくなるようなシロモノですよね、これって。
ヴァレンシュタインは、自身のその被害者的な立場を振り回せば、帝国政府や門閥貴族体制のみならず、自分やカストロプ公とは全く何の関係もない無辜の人間の命運までをも好き勝手に弄んで良い、というレベルにまで頭がイッてしまったようで(苦笑)。
まあ実際、考察10で言及した、親類を殺された怨恨からヴァレンシュタインを襲撃した一兵士に対して32話で開陳された評価などを見ても、それが外交上の演技などに留まるものではなく、ヴァレンシュタインの本心そのものであることは最初から疑いようもないのですし。
この発言で一番致命的なのは、ヴァレンシュタインの復讐対象が帝国政府や門閥貴族体制のみならず、帝国に住む人間全てに拡大されていることが明示されてしまったことにあります。
ヴァレンシュタインの復讐対象が帝国政府や門閥貴族体制にとどまっているのであれば、平民達は少なくとも徴兵以外でヴァレンシュタインと関わらなければ難を逃れることができましたし、帝国政府や門閥貴族達の慌てふためく様を嘲笑すらすることも可能だったでしょう。
しかし、ヴァレンシュタインの発言により、一般の平民達もこの問題について他人事ではなくなってしまいました。
ヴァレンシュタインの本心がどうであれ、ヴァレンシュタインが帝国を滅ぼせば自分達も復讐の対象として虐殺される、と平民達の誰もが考えたことでしょう。
実際、遺族達がヴァレンシュタインの両親の墓を荒らし、遺体を罪人同様に扱って辱めたという点で、平民達もまたヴァレンシュタインに憎まれる理由は充分にあるのですから。
もちろん、彼らとて帝国政府や門閥貴族体制に対する不満や反感は当然あるでしょうが、だからと言ってそれはヴァレンシュタインに対する恐怖や反感や憎悪をいささかも緩和するものなどではありえません。
それは皮肉なことに、「ヴァレンシュタイン」という万人にとっての脅威を滅ぼす、という共通の目的の下に、帝国全体が上から下まで一丸となって団結してしまう、などという全く逆効果な事態をもたらしかねない危険性をも孕んでいるのです。

原作の銀英伝でも、貴族も平民も問わず虐殺にふけっていた流血帝アウグスト2世に対し、貴族も平民も同じ恐怖と憎悪を抱くことで、相互の対立が一時的にせよ雲散霧消してしまったという歴史があります。
ヴァレンシュタインが帝国を分裂状態にしたかったのであれば、自身の復讐の対象を帝国政府と門閥貴族体制のみに限定した上で、平民達については「自分と同じ被害者である」とでもアピールして自分への同情や共感が集まるよう誘導すべきだったのです。
わざわざ自分から帝国が一丸となって団結するためのシンボルとして名乗り出るなど、ヴァレンシュタイン自身にとっても本末転倒な話でしかないと思うのですがね。

そしてそれ以上に本末転倒なのは、ヴァレンシュタインが帝国に対して悪戯に自身に対する恐怖と反感と憎悪を植えつけていくことで、ヴァレンシュタインの2つの最終目的がどちらも達成困難になってしまうことです。
「亡命編」におけるヴァレンシュタインの最終目的は「自分が生き残ること」であり、第7次イゼルローン要塞攻防戦からは、それに「帝国と同盟の和平を実現する」がさらに加わっています。
目の前にある必勝の体制を棒に振ってまで、「ラインハルトと戦って勝利できるわけがない」とヴァレンシュタインは頭から思い込んでいるわけです。
しかし、帝国の上から下まで一律にヴァレンシュタインを敵視するとなれば、ヴァレンシュタインの存在自体が和平の実現を妨げる巨大な懸念材料となってしまいます。
特に、これまでの戦いでヴァレンシュタインに親類縁者や大事な人を奪われた遺族達などは、「ヴァレンシュタインを殺すまで和平などするな!」と主張するであろうことは確実ですし、他の帝国人もヴァレンシュタインの復讐の餌食になどなりたくはないでしょうから、その主張に同調する可能性は極めて高いと言わざるをえません。
そして帝国政府や門閥貴族らも、ヴァレンシュタインを「公敵」として認定し彼に平民の憎悪を集中させれば、自分達に対する不満を逸らす道具として活用することもできるわけですから、むしろ平民達の怨嗟の声に便乗する形でヴァレンシュタインを敵視する政策を実行する公算は大です。
「ヴァレンシュタインの存在そのものが帝国との和平にとっての邪魔になる」という構図は、当のヴァレンシュタイン本人はもちろんのこと、同盟にとっても大きなジレンマとしてのしかかってくることでしょう。
そして一方、「自身が生き残る」ことに拘るヴァレンシュタインはともかく、同盟がヴァレンシュタインの存在と生命を何が何でも死守しなければならない理由もありません。
ただでさえ同盟にとってのヴァレンシュタインは、従順さや国家的忠誠心の点で難があるどころの話ではないわけなのですから。
そもそも、件の会談におけるヴァレンシュタインの言動自体が、同盟軍があたかも自分の所有物であると言わんばかりな口吻だったりするのですからねぇ。
38話の軍法会議では、確かシトレがこんな判決文を読み上げていたはずなのですが↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 軍法会議が全ての審理を終え判決が出たのはそれから十日後の事でした。グリーンヒル参謀長とヴァレンシュタイン大佐は無罪、そしてロボス元帥には厳しい判決が待っていました。
>
> 「
指揮官はいかなる意味でも将兵を己個人の野心のために危険にさらす事は許されない。今回の件は指揮官の能力以前の問題である。そこには情状酌量の余地は無い」

自分の個人的な復讐心のために同盟軍を使って虐殺を繰り広げる、などと堂々と公言しているヴァレンシュタインの様相は、まさに 「指揮官はいかなる意味でも将兵を己個人の野心のために危険にさらす事は許されない」という行為そのものなのではないですかねぇ(笑)。
同盟の将兵達が、所詮は帝国からの亡命者でしかないヴァレンシュタインひとりの復讐心などに、何故ほんの僅かでも付き合ってやらなければならないというのでしょうか?
これだけでも、同盟がヴァレンシュタインを危険視して粛清するには充分な口実となりえるでしょう。
また、帝国が「ヴァレンシュタインの死」を欲するという事実は、同盟にとっても「ヴァレンシュタインの身柄」を外交の場における交渉の道具として利用可能であることを意味します。
「ヴァレンシュタインの死」と引き換えに帝国に対し大幅な譲歩や見返りを求め(たとえば「イゼルローン要塞の割譲」など)、和平を達成することができるとなれば、同盟にとっては一石数鳥の非常に魅力的な選択肢であると言えるでしょう。
かくして、ヴァレンシュタインは帝国と同盟の和平のために自身の死を強要されるという、本人にしてみれば本末転倒もはなはだしい未来と結末が用意されることになるわけです。
何とも滑稽な話ではありますが、まあ本来ならば「伝説の17話」や38話の軍法会議でとっくの昔に粛清されていて然るべき生命を奇跡的に生き永らえているのですから、むしろ感謝すらしても良いくらいでさえあるのですけどね、ヴァレンシュタインは。

さて、件の会談にはもうひとつ、ヴァレンシュタインがやらかしてしまった致命的な失態というものが存在します。
それは、原作知識とやらを開陳してラインハルトの野心と目的を暴露しなかったことです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/58/
> 「私を止めたければ、私を殺すか、帝国を変える事です。言っている意味は分かるでしょう、ミューゼル中将。貴方もそれを望んでいるはずだ
> 『……』
> ラインハルトの顔が歪んだ。あとの二人が驚愕の表情でラインハルトを見ている。
>
> 「貴方がどちらを選ぶか、楽しみですね。私を殺す事を選んだ時は注意することです、弱者を踏み躙る事で帝国を守ろうとする為政者のために戦うという事なんですから。
私と戦う事に夢中になっていると後ろから刺されますよ。連中を守るためになど戦いたく無いと言われてね、気を付ける事です」

「私と戦う事に夢中になっていると後ろから刺されますよ」という発言はヴァレンシュタインにも悲惨なまでに当てはまる、という自覚が皆無というのもどうかとは思うのですが、それはさておき。
この会談におけるヴァレンシュタインは、アニメ版の原作知識におけるケスラーの過去を本人の前で暴き立てて顔面蒼白にさせるなどという荒業を駆使していたりするんですよね。
ならばケスラーに対した手法と同じやり方を使い、ラインハルトの野心と目的を公然と暴き立てて自分と同じ叛逆者に仕立て上げることで、帝国の上層部にラインハルトに対する猜疑心を植え付け、彼を処刑させるよう促すことも充分に可能だったでしょう。
そうすれば、物語的な位置付けのみならず政略的な観点から見ても「ラインハルトは生かして帰す」という意味はより大きなものとなりますし、何よりもヴァレンシュタイン的には自身の生命を脅かす最大の脅威を、しかも自分の手を汚すことなく始末することも可能となります。
ただでさえ、この後の帝国はヴァレンシュタインの激白によって内部分裂状態となってしまうわけですし、その状況下で帝国の上層部がラインハルトを「危険分子」と見做して処刑の決断を行う可能性はかなり高いと言えるでしょう。
その状況では、オフレッサーですらラインハルトを庇える保証はないのですし。
最小の効果でも、ラインハルトに対する疑惑や不信の芽を植え付ける程度のことはできるのですから、ヴァレンシュタイン的にはやって損することは何もないはずなのですが。
「伝説の17話」でラインハルトを殺せなかったことでアレほどまでにヤンを論難していながら、自身はこんな失態を平気で犯すというのですから、つくづくヴァレンシュタインの低能無能&ダブスタぶりには呆れ果てるしかないですね。
しかも、こんなザマを晒していながら、当人の自己評価では「原作知識を上手く使っている」ということになっているときているのですから、もう笑うしかないというか……。

次回からは、第7次イゼルローン要塞攻防戦終結後におけるヴァレンシュタインの言動について検証していきたいと思います。
この考察も、そろそろ最新話に追いつくことができそうですね。

銀英伝宝塚舞台版の公式サイト開設

2012年8月31日から公演予定となっている銀英伝宝塚舞台版の公式サイトが開設されました。
また、東西のNTT2社が特別協賛していることも明らかになっています↓

宝塚歌劇 宙組公演『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』
http://kageki.hankyu.co.jp/ginga/

トップページに掲載されている画像を見て、「おねぇ系」という言葉が浮かんでしまったのは私だけなのでしょうか(^^;;)。
全体的に中性的過ぎて、女性が男装しているというよりも「オカマな容貌のキャストが男役を演じている」ように見えてしまうものでして(-_-;;)。
まあ、キャスト全員が女性で、かつ男装の割合が9割を確実に超えるであろうことを考えれば、ある意味当然のことなのかもしれませんが。
既に上演されている銀英伝舞台版でも、観客は女性の割合が多かったそうですが、宝塚版のそれはほとんど女性オンリーな形になりそうではありますね。
まあ、どの道私は地理的な問題から観に行けそうにもないのですが(T_T)。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察14

エーリッヒ・ヴァレンシュタインの思考パターンを見てみると、どうも彼は「暗殺」という要素を全く無視しているか、非常に軽視しているようなところが多々見受けられます。
これは「本編」の頃から一貫して変わることなく、かつ「他人に対する攻撃策」「自分に対する防衛策」の双方について当てはまります。
たとえば「本編」では、ラインハルトに愛想を尽かして敵視するようになったり、ヤンの戦略戦術や謀略に翻弄される事態に直面したりしてさえ、ヴァレンシュタインは彼らを戦略や政略で圧倒することは画策しても「暗殺」で排除しようとは欠片たりとも考えていません。
また逆に、クロプシュトック侯事件やキュンメル事件などといった「原作知識で事前に把握できる暗殺事件」を除けば、ヴァレンシュタインは他者が自分に対して画策する暗殺絡みの謀略について、事前には全く予測も対策もできておらず、奇跡的に助かった後に反撃に転じるというパターンが常態化していました。
「亡命編」の場合はさらに深刻で、ヴァレンシュタインはそもそも自身がカストロプ公からの刺客であるフロトー中佐に暗殺されかかったことがきっかけで同盟に亡命する羽目になったにもかかわらず、そのことにトラウマを覚えたり脅威を感じたりしている様子もなければ、それを教訓とした事前対策に取り組む気配すらもありません。
そして何よりも、アレほどまでにラインハルトを恐れ、彼の脅威から逃れるために数百万単位もの虐殺に手を染めることすら辞さないほどのヴァレンシュタインが、「工作員を派遣してラインハルトひとりを暗殺する」という、ある意味最も犠牲が少なくて済むであろう策謀に思い至りすらもしないのは不自然もいいところです。
フェザーン勢力や地球教が昔から暗殺をも含めた様々な蠢動を行っているという作中事実を、原作知識を有するヴァレンシュタインは当然のごとく把握しているはずなのですから、それに対する防衛策という観点だけで考えてさえも「暗殺」という要素を除外できるものではないと思うのですけどね。
しかも原作知識と「暗殺」を組み合わせれば、要人になる前で警備の薄い人間を人知れず殺すことも充分に可能となるのですからなおのこと。
「自分が生き残ること」を至上命題とするヴァレンシュタインにとって、「暗殺」という手段が持つ脅威と有効活用については、むしろいくらでも検討して然るべきものではなかったのかと。
まさか、この期に及んで「暗殺で歴史は動かない」などという、原作「銀英伝」でも言われていた綺麗事な理想論の類に拘泥しているわけではあるまいに。

ところで、今回から第7次イゼルローン要塞攻防戦の検証に入ることとなるのですが、この戦いは帝国パートをメインにストーリーが進行していくこともあり、ヴァレンシュタインの出番がかなり少ないですね。
第7次イゼルローン要塞攻防戦でヴァレンシュタインが出てくるのは、会戦の帰趨が決し始める終盤に差し掛かってからのことになりますし。
もっとも、そのような少ない出番であっても、出てくる際にはいつもの「神(作者)の奇跡」やキチガイ発言を忘れない辺りが、狂人ヴァレンシュタインの面目躍如と言えるところではあるのですが(笑)。
その面目躍如ぶりが今回の戦いでどのような形で発露されているのかは、これから披露していく考察にて語っていくことと致しましょう。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11  その12  その13

第7次イゼルローン要塞攻防戦は、動員兵力を実際よりも少なく発表し、既存の艦隊で基本的な応戦を行いつつ、隠蔽していた戦力で帝国軍の後方を襲撃し包囲網を構築することで殲滅を行う、という形で同盟軍が勝利を勝ち取っています↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/52/
> 今、同盟軍は五個艦隊で要塞を包囲している。第一、第五、第十、第十二、そしてシトレの直率部隊だ。しかし表向き動員したのは第五、第十、第十二艦隊と直率部隊となっている。第一艦隊はバーラト星系で海賊退治だ。そういう事にしてマスコミの目を誤魔化した。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/55/
> 今回の戦いで一番苦労したのが動員兵力の秘匿だった。公表では五万五千隻、第五、第十、第十二の三個艦隊、そしてシトレ元帥の直率部隊、これが内訳だ。その他に密かに動員したのが第一、第四、第六の三個艦隊。第一艦隊は海賊組織の討伐という名目で艦隊を動かし、第四、第六の両艦隊は艦隊司令官が代わったことで訓練に出ている事になっている。

しかしこれって、「亡命編」における同盟で果たして実現可能なことなのでしょうか?
作者氏がどういう意図でそんな設定をでっち上げたのか不明なのですが、実は「亡命編」における自由惑星同盟って、情報管理があまりにもお粗末極まりない惨状を呈していたりするんですよね。
たとえば39話では、第6次イゼルローン要塞攻防戦における同盟軍総司令部で交わされた作戦会議やヴァレンシュタインの主張内容などが、帝国軍のオフレッサーにすら掌握されてしまっている様子が描かれています。
これは帝国軍の情報部がフェザーン経由で入手した情報とのことでしたが、同盟軍総司令部の作戦会議内容なんて軍事機密の最たるものであるはずなのに、それがこうも簡単に敵国に流出している時点で、同盟側のインテリジェンス(防諜・諜報)能力の低レベルぶりが知れようというものです。
また45話では、ヴァレンシュタインがシトレ・トリューニヒト・レベロの3者と秘密会議を行っていたことがマスコミに察知され、同盟のTVニュースで大々的に報じられていたりします。
こういう秘密会議というのは、内容はおろか「そういうことが行われていた」という事実自体が本来漏れてはならない機密事項でもあるはずなのですが……。
銀英伝3巻でヤンを査問会にかけた件が、外部はむろんのこと、同盟軍ナンバー2の座にあったビュコックですらフレデリカの話を聞くまで知ることができなかったことを考えると、「亡命編」における同盟のインテリジェンスの水準は原作と比較してさえも杜撰極まりないシロモノであると評さざるをえません。
ところが「亡命編」の第7次イゼルローン要塞攻防戦では、その杜撰なインテリジェンスぶりを露呈しているはずの同盟が、自国のマスコミはおろかフェザーンさえも欺いたというのですから驚きです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/52/
> 遠征軍の動きを見る限り、こちらの動員兵力を知らなかったと見て良い。知っていればヴァンフリートにのこのこ出てはこなかっただろう。フェザーンも騙されたようだ。後々帝国とフェザーンの関係が難しくなりそうだがそれも今回の戦いの狙いの一つではある。

フェザーンの諜報活動は、原作における同盟のインテリジェンス体制をすらも突破するほどの精度と優秀さを誇っています。
原作1巻でヤンとローゼンリッターによる無血占領が行われた第7次イゼルローン要塞攻防戦においても、第13艦隊の動向は「亡命編」と同じく「新艦隊最初の大規模演習」として擬態されていたにもかかわらず、フェザーンは第13艦隊の軍事目的および最終到達地点を正確に喝破していました。
その情報を察知したフェザーンが帝国に対し報告を行わなかったのは、半個艦隊でイゼルローンが落とせるはずがないという思い込みと、ヤンの軍事的手腕がどのようなものかを見たいというルビンスキーの意向によるものでしかなく、しかもそのルビンスキー自身、全く予想外の結果に驚愕するという事態に直面しています。
そして、次の同盟軍による帝国領侵攻作戦では、同盟最高評議会で議決された後で「3000万人以上もの動員計画がある」という事実をすぐさま察知し、帝国高等弁務官レムシャイト伯に報告を入れ、帝国軍に対して事前準備を促しています。
これだけの「相対的な優秀さ」を誇るフェザーンの諜報活動を、原作にすら劣る「亡命編」における同盟のインテリジェンスが欺くことに成功するというのは、ヨタ話にしても無理があり過ぎなのではないかと。
そして何よりも、その同盟の悲惨なインテリジェンスの実態を、ヴァレンシュタインは充分に把握できていたはずなのです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/24/
> 何をどう宜しくするのか、グリーンヒル参謀長が何を期待しているのか想像はつくが、うんざりだ。あの駄法螺作戦の所為だな……。あれはラグナロック作戦のパクリなのだが、あれを同盟が実施できる可能性はまずない。不可能ではないのだが成功する見込みは限りなく低いだろう。理由は二つある。
>
> 一つは誰でも分かる、
作戦目的を秘匿出来るかだ。少しでもフェザーン、帝国に知られれば作戦は失敗する……。帝国ならともかく同盟では難しいだろう。

しかし、第7次イゼルローン要塞攻防戦の戦力隠蔽も、ヴァレンシュタインが「駄法螺作戦」と主張するフェザーン侵攻作戦と同程度には秘匿性が求められるはずなのですが。
「少しでもフェザーン、帝国に知られれば作戦は失敗する」という点では、どちらも全く同じなのですから。

他ならぬ自分自身が「あれを同盟が実施できる可能性はまずない」とまで述べていたレベルの隠蔽工作を、ヴァレンシュタインは一体どうやって実現させたというのでしょうか?
シトレ・トリューニヒト・レベロを交えた秘密の会談でも、ヴァレンシュタインは今後の戦略や司令長官の人事については言及していても、同盟におけるインテリジェンスの問題については全く何も主張してなどいませんでしたし。
「亡命編」における同盟の機密情報の漏洩ぶりな惨状を鑑みても、今回の作戦で見られるような情報統制を行うためには、下手すれば軍どころか国家体制そのものをも一変させるレベルの大規模な組織改革が必要不可欠であり、それは一朝一夕に行えるものなどではありえないでしょう。
同盟軍の各艦隊指令官達が使い物にならないとヴァレンシュタインは作中で嘆きまくっていましたが、現状の同盟で本当に一番使えないどころか有害ですらあるのはインテリジェンスの分野なのです。
ヴァレンシュタインが直接指揮しているわけでもなく放置状態にすらある同盟のインテリジェンスのどこをどうやって使えば、フェザーンすらも欺けるほどの情報操作&統制が可能になるというのですかね?
他ならぬヴァレンシュタイン自身、フェザーンの諜報能力については原作知識からも充分に熟知しえる立場にあったはずでしょうに。
あんなド素人でもありえなさそうな低レベル過ぎるインテリジェンスに勝利の命運を委ねるなど、普通に考えたら自殺行為もいいところなのではないかと思えてならないのですが。
それとも、これもまた「神(作者)の奇跡」の産物だったりするのでしょうかねぇ(笑)。

にわかには信じ難い論理でもって第7次イゼルローン要塞攻防戦の勝利の帰趨が決したことに、しかし当然のごとくヴァレンシュタインが満足などするはずもありません。
いつ如何なる時にも常に被害者意識を持つことを忘れない狂人ヴァレンシュタインは、被害妄想狂患者としての禁断症状を既に発症しつつあり、それは「神(作者)の祝福」から発せられる超高濃度の放射線のようなものを浴び続けているがために、原作よりも頭の水準を著しく劣化させられたヤンの発言によって爆発するに至ったのです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/55/
> ヴァレンシュタイン准将が席に戻るとヤン准将が困惑したような表情で話しかけ始めた。
> 「駐留艦隊を無理に殲滅する必要は無いんじゃないかな、イゼルローン要塞は攻略しないんだろう? 余りやりすぎると帝国軍の恨みを不必要に買いかねない。適当な所で切り上げた方が……」
>
> ヤン准将は最後まで話すことは出来なかった。ヴァレンシュタイン准将が冷たい目でヤン准将を見据えている。
>
「不必要に恨みを買う? 百五十年も戦争をしているんです、恨みなら十二分に買っていますよ。この上どんな不必要な恨みを買うと言うんです?」
> 「……」
>
>
「遊びじゃありません、これは同盟と帝国の戦争なんです。もう少し当事者意識を持って欲しいですね。何故亡命者の私が必死になって戦い、同盟人の貴方が他人事な物言いをするのか、不愉快ですよ」
> 「……」
>
> ヤン准将は反論しなかった。口を閉じ無言でヴァレンシュタイン准将を見ている。その事がヴァレンシュタイン准将を苛立たせたのかもしれない。准将は冷笑を浮かべるとさらに言い募った。
>
>
「亡命者に行き場は無い、利用できるだけ利用すれば良い、その間は高みの見物ですか、良い御身分だ」

いくらヤンでも、よりによってヴァレンシュタインなどに「高みの見物ですか、良い御身分だ」などとは言われたくなかったでしょうねぇ(苦笑)。
何しろ、当のヴァレンシュタイン自身、裁判の場においてさえ「仕事をせずに給料を貰うのは気が引けますが、人殺しをせずに給料を貰えると思えば悪い気持ちはしません。仕事が無い? 大歓迎です。小官には不満など有りません」などとほざいて平然としていられる厚顔無恥な精神と頭の構造の持ち主なのですから(爆)。
そもそもこの発想自体、元々はヤンこそが本家本元なわけなのですから、ヤンはヴァレンシュタインに全く同じことを言い返して自らの正当性を主張しても良かったのではないかと。
それに対してヴァレンシュタインが下手に反論を返したり勤労の美徳など説いたりしようものならば、下手すれば38話の軍法会議で嘘八百を並べていたということになって偽証罪にすら問われかねないのですから(笑)。
まさか今更、「アレは自分自身についてのみ適用されるものであって、他人に関しては情け容赦なく勤労の美徳を説いていきます」などというダブルスタンダード丸出しな弁明をするわけにもいかないでしょうし。
目先の口喧嘩に勝つことしか眼中になく、後先考えることなくその場凌ぎの罵倒にばかり精を出すような奴は、こういう形で常に自分で自分の足を引っ張ることになるわけです。
自分を特別扱いせず、自分と他人で常に同じ論理を適用しても矛盾も問題も生じることのない理論を作るよう心掛けていくだけで、ヴァレンシュタインも今よりはかなりマシなシロモノになるのではないかと思うのですが……。
まあ、ヴァレンシュタインがそんなことを期待できるような手合いなどでないことは、最初から分かりきっている話でしかないのですけどね(苦笑)。

さて、禁断症状を発症したヴァレンシュタインが他人に当り散らすのは、ヤクが切れた麻薬中毒患者が暴れ回ることくらいに当然の話ではあるのですが、ここで愚かにもヴァレンシュタインの肩を持つバカがひとりしゃしゃり出てきました。
「茶坊主」という言葉と概念の生きた見本とすら言えるのではないですかね、こういうのって↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/55/
> 「そこまでだ、ヴァレンシュタイン、言い過ぎだぞ」
> ワイドボーン准将がヴァレンシュタイン准将を窘めた。ヴァレンシュタイン准将が納得していないと思ったのだろう、低い声でもう一度窘めた。
> 「そこまでにしておけ」
>
> ヴァレンシュタイン准将はワイドボーン准将を睨んでいたが“少し席を外します”と言うと艦橋を出て行った。その後を気遣わしげな表情でミハマ少佐が追う。二人の姿が見えなくなるとヤン准将はほっとした表情でワイドボーン准将に話しかけた。
>
> 「有難う、助かったよ」
> 「勘違いするなよ、俺は“言い過ぎだ”と言ったんだ。間違いだと言ったわけじゃない」
> 「……」
>
> 「奴はお前を高く評価している。それなのにお前はその評価に応えていない」
> ワイドボーン准将の口調は決してヤン准将に対して好意的なものではなかった。そしてヤン准将を見る目も厳しい。ヤン准将もそれを感じたのだろう、戸惑うような表情をしている。
>
> 「そうは言ってもね、私はどうも軍人には向いていない」
> 「軍を辞めるつもりか? そんな事が出来るのか? 無責任だぞ、ヤン」
> 「……」
> 准将の視線が更に厳しくなったように感じた。
>
>
「ラインハルト・フォン・ミューゼルは着実に帝国で力を付けつつある。彼の元に人も集まっている、厄介な存在になりつつあるんだ。どうしてそうなった? ヴァンフリートの一時間から目を逸らすつもりか?」
> 「……」
>
> ワイドボーン准将の言葉が続く中シトレ元帥は目を閉じていた。戦闘中に眠るなど有りえない、参謀達の口論を許す事も有りえない。眼をつぶり眠ったふりをすることでワイドボーン准将の言葉を黙認するという事だろうか……。
つまり元帥もワイドボーン准将と同じ事を思っている?
>
>
ヤン准将が顔面を蒼白にしている。ヴァンフリートの一時間、一体何のことだろう……。
>
「お前がヴァレンシュタインより先に軍を辞める事など許されない。それでも辞めたければミューゼルを殺してこい。それがせめてもの奴への礼儀だろう。俺達が奴を苦しめている事を忘れるな」

どう考えてもヴァレンシュタインこそが100%責任を負うべき「伝説の17話」問題を、この期に及んで葵の印籠のごとく振りかざしてヤンを論難する低能バカが未だに存在するとは……。
そもそも、ヴァンフリート星域会戦の全体像って、この時点に至るも未だに全容が解明されてなどいないはずなんですよね。
原作にもこんな記述があるのですし↓

銀英伝外伝3巻 P26下段~P27上段
<三月二四日に入ると、戦場はますます混沌とした様相をしめしはじめた。帝国軍と同盟軍の各部隊が、それぞれに分断しあい、孤立させあって、無秩序に混在し、前線は錯綜して、相対的な位置関係を把握するのが、いちじるしく困難になったのである。完全な戦況解析がおこなわれるまで、二〇年を必要としたほどであった。

当然、ヴァンフリート星域会戦が終結してまだそこまで時間が経っていない55話時点で完全な戦況解析が達成されているわけもなく、「一時間の遅れ」なるものの【正確な実態】はヴァレンシュタインも含めて誰にも分からないものなのです。
「一時間の遅れ」などというシロモノは、原作知識というヴァレンシュタイン以外の何者も確認などできない、傍目から見れば「電波系」としか評しようのないことを根拠にしたヴァレンシュタインの勝手な思い込みに過ぎないのですが。
考察4でも述べたがごとく、ヴァレンシュタインがやらせた救援要請通信の乱発をミュッケンベルガーが早期に受信したことが、「一時間の遅れ」に繋がった主要な原因であるのかもしれないのですし。
それ以前に、そもそも当時のヤンとビュコックの関係を読み誤ってヤンをビュコック艦隊の作戦参謀に配置したのも、ヤンおよび同盟軍上層部にラインハルトの情報を教えなかったことも、全てヴァレンシュタインの責任に帰するべき失態ではありませんか。
そんな錯誤と責任転嫁に満ち溢れたタワゴトをほざくヴァレンシュタインも、そんなシロモノを無条件に受け入れてしまっている周囲の人間も、揃いも揃って頭がおかしいと言わざるをえないところでしょう。
そもそも、「伝説の17話」当時あの場にいなかったワイドボーンが、何故ヴァレンシュタインの自爆発言の内容を正確に知っているのでしょうか?
あの自爆発言は、それ単体でヴァレンシュタインを処刑台へ送り込めるだけの威力を誇っているのですから、シトレやトリューニヒトとの提携が実現した55話時点だと、最高機密扱いか記録破棄が行われていたとしても何ら不思議なものではないはずでしょう。
正式な報告書として挙げられた事案だからその情報は同盟軍の高級士官が全て共有しえるものとして扱われているのであれば、ロボス辺りが38話の軍法会議で普通に利用していても良さそうなものだったのですが。
いくら「神(作者)の奇跡」の産物であるとは言え、あの自爆発言の問題点を誰も理解することができないほどに同盟軍上層部が低能揃いというのは、何とも常識外れなトンデモ設定であると言わざるをえないところなのですけどねぇ(苦笑)。
まあ、ワイドボーンは原作からしてヤンにシミュレーションで無様に敗北した挙句、正攻法にこだわってラインハルトに戦死させられたコチコチの理論バカとして描かれていたわけですから、ワイドボーン個人のこの茶坊主っぷりについてだけ言えば、皮肉にも逆に原作の設定に忠実であるとすら言えるのでしょうけど(爆)。

自らの衝動の赴くままにヤンを罵倒し、お節介な茶坊主に制止させられたヴァレンシュタインは、さすがにヤバいとでも考えたらしい神(作者)が発した遠隔操作用の電波でも受信したのか、いつものヴァレンシュタインには全くもって似つかわしくない反省らしきことを考え始めます。
しかし、一見反省しているような体裁を整えていながら、実際には自己正当化の要素が随所にちりばめられているのが、ヴァレンシュタインらしいと言えばらしいところで↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/56/
> 別に好きで七百万人殺そうとしているわけじゃない。殺す必要が有るから殺すんだ。まあ最終的な目標が和平だというのはヤンは知らないからな、あんな事を言ったんだろう。人を殺すことで和平を求めるか……外道の極み、いやもっとも原始的な解決法と言うべきかな。ヤンじゃなくても顔を顰めるだろう。
>
> 分かってはいるんだ、ヤンがああいう奴だってのは……。ヤンは戦争が嫌いなんじゃない、戦争によって人が死ぬのが嫌いなんだ。だからあんな事を言い出した。でもな、
帝国と同盟じゃ動員兵力だって圧倒的に帝国の方が有利なんだ。そんな状況で敵兵を殺す機会を見逃す……。有り得んだろう、後で苦労するのは同盟だ、そのあたりをまるで考えていない。
>
> 結局他人事だ。つくづく参謀には向いていないよな。誰よりも能力が有るのにその能力を誰かのために積極的に使おうとしない。俺が居るのも良くないのかもしれない。ヤンにしてみれば自分がやらなくても俺がやってくれると思っているんだろう。
>
> 参謀はスタッフだ、スタッフは何人もいる。全てを自分がやる必要は無い。つまり非常勤参謀の誕生だ。ヤンは指揮官にしてトップに据えないと使い道が無い。お前の判断ミスで人が死んだ、そういう立場にならないと本気を出さない。良い悪いじゃない、そういう人間なんだ。どうにもならない。
>
>
あんな事は言いたくなかったんだけどな、俺の気持ちも知らないでと思ったらつい言ってしまった、落ち込むよ……。 “亡命者に行き場は無い、利用できるだけ利用すれば良い、その間は高みの見物ですか、良い御身分だ”
>
> そんな人間じゃない、ヤンはそんな卑しい心は持っていない、卑しいのはそんな事を言う俺の心だ。後で謝るか……、謝るべきだろうな、俺はヤンを汚い言葉で不当に貶めたんだ。ワイドボーンが止めてくれなかったら一体何を言っていたか……。

実のところ、56話の時点でこんなことを語っていること自体が、逆にヴァレンシュタインが全く反省などしていない証拠でもあったりします。
「伝説の17話」の後にもヴァレンシュタインは反省らしきことを語っているのですが、その時と全く同じ構図「ヤンの気質を充分に理解していながら、それでも衝動的に罵倒を投げつけずにいられない」がそっくりそのまま繰り返されているのですから。
ヤンに対する期待感からあえて厳しいことを厳しい口調で述べている、というわけでもないことは、モノローグどころか表面的な態度から見てさえも明らかなのですし。
そもそもヴァレンシュタインは、元々ラインハルトに対抗する必要性から言ってもヤンを必要としていると他ならぬ自分自身で明言しているのですから、そのヤンから好感を抱かれ味方になってもらえるような言動を常に心がけるべきではありませんか。
作中のような態度を披露していては、ヤンでなくても苦手意識を抱かざるをえませんし、それどころか憎悪・敵意すら抱かれても文句は言えないでしょう。
たとえ内心で軽蔑や侮蔑の念を抱いていたとしても、表面的にはおべんちゃらを並べたり相手に同調したりして相手の歓心や好意を獲得し、諫言するにしてもできるだけ相手の反感を買わないようなやり方に努める。
組織人として生き、組織内で味方を得るためには必要不可欠な処世術であるはずなのですけどね、これって。
それをロボスやフォークはむろんのこと、自分の頼もしい味方となりえるはずのヤンやシトレに対してすら全く行おうとせず、感情の赴くままに罵倒しまくる行為を延々と繰り返すヴァレンシュタインが、いくら口先だけで反省の念を述べようが、そんなものに到底信用などできるものではありません。
その後の言動や態度が改善されてこそ本当の反省の成果であると言えるのであって、口先や頭の中だけのその場凌ぎな反省であれば誰にだってできるのですから。
前者が全く伴わない後者のみの反省しかすることがないヴァレンシュタインは、そう遠くない未来にまた同じ轍を踏むことになるのが最初から目に見えているのですが。

「自分が卑しい人間だ」という反省も「自分はヤンやラインハルトに遠く及ばない人間だ」と同様に、口先だけで実体も信憑性も全く伴っていないシロモノであろうことは一目瞭然なのですし。

そして、この上っ面だけの反省の弁以上に笑止なのは、「別に好きで七百万人殺そうとしているわけじゃない。殺す必要が有るから殺すんだ」などと平然とほざくヴァレンシュタインのダブルスタンダードぶりにあります。
そんなことを言い出したら、「本編」でヴァレンシュタインが散々非難していたラインハルトの焦土作戦やヴェスターラントの虐殺黙認などについても、「勝利と巨大な犠牲を回避するための必要な最小限度の犠牲だった」の一言で終わってしまうではありませんか。
特にオーベルシュタインなどは、まさに原作の銀英伝の中でそう言っていたのですし。

全く同じことを自分がやるのはOKなのに他人がやるのはNGって、そういうダブルスタンダードな主張は「自分だけを特別扱いしている」という点で醜悪極まりないシロモノでしかないのですが。
それにヴァレンシュタインの思考基準では、戦争で親兄弟や親戚・知り合いなどが殺されても「有能な敵」を恨むべきではなく、そんなことをするような人間はシスコンやファザコン等のコンプレックス持ちかつ「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」でしかないのでしょう?
そんな連中をいくら殺したところで、別に罪悪感に苛まれる必要なんてどこにもないではありませんか(笑)。
むしろ、そいつらのコンプレックスを断ち切ってやったことに感謝すらされて然るべき、というのがヴァレンシュタインの考えでもあるわけですし(爆)。
というか、ヴァレンシュタインが本当に虐殺と犠牲を回避したいのであれば、それこそ今回の考察の冒頭で私が述べたように「ラインハルトひとりを暗殺する」という手段を使っても良いはずなのですけどね。
すくなくとも、戦場で数百万単位の敵方の軍人を殺すよりは、数でも質でも犠牲ははるかに少なくて済むのですから。
それをせず、「不必要に」戦場での虐殺と犠牲を出すことにこだわるヴァレンシュタインは、すくなくとも自分の罪にある程度自覚的ではある原作のラインハルトやオーベルシュタインなど比べ物にならないレベルで、「大量虐殺者」としての心性と資質を救いようのないほどに兼ね備えている存在であるとすら言えるのではないですかねぇ。

ヴァレンシュタインに本当に反省する気などない事実や自己客観視の欠如ぶりは、以下の2つのやり取りの中でも充分過ぎるほどに窺い知ることができます↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/56/
> 「そうじゃありません、彼女が心配しているのはヤン准将の事です。准将がヤン准将を何時か排斥するのではないかと心配しているんです。怖がられていますよ、ヴァレンシュタイン准将。准将がそうやって自分を抑えてしまうから……」
>
> 馬鹿馬鹿しい話だ、何で俺がヤンを排斥する。ヤンの事が好きだからと言って俺を敵視するのは止めて欲しいよ。
対ラインハルトの切り札を自分で捨てる馬鹿が何処にいる。

鏡を見てみたらどうです?
「対ラインハルトの切り札を自分で捨てる馬鹿」が常に目の前に映し出されていますから(爆)。
それに、ここで問題なのは「自分がどう思っているか」ではなく「他人から自分がどのような目で見られているか」でしょうに。
「本編」でラインハルト&キルヒアイスを死に追いやり、「亡命編」でもヤンやシトレに対して被害妄想に満ちた憎悪を抱き、何よりもアレだけ好き勝手に振る舞って処罰されることすらもないヴァレンシュタインは、他人から「怖い」「この人から自分は憎まれている」と見られて当然なのですから。
自分の頭の中だけでどれだけ相手を絶賛していようが、それを態度や言葉に表わさなければ、相手が自分の考えを正しく理解したりするはずなどないでしょうに。
前世と今世を含めればそれなりの人生経験もあるでしょうに、そんな当たり前の常識すらも全く身についていないヴァレンシュタインは、まさに「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」以外の何物でもないし、反省心も皆無であると言わざるをえないところなのですけどね。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/56/
> 「そんな事はしませんよ、ミューゼル中将と互角に戦える人物が同盟にいるとすればヤン准将だけです。私はミューゼル中将にもヤン准将にも及びません。私はヤン准将の力を必要としているんです」
> 俺の言葉にサアヤは可笑しそうに笑った。
> 「准将だけです、そんな事を言うのは。他の人は准将ならミューゼル中将に勝てると思っています」
>
> 阿呆が、
俺は天才じゃない、原作知識を上手く利用しているだけだ。どいつもこいつも何も分かっていない、俺は独創性なんぞ欠片もない凡才だという事は誰よりも自分が一番良く分かっている。

「俺は天才じゃない」以外は全部過大&自画自賛もいいところですね、ヴァレンシュタインの自己評価は(笑)。
ヴァレンシュタインが本当に「原作知識を上手く利用している」のであれば、ヴァンフリート星域会戦でラインハルトを殺すこともできたでしょうし、それ以前にそもそもラインハルトと対決する事態すら避けることが可能だったはずでしょう。
むしろ、あまりにも原作知識の活用が稚拙過ぎて、読者としてはイライラさせられることもしばしばだったりするのですが。
そして何よりもヴァレンシュタインは、「独創性なんぞ欠片もない凡才」ではなく「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ同然の心性とメンタリティしか持ちえない、厚顔無恥かつ被害妄想狂患者の狂人」というのが正しい評価でしょうに(爆)。
ヴァレンシュタインほどに「自分というものが全く分かっていない人間」というのも、そうそういるものではないのですけどねぇ(苦笑)。
ただ、極めて悪い意味で思考回路と感情抑制機能がイカれている頭をしているがために、周囲からは逆に物珍しい珍獣的な希少価値を伴って見えることはあるわけですが。
それが他者から、ある種の「独創性」として評価されることも当然あるでしょうね。
もっとも、そんなシロモノを持つことなど、私であれば絶対に願い下げですけど(苦笑)。

ところでヴァレンシュタインは、56話の冒頭で「帝国と同盟じゃ動員兵力だって圧倒的に帝国の方が有利なんだ。そんな状況で敵兵を殺す機会を見逃す……。有り得んだろう、後で苦労するのは同盟だ、そのあたりをまるで考えていない」などとヤンの態度を非難しております。
では、その舌の根も乾かぬうちに、第7次イゼルローン要塞攻防戦の締めとしてヴァレンシュタインが取った選択肢は一体何だったのか?
次回の考察は、その部分も含めたヴァレンシュタインとラインハルトの会談内容をメインに語ってみたいと思います。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察13

やることなすこと傍若無人かつ「自分が他人からどう見られているか」という自己客観視の視点的なものが完全に欠落しているエーリッヒ・ヴァレンシュタインに、作者氏は一体どのようなものを投影しているのか?
「本編」を読んでいてヴァレンシュタインの性格破綻ぶりに反感を抱き始めた頃からこれはずっと疑問となっていて、この疑問を解消すべく、私は様々な推論を考えていたりします。
過去のヴァレンシュタイン考察本論やコメント欄でしばしばネタとして出してきた、「アクセス増と小説に対する評価高を目的とした確信犯的な釣り&炎上マーケティング説」などもそのひとつです。
ただ、釣り&炎上マーケティングというのは、あくまでも「一発勝負」「一時的な集客」のネタとして使うからこそ大きな成果が見込めるのであって、こうまで長々と同じネタを延々と続けていては却って逆効果でしかありません。
作者氏がそんな程度のことも理解できないとはさすがに思えないので、これも今となってはあくまで「作者や作品の意図に反して笑いのネタになってしまっているヴァレンシュタインの惨状」を嘲笑う意味合いで使っているだけですね。

その「釣り&炎上マーケティング説」以外の要素で以前に考えたことのある推論としては、「老人の視点から、自分の理想と願望を全て叶えてくれる【孫】を描いている」というものがあります。
この推論から導き出される作者氏は、最低でも「初老」と呼ばれる年齢に到達している人間で、老人が邪険にされ若者が英雄として称揚される銀英伝を嫌い、「最近の若い者は…」という負の情念をベースに、原作とは逆に老人を持ち上げ原作主人公キャラクター達を無能低能の水準まで貶めることを目的に「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」を執筆し始めた、ということになっていたりします(^^;;)。
そして一方で、ラインハルトよりも(取消開始)若い(取消終了)(修正開始)2歳程度年長の(修正終了)人間という設定のヴァレンシュタインは、その老齢な自分が考える「自分の理想や願望を全て実行してくれる孫」を投影する形で描かれているというわけです。
ヴァレンシュタインがあれほどまでの傍若無人に振る舞うのは、若者を格下に見ていて常に「最近の若い者は…」という情念が発露されているため。
そのヴァレンシュタインに周囲、特に老人キャラクターが寛大なのは、ヴァレンシュタインを「自分の孫」的な視点で見ていて「何をやっても愛い奴よ」と甘やかす様を表現しているため。
そして、リヒテンラーデ候や帝国軍三長官などといった老人達が原作とは一転して有能なキャラクター扱いとなっているのは、自分と同年代以上の「老人」であるから、というのが理由になるわけですね。
こういう視点で見てみると、ヴァレンシュタインが作中でああまで「神(作者)の奇跡」によって守られ、依怙贔屓されている構図の実態というものも見えてくるのではないかと、半分は面白おかしく考えてもみたわけなのですが……。
もっとも、これは所詮、作者氏の年齢が分からないからこそできる空想の産物に基づいた推論でしかなく、作者氏の実年齢が想定よりも若いと分かれば、一発で瓦解する程度のシロモノでしかないのですけどね。

ただ、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」を見てみると、全体的に「老人に対する幻想ないしは願望」のようなものがあるのではないかとは、正直感じずにいられないところなんですよね。
「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」に登場する「原作から設定を改変された老人達」は、皆若者(というか主人公)に理解がある上にその時その時の状況に応じて迅速かつ的確な判断を下し、さらにはそれまでの政治思想や基本方針をあっさり転換できるほどの柔軟性まで持ち合わせていたりします。
しかし実際の老人は、慣習的に続いてきたことをこなすのは得意であっても、全く新しい未知の事態になると古い考え方に固執し、周囲がどれだけ進言しても頑固なまでに受け入れない「思考の硬直性」を発揮することの方がはるかに多いのです。
特に政治思想については、老齢になればなるほど、如何に現状の政治情勢が変化してさえ、その転換は絶望的とすら言っても良いほどの不可能事になっていくことがほとんどです。
銀英伝の原作者である田中芳樹などはまさにその典型例で、学生時代に培ったであろう、今となっては時代錯誤かつカビの生えた政治思想を未だに堅持し続け、すっかり「老害」と化している始末だったりするのですからねぇ(苦笑)。
その要因としては、脳の老化、長年堅持し続けてきた思想や慣習に対する信仰や依存、個人のプライドや矜持の問題、さらにはそれこそ「最近の若い者は…」に象徴される自分より下の世代を格下に見て蔑視する性格など、様々なものが考えられますが、一般的な傾向として見ても、老人の思考発想法が若者のそれと比べて一種の硬直性を多分に含んでいることは誰しも否定できないでしょう。
そして何より、その田中芳樹が執筆した原作「銀英伝」に登場する老人達もまた、比較的優遇されているビュコックやメルカッツなどの「老練」な登場人物達も含めて軒並みそのように描かれているわけです。
にもかかわらず「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」では、まるでその現実に挑戦状でも叩きつけるかのごとく老人に入れ込みまくった描写が展開されているのですから、これはもう「作者氏の老人に対する幻想なり願望なりが作中に反映されている」としか判断のしようがありますまい。
「原作で主人公達の引き立て役にしかなっていない無能キャラクターの描き方に疑問を抱いたから、あえて反対の描写を展開している」などという大義名分は、ロボスやフォークが原作通りだったり、キルヒアイスがありえないレベルで無能化していたり、さらには「法律に全く無知な惨状を露呈しているヴァレンシュタインごときに一方的に論破される検察官」なるものが登場したりしている時点で到底信用などできるものではないのですから。
で、そのような「老人に対する幻想や願望」を最も抱きそうなのは当の老人自身なのではないか(常に上位者として君臨し「最近の若い者は…」と若年世代を見下す傾向のある老人相手に、当の若年世代が好評価的な幻想や願望を抱くとは考えにくい)、という結論の下、冒頭のような推論を作ってみたのですが、実際はどんなものなのでしょうかねぇ。

さて今回は、同盟の主要人物およびヴァレンシュタインによる4者会談、および第7次イゼルローン要塞攻防戦開始直前の話について検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11  その12

シトレ・トリューニヒト・レベロとの3者と、政治や軍の今後の行動方針について聞かれることになったヴァレンシュタイン。
サンドイッチを頬張りつつ、ひとしきり得意気になってイゼルローン要塞攻略の愚を説きまくったヴァレンシュタインは、3者が自分を呼んだ意図を図りつつ、自分が取るべき選択肢を模索していくことになるのですが……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/44/
> しかし扇動政治家トリューニヒトが和平を考えるか、冗談なら笑えないし、真実ならもっと笑えない。原作ではどうだったのかな、トリューニヒトとレベロは連携していたのか……、トリューニヒトの後はレベロが最高評議会議長になった。他に人が居なかったと言うのも有るだろうが、あえてレベロが貧乏くじを引いたのはトリューニヒトに後事を託されたとも考えられる。いかん、ツナサンドが止まらん。
>
> さて、どうする。連中が俺に和平の件を話すと言う事は俺の帝国人としての知識を利用したいという事が有るだろう。そして和平の実現に力を貸せ、仲間になれという事だ。どうする、受けるか、拒絶か……。レベロ、シトレ、トリューニヒト、信用できるのか、信用してよいのか、
一つ間違えば帝国と内通という疑いをかけられるだろう。特に俺は亡命者だ、危険と言える。

…………はあ?
今更何を言っているのでしょうかね、ヴァレンシュタインは(笑)。
「一つ間違えば」も何も、フェザーンでスパイ活動もどきな行為をやらかし、「伝説の17話」の自爆発言で既に同盟に対する裏切りの意思を表明しているヴァレンシュタインは、【本来ならば】とっくの昔に「帝国と内通という疑い」をかけられて然るべき状態になっているはずではありませんか。
イゼルローンで敵前交渉を独断で行った行為も、「敵との内通や情報漏洩を行っている」と他者、特にヴァレンシュタインに敵対的な人間から見做される可能性は充分にあったのですし。
帝国からの亡命者、それも当初は「スパイ容疑」までかけられるというオマケまで付いていた自分の微妙な立場と危険性についてヴァレンシュタインが本当に自覚していたのであれば、そういった言動が如何に自分の評価や安全を悪い方向へ追いやるかという自己保身的な発想くらい、ない方が逆に不自然というものでしょう。
アレほどまでに他人の目を気にせず衝動の赴くままに傍若無人な言動に奔走してきた過去の経緯を全て無視して、今更取ってつけたように「特に俺は亡命者だ、危険と言える」などと考えても、既に手遅れな上に何のフォローにもなっていないのですけど。
むしろ、ヴァレンシュタインに「亡命者は一般人と比べて不利な立場にある」という常識が備わっているという事実の方に驚愕せざるをえなかったくらいでしたし(苦笑)。
まさかヴァレンシュタインは、あれら一連の言動全てが、何ら後ろ暗いところも他人に恨まれることもない公明正大かつ危険性など全くないシロモノだった、とでも考えていたりするのでしょうか?
こういうのを見ると、現時点でさえ史上最低レベルを極めているヴァレンシュタインの対人コミュニケーション能力は、今後も全く改善の見込みがないばかりか、更なる悪化の可能性すら見出しえると判断せざるをえませんね。
原作知識など比べ物にならないヴァレンシュタイン最大最強の守護神である「神(作者)の祝福」というものには、ここまで人を堕落させる禁忌の魔力なり呪いなりの副作用でも備わっていたりするのでしょうかねぇ……。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/44/
> 「君は先程同盟を帝国に認めさせる、対等の国家関係を築く事は可能だと言っていたね」
> 「そんな事は言っていませんよ、レベロ委員長。可能性は有ります、少ないですけどねと言ったんです」
>
> シトレとトリューニヒトが笑い声を上げた。レベロの顔が歪み、俺をきつい目で睨んだ。睨んでも無駄だよ、レベロ。自分の都合の良いように取るんじゃない。お前ら政治家の悪い癖だ。どうして政治家って奴は皆そうなのかね。
頭が悪いのか、耳が悪いのか、多分根性が悪いんだろう。
>
> いや、それよりどうするかだ。
和平そのものは悪くない、いや大歓迎だ。これ以上戦争を続ければ何処かでラインハルトとぶつかる。それは避けたい、とても勝てるとは思えないのだ、結果は戦死だろう。戦って勝てないのなら戦わないようにするのも一つの手だ。三十六計、逃げるに如かずと言う言葉も有る。そういう意味では和平と言うのは十分魅力的だ。
>
> 「その可能性とは」
> どうする、乗るか? 乗るのなら真面目に答える必要が有る……。この連中を信じるのか? 信じられるのか? ……かけてみるか? 血塗れとか虐殺者とか言われながらこのまま当てもなく戦い続けるよりは良い……、最後は間違いなく戦死だろう。
>
>
同盟が滅べば俺には居場所は無いだろう。生きるために和平にかけるか……。宇宙は分裂したままだな、生きるために宇宙の統一を阻む。一殺多生ならぬ他殺一生か、外道の極みだな、だがそれでも和平にかけてみるか……。

トリューニヒトやレベロも、トンチ小僧の一休さんのごときお子様レベルなひっかけ問答に終始する「頭・耳・根性はもちろんのこと、現状認識能力も精神状態も最悪の水準を極め過ぎている、フォークばりに幼児レベルの衝動的発作ばかり引き起こす超低能バカな被害妄想狂患者のヴァレンシュタイン」ごときに文句を言われたくはないでしょうねぇ(苦笑)。
第一、原作知識を用いてさえ拙劣としか言いようのない甘過ぎる予測や、常識で考えれば間違いなく極刑ものの言動を、「神(作者)の奇跡」の乱発による超展開で強引に乗り切ってきたのは一体どこの誰なのかと。
そして、そんな狂人ヴァレンシュタインが「同盟が滅べば俺には居場所は無いだろう」などとほざくに至っては、「どのツラ下げてお前が…」としか言いようがないですね。
何しろ、この期に及んでさえ、「伝説の17話」における自爆発言が「公の場」で未だに撤回されていないままの状態にあるのですから。
同盟を裏切る意思表示をすらした過去を持ち、しかもその発言について何ら謝罪も訂正もしていないヴァレンシュタインが「同盟を自分の居場所にする」って、一体何の冗談なのでしょうか?
同盟に対して明らかに害意を抱いている上にその意思表示までしているヴァレンシュタインを、当の同盟が保護しなければならない理由など、宇宙の果てまで探してもあるはずがないでしょうに。
しかもヴァレンシュタインは、シトレに対してすら敵愾心を抱いている上に、そのことを少しも隠してすらいませんし。
ヴァレンシュタインと対談している3者も、その辺りの事情は当然のごとく熟知しているはずでしょうに、ヴァレンシュタインのどこら辺に「信用できる」という要素を見出したのかは全くの謎であると言わざるをえません。
「神(作者)の奇跡」の産物によるものとはいえ、これまでの実績?から能力面??を高く評価したという事情はあるにせよ、「国家への忠誠心」「同志としての信頼性」については「あの」ヤンをすらもはるかに下回る、いやそれどころかゼロを通り越してマイナスにすらなっているのがヴァレンシュタインの実態だというのに。
この手の謀議を持ちかける際に重要となるのは、機密保持の観点から言っても「能力」ではなく「忠誠心」や「信頼性」の方なのではないかと思うのですけどねぇ(-_-;;)。

それとヴァレンシュタインは、帝国と同盟が和平を結べば自分の身が安泰になると素朴に信じ込んでいるようですが、それはいくら何でも少々どころではなく楽観的に考えすぎなのではないですかね?
同盟が帝国との和平を結ぶための交渉材料のひとつとして、「ヴァレンシュタインの死」という選択肢を検討しないという保証はどこにもないのですから。
帝国にとってのヴァレンシュタインは、疑問の余地なく「裏切り者」かつ「虐殺者」であり、彼の亡命の経緯がどうであろうが、事実関係から言っても政治的に見てもその「公式見解」が揺らぐことはありえません。
その帝国にとって「ヴァレンシュタインの死」は喉から手が出るほど欲しい事象たりえますから、政治的にも軍事的にも極めて美味しい取引材料となります。
一方、同盟側の場合、確かに帝国との戦争が続いている現状で、「神(作者)の祝福」によって常に大勝利をもたらしてくれるヴァレンシュタインの存在は、確かにその点にのみ限定すれば「使い勝手の良い道具」ではありえるかもしれません。
しかし、「帝国との和平」という段になれば、当然戦争をする必要自体がなくなるわけですから、ヴァレンシュタインの「神(作者)の祝福」もまた必要性が薄まってしまうのです。
そうなれば同盟としても、別にヴァレンシュタインに依存しなければならない理由もなくなり、「ヴァレンシュタインの死」を帝国との取引材料として利用する「余裕」も出てくるわけです。
ただでさえヴァレンシュタインは亡命者な上、「伝説の17話」に象徴されるがごとく同盟に対する裏切りの意思表示まで行っており、お世辞にも従順とは到底言い難い性格破綻な惨状を呈しているのですから、本来ならば能力の有無以前の問題で排除されて然るべき存在ですらあるのです。
そこにもってきての「帝国との和平」となれば、同盟にとってもまさに渡りに船で「ヴァレンシュタインの死」を和平での取引材料に使うことを視野に入れることになるでしょうね。
原作「銀英伝」でも、ダゴン星域会戦で勝利したリン・パオとユースフ・トパロウルが不遇な人生を送っていたり、ブルース・アッシュビーが政界進出を警戒された上に不可解な死を遂げたり、バーラトの和約後にヤンが謀殺されかけたりといった「狡兎死して走狗煮らる」的な作中事実が複数事例明示されているではありませんか。
それと全く同じことがヴァレンシュタインの身に起こることなどないと、一体どうして断言することができるというのでしょうか?

これから考えると、ヴァレンシュタインが同盟軍を強化すべく優秀な人材を積極的に登用させようとしている行為も、ヴァレンシュタインの生命の安全保障という観点から言えば非常に危険な行為であると言わざるをえないところです。
ヴァレンシュタインが同盟軍を強化すればするほど、「ヴァレンシュタインがいなくても同盟軍は精強を誇っていられる」ということになり、その分同盟がヴァレンシュタインを犠牲の羊にする可能性が高くなってしまうのですから。
特にヤンが原作同様に「奇跡のヤン」的な功績と声望を確立しようものならば、ヤンがヴァレンシュタインに取って代わることでヴァレンシュタインの必要性と存在価値が大きく減退してしまい、「ヴァレンシュタイン不用論」が台頭する可能性は飛躍的に高くなります。
ヤンにその気がなくても、その周囲および同盟の政軍上層部がそう考える可能性は充分に考えられるのです。
「自分が生き残ること」に執着するヴァレンシュタインの立場的に、同盟軍の強化や帝国との和平が自身の身を却って危険にするという構造的な問題は、決して無視できるものではないはずなのですが……。

まあ、ヴァレンシュタインが「自分が生き残ること」について考える時、その脅威として見ているのって実はラインハルトひとりしかいなかったりするんですよね。
単純に考えても、同盟によって危険視され粛清・暗殺されたり軍法会議で裁かれ処刑されたりする可能性の他、帝国やフェザーン・地球教の刺客によって暗殺される可能性、さらには「亡命者としての立場」に対する偏見を抱く者や功績を妬まれた同僚や部下などによって陥れられたりする可能性など、「生き残る際に立ちはだかる障害」には様々な要素が色々と想定されるべきはずなのですが。
第6次イゼルローン要塞攻防戦で敵前交渉に臨んだ際に敵の一兵士から撃たれた際も、それで自分が死ぬとは全く考えていなかったみたいですし。
いやそれどころか、誰も何も画策してなどいなかったのに、病気や食中毒など全く偶発的な事件から突然死に至る、という事態すら実際には起こりえるわけなのですから、本当に「自分が生き残ること」に拘るのであれば、ラインハルトひとりのみを対象とするのではなく、というよりもそれ以上に「味方からの猜疑や脅威についての対策」を真剣に考えないとマズいのではないかと思うのですが。
7話におけるフェザーンでの一件では、よりによってミハマ・サアヤとバグダッシュにしてやられてしまったことを、まさか忘れてしまっているわけではないでしょうに。
「俺様を殺せる人間はラインハルト以外にいるはずがない」「同盟は自分の身を常に無条件で守ってくれる」などという何の根拠も保証もない思い込みを、ヴァレンシュタインはいいかげん捨て去るべきなのではないかと思えてならないのですけどね。

ところで、ヴァレンシュタインの自身の身辺に対する警戒心のなさっぷりを象徴しているのが、今やすっかりヴァレンシュタインの腰巾着と化した感すらあるミハマ・サアヤの存在そのものですね。
ミハマ・サアヤの立ち位置がヴァレンシュタインにとってどれほど脅威となりえるのかについては考察3や考察6でも色々と述べてきたわけですが、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤを警戒するそぶりすら全く見せておりません。
ではヴァレンシュタインがミハマ・サアヤに打算レベルでも信頼しているのかというと、そういうことも全くなかったりするんですよね。
48話で、ミハマ・サアヤの今後の処遇についてバグダッシュから話を持ちかけられた際も、まさにそんな対応を返しているわけで↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/48/
> 俺が自分の席に戻ろうとするとバグダッシュが相談したい事があると言ってきた。余り周囲には聞かれたくない話らしい、ということで宇宙艦隊司令部内に有るサロンに行くことにした。アイアースに有ったサロンも広かったが、こっちはさらに広い。周囲に人のいない場所を探すのは難しくなかった。
>
> バグダッシュが周囲をはばかるように声を低めてきた。
> 「ミハマ少佐の事なのですが……」
> 「……」
> サアヤの事? なんだ、またなんか訳の分からない報告書でも書いたか、俺は知らんぞ。
>
> 「彼女はこれまで情報部に所属していました。宇宙艦隊司令部の作戦参謀ではありましたが、あくまで所属は情報部という扱いだったのです」
> 「……」
> まあそうだろうな、身分を隠して情報を入手する。まさにスパイ活動だ。その任務は多分、俺の監視かな。
>
> 「しかし本人は納得がいかなかったのでしょう。情報部の仕事は自分には合わない、人を疑うのはもうやめたいと何度か異動願いが出ていたのです。ワイドボーン准将に閣下を疑うなと言われたことも堪えたようです」
> 「……」
>
> ワイドボーンか、まあ何が有ったかは想像がつく。それに例のフェザーンでの盗聴の件も有った。若い女性には厳しかっただろう。味方だと思っていた人間に裏切られたのだから……。
>
> 「彼女は今回正式に宇宙艦隊司令部の作戦参謀になります。情報部は以後彼女とは何の関わりも有りません」
> 「……」
>
> 本当かね、
手駒は多い方が良い、本人は切れたと思っても実際には切れていなかった、なんてことはいくらでもある。彼女が協力したくないと思っても協力させる方法もいくらでもあるだろう。
>
> 「それを私に言う理由は?」
> 「彼女を司令部要員として育てていただきたいのです」
> 「……」
>
> なるほど、そう来たか。
関係は切りました、そう言ってこちらの内懐に食い込ませようという事か。しかしちょっと拙劣じゃないのか、見え見えだろう、バグダッシュ。思わず苦笑が漏れた。
>
> 「お疑いはごもっともです。しかしこれには何の裏も有りません。信じてください」
> はい、分かりました、そんな答えが出せると思うのか? 俺の苦笑は酷くなる一方だ。
>
> 「彼女をキャゼルヌ准将の所に送ることも考えました。彼女からはそういう希望も出ていたんです。しかしそれでは閣下の周りに閣下の事を良く知る人間が居なくなってしまう……」
> 今度は俺のためか……。
>
> 「こんな事を言うのは何ですが、閣下は孤独だ。我々がそう仕向けたと言われれば言葉も有りません。だから……」
> 「だから彼女を傍にと?」
>
> 「そうです、他の人間では閣下を怖がるでしょう。彼女ならそれは無いと思います」
> 「……」
>
不愉快な現実だな、俺はそんなに怖いかね。まあ怖がらせたことは有るかもしれないが……。
>
> 「ミハマ少佐は階級の割に司令部要員としての経験を積んでいません。本人もその事を気にしています。自分が此処に居る事に不安を感じている。彼女を後方支援参謀として作戦参謀として育ててはいただけませんか?」
>
> 「育ててどうします?」
> 「いずれ閣下を理解し、支える士官が誕生する事になります。これからの帝国との戦いにおいて、ミューゼル少将との戦いにおいて、必要ではありませんか」
> 「……」

そこまで分かっているのならば、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤを「潜在的な脅威」として徹底的に排除するべきなのではないのですかね?
ミハマ・サアヤが近くにいるというだけで、ヴァレンシュタインは常に彼女が持つ「潜在的な脅威」に晒され続けることになるのですから。
フェザーンの一件では、ミハマ・サアヤ本人ですら知らない間に仕込まれていた盗聴器にヴァレンシュタインはしてやられたわけですが、もしこれが遠隔操作可能な超小型高性能爆弾とかだったりしたら、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤ共々確実にあの世行きだったでしょう。
すくなくとも当面の間は戦場でしか会うことがないであろうラインハルトの脅威にアレだけビクビクしているにもかかわらず、四六時中一緒にいて常にヴァレンシュタインを狙える立ち位置にいるミハマ・サアヤに全く脅威を感じない、というのは支離滅裂もいいところなのですが。
まさに、「本人は切れたと思っても実際には切れていなかった」「彼女が協力したくないと思っても協力させる方法もいくらでもある」わけですから、ミハマ・サアヤのヴァレンシュタインに対する好意や性格などは全く何の緩和要素にもならないわけで。
むしろ、そのお人良しで甘すぎる性格を、フェザーンでの一件のごとく自分に悪意を抱く他者に利用されてしまう危険性が、ヴァレンシュタインに常に付き纏うことになってしまうのですし。
常日頃から発散している、自分に恩恵を与えてくれるシトレに対してすら感謝どころか憎悪さえ抱いてしまうほどの被害妄想狂ぶりから考えても、常に自分をターゲットに据えているかのごときミハマ・サアヤの「潜在的な脅威」を、ヴァレンシュタインは常に警戒して然るべきではないのでしょうかねぇ。

次回からは第7次イゼルローン要塞攻防戦へと移ります。

宝塚舞台版銀英伝のビジュアル公開

ファイル 658-1.jpg

銀英伝の宝塚舞台版「銀河英雄伝説@TAKARAZUKA」のビジュアルが公開されました。ラインハルトとヒルダの衣装姿が披露されています。
また、キャストなども既に発表されているみたいですね。

銀河英雄伝説@TAKARAZUKAの舞台案内
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/289/index.shtml
キャスト一覧
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/289/cast.html
出演者(宙組)
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/289/perform.html

配役を見る限りでは、帝国側を舞台にしたストーリーになるのが確実なようで。
しかし当たり前と言えば当たり前なのでしょうが、出演キャストは皆女性ばかりですね(苦笑)。
オーベルシュタインまで女性が配役されていますし。
こうなると、女性的なイメージから最もほど遠いオフレッサーを一体誰が担うことになるのか、そもそも舞台に登場自体するのかも気になるところですが(^^;;)。
地理的な問題から私は観にいけないのですが、果たしてどんなストーリーになるのか、一種の「怖いもの見たさ」的に気になるところではありますねぇ。

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