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カテゴリー「田中芳樹関連」の検索結果は以下のとおりです。

銀英伝外伝舞台「撃墜王編」の全配役発表と問題点

銀英伝舞台版公式サイトが更新され、出演キャストの全配役が発表されました。
公式サイトはこちら↓

銀英伝舞台版公式サイト
http://www.gineiden.jp/
銀河英雄伝説 撃墜王篇
http://www.gineiden.jp/gekitsui/
撃墜王篇の出演キャスト一覧
http://www.gineiden.jp/gekitsui/cast.html

ただこの配役、正直かなりの問題点を抱え込んでいると言わざるをえないところですね。
配役の内容は以下のようになっているのですが↓

中川晃教 =オリビエ・ポプラン
横尾 渉 =ジークフリート・キルヒアイス
二階堂高嗣=コールドウェル
中村誠治郎=イワン・コーネフ
大山真志 =サレ・アジズ・シェイクリ
仲原裕之 =ウォーレン・ヒューズ
岩永洋昭 =ワルター・フォン・シェーンコップ
三上 俊 =モランビル
長澤奈央 =ナオミ
桑代貴明 =ユリアン・ミンツ
川隅美慎 =ビクトル・フォン・クラフト
松村泰一郎=ライナー・ブルームハルト
海宝直人 =カスパー・リンツ
内藤大希 =ザムチェフスキー
ニコラス・エドワーズ=ラインハルト・フォン・ローエングラム
高山猛久 =アーサー・リンチ
川合敏之 =アドリアン・ルビンスキー
佐藤和久 =ヨッフェン・フォン・レムシャイド
深澤英之 =ラザール・ロボス
藤咲ともみ=ハンナ
内田羽衣 =ケイト
大澄賢也 =ムライ
天宮 良 =アレックス・キャゼルヌ

問題なのは赤文字部分の配役になるのですが、これらの配役を担うキャストは、正伝となるであろう第一章・第二章で配役を担っていた「中の人」とは明らかに異なっています。
問題となっている3者の第一章・第二章の配役とキャストは以下のようになっていました。

ジークフリート・キルヒアイス=崎本大海
ワルター・フォン・シェーンコップ=松井誠
ラインハルト・フォン・ローエングラム=松坂桃李

……何故今回、主要人物とすら言える登場人物のキャストが変わってしまっているのでしょうか?
同じ出演者が一人二役を演じたりするケースはともかく、同じ登場人物のキャストはシリーズ通じて同一にしておかないとマズいでしょう。
第一章・第二章の舞台を観た後に「撃墜王編」を観賞したら、顔ぶれが全く異なることから違和感バリバリになるのは必至なのですが。
今までの舞台でも、ジークフリート・キルヒアイス役の崎本大海がオーベルシュタイン編で友情出演するなどといったことを行い、キャストの一貫性を保っていたことを鑑みると、今回の措置はあまりにも不自然であると言わざるをえません。
特にシェーンコップなんて、直近の舞台である第二章の登場人物なのですからなおのこと、一貫性は保って然るべきでしょうに。
まあ、今回交代になってしまったキャスト達はそこそこの大物ではあるようなので(特に松坂桃李は最近の邦画でも名前を見かけるようになりましたし)、その辺りの「大人の事情」が影響してはいるのでしょうけど、こんな無理が生じるくらいならば、そもそも最初から大物を配置しなければ良かったのではないかと。
「客寄せパンダ」的な宣伝目的で大物を配置したことが、今回のような外伝では逆に仇となって返ってきているような感すらあります。
舞台に限らず、キャストの一貫性というのは極めて大事な要素なのではないかと思えてならないのですけどねぇ。

こんなことが今後も起こるとなると、今後発表されるであろう第三章の舞台などでも、「主要キャストが以前の舞台とは全くの別人になっている」という事態が想定されてしまうわけで、正直大丈夫なのかと考えずにいられないところなのですが。
それとも、舞台という場ではこういうことが日常的に行われていたりするのでしょうか?

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察12

二次創作には「メアリー・スー」と呼ばれる用語があります。
「メアリー・スー」とは、原作の登場人物をはるかに凌ぐ実力と優秀さを兼ね備え、原作の主人公をもそっちのけにして万能的に活躍し、主人公も含めた原作キャラクターや読者から無条件に畏怖・礼賛されるオリジナルキャラクターの総称です。
この用語の由来は、「スタートレック」の二次創作に登場した女性のオリジナルキャラクター「メアリー・スー大尉」にあるのだとか。
欧米の二次創作では、「メアリー・スー」は物語の世界観を破壊しかねないという理由からその存在そのものが忌み嫌われ、敬遠される傾向にあるのだそうですが、日本では一次創作からして「メアリー・スー」のごとき万能系の主人公が登場し他を圧倒して活躍する作品も珍しくない(創竜伝や薬師寺シリーズもそうですし)ためか、意外と受け入れられているフシが多々ありますね。
そして、「本編」も「亡命編」も含めた「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」もまた、典型的過ぎるほどに「メアリー・スー」の系譜に属する二次創作であると言えるでしょう。
この「メアリー・スー」のオリジナルキャラクターが持つ特性を、ヴァレンシュタインは軒並み踏襲している始末ですからねぇ(苦笑)。
以下のページでは、自分が作成した二次創作の「メアリー・スー度」を診断することができるのですが、作者氏自身の性格や意向が絡む要素を抜きにして「作中に表れている主人公の傾向」のみに限定しても、かなりの項目にチェックが入ってしまいますし↓

Mary Sueテスト
http://iwatam-server.sakura.ne.jp/column/marysue/test.html

同じサイトの別ページでは、「メアリー・スー」が良くない&嫌われる理由について、以下のようなメッセージが込められているからだと書かれています↓

http://iwatam-server.sakura.ne.jp/column/marysue/index.html
<今の自分は酷い扱いを受けているけど、本当は秘めた能力を持っている。自分がこんな扱いを受けているのは、単に自分の能力を発揮する機会を与えられなかっただけだ。今みたいに周囲に悪い人しかいないのではなく、良き理解者がいればもっと活躍できるのに。

思わず笑ってしまったのですが、これってヴァレンシュタインが常日頃抱いている被害妄想そのものでもありますよね。
ヴァレンシュタインはまさに、「自分のことを理解できない他人が悪い」「自分の意図を忠実に実行できない他人が悪い」「自分の意に沿わない他人は無条件で悪だから何をしても良い」「だから常に自分は正しく他人が悪い」的なことばかり主張し、自分の責任や失態を免罪すると共に他者を罵倒しまくっているのですから。
しかし、作中におけるヴァレンシュタインの言動が正当化されるためには、どう考えても「良き理解者」どころか「全知全能の神」でも味方につけないと不可能なレベルであるようにしか見えないのが何とも言えないところで(T_T)。
ヴァレンシュタインが「メアリー・スー」を貫くなら貫くで、もう少し読者にその有能さを納得させられるだけの理論的説得力や物語的な必然性といったものが伴っていて欲しいものなのですけど。
また、「メアリー・スー」は作者の願望や理想が投影されたものでもあるそうなのですが、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」の作者氏は、あんなシロモノになりたいとかアレが理想像であるとか本気で考えていたりするのですかねぇ……。
いくら希少価値があるからと言っても、狂人やキチガイに魅力を感じ憧れを抱くというのも考えものではあるのですが。

それでは、今回より第6次イゼルローン要塞攻防戦が終結して以降の話を検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11

暴言と失態を重ねるたびに何故か周囲から絶賛され昇進していく、原作「銀英伝」のビッテンフェルトすらも凌ぐ文字通りの「奇跡の人」ヴァレンシュタイン。
38話の軍法会議で、本来ならばありえるはずもない無罪判決を「神(作者)の奇跡」によって勝ち取ってしまったヴァレンシュタインは、しかしそのことについて神(作者)に感謝もしなければ悔い改めることもなく、相変わらずの「我が身を省みぬ狂人」ぶりを披露してくれています。
特に、ミュッケンベルガーが辞任して空位になった帝国軍宇宙艦隊司令長官の後任に誰が就くのかについて聞かれた際にこんな回答を返したことなどは、軍における自分とロボスの関係自体をすっかり忘れてしまっているのではないかとすら危惧せざるをえないほどなのですが↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/40/
> 部屋が静まり返りました。准将のいう事は分かりますが私にはどうしても納得いかないことが有ります。
> 「准将、周囲の提督達はどうでしょう。素直に命令に従うんでしょうか?」
>
> 私の問いかけに何人かが頷きました。そうです、いきなり陸戦部隊の指揮官が司令長官になると言っても提督達は納得できないと思うのです。准将は私の質問に軽く頷きました。
>
>
「従わなければ首にすれば良い。そして若い指揮官を抜擢すれば良いんです」
> 「若い指揮官?」
> 「ええ、今帝国で本当に実力が有るのは大佐から少将クラスに集中しているんです。彼らを抜擢して新たな宇宙艦隊を編成すればいい」
> 「……」

じゃあ何故ロボスは、上官侮辱行為だの214条発動の進言だのを行ったヴァレンシュタインを処断することができなかったのでしょうかねぇ(笑)。
「従わなければ首にすれば良い」というのであれば、当然ロボスもヴァレンシュタインに対してそれが行えたはずなのに。
ヴァレンシュタインがロボスに対して行っていたことは誰の目にも明らかな軍規違反だったのであり、またヴァレンシュタインがロボスに露骨なまでの反抗の意思を示していたのもこれまた明白だったのですから。
その際にヴァレンシュタインが自己正当化の手段として掲げていた「司令官は無能低能&無責任だ」程度の言い訳ならば、オフレッサーが自分達の上官になることに不満を持つ軍人であれば誰だって言うでしょうよ。
上記引用にもある通り、「いきなり陸戦部隊の指揮官が司令長官になると言っても提督達は納得できないと思う」事態は当然発生しえるのですから。
つまりヴァレンシュタインは、「あの場における自分は上官たるロボスに排除されて当然の人間だった」と自分から告白しているも同然であるということになってしまうわけです(爆)。
せっかく「神(作者)の奇跡」で無罪判決を恵んでもらったというのに、その正当性を自分から破壊するような言動を披露しているようでは世話はないですね。
まあそれ以前に、あの当時のヴァレンシュタインの立場で「自分は何故ロボスから処断されなかったのだろう?」と少しも疑問に思わないのは論外もいいところなのですが(苦笑)。

自分の身に起こっている「神(作者)の奇跡」を「望外の幸運」として感謝するどころか至極当然のものとすら認識しているヴァレンシュタインの傾向は、同盟軍における宇宙艦隊司令長官の後任人事話の際にも垣間見ることができます。
ここでヴァレンシュタインの恰好の被害妄想サンドバッグにされてしまっているのは、同盟軍ナンバー1の統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥です↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/41/
> 「なら、お前は誰が司令長官に相応しいと思うんだ」
> 「シトレ元帥です」
> 「な、お前何を言っているのか、分かっているのか?」
> ワイドボーンの声が上ずった。まあ驚くのも無理はないが……。
>
> 軍人トップの統合作戦本部長、シトレ元帥が将兵の信頼を取り戻すためナンバー・ツーの宇宙艦隊司令長官に降格する。本来ありえない人事だ。だがだからこそ良い、周囲もシトレが本気だと思うだろう。彼の“威”はおそらく同盟全軍を覆うはずだ。その前で反抗するような馬鹿な指揮官など現れるはずがない。オフレッサーにも十分に対抗できるだろう。
>
> 俺がその事を話すとワイドボーンは唸り声をあげて考え込んだ。
> 「これがベストの選択ですよ」
> 「それをシトレ元帥に伝えろと言うのか?」
> 「私は意見を求められたから答えただけです。どうするかは准将が決めれば良い。伝えるか、握りつぶすか……」
> 「……」
>
> 「これから自由惑星同盟軍は強大な敵を迎える事になる。保身が大切なら統合作戦本部長に留まれば良い。同盟が大切なら自ら火の粉を被るぐらいの覚悟を見せて欲しいですね」
>
> 蒼白になっているワイドボーンを見ながら思った。
シトレ、俺がお前を信用できない理由、それはお前が他人を利用しようとばかり考えることだ。他人を死地に追いやることばかり考えていないで、たまには自分で死地に立ってみろ。お前が宇宙艦隊司令長官になるなら少しは信頼しても良い……。

もうここまで来ると、ヴァレンシュタインは常に被害妄想を抱いていないと死んでしまう病気の類でも患っているのではないか、とすら思えてきてしまいますね(苦笑)。
シトレが第5次イゼルローン要塞攻防戦の際に宇宙艦隊司令長官の職にあったという作中事実を、まさかヴァレンシュタインが知らないわけはないでしょう。
別に原作知識とやらがなくても、「亡命編」の世界の人間であれば誰でも普通に理解できる「過去の作中事実」でしかないのですから。
「たまには自分で死地に立ってみろ」も何も、シトレはとっくの昔にヴァレンシュタインが所望する宇宙艦隊司令長官の職を経た上で現在の地位にあるわけなのですから、「お前が戦争に行け」論的な批判など最初から当てはまりようがないのですが。
そもそも軍に限らず、組織の長というのは「組織全体の方針を決める」「人を使っていく」ことをメインの仕事としているのであり、その観点から見ればシトレは自分の職務を忠実にこなしているだけでしかありません。
むしろ、その立場にある者が他者を使うことなく自分で全ての仕事を処理していくことの方が、人材を死蔵させ下の者の仕事を奪うという二重の意味で迷惑極まりない話なのであり、一般的な評価でも「本来やるべき仕事をしていない」と見做されて然るべき行為なのです。
人の上に立つ者には人の下で働く者とは別の責任と義務があるのであり、それは決して楽なものでも軽いものでもないということくらい、よほどのバカでもない限りは分かりそうなものなのですけどね。

それにヴァレンシュタインにとってのシトレは、「死地に追いやる」どころか、むしろ「一生の恩人」とすら言って良いほどの恩恵をヴァレンシュタインに与えているはずではありませんか。
7話におけるフェザーンで帝国軍人であるミュラーと秘密の会話を交わしていた件では、そのことを報告しなかったミハマ・サアヤ共々、法的にも政治的にも本来ならばスパイ容疑で処断されても文句は言えない局面でした。
しかしシトレは、それでもヴァレンシュタインを「殺すには惜しい有用な人材」であると考え、彼に本当の同盟人になってもらおうと意図してヴァンフリート4=2への赴任を命じたわけです。
しかも、ヴァレンシュタインの要望に100%応え、大規模な戦力を増強させるという便宜を図ってまで。
それでヴァレンシュタインがヴァンフリート星域会戦を勝利に導き、シトレの意図通りになったかと思いきや、今度は「伝説の17話」で極刑ものの自爆発言を繰り出してしまう始末。
シトレにしてみれば、せっかくヴァレンシュタインを登用し要望まで全部聞いてやったにもかかわらず、自分と同盟の双方に対する裏切りの意思まで表明され憎まれる羽目となったのですから、「あれだけのことをしてやったのに」「自分の方こそ裏切られた」と激怒しても良さそうなものだったのですけどね。
そしてさらに38話では、どう見ても214条発動の緊急避難性を何も証明できていないヴァレンシュタインに対し、わざわざ無罪判決を出してしまうという「贔屓の引き倒し」もはなはだしい茶番&八百長行為すらも堂々とやらかしてくれたシトレ。
これらの過去の経緯を鑑みれば、ヴァレンシュタインはシトレに対し「一生かかっても返せないほどの恩恵を与えてくれた恩人である」と絶賛すらして然るべきはずでしょう。
いくら「神(作者)の奇跡」という絶対的な力の恩恵だからとは言え、異様なまでに理解のあるシトレがヴァレンシュタインを贔屓していなければ、ヴァレンシュタインはとっくの昔に「亡命編」の世界からの退場を余儀なくされていたのは確実なのですから。
にもかかわらず、ヴァレンシュタインは「自分に対する最大の良き理解者」でさえあるはずのシトレにすら、一片の感謝の意も示さないどころか憎悪すらしているときているのですから、その想像を絶する被害妄想狂ぶりにはもう呆れるのを通り越して笑うしかありません。
自分がいかに原作知識や能力とは全く無関係なところから、それも常識ではありえないレベルで恩恵を享受している立場にあるのか、ヴァレンシュタインは一度死んでみないと理解できないのですかねぇ(笑)。

その後、ヴァレンシュタインはシトレに呼ばれ、トリューニヒトとレベロも交えた秘密の会合に参加することになります。
そこでヴァレンシュタインは、自身が初めて原作の流れに介入したアルレスハイム星域会戦以降における政治の舞台裏を知ることになります。
しかし、そこはやはりヴァレンシュタイン、他人を罵り自分を正当化するのは相変わらずのようで↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/43/
> 「彼には正直失望した。あの情報漏洩事件を個人的な野心のために利用しようとしたのだ。あの事件の危険性を全く分かっていなかった」
> トリューニヒトが首を振っている。ワインの不味さを嘆いている感じだな。シトレが顔を顰めた。つまりシトレにも関わりが有る……。
>
> ロボスはあの事件をシトレの追い落としのために利用しようとしたという事か。何をした? まさかとは思うが警察と通じたか? 俺が疑問に思っているとトリューニヒトが言葉を続けた。
>
> 「自分の野心を果たそうとするのは結構だが、せめて国家の利益を優先するぐらいの節度は持って欲しいよ。そうじゃないかね、准将」
> 節度なんて持ってんのか、お前が。持っているのは変節度だろう。
>
> しかし国家の利益という事は単純にトリューニヒトの所に駆け込んでこの件でシトレに責任を取らせ自分を統合作戦本部長にと言ったわけではないな。警察と裏で通じた……、一つ間違えば軍を叩きだされるだろう。となると捜査妨害、そんなところか……。
>
> 「節度がどうかは分かりませんが、国家の利益を図りつつ自分の野心も果たす。上に立とうとするならその程度の器量は欲しいですね」
> 「全くだ。その点君は違う。あの時私達を助けてくれたからね。国家の危機を放置しなかった。大したものだと思ったよ」
>
>
突き落としたのも俺だけどね。大笑いだったな、全員あの件で地獄を見ただろう。訳もなく人を疑うからだ、少しは反省しろ。まあ俺も痛い目を見たけどな。俺はもう一度笑みを浮かべてサンドイッチをつまんだ。今度はハムサンドだ。マスタードが結構効いてる。

「訳もなく人を疑う」も何も、当時のアンタは「帝国への逆亡命計画」などという、他者に露見したら重罪に問われること確実な後ろ暗い陰謀を普通に画策していたのではありませんでしたっけ?
しかもフェザーンでは、同盟側が抱いていたスパイ疑惑をわざわざ裏付けるような軽挙妄動に及んでいましたし、「伝説の17話」では同盟を裏切る意思表示までしていたのですから、同盟側のヴァレンシュタインに対する疑惑は全くもって正しいものだったと言わざるをえないところなのですが。
それを「少しは反省しろ」って、少しどころではなく本当に反省すべきなのは、目先の、それも逆恨みの類でしかない怒りに駆られて軽挙妄動した挙句、結果として自分の「帝国への逆亡命計画」を頓挫させてしまったヴァレンシュタイン自身でしょうに。
「あの時あんなバカな行動に走らなければ…」といった類の自省心を、ヴァレンシュタインは一片たりとも持ち合わせていないのか……とは今更問うまでもなかったですね(苦笑)。
上記引用のほんの少し前では、こんなことを平気で述べてもいたわけですし↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/42/
> 溜息が出る思いだった。発端はアルレスハイム星域の会戦だった。あそこでサイオキシン麻薬の件を俺が指摘した。その事がこの二人を結びつけロボスの失脚に繋がった。何のことは無い、俺が此処にいるのは必然だったのだ。にこやかに俺を見るトリューニヒトとシトレを見て思った、俺も同じ穴のムジナだと……。

ヴァレンシュタインの自業自得な軽挙妄動がなければ「帝国への逆亡命計画」の発動で帝国に帰れたかもしれず、シトレの異常なまでの「贔屓の引き倒し」がなければとっくの昔に処刑されていたことを鑑みれば、42~43話におけるヴァレンシュタインが置かれている状況は必然でも何でもありません。
狂人ヴァレンシュタインの狂気な言動と「神(作者)の奇跡」のコラボレーションによる超怪奇現象、それがこれまでのストーリーから導き出される正しい評価というものでしょう。
そして、そのような異常事態を作中の誰ひとりとして認識できないという事実こそが、この作品の醜悪な本質を表しているものであると言えるのかもしれません。

次回は引き続き、シトレ・トリューニヒト・レベロの3者と会合するヴァレンシュタインの主張を検証していきます。

田中芳樹&垣野内成美の「USTREAM」トークライブ感想

2012年6月5日19時より「USTREAM」で配信された、田中芳樹&垣野内成美トークライブを観賞してみました。
全体的な感想としては「とりあえずは無難に終わらせたなぁ」という感じですかね。
視聴者から募集し採用されていた質問の内容も当たり障りの無いものならば、田中芳樹の遅筆の言い訳も相変わらずなシロモノでしたし。

トークライブの構成内容は、大雑把にまとめてみると、

薬師寺シリーズ9巻「魔境の女王陛下」の簡単な内容紹介

薬師寺シリーズの変遷や雑談

コミック版薬師寺シリーズの今後の予定

著名人からの応援メッセージの紹介

泉田準一郎の恋愛感?についての話

読者から寄せられた質問の公表

田中芳樹&垣野内成美それぞれの今後の仕事の予定について

とまあこんな流れで進行していました。
田中芳樹の発言によれば、元々「魔境の女王陛下」は奥多摩を舞台にしたミステリーにしようとしていたところ、そう考えた頃に自分の構想と全く同じ舞台のミステリー作品が続々と出てきたため、急遽構想をやり直すことにしたのだとか。
なるほど、去年のニコファーレ会談の際に「四章を執筆中」と公言していながら、年末には「一章をお渡しした」と執筆状況がやたら後退していた理由はそれだったというわけですね。
わざわざ書き直しているのであれば、執筆状況が後退するのも当然というわけで。
しかし薬師寺シリーズって、「そもそもミステリーなのか?」という根本的な疑問がまずあるのではないかと思うのですけどねぇ(苦笑)。
作風も、どちらかと言えばホラーアクションコメディ的なノリに近いですし。
確かに薬師寺シリーズが作られる発端となったのはミステリー作品でしたが、薬師寺シリーズのミステリー志向は、1巻「魔天楼」の時点で早々に頓挫していたはずでしょうに。
オカルトに依存している時点で既にミステリーではありませんし、下手にその構図を否定しようとしても、それは作品の世界観に多大な混乱をもたらすだけでしかありません。
この期に及んでまだ薬師寺シリーズのミステリー志向を諦めていなかったのかと、この点はむしろ驚かざるをえませんでしたよ、私は。
巷のミステリー作品と薬師寺シリーズは、どうやってもジャンル的にカブりようがないと思うのですけどねぇ。

あと、読者からの質問コーナーでは、以下のような質問が行われていました。

1.薬師寺シリーズが実写映像化されるとしたら、御二人は誰をキャスティングされますか?
2.歴史上の人物で薬師寺涼子と戦わせてみたい人はいますか?
3.田中芳樹が子供の頃に読んで面白かった本にはどのようなものがありますか? また、オススメの本はありますか?
4.実際に仕事をしてみて、(田中芳樹と垣野内成美の)御二人はそれぞれどのような印象だったか教えてください。

「1」はどう見ても田中芳樹向きの質問ではなく、「2」は質問の意図からして全く意味不明、「3」と「4」もこれまでに刊行された著書にある対談やインタビューなどに既に答えがありそうなシロモノでしかないのですが。
正直、もう少し質問を選ぶべきだったのではないかとは思わずにいられませんでしたね。
そりゃ、「○○の新刊刊行はいつですか?」だの「薬師寺シリーズはスレイヤーズと極楽大作戦のパクリなのですか?」だのといった質問が来ても、田中芳樹的に回答のしようなどないであろうことは分かるのですが(苦笑)。

ただ、薬師寺シリーズの実写映像化については、昨今の映画作品の傾向を見ると意外に可能性があるのでないかとも考えられてしまいますね。
現代日本が舞台な上に警察を前面に出す作品は最近少なくないのでその手の実績も生かせるでしょうし、オカルト部分をCGで再現でもすれば、それほど無理な企画であるようにも見えませんし。
もちろん、昨今の映画化作品と違って原作はとんでもなくクソなのですから、可能な限り原作の設定を改変しまくらないと、せっかくの実写版も余裕でコケるのは最初から全く疑いようもないのですけど(爆)。

薬師寺シリーズの新刊は、地方の情報伝達格差の問題から私が手に入れることになるのはもう少し先のことになりそうですが、果たして一体どんな「ゴミ」な出来になっているのやら(苦笑)。

本日、田中芳樹&垣野内成美トークライブ開催予定

ファイル 648-1.jpg

薬師寺シリーズ9巻「魔境の女王陛下」の表紙が公開されていますね。
いよいよ発売間近のようで↓

http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2012/06/post-b94d.html
>  昨日、講談社の編集さんが事務所にいらっしゃいました。
>  田中さんの新刊『薬師寺涼子の怪奇事件簿 魔境の女王陛下』の見本を届けてくださったのです。
>  じつに
四年半ぶりのお涼さんの新作です。
>
>  写真で、本の両側に置かれているのは、講談社さんが作ってくださった書店さん向けのPOP。ことに右側にあるA4版のモノは、絵が大きく使ってあることもあり、けっこうな迫力です。
>  
『薬師寺涼子の怪奇事件簿 魔境の女王陛下』は、早い書店さんは6月6日に店頭に並ぶのでは、ということ。
>  どうぞよろしくお願いいたします。

たかだかストレス解消ごときに一体何年つぎ込んでいるんだ、と一読者としては言いたいところではあるのですけどね(苦笑)。
公開された表紙を見る限りでは、シベリアが舞台?みたいな情報が載っているみたいですが、どんな形で出てくるのですかねぇ。
これまでの田中作品の傾向を鑑みると、「舞台そのものは日本だが、悪役だか味方だかの術か何かで数万年前のシベリアに飛ばされる」的な展開もありそうですし。
まあ薬師寺シリーズの舞台がどこだろうと、余計な政治評論と「オカルトを否定しながらオカルトに依存する」という図式と「反権力を気取ってブーメラン発言を乱発している権力亡者な女性」という描写の数々がある限り、出てくる新刊が全て駄作になることは最初から約束されているようなものなのですが(爆)。
熊本はいつものごとく3~4日ほど遅れることになりそうですが、個人的にはこれからどんな形で叩き潰すことになるのか、今から楽しみでなりませんね(笑)。

ところで、本日2012年6月5日19:00より、「USTREAM」にて田中芳樹と垣野内成美のトークライブが行われます。
それに伴い、このトークライブで両者に対する質問をTwitter上(とメール)にて募集するという企画が、講談社主催で進行されていました。
質問受付は2012年6月5日0時までとなっており既に終了しているのですが、私もささやかながら田中芳樹に対する質問を作成し送ってみることにしました。
その内容は、以下のようなものとなります↓

https://twitter.com/tanautsunet/statuses/209644961744957441
@kodansha_novels 【田中芳樹に対する質問1】薬師寺涼子や泉田準一郎は今時ネットを全く使いこなせていないようなのですが、今時の20代~30代では極めて珍しい人種に属するのではないかと思います。何故彼らはネットをマトモに使いこなして情報収集等に利用しないのでしょうか?

https://twitter.com/tanautsunet/statuses/209645011501977601
@kodansha_novels 【田中芳樹に対する質問2】数年前、銀河英雄伝説がパチンコ・パチスロに進出するという「事件」がありましたが、「パチンコは警察利権の温床である」と創竜伝の作中に記載していた人のやることだとは思えません。何故パチンコに銀英伝を売り飛ばしたのでしょうか?

https://twitter.com/tanautsunet/statuses/209645062387281920
@kodansha_novels 【田中芳樹に対する質問3】銀河英雄伝説の外伝は6巻完結との公約をかつて行っていたと思うのですが、作者本人が「もう書けない」と述べていたとの非公式な情報が「らいとすたっふ」社長氏のツイートにて発表されています。それは本当に事実なのでしょうか?

「○○の新刊刊行はいつですか?」などという質問はありきたり過ぎる上に、そんなものは「らいとすたっふ」ブログや社長氏のTwitter公式アカウントなどを逐一チェックしていれば分かる程度のことでしかないので、少し捻った質問を考えてみたわけなのですが。
まあ正直、質問が採用される可能性は非常に低いとは思うのですが、まあ意見表明をすること自体に意義がある、ということで(^_^;;)。
「USTREAM」で生中継される田中芳樹&垣野内成美トークライブは、急な用事が入らない限りは私も観賞する予定です。

銀英伝外伝舞台「撃墜王編」の出演キャスト一覧

銀英伝舞台版公式サイトが更新され、銀英伝外伝舞台「撃墜王編」の出演キャストが出揃ったみたいですね。

銀英伝舞台版公式サイト
http://www.gineiden.jp/
銀河英雄伝説 撃墜王篇
http://www.gineiden.jp/gekitsui/
撃墜王篇の出演キャスト一覧
http://www.gineiden.jp/gekitsui/cast.html

「撃墜王編」に出演するキャストは総勢23人。
出演者名と過去の配役については以下の通りです↓

中川晃教 =オリビエ・ポプラン
横尾 渉 = ???
二階堂高嗣= ???
中村誠治郎=イワン・コーネフ
大山真志 =サレ・アジズ・シェイクリ
仲原裕之 =ウォーレン・ヒューズ
岩永洋昭 = ???
三上 俊 =フレーゲル男爵(双璧編)
長澤奈央 =ナオミ、ドーラ/レオノラ(双璧編)
桑代貴明 =ユリアン・ミンツ
川隅美慎 =ビクトル・フォン・クラフト
松村泰一郎=シュテファン・ノイマンの少年期(オーベルシュタイン編)
海宝直人 = ???
内藤大希 = ???
ニコラス・エドワーズ=???
高山猛久 =アンスバッハ(銀河帝国編、双璧編)
川合敏之 = ???
佐藤和久 = ???
深澤英之 = ???
藤咲ともみ= ???
内田羽衣 = ???
大澄賢也 =ムライ
天宮 良 =アレックス・キャゼルヌ

赤文字部分は今回の舞台とは関係ない可能性が高い役柄

23名という人数が公演舞台として多いのか少ないのかは今ひとつ分かりませんが、舞台公演に向けての準備は着々と進んでいるようですね。
「撃墜王編」はアムリッツァから外伝2巻の救国軍事会議クーデター前夜までのストーリーのようですが、果たしてどんな内容になるのやら。
あの辺りのストーリーってヤンも結構出番があるので、ヤンも出てきて良さそうなものなのですが、まあ配役の河村隆一の都合的には無理な話なのでしょうね。
河村隆一は、2012年7月27日に地元熊本の崇城大学ホール(熊本市民会館)でコンサートを行う予定であると、熊本ローカルのFMラジオ局でCMしていましたから↓

http://megalodon.jp/2012-0530-2353-58/www.barks.jp/tickets/?id=118887

「撃墜王編」の舞台公演が2012年8月3日~12日であることを考えると、スケジュール的には確実に不可能なわけで。
まあひょっとすると、特定の日を狙ったサプライズ企画的な顔見せくらいはやるかもしれませんが、出番があるとしてもその程度でしょうねぇ。
ヤンなしであの辺りのストーリーを一体どう捌くつもりなのか、少々疑問ではあるのですが。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察11

エーリッヒ・ヴァレンシュタインは、「本編」の初期の頃から一貫して「弁護士になりたい」という夢を語っています。
何でも、尊敬する(今世の)父親の職業が弁護士だったので、一緒に仕事をしたいというのが元々の理由だったとのこと。
その父親が変死しても「弁護士になりたい」という志望そのものは全く変わらなかったようで、「亡命編」でも同盟で弁護士資格を得るための勉強を行い、弁護士として生計を立てる計画を構想していたりします。
じゃあ何故同盟軍に入ってしまったんだ、とは以前の考察でも述べたことですが、実のところ、そもそもヴァレンシュタインは弁護士としての適性そのものが全く垣間見られない惨状を呈していたりするんですよね。
あの対人コミュニケーション能力の致命的な欠如ぶりと「何が何でも自分は正しく他人が悪い」という自己中心的な思考法は、弁護士のみならず「人付き合い」を重視する全ての職種で諸々の軋轢を引き起こすに充分過ぎるものがあります。
法廷の場でも、自制心そっちのけで依頼主や訴訟相手を罵倒しまくって審議を止めてしまったり、素行不良から法廷侮辱罪に何度も問われたりで、民事・刑事を問わず、裁判自体をマトモにこなすことすら困難を極めるであろうことは最初から目に見えています。
そして何よりも、今回取り上げることとなる38話の軍法会議の様相を見てみると、弁護士のみならず司法に携る者として最も大事なものがヴァレンシュタインには完全に抜け落ちてしまっており、性格面のみならず能力的にもこの手の職種に向いていないことが一目瞭然なのです。
作中で少しも言及すらされていない罪状の数々を前に、三百代言の詭弁にさえなっていない支離滅裂な内容の答弁でもって裁判に勝てるなんて、私に言わせればまさに「神(作者)の奇跡」以外の何物でもないのですが。
それでは、いよいよ第6次イゼルローン要塞攻防戦の締めを飾ることになる、自由惑星同盟軍規定第214条絡みの軍法会議の実態についての検証考察を行っていきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10

第6次イゼルローン要塞攻防戦における214条の発動に伴い、ハイネセンに帰還後、その是非について審議を行うための軍法会議が開廷されることとなりました。
これまで検証してきたように、ヴァレンシュタインは214条発動の件以外でも軍法会議で裁かれるに値する軍規違反行為を引き起こしていますし、214条発動自体、法的な発動条件が整っていたとは到底言い難いものがあります。
ところが作中における軍法会議では、まるで最初からヴァレンシュタインの勝利が確定しているかのような楽勝ムードで話が進行していくんですよね↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「偽りを述べると偽証罪として罰せられます、何事も偽りなく陳述するように」
> 判士長であるシトレ元帥が低く太い声で忠告し、ヴァレンシュタイン大佐が頷きました。私の時もありましたが身体が引き締まった覚えがあります。
>
> 宣誓が終わると早速検察官が質問を始めました。眼鏡をかけた痩身の少佐です。ちょっと神経質そうで好きになれない感じです。大佐を見る目も当然ですが好意的ではありません。何処か爬虫類のような目で大佐を見ています。
>
> 無理もないと思います。これまで開かれた六回の審理では原告側はまるで良い所が有りません。
いずれも皆、ロボス元帥の解任は至当という証言をしているのです。特に “ローゼンリッターなど磨り潰しても構わん! 再突入させよ!” その言葉には皆が厳しい批判をしました。検察官が口籠ることもしばしばです。

この審議過程を見ただけでも、今回の裁判における当事者達全員が「政治の問題」と「法規範の問題」を混同して論じているのが一目瞭然ですね。
この軍法会議で争点となるのは、最前線における214条発動およびロボスの解任強行が「法的に」かつ「緊急避難措置として」妥当なものだったのか、というものであるべきでしょう。
作中で説明されている法の内容に関する説明を見ても、それは明らかです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/29/
> 自由惑星同盟軍規定、第二百十四条……。細かな文言は忘れましたが戦闘中、或いはそれに準ずる非常事態(宇宙嵐、乱気流等の自然災害に巻き込まれた時を含む)において指揮官が精神的、肉体的な要因で指揮を執れない、或いは指揮を執るには不適格だと判断された場合(指揮官が指揮を執ることで味方に重大な損害を与えかねない場合だそうです)、その指揮下に有る部下が指揮官を解任する権利を有するといった内容の条文です。
(中略)
> 第二百十四条が適用された場合、後日その判断の是非を巡って軍法会議が開かれることになります。第二百十四条は緊急避難なのですからその判断の妥当性が軍法会議で問われるのです。軍の命令系統は上意下達、それを揺るがす様な事は避けなければなりません。そうでなければ第二百十四条は悪用されかねないのです。
(中略)
> この第二百十四条が適用されるのは主として陸戦隊が多いと聞いています。凄惨な白兵戦を展開している中で指揮官が錯乱し判断力を失う……。特に実戦経験の少ない新米指揮官に良く起こるそうです。

この立法趣旨から考えれば、あくまでも緊急避難の手段である214条は、その「緊急避難」の内容や是非こそが最も大事なのです。
ロボスがどれだけ無能だろうが失言をやらかそうが、その責任追及は戦闘終結後にいくらでも行える「先送りもやり直しも充分に可能なもの」でしかなく、それだけでは「緊急避難」の要件を満たすものではありえません。
上記引用にもあるように「司令官が発狂した」とか「司令官に明確な軍規違反行為があり、かつそれが味方を壊滅に追いやったり民間人に大被害が出たりする」とかいった事態でもなければ、「緊急避難」としての大義名分になどなりえないでしょう。
ロボスが無能で失言をやらかしたという「総司令官としての責任および政治的問題」と、最前線という場での解任強行についての是非という「法規範の問題」は、本来全く別に分けて論じるべき事案なのです。
また、数百万の艦隊を率いる総司令官という社会的地位と立場、および一会戦毎に最低でも数十万単位の人間が戦死する銀英伝世界の事情から考えると、数で言えば十万もいるかどうかというレベルの陸戦部隊がたとえ全滅したとしても、全体的なパーセンテージから見てそれが「【軍にとっての】重大な損害」であるとは言えません。
ただでさえ、軍における司令官という存在は、軍事的成果を上げるため、自軍の一部に犠牲を強いるような決断を余儀なくされることも珍しくない立場にあります。
それに対して「司令官として不適格」という烙印をいちいち押しまくっていたら、それこそ「一部の犠牲を忌避して全軍瓦解の事態を招く」という本末転倒な「【軍にとっての】重大な損害」を招くことにもなりかねないのです。

「【軍にとっての】重大な損害」というのであれば、むしろ214発動に伴う指揮系統の混乱の方がはるかにリスクが大きいのです。
最前線において指揮系統の混乱の隙を敵に突かれてしまえば、それこそ全軍瓦解の危機に直面することにもなりかねません。
そればかりか、214条発動で取って代わった臨時司令官を他の軍人達が承認せずに「非合法的な軍事クーデター」「反乱軍」と見做し、解任された上位者を担ぎ上げて再度叛旗が翻されるといった事態すらも構造的には起こりえるのです。
前回の考察でも引き合いに出していた映画「クリムゾン・タイド」でも、原子力潜水艦の艦長を解任した副長に不満と不安を抱いた艦長派の軍人達が、監禁状態にあった艦長を解放して担ぎ上げ、武器まで持ち出して副長のところに殴り込みをかけ、あわや一触即発の危機が現出した、という描写が展開されていました。
敵との戦闘が行われている最中、敵の眼前で味方同士が相撃つ事態なんて、それ自体が「【軍にとっての】重大な損害」、最悪は全軍壊滅という結末すらもたらしかねない超危機的状況なのですが。
ごく一部の部隊を救うために「軍事クーデター」紛いのことを引き起こして軍の秩序と指揮系統を混乱させ、全軍瓦解の危機を招くということが、果たして称賛されるべきことなのでしょうか?
すくなくとも、イゼルローン要塞に突入した陸戦部隊以外に所属する大多数の軍人達にとっては、それによって自分の生死が悪い方向へ作用することにもなりかねなかったわけで、むしろ214条発動に対する非難の声が沸き起こったとしてもおかしくないのではないかと思うのですけどね。
軍法会議の当事者達は、そういったリスクまで考えた上で214条発動の妥当性を論じているのでしょうか?
何よりも、214条発動の正しさを信じて疑わないヴァレンシュタインは、「陸戦部隊を救うために陸戦部隊以外の軍人全てを危機に陥れた」という構造的な問題を、果たして自覚できているのでしょうか?
「結果として犠牲が少なかったのだから……」などという言い訳は、こと裁判で有罪無罪の是非を論じる際には全く使えないどころか、むしろ「有罪の立証」にしかなりえないものでしかないのですけどねぇ。

さて、214条発動の妥当性を訴えるヴァレンシュタインの答弁ですが、これがまたありえないレベルで支離滅裂なタワゴトだったりするんですよね(苦笑)。
裁判の場におけるやり取りというよりは、トンチ小僧の一休さんと将軍様OR桔梗屋とのやり取りを髣髴とさせるシロモノでしかないですし↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「ヴァレンシュタイン大佐、貴方とヤン大佐、ワイドボーン大佐、そしてミハマ大尉は総司令部の作戦参謀として当初仕事が無かった、そうですね?」
> 「そうです」
>
> 「詰まらなかった、不満には思いませんでしたか?」
> 「いいえ、思いませんでした」
> 大佐の言葉に検察官が眉を寄せました。
不満に思っているという答えを期待していたのでしょう、その気持ちが二百十四条の行使に繋がったと持っていきたいのだと思います。
>
> 「おかしいですね、ヴァレンシュタイン大佐は極めて有能な参謀です。それが全く無視されている。不満に思わなかったというのは不自然じゃありませんか?」
> ヴァレンシュタイン大佐が微かに苦笑を浮かべました。
>
>
「仕事をせずに給料を貰うのは気が引けますが、人殺しをせずに給料を貰えると思えば悪い気持ちはしません。仕事が無い? 大歓迎です。小官には不満など有りません」
> その言葉に傍聴席から笑い声が起きました。検察官が渋い表情で傍聴席を睨みます。
>
> 「静粛に」
> シトレ元帥が傍聴席に向かって静かにするようにと注意しました。検察官が幾分満足げに頷きながら傍聴席から視線を外しました。そして表情を改めヴァレンシュタイン大佐を見ました。
>
> 「少し発言には注意してください、場合によっては法廷侮辱罪が適用されることもあります」
>
「小官は宣誓に従って真実を話しているだけです。侮辱するような意志は有りません」
> ヴァレンシュタイン大佐の答えに検察官がまた渋い表情をしました。咳払いをして質問を続けます。

ヴァレンシュタインって弁護士志望なのに、法廷侮辱罪がどういうものであるのかすらも理解できていないのですかね?
法廷侮辱罪における「侮辱」とは、裁判所の規則・命令などの違反・サボタージュ行為や裁判および裁判所そのものの権威を害する行為と定義されており、その中には審議を妨害すると判断される不穏当・不適切な言動なども含まれます。
現実世界の諸外国では、ズボンを下げてはく「腰パン」で裁判所に出廷した男が法廷侮辱罪に問われたり、法廷の場でチューイングガムを膨らませて破裂させた男が同じく法廷侮辱罪で禁固30日を言い渡されたりする事例があったりします。
法廷侮辱罪は、法廷の場における非礼・無礼な発言どころか、裁判の内容とは何の関係のないルックスや癖のような行動だけでも、その是非は別にして処罰の対象には充分なりえるわけです。
件のヴァレンシュタインの言動は、法廷の場における非礼・無礼な発言であることはむろんのこと、軍に対するある種の罵倒・誹謗にも該当します。
軍の職務を「人殺しの仕事」と断じ、怠けることを正当化する発言なんて、現代日本ですら非難の対象になるのは、かつての民主党政権における仙谷「健忘」長官の「暴力装置」発言の報道などを見ても一目瞭然です。
ましてや、日本以外の国における軍というのは、国民から一定の尊敬と敬意を払われるのが常なのですからなおのこと、軍に対する誹謗の類は下手すれば人非人的な扱いすら受けても文句が言えるものではないでしょう。
というか、法廷どころか一般的な社会活動やビジネスの場においてさえ、場の秩序を破壊しかねない非礼な言動をやらかせば、その態度を咎められるのは至極当然のことでしかないのですが。
この軍法会議におけるヴァレンシュタインの発言は、ヴァレンシュタイン的に真実を話していようがいまいが、その内容だけで法廷侮辱罪に問われるには充分過ぎるものがあります。
「真実を話しているだけ」「侮辱するような意志は有りません」とさえ言えばどんな非礼な暴言をやらかしても許される、というのであれば、法廷や裁判の内容に不満を持つ者は皆それを免罪符にして法廷を侮辱する諸々の行為をおっぱじめてしまうことにもなりかねないではありませんか。
ヴァレンシュタインは弁護士や法律に関する勉強どころか、「一般的な社会的常識を一から学習し直す」というレベルから人生そのものをやり直した方が良いのではないのでしょうか?

勝利を確信して思い上がっているのか、実は桁外れに危機的な状況に今の自分が置かれている事実に全く気づけていないのか、ヴァレンシュタインの法廷それ自体を侮辱するかのごとき言動はとどまるところを知りません↓

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> 「不謹慎ではありませんか? 作戦参謀でありながら仕事をしないのが楽しいなどとは。その職務を果たしているとは思えませんが?」
> 少し粘つくような口調です。ようやく突破口を見つけた、そう思っているのかもしれません。
>
>
「小官が仕事をすると嫌がる人が居るのです。小官は他人に嫌がられるような事はしたくありません。特に相手が総司令官であればなおさらです。小官が仕事をしないことで総司令官が精神の安定を保てるというなら喜んで仕事をしません。それも職務でしょう」
> そう言うと大佐は僅かに肩をすくめるしぐさを見せました。その姿にまた傍聴席から笑い声が起きました。

これなんて、ヴァレンシュタインのロボスやフォークに対する罵倒や非難や諫言などの一切合財全てが「嫌がらせ」の一環として行われていた、と自分から告白しているも同然のシロモノでしかありませんね(爆)。
ロボスに対するヴァレンシュタインの上官侮辱罪が、軍の秩序や最善を尽くす目的から出たものではなく単なる個人的感情に基づいたものでしかないことを、ヴァレンシュタインは自ら積極的に裏付けてしまっているわけで、これはまた悲惨過ぎる自爆発言以外の何物でもないでしょう。
裁判を舐めきって次から次に墓穴を掘りまくっているはずのヴァレンシュタインに対して、しかし検察官は何故か一層悲痛な面持ちで質問を繰り返すありさまです↓

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> 「十月に行われた将官会議についてお聞きします。会議が始まる前にグリーンヒル大将から事前に相談が有りましたか?」
> 「いいえ、有りません」
> その言葉に検察官の目が僅かに細まりました。
>
> 「嘘はいけませんね、大佐。グリーンヒル大将が大佐に、忌憚ない意見を述べるように、そう言っているはずです」
> 「そうですが、それは相談などではありません。小官が普段ロボス元帥に遠慮して自分の意見を言わないのを心配しての注意です。いや、注意でもありませんね、意見を述べろなどごく当たり前の事ですから」
>
> 検察官がまた表情を顰めました。
検察官も気の毒です、聞くところによると彼はこの軍法会議で検察官になるのを嫌がったそうです。どうみても勝ち目がないと思ったのでしょう。ですが他になり手が無く、仕方なく引き受けたと聞いています。

もし私が件の検察官の立場にいたら「表情を顰め」るどころか、むしろ「勝利を確信した得意満面な笑み」すら浮かべるところですけどねぇ(苦笑)。
何しろこの時点でさえも、ヴァレンシュタインの法廷侮辱罪と上官侮辱罪は既に確定しているも同然であるばかりか、それらが情状酌量の余地すらも皆無なものであることを、当のヴァレンシュタイン自身が自ら積極的に裏付けていっているのですから(爆)。
そして、特に上官侮辱罪の有罪が確定すれば、214条発動の件もそれと関連付けることで、ヴァレンシュタインの正当性、および判事を中心とするヴァレンシュタインに対する心証の双方に大きなダメージを与えることも可能となります。
状況証拠的に見ても、個人的感情から上官侮辱罪をやらかして平然としているような人間が全く同じ動機から214条発動を行わないわけがない、と第三者から判断されても何ら不思議なことではないばかりか、むしろそれが当然の帰結ですらあるのですから。
検察側から見れば、「どうみても勝ち目がない」どころか「(検察側の)負ける要素が全く見出せない」というのが正しい評価なのですけどね、この軍法会議は。

全体的な流れから見れば枝葉末節な部分ばかり論じつつ、しかもそこでさえ、ひたすら墓穴を掘るばかりのヴァレンシュタイン。
既に取り返しのつかない失点を稼ぎまくっているヴァレンシュタインは、しかしその事実を少しも認識すらすることなく、今度は25話でフォークを卒倒させロボスを侮辱した件についての正当性を述べることとなります↓

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> 「大佐はどのように受け取りましたか?」
> 「その通りに受け取りました。将官会議は作戦会議なのです、疑義が有ればそれを正すのは当然の事です。そうでなければ不必要に犠牲が出ます」
> 検察官がヴァレンシュタイン大佐の言葉に一つ頷きました。
>
> 「ヴァレンシュタイン大佐、大佐は将官会議でフォーク中佐を故意に侮辱し、会議を終了させたと言われています。今の答えとは違うようですが」
> 低い声で検察官が問いかけます。勝負所と思ったのかもしれません。
>
> 傍聴席がざわめきました。この遠征で大佐が行った行動のうち唯一非難が出るのがこの将官会議での振る舞いです。私はその席に居ませんでしたが色々と話は聞いています。確かに少し酷いですし怖いと思いました。
>
> 大佐は傍聴席のざわめきに全く無関心でした。検察官が低い声を出したのにも気付いていないようです。穏やかな表情をしています。
>
「確かに小官はフォーク中佐を故意に侮辱しました。しかし将官会議を侮辱したわけではありません。フォーク中佐とロボス元帥は将官会議そのものを侮辱しました」
>
> 「発言には注意してください! 名誉棄損で訴えることになりますぞ!」
> 検察官がヴァレンシュタイン大佐を強い声で叱責しました。ですが大佐は先程までとは違い薄らと笑みを浮かべて検察官を見ています。思わず身震いしました、大佐がこの笑みを浮かべるときは危険です。
>
> 「将官会議では作戦の不備を指摘しそれを修正することで作戦成功の可能性を高めます。あの作戦案には不備が有りました、その事は既に七月に指摘してあります。にもかかわらずフォーク中佐は何の修正もしていなかった。小官がそれを指摘してもはぐらかすだけでまともな答えは返ってこなかった」
> 「……」
>
> 「フォーク中佐は作戦案をより完成度の高いものにすることを望んでいたのではありません。彼は作戦案をそのまま実施することを望んでいたのです。そしてロボス元帥はそれを認め擁護した……」
> 「……」
>
>
「彼らは将官会議を開いたという事実だけが欲しかったのです。そんな会議に何の意味が有ります? 彼らは将官会議を侮辱した、だから小官はフォーク中佐を挑発し侮辱することで会議を滅茶苦茶にした。こんな将官会議など何の意味もないと周囲に認めさせたのです。それが名誉棄損になるなら、どうぞとしか言いようが有りません。訴えていただいて結構です」
>
> 検察官が渋い表情で沈黙しています。名誉棄損という言葉にヴァレンシュタイン大佐が怯むのを期待したのかもしれません。甘いです、大佐はそんなやわな人じゃありません。外見で判断すると痛い目を見ます。外見は砂糖菓子でも内面は劇薬です。

一般的な裁判ではあるまいし、何故ここで出てくる罪名が「名誉毀損」なのでしょうか?
ここで本来出すべき罪名は上官侮辱罪でしょうに。
ロボスに214条を発動しても、ロボスが第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインの上官であるという事実は全く消えることなどないのですし、軍法会議で勝訴しても、それが適用されるのはあくまでも214発動についてのみであり、上官侮辱罪までもが免罪されるわけではないのですが。
民法で定められた名誉毀損や刑法における名誉毀損罪があくまでも「個人」に対するものであるのに対して、軍法における上官侮辱罪は「軍」に対して犯す犯罪行為であるとされており、その意味合いも刑罰も名誉毀損とは全く異なります。
軍に対する犯罪行為を犯した、という時点で、軍法会議におけるヴァレンシュタインの有罪は確定したも同然となってしまうのですけどねぇ(苦笑)。
この軍法会議の場でまたもやロボスに対する罵倒を蒸し返していることも、「上官侮辱罪の現行犯」として普通に不利に働くのですし。
しかも前述したように、上官侮辱罪が確定してしまったら、それが214条発動の件とも関連付けられるのは確実なのですから、なおのことヴァレンシュタインは進退窮まることになってしまうのですが。
そして、ロボスやフォークが将官会議を侮辱していたという事実が正しいとしても、その行為自体は何ら軍法に抵触するものではないのに対して、ヴァレンシュタインの上官侮辱罪は完全無欠な軍規違反行為です。
すくなくとも法的に見れば、裁かれるべきは上官侮辱罪を犯したヴァレンシュタインただひとりなのであり、ロボスやフォークの行為は何ら問題となるものではないのです。
ロボスやフォークの行為が「政治的・軍事的」に問題があるからといって、自身の「法的な」違反行為が免罪されるとでも思っているのでしょうか?
それこそ、法律を何よりも重視すべき弁護士が一番陥ってはならない陥穽でもあるはずなのですけどねぇ(笑)。

読者の視点的には自滅と奈落への道をひたすら爆走しているようにしか見えないのに、当のヴァレンシュタインは逆に勝利を確信すらしており、むしろここが勝負どころとばかりに、214条発動の正当性を訴え始めます。
しかし、その弁論内容がまた何とも笑えるシロモノでして↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「フォーク中佐は健康を損ねて入院していますが……」
> 「フォーク中佐個人にとっては不幸かもしれませんが、軍にとってはプラスだと思います」
> 大佐の言葉に傍聴席がざわめきました。酷いことを言っているというより、正直すぎると感じているのだと思います。
>
> 「検察官はフォーク中佐の病名を知っていますか?」
> 「転換性ヒステリーによる神経性盲目です……」
> 「我儘一杯に育った幼児に時としてみられる症状なのだそうです。治療法は彼に逆らわないこと……。
彼が作戦を立案すると誰もその不備を指摘できない。作戦が失敗しても自分の非は認めない。そして作戦を成功させるために将兵を必要以上に死地に追いやるでしょう」
>
> 法廷が静まりました。隣にいるシェーンコップ大佐も表情を改めています。
>
「フォーク中佐に作戦参謀など無理です。彼に彼以外の人間の命を委ねるのは危険すぎます」
> 「……」
>
>
「そしてその事はロボス元帥にも言えるでしょう。自分の野心のために不適切な作戦を実施し、将兵を無駄に戦死させた。そしてその現実を認められずさらに犠牲を増やすところだった……」
> 「ヴァレンシュタイン大佐!」
> 検察官が大佐を止めようとしました、しかし大佐は右手を検察官の方にだし押さえました。
>
> 「もう少し話させてください、検察官」
> 「……」
>
「ロボス元帥に軍を率いる資格など有りません。それを認めればロボス元帥はこれからも自分の野心のために犠牲者を増やし続けるでしょう。第二百十四条を進言したことは間違っていなかったと思っています」
>
>
この発言が全てを決めたと思います。検察官はこれ以後も質問をしましたが明らかに精彩を欠いていました。おそらく敗北を覚悟したのでしょう。

……あの~、犯罪者の自己正当化よろしくヴァレンシュタインがしゃべり倒した一連の発言の一体どこに、「(軍法会議の帰趨を決するだけの)全てを決めたと思います」と評価できるものがあるというのでしょうか?
ヴァレンシュタインが長々と主張していたのは「ロボスやフォークの軍人としての無能低能&無責任」だけでしかなく、それだけで「214条発動を正当化しえるだけの緊急避難性を有する」とは到底判断しえるものではないのですが。
何度も言っていますが、ロボスやフォークが無能低能&無責任というだけであれば、戦闘が終わってハイネセンに帰還してから改めてその責を問うという方針でも、何ら問題が生じることはありえません。
ロボスが総司令官であることを鑑みれば、最前線の陸戦部隊が仮に壊滅したとしても、全軍の規模からすればその損害も微々たるものでしかない以上、緊急避難としての要素を満たすものとは到底なりえず、これまた戦後に責任を追及すればそれで足りることです。
そもそも、当のヴァレンシュタイン自身、第6次イゼルローン要塞攻防戦時におけるロボスが、遠征軍全てを壊滅状態に追い込むほどの状態にあるとまではさすがに断じえておらず、最悪でもせいぜい陸戦部隊の壊滅に止まるという想定が関の山だったはずでしょう↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> 問題は撤退作戦だ。イゼルローン要塞から陸戦隊をどうやって撤収させるか……。いっそ無視するという手もある。犠牲を出させ、その責をロボスに問う……。イゼルローン要塞に陸戦隊を送り込んだことを功績とせず見殺しにしたことを責める……。
>
> 今日の会議でその危険性を俺が指摘した。にもかかわらずロボスはそれを軽視、いたずらに犠牲を大きくした……。
ローゼンリッターを見殺しにするか……、だがそうなればいずれ行われるはずの第七次イゼルローン要塞攻略戦は出来なくなるだろう。当然だがあの無謀な帝国領侵攻作戦もなくなる……。トータルで見れば人的損害は軽微といえる……。

ヴァレンシュタイン御用達の原作知識とやらから考えても、アムリッツァの時はともかく、第6次イゼルローン要塞攻防戦当時のロボスにそれ以上のことなどできるはずがないであろうことは、さすがのヴァレンシュタインといえども認めざるをえなかったわけでしょう。
そして、214条の立法趣旨から言えば、ロボスが総司令官の職にあることで遠征軍それ自体が壊滅レベルの危機に直面する、もしくはロボスに重度の精神錯乱ないしは重大な軍規違反行為が認められ総司令官としての任務遂行それ自体に多大な支障をもたらす、といった事態でもない限り、「214条発動を正当化しえるだけの緊急避難性を有する」とは雀の涙ほども断じられるものではありません。
ましてや、214条の発動それ自体が全軍に混乱をもたらしかねない極めて危険な要素があることを考えればなおのこと、その危機的状況をすらも上回る、それも「一刻を争う」「やり直しも先送りも全くできず、その場での決断を余儀なくされる」レベルの超緊急避難性を、ヴァレンシュタインが軍法会議で主張しなければならないのは自明の理というものです。
この「214条発動を正当化しえるだけの緊急避難性」について、軍法会議におけるヴァレンシュタインは実質的に何も主張していないも同然なのです。
自らの正当性について何も主張していないのに、それが何故「(軍法会議の帰趨を決するだけの)全てを決めたと思います」という話になってしまうのでしょうか?

というか、一連のやり取りを見ていると、ヴァレンシュタインはただ単に「ロボスやフォークに対する自分の印象や評価」を述べているだけでしかなかったりするんですよね。
原作知識があるとは言え、個人的な印象や評価が最悪だから軍法を悪用した緊急避難措置を行っても許される、と言わんばかりなわけです。
これって原作「銀英伝」における救国軍事会議クーデターや、戦前の日本で5・15事件や2・26事件を引き起こした青年将校達の論理と、根底の部分は全く同じであるとしか言いようがありませんね。
当のヴァレンシュタイン自身が常に抱いている「自分は絶対に正しく他人が悪い」という独善的な発想からして、「我々は理想や大儀があるから絶対に腐敗などしない!」などとほざいていた救国軍事会議クーデターの面々に通じるものがあるのですし(笑)。
そう考えると、他に担ぎ上げる人物がいなかったとは言え、グリーンヒル大将を押し立てて214条を発動させるというヴァレンシュタインのやり方それ自体が、形を変えた救国軍事会議クーデターそのものであるとも言えるわけで、何とも皮肉な限りではありますね(苦笑)。
ひょっとするとヴァレンシュタインは、原作における救国軍事会議クーデターが実は正しいものであると信じていて、彼らの主張に共感したりしていたのでしょうか?
まあ、文字通りの「自制心がなく常に暴走する青年将校」という点で共通項があるわけですから、好悪いずれにせよ感情的な反応を示さない方がむしろ不思議な話ではあるのかもしれませんが(爆)。
これでヴァレンシュタインが、原作における救国軍事会議クーデターの構成メンバーを罵倒しまくっていたりしていたら、なかなかに面白い同族嫌悪・近親憎悪な構図であると言わざるをえないところですね(笑)。

ここまで主張に穴がありまくり過ぎる上に、214条の正当性について何も述べていないに等しいヴァレンシュタインに対して、しかし何故軍法会議は無罪判決なんて下してしまうのでしょうかねぇ。
214条発動の件とは別に総司令官としての責任が問われる立場にあるロボスはともかく、ヴァレンシュタインが無罪というのはどう考えてもありえない話なのですが↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 軍法会議が全ての審理を終え判決が出たのはそれから十日後の事でした。グリーンヒル参謀長とヴァレンシュタイン大佐は無罪、そしてロボス元帥には厳しい判決が待っていました。
>
> 「指揮官はいかなる意味でも将兵を己個人の野心のために危険にさらす事は許されない。今回の件は指揮官の能力以前の問題である。そこには情状酌量の余地は無い」

「亡命編」38話時点において、ヴァレンシュタインが犯した軍規および法律に対する違反行為というのは、実にこれだけのものがあったりするんですよね↓

1.フェザーンにおける帝国軍人との極秘接触スパイ容疑、国家機密漏洩罪)
2.ヴァンフリート星域会戦後の自爆発言スパイ容疑、必要な情報を軍上層部に対し隠匿し報告しなかった罪、国家反逆罪
3.ロボスに対する罵倒上官侮辱罪
4.214条発動(敵前抗命罪、党与抗命罪)【審議中】
5.イゼルローン要塞における敵前交渉上層部への確認を行わない独断専行、スパイ容疑、国家機密漏洩罪、国家反逆罪)
6.軍法会議における一連の言動法廷侮辱罪、上官侮辱罪

赤文字部分は事実関係から見ても無罪とは言えない嫌疑、またはヴァレンシュタイン自身が認めている罪。

作中におけるヴァレンシュタインが実際にどんな行動を取っていたかはともかく、同盟側としては状況から考えてこれだけの行為から想定される罪を嫌疑し起訴することが、理論的には充分に可能なわけです。
そして「1」「2」「3」「6」、および「5」の独断専行については、当の本人が自ら積極的に事実関係を認めてしまっているのですから、それで無罪になるということはありえません。
これだけの「前科」があるのであれば、「4」の214条発動についても、その「前科」の存在だけでまず動機が関連付けられることになってしまいますし、特に「2」で同盟に対する裏切りの意思を表明しているのは致命傷とならざるをえないでしょう。
元々「2」単独でも、ヴァレンシュタインを処刑台に送り込むには充分過ぎる威力を誇っていますし(苦笑)。
しかも最高判事であるシトレは、このヴァレンシュタインが犯した1~6の罪状を全て知り尽くしているはずなのですから、「法の公正」という観点から見てもなおのこと、ヴァレンシュタインに対して手心を加えたりなどしてはならないはずなのですが。
これで無罪になるというのは、もはやこの軍法会議それ自体が、実は軍法に基づかない「魔女裁判」「人民裁判」的な違法かつ茶番&八百長なシロモノであるとすら評さざるをえないところなのですが。
そこまでしてヴァレンシュタインに加担などしなければならない理由が、同盟軍の一体どこに存在するというのでしょうか?

また、ここでヴァレンシュタインの214条発動行為を合法として認めてしまうと、それが「判例」として成立してしまい、以後、この軍法会議の審議と判決を錦の御旗にした214条の発動が乱発される事態をも引き起こしかねません。
何しろ、個人的な評価に基づいて「あいつは無能低能&無責任である」と断じさえすれば、それが214条発動の法的根拠たりえると言っているも同然なわけなのですからね(爆)。
今後の同盟で、上官との人間関係が最悪で常に自分の意見を却下されている部下が、私怨的な理由から上官に対する214条発動を行使することなどないと、一体誰が保証してくれるというのでしょうか?
裁判における「判例」というものは、判決が下った1案件だけでなく、今後発生しえるであろう同様のケースにも適用されるものとなりえるのですから。
何よりも、同盟軍においてこの「判例」が真っ先に適用されそうな人間は、他ならぬヴァレンシュタイン自身だったりするのですし(爆)。
極端なことを言えば、フォークのような部下がヴァレンシュタインのごとき上位者に対して「あいつは無能低能&無責任である」として214条を発動したとしても、それが他者から支持されるか否かは別として法的・判例的には妥当であると見做される、などという滑稽な事態すらも将来的には招きかねないのです。
ヴァレンシュタインも一応弁護士志望だったのであれば、そして何よりも「自分が生き残る」ということを最優先目標としているのであれば、他ならぬ自分自身が作り上げてしまった「判例」が自分に跳ね返ってくる危険性を、否が応にも見据えていなければならなかったはずなのですけどねぇ。

この軍法会議におけるヴァレンシュタインの最大の問題は、「結果さえ出せれば軍規違反は正当化される」という致命的な勘違いに基づいて弁論を繰り広げていることにあります。
結果さえ出せれば過程は問われない、というのは政治に対する考え方なのであって、裁判の場ではむしろ全く逆に「過程が全て」「法律が全て」という発想で臨まなければなりません。
裁判の場において「結果を出したのだから良いじゃないか」と主張する行為は、その時点で法律違反や有罪を自分から認めているも同然であり、「戦わずして敗北している」のと何も変わるところがないのです。
裁判の場における「政治的結果」というのは、自分の罪を認めた上での情状酌量を求めるためのものでしかありえないのですから。
最初から有罪・敗訴を前提として答弁を繰り広げるなんて、弁護士の法廷戦略としては最低最悪の手法以外の何物でもありません。
その最低最悪の手法について何の疑問も嫌悪も抱くことなく、むしろ得意気になって振り回したりしているからこそ、ヴァレンシュタインに弁護士としての適性は全くないと私は評さざるをえないわけです。
今回の軍法会議でも、ヴァレンシュタインは「法的な問題」について結局何も主張していないも同然の惨状を呈していたのですし。
弁護士としてのヴァレンシュタインは、現実世界で言えば、殺人容疑の被告に対し「ドラえもんが助けてくれると思った」などと主張する行為を許したトンデモ人権屋弁護士と同レベルな存在であると言えるのではないでしょうか?

あと、今回の軍法会議における描写は、ヴァレンシュタインの弁論術とロボスに対する圧倒的優勢ぶりを際立たせることを目的に、「神(作者)」がヴァレンシュタインにとって都合の悪い罪の数々を意図的に触れさせないようにしているのがありありと見受けられますね。
軍法的には、フォークへの侮辱よりもロボスへのそれの方がはるかに重大事項であるにもかかわらず、そちらの方はおざなりな言及しかされていませんし。
他にも、前回の考察で言及した敵前交渉の決定・実行における独断専行やスパイ容疑などの件についても、法的どころか政治的な観点から見てさえも多大な問題を抱えこんでいながら、そちらに至っては一言半句たりとも言及すらされていない始末です。
まあ下手にそれらの罪を検察官が指摘してしまおうものならば、その時点で軍法会議におけるヴァレンシュタインの有罪が確定してしまうのでやりたくてもやれなかった、というのが実情ではあるのでしょうが、おかげさまでストーリー展開としてはあまりにも不自然極まりないシロモノとなってしまっています。
検察官が創竜伝や薬師寺シリーズの三流悪役ばりに無能過ぎて、およそ現実的にはありえない存在に堕していますし、前述のように裁判自体も恐ろしく茶番&八百長的な印象が拭えないところです。
作者的には、この一連の描写でヴァレンシュタインの正当性と強さを読者に見せつけたかったところなのでしょうが、最大限好意的に見ても「釣り」の類にしかなっていないですね。
主人公の有能性と人格的魅力(爆)をこんな形でしか描けない、というのは、作品および作者としての限界を示すものでもあると言えるのではないでしょうか?

次回より、第6次イゼルローン要塞攻防戦終結以降の話の検証へ移ります。

薬師寺シリーズ9巻「魔境の女王陛下」刊行記念トークライブ情報

薬師寺シリーズ9巻「魔境の女王陛下」の発売を記念して、作者の田中芳樹とイラストレーターである垣野内成美女史のトークライブが、2012年6月5日19時よりUstreamで生放送配信されるとのことです。
さらに、講談社の公式Twitterアカウント「https://twitter.com/kodansha_novels」にて、トークライブ時に両者に対して行う質問や意見も募集するのだそうで↓

http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2012/05/ustream-de9c.html
>  6月7日、田中さんの新刊『薬師寺涼子の怪奇事件簿 魔境の女王陛下』が発売されるわけですが、その発売を記念して、6月5日(火)19時より、田中さんと垣野内成美さんのトークライブが開催されます。
>  このトークライブは、講談社の社屋で行われるそうですが、なんと
今回はUstreamを使って生放送してしまうとのこと。なんというか、時代はどんどん進んでいるのですねぇ。

http://www.bookclub.kodansha.co.jp/kodansha-novels/1205/news5/
> 質問募集中!
>
>
田中芳樹氏、垣野内成美氏への質問は
>
Twitterの @kodansha_novels までリプライ(返信)されるか、
>
makyo-oryo@kodansha.co.jpまでお送りください。
> 質問の受付は6月5日(火)0時までです。

数日前にも似たようなことを社長氏は述べていましたが、結局またニコファーレの二番煎じをやるわけですね。
銀英伝ならばともかく、薬師寺シリーズごときで質問にバリエーションが出てくるとも思えないのですが。
それ以前に、都合の悪い意見はこれまでの傾向を鑑みても当然のことながら検閲して取り除きにかかるでしょうし、何だか当たり障りのない意見しか出てこない感が多々あるのが何とも言えないところで(-_-;;)。
Ustreamならば私も観賞できますし、話のネタにでも観てみましょうかね。

薬師寺シリーズ9巻「魔境の女王陛下」の発売日が判明

薬師寺シリーズ9巻「魔境の女王陛下」の正式発売日が、2012年6月7日であることが判明しました。

http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2012/05/post-98c6.html
>  昨日、講談社の編集さんが来社され、『薬師寺涼子の怪奇事件簿』新刊の原稿について、田中さんに最終の確認作業をしておりました。垣野内さんから素敵なイラストも届き、6月7日の発売に向けて、着々と準備が進んでいるようです。
>  今回の新刊発売に際して、講談社さんはいくつかのイベントを考えていらっしゃるようす。
>  
ゲストをお招きして田中さんと対談をしていただき、それをネットで中継する。なんていう面白い企画も提案書に書いてありました。実現すれば面白いですね。そういうときは、事前に皆さんに質問を寄せていただき、田中さんに答えてもらうなんてのも面白いかも知れません。

まあ熊本の場合、書籍は正式の発売日から3~4日ズレて入荷するのが常態なので、発売日当日に入手するのは難しいのですが(T_T)。
前巻「水妖日にご用心」から実に4年半近くもの時間をかけて、ようやく新刊のお出ましということになるのですが、何とまあずいぶんと長い「ストレス解消」であったことか(苦笑)。
それに見合う内容であればまだ救いもあるのですが、アルスラーン戦記やタイタニアなどであればともかく、創竜伝や薬師寺シリーズではねぇ……。
新刊の発売に伴い、タナウツ本家の考察シリーズも久々に再稼動の時を迎えることとなりますが、一体どんなことになるのやら。

ところで講談社の提案とやらですが、田中芳樹の対談のネット中継って、去年配信されたニコファーレ生放送で既に先例があるんですよね。
読者からの質問を寄せてもらうという企画にしてもこれまたニコファーレで行われていますし、同じことをやっても二番煎じにしかならないでしょう。
第一、質問を募集したって「○○の続きはマダ~?」的なものが大多数を占めるでしょうし、そもそも「らいとすたっふ」による検閲があることも確実なのですから。
本当に読者の生の声が聞きたいのであれば、それこそニコファーレのような生放送に拘るべきでしょうし、「らいとすたっふ」的にそれは難しいものがあるでしょうね。
薬師寺シリーズ絡みの企画としては、販売記念のサイン会がやはり妥当なところなのではないかなぁ、と個人的には思えてならないのですが。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察10

「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察も、いつのまにやら10回目の節目を迎えることとなりました。
出てくる度に被害妄想狂ぶりを発揮しまくり、フォークやロボスばりの自己中心的な態度に終始する狂人ヴァレンシュタインの言動にあまりにもツッコミどころが多すぎ、その対処にひたすら追われているがために、10回目到達時点での話数消化はようやく30話に届いたかどうかという遅々とした状況にあります(T_T)。
当初の予定では、もうとっくに最新話まで追いついていたはずなのですが……(-_-;;)。
ここまでヴァレンシュタインの言動で問題が頻出し醜悪極まりないシロモノにまで堕しているのは、結局のところ「自分を特別扱いし過ぎる」という一点に尽きるでしょう。
ヴァレンシュタインが他者を批判する際、彼は「その批判が自分自身にも当てはまってしまうのではないか?」ということを全く考えすらもしないんですよね。
自分の足元を固めずに相手を罵り倒すことにばかり傾倒するものだから、相手に対する非難や罵倒がブーメランとなってそっくりそのまま自分自身に跳ね返ってきてしまい、あっという間にボロを出す羽目となってしまうわけです。
「亡命編」におけるロボスやフォークに対するヴァレンシュタインの批判内容なんてまさにその典型例ですし、攻撃に特化し過ぎて防御がおろそかになっている以外の何物でもありません。
自分が批判すらも許されない神聖不可侵にして絶対の存在だとでも考えていない限り、こんな愚行をやらかすはずもないのですけどねぇ。
本当に強い理論というのは、批判対象と同様に自分自身をも含めた他の事象にも適用しうるか、あるいは「場面毎に主張が変わる具体的な理由」を万人に明確に提示することを可能とする「一貫性のある論」なのであって、それができないダブスタ&ブーメラン理論などは愚の骨頂もはなはなだしいでしょうに。
他者を批判する前に自分の襟を正し、自分の言動が自分自身に適用されないよう配慮する、ということを行っていくだけでも、今のヴァレンシュタインの惨状はかなり改善されるのではないかと思えてならないのですがね。
まあ、そんなことは太陽が西から上るがごとく、最初から不可能な話ではあるのですが(爆)。
では今回も引き続き、第6次イゼルローン要塞攻防戦における狂人ヴァレンシュタインの狂態ぶりを見ていきましょう。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-604.html(その6)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-608.html(その7)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-614.html(その8)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-625.html(その9)

自分から上官侮辱罪をやらかして総司令部の雰囲気を悪戯に悪化させたにもかかわらず、そのことに対する反省もなしに全ての責任をロボスに擦りつけるヴァレンシュタインは、帝国軍から逆襲されて作戦が潰えた後も、勝算もないままに陸戦部隊の再突入を強硬に命じたロボスに対し、自由惑星同盟軍規定第214条という実力行使に出ることをグリーンヒル大将に発案します。
「亡命編」のオリジナル設定である自由惑星同盟軍規定第214条とは、部隊の指揮官が錯乱状態などに陥りマトモな戦闘指揮が行えなくなった際に、次席の人間がその指揮官を排除してその指揮権を引き継げることを可能とする法です。
これを読んで個人的に思い出したのは、1995年公開の映画「クリムゾン・タイド」ですね。
この映画では、通信機の損傷により外部との連絡が途絶した原子力潜水艦の中で、途中まで送られていた暗号文の解釈を巡り、ただちに(核?)ミサイルを発射して先制攻撃すべきという艦長と、まずは通信内容の確認を行うべきだとする主人公の副長が対立し、独断で攻撃を強行しようとする艦長に対し、副長が指揮権剥奪を宣告し拘束させるという場面があります。
このケースでは、艦長に対して「通信の確認を行わずに攻撃を行おうとした」「攻撃には副長の同意も必要なのにそれを無視しようとした」という軍規違反の口実が使えましたし、下手すれば無辜の市民が虐殺されたり第三次世界大戦が勃発したりしかねないような状況でもあり、誰もが時間に追われ決断を迫られる極限状態にもありました。
この映画のラストでも軍法会議が開かれ潜水艦内での問題が審議されたのですが、裁判の場でも「どちらが全面的に正しい&間違っているとは言えない」という流れと結論に終始していました。
もっとも最終的には、年配の艦長が副長に後事を託し引退することで主人公の正しさを認める、という形で終わっていましたが。
軍内でこのような対立が起こったり、あまつさえ下位の人間が上官から権限を剥奪したりするというのはそれ自体が大変な問題行為でもあり、だからこそ、214条のような規定は乱用されないようにすべきものでもあるわけです。

しかし今回の場合、そもそもロボスは同盟軍の軍規に違反したり自軍に多大な損害を与えたりする一体どんな行為を行っていたというのでしょうか?
確かにロボスは、自身のメンツにこだわって勝算も成功率も皆無としか言いようのない無謀な命令を繰り出してはいましたし、「ローゼンリッターなど磨り潰しても構わないから再突入させろ!」とまでのたまってはいました。
それは確かに味方の損害を増やす愚行であったことは間違いないのですが、しかし総司令官としてそのように命じること自体は何ら軍規に違反する行為ではありません。
また、仮にイゼルローン要塞に突入したローゼンリッターどころか陸戦部隊の多くが壊滅状態になったとしても、それで全軍が瓦解するわけではなく、すくなくとも艦隊決戦に比べれば、全体から見た損害も微々たるもので済みます。
極端なことを言えば、いざとなれば陸戦部隊を切り捨てて撤退しても、軍の維持という点では大きな問題は発生しようもなかったわけです。
もちろん、陸戦部隊を身捨てる立場となるロボスが、後日に総司令官として相応の責任が問われ糾弾されることになるのは確実でしょうが、それをもって軍規違反に問うたり精神錯乱の疑いをかけたりすることは不可能なのです。
むしろロボスの場合は、軍規通りに総司令官として振舞った結果がああだったわけで、その点でロボスに軍法違反の容疑で解任を迫るというのは無理筋もいいところでしょう。
ここでロボスがさらに狂気に走って同盟全軍にイゼルローン要塞への特攻を命じる、といったレベルにまで至れば、さすがに214条の発動にもある程度の正当性が出てくるかもしれませんが、あの状況では「最悪でも陸戦部隊の壊滅だけで事は収まる」可能性の方が高いのです。
原作の第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるロボスの言動を見ても、その辺りを落としどころにする可能性は大なのですし、他ならぬヴァレンシュタイン自身もそう考えていたはずでしょうに。
むしろ、214条発動に伴う混乱の隙を突かれる危険性の方が問題と言えるものがあります。
指揮系統が混乱しているところに敵の攻撃を受ければ、それこそ全軍が瓦解する危機を自ら招きかねないのですから。
遠征軍全体から見れば最大でも数%程度しかいない陸戦部隊の危機を救うために、全軍を危機に晒す必要があの状況で果たしてあったのでしょうか?
これらのことから考えると、あの場面で214条発動の条件が整っていたとは到底言い難いものがあります。
ロボス個人が無能低能であることと、軍法に基づいた行動を取り軍の秩序を守ることは全く別のカテゴリーに属する話であり、それを一緒くたにして断罪すること自体に無理があり過ぎるのです。

かくのごとく問題だらけの214条発動を、例によって例のごとく自らの実力ではなく神(作者)の介入によって御都合主義的に切り抜けてしまったヴァレンシュタインは、ロボスを放逐した後に陸戦部隊救出のための指揮を取り、味方の撤退を見届けるべくイゼルローン要塞内の最前線に最後まで留まることを自ら志願します。
ロボスに代わって臨時の総司令官となったグリーンヒル大将は、「毒を食らわば皿まで」と言わんばかりにそれを承認し、かくしてヴァレンシュタインはイゼルローン要塞の最前線へと向かうこととなるのでした。
最前線に到着したヴァレンシュタインは、まずは最前線の指揮官が誰であるのかを捕虜に問い質し、オフレッサー・リューネブルク・ラインハルトの3者であるとの回答を得ます。
必要な情報を得たヴァレンシュタインでしたが、捕虜の中に自身の旧友であるギュンター・キスリングがいることを確認し驚愕。
何故彼が負傷した状態でここにいるのか熟考するヴァレンシュタインに不審を抱いた捕虜のひとりが、以下のような行動に出ることとなるのですが……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/32/
> 「あんた、エーリッヒ・ヴァレンシュタイン大佐か?」
> いつの間にか思考の海に沈んでいたらしい。気が付くと体格の良い男が俺が絡むような口調で問いかけてきていた。
>
> 「……そうです」
> 俺が答えるのと同時だった。そいつが吠えるような声を上げていきなり飛びかかってきた。でかいクマが飛びかかってきたような感じだ。
>
> しゃがみこんでそいつの足に荷電粒子銃の柄を思いっきり叩きつけた。悲鳴を上げて横倒しにそいつが倒れる。馬鹿が! 身体が華奢だから白兵戦技の成績は良くなかったが、嫌いじゃなかった。舐めるんじゃない。お前みたいに向う脛を払われて涙目になった奴は一人や二人じゃないんだ。
>
> 立ち上がって荷電粒子銃をそいつに突きつける。他の二名は既にローゼンリッターの見張りが荷電粒子銃を突きつけていた。
> 「ヴァレンシュタイン大佐! 大丈夫ですか!」
> 「大丈夫ですよ、リンツ少佐」
>
> 「貴様、一体どういうつもりだ! 死にたいのか!」
> リンツが体格の良い男、クマ男を怒鳴りつけた。
> 「う、うるせえー。ヴァンフリートの虐殺者、血塗れのヴァレンシュタイン!俺の義理の兄貴はヴァンフリート4=2でお前に殺された。姉は自殺したぜ、この裏切り者が!」
>
> クマ男の叫び声に部屋の人間が皆凍り付いた。
姉が自殺? こいつもシスコンかよ、うんざりだな。思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキはうんざりだ。どうせ義兄が生きている時は目障りだとでも思っていたんだろう。
>
> 「ヴァンフリートの虐殺者、血塗れのヴァレンシュタインですか……。痛くも痒くも有りませんね」
> 俺はわざと声に笑みを含ませてクマ男に話しかけた。周囲の人間がギョッとした表情で俺を見ている。クマ男は蒼白だ。
>
> 「き、貴様」
>
「軍人なんです、人を殺して何ぼの仕事なんです。最高の褒め言葉ですね。ですが私を恨むのは筋違いです。恨むのならヴァンフリート4=2の指揮官を恨みなさい。部下の命を無駄に磨り潰した馬鹿な指揮官を」
>
> その通り、戦場で勝敗を分けるのはどちらが良い手を打ったかじゃない。どちらがミスを多く犯したか、それを利用されたかだ。
敵の有能を恨むより味方の無能を恨め。今の俺を見ろ、ウシガエル・ロボスの尻拭いをしている。馬鹿馬鹿しいにもほどが有るだろう。
>
> 「裏切り者は事実だろう!」
> 笑い声が聞こえた、俺だった。馬鹿みたいに笑っている。笑いを収めて蒼白になっているクマ男に答えた。
>
「私が裏切ったんじゃありません、帝国が私を裏切ったんです。恥じる事など一つも有りません」

……ここまで「夜郎自大」という言葉の生きた見本みたいな人間は初めて見ましたよ、私は。
だいたい、ヴァンフリートで義兄が戦死し姉が自殺したことに憤ることが「シスコン」かつ「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」って、一体どこをどうすればそんな論理が出てくるというのでしょうか?
「シスコン」であろうがなかろうが、家族を殺されて憤らない人なんて相当なまでの少数派ですし、その正当な怒りが「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」とまで罵られなければならないシロモノなどであるわけないでしょうに。
こんな論理が成立するのであれば、今世の両親を殺され仇を討つことを決意したヴァレンシュタインは「ファザコン&マザコン」で「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」ということになってしまうではありませんか(爆)。
もちろん、ヴァレンシュタインが「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」であること自体は疑問の余地など全くない厳然たる事実ではあるのですが(笑)、しかしそれは別に今世の両親が非業の死を遂げたからでも、そのことにヴァレンシュタインが怒りを覚えたからでもありません。
自分自身のことを全く顧みることなく、後先考えずに目先の感情的な罵倒にばかり熱中してダブスタ&ブーメランな言動ばかり披露する行為の数々と、それらの言動を行うことに何ら矛盾や羞恥を自覚することすらもない厚顔無恥な思い上がりこそが、ヴァレンシュタインが「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」と評される由縁なのですから。
さらに語るに落ちているのは、もし自分が襲撃者と同じ立場にあったら、襲撃者が自分に対して述べた罵倒と同じことを言うであろうことを、当のヴァレンシュタイン自身がはっきりと述べていることです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/37/
> “ヴァンフリートの虐殺者”、“血塗れのヴァレンシュタイン” クマ男の声を思い出す。憎悪に溢れた声だった。ヴァンフリートで帝国人を三百万は殺しただろう、そう言われるのも無理は無い。俺がクマ男の立場でも同じ事を言うはずだ。

同じ立場であれば、同じことを言うだけでなく襲撃もするでしょう、ヴァレンシュタインの性格ならば(笑)。
何しろ、忍耐心とか我慢とかいった概念が全くない上に嗜虐性と他罰主義に満ち溢れた「キレた少年」「ブラック企業経営者」のごとき破綻だらけな性格をしているのですからね、ヴァレンシュタインは。
周囲も後先も考えずに暴走したことも一度や二度ではないですし、「本編」でヤンに謀略を仕掛けられた際の対応を見ても、「敵の有能を恨むより味方(自分)の無能を恨」むなどという、ある意味謙虚な行為などするはずがないのですし。
となるとヴァレンシュタインは、自身がまさに襲撃者と同じく「ファザコン&マザコン」で「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」でしかないことを、他ならぬ自分自身で認めてしまっていることにもなるわけです(爆)。
他ならぬ自分自身が、自分がバカにしている襲撃者と完全に同類の人間であることを、わざわざ自分から告白する必要もないでしょうにねぇ(苦笑)。

そして、「私が裏切ったんじゃありません、帝国が私を裏切ったんです。恥じる事など一つも有りません」に至っては、当の襲撃者もまさに空いた口が塞がらなかったでしょうね。
巨大な国家と自分ひとりが同等、いやそれどころか国家の方が自分よりも格下、などという発想は、万人の自由と平等を謳う民主主義国家ですらもありえないシロモノですし、ましてや専制君主国家であればなおのことです。
第一、「帝国が私を裏切った」というのは一体何のことを指しているのでしょうか?
まさか、帝国とヴァレンシュタインが何らかの相互契約を結んでいてそれを帝国が反故にした、という話ではないでしょうし、両親を殺し自分をも殺そうとしたということを指すのであれば、それはそのように命じたカストロプ公個人の犯罪であって、帝国そのものの罪などではないでしょうに。
貴族の犯罪がもみ消されるという社会問題にしても、「帝国が元からそういう政治形態である」という事実もヴァレンシュタインは当然知っているわけですし、その事実を知っていてなお帝国を信用する方がむしろ「愚か者の所業」以外の何物でもないのですが(苦笑)。
そして何よりも、ヴァレンシュタイン個人にそのような事情があったからと言って、それはヴァレンシュタインが赤の他人の家族に対して同じような目に遭わせることを正当化するものでも免罪するものでもありえません。
そのことに対して自覚的でその罪も生涯背負って生きていくとか、最小限の犠牲に抑えて大業を為すとかいうのであればまだしも、「自分は正当な報復の権利を行使しているだけであり全て他人が悪い。お前の家族が死んだことで俺を逆恨みするのは筋違いだし、むしろ邪魔な家族を殺してやったことに感謝しろ」では、むしろ他者からの賛同や共感を得られることの方が奇妙奇天烈な話でしかないですよ。
まさに「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」の様相を呈している以外の何物でもないのですが、そうでなければヴァレンシュタインは、一体何を根拠に自分が帝国よりも偉大な存在であるとまで考えられるようになったのでしょうか?
すくなくとも原作知識と自身の才覚だけではここまで増長できるものではないですし、やはりありとあらゆる「奇跡(という名の御都合主義)」を発動できる「神(作者)の祝福」への依存症だったりするのでしょうかねぇ……。

この辺のやり取りは、原作「銀英伝」9巻におけるヴェスターラントの遺族によるラインハルト暗殺未遂事件でのやり取りをトレースしたものなのでしょうが、原作のそれと比較してもあまりにもヴァレンシュタインが幼稚かつ自分勝手に過ぎます。
そもそも、如何に敵の無能が原因でヴァレンシュタインが敵を殺しまくり大勝利を獲得しえたにしても、それはヴァレンシュタイン自身の「大量虐殺者としての罪」を何ら軽減も免罪もするものではないのですが。
しかも相手は敵の指揮官などではなく単なる一兵士でしかなく、立場的には「無能な味方」と「有能な敵」双方の被害者でもあるわけです。
「無能な味方」と共に「有能な敵」をも恨むのは、その立場から言えば当然のことであり、筋違いでも何でもありません。
そして、原作9巻でヴェスターラントの虐殺を糾弾されたラインハルトも、愚行を行った無能なるブラウンシュヴァイク公と同じかそれ以上の罪が自分にもあることを自覚していたからこそ、ロクに反論もできず自責の念に駆られることとなったわけでしょう。
被害者に対してすら被害妄想と他罰主義と責任転嫁にばかり汲々とする夜郎自大なヴァレンシュタインに比べれば、原作におけるラインハルトの自責の念やオーベルシュタインの「少数を殺すことで多数を生かす」という信念の方が、まだ自身の責任を直視し受け入れているだけマシというものです。
どうもヴァレンシュタインの自己正当化な言動を見ていると、軍人としてではない快楽的な大量殺人やレイプその他の重犯罪者の自分勝手な心情や言い訳を聞いているような気にすらなってくるのは私だけなのでしょうか?

負傷したキスリングを助け、また味方が安全に撤退するための時間を稼ぐべく、ヴァレンシュタインは帝国軍に敵前交渉を行うことを決断します。
周囲はその場で殺される危険性が高いことを理由に反対するのですが、ヴァレンシュタインは反対を押し切り敵前交渉を強行。
そのことについて、ヴァレンシュタインは以下のようなモノローグを語っているのですが……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/37/
> キスリングを救うには直接ラインハルト達に頼むしかなかった。危険ではあったが勝算は有った。彼らが嫌うのは卑怯未練な振る舞いだ、そして称賛するのは勇気ある行動と信義……、敵であろうが味方であろうが変わらない。大体七割程度の確率で助かるだろうと考えていた。
>
> バグダッシュとサアヤがついて来たのは予想外だったが、それも良い方向に転んだ。ちょっとラインハルトを挑発しすぎたからな、あの二人のおかげで向こうは気を削がれたようだ。俺も唖然としたよ、笑いを堪えるのに必死だった。
撃たれたことも悪くなかった、前線で命を懸けて戦ったと皆が思うだろう。
>
>
ロボスだのフォークのために軍法会議で銃殺刑なんかにされてたまるか! 処罰を受けるのはカエルどもの方だ。ウシガエルは間違いなく退役だな、青ガエルは病気療養、予備役編入だ。病院から出てきても誰も相手にはしないだろう。その方が世の中のためだ。

まずここでおかしいのは、そもそもラインハルト達がヴァレンシュタインの態度に感服することと、自分が見逃してもらえる可能性が何故直結するのか、という点です。
確かに「原作におけるラインハルトの性格」に限定するならば、正々堂々とした振る舞いを「敵ながらあっぱれ」と称賛する可能性は高いでしょう。
また、銀英伝10巻ではユリアン達の敢闘にわざわざ温情を与えたくらいですから、ヴァレンシュタイン的にはラインハルトのそういった部分に期待したのかもしれません。
しかし「亡命編」におけるラインハルトは、ヴァレンシュタインによってキルヒアイスを戦死に追いやられ、ヴァレンシュタインに対する憎悪と復讐心に燃えている状態です。
しかも、ヴァレンシュタインを殺せば、仇を討つのみならず大功を挙げることができるのもこれまた分かりきっています。
ヴァレンシュタインの堂々たる態度に感銘を受けたからといって、何故わざわざ敵を逃がして仇討ちと大功を挙げる機会を自ら潰さなければならないのでしょうか?
「卿の勇気と態度には感嘆するが、それとこれとは別。キルヒアイスと俺のためにさっさと死ね」でブラスターが発射されて一巻の終わり、というのがはるかに現実的に想定されるマトモな反応というものでしょう。
元々ラインハルトのその手の称賛的な言動自体、自らの絶対的な立場を確立した上での「余裕」的な側面も大きいのですから、それが確立されていない状態でそんな態度はあまり望めないのではなかったのかと。

また、リューネブルクやオフレッサーの性格が「卑怯未練な振る舞いを嫌い、勇気ある行動と信義を称賛する」というものであるという事実を、当時のヴァレンシュタインが一体どうやって知り得たというのでしょうか?
「亡命編」におけるヴァレンシュタインは、第6次イゼルローン要塞攻防戦における敵前交渉まで、ラインハルトも含めた3者とは直接の面識が全くありませんでした。
ヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインのリューネブルク・ラインハルト評も、結局のところは原作知識を用いた記号的なものでしかなかったのです。
ところが、その原作知識にあるリューネブルクとオフレッサーの評価というのは、「卑怯未練な振る舞いを嫌い、勇気ある行動と信義を称賛する」とは程遠いものがあります。
リューネブルクは「(事情はあったにせよ)同盟を裏切って平然としている卑怯者」ですし、オフレッサーは「石器時代の勇者」「ミンチメーカー」と評され、重傷を負って這い蹲る敵兵相手にトマホークを打ち下ろしたり、ラインハルト相手に侮辱的な言動を披露したりする残忍な人物として描かれています。
何よりも原作者である田中芳樹自身、そのような意図でもって両者を描いていたであろうことは、銀英伝のみならず他の作品におけるこの手の人物の傾向を見ても明らかです。
とても「卑怯未練な振る舞いを嫌い、勇気ある行動と信義を称賛する」というタイプの人間であるとは評しえるものではありえません。
ヴァレンシュタインの姿が見えた瞬間、無防備であろうが何だろうが「大功が立てられる」と獲物を見るような目で喜び勇んで騙し討ち&突撃を敢行し全員殺して首級を挙げる、というのが「原作知識から導き出される」彼らの正しい反応というものではないのでしょうか?
かくのごとき「スタンダードな」原作知識から全く異なる人物評を導き出したというのであれば、「本編」における考察と同じようにその思考過程を説明する必要があるでしょう。
「本編」におけるリューネブルクやオフレッサーの性格がそうだったから、などというのは全く何の言い訳にもなりはしません。
そんなことは、「亡命編」におけるヴァレンシュタインが全く知りえようはずもない情報なのですから。

ヴァレンシュタインが持っている原作知識とやらには、「亡命編」が全くタッチしていないはずの「本編」10話以降のストーリー情報や設定までもが含まれていたりするのでしょうか?

そしてそれ以上に異常なのは、戦闘の最中に敵に対して交渉を持ちかけるという策それ自体の是非が全く論じられていないことです。
当時のヴァレンシュタインは撤退戦の指揮を任されてはいましたが、彼の権限はあくまでも「撤退戦の指揮」に限定されるものであり、敵との交渉権まで委ねられていたわけではありません。
敵との交渉というのは、敵ではなく味方・部下・国民の感情を刺激するものですし、実際、交渉を通じて味方の内情や機密が筒抜けになってしまう懸念もあります。
軍事のみならず政治の問題にも直結しかねない敵前交渉を行う際には、いくらヴァレンシュタインに撤退戦の指揮権が委ねられているとはいえ、さすがに軍上層部の判断を仰ぐ必要が確実にあったはずです。
実際、この後の第7次イゼルローン要塞攻防戦では、ヴァレンシュタインが敵前交渉を行うに際してこんなやり取りが交わされています↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/57/
> シトレに視線を向けた、向こうも俺を見ている。そして軽く頷いた、俺もそれに頷き返す。
> 「オペレータ、敵艦隊に通信を。ミューゼル中将に私が話をしたいと言っていると伝えてください」
>
> 俺の言葉にオペレータが困ったような表情をしている。そしてチラっとシトレを見た。
確かに指揮官の許可なしに敵との通信などは出来んな、俺とシトレの間では話はついているんだが、こいつがそれを知るわけがない。
> 「准将の言う通りにしたまえ」
> 「はっ」

ところが第6次イゼルローン要塞攻防戦では、この手の上層部への確認や事前の根回しの類などが全く行われておらず、その場におけるヴァレンシュタインの独断のみで敵前交渉が決定・実行されてしまっているのです。
ましてや、ヴァレンシュタインは元々同盟市民ではなく帝国からの亡命者です。
ただでさえ、ローゼンリッター連隊長の過半数にも及ぶ裏切り行為を味わってきた歴史を持つ同盟軍にとって、亡命者の敵前交渉など、まさに自分達への裏切りを促進するものにしか映らないでしょう。
しかも、その目的のうちの半分(というよりもメイン)は、同盟軍とは全く何の関係もない「ヴァレンシュタイン個人の旧友であるキスリングを助けること」にあったのです。
事前に許可を得ることなく「敵の軍人を助けるために敵に交渉を申し込む」という行為が「利敵行為に当たる」として後々問題視される可能性は決して無視できるものではないでしょう。
そればかりか、ヴァレンシュタインがキスリングに同盟の軍事情報や機密の類を密かに渡している事態すらも構造的には起こりえるので、【本来ならば】同盟軍はその可能性についての調査・検証を確実に迫られることになります。
元々ヴァレンシュタインは、例の自爆発言で同盟を裏切る意思を堂々と表明していた前科もあるわけですし。
これから考えると、交渉内容の是非や成果以前に、まずこの「敵前交渉」それ自体が何らかの軍規違反、最悪はスパイ容疑や国家機密漏洩罪・国家反逆罪等の重罪に問われる可能性すらも【本来ならば】かなり高かったであろうと言わざるをえないのです。
これ単独だけでも軍法会議の開廷は【本来ならば】必至でしたし、ましてや214条や上官侮辱罪の件もあるのですから、それらとも連動してさらにヴァレンシュタインの立場や周囲の心証が悪くなるのも【本来ならば】確実だったでしょうね。
もちろん、作中で全くそうなっていないのは、いつものごとく神(作者)が「奇跡」という名の御都合主義を発動しまくっているからに他ならないのですが(爆)。

こんな惨状で、この後の214条絡みの軍法会議で勝利できるなどと確信できるヴァレンシュタインは、非常におめでたい頭をしているとしか評しようがないですね。
ひとつではなく3つもの軍規違反が重なっているのですから、普通にやれば必敗確実、ヴァレンシュタインのあの態度では「反省が見られない」「情状酌量の余地なし」で銃殺刑も充分にありえる話ですし。
ヴァレンシュタインが毎回毎回人知れずやらかしまくる失態や問題を、原作知識やヴァレンシュタイン自身の才覚ではなく「神(作者)の奇跡」を乱発しまくることで乗り切らせるという構図は、ヴァレンシュタインのみならず作品と作者の評価をも間違いなく下げているのではないかと思えてならないのですけどね。
そんなわけで、次回はいよいよ第6次イゼルローン要塞攻防戦の締めとなる、自由惑星同盟軍規定第214条絡みの軍法会議の実態について検証していきたいと思います。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察9

「亡命編」のストーリーを読んでいると、せっかく設定したはずの「亡命」というコンセプトがまるで生かされていないような感が多々ありますね。
原作「銀英伝」におけるメルカッツやシェーンコップの同盟内での立場や境遇を見れば分かるように、亡命者というのはそもそも基本的に何もしていなくても他者から差別や偏見の目で見られ冷遇されるものですし、下手に才覚を発揮すればするほど、むしろ「あいつは何か企んでいるのではないか?」などといった猜疑心を向けられ、痛くもない腹を悪戯に探られることすら珍しくありません。
ところが「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタインの場合、そのようなハンディキャップがまるで機能しておらず、軍の階級は一般的な士官学校卒業者以上の昇進速度を誇り、権限に至ってはその階級にすら見合わないほどに強大だったりします。
何しろ、少佐の階級で基地全体の軍事力増強や総指揮を事実上担っていたり、大佐や准将の階級で全軍の指針や作戦を決定・実行させたりしているのですから。
特に亡命初期はロクな後ろ盾もなく監視の目すら向けられていたくらいなのに、アレだけ好き勝手な言動を披露して処分どころか大多数の周囲から警戒すらされないというのは不自然もいいところなのではないか、とどうにも思えてならないのですけど。
特にヴァンフリートの自爆発言や前回検証した上官侮辱罪の件などは、別に亡命者でなくても軍人であれば即刻逮捕拘禁に値する事案なのですし、それについてすら大多数の周囲から反発さえもなく逆に同情されるばかり、というのはさすがにどうなのかと。
原作のヤンですら、自分が同盟の上層部と違う考え方を持っているために疎まれていましたし、当の本人にもその自覚くらいはあったというのに。
「亡命者」としてのヴァレンシュタインの立場と境遇を、ヴァレンシュタイン自身も含めた作中の登場人物達全員が完全に忘れ去っているとしか思えないところですね。
それでは引き続き、第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインの言動について検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-604.html(その6)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-608.html(その7)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-614.html(その8)

作戦会議という公の場で上官侮辱罪という軍法違反行為を公然とやらかしたヴァレンシュタインですが、当然のごとく行われた神(作者)の介入により、周囲どころか当のロボスですらその事実に全く気づくことなく、ヴァレンシュタインは自身でも全く気づくことなく第二の危機を回避することに成功してしまいました。
とはいえ、そこは万年被害妄想狂患者であるヴァレンシュタインですから、幸運などという概念にすら当てはまらない神(作者)の奇跡に感謝どころか疑問を抱きすらするはずもなく、ここぞとばかりにロボスとフォークを罵り倒しにかかります↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> 今思い出しても酷い会議だった、うんざりだ。フォークの馬鹿は原作通りだ。他人をけなすことでしか自分の存在をアピールできない。ロボスは自分の出世に夢中で周囲が見えていない。あの二人が遠征軍を動かす? 冗談としか思えんな。
>
> フォークは軍人としては終わりだな。恐らく病気療養で予備役だ。当分は出てこられない。出てきても作戦参謀になることはないだろう。その方が本人にも周囲の人間にも良い。あの男に作戦立案を任せるのは危険すぎる。
>
> 問題はロボスだな……。
今回の会議で考えを改めればよいが果たしてどうなるか……。頭を冷やして冷静になれば出来るはずだ。だが出世にのみ囚われると視野が狭くなる……。
>
>
難しい事じゃないんだ、下の人間を上手く使う、そう思うだけで良い。そう思えればグリーンヒル参謀長とも上手くいくはずなんだが、シトレとロボスの立ち位置があまりにも違いすぎる事がそれを阻んでいる。
>
>
シトレが強すぎるんだ、ロボスはどうしても自分の力で勝ちたいと思ってしまうのだろう。だから素直にグリーンヒルの協力を得られない。そうなるとあの作戦案をそのまま実施する可能性が出てくる……。

相も変わらず、自分にもそっくりそのまま当てはまるブーメラン発言でもってロボスとフォークを評している滑稽極まりないヴァレンシュタインですね(苦笑)。
「他人をけなすことでしか自分の存在をアピールできない」も「周囲が見えていない」も、これまでのヴァレンシュタインの言動そのものにはっきりと表れているでしょうに(爆)。
この2つの要素がヴァレンシュタインになかったならば、そもそもヴァレンシュタインが今日の状況を迎えることもなく、ラインハルトの台頭と共に帝国へ逆亡命するという当初の構想を問題なく達成することだってできたはずなのですから。
それに「頭を冷やして冷静になれば出来るはずだ」って、いくら相手がロボスだからとは言え自分にできないことを他人に要求して良いものではないでしょうに(爆)。
常に「自分は正しく他人が悪い」を地で行くヴァレンシュタインは、その欲求を満たすための思考ばかりやっていて、一度も「頭を冷やして冷静にな」った試しなどないではありませんか(笑)。
たまに反省のそぶりらしきものを見せたかと思えば、自分の責任を他の誰かに擦りつけて見当ハズレなタワゴトを吹聴することばかりに汲々とする始末ですし。
ロボスが自分の進言(という名の罵倒)を受け入れないのを「シトレが強すぎる」せいにしているところにも、それは窺えます。
あんな上官侮辱罪ものの罵倒をやらかした人間の言うことなど、マトモに聞きいれる方が逆におかしいでしょう。
普通に考えてみても、あんな罵倒をするような人間にはそれだけで感情的な反発が来るものですし、進言内容の是非を問わず、また軍に関わらず、ああいう罵倒行為は組織の秩序と士気に致命的な悪影響を与えかねないのですから。
仮にその意見に一定の理があり受け入れるに値するものであったにしても、それは「ヴァレンシュタインの進言を受け入れた」という形ではなく、別の人間が改めて進言して……という形にならざるをえないのですが。
というか、そもそもヴァレンシュタイン自身、部下から同じことをやられたら躊躇なくロボスと同じことをするか、それこそ上官侮辱罪を振り回して相手を叩き潰す対応を取るのが最初から目に見えているのですけどね(苦笑)。
にもかかわらず、その自身の性格から目を背けてさらに運命論のごとき支離滅裂な妄言を口にするに至ってはねぇ……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> それにしても酷い遠征だ。敵を目前にして味方の意志が統一されていない。こんな遠征軍が存在するなんてありえん話だ。何でこんなことになったのか、さっぱりだ。ヴァンフリートで勝ったことが拙かったのかもしれない。あそこで負けていたほうが同盟軍のまとまりは良かった可能性がある……。やはり俺のせいなのかな……。まったくうんざりだな。ボヤキしか出てこない。

ではもしヴァンフリートで勝利していなかったとしたら、ヴァレンシュタインはロボスを罵倒していなかったとでも言うのでしょうか?
元々ヴァレンシュタインは、「フォークを重用していた」という原作知識からロボスに対する軽侮の念を隠そうともしていませんでしたし、そもそも同族嫌悪・近親憎悪の観点から言っても、自制心なきヴァレンシュタインはロボスを敵視せざるをえない境遇にあるはずなのですが。
ロボスがシトレに対抗意識を持っていたのは事実でしょうが、それとヴァレンシュタインの上官侮辱罪ものの罵倒は全く何の関係もない話です。
ロボスの置かれている立場や状況がどうだろうと、ヴァレンシュタインが自らの衝動の赴くままにロボスを罵倒し拒絶されるのは確実だった、と言わざるをえないのですが。
例によって例のごとく、反省のピントがズレまくっているとしか言いようのない話ですね。
もちろん、常に「自分が正しく他人が悪い」を通さなければならないヴァレンシュタインとしては、自身の罵倒に非があったなどと認めるわけにはいかないのでしょうけど。

ロボスの他者を拒絶する頑なな対応と、何よりもヴァレンシュタインがやらかした上官侮辱罪の効用により、総司令部は士気も低く不安と不穏な空気に包まれていました。
軍に限らず、自分の上に立つ者を公然と侮辱した者を何ら罰することなく放置すればそうなるのは当たり前です。
そんなことをすれば、その侮辱が実は正当なものであるということを、当の侮辱された人間が認めているも同然となり、上官の地位と権威、さらには軍の秩序自体が崩壊することにもなりかねないのですから。
ロボスは軍規から言っても自己一身の保身のためにもヴァレンシュタインを処断しなければならなかったのですが、もちろん神(作者)の介入のためにその手を使うことができません。
周囲もまた、「貴官の主張内容にも一理はあるが、貴官の行為は上官侮辱罪を立派に構成していて…」とヴァレンシュタインを責めるなど思いもよらず、ひたすらロボスにのみ非難の目を向けヴァレンシュタインには全面的な同情と共感を注ぐ始末。
自分が何を言っても処断されないと確信したヴァレンシュタインは、ここぞとばかりにさらにロボスの感情を刺激する行為に及ぶこととなります。
今度は一転して下手に出て、ロボスに要塞前面での戦闘を避けより有利な星系での決戦をするよう進言するのですが、ロボスはそれを当然のごとく拒否。
その理由をヴァレンシュタインが分析する場面があるのですが、それが正直言ってまた振るっているんですよね↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/27/
> 「でも、あの作戦案は本当に凄いです。私だけじゃありません。皆そう思っているはずです」
> 私は慰めを言ったつもりは有りません。本当にそう思ったんです。ですがヴァレンシュタイン大佐は私の言葉に苦笑しただけでした。
>
> 「何も考えつかなかったんです。もうどうにもならない、思い切って撤退を進言しようと……。そこまで考えて、もしかしたらと思いました……」
> 「……」
> 大佐が溜息を吐いて天井を見ました。
>
> 「あの作戦案を採用しても帝国との間に艦隊決戦が起きるという保証は有りません。そして勝てるという保証もない。あれはイゼルローン要塞攻略を先延ばしにしただけなんです。上手く行けば要塞攻略が出来る、その程度のものです」
> 「……」
>
>
「それでも作戦案としては壮大ですし、見栄えも良い。ロボス元帥としても勝算の少ない作戦案にかけるよりは受け入れやすいと思ったのですが、まさか自分が更迭されることをあそこまで恐れていたとは……」
> 大佐が疲れたような声を出して首を横に振りました。
>
> 「ヴァンフリートで勝ったのは失敗でした」
> 「大佐……」
>
「あそこで負けておけばロボス元帥もああまで思い込むことはなかった……」
> ヴァレンシュタイン大佐の声は呟くように小さくなりました。納得いきません、あそこで負ければ大勢の戦死者が出ていたはずです。

この期に及んでも、自分の罵倒がロボスに決定的に拒絶されるようになった真の原因だとは思いもよらないヴァレンシュタインって……。
ああいうことをやらかした後で「自分の言っていることはロボスにも理があるのだから素直に受け入れてもらえるだろう」って、それはいくら何でも虫が良すぎるというものです。
自分があんな風に罵倒されたらどう対応するか、という観点から考えただけでも、自分の言動に多大な問題があることを「常人ならば」普通に理解できそうなものなのですが。
自分のことについてはアレほどまで被害妄想全開状態なのに、他人の話になると相手が聖人君子のごとき人格者であることを平然と要求するのですね、ヴァレンシュタインは。
「自分に甘く他人に厳しい」って、それは上に立つべき人間が絶対になってはいけない最低最悪の人格であり、それこそロボスやフォークと同レベルでしかないでしょうに。
まあだからこそヴァレンシュタインは、自分と同類であるロボスやフォークをあそこまで否定するのでしょうけど。

というよりここはむしろ、ああいう下手に出たこと自体が「拒絶されることを前提とした謀略」である、とでものたまっていた方が、ヴァレンシュタインの立場的にはまだ説得力があったのではないですかね?
例の上官侮辱罪の一件で、ヴァレンシュタインとロボスの関係は修復不可能なレベルまで完全に決裂しました。
ならば、ロボスを陥れる最善の方法としては、わざと理に叶った作戦案を懇切丁寧にロボスに提示し、それを「提案したのがヴァレンシュタインだから」と感情的に拒絶させるという策を使えば良いわけです。
そうすれば、作戦案が理に叶っていればいるほど、拒絶されることでロボスのイメージダウンと自分への同情票を同時に獲得することができ、さらに後日作戦が失敗した暁には「何故自分の策を採用しなかった」と居丈高にロボスを罵り倒すこともできたはずです。
相手が感情的であればあるほど、この手の策は極めて有効に作用します。
この描写を読んだ時、私はてっきり「ああ、これはロボスに対する確信犯的な嫌がらせだな」とすら考えてむしろ感心すらしたくらいなのですが、何故そこでわざわざ偽善者ぶらなければならないのか、実に理解に苦しむものがありましたね。
まあ、このような策は「自分が何を発言しても相手から罰せられたり権力や暴力で弾圧されたりすることがない」という前提が必要不可欠であり、ネット上の議論などであればともかく、軍内で通用するはずなど【本来ならば】全くありえないのですが。

次回からは、「亡命編」のオリジナル設定である自由惑星同盟軍規定第214条が提示されて以降の検証に移ります。

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