エントリー

カテゴリー「二次創作感想」の検索結果は以下のとおりです。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察13

やることなすこと傍若無人かつ「自分が他人からどう見られているか」という自己客観視の視点的なものが完全に欠落しているエーリッヒ・ヴァレンシュタインに、作者氏は一体どのようなものを投影しているのか?
「本編」を読んでいてヴァレンシュタインの性格破綻ぶりに反感を抱き始めた頃からこれはずっと疑問となっていて、この疑問を解消すべく、私は様々な推論を考えていたりします。
過去のヴァレンシュタイン考察本論やコメント欄でしばしばネタとして出してきた、「アクセス増と小説に対する評価高を目的とした確信犯的な釣り&炎上マーケティング説」などもそのひとつです。
ただ、釣り&炎上マーケティングというのは、あくまでも「一発勝負」「一時的な集客」のネタとして使うからこそ大きな成果が見込めるのであって、こうまで長々と同じネタを延々と続けていては却って逆効果でしかありません。
作者氏がそんな程度のことも理解できないとはさすがに思えないので、これも今となってはあくまで「作者や作品の意図に反して笑いのネタになってしまっているヴァレンシュタインの惨状」を嘲笑う意味合いで使っているだけですね。

その「釣り&炎上マーケティング説」以外の要素で以前に考えたことのある推論としては、「老人の視点から、自分の理想と願望を全て叶えてくれる【孫】を描いている」というものがあります。
この推論から導き出される作者氏は、最低でも「初老」と呼ばれる年齢に到達している人間で、老人が邪険にされ若者が英雄として称揚される銀英伝を嫌い、「最近の若い者は…」という負の情念をベースに、原作とは逆に老人を持ち上げ原作主人公キャラクター達を無能低能の水準まで貶めることを目的に「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」を執筆し始めた、ということになっていたりします(^^;;)。
そして一方で、ラインハルトよりも(取消開始)若い(取消終了)(修正開始)2歳程度年長の(修正終了)人間という設定のヴァレンシュタインは、その老齢な自分が考える「自分の理想や願望を全て実行してくれる孫」を投影する形で描かれているというわけです。
ヴァレンシュタインがあれほどまでの傍若無人に振る舞うのは、若者を格下に見ていて常に「最近の若い者は…」という情念が発露されているため。
そのヴァレンシュタインに周囲、特に老人キャラクターが寛大なのは、ヴァレンシュタインを「自分の孫」的な視点で見ていて「何をやっても愛い奴よ」と甘やかす様を表現しているため。
そして、リヒテンラーデ候や帝国軍三長官などといった老人達が原作とは一転して有能なキャラクター扱いとなっているのは、自分と同年代以上の「老人」であるから、というのが理由になるわけですね。
こういう視点で見てみると、ヴァレンシュタインが作中でああまで「神(作者)の奇跡」によって守られ、依怙贔屓されている構図の実態というものも見えてくるのではないかと、半分は面白おかしく考えてもみたわけなのですが……。
もっとも、これは所詮、作者氏の年齢が分からないからこそできる空想の産物に基づいた推論でしかなく、作者氏の実年齢が想定よりも若いと分かれば、一発で瓦解する程度のシロモノでしかないのですけどね。

ただ、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」を見てみると、全体的に「老人に対する幻想ないしは願望」のようなものがあるのではないかとは、正直感じずにいられないところなんですよね。
「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」に登場する「原作から設定を改変された老人達」は、皆若者(というか主人公)に理解がある上にその時その時の状況に応じて迅速かつ的確な判断を下し、さらにはそれまでの政治思想や基本方針をあっさり転換できるほどの柔軟性まで持ち合わせていたりします。
しかし実際の老人は、慣習的に続いてきたことをこなすのは得意であっても、全く新しい未知の事態になると古い考え方に固執し、周囲がどれだけ進言しても頑固なまでに受け入れない「思考の硬直性」を発揮することの方がはるかに多いのです。
特に政治思想については、老齢になればなるほど、如何に現状の政治情勢が変化してさえ、その転換は絶望的とすら言っても良いほどの不可能事になっていくことがほとんどです。
銀英伝の原作者である田中芳樹などはまさにその典型例で、学生時代に培ったであろう、今となっては時代錯誤かつカビの生えた政治思想を未だに堅持し続け、すっかり「老害」と化している始末だったりするのですからねぇ(苦笑)。
その要因としては、脳の老化、長年堅持し続けてきた思想や慣習に対する信仰や依存、個人のプライドや矜持の問題、さらにはそれこそ「最近の若い者は…」に象徴される自分より下の世代を格下に見て蔑視する性格など、様々なものが考えられますが、一般的な傾向として見ても、老人の思考発想法が若者のそれと比べて一種の硬直性を多分に含んでいることは誰しも否定できないでしょう。
そして何より、その田中芳樹が執筆した原作「銀英伝」に登場する老人達もまた、比較的優遇されているビュコックやメルカッツなどの「老練」な登場人物達も含めて軒並みそのように描かれているわけです。
にもかかわらず「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」では、まるでその現実に挑戦状でも叩きつけるかのごとく老人に入れ込みまくった描写が展開されているのですから、これはもう「作者氏の老人に対する幻想なり願望なりが作中に反映されている」としか判断のしようがありますまい。
「原作で主人公達の引き立て役にしかなっていない無能キャラクターの描き方に疑問を抱いたから、あえて反対の描写を展開している」などという大義名分は、ロボスやフォークが原作通りだったり、キルヒアイスがありえないレベルで無能化していたり、さらには「法律に全く無知な惨状を露呈しているヴァレンシュタインごときに一方的に論破される検察官」なるものが登場したりしている時点で到底信用などできるものではないのですから。
で、そのような「老人に対する幻想や願望」を最も抱きそうなのは当の老人自身なのではないか(常に上位者として君臨し「最近の若い者は…」と若年世代を見下す傾向のある老人相手に、当の若年世代が好評価的な幻想や願望を抱くとは考えにくい)、という結論の下、冒頭のような推論を作ってみたのですが、実際はどんなものなのでしょうかねぇ。

さて今回は、同盟の主要人物およびヴァレンシュタインによる4者会談、および第7次イゼルローン要塞攻防戦開始直前の話について検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11  その12

シトレ・トリューニヒト・レベロとの3者と、政治や軍の今後の行動方針について聞かれることになったヴァレンシュタイン。
サンドイッチを頬張りつつ、ひとしきり得意気になってイゼルローン要塞攻略の愚を説きまくったヴァレンシュタインは、3者が自分を呼んだ意図を図りつつ、自分が取るべき選択肢を模索していくことになるのですが……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/44/
> しかし扇動政治家トリューニヒトが和平を考えるか、冗談なら笑えないし、真実ならもっと笑えない。原作ではどうだったのかな、トリューニヒトとレベロは連携していたのか……、トリューニヒトの後はレベロが最高評議会議長になった。他に人が居なかったと言うのも有るだろうが、あえてレベロが貧乏くじを引いたのはトリューニヒトに後事を託されたとも考えられる。いかん、ツナサンドが止まらん。
>
> さて、どうする。連中が俺に和平の件を話すと言う事は俺の帝国人としての知識を利用したいという事が有るだろう。そして和平の実現に力を貸せ、仲間になれという事だ。どうする、受けるか、拒絶か……。レベロ、シトレ、トリューニヒト、信用できるのか、信用してよいのか、
一つ間違えば帝国と内通という疑いをかけられるだろう。特に俺は亡命者だ、危険と言える。

…………はあ?
今更何を言っているのでしょうかね、ヴァレンシュタインは(笑)。
「一つ間違えば」も何も、フェザーンでスパイ活動もどきな行為をやらかし、「伝説の17話」の自爆発言で既に同盟に対する裏切りの意思を表明しているヴァレンシュタインは、【本来ならば】とっくの昔に「帝国と内通という疑い」をかけられて然るべき状態になっているはずではありませんか。
イゼルローンで敵前交渉を独断で行った行為も、「敵との内通や情報漏洩を行っている」と他者、特にヴァレンシュタインに敵対的な人間から見做される可能性は充分にあったのですし。
帝国からの亡命者、それも当初は「スパイ容疑」までかけられるというオマケまで付いていた自分の微妙な立場と危険性についてヴァレンシュタインが本当に自覚していたのであれば、そういった言動が如何に自分の評価や安全を悪い方向へ追いやるかという自己保身的な発想くらい、ない方が逆に不自然というものでしょう。
アレほどまでに他人の目を気にせず衝動の赴くままに傍若無人な言動に奔走してきた過去の経緯を全て無視して、今更取ってつけたように「特に俺は亡命者だ、危険と言える」などと考えても、既に手遅れな上に何のフォローにもなっていないのですけど。
むしろ、ヴァレンシュタインに「亡命者は一般人と比べて不利な立場にある」という常識が備わっているという事実の方に驚愕せざるをえなかったくらいでしたし(苦笑)。
まさかヴァレンシュタインは、あれら一連の言動全てが、何ら後ろ暗いところも他人に恨まれることもない公明正大かつ危険性など全くないシロモノだった、とでも考えていたりするのでしょうか?
こういうのを見ると、現時点でさえ史上最低レベルを極めているヴァレンシュタインの対人コミュニケーション能力は、今後も全く改善の見込みがないばかりか、更なる悪化の可能性すら見出しえると判断せざるをえませんね。
原作知識など比べ物にならないヴァレンシュタイン最大最強の守護神である「神(作者)の祝福」というものには、ここまで人を堕落させる禁忌の魔力なり呪いなりの副作用でも備わっていたりするのでしょうかねぇ……。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/44/
> 「君は先程同盟を帝国に認めさせる、対等の国家関係を築く事は可能だと言っていたね」
> 「そんな事は言っていませんよ、レベロ委員長。可能性は有ります、少ないですけどねと言ったんです」
>
> シトレとトリューニヒトが笑い声を上げた。レベロの顔が歪み、俺をきつい目で睨んだ。睨んでも無駄だよ、レベロ。自分の都合の良いように取るんじゃない。お前ら政治家の悪い癖だ。どうして政治家って奴は皆そうなのかね。
頭が悪いのか、耳が悪いのか、多分根性が悪いんだろう。
>
> いや、それよりどうするかだ。
和平そのものは悪くない、いや大歓迎だ。これ以上戦争を続ければ何処かでラインハルトとぶつかる。それは避けたい、とても勝てるとは思えないのだ、結果は戦死だろう。戦って勝てないのなら戦わないようにするのも一つの手だ。三十六計、逃げるに如かずと言う言葉も有る。そういう意味では和平と言うのは十分魅力的だ。
>
> 「その可能性とは」
> どうする、乗るか? 乗るのなら真面目に答える必要が有る……。この連中を信じるのか? 信じられるのか? ……かけてみるか? 血塗れとか虐殺者とか言われながらこのまま当てもなく戦い続けるよりは良い……、最後は間違いなく戦死だろう。
>
>
同盟が滅べば俺には居場所は無いだろう。生きるために和平にかけるか……。宇宙は分裂したままだな、生きるために宇宙の統一を阻む。一殺多生ならぬ他殺一生か、外道の極みだな、だがそれでも和平にかけてみるか……。

トリューニヒトやレベロも、トンチ小僧の一休さんのごときお子様レベルなひっかけ問答に終始する「頭・耳・根性はもちろんのこと、現状認識能力も精神状態も最悪の水準を極め過ぎている、フォークばりに幼児レベルの衝動的発作ばかり引き起こす超低能バカな被害妄想狂患者のヴァレンシュタイン」ごときに文句を言われたくはないでしょうねぇ(苦笑)。
第一、原作知識を用いてさえ拙劣としか言いようのない甘過ぎる予測や、常識で考えれば間違いなく極刑ものの言動を、「神(作者)の奇跡」の乱発による超展開で強引に乗り切ってきたのは一体どこの誰なのかと。
そして、そんな狂人ヴァレンシュタインが「同盟が滅べば俺には居場所は無いだろう」などとほざくに至っては、「どのツラ下げてお前が…」としか言いようがないですね。
何しろ、この期に及んでさえ、「伝説の17話」における自爆発言が「公の場」で未だに撤回されていないままの状態にあるのですから。
同盟を裏切る意思表示をすらした過去を持ち、しかもその発言について何ら謝罪も訂正もしていないヴァレンシュタインが「同盟を自分の居場所にする」って、一体何の冗談なのでしょうか?
同盟に対して明らかに害意を抱いている上にその意思表示までしているヴァレンシュタインを、当の同盟が保護しなければならない理由など、宇宙の果てまで探してもあるはずがないでしょうに。
しかもヴァレンシュタインは、シトレに対してすら敵愾心を抱いている上に、そのことを少しも隠してすらいませんし。
ヴァレンシュタインと対談している3者も、その辺りの事情は当然のごとく熟知しているはずでしょうに、ヴァレンシュタインのどこら辺に「信用できる」という要素を見出したのかは全くの謎であると言わざるをえません。
「神(作者)の奇跡」の産物によるものとはいえ、これまでの実績?から能力面??を高く評価したという事情はあるにせよ、「国家への忠誠心」「同志としての信頼性」については「あの」ヤンをすらもはるかに下回る、いやそれどころかゼロを通り越してマイナスにすらなっているのがヴァレンシュタインの実態だというのに。
この手の謀議を持ちかける際に重要となるのは、機密保持の観点から言っても「能力」ではなく「忠誠心」や「信頼性」の方なのではないかと思うのですけどねぇ(-_-;;)。

それとヴァレンシュタインは、帝国と同盟が和平を結べば自分の身が安泰になると素朴に信じ込んでいるようですが、それはいくら何でも少々どころではなく楽観的に考えすぎなのではないですかね?
同盟が帝国との和平を結ぶための交渉材料のひとつとして、「ヴァレンシュタインの死」という選択肢を検討しないという保証はどこにもないのですから。
帝国にとってのヴァレンシュタインは、疑問の余地なく「裏切り者」かつ「虐殺者」であり、彼の亡命の経緯がどうであろうが、事実関係から言っても政治的に見てもその「公式見解」が揺らぐことはありえません。
その帝国にとって「ヴァレンシュタインの死」は喉から手が出るほど欲しい事象たりえますから、政治的にも軍事的にも極めて美味しい取引材料となります。
一方、同盟側の場合、確かに帝国との戦争が続いている現状で、「神(作者)の祝福」によって常に大勝利をもたらしてくれるヴァレンシュタインの存在は、確かにその点にのみ限定すれば「使い勝手の良い道具」ではありえるかもしれません。
しかし、「帝国との和平」という段になれば、当然戦争をする必要自体がなくなるわけですから、ヴァレンシュタインの「神(作者)の祝福」もまた必要性が薄まってしまうのです。
そうなれば同盟としても、別にヴァレンシュタインに依存しなければならない理由もなくなり、「ヴァレンシュタインの死」を帝国との取引材料として利用する「余裕」も出てくるわけです。
ただでさえヴァレンシュタインは亡命者な上、「伝説の17話」に象徴されるがごとく同盟に対する裏切りの意思表示まで行っており、お世辞にも従順とは到底言い難い性格破綻な惨状を呈しているのですから、本来ならば能力の有無以前の問題で排除されて然るべき存在ですらあるのです。
そこにもってきての「帝国との和平」となれば、同盟にとってもまさに渡りに船で「ヴァレンシュタインの死」を和平での取引材料に使うことを視野に入れることになるでしょうね。
原作「銀英伝」でも、ダゴン星域会戦で勝利したリン・パオとユースフ・トパロウルが不遇な人生を送っていたり、ブルース・アッシュビーが政界進出を警戒された上に不可解な死を遂げたり、バーラトの和約後にヤンが謀殺されかけたりといった「狡兎死して走狗煮らる」的な作中事実が複数事例明示されているではありませんか。
それと全く同じことがヴァレンシュタインの身に起こることなどないと、一体どうして断言することができるというのでしょうか?

これから考えると、ヴァレンシュタインが同盟軍を強化すべく優秀な人材を積極的に登用させようとしている行為も、ヴァレンシュタインの生命の安全保障という観点から言えば非常に危険な行為であると言わざるをえないところです。
ヴァレンシュタインが同盟軍を強化すればするほど、「ヴァレンシュタインがいなくても同盟軍は精強を誇っていられる」ということになり、その分同盟がヴァレンシュタインを犠牲の羊にする可能性が高くなってしまうのですから。
特にヤンが原作同様に「奇跡のヤン」的な功績と声望を確立しようものならば、ヤンがヴァレンシュタインに取って代わることでヴァレンシュタインの必要性と存在価値が大きく減退してしまい、「ヴァレンシュタイン不用論」が台頭する可能性は飛躍的に高くなります。
ヤンにその気がなくても、その周囲および同盟の政軍上層部がそう考える可能性は充分に考えられるのです。
「自分が生き残ること」に執着するヴァレンシュタインの立場的に、同盟軍の強化や帝国との和平が自身の身を却って危険にするという構造的な問題は、決して無視できるものではないはずなのですが……。

まあ、ヴァレンシュタインが「自分が生き残ること」について考える時、その脅威として見ているのって実はラインハルトひとりしかいなかったりするんですよね。
単純に考えても、同盟によって危険視され粛清・暗殺されたり軍法会議で裁かれ処刑されたりする可能性の他、帝国やフェザーン・地球教の刺客によって暗殺される可能性、さらには「亡命者としての立場」に対する偏見を抱く者や功績を妬まれた同僚や部下などによって陥れられたりする可能性など、「生き残る際に立ちはだかる障害」には様々な要素が色々と想定されるべきはずなのですが。
第6次イゼルローン要塞攻防戦で敵前交渉に臨んだ際に敵の一兵士から撃たれた際も、それで自分が死ぬとは全く考えていなかったみたいですし。
いやそれどころか、誰も何も画策してなどいなかったのに、病気や食中毒など全く偶発的な事件から突然死に至る、という事態すら実際には起こりえるわけなのですから、本当に「自分が生き残ること」に拘るのであれば、ラインハルトひとりのみを対象とするのではなく、というよりもそれ以上に「味方からの猜疑や脅威についての対策」を真剣に考えないとマズいのではないかと思うのですが。
7話におけるフェザーンでの一件では、よりによってミハマ・サアヤとバグダッシュにしてやられてしまったことを、まさか忘れてしまっているわけではないでしょうに。
「俺様を殺せる人間はラインハルト以外にいるはずがない」「同盟は自分の身を常に無条件で守ってくれる」などという何の根拠も保証もない思い込みを、ヴァレンシュタインはいいかげん捨て去るべきなのではないかと思えてならないのですけどね。

ところで、ヴァレンシュタインの自身の身辺に対する警戒心のなさっぷりを象徴しているのが、今やすっかりヴァレンシュタインの腰巾着と化した感すらあるミハマ・サアヤの存在そのものですね。
ミハマ・サアヤの立ち位置がヴァレンシュタインにとってどれほど脅威となりえるのかについては考察3や考察6でも色々と述べてきたわけですが、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤを警戒するそぶりすら全く見せておりません。
ではヴァレンシュタインがミハマ・サアヤに打算レベルでも信頼しているのかというと、そういうことも全くなかったりするんですよね。
48話で、ミハマ・サアヤの今後の処遇についてバグダッシュから話を持ちかけられた際も、まさにそんな対応を返しているわけで↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/48/
> 俺が自分の席に戻ろうとするとバグダッシュが相談したい事があると言ってきた。余り周囲には聞かれたくない話らしい、ということで宇宙艦隊司令部内に有るサロンに行くことにした。アイアースに有ったサロンも広かったが、こっちはさらに広い。周囲に人のいない場所を探すのは難しくなかった。
>
> バグダッシュが周囲をはばかるように声を低めてきた。
> 「ミハマ少佐の事なのですが……」
> 「……」
> サアヤの事? なんだ、またなんか訳の分からない報告書でも書いたか、俺は知らんぞ。
>
> 「彼女はこれまで情報部に所属していました。宇宙艦隊司令部の作戦参謀ではありましたが、あくまで所属は情報部という扱いだったのです」
> 「……」
> まあそうだろうな、身分を隠して情報を入手する。まさにスパイ活動だ。その任務は多分、俺の監視かな。
>
> 「しかし本人は納得がいかなかったのでしょう。情報部の仕事は自分には合わない、人を疑うのはもうやめたいと何度か異動願いが出ていたのです。ワイドボーン准将に閣下を疑うなと言われたことも堪えたようです」
> 「……」
>
> ワイドボーンか、まあ何が有ったかは想像がつく。それに例のフェザーンでの盗聴の件も有った。若い女性には厳しかっただろう。味方だと思っていた人間に裏切られたのだから……。
>
> 「彼女は今回正式に宇宙艦隊司令部の作戦参謀になります。情報部は以後彼女とは何の関わりも有りません」
> 「……」
>
> 本当かね、
手駒は多い方が良い、本人は切れたと思っても実際には切れていなかった、なんてことはいくらでもある。彼女が協力したくないと思っても協力させる方法もいくらでもあるだろう。
>
> 「それを私に言う理由は?」
> 「彼女を司令部要員として育てていただきたいのです」
> 「……」
>
> なるほど、そう来たか。
関係は切りました、そう言ってこちらの内懐に食い込ませようという事か。しかしちょっと拙劣じゃないのか、見え見えだろう、バグダッシュ。思わず苦笑が漏れた。
>
> 「お疑いはごもっともです。しかしこれには何の裏も有りません。信じてください」
> はい、分かりました、そんな答えが出せると思うのか? 俺の苦笑は酷くなる一方だ。
>
> 「彼女をキャゼルヌ准将の所に送ることも考えました。彼女からはそういう希望も出ていたんです。しかしそれでは閣下の周りに閣下の事を良く知る人間が居なくなってしまう……」
> 今度は俺のためか……。
>
> 「こんな事を言うのは何ですが、閣下は孤独だ。我々がそう仕向けたと言われれば言葉も有りません。だから……」
> 「だから彼女を傍にと?」
>
> 「そうです、他の人間では閣下を怖がるでしょう。彼女ならそれは無いと思います」
> 「……」
>
不愉快な現実だな、俺はそんなに怖いかね。まあ怖がらせたことは有るかもしれないが……。
>
> 「ミハマ少佐は階級の割に司令部要員としての経験を積んでいません。本人もその事を気にしています。自分が此処に居る事に不安を感じている。彼女を後方支援参謀として作戦参謀として育ててはいただけませんか?」
>
> 「育ててどうします?」
> 「いずれ閣下を理解し、支える士官が誕生する事になります。これからの帝国との戦いにおいて、ミューゼル少将との戦いにおいて、必要ではありませんか」
> 「……」

そこまで分かっているのならば、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤを「潜在的な脅威」として徹底的に排除するべきなのではないのですかね?
ミハマ・サアヤが近くにいるというだけで、ヴァレンシュタインは常に彼女が持つ「潜在的な脅威」に晒され続けることになるのですから。
フェザーンの一件では、ミハマ・サアヤ本人ですら知らない間に仕込まれていた盗聴器にヴァレンシュタインはしてやられたわけですが、もしこれが遠隔操作可能な超小型高性能爆弾とかだったりしたら、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤ共々確実にあの世行きだったでしょう。
すくなくとも当面の間は戦場でしか会うことがないであろうラインハルトの脅威にアレだけビクビクしているにもかかわらず、四六時中一緒にいて常にヴァレンシュタインを狙える立ち位置にいるミハマ・サアヤに全く脅威を感じない、というのは支離滅裂もいいところなのですが。
まさに、「本人は切れたと思っても実際には切れていなかった」「彼女が協力したくないと思っても協力させる方法もいくらでもある」わけですから、ミハマ・サアヤのヴァレンシュタインに対する好意や性格などは全く何の緩和要素にもならないわけで。
むしろ、そのお人良しで甘すぎる性格を、フェザーンでの一件のごとく自分に悪意を抱く他者に利用されてしまう危険性が、ヴァレンシュタインに常に付き纏うことになってしまうのですし。
常日頃から発散している、自分に恩恵を与えてくれるシトレに対してすら感謝どころか憎悪さえ抱いてしまうほどの被害妄想狂ぶりから考えても、常に自分をターゲットに据えているかのごときミハマ・サアヤの「潜在的な脅威」を、ヴァレンシュタインは常に警戒して然るべきではないのでしょうかねぇ。

次回からは第7次イゼルローン要塞攻防戦へと移ります。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察12

二次創作には「メアリー・スー」と呼ばれる用語があります。
「メアリー・スー」とは、原作の登場人物をはるかに凌ぐ実力と優秀さを兼ね備え、原作の主人公をもそっちのけにして万能的に活躍し、主人公も含めた原作キャラクターや読者から無条件に畏怖・礼賛されるオリジナルキャラクターの総称です。
この用語の由来は、「スタートレック」の二次創作に登場した女性のオリジナルキャラクター「メアリー・スー大尉」にあるのだとか。
欧米の二次創作では、「メアリー・スー」は物語の世界観を破壊しかねないという理由からその存在そのものが忌み嫌われ、敬遠される傾向にあるのだそうですが、日本では一次創作からして「メアリー・スー」のごとき万能系の主人公が登場し他を圧倒して活躍する作品も珍しくない(創竜伝や薬師寺シリーズもそうですし)ためか、意外と受け入れられているフシが多々ありますね。
そして、「本編」も「亡命編」も含めた「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」もまた、典型的過ぎるほどに「メアリー・スー」の系譜に属する二次創作であると言えるでしょう。
この「メアリー・スー」のオリジナルキャラクターが持つ特性を、ヴァレンシュタインは軒並み踏襲している始末ですからねぇ(苦笑)。
以下のページでは、自分が作成した二次創作の「メアリー・スー度」を診断することができるのですが、作者氏自身の性格や意向が絡む要素を抜きにして「作中に表れている主人公の傾向」のみに限定しても、かなりの項目にチェックが入ってしまいますし↓

Mary Sueテスト
http://iwatam-server.sakura.ne.jp/column/marysue/test.html

同じサイトの別ページでは、「メアリー・スー」が良くない&嫌われる理由について、以下のようなメッセージが込められているからだと書かれています↓

http://iwatam-server.sakura.ne.jp/column/marysue/index.html
<今の自分は酷い扱いを受けているけど、本当は秘めた能力を持っている。自分がこんな扱いを受けているのは、単に自分の能力を発揮する機会を与えられなかっただけだ。今みたいに周囲に悪い人しかいないのではなく、良き理解者がいればもっと活躍できるのに。

思わず笑ってしまったのですが、これってヴァレンシュタインが常日頃抱いている被害妄想そのものでもありますよね。
ヴァレンシュタインはまさに、「自分のことを理解できない他人が悪い」「自分の意図を忠実に実行できない他人が悪い」「自分の意に沿わない他人は無条件で悪だから何をしても良い」「だから常に自分は正しく他人が悪い」的なことばかり主張し、自分の責任や失態を免罪すると共に他者を罵倒しまくっているのですから。
しかし、作中におけるヴァレンシュタインの言動が正当化されるためには、どう考えても「良き理解者」どころか「全知全能の神」でも味方につけないと不可能なレベルであるようにしか見えないのが何とも言えないところで(T_T)。
ヴァレンシュタインが「メアリー・スー」を貫くなら貫くで、もう少し読者にその有能さを納得させられるだけの理論的説得力や物語的な必然性といったものが伴っていて欲しいものなのですけど。
また、「メアリー・スー」は作者の願望や理想が投影されたものでもあるそうなのですが、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」の作者氏は、あんなシロモノになりたいとかアレが理想像であるとか本気で考えていたりするのですかねぇ……。
いくら希少価値があるからと言っても、狂人やキチガイに魅力を感じ憧れを抱くというのも考えものではあるのですが。

それでは、今回より第6次イゼルローン要塞攻防戦が終結して以降の話を検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11

暴言と失態を重ねるたびに何故か周囲から絶賛され昇進していく、原作「銀英伝」のビッテンフェルトすらも凌ぐ文字通りの「奇跡の人」ヴァレンシュタイン。
38話の軍法会議で、本来ならばありえるはずもない無罪判決を「神(作者)の奇跡」によって勝ち取ってしまったヴァレンシュタインは、しかしそのことについて神(作者)に感謝もしなければ悔い改めることもなく、相変わらずの「我が身を省みぬ狂人」ぶりを披露してくれています。
特に、ミュッケンベルガーが辞任して空位になった帝国軍宇宙艦隊司令長官の後任に誰が就くのかについて聞かれた際にこんな回答を返したことなどは、軍における自分とロボスの関係自体をすっかり忘れてしまっているのではないかとすら危惧せざるをえないほどなのですが↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/40/
> 部屋が静まり返りました。准将のいう事は分かりますが私にはどうしても納得いかないことが有ります。
> 「准将、周囲の提督達はどうでしょう。素直に命令に従うんでしょうか?」
>
> 私の問いかけに何人かが頷きました。そうです、いきなり陸戦部隊の指揮官が司令長官になると言っても提督達は納得できないと思うのです。准将は私の質問に軽く頷きました。
>
>
「従わなければ首にすれば良い。そして若い指揮官を抜擢すれば良いんです」
> 「若い指揮官?」
> 「ええ、今帝国で本当に実力が有るのは大佐から少将クラスに集中しているんです。彼らを抜擢して新たな宇宙艦隊を編成すればいい」
> 「……」

じゃあ何故ロボスは、上官侮辱行為だの214条発動の進言だのを行ったヴァレンシュタインを処断することができなかったのでしょうかねぇ(笑)。
「従わなければ首にすれば良い」というのであれば、当然ロボスもヴァレンシュタインに対してそれが行えたはずなのに。
ヴァレンシュタインがロボスに対して行っていたことは誰の目にも明らかな軍規違反だったのであり、またヴァレンシュタインがロボスに露骨なまでの反抗の意思を示していたのもこれまた明白だったのですから。
その際にヴァレンシュタインが自己正当化の手段として掲げていた「司令官は無能低能&無責任だ」程度の言い訳ならば、オフレッサーが自分達の上官になることに不満を持つ軍人であれば誰だって言うでしょうよ。
上記引用にもある通り、「いきなり陸戦部隊の指揮官が司令長官になると言っても提督達は納得できないと思う」事態は当然発生しえるのですから。
つまりヴァレンシュタインは、「あの場における自分は上官たるロボスに排除されて当然の人間だった」と自分から告白しているも同然であるということになってしまうわけです(爆)。
せっかく「神(作者)の奇跡」で無罪判決を恵んでもらったというのに、その正当性を自分から破壊するような言動を披露しているようでは世話はないですね。
まあそれ以前に、あの当時のヴァレンシュタインの立場で「自分は何故ロボスから処断されなかったのだろう?」と少しも疑問に思わないのは論外もいいところなのですが(苦笑)。

自分の身に起こっている「神(作者)の奇跡」を「望外の幸運」として感謝するどころか至極当然のものとすら認識しているヴァレンシュタインの傾向は、同盟軍における宇宙艦隊司令長官の後任人事話の際にも垣間見ることができます。
ここでヴァレンシュタインの恰好の被害妄想サンドバッグにされてしまっているのは、同盟軍ナンバー1の統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥です↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/41/
> 「なら、お前は誰が司令長官に相応しいと思うんだ」
> 「シトレ元帥です」
> 「な、お前何を言っているのか、分かっているのか?」
> ワイドボーンの声が上ずった。まあ驚くのも無理はないが……。
>
> 軍人トップの統合作戦本部長、シトレ元帥が将兵の信頼を取り戻すためナンバー・ツーの宇宙艦隊司令長官に降格する。本来ありえない人事だ。だがだからこそ良い、周囲もシトレが本気だと思うだろう。彼の“威”はおそらく同盟全軍を覆うはずだ。その前で反抗するような馬鹿な指揮官など現れるはずがない。オフレッサーにも十分に対抗できるだろう。
>
> 俺がその事を話すとワイドボーンは唸り声をあげて考え込んだ。
> 「これがベストの選択ですよ」
> 「それをシトレ元帥に伝えろと言うのか?」
> 「私は意見を求められたから答えただけです。どうするかは准将が決めれば良い。伝えるか、握りつぶすか……」
> 「……」
>
> 「これから自由惑星同盟軍は強大な敵を迎える事になる。保身が大切なら統合作戦本部長に留まれば良い。同盟が大切なら自ら火の粉を被るぐらいの覚悟を見せて欲しいですね」
>
> 蒼白になっているワイドボーンを見ながら思った。
シトレ、俺がお前を信用できない理由、それはお前が他人を利用しようとばかり考えることだ。他人を死地に追いやることばかり考えていないで、たまには自分で死地に立ってみろ。お前が宇宙艦隊司令長官になるなら少しは信頼しても良い……。

もうここまで来ると、ヴァレンシュタインは常に被害妄想を抱いていないと死んでしまう病気の類でも患っているのではないか、とすら思えてきてしまいますね(苦笑)。
シトレが第5次イゼルローン要塞攻防戦の際に宇宙艦隊司令長官の職にあったという作中事実を、まさかヴァレンシュタインが知らないわけはないでしょう。
別に原作知識とやらがなくても、「亡命編」の世界の人間であれば誰でも普通に理解できる「過去の作中事実」でしかないのですから。
「たまには自分で死地に立ってみろ」も何も、シトレはとっくの昔にヴァレンシュタインが所望する宇宙艦隊司令長官の職を経た上で現在の地位にあるわけなのですから、「お前が戦争に行け」論的な批判など最初から当てはまりようがないのですが。
そもそも軍に限らず、組織の長というのは「組織全体の方針を決める」「人を使っていく」ことをメインの仕事としているのであり、その観点から見ればシトレは自分の職務を忠実にこなしているだけでしかありません。
むしろ、その立場にある者が他者を使うことなく自分で全ての仕事を処理していくことの方が、人材を死蔵させ下の者の仕事を奪うという二重の意味で迷惑極まりない話なのであり、一般的な評価でも「本来やるべき仕事をしていない」と見做されて然るべき行為なのです。
人の上に立つ者には人の下で働く者とは別の責任と義務があるのであり、それは決して楽なものでも軽いものでもないということくらい、よほどのバカでもない限りは分かりそうなものなのですけどね。

それにヴァレンシュタインにとってのシトレは、「死地に追いやる」どころか、むしろ「一生の恩人」とすら言って良いほどの恩恵をヴァレンシュタインに与えているはずではありませんか。
7話におけるフェザーンで帝国軍人であるミュラーと秘密の会話を交わしていた件では、そのことを報告しなかったミハマ・サアヤ共々、法的にも政治的にも本来ならばスパイ容疑で処断されても文句は言えない局面でした。
しかしシトレは、それでもヴァレンシュタインを「殺すには惜しい有用な人材」であると考え、彼に本当の同盟人になってもらおうと意図してヴァンフリート4=2への赴任を命じたわけです。
しかも、ヴァレンシュタインの要望に100%応え、大規模な戦力を増強させるという便宜を図ってまで。
それでヴァレンシュタインがヴァンフリート星域会戦を勝利に導き、シトレの意図通りになったかと思いきや、今度は「伝説の17話」で極刑ものの自爆発言を繰り出してしまう始末。
シトレにしてみれば、せっかくヴァレンシュタインを登用し要望まで全部聞いてやったにもかかわらず、自分と同盟の双方に対する裏切りの意思まで表明され憎まれる羽目となったのですから、「あれだけのことをしてやったのに」「自分の方こそ裏切られた」と激怒しても良さそうなものだったのですけどね。
そしてさらに38話では、どう見ても214条発動の緊急避難性を何も証明できていないヴァレンシュタインに対し、わざわざ無罪判決を出してしまうという「贔屓の引き倒し」もはなはだしい茶番&八百長行為すらも堂々とやらかしてくれたシトレ。
これらの過去の経緯を鑑みれば、ヴァレンシュタインはシトレに対し「一生かかっても返せないほどの恩恵を与えてくれた恩人である」と絶賛すらして然るべきはずでしょう。
いくら「神(作者)の奇跡」という絶対的な力の恩恵だからとは言え、異様なまでに理解のあるシトレがヴァレンシュタインを贔屓していなければ、ヴァレンシュタインはとっくの昔に「亡命編」の世界からの退場を余儀なくされていたのは確実なのですから。
にもかかわらず、ヴァレンシュタインは「自分に対する最大の良き理解者」でさえあるはずのシトレにすら、一片の感謝の意も示さないどころか憎悪すらしているときているのですから、その想像を絶する被害妄想狂ぶりにはもう呆れるのを通り越して笑うしかありません。
自分がいかに原作知識や能力とは全く無関係なところから、それも常識ではありえないレベルで恩恵を享受している立場にあるのか、ヴァレンシュタインは一度死んでみないと理解できないのですかねぇ(笑)。

その後、ヴァレンシュタインはシトレに呼ばれ、トリューニヒトとレベロも交えた秘密の会合に参加することになります。
そこでヴァレンシュタインは、自身が初めて原作の流れに介入したアルレスハイム星域会戦以降における政治の舞台裏を知ることになります。
しかし、そこはやはりヴァレンシュタイン、他人を罵り自分を正当化するのは相変わらずのようで↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/43/
> 「彼には正直失望した。あの情報漏洩事件を個人的な野心のために利用しようとしたのだ。あの事件の危険性を全く分かっていなかった」
> トリューニヒトが首を振っている。ワインの不味さを嘆いている感じだな。シトレが顔を顰めた。つまりシトレにも関わりが有る……。
>
> ロボスはあの事件をシトレの追い落としのために利用しようとしたという事か。何をした? まさかとは思うが警察と通じたか? 俺が疑問に思っているとトリューニヒトが言葉を続けた。
>
> 「自分の野心を果たそうとするのは結構だが、せめて国家の利益を優先するぐらいの節度は持って欲しいよ。そうじゃないかね、准将」
> 節度なんて持ってんのか、お前が。持っているのは変節度だろう。
>
> しかし国家の利益という事は単純にトリューニヒトの所に駆け込んでこの件でシトレに責任を取らせ自分を統合作戦本部長にと言ったわけではないな。警察と裏で通じた……、一つ間違えば軍を叩きだされるだろう。となると捜査妨害、そんなところか……。
>
> 「節度がどうかは分かりませんが、国家の利益を図りつつ自分の野心も果たす。上に立とうとするならその程度の器量は欲しいですね」
> 「全くだ。その点君は違う。あの時私達を助けてくれたからね。国家の危機を放置しなかった。大したものだと思ったよ」
>
>
突き落としたのも俺だけどね。大笑いだったな、全員あの件で地獄を見ただろう。訳もなく人を疑うからだ、少しは反省しろ。まあ俺も痛い目を見たけどな。俺はもう一度笑みを浮かべてサンドイッチをつまんだ。今度はハムサンドだ。マスタードが結構効いてる。

「訳もなく人を疑う」も何も、当時のアンタは「帝国への逆亡命計画」などという、他者に露見したら重罪に問われること確実な後ろ暗い陰謀を普通に画策していたのではありませんでしたっけ?
しかもフェザーンでは、同盟側が抱いていたスパイ疑惑をわざわざ裏付けるような軽挙妄動に及んでいましたし、「伝説の17話」では同盟を裏切る意思表示までしていたのですから、同盟側のヴァレンシュタインに対する疑惑は全くもって正しいものだったと言わざるをえないところなのですが。
それを「少しは反省しろ」って、少しどころではなく本当に反省すべきなのは、目先の、それも逆恨みの類でしかない怒りに駆られて軽挙妄動した挙句、結果として自分の「帝国への逆亡命計画」を頓挫させてしまったヴァレンシュタイン自身でしょうに。
「あの時あんなバカな行動に走らなければ…」といった類の自省心を、ヴァレンシュタインは一片たりとも持ち合わせていないのか……とは今更問うまでもなかったですね(苦笑)。
上記引用のほんの少し前では、こんなことを平気で述べてもいたわけですし↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/42/
> 溜息が出る思いだった。発端はアルレスハイム星域の会戦だった。あそこでサイオキシン麻薬の件を俺が指摘した。その事がこの二人を結びつけロボスの失脚に繋がった。何のことは無い、俺が此処にいるのは必然だったのだ。にこやかに俺を見るトリューニヒトとシトレを見て思った、俺も同じ穴のムジナだと……。

ヴァレンシュタインの自業自得な軽挙妄動がなければ「帝国への逆亡命計画」の発動で帝国に帰れたかもしれず、シトレの異常なまでの「贔屓の引き倒し」がなければとっくの昔に処刑されていたことを鑑みれば、42~43話におけるヴァレンシュタインが置かれている状況は必然でも何でもありません。
狂人ヴァレンシュタインの狂気な言動と「神(作者)の奇跡」のコラボレーションによる超怪奇現象、それがこれまでのストーリーから導き出される正しい評価というものでしょう。
そして、そのような異常事態を作中の誰ひとりとして認識できないという事実こそが、この作品の醜悪な本質を表しているものであると言えるのかもしれません。

次回は引き続き、シトレ・トリューニヒト・レベロの3者と会合するヴァレンシュタインの主張を検証していきます。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察11

エーリッヒ・ヴァレンシュタインは、「本編」の初期の頃から一貫して「弁護士になりたい」という夢を語っています。
何でも、尊敬する(今世の)父親の職業が弁護士だったので、一緒に仕事をしたいというのが元々の理由だったとのこと。
その父親が変死しても「弁護士になりたい」という志望そのものは全く変わらなかったようで、「亡命編」でも同盟で弁護士資格を得るための勉強を行い、弁護士として生計を立てる計画を構想していたりします。
じゃあ何故同盟軍に入ってしまったんだ、とは以前の考察でも述べたことですが、実のところ、そもそもヴァレンシュタインは弁護士としての適性そのものが全く垣間見られない惨状を呈していたりするんですよね。
あの対人コミュニケーション能力の致命的な欠如ぶりと「何が何でも自分は正しく他人が悪い」という自己中心的な思考法は、弁護士のみならず「人付き合い」を重視する全ての職種で諸々の軋轢を引き起こすに充分過ぎるものがあります。
法廷の場でも、自制心そっちのけで依頼主や訴訟相手を罵倒しまくって審議を止めてしまったり、素行不良から法廷侮辱罪に何度も問われたりで、民事・刑事を問わず、裁判自体をマトモにこなすことすら困難を極めるであろうことは最初から目に見えています。
そして何よりも、今回取り上げることとなる38話の軍法会議の様相を見てみると、弁護士のみならず司法に携る者として最も大事なものがヴァレンシュタインには完全に抜け落ちてしまっており、性格面のみならず能力的にもこの手の職種に向いていないことが一目瞭然なのです。
作中で少しも言及すらされていない罪状の数々を前に、三百代言の詭弁にさえなっていない支離滅裂な内容の答弁でもって裁判に勝てるなんて、私に言わせればまさに「神(作者)の奇跡」以外の何物でもないのですが。
それでは、いよいよ第6次イゼルローン要塞攻防戦の締めを飾ることになる、自由惑星同盟軍規定第214条絡みの軍法会議の実態についての検証考察を行っていきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10

第6次イゼルローン要塞攻防戦における214条の発動に伴い、ハイネセンに帰還後、その是非について審議を行うための軍法会議が開廷されることとなりました。
これまで検証してきたように、ヴァレンシュタインは214条発動の件以外でも軍法会議で裁かれるに値する軍規違反行為を引き起こしていますし、214条発動自体、法的な発動条件が整っていたとは到底言い難いものがあります。
ところが作中における軍法会議では、まるで最初からヴァレンシュタインの勝利が確定しているかのような楽勝ムードで話が進行していくんですよね↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「偽りを述べると偽証罪として罰せられます、何事も偽りなく陳述するように」
> 判士長であるシトレ元帥が低く太い声で忠告し、ヴァレンシュタイン大佐が頷きました。私の時もありましたが身体が引き締まった覚えがあります。
>
> 宣誓が終わると早速検察官が質問を始めました。眼鏡をかけた痩身の少佐です。ちょっと神経質そうで好きになれない感じです。大佐を見る目も当然ですが好意的ではありません。何処か爬虫類のような目で大佐を見ています。
>
> 無理もないと思います。これまで開かれた六回の審理では原告側はまるで良い所が有りません。
いずれも皆、ロボス元帥の解任は至当という証言をしているのです。特に “ローゼンリッターなど磨り潰しても構わん! 再突入させよ!” その言葉には皆が厳しい批判をしました。検察官が口籠ることもしばしばです。

この審議過程を見ただけでも、今回の裁判における当事者達全員が「政治の問題」と「法規範の問題」を混同して論じているのが一目瞭然ですね。
この軍法会議で争点となるのは、最前線における214条発動およびロボスの解任強行が「法的に」かつ「緊急避難措置として」妥当なものだったのか、というものであるべきでしょう。
作中で説明されている法の内容に関する説明を見ても、それは明らかです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/29/
> 自由惑星同盟軍規定、第二百十四条……。細かな文言は忘れましたが戦闘中、或いはそれに準ずる非常事態(宇宙嵐、乱気流等の自然災害に巻き込まれた時を含む)において指揮官が精神的、肉体的な要因で指揮を執れない、或いは指揮を執るには不適格だと判断された場合(指揮官が指揮を執ることで味方に重大な損害を与えかねない場合だそうです)、その指揮下に有る部下が指揮官を解任する権利を有するといった内容の条文です。
(中略)
> 第二百十四条が適用された場合、後日その判断の是非を巡って軍法会議が開かれることになります。第二百十四条は緊急避難なのですからその判断の妥当性が軍法会議で問われるのです。軍の命令系統は上意下達、それを揺るがす様な事は避けなければなりません。そうでなければ第二百十四条は悪用されかねないのです。
(中略)
> この第二百十四条が適用されるのは主として陸戦隊が多いと聞いています。凄惨な白兵戦を展開している中で指揮官が錯乱し判断力を失う……。特に実戦経験の少ない新米指揮官に良く起こるそうです。

この立法趣旨から考えれば、あくまでも緊急避難の手段である214条は、その「緊急避難」の内容や是非こそが最も大事なのです。
ロボスがどれだけ無能だろうが失言をやらかそうが、その責任追及は戦闘終結後にいくらでも行える「先送りもやり直しも充分に可能なもの」でしかなく、それだけでは「緊急避難」の要件を満たすものではありえません。
上記引用にもあるように「司令官が発狂した」とか「司令官に明確な軍規違反行為があり、かつそれが味方を壊滅に追いやったり民間人に大被害が出たりする」とかいった事態でもなければ、「緊急避難」としての大義名分になどなりえないでしょう。
ロボスが無能で失言をやらかしたという「総司令官としての責任および政治的問題」と、最前線という場での解任強行についての是非という「法規範の問題」は、本来全く別に分けて論じるべき事案なのです。
また、数百万の艦隊を率いる総司令官という社会的地位と立場、および一会戦毎に最低でも数十万単位の人間が戦死する銀英伝世界の事情から考えると、数で言えば十万もいるかどうかというレベルの陸戦部隊がたとえ全滅したとしても、全体的なパーセンテージから見てそれが「【軍にとっての】重大な損害」であるとは言えません。
ただでさえ、軍における司令官という存在は、軍事的成果を上げるため、自軍の一部に犠牲を強いるような決断を余儀なくされることも珍しくない立場にあります。
それに対して「司令官として不適格」という烙印をいちいち押しまくっていたら、それこそ「一部の犠牲を忌避して全軍瓦解の事態を招く」という本末転倒な「【軍にとっての】重大な損害」を招くことにもなりかねないのです。

「【軍にとっての】重大な損害」というのであれば、むしろ214発動に伴う指揮系統の混乱の方がはるかにリスクが大きいのです。
最前線において指揮系統の混乱の隙を敵に突かれてしまえば、それこそ全軍瓦解の危機に直面することにもなりかねません。
そればかりか、214条発動で取って代わった臨時司令官を他の軍人達が承認せずに「非合法的な軍事クーデター」「反乱軍」と見做し、解任された上位者を担ぎ上げて再度叛旗が翻されるといった事態すらも構造的には起こりえるのです。
前回の考察でも引き合いに出していた映画「クリムゾン・タイド」でも、原子力潜水艦の艦長を解任した副長に不満と不安を抱いた艦長派の軍人達が、監禁状態にあった艦長を解放して担ぎ上げ、武器まで持ち出して副長のところに殴り込みをかけ、あわや一触即発の危機が現出した、という描写が展開されていました。
敵との戦闘が行われている最中、敵の眼前で味方同士が相撃つ事態なんて、それ自体が「【軍にとっての】重大な損害」、最悪は全軍壊滅という結末すらもたらしかねない超危機的状況なのですが。
ごく一部の部隊を救うために「軍事クーデター」紛いのことを引き起こして軍の秩序と指揮系統を混乱させ、全軍瓦解の危機を招くということが、果たして称賛されるべきことなのでしょうか?
すくなくとも、イゼルローン要塞に突入した陸戦部隊以外に所属する大多数の軍人達にとっては、それによって自分の生死が悪い方向へ作用することにもなりかねなかったわけで、むしろ214条発動に対する非難の声が沸き起こったとしてもおかしくないのではないかと思うのですけどね。
軍法会議の当事者達は、そういったリスクまで考えた上で214条発動の妥当性を論じているのでしょうか?
何よりも、214条発動の正しさを信じて疑わないヴァレンシュタインは、「陸戦部隊を救うために陸戦部隊以外の軍人全てを危機に陥れた」という構造的な問題を、果たして自覚できているのでしょうか?
「結果として犠牲が少なかったのだから……」などという言い訳は、こと裁判で有罪無罪の是非を論じる際には全く使えないどころか、むしろ「有罪の立証」にしかなりえないものでしかないのですけどねぇ。

さて、214条発動の妥当性を訴えるヴァレンシュタインの答弁ですが、これがまたありえないレベルで支離滅裂なタワゴトだったりするんですよね(苦笑)。
裁判の場におけるやり取りというよりは、トンチ小僧の一休さんと将軍様OR桔梗屋とのやり取りを髣髴とさせるシロモノでしかないですし↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「ヴァレンシュタイン大佐、貴方とヤン大佐、ワイドボーン大佐、そしてミハマ大尉は総司令部の作戦参謀として当初仕事が無かった、そうですね?」
> 「そうです」
>
> 「詰まらなかった、不満には思いませんでしたか?」
> 「いいえ、思いませんでした」
> 大佐の言葉に検察官が眉を寄せました。
不満に思っているという答えを期待していたのでしょう、その気持ちが二百十四条の行使に繋がったと持っていきたいのだと思います。
>
> 「おかしいですね、ヴァレンシュタイン大佐は極めて有能な参謀です。それが全く無視されている。不満に思わなかったというのは不自然じゃありませんか?」
> ヴァレンシュタイン大佐が微かに苦笑を浮かべました。
>
>
「仕事をせずに給料を貰うのは気が引けますが、人殺しをせずに給料を貰えると思えば悪い気持ちはしません。仕事が無い? 大歓迎です。小官には不満など有りません」
> その言葉に傍聴席から笑い声が起きました。検察官が渋い表情で傍聴席を睨みます。
>
> 「静粛に」
> シトレ元帥が傍聴席に向かって静かにするようにと注意しました。検察官が幾分満足げに頷きながら傍聴席から視線を外しました。そして表情を改めヴァレンシュタイン大佐を見ました。
>
> 「少し発言には注意してください、場合によっては法廷侮辱罪が適用されることもあります」
>
「小官は宣誓に従って真実を話しているだけです。侮辱するような意志は有りません」
> ヴァレンシュタイン大佐の答えに検察官がまた渋い表情をしました。咳払いをして質問を続けます。

ヴァレンシュタインって弁護士志望なのに、法廷侮辱罪がどういうものであるのかすらも理解できていないのですかね?
法廷侮辱罪における「侮辱」とは、裁判所の規則・命令などの違反・サボタージュ行為や裁判および裁判所そのものの権威を害する行為と定義されており、その中には審議を妨害すると判断される不穏当・不適切な言動なども含まれます。
現実世界の諸外国では、ズボンを下げてはく「腰パン」で裁判所に出廷した男が法廷侮辱罪に問われたり、法廷の場でチューイングガムを膨らませて破裂させた男が同じく法廷侮辱罪で禁固30日を言い渡されたりする事例があったりします。
法廷侮辱罪は、法廷の場における非礼・無礼な発言どころか、裁判の内容とは何の関係のないルックスや癖のような行動だけでも、その是非は別にして処罰の対象には充分なりえるわけです。
件のヴァレンシュタインの言動は、法廷の場における非礼・無礼な発言であることはむろんのこと、軍に対するある種の罵倒・誹謗にも該当します。
軍の職務を「人殺しの仕事」と断じ、怠けることを正当化する発言なんて、現代日本ですら非難の対象になるのは、かつての民主党政権における仙谷「健忘」長官の「暴力装置」発言の報道などを見ても一目瞭然です。
ましてや、日本以外の国における軍というのは、国民から一定の尊敬と敬意を払われるのが常なのですからなおのこと、軍に対する誹謗の類は下手すれば人非人的な扱いすら受けても文句が言えるものではないでしょう。
というか、法廷どころか一般的な社会活動やビジネスの場においてさえ、場の秩序を破壊しかねない非礼な言動をやらかせば、その態度を咎められるのは至極当然のことでしかないのですが。
この軍法会議におけるヴァレンシュタインの発言は、ヴァレンシュタイン的に真実を話していようがいまいが、その内容だけで法廷侮辱罪に問われるには充分過ぎるものがあります。
「真実を話しているだけ」「侮辱するような意志は有りません」とさえ言えばどんな非礼な暴言をやらかしても許される、というのであれば、法廷や裁判の内容に不満を持つ者は皆それを免罪符にして法廷を侮辱する諸々の行為をおっぱじめてしまうことにもなりかねないではありませんか。
ヴァレンシュタインは弁護士や法律に関する勉強どころか、「一般的な社会的常識を一から学習し直す」というレベルから人生そのものをやり直した方が良いのではないのでしょうか?

勝利を確信して思い上がっているのか、実は桁外れに危機的な状況に今の自分が置かれている事実に全く気づけていないのか、ヴァレンシュタインの法廷それ自体を侮辱するかのごとき言動はとどまるところを知りません↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「不謹慎ではありませんか? 作戦参謀でありながら仕事をしないのが楽しいなどとは。その職務を果たしているとは思えませんが?」
> 少し粘つくような口調です。ようやく突破口を見つけた、そう思っているのかもしれません。
>
>
「小官が仕事をすると嫌がる人が居るのです。小官は他人に嫌がられるような事はしたくありません。特に相手が総司令官であればなおさらです。小官が仕事をしないことで総司令官が精神の安定を保てるというなら喜んで仕事をしません。それも職務でしょう」
> そう言うと大佐は僅かに肩をすくめるしぐさを見せました。その姿にまた傍聴席から笑い声が起きました。

これなんて、ヴァレンシュタインのロボスやフォークに対する罵倒や非難や諫言などの一切合財全てが「嫌がらせ」の一環として行われていた、と自分から告白しているも同然のシロモノでしかありませんね(爆)。
ロボスに対するヴァレンシュタインの上官侮辱罪が、軍の秩序や最善を尽くす目的から出たものではなく単なる個人的感情に基づいたものでしかないことを、ヴァレンシュタインは自ら積極的に裏付けてしまっているわけで、これはまた悲惨過ぎる自爆発言以外の何物でもないでしょう。
裁判を舐めきって次から次に墓穴を掘りまくっているはずのヴァレンシュタインに対して、しかし検察官は何故か一層悲痛な面持ちで質問を繰り返すありさまです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「十月に行われた将官会議についてお聞きします。会議が始まる前にグリーンヒル大将から事前に相談が有りましたか?」
> 「いいえ、有りません」
> その言葉に検察官の目が僅かに細まりました。
>
> 「嘘はいけませんね、大佐。グリーンヒル大将が大佐に、忌憚ない意見を述べるように、そう言っているはずです」
> 「そうですが、それは相談などではありません。小官が普段ロボス元帥に遠慮して自分の意見を言わないのを心配しての注意です。いや、注意でもありませんね、意見を述べろなどごく当たり前の事ですから」
>
> 検察官がまた表情を顰めました。
検察官も気の毒です、聞くところによると彼はこの軍法会議で検察官になるのを嫌がったそうです。どうみても勝ち目がないと思ったのでしょう。ですが他になり手が無く、仕方なく引き受けたと聞いています。

もし私が件の検察官の立場にいたら「表情を顰め」るどころか、むしろ「勝利を確信した得意満面な笑み」すら浮かべるところですけどねぇ(苦笑)。
何しろこの時点でさえも、ヴァレンシュタインの法廷侮辱罪と上官侮辱罪は既に確定しているも同然であるばかりか、それらが情状酌量の余地すらも皆無なものであることを、当のヴァレンシュタイン自身が自ら積極的に裏付けていっているのですから(爆)。
そして、特に上官侮辱罪の有罪が確定すれば、214条発動の件もそれと関連付けることで、ヴァレンシュタインの正当性、および判事を中心とするヴァレンシュタインに対する心証の双方に大きなダメージを与えることも可能となります。
状況証拠的に見ても、個人的感情から上官侮辱罪をやらかして平然としているような人間が全く同じ動機から214条発動を行わないわけがない、と第三者から判断されても何ら不思議なことではないばかりか、むしろそれが当然の帰結ですらあるのですから。
検察側から見れば、「どうみても勝ち目がない」どころか「(検察側の)負ける要素が全く見出せない」というのが正しい評価なのですけどね、この軍法会議は。

全体的な流れから見れば枝葉末節な部分ばかり論じつつ、しかもそこでさえ、ひたすら墓穴を掘るばかりのヴァレンシュタイン。
既に取り返しのつかない失点を稼ぎまくっているヴァレンシュタインは、しかしその事実を少しも認識すらすることなく、今度は25話でフォークを卒倒させロボスを侮辱した件についての正当性を述べることとなります↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「大佐はどのように受け取りましたか?」
> 「その通りに受け取りました。将官会議は作戦会議なのです、疑義が有ればそれを正すのは当然の事です。そうでなければ不必要に犠牲が出ます」
> 検察官がヴァレンシュタイン大佐の言葉に一つ頷きました。
>
> 「ヴァレンシュタイン大佐、大佐は将官会議でフォーク中佐を故意に侮辱し、会議を終了させたと言われています。今の答えとは違うようですが」
> 低い声で検察官が問いかけます。勝負所と思ったのかもしれません。
>
> 傍聴席がざわめきました。この遠征で大佐が行った行動のうち唯一非難が出るのがこの将官会議での振る舞いです。私はその席に居ませんでしたが色々と話は聞いています。確かに少し酷いですし怖いと思いました。
>
> 大佐は傍聴席のざわめきに全く無関心でした。検察官が低い声を出したのにも気付いていないようです。穏やかな表情をしています。
>
「確かに小官はフォーク中佐を故意に侮辱しました。しかし将官会議を侮辱したわけではありません。フォーク中佐とロボス元帥は将官会議そのものを侮辱しました」
>
> 「発言には注意してください! 名誉棄損で訴えることになりますぞ!」
> 検察官がヴァレンシュタイン大佐を強い声で叱責しました。ですが大佐は先程までとは違い薄らと笑みを浮かべて検察官を見ています。思わず身震いしました、大佐がこの笑みを浮かべるときは危険です。
>
> 「将官会議では作戦の不備を指摘しそれを修正することで作戦成功の可能性を高めます。あの作戦案には不備が有りました、その事は既に七月に指摘してあります。にもかかわらずフォーク中佐は何の修正もしていなかった。小官がそれを指摘してもはぐらかすだけでまともな答えは返ってこなかった」
> 「……」
>
> 「フォーク中佐は作戦案をより完成度の高いものにすることを望んでいたのではありません。彼は作戦案をそのまま実施することを望んでいたのです。そしてロボス元帥はそれを認め擁護した……」
> 「……」
>
>
「彼らは将官会議を開いたという事実だけが欲しかったのです。そんな会議に何の意味が有ります? 彼らは将官会議を侮辱した、だから小官はフォーク中佐を挑発し侮辱することで会議を滅茶苦茶にした。こんな将官会議など何の意味もないと周囲に認めさせたのです。それが名誉棄損になるなら、どうぞとしか言いようが有りません。訴えていただいて結構です」
>
> 検察官が渋い表情で沈黙しています。名誉棄損という言葉にヴァレンシュタイン大佐が怯むのを期待したのかもしれません。甘いです、大佐はそんなやわな人じゃありません。外見で判断すると痛い目を見ます。外見は砂糖菓子でも内面は劇薬です。

一般的な裁判ではあるまいし、何故ここで出てくる罪名が「名誉毀損」なのでしょうか?
ここで本来出すべき罪名は上官侮辱罪でしょうに。
ロボスに214条を発動しても、ロボスが第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインの上官であるという事実は全く消えることなどないのですし、軍法会議で勝訴しても、それが適用されるのはあくまでも214発動についてのみであり、上官侮辱罪までもが免罪されるわけではないのですが。
民法で定められた名誉毀損や刑法における名誉毀損罪があくまでも「個人」に対するものであるのに対して、軍法における上官侮辱罪は「軍」に対して犯す犯罪行為であるとされており、その意味合いも刑罰も名誉毀損とは全く異なります。
軍に対する犯罪行為を犯した、という時点で、軍法会議におけるヴァレンシュタインの有罪は確定したも同然となってしまうのですけどねぇ(苦笑)。
この軍法会議の場でまたもやロボスに対する罵倒を蒸し返していることも、「上官侮辱罪の現行犯」として普通に不利に働くのですし。
しかも前述したように、上官侮辱罪が確定してしまったら、それが214条発動の件とも関連付けられるのは確実なのですから、なおのことヴァレンシュタインは進退窮まることになってしまうのですが。
そして、ロボスやフォークが将官会議を侮辱していたという事実が正しいとしても、その行為自体は何ら軍法に抵触するものではないのに対して、ヴァレンシュタインの上官侮辱罪は完全無欠な軍規違反行為です。
すくなくとも法的に見れば、裁かれるべきは上官侮辱罪を犯したヴァレンシュタインただひとりなのであり、ロボスやフォークの行為は何ら問題となるものではないのです。
ロボスやフォークの行為が「政治的・軍事的」に問題があるからといって、自身の「法的な」違反行為が免罪されるとでも思っているのでしょうか?
それこそ、法律を何よりも重視すべき弁護士が一番陥ってはならない陥穽でもあるはずなのですけどねぇ(笑)。

読者の視点的には自滅と奈落への道をひたすら爆走しているようにしか見えないのに、当のヴァレンシュタインは逆に勝利を確信すらしており、むしろここが勝負どころとばかりに、214条発動の正当性を訴え始めます。
しかし、その弁論内容がまた何とも笑えるシロモノでして↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 「フォーク中佐は健康を損ねて入院していますが……」
> 「フォーク中佐個人にとっては不幸かもしれませんが、軍にとってはプラスだと思います」
> 大佐の言葉に傍聴席がざわめきました。酷いことを言っているというより、正直すぎると感じているのだと思います。
>
> 「検察官はフォーク中佐の病名を知っていますか?」
> 「転換性ヒステリーによる神経性盲目です……」
> 「我儘一杯に育った幼児に時としてみられる症状なのだそうです。治療法は彼に逆らわないこと……。
彼が作戦を立案すると誰もその不備を指摘できない。作戦が失敗しても自分の非は認めない。そして作戦を成功させるために将兵を必要以上に死地に追いやるでしょう」
>
> 法廷が静まりました。隣にいるシェーンコップ大佐も表情を改めています。
>
「フォーク中佐に作戦参謀など無理です。彼に彼以外の人間の命を委ねるのは危険すぎます」
> 「……」
>
>
「そしてその事はロボス元帥にも言えるでしょう。自分の野心のために不適切な作戦を実施し、将兵を無駄に戦死させた。そしてその現実を認められずさらに犠牲を増やすところだった……」
> 「ヴァレンシュタイン大佐!」
> 検察官が大佐を止めようとしました、しかし大佐は右手を検察官の方にだし押さえました。
>
> 「もう少し話させてください、検察官」
> 「……」
>
「ロボス元帥に軍を率いる資格など有りません。それを認めればロボス元帥はこれからも自分の野心のために犠牲者を増やし続けるでしょう。第二百十四条を進言したことは間違っていなかったと思っています」
>
>
この発言が全てを決めたと思います。検察官はこれ以後も質問をしましたが明らかに精彩を欠いていました。おそらく敗北を覚悟したのでしょう。

……あの~、犯罪者の自己正当化よろしくヴァレンシュタインがしゃべり倒した一連の発言の一体どこに、「(軍法会議の帰趨を決するだけの)全てを決めたと思います」と評価できるものがあるというのでしょうか?
ヴァレンシュタインが長々と主張していたのは「ロボスやフォークの軍人としての無能低能&無責任」だけでしかなく、それだけで「214条発動を正当化しえるだけの緊急避難性を有する」とは到底判断しえるものではないのですが。
何度も言っていますが、ロボスやフォークが無能低能&無責任というだけであれば、戦闘が終わってハイネセンに帰還してから改めてその責を問うという方針でも、何ら問題が生じることはありえません。
ロボスが総司令官であることを鑑みれば、最前線の陸戦部隊が仮に壊滅したとしても、全軍の規模からすればその損害も微々たるものでしかない以上、緊急避難としての要素を満たすものとは到底なりえず、これまた戦後に責任を追及すればそれで足りることです。
そもそも、当のヴァレンシュタイン自身、第6次イゼルローン要塞攻防戦時におけるロボスが、遠征軍全てを壊滅状態に追い込むほどの状態にあるとまではさすがに断じえておらず、最悪でもせいぜい陸戦部隊の壊滅に止まるという想定が関の山だったはずでしょう↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> 問題は撤退作戦だ。イゼルローン要塞から陸戦隊をどうやって撤収させるか……。いっそ無視するという手もある。犠牲を出させ、その責をロボスに問う……。イゼルローン要塞に陸戦隊を送り込んだことを功績とせず見殺しにしたことを責める……。
>
> 今日の会議でその危険性を俺が指摘した。にもかかわらずロボスはそれを軽視、いたずらに犠牲を大きくした……。
ローゼンリッターを見殺しにするか……、だがそうなればいずれ行われるはずの第七次イゼルローン要塞攻略戦は出来なくなるだろう。当然だがあの無謀な帝国領侵攻作戦もなくなる……。トータルで見れば人的損害は軽微といえる……。

ヴァレンシュタイン御用達の原作知識とやらから考えても、アムリッツァの時はともかく、第6次イゼルローン要塞攻防戦当時のロボスにそれ以上のことなどできるはずがないであろうことは、さすがのヴァレンシュタインといえども認めざるをえなかったわけでしょう。
そして、214条の立法趣旨から言えば、ロボスが総司令官の職にあることで遠征軍それ自体が壊滅レベルの危機に直面する、もしくはロボスに重度の精神錯乱ないしは重大な軍規違反行為が認められ総司令官としての任務遂行それ自体に多大な支障をもたらす、といった事態でもない限り、「214条発動を正当化しえるだけの緊急避難性を有する」とは雀の涙ほども断じられるものではありません。
ましてや、214条の発動それ自体が全軍に混乱をもたらしかねない極めて危険な要素があることを考えればなおのこと、その危機的状況をすらも上回る、それも「一刻を争う」「やり直しも先送りも全くできず、その場での決断を余儀なくされる」レベルの超緊急避難性を、ヴァレンシュタインが軍法会議で主張しなければならないのは自明の理というものです。
この「214条発動を正当化しえるだけの緊急避難性」について、軍法会議におけるヴァレンシュタインは実質的に何も主張していないも同然なのです。
自らの正当性について何も主張していないのに、それが何故「(軍法会議の帰趨を決するだけの)全てを決めたと思います」という話になってしまうのでしょうか?

というか、一連のやり取りを見ていると、ヴァレンシュタインはただ単に「ロボスやフォークに対する自分の印象や評価」を述べているだけでしかなかったりするんですよね。
原作知識があるとは言え、個人的な印象や評価が最悪だから軍法を悪用した緊急避難措置を行っても許される、と言わんばかりなわけです。
これって原作「銀英伝」における救国軍事会議クーデターや、戦前の日本で5・15事件や2・26事件を引き起こした青年将校達の論理と、根底の部分は全く同じであるとしか言いようがありませんね。
当のヴァレンシュタイン自身が常に抱いている「自分は絶対に正しく他人が悪い」という独善的な発想からして、「我々は理想や大儀があるから絶対に腐敗などしない!」などとほざいていた救国軍事会議クーデターの面々に通じるものがあるのですし(笑)。
そう考えると、他に担ぎ上げる人物がいなかったとは言え、グリーンヒル大将を押し立てて214条を発動させるというヴァレンシュタインのやり方それ自体が、形を変えた救国軍事会議クーデターそのものであるとも言えるわけで、何とも皮肉な限りではありますね(苦笑)。
ひょっとするとヴァレンシュタインは、原作における救国軍事会議クーデターが実は正しいものであると信じていて、彼らの主張に共感したりしていたのでしょうか?
まあ、文字通りの「自制心がなく常に暴走する青年将校」という点で共通項があるわけですから、好悪いずれにせよ感情的な反応を示さない方がむしろ不思議な話ではあるのかもしれませんが(爆)。
これでヴァレンシュタインが、原作における救国軍事会議クーデターの構成メンバーを罵倒しまくっていたりしていたら、なかなかに面白い同族嫌悪・近親憎悪な構図であると言わざるをえないところですね(笑)。

ここまで主張に穴がありまくり過ぎる上に、214条の正当性について何も述べていないに等しいヴァレンシュタインに対して、しかし何故軍法会議は無罪判決なんて下してしまうのでしょうかねぇ。
214条発動の件とは別に総司令官としての責任が問われる立場にあるロボスはともかく、ヴァレンシュタインが無罪というのはどう考えてもありえない話なのですが↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/38/
> 軍法会議が全ての審理を終え判決が出たのはそれから十日後の事でした。グリーンヒル参謀長とヴァレンシュタイン大佐は無罪、そしてロボス元帥には厳しい判決が待っていました。
>
> 「指揮官はいかなる意味でも将兵を己個人の野心のために危険にさらす事は許されない。今回の件は指揮官の能力以前の問題である。そこには情状酌量の余地は無い」

「亡命編」38話時点において、ヴァレンシュタインが犯した軍規および法律に対する違反行為というのは、実にこれだけのものがあったりするんですよね↓

1.フェザーンにおける帝国軍人との極秘接触スパイ容疑、国家機密漏洩罪)
2.ヴァンフリート星域会戦後の自爆発言スパイ容疑、必要な情報を軍上層部に対し隠匿し報告しなかった罪、国家反逆罪
3.ロボスに対する罵倒上官侮辱罪
4.214条発動(敵前抗命罪、党与抗命罪)【審議中】
5.イゼルローン要塞における敵前交渉上層部への確認を行わない独断専行、スパイ容疑、国家機密漏洩罪、国家反逆罪)
6.軍法会議における一連の言動法廷侮辱罪、上官侮辱罪

赤文字部分は事実関係から見ても無罪とは言えない嫌疑、またはヴァレンシュタイン自身が認めている罪。

作中におけるヴァレンシュタインが実際にどんな行動を取っていたかはともかく、同盟側としては状況から考えてこれだけの行為から想定される罪を嫌疑し起訴することが、理論的には充分に可能なわけです。
そして「1」「2」「3」「6」、および「5」の独断専行については、当の本人が自ら積極的に事実関係を認めてしまっているのですから、それで無罪になるということはありえません。
これだけの「前科」があるのであれば、「4」の214条発動についても、その「前科」の存在だけでまず動機が関連付けられることになってしまいますし、特に「2」で同盟に対する裏切りの意思を表明しているのは致命傷とならざるをえないでしょう。
元々「2」単独でも、ヴァレンシュタインを処刑台に送り込むには充分過ぎる威力を誇っていますし(苦笑)。
しかも最高判事であるシトレは、このヴァレンシュタインが犯した1~6の罪状を全て知り尽くしているはずなのですから、「法の公正」という観点から見てもなおのこと、ヴァレンシュタインに対して手心を加えたりなどしてはならないはずなのですが。
これで無罪になるというのは、もはやこの軍法会議それ自体が、実は軍法に基づかない「魔女裁判」「人民裁判」的な違法かつ茶番&八百長なシロモノであるとすら評さざるをえないところなのですが。
そこまでしてヴァレンシュタインに加担などしなければならない理由が、同盟軍の一体どこに存在するというのでしょうか?

また、ここでヴァレンシュタインの214条発動行為を合法として認めてしまうと、それが「判例」として成立してしまい、以後、この軍法会議の審議と判決を錦の御旗にした214条の発動が乱発される事態をも引き起こしかねません。
何しろ、個人的な評価に基づいて「あいつは無能低能&無責任である」と断じさえすれば、それが214条発動の法的根拠たりえると言っているも同然なわけなのですからね(爆)。
今後の同盟で、上官との人間関係が最悪で常に自分の意見を却下されている部下が、私怨的な理由から上官に対する214条発動を行使することなどないと、一体誰が保証してくれるというのでしょうか?
裁判における「判例」というものは、判決が下った1案件だけでなく、今後発生しえるであろう同様のケースにも適用されるものとなりえるのですから。
何よりも、同盟軍においてこの「判例」が真っ先に適用されそうな人間は、他ならぬヴァレンシュタイン自身だったりするのですし(爆)。
極端なことを言えば、フォークのような部下がヴァレンシュタインのごとき上位者に対して「あいつは無能低能&無責任である」として214条を発動したとしても、それが他者から支持されるか否かは別として法的・判例的には妥当であると見做される、などという滑稽な事態すらも将来的には招きかねないのです。
ヴァレンシュタインも一応弁護士志望だったのであれば、そして何よりも「自分が生き残る」ということを最優先目標としているのであれば、他ならぬ自分自身が作り上げてしまった「判例」が自分に跳ね返ってくる危険性を、否が応にも見据えていなければならなかったはずなのですけどねぇ。

この軍法会議におけるヴァレンシュタインの最大の問題は、「結果さえ出せれば軍規違反は正当化される」という致命的な勘違いに基づいて弁論を繰り広げていることにあります。
結果さえ出せれば過程は問われない、というのは政治に対する考え方なのであって、裁判の場ではむしろ全く逆に「過程が全て」「法律が全て」という発想で臨まなければなりません。
裁判の場において「結果を出したのだから良いじゃないか」と主張する行為は、その時点で法律違反や有罪を自分から認めているも同然であり、「戦わずして敗北している」のと何も変わるところがないのです。
裁判の場における「政治的結果」というのは、自分の罪を認めた上での情状酌量を求めるためのものでしかありえないのですから。
最初から有罪・敗訴を前提として答弁を繰り広げるなんて、弁護士の法廷戦略としては最低最悪の手法以外の何物でもありません。
その最低最悪の手法について何の疑問も嫌悪も抱くことなく、むしろ得意気になって振り回したりしているからこそ、ヴァレンシュタインに弁護士としての適性は全くないと私は評さざるをえないわけです。
今回の軍法会議でも、ヴァレンシュタインは「法的な問題」について結局何も主張していないも同然の惨状を呈していたのですし。
弁護士としてのヴァレンシュタインは、現実世界で言えば、殺人容疑の被告に対し「ドラえもんが助けてくれると思った」などと主張する行為を許したトンデモ人権屋弁護士と同レベルな存在であると言えるのではないでしょうか?

あと、今回の軍法会議における描写は、ヴァレンシュタインの弁論術とロボスに対する圧倒的優勢ぶりを際立たせることを目的に、「神(作者)」がヴァレンシュタインにとって都合の悪い罪の数々を意図的に触れさせないようにしているのがありありと見受けられますね。
軍法的には、フォークへの侮辱よりもロボスへのそれの方がはるかに重大事項であるにもかかわらず、そちらの方はおざなりな言及しかされていませんし。
他にも、前回の考察で言及した敵前交渉の決定・実行における独断専行やスパイ容疑などの件についても、法的どころか政治的な観点から見てさえも多大な問題を抱えこんでいながら、そちらに至っては一言半句たりとも言及すらされていない始末です。
まあ下手にそれらの罪を検察官が指摘してしまおうものならば、その時点で軍法会議におけるヴァレンシュタインの有罪が確定してしまうのでやりたくてもやれなかった、というのが実情ではあるのでしょうが、おかげさまでストーリー展開としてはあまりにも不自然極まりないシロモノとなってしまっています。
検察官が創竜伝や薬師寺シリーズの三流悪役ばりに無能過ぎて、およそ現実的にはありえない存在に堕していますし、前述のように裁判自体も恐ろしく茶番&八百長的な印象が拭えないところです。
作者的には、この一連の描写でヴァレンシュタインの正当性と強さを読者に見せつけたかったところなのでしょうが、最大限好意的に見ても「釣り」の類にしかなっていないですね。
主人公の有能性と人格的魅力(爆)をこんな形でしか描けない、というのは、作品および作者としての限界を示すものでもあると言えるのではないでしょうか?

次回より、第6次イゼルローン要塞攻防戦終結以降の話の検証へ移ります。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察10

「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察も、いつのまにやら10回目の節目を迎えることとなりました。
出てくる度に被害妄想狂ぶりを発揮しまくり、フォークやロボスばりの自己中心的な態度に終始する狂人ヴァレンシュタインの言動にあまりにもツッコミどころが多すぎ、その対処にひたすら追われているがために、10回目到達時点での話数消化はようやく30話に届いたかどうかという遅々とした状況にあります(T_T)。
当初の予定では、もうとっくに最新話まで追いついていたはずなのですが……(-_-;;)。
ここまでヴァレンシュタインの言動で問題が頻出し醜悪極まりないシロモノにまで堕しているのは、結局のところ「自分を特別扱いし過ぎる」という一点に尽きるでしょう。
ヴァレンシュタインが他者を批判する際、彼は「その批判が自分自身にも当てはまってしまうのではないか?」ということを全く考えすらもしないんですよね。
自分の足元を固めずに相手を罵り倒すことにばかり傾倒するものだから、相手に対する非難や罵倒がブーメランとなってそっくりそのまま自分自身に跳ね返ってきてしまい、あっという間にボロを出す羽目となってしまうわけです。
「亡命編」におけるロボスやフォークに対するヴァレンシュタインの批判内容なんてまさにその典型例ですし、攻撃に特化し過ぎて防御がおろそかになっている以外の何物でもありません。
自分が批判すらも許されない神聖不可侵にして絶対の存在だとでも考えていない限り、こんな愚行をやらかすはずもないのですけどねぇ。
本当に強い理論というのは、批判対象と同様に自分自身をも含めた他の事象にも適用しうるか、あるいは「場面毎に主張が変わる具体的な理由」を万人に明確に提示することを可能とする「一貫性のある論」なのであって、それができないダブスタ&ブーメラン理論などは愚の骨頂もはなはなだしいでしょうに。
他者を批判する前に自分の襟を正し、自分の言動が自分自身に適用されないよう配慮する、ということを行っていくだけでも、今のヴァレンシュタインの惨状はかなり改善されるのではないかと思えてならないのですがね。
まあ、そんなことは太陽が西から上るがごとく、最初から不可能な話ではあるのですが(爆)。
では今回も引き続き、第6次イゼルローン要塞攻防戦における狂人ヴァレンシュタインの狂態ぶりを見ていきましょう。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-604.html(その6)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-608.html(その7)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-614.html(その8)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-625.html(その9)

自分から上官侮辱罪をやらかして総司令部の雰囲気を悪戯に悪化させたにもかかわらず、そのことに対する反省もなしに全ての責任をロボスに擦りつけるヴァレンシュタインは、帝国軍から逆襲されて作戦が潰えた後も、勝算もないままに陸戦部隊の再突入を強硬に命じたロボスに対し、自由惑星同盟軍規定第214条という実力行使に出ることをグリーンヒル大将に発案します。
「亡命編」のオリジナル設定である自由惑星同盟軍規定第214条とは、部隊の指揮官が錯乱状態などに陥りマトモな戦闘指揮が行えなくなった際に、次席の人間がその指揮官を排除してその指揮権を引き継げることを可能とする法です。
これを読んで個人的に思い出したのは、1995年公開の映画「クリムゾン・タイド」ですね。
この映画では、通信機の損傷により外部との連絡が途絶した原子力潜水艦の中で、途中まで送られていた暗号文の解釈を巡り、ただちに(核?)ミサイルを発射して先制攻撃すべきという艦長と、まずは通信内容の確認を行うべきだとする主人公の副長が対立し、独断で攻撃を強行しようとする艦長に対し、副長が指揮権剥奪を宣告し拘束させるという場面があります。
このケースでは、艦長に対して「通信の確認を行わずに攻撃を行おうとした」「攻撃には副長の同意も必要なのにそれを無視しようとした」という軍規違反の口実が使えましたし、下手すれば無辜の市民が虐殺されたり第三次世界大戦が勃発したりしかねないような状況でもあり、誰もが時間に追われ決断を迫られる極限状態にもありました。
この映画のラストでも軍法会議が開かれ潜水艦内での問題が審議されたのですが、裁判の場でも「どちらが全面的に正しい&間違っているとは言えない」という流れと結論に終始していました。
もっとも最終的には、年配の艦長が副長に後事を託し引退することで主人公の正しさを認める、という形で終わっていましたが。
軍内でこのような対立が起こったり、あまつさえ下位の人間が上官から権限を剥奪したりするというのはそれ自体が大変な問題行為でもあり、だからこそ、214条のような規定は乱用されないようにすべきものでもあるわけです。

しかし今回の場合、そもそもロボスは同盟軍の軍規に違反したり自軍に多大な損害を与えたりする一体どんな行為を行っていたというのでしょうか?
確かにロボスは、自身のメンツにこだわって勝算も成功率も皆無としか言いようのない無謀な命令を繰り出してはいましたし、「ローゼンリッターなど磨り潰しても構わないから再突入させろ!」とまでのたまってはいました。
それは確かに味方の損害を増やす愚行であったことは間違いないのですが、しかし総司令官としてそのように命じること自体は何ら軍規に違反する行為ではありません。
また、仮にイゼルローン要塞に突入したローゼンリッターどころか陸戦部隊の多くが壊滅状態になったとしても、それで全軍が瓦解するわけではなく、すくなくとも艦隊決戦に比べれば、全体から見た損害も微々たるもので済みます。
極端なことを言えば、いざとなれば陸戦部隊を切り捨てて撤退しても、軍の維持という点では大きな問題は発生しようもなかったわけです。
もちろん、陸戦部隊を身捨てる立場となるロボスが、後日に総司令官として相応の責任が問われ糾弾されることになるのは確実でしょうが、それをもって軍規違反に問うたり精神錯乱の疑いをかけたりすることは不可能なのです。
むしろロボスの場合は、軍規通りに総司令官として振舞った結果がああだったわけで、その点でロボスに軍法違反の容疑で解任を迫るというのは無理筋もいいところでしょう。
ここでロボスがさらに狂気に走って同盟全軍にイゼルローン要塞への特攻を命じる、といったレベルにまで至れば、さすがに214条の発動にもある程度の正当性が出てくるかもしれませんが、あの状況では「最悪でも陸戦部隊の壊滅だけで事は収まる」可能性の方が高いのです。
原作の第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるロボスの言動を見ても、その辺りを落としどころにする可能性は大なのですし、他ならぬヴァレンシュタイン自身もそう考えていたはずでしょうに。
むしろ、214条発動に伴う混乱の隙を突かれる危険性の方が問題と言えるものがあります。
指揮系統が混乱しているところに敵の攻撃を受ければ、それこそ全軍が瓦解する危機を自ら招きかねないのですから。
遠征軍全体から見れば最大でも数%程度しかいない陸戦部隊の危機を救うために、全軍を危機に晒す必要があの状況で果たしてあったのでしょうか?
これらのことから考えると、あの場面で214条発動の条件が整っていたとは到底言い難いものがあります。
ロボス個人が無能低能であることと、軍法に基づいた行動を取り軍の秩序を守ることは全く別のカテゴリーに属する話であり、それを一緒くたにして断罪すること自体に無理があり過ぎるのです。

かくのごとく問題だらけの214条発動を、例によって例のごとく自らの実力ではなく神(作者)の介入によって御都合主義的に切り抜けてしまったヴァレンシュタインは、ロボスを放逐した後に陸戦部隊救出のための指揮を取り、味方の撤退を見届けるべくイゼルローン要塞内の最前線に最後まで留まることを自ら志願します。
ロボスに代わって臨時の総司令官となったグリーンヒル大将は、「毒を食らわば皿まで」と言わんばかりにそれを承認し、かくしてヴァレンシュタインはイゼルローン要塞の最前線へと向かうこととなるのでした。
最前線に到着したヴァレンシュタインは、まずは最前線の指揮官が誰であるのかを捕虜に問い質し、オフレッサー・リューネブルク・ラインハルトの3者であるとの回答を得ます。
必要な情報を得たヴァレンシュタインでしたが、捕虜の中に自身の旧友であるギュンター・キスリングがいることを確認し驚愕。
何故彼が負傷した状態でここにいるのか熟考するヴァレンシュタインに不審を抱いた捕虜のひとりが、以下のような行動に出ることとなるのですが……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/32/
> 「あんた、エーリッヒ・ヴァレンシュタイン大佐か?」
> いつの間にか思考の海に沈んでいたらしい。気が付くと体格の良い男が俺が絡むような口調で問いかけてきていた。
>
> 「……そうです」
> 俺が答えるのと同時だった。そいつが吠えるような声を上げていきなり飛びかかってきた。でかいクマが飛びかかってきたような感じだ。
>
> しゃがみこんでそいつの足に荷電粒子銃の柄を思いっきり叩きつけた。悲鳴を上げて横倒しにそいつが倒れる。馬鹿が! 身体が華奢だから白兵戦技の成績は良くなかったが、嫌いじゃなかった。舐めるんじゃない。お前みたいに向う脛を払われて涙目になった奴は一人や二人じゃないんだ。
>
> 立ち上がって荷電粒子銃をそいつに突きつける。他の二名は既にローゼンリッターの見張りが荷電粒子銃を突きつけていた。
> 「ヴァレンシュタイン大佐! 大丈夫ですか!」
> 「大丈夫ですよ、リンツ少佐」
>
> 「貴様、一体どういうつもりだ! 死にたいのか!」
> リンツが体格の良い男、クマ男を怒鳴りつけた。
> 「う、うるせえー。ヴァンフリートの虐殺者、血塗れのヴァレンシュタイン!俺の義理の兄貴はヴァンフリート4=2でお前に殺された。姉は自殺したぜ、この裏切り者が!」
>
> クマ男の叫び声に部屋の人間が皆凍り付いた。
姉が自殺? こいつもシスコンかよ、うんざりだな。思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキはうんざりだ。どうせ義兄が生きている時は目障りだとでも思っていたんだろう。
>
> 「ヴァンフリートの虐殺者、血塗れのヴァレンシュタインですか……。痛くも痒くも有りませんね」
> 俺はわざと声に笑みを含ませてクマ男に話しかけた。周囲の人間がギョッとした表情で俺を見ている。クマ男は蒼白だ。
>
> 「き、貴様」
>
「軍人なんです、人を殺して何ぼの仕事なんです。最高の褒め言葉ですね。ですが私を恨むのは筋違いです。恨むのならヴァンフリート4=2の指揮官を恨みなさい。部下の命を無駄に磨り潰した馬鹿な指揮官を」
>
> その通り、戦場で勝敗を分けるのはどちらが良い手を打ったかじゃない。どちらがミスを多く犯したか、それを利用されたかだ。
敵の有能を恨むより味方の無能を恨め。今の俺を見ろ、ウシガエル・ロボスの尻拭いをしている。馬鹿馬鹿しいにもほどが有るだろう。
>
> 「裏切り者は事実だろう!」
> 笑い声が聞こえた、俺だった。馬鹿みたいに笑っている。笑いを収めて蒼白になっているクマ男に答えた。
>
「私が裏切ったんじゃありません、帝国が私を裏切ったんです。恥じる事など一つも有りません」

……ここまで「夜郎自大」という言葉の生きた見本みたいな人間は初めて見ましたよ、私は。
だいたい、ヴァンフリートで義兄が戦死し姉が自殺したことに憤ることが「シスコン」かつ「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」って、一体どこをどうすればそんな論理が出てくるというのでしょうか?
「シスコン」であろうがなかろうが、家族を殺されて憤らない人なんて相当なまでの少数派ですし、その正当な怒りが「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」とまで罵られなければならないシロモノなどであるわけないでしょうに。
こんな論理が成立するのであれば、今世の両親を殺され仇を討つことを決意したヴァレンシュタインは「ファザコン&マザコン」で「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」ということになってしまうではありませんか(爆)。
もちろん、ヴァレンシュタインが「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」であること自体は疑問の余地など全くない厳然たる事実ではあるのですが(笑)、しかしそれは別に今世の両親が非業の死を遂げたからでも、そのことにヴァレンシュタインが怒りを覚えたからでもありません。
自分自身のことを全く顧みることなく、後先考えずに目先の感情的な罵倒にばかり熱中してダブスタ&ブーメランな言動ばかり披露する行為の数々と、それらの言動を行うことに何ら矛盾や羞恥を自覚することすらもない厚顔無恥な思い上がりこそが、ヴァレンシュタインが「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」と評される由縁なのですから。
さらに語るに落ちているのは、もし自分が襲撃者と同じ立場にあったら、襲撃者が自分に対して述べた罵倒と同じことを言うであろうことを、当のヴァレンシュタイン自身がはっきりと述べていることです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/37/
> “ヴァンフリートの虐殺者”、“血塗れのヴァレンシュタイン” クマ男の声を思い出す。憎悪に溢れた声だった。ヴァンフリートで帝国人を三百万は殺しただろう、そう言われるのも無理は無い。俺がクマ男の立場でも同じ事を言うはずだ。

同じ立場であれば、同じことを言うだけでなく襲撃もするでしょう、ヴァレンシュタインの性格ならば(笑)。
何しろ、忍耐心とか我慢とかいった概念が全くない上に嗜虐性と他罰主義に満ち溢れた「キレた少年」「ブラック企業経営者」のごとき破綻だらけな性格をしているのですからね、ヴァレンシュタインは。
周囲も後先も考えずに暴走したことも一度や二度ではないですし、「本編」でヤンに謀略を仕掛けられた際の対応を見ても、「敵の有能を恨むより味方(自分)の無能を恨」むなどという、ある意味謙虚な行為などするはずがないのですし。
となるとヴァレンシュタインは、自身がまさに襲撃者と同じく「ファザコン&マザコン」で「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」でしかないことを、他ならぬ自分自身で認めてしまっていることにもなるわけです(爆)。
他ならぬ自分自身が、自分がバカにしている襲撃者と完全に同類の人間であることを、わざわざ自分から告白する必要もないでしょうにねぇ(苦笑)。

そして、「私が裏切ったんじゃありません、帝国が私を裏切ったんです。恥じる事など一つも有りません」に至っては、当の襲撃者もまさに空いた口が塞がらなかったでしょうね。
巨大な国家と自分ひとりが同等、いやそれどころか国家の方が自分よりも格下、などという発想は、万人の自由と平等を謳う民主主義国家ですらもありえないシロモノですし、ましてや専制君主国家であればなおのことです。
第一、「帝国が私を裏切った」というのは一体何のことを指しているのでしょうか?
まさか、帝国とヴァレンシュタインが何らかの相互契約を結んでいてそれを帝国が反故にした、という話ではないでしょうし、両親を殺し自分をも殺そうとしたということを指すのであれば、それはそのように命じたカストロプ公個人の犯罪であって、帝国そのものの罪などではないでしょうに。
貴族の犯罪がもみ消されるという社会問題にしても、「帝国が元からそういう政治形態である」という事実もヴァレンシュタインは当然知っているわけですし、その事実を知っていてなお帝国を信用する方がむしろ「愚か者の所業」以外の何物でもないのですが(苦笑)。
そして何よりも、ヴァレンシュタイン個人にそのような事情があったからと言って、それはヴァレンシュタインが赤の他人の家族に対して同じような目に遭わせることを正当化するものでも免罪するものでもありえません。
そのことに対して自覚的でその罪も生涯背負って生きていくとか、最小限の犠牲に抑えて大業を為すとかいうのであればまだしも、「自分は正当な報復の権利を行使しているだけであり全て他人が悪い。お前の家族が死んだことで俺を逆恨みするのは筋違いだし、むしろ邪魔な家族を殺してやったことに感謝しろ」では、むしろ他者からの賛同や共感を得られることの方が奇妙奇天烈な話でしかないですよ。
まさに「思い込みが激しくて感情の制御が出来ないガキ」の様相を呈している以外の何物でもないのですが、そうでなければヴァレンシュタインは、一体何を根拠に自分が帝国よりも偉大な存在であるとまで考えられるようになったのでしょうか?
すくなくとも原作知識と自身の才覚だけではここまで増長できるものではないですし、やはりありとあらゆる「奇跡(という名の御都合主義)」を発動できる「神(作者)の祝福」への依存症だったりするのでしょうかねぇ……。

この辺のやり取りは、原作「銀英伝」9巻におけるヴェスターラントの遺族によるラインハルト暗殺未遂事件でのやり取りをトレースしたものなのでしょうが、原作のそれと比較してもあまりにもヴァレンシュタインが幼稚かつ自分勝手に過ぎます。
そもそも、如何に敵の無能が原因でヴァレンシュタインが敵を殺しまくり大勝利を獲得しえたにしても、それはヴァレンシュタイン自身の「大量虐殺者としての罪」を何ら軽減も免罪もするものではないのですが。
しかも相手は敵の指揮官などではなく単なる一兵士でしかなく、立場的には「無能な味方」と「有能な敵」双方の被害者でもあるわけです。
「無能な味方」と共に「有能な敵」をも恨むのは、その立場から言えば当然のことであり、筋違いでも何でもありません。
そして、原作9巻でヴェスターラントの虐殺を糾弾されたラインハルトも、愚行を行った無能なるブラウンシュヴァイク公と同じかそれ以上の罪が自分にもあることを自覚していたからこそ、ロクに反論もできず自責の念に駆られることとなったわけでしょう。
被害者に対してすら被害妄想と他罰主義と責任転嫁にばかり汲々とする夜郎自大なヴァレンシュタインに比べれば、原作におけるラインハルトの自責の念やオーベルシュタインの「少数を殺すことで多数を生かす」という信念の方が、まだ自身の責任を直視し受け入れているだけマシというものです。
どうもヴァレンシュタインの自己正当化な言動を見ていると、軍人としてではない快楽的な大量殺人やレイプその他の重犯罪者の自分勝手な心情や言い訳を聞いているような気にすらなってくるのは私だけなのでしょうか?

負傷したキスリングを助け、また味方が安全に撤退するための時間を稼ぐべく、ヴァレンシュタインは帝国軍に敵前交渉を行うことを決断します。
周囲はその場で殺される危険性が高いことを理由に反対するのですが、ヴァレンシュタインは反対を押し切り敵前交渉を強行。
そのことについて、ヴァレンシュタインは以下のようなモノローグを語っているのですが……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/37/
> キスリングを救うには直接ラインハルト達に頼むしかなかった。危険ではあったが勝算は有った。彼らが嫌うのは卑怯未練な振る舞いだ、そして称賛するのは勇気ある行動と信義……、敵であろうが味方であろうが変わらない。大体七割程度の確率で助かるだろうと考えていた。
>
> バグダッシュとサアヤがついて来たのは予想外だったが、それも良い方向に転んだ。ちょっとラインハルトを挑発しすぎたからな、あの二人のおかげで向こうは気を削がれたようだ。俺も唖然としたよ、笑いを堪えるのに必死だった。
撃たれたことも悪くなかった、前線で命を懸けて戦ったと皆が思うだろう。
>
>
ロボスだのフォークのために軍法会議で銃殺刑なんかにされてたまるか! 処罰を受けるのはカエルどもの方だ。ウシガエルは間違いなく退役だな、青ガエルは病気療養、予備役編入だ。病院から出てきても誰も相手にはしないだろう。その方が世の中のためだ。

まずここでおかしいのは、そもそもラインハルト達がヴァレンシュタインの態度に感服することと、自分が見逃してもらえる可能性が何故直結するのか、という点です。
確かに「原作におけるラインハルトの性格」に限定するならば、正々堂々とした振る舞いを「敵ながらあっぱれ」と称賛する可能性は高いでしょう。
また、銀英伝10巻ではユリアン達の敢闘にわざわざ温情を与えたくらいですから、ヴァレンシュタイン的にはラインハルトのそういった部分に期待したのかもしれません。
しかし「亡命編」におけるラインハルトは、ヴァレンシュタインによってキルヒアイスを戦死に追いやられ、ヴァレンシュタインに対する憎悪と復讐心に燃えている状態です。
しかも、ヴァレンシュタインを殺せば、仇を討つのみならず大功を挙げることができるのもこれまた分かりきっています。
ヴァレンシュタインの堂々たる態度に感銘を受けたからといって、何故わざわざ敵を逃がして仇討ちと大功を挙げる機会を自ら潰さなければならないのでしょうか?
「卿の勇気と態度には感嘆するが、それとこれとは別。キルヒアイスと俺のためにさっさと死ね」でブラスターが発射されて一巻の終わり、というのがはるかに現実的に想定されるマトモな反応というものでしょう。
元々ラインハルトのその手の称賛的な言動自体、自らの絶対的な立場を確立した上での「余裕」的な側面も大きいのですから、それが確立されていない状態でそんな態度はあまり望めないのではなかったのかと。

また、リューネブルクやオフレッサーの性格が「卑怯未練な振る舞いを嫌い、勇気ある行動と信義を称賛する」というものであるという事実を、当時のヴァレンシュタインが一体どうやって知り得たというのでしょうか?
「亡命編」におけるヴァレンシュタインは、第6次イゼルローン要塞攻防戦における敵前交渉まで、ラインハルトも含めた3者とは直接の面識が全くありませんでした。
ヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインのリューネブルク・ラインハルト評も、結局のところは原作知識を用いた記号的なものでしかなかったのです。
ところが、その原作知識にあるリューネブルクとオフレッサーの評価というのは、「卑怯未練な振る舞いを嫌い、勇気ある行動と信義を称賛する」とは程遠いものがあります。
リューネブルクは「(事情はあったにせよ)同盟を裏切って平然としている卑怯者」ですし、オフレッサーは「石器時代の勇者」「ミンチメーカー」と評され、重傷を負って這い蹲る敵兵相手にトマホークを打ち下ろしたり、ラインハルト相手に侮辱的な言動を披露したりする残忍な人物として描かれています。
何よりも原作者である田中芳樹自身、そのような意図でもって両者を描いていたであろうことは、銀英伝のみならず他の作品におけるこの手の人物の傾向を見ても明らかです。
とても「卑怯未練な振る舞いを嫌い、勇気ある行動と信義を称賛する」というタイプの人間であるとは評しえるものではありえません。
ヴァレンシュタインの姿が見えた瞬間、無防備であろうが何だろうが「大功が立てられる」と獲物を見るような目で喜び勇んで騙し討ち&突撃を敢行し全員殺して首級を挙げる、というのが「原作知識から導き出される」彼らの正しい反応というものではないのでしょうか?
かくのごとき「スタンダードな」原作知識から全く異なる人物評を導き出したというのであれば、「本編」における考察と同じようにその思考過程を説明する必要があるでしょう。
「本編」におけるリューネブルクやオフレッサーの性格がそうだったから、などというのは全く何の言い訳にもなりはしません。
そんなことは、「亡命編」におけるヴァレンシュタインが全く知りえようはずもない情報なのですから。

ヴァレンシュタインが持っている原作知識とやらには、「亡命編」が全くタッチしていないはずの「本編」10話以降のストーリー情報や設定までもが含まれていたりするのでしょうか?

そしてそれ以上に異常なのは、戦闘の最中に敵に対して交渉を持ちかけるという策それ自体の是非が全く論じられていないことです。
当時のヴァレンシュタインは撤退戦の指揮を任されてはいましたが、彼の権限はあくまでも「撤退戦の指揮」に限定されるものであり、敵との交渉権まで委ねられていたわけではありません。
敵との交渉というのは、敵ではなく味方・部下・国民の感情を刺激するものですし、実際、交渉を通じて味方の内情や機密が筒抜けになってしまう懸念もあります。
軍事のみならず政治の問題にも直結しかねない敵前交渉を行う際には、いくらヴァレンシュタインに撤退戦の指揮権が委ねられているとはいえ、さすがに軍上層部の判断を仰ぐ必要が確実にあったはずです。
実際、この後の第7次イゼルローン要塞攻防戦では、ヴァレンシュタインが敵前交渉を行うに際してこんなやり取りが交わされています↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/57/
> シトレに視線を向けた、向こうも俺を見ている。そして軽く頷いた、俺もそれに頷き返す。
> 「オペレータ、敵艦隊に通信を。ミューゼル中将に私が話をしたいと言っていると伝えてください」
>
> 俺の言葉にオペレータが困ったような表情をしている。そしてチラっとシトレを見た。
確かに指揮官の許可なしに敵との通信などは出来んな、俺とシトレの間では話はついているんだが、こいつがそれを知るわけがない。
> 「准将の言う通りにしたまえ」
> 「はっ」

ところが第6次イゼルローン要塞攻防戦では、この手の上層部への確認や事前の根回しの類などが全く行われておらず、その場におけるヴァレンシュタインの独断のみで敵前交渉が決定・実行されてしまっているのです。
ましてや、ヴァレンシュタインは元々同盟市民ではなく帝国からの亡命者です。
ただでさえ、ローゼンリッター連隊長の過半数にも及ぶ裏切り行為を味わってきた歴史を持つ同盟軍にとって、亡命者の敵前交渉など、まさに自分達への裏切りを促進するものにしか映らないでしょう。
しかも、その目的のうちの半分(というよりもメイン)は、同盟軍とは全く何の関係もない「ヴァレンシュタイン個人の旧友であるキスリングを助けること」にあったのです。
事前に許可を得ることなく「敵の軍人を助けるために敵に交渉を申し込む」という行為が「利敵行為に当たる」として後々問題視される可能性は決して無視できるものではないでしょう。
そればかりか、ヴァレンシュタインがキスリングに同盟の軍事情報や機密の類を密かに渡している事態すらも構造的には起こりえるので、【本来ならば】同盟軍はその可能性についての調査・検証を確実に迫られることになります。
元々ヴァレンシュタインは、例の自爆発言で同盟を裏切る意思を堂々と表明していた前科もあるわけですし。
これから考えると、交渉内容の是非や成果以前に、まずこの「敵前交渉」それ自体が何らかの軍規違反、最悪はスパイ容疑や国家機密漏洩罪・国家反逆罪等の重罪に問われる可能性すらも【本来ならば】かなり高かったであろうと言わざるをえないのです。
これ単独だけでも軍法会議の開廷は【本来ならば】必至でしたし、ましてや214条や上官侮辱罪の件もあるのですから、それらとも連動してさらにヴァレンシュタインの立場や周囲の心証が悪くなるのも【本来ならば】確実だったでしょうね。
もちろん、作中で全くそうなっていないのは、いつものごとく神(作者)が「奇跡」という名の御都合主義を発動しまくっているからに他ならないのですが(爆)。

こんな惨状で、この後の214条絡みの軍法会議で勝利できるなどと確信できるヴァレンシュタインは、非常におめでたい頭をしているとしか評しようがないですね。
ひとつではなく3つもの軍規違反が重なっているのですから、普通にやれば必敗確実、ヴァレンシュタインのあの態度では「反省が見られない」「情状酌量の余地なし」で銃殺刑も充分にありえる話ですし。
ヴァレンシュタインが毎回毎回人知れずやらかしまくる失態や問題を、原作知識やヴァレンシュタイン自身の才覚ではなく「神(作者)の奇跡」を乱発しまくることで乗り切らせるという構図は、ヴァレンシュタインのみならず作品と作者の評価をも間違いなく下げているのではないかと思えてならないのですけどね。
そんなわけで、次回はいよいよ第6次イゼルローン要塞攻防戦の締めとなる、自由惑星同盟軍規定第214条絡みの軍法会議の実態について検証していきたいと思います。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察9

「亡命編」のストーリーを読んでいると、せっかく設定したはずの「亡命」というコンセプトがまるで生かされていないような感が多々ありますね。
原作「銀英伝」におけるメルカッツやシェーンコップの同盟内での立場や境遇を見れば分かるように、亡命者というのはそもそも基本的に何もしていなくても他者から差別や偏見の目で見られ冷遇されるものですし、下手に才覚を発揮すればするほど、むしろ「あいつは何か企んでいるのではないか?」などといった猜疑心を向けられ、痛くもない腹を悪戯に探られることすら珍しくありません。
ところが「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタインの場合、そのようなハンディキャップがまるで機能しておらず、軍の階級は一般的な士官学校卒業者以上の昇進速度を誇り、権限に至ってはその階級にすら見合わないほどに強大だったりします。
何しろ、少佐の階級で基地全体の軍事力増強や総指揮を事実上担っていたり、大佐や准将の階級で全軍の指針や作戦を決定・実行させたりしているのですから。
特に亡命初期はロクな後ろ盾もなく監視の目すら向けられていたくらいなのに、アレだけ好き勝手な言動を披露して処分どころか大多数の周囲から警戒すらされないというのは不自然もいいところなのではないか、とどうにも思えてならないのですけど。
特にヴァンフリートの自爆発言や前回検証した上官侮辱罪の件などは、別に亡命者でなくても軍人であれば即刻逮捕拘禁に値する事案なのですし、それについてすら大多数の周囲から反発さえもなく逆に同情されるばかり、というのはさすがにどうなのかと。
原作のヤンですら、自分が同盟の上層部と違う考え方を持っているために疎まれていましたし、当の本人にもその自覚くらいはあったというのに。
「亡命者」としてのヴァレンシュタインの立場と境遇を、ヴァレンシュタイン自身も含めた作中の登場人物達全員が完全に忘れ去っているとしか思えないところですね。
それでは引き続き、第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインの言動について検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-604.html(その6)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-608.html(その7)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-614.html(その8)

作戦会議という公の場で上官侮辱罪という軍法違反行為を公然とやらかしたヴァレンシュタインですが、当然のごとく行われた神(作者)の介入により、周囲どころか当のロボスですらその事実に全く気づくことなく、ヴァレンシュタインは自身でも全く気づくことなく第二の危機を回避することに成功してしまいました。
とはいえ、そこは万年被害妄想狂患者であるヴァレンシュタインですから、幸運などという概念にすら当てはまらない神(作者)の奇跡に感謝どころか疑問を抱きすらするはずもなく、ここぞとばかりにロボスとフォークを罵り倒しにかかります↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> 今思い出しても酷い会議だった、うんざりだ。フォークの馬鹿は原作通りだ。他人をけなすことでしか自分の存在をアピールできない。ロボスは自分の出世に夢中で周囲が見えていない。あの二人が遠征軍を動かす? 冗談としか思えんな。
>
> フォークは軍人としては終わりだな。恐らく病気療養で予備役だ。当分は出てこられない。出てきても作戦参謀になることはないだろう。その方が本人にも周囲の人間にも良い。あの男に作戦立案を任せるのは危険すぎる。
>
> 問題はロボスだな……。
今回の会議で考えを改めればよいが果たしてどうなるか……。頭を冷やして冷静になれば出来るはずだ。だが出世にのみ囚われると視野が狭くなる……。
>
>
難しい事じゃないんだ、下の人間を上手く使う、そう思うだけで良い。そう思えればグリーンヒル参謀長とも上手くいくはずなんだが、シトレとロボスの立ち位置があまりにも違いすぎる事がそれを阻んでいる。
>
>
シトレが強すぎるんだ、ロボスはどうしても自分の力で勝ちたいと思ってしまうのだろう。だから素直にグリーンヒルの協力を得られない。そうなるとあの作戦案をそのまま実施する可能性が出てくる……。

相も変わらず、自分にもそっくりそのまま当てはまるブーメラン発言でもってロボスとフォークを評している滑稽極まりないヴァレンシュタインですね(苦笑)。
「他人をけなすことでしか自分の存在をアピールできない」も「周囲が見えていない」も、これまでのヴァレンシュタインの言動そのものにはっきりと表れているでしょうに(爆)。
この2つの要素がヴァレンシュタインになかったならば、そもそもヴァレンシュタインが今日の状況を迎えることもなく、ラインハルトの台頭と共に帝国へ逆亡命するという当初の構想を問題なく達成することだってできたはずなのですから。
それに「頭を冷やして冷静になれば出来るはずだ」って、いくら相手がロボスだからとは言え自分にできないことを他人に要求して良いものではないでしょうに(爆)。
常に「自分は正しく他人が悪い」を地で行くヴァレンシュタインは、その欲求を満たすための思考ばかりやっていて、一度も「頭を冷やして冷静にな」った試しなどないではありませんか(笑)。
たまに反省のそぶりらしきものを見せたかと思えば、自分の責任を他の誰かに擦りつけて見当ハズレなタワゴトを吹聴することばかりに汲々とする始末ですし。
ロボスが自分の進言(という名の罵倒)を受け入れないのを「シトレが強すぎる」せいにしているところにも、それは窺えます。
あんな上官侮辱罪ものの罵倒をやらかした人間の言うことなど、マトモに聞きいれる方が逆におかしいでしょう。
普通に考えてみても、あんな罵倒をするような人間にはそれだけで感情的な反発が来るものですし、進言内容の是非を問わず、また軍に関わらず、ああいう罵倒行為は組織の秩序と士気に致命的な悪影響を与えかねないのですから。
仮にその意見に一定の理があり受け入れるに値するものであったにしても、それは「ヴァレンシュタインの進言を受け入れた」という形ではなく、別の人間が改めて進言して……という形にならざるをえないのですが。
というか、そもそもヴァレンシュタイン自身、部下から同じことをやられたら躊躇なくロボスと同じことをするか、それこそ上官侮辱罪を振り回して相手を叩き潰す対応を取るのが最初から目に見えているのですけどね(苦笑)。
にもかかわらず、その自身の性格から目を背けてさらに運命論のごとき支離滅裂な妄言を口にするに至ってはねぇ……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> それにしても酷い遠征だ。敵を目前にして味方の意志が統一されていない。こんな遠征軍が存在するなんてありえん話だ。何でこんなことになったのか、さっぱりだ。ヴァンフリートで勝ったことが拙かったのかもしれない。あそこで負けていたほうが同盟軍のまとまりは良かった可能性がある……。やはり俺のせいなのかな……。まったくうんざりだな。ボヤキしか出てこない。

ではもしヴァンフリートで勝利していなかったとしたら、ヴァレンシュタインはロボスを罵倒していなかったとでも言うのでしょうか?
元々ヴァレンシュタインは、「フォークを重用していた」という原作知識からロボスに対する軽侮の念を隠そうともしていませんでしたし、そもそも同族嫌悪・近親憎悪の観点から言っても、自制心なきヴァレンシュタインはロボスを敵視せざるをえない境遇にあるはずなのですが。
ロボスがシトレに対抗意識を持っていたのは事実でしょうが、それとヴァレンシュタインの上官侮辱罪ものの罵倒は全く何の関係もない話です。
ロボスの置かれている立場や状況がどうだろうと、ヴァレンシュタインが自らの衝動の赴くままにロボスを罵倒し拒絶されるのは確実だった、と言わざるをえないのですが。
例によって例のごとく、反省のピントがズレまくっているとしか言いようのない話ですね。
もちろん、常に「自分が正しく他人が悪い」を通さなければならないヴァレンシュタインとしては、自身の罵倒に非があったなどと認めるわけにはいかないのでしょうけど。

ロボスの他者を拒絶する頑なな対応と、何よりもヴァレンシュタインがやらかした上官侮辱罪の効用により、総司令部は士気も低く不安と不穏な空気に包まれていました。
軍に限らず、自分の上に立つ者を公然と侮辱した者を何ら罰することなく放置すればそうなるのは当たり前です。
そんなことをすれば、その侮辱が実は正当なものであるということを、当の侮辱された人間が認めているも同然となり、上官の地位と権威、さらには軍の秩序自体が崩壊することにもなりかねないのですから。
ロボスは軍規から言っても自己一身の保身のためにもヴァレンシュタインを処断しなければならなかったのですが、もちろん神(作者)の介入のためにその手を使うことができません。
周囲もまた、「貴官の主張内容にも一理はあるが、貴官の行為は上官侮辱罪を立派に構成していて…」とヴァレンシュタインを責めるなど思いもよらず、ひたすらロボスにのみ非難の目を向けヴァレンシュタインには全面的な同情と共感を注ぐ始末。
自分が何を言っても処断されないと確信したヴァレンシュタインは、ここぞとばかりにさらにロボスの感情を刺激する行為に及ぶこととなります。
今度は一転して下手に出て、ロボスに要塞前面での戦闘を避けより有利な星系での決戦をするよう進言するのですが、ロボスはそれを当然のごとく拒否。
その理由をヴァレンシュタインが分析する場面があるのですが、それが正直言ってまた振るっているんですよね↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/27/
> 「でも、あの作戦案は本当に凄いです。私だけじゃありません。皆そう思っているはずです」
> 私は慰めを言ったつもりは有りません。本当にそう思ったんです。ですがヴァレンシュタイン大佐は私の言葉に苦笑しただけでした。
>
> 「何も考えつかなかったんです。もうどうにもならない、思い切って撤退を進言しようと……。そこまで考えて、もしかしたらと思いました……」
> 「……」
> 大佐が溜息を吐いて天井を見ました。
>
> 「あの作戦案を採用しても帝国との間に艦隊決戦が起きるという保証は有りません。そして勝てるという保証もない。あれはイゼルローン要塞攻略を先延ばしにしただけなんです。上手く行けば要塞攻略が出来る、その程度のものです」
> 「……」
>
>
「それでも作戦案としては壮大ですし、見栄えも良い。ロボス元帥としても勝算の少ない作戦案にかけるよりは受け入れやすいと思ったのですが、まさか自分が更迭されることをあそこまで恐れていたとは……」
> 大佐が疲れたような声を出して首を横に振りました。
>
> 「ヴァンフリートで勝ったのは失敗でした」
> 「大佐……」
>
「あそこで負けておけばロボス元帥もああまで思い込むことはなかった……」
> ヴァレンシュタイン大佐の声は呟くように小さくなりました。納得いきません、あそこで負ければ大勢の戦死者が出ていたはずです。

この期に及んでも、自分の罵倒がロボスに決定的に拒絶されるようになった真の原因だとは思いもよらないヴァレンシュタインって……。
ああいうことをやらかした後で「自分の言っていることはロボスにも理があるのだから素直に受け入れてもらえるだろう」って、それはいくら何でも虫が良すぎるというものです。
自分があんな風に罵倒されたらどう対応するか、という観点から考えただけでも、自分の言動に多大な問題があることを「常人ならば」普通に理解できそうなものなのですが。
自分のことについてはアレほどまで被害妄想全開状態なのに、他人の話になると相手が聖人君子のごとき人格者であることを平然と要求するのですね、ヴァレンシュタインは。
「自分に甘く他人に厳しい」って、それは上に立つべき人間が絶対になってはいけない最低最悪の人格であり、それこそロボスやフォークと同レベルでしかないでしょうに。
まあだからこそヴァレンシュタインは、自分と同類であるロボスやフォークをあそこまで否定するのでしょうけど。

というよりここはむしろ、ああいう下手に出たこと自体が「拒絶されることを前提とした謀略」である、とでものたまっていた方が、ヴァレンシュタインの立場的にはまだ説得力があったのではないですかね?
例の上官侮辱罪の一件で、ヴァレンシュタインとロボスの関係は修復不可能なレベルまで完全に決裂しました。
ならば、ロボスを陥れる最善の方法としては、わざと理に叶った作戦案を懇切丁寧にロボスに提示し、それを「提案したのがヴァレンシュタインだから」と感情的に拒絶させるという策を使えば良いわけです。
そうすれば、作戦案が理に叶っていればいるほど、拒絶されることでロボスのイメージダウンと自分への同情票を同時に獲得することができ、さらに後日作戦が失敗した暁には「何故自分の策を採用しなかった」と居丈高にロボスを罵り倒すこともできたはずです。
相手が感情的であればあるほど、この手の策は極めて有効に作用します。
この描写を読んだ時、私はてっきり「ああ、これはロボスに対する確信犯的な嫌がらせだな」とすら考えてむしろ感心すらしたくらいなのですが、何故そこでわざわざ偽善者ぶらなければならないのか、実に理解に苦しむものがありましたね。
まあ、このような策は「自分が何を発言しても相手から罰せられたり権力や暴力で弾圧されたりすることがない」という前提が必要不可欠であり、ネット上の議論などであればともかく、軍内で通用するはずなど【本来ならば】全くありえないのですが。

次回からは、「亡命編」のオリジナル設定である自由惑星同盟軍規定第214条が提示されて以降の検証に移ります。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察8

久しぶりにタナウツ本家の常連である不沈戦艦さんのサイトに掲載されている「悪ふざけ架空戦記」を読んでいたところ、主人公の図茂艦長があまりにもエーリッヒ・ヴァレンシュタインそっくりに見えて思わず笑ってしまいました。
「悪ふざけ架空戦記」について知らない方向けに簡単に説明しますと、これは過去に存在した(現在は消滅している)保守系サイト「日本ちゃちゃちゃクラブ」およびその界隈の議論系サイトの掲示板に投稿していた投稿者およびその言動を元ネタに作られたパロディ小説です。

悪ふざけ架空戦記 戦艦「百舌鳥」大作戦!
http://www.geocities.jp/hangineiden/warufuzake1.html
悪ふざけ架空戦記2 暦新島上陸作戦
http://www.geocities.jp/hangineiden/warufuzake2.html

左派系の投稿者達が集った国である酉国と、保守系論者で構成されているちゃちゃちゃ国の戦争を描きつつ、タイトル通りのお笑いギャグやパロディネタを大量に織り交ぜてストーリーが進行していきます。
そして、この作品の主人公である酉国艦隊所属の図茂艦長は、元々は金融業界系の人間だったのに、ただ「フネがマトモに操縦できるから」というしょうもない理由で軍に徴用&いきなり艦長に任命されたことから、周囲に被害者意識ばかり抱く上に罵倒ばかり繰り返すという、まさにどこぞのキチガイ狂人を彷彿とさせるような性格設定がなされているんですよね。
あまりにも性格や言動が生き写しと言って良いほどにそっくりなため、「ヴァレンシュタインってもしかして図茂艦長をモデルにして作られたキャラクターなのか?」とすら考えてしまったほどです(苦笑)。
「悪ふざけ架空戦記」が置かれているサイトには、皮肉にもヴァレンシュタインと同じファーストネームを持つエーリッヒ・フォン・タンネンベルク(こちらはヴァレンシュタインの1億倍以上はマトモな性格のキャラクターですが)を主人公とする銀英伝二次創作小説「反銀英伝 大逆転!リップシュタット戦役」もあるわけですし、作者氏があのサイトをある程度参考にしていた可能性は高そうではあるのですが。

反銀英伝 大逆転!リップシュタット戦役
http://www.geocities.jp/hangineiden/

ただ「悪ふざけ架空戦記」の場合、最初からパロディを意図したツッコミ役兼ギャグキャラクターとして図茂艦長が造形されており、かつ周囲もわざとパロディキャラばかりで固めストーリー自体も笑いを取ることを目的としているからこそ、周囲のトンデモキャラのトンデモ言動に囲まれて苦労している図茂艦長に笑いと共に同情・共感できる部分も出てくるのであって、本質的に真面目路線一辺倒で作られているはずの「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」で、図茂艦長と似たりよったりなギャグキャラクター同然の人物が主人公というのはミスマッチもいいところでしかないんですよね。
ヴァレンシュタインは銀英伝の二次創作小説などではなく、ボケ役だらけのギャグ小説におけるツッコミ担当の主人公として本来活躍すべきキャラクターであるべきだったのではないのかと、ついつい考えてしまった次第です。
まあもっとも、ヴァレンシュタインの偉大さを示すために周囲の人間を軒並み禁治産者レベルの無能者集団に仕立て上げるという荒業が駆使されまくっているために、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」自体が「悪ふざけ架空戦記」、もっと悪く言えば創竜伝や薬師寺シリーズの形態にどんどん近づいてはいるのですが(爆)。
それでは今回も引き続き、第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインの言動について検証を進めていきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-604.html(その6)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-608.html(その7)

第6次イゼルローン要塞攻防戦では、原作でも同盟軍の癌細胞とすら言って良い「無能な働き者」ぶりを披露していたロボス&フォークを、ヴァレンシュタインが排除するというコンセプトがメインで展開されていきます。
原作知識を持っている人間からすれば、ロボス&フォークを排除することが同盟にとってプラスになることは一目瞭然なのであり、その点でヴァレンシュタインの選択自体は妥当なものであるとは言えるのですが、問題なのは肝心のヴァレンシュタインが、例によって例のごとくあまりにも幼稚&自己中心的過ぎる点にあります。
それが最も悪い形で出ているのが、作中で披露されている以下のような会話ですね↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/23/
> 三日前だがロボスと廊下でばったり会った。腹を突き出し気味に歩いていたが、あれはメタボだな。お供にアンドリュー・フォーク中佐を連れていたが俺を見ると顔を露骨に顰めた。上等じゃないか、そっちがそう出るなら俺にも考えがある、必殺微笑返しで対応してやった。ザマーミロ、参ったか!
>
> フォークがすれ違いザマに“仕事が無いと暇でしょう、羨ましい事です、ヴァレンシュタイン大佐”と言ってきた。仕事なんか有ったってお前らのためになんか働くか、このボケ。
>
>
“貴官は仕事をしないと給料を貰えないようですが私は仕事をしなくとも給料が貰えるんです。頑張ってください”と言ってやった。顔を引き攣らせていたな。ロボスが“中佐、行くぞ、我々は忙しいのだ”なんて言ってたが、忙しくしていれば要塞を落とせるわけでもないだろう。無駄な努力だ。
>
> 余程に頭に来ていたらしい、早速嫌がらせの報復が来た。クッキーを作るのは禁止だそうだ。
“軍人はその職務に誇りを持つべし”、その職務って何だ?人殺しか? 誇りを持て? 馬鹿じゃないのか、と言うより馬鹿なんだろう、こいつらは。

再春館製薬所が販売するドモホルンリンクルのCMで一昔前に喧伝されていた「365日間、何もしないことが仕事になる、そんな仕事があります」のキャッチフレーズじゃあるまいし、「仕事をしなくとも給料が貰える」などという状態が自慢できるシロモノなどであるわけがないでしょうに(笑)。
軍隊だけでなく一般企業でも「仕事をしなくとも給料が貰える」というのは、上司が部下に仕事を任せきりにしているパターンでなければ、窓際族として干されていたり、仕事がなくて自身が左遷・免職される、最悪は組織自体が瓦解する直前の状態にあったりするなどといった状態を意味するのですが(爆)。
ドモホルンリンクルのCMにしても、アレは本当に何もしていないのではなく、長い時間をかけて抽出されるエキスを1滴1滴チェックしていくという、単調かつ気の抜けないキツイ仕事を表現するものだったりするのですし。
またそれ以前の問題として、他人があくせく仕事をしている中で、ひとりだけ楽をしている(ように見える)人間がいたら、文句や嫌味のひとつも言いたくなるのが普通一般的な人情というものでしょう。
そもそもヴァレンシュタイン自身、バグダッシュやヤンに対して「お前のような暇で気楽な人間と違って俺は忙しいんだ、ウザいから失せろ」みたいな罵倒を平気で吐き散らしているではありませんか(爆)。
全く同じ発言を自分がやるのはOKだが、他人がするのはNGだとでも言うのでしょうか?
いくら相手がロボスやフォークであっても、いやむしろあんな連中【だからこそ】、相手に対する罵倒内容がそっくりそのまま自分自身に跳ね返ってくるような発言は、いかに外面が良くても内実は醜悪かつ無様そのものでしかないのです。
その問題をクリアできない限り、自分がロボスやフォークと同類でしかないという自覚が、ヴァレンシュタインには絶対に必要なのではないかと思うのですが。

そしてもうひとつ、軍人という職業を「人殺し」「誇りなんてない」と断言して憚ることのないヴァレンシュタインは、そもそも何故自分が蔑んでやまない軍隊などという「卑しい職種」に、それも自ら選んで就いていたりするのでしょうか?
元々ヴァレンシュタインは、実の祖父だったらしいリメス男爵から20万帝国マルクもの金が入ったカードを譲り受けており、すくなくとも当面の間は金銭的な心配をする必要が全くない立場にありました。
しかも、同盟に亡命して以降も「帝国への逆亡命計画」なるものを構想しており、同盟に永住するつもりも最初から更々なかったのです。
となれば、ヴァレンシュタインには別に同盟内で職を得る必然性自体が全くありませんし、仮に「手に職をつける」ために就職を考えていたとしても、その先が同盟軍でなければならない理由もありません。
むしろ、考察1でも述べていたように、下手に同盟軍内に入ってしまうと、同盟から抜け出すことが至難を極めるようになってしまい、「帝国への逆亡命計画」に重大な支障を来たす恐れすらあったのです。
元々軍人になることを嫌がっていたヤンの場合は、それでも「カネがなかったから」「タダで歴史を学びたかったから」などといった「止むに止まれぬ」金銭的な事情がまだあったのですが、ヴァレンシュタインにはそんな切迫した事情もなく、それどころか自身の計画に弊害すら発生しえるであろうことが最初から分かりきっていたわけです。
そこに来てのこの軍人差別発言は、わざわざ同盟軍に入ったヴァレンシュタインの選択に、ますます大きな矛盾と疑問を突きつけることになってしまうではありませんか。
ヴァレンシュタインは資格を取って弁護士稼業をやりたかったとのことですが、そのために軍隊に入らなければならない理由もないでしょうに。
そもそも、同盟で獲得した国家資格が帝国でも通用するという保証自体が実のところ全くありませんし、帝国に亡命したら同盟で得られた資格は全て無効化する可能性も多々ある(というか普通は確実にそうなる)のではないかと思うのですけどねぇ(苦笑)。
勉強すること自体には意味があるにしても、資格を得てから帝国に逆亡命するまで5年あるかどうかも不明な「同盟における」資格の取得などに、果たして意味などありえるのかと。
繰り返しますが、ヴァレンシュタインは何故、さしたる緊急性もない状況下で、自分にとって何の利益もないどころが弊害すら予測され、自身でも蔑んでやまない「同盟の」軍隊などに、それも自ら志願して入ったりしたのでしょうか?
こういうのって普通、「考えなしなバカの自殺行為な所業」とでも評すべきシロモノなのではないのですかねぇ(爆)。

そもそも、この一連のヴァレンシュタインのタワゴトって、実はヴァレンシュタインのオリジナルですら全くなかったりするんですよね。
何と、銀英伝6巻で全く同じ主張がヤンによって繰り広げられているのです↓

銀英伝6巻 P60上段
「仕事をせずに金銭をもらうと思えば忸怩たるものがある。しかし、もはや人殺しをせずに金銭がもらえると考えれば、むしろ人間としての正しいあり方を回復しえたと言うべきで、あるいはけっこうめでたいことかもしれぬ」
 などと
厚かましく記したメモを、この当時ヤンは残しているが、これはヤンを神聖視する一部の歴史家には、故意に無視される類のものである。>

もちろん、原作知識を持っているなどと称するヴァレンシュタインともあろう者が、この記述のことを知らないはずもないわけで。
原作でさえ「厚かましい」「故意に無視される類のもの」などと酷評され、ヤンの怠け根性とユーモアセンスを披露する程度のシロモノとしてしか扱われていなかった「内輪向けな本音」などを、その意味すらも全く理解せず何の疑問も抱くことなくパクった挙句に、他人に叩きつける罵倒文句として活用しまくっているヴァレンシュタイン。
何しろヴァレンシュタインは、これと全く同じ主張を、この後で繰り広げられることになる軍法会議でさえも堂々と披露しているわけですからね(38話)。
アレって、当のヤンですら人目を憚って私的に書いただけの「ネタ」の類でしかなかったはずなのですけどねぇ(爆)。
「釣り」とか「ネタ」とか「炎上マーケティング」とかいった概念を永遠に理解することすらできない、悪い意味での「大真面目」な性格をしているみたいですね、狂人ヴァレンシュタインは(苦笑)。
今更心配する意味があるとも思えないのですが、頭大丈夫なのですかね、ヴァレンシュタインは(笑)。

ただでさえ原作知識からロボスとフォークに全く好意的ではない上、同族嫌悪・近親憎悪の観点からも対立せざるをえないヴァレンシュタインは、自らの感情の赴くがままに公の場でロボスとフォークを吊るし上げることとなります。
フォークを原作同様に転換性ヒステリー症に追い込み、ロボスに対しても侮蔑交じりの嘲弄を繰り広げ始めたのです。
しかしこれ、実はヴァンフリート星域会戦後の自爆発言に続く、ヴァレンシュタイン2度目の最大の危機に【本来ならば】なりえたはずなのですけどねぇ……↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/25/
> 「小官は注意していただきたいと言ったのです。利敵行為と断言……」
> 「利敵行為というのがどういうものか、中佐に教えてあげますよ」
> 「……」
> ヴァレンシュタインは笑うのを止めない。嘲笑でも冷笑でもない、心底可笑しそうに笑っている。
>
>
「基地を守るという作戦目的を忘れ、艦隊決戦に血眼になる。戦場を理解せず繞回運動等という馬鹿げた戦術行動を執る。おまけに迷子になって艦隊決戦に間に合わない……。総司令部が迷子? 前代未聞の利敵行為ですよ」
>
> フォークの顔が強張った。ロボス元帥の顔が真っ赤になっている。そして会議室の人間は皆凍り付いていた。聞こえるのはヴァレンシュタインの笑い声だけだ。
目の前でここまで愚弄された総司令官などまさに前代未聞だろう。
>

(中略)
>
> 困惑する中、笑い声が聞こえた。ヴァレンシュタインが可笑しそうに笑っている。
> 「何が可笑しいのだ、貴官は人の不幸がそんなに可笑しいのか!」
> 唸るような口調と刺すような視線でロボス元帥が非難した。
>
>
「チョコレートを欲しがって泣き喚く幼児と同じ程度のメンタリティしかもたない人物が総司令官の信頼厚い作戦参謀とは……。ジョークなら笑えませんが現実なら笑うしかありませんね」
>
>
露骨なまでの侮蔑だった。ロボス元帥の顔が小刻みに震えている。視線で人を殺せるならヴァレンシュタインは瞬殺されていただろう。
> 「本当に笑えますよ、彼を満足させるために一体どれだけの人間が死ななければならないのかと思うと。本当に不幸なのはその人達ではありませんか?」
>
> ヴァレンシュタインが笑いながらロボス元帥を見た。ロボス元帥は憤怒の形相で
ヴァレンシュタインは明らかに侮蔑の表情を浮かべている。
>
> ロボス元帥が机を叩くと席を立った。
> 「会議はこれで終了とする。ご苦労だった」
> 吐き捨てるように言うとロボス元帥は足早に会議室を出て行った。皆が困惑する中ヴァレンシュタインの笑い声だけが会議室に流れた……。

原作や「亡命編」におけるロボスやフォークが無能であるにしても、ヴァレンシュタインにそれを誹謗する資格があるとは到底言えたものではないでしょう。
自分の穴だらけの言動について「自分だけは何が何でも正しく、悪いのは全て他人」と頑なに信じ込んで反省もせず、まさに「チョコレートを欲しがって泣き喚く幼児と同じ程度のメンタリティ」なるシロモノを散々発揮しまくって、被害妄想と共に周囲に当たり散らしてきたのはどこのどなたでしたっけ?
ヴァレンシュタインがあの2人と異なるのは、原作知識があることと、「神(作者)の介入」による超展開と御都合主義の乱発によるものでしかありません。
何しろ、ヴァンフリート星域会戦後における自爆発言をやらかしてさえ、周囲の人間はヴァレンシュタインを罪に問うどころか、その問題点に気づきすらもしなかったというのですから。
この件に関して、当のヴァレンシュタイン自身は全く何もしていない上に、原作知識とやらも少しも発動されてなどいなかったのですから、この「奇跡」が「神(作者)の介入」によるものであることは疑いの余地がありますまい。
原作のフォークに原作知識と神(作者)の祝福を与えた上で大量の興奮剤とサイオキシン麻薬でも投与すれば、それでヴァレンシュタインが出来上がるわけなのですから、ずいぶんと安普請な話ではあるのですが(苦笑)。
「目くそ鼻くそを笑う」とは、まさに上記にあるがごときヴァレンシュタインの態度を指す格言なのではないですかねぇ(笑)。

さて、原作知識の恩恵をすらはるかに凌ぐ、ヴァレンシュタインの最強無敵にして本当の切り札である「神(作者)の介入」は、実はこのロボス&フォークとのやり取りの中でも如何なく発揮されています。
何しろ、ここでヴァレンシュタインが自らの身の危険について全く考慮する必要すらなく好き勝手に暴れられるという事実そのものが、「神(作者)の介入」の恩恵によるものでしかないのですから。
実は一般的な軍事組織では、ヴァレンシュタインのような人間の出現を未然に阻止するために、いわゆる「軍法」というものが整備されています。
「軍法」は、一般的な民法や刑法などのような「個人の権利を守る」ためのものではなく、「軍の秩序を維持・安定させる」ために存在するものです。
そして、ヴァレンシュタインのごとき人間に対処するための対処法としては、「上官侮辱罪」の適用が最も有効かつ効果的なものとなります。
軍法における「上官侮辱罪」の構成要素は、「直接面と向かって上官を罵倒する」「公衆の面前で公然と上官を罵倒する」というものであり、ヴァレンシュタインの言動はこの2つ共に充分過ぎるほど該当します。
つまり、ヴァレンシュタインに罵倒されたロボスは、ただ「上官侮辱罪」をヴァレンシュタインの眼前に突きつけるだけで、ヴァレンシュタインを力づくで黙らせるどころか、逮捕拘禁にまで至らしめ軍法会議にかけることすらも【本来ならば】充分に可能だったのです。
そして、すくなくとも原作「銀英伝」および「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」の世界には、疑問の余地なく「上官侮辱罪」が存在します。
銀英伝10巻では、オーベルシュタインの発言に激怒したビッテンフェルトが、オーベルシュタインに掴みかかったことから謹慎処分を受けていますし、「本編」には以下のごときそのものズバリな単語が存在するのです↓

http://ncode.syosetu.com/n4887n/49/
> 「オッペンハイマー中将は命令違反、上官侮辱罪、さらに皇位継承の有資格者の身を危険にさらした事、反逆を煽った事、それらの罪で逮捕しました」

これらは全て帝国の事例ではありますが、帝国にあるのに同盟側にだけ「上官侮辱罪」がないとは到底考えられません。
ましてや「亡命編」における同盟には、この後に登場する、軍の司令官の首を挿げ替えることを可能にする「自由惑星同盟軍規定第214条」の存在がありますので、そのバランスと兼ね合いからなおのこと「上官侮辱罪」は必要とされます。
本来、「上官侮辱罪」なるものが作られた最大の理由は、上官個人の権利や名誉を守るなどという瑣末な事象のためなどではなく、上官をトップとする軍としての指揮系統や団結・秩序を維持するためという目的こそが大きいのです。
司令官の意向と権威を無視して皆が好き勝手に振舞っていたら、軍という組織そのものが成り立たなくなってしまいます。
それを未然に抑止すると共に、全ての将兵を各部署毎の上官に従わせ、その上官達全てをまとめ上げる最高司令官の意思ひとつで軍内が統一され軍としての機能を最大限に発揮させる、それこそが「上官侮辱罪」が持つ本来の立法趣旨なのです。
そのため「上官侮辱罪」では、上官に対する罵倒の内容が正当なものであるのか否かなど、実は罪の構成要素を論じるに際しては何の争点にもなりはしません。
内容が正当であろうがなかろうが、上官に対する罵倒によって軍が混乱し秩序が乱れることには変わりがなく、またいちいち内容によって適用の度合いを判断などしていたら、そこにつけ込んで上官侮辱を乱発されてしまうことにもなりかねないのですから。
罵倒の内容などは、「上官侮辱罪」が成立すると見做された後に、せいぜい情状酌量の余地として弁護側が主張できることもあるかもしれない程度の意義くらいしかありえませんね。

ヴァレンシュタインに罵倒されたロボスおよび周辺の人間達は、ヴァレンシュタインの発言内容に対してではなく、ヴァレンシュタインの「行為」そのものを「軍の秩序を乱し混乱を招くもの」として糾弾し、「上官侮辱罪」として告発すれば良い、というよりもむしろ「そうしなければならなかった」のです。
ヴァレンシュタインがいくら「自身の発言の正当性」について述べたところで、そんなものは「上官侮辱罪」の構成要件をむしろ強化する結果にしかならないのですし、この当時のヴァレンシュタインには、相手を黙らせたり自らの不祥事をもみ消すことができたりするだけの権力的なバックアップが存在していたわけでもありませんでした。
ヴァレンシュタインが本格的かつ公然とシトレやトリューニヒトのバックアップが得られるようになったのは、この第6次イゼルローン要塞攻防戦が終わって以降のことだったのですし。
また、ヴァレンシュタインから直接罵倒されたロボスなどは、立場的にも軍法的にも心情的にも、ヴァレンシュタインに対して容赦などしなければならない理由は全くなかったはずです。
しかも「上官侮辱罪」というシロモノは、むしろ上層部が無能だったり不正行為の類に手を染めていたりする事実があればあるほど、「口封じの道具」などというその立法趣旨に反したやり方で濫用されることが珍しくない法律なのですからなおのこと。
にもかかわらず、この場でもそれ以降でも「上官侮辱罪」は全く発動されなかったのですから、これはもう「神(作者)の介入」によるもの以外の何物でもないでしょう。
狂人ヴァレンシュタインを偉く見せるため、またその立場を死守するため、神(作者)による「奇跡の行使」がまたしても振舞われたわけですね(苦笑)。
こんな神(作者)の祝福があるのであれば、そりゃどんなに愚劣な言動を繰り出しても、ヴァレンシュタインは永久に無敵でいられるに決まっています。
自分の足で立つことなく、神(作者)が押す乳母車にふてぶてしく鎮座し、誰も逆らえない神(作者)の力に守られながら周囲に威張り散らして他者を罵り倒すヴァレンシュタイン。
その光景の、何と愚劣で醜悪で滑稽なことなのでしょうか。

第6次イゼルローン要塞攻防戦の考察はまだまだ続きます。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察7

今の自分が置かれている現状を招いた責任のほとんど全てが自分自身にあるにもかかわらず、そこから目を逸らして他人を罵り倒し続けるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン。
まるでそうしないと生きていられないかのごとく、自分の責任を認めることを何が何でも拒絶するヴァレンシュタインは、必死の形相で格好のスケープゴートを探し始めるのですが、それがまたさらにトンデモ発言を引き出しまくるという悪循環を呈しているんですよね。
素直に自分の非を認めた方が本人もスッキリするでしょうし周囲&読者の人物評価も上がるのに、何故そこまでして「自分は正しく他人が悪い」というスタンスに固執するのか、普通に見れば理解に苦しむものがあります。
まあそれができる人間であれば「キチガイ狂人」と呼ばれることもなく、そもそも私が一連の考察を作ること自体がなかったわけなのですが、一体どのようにすればこんな人物が出来上がるのか、非常に興味をそそられるところです。
「作者氏が意図的に仕込んだ釣りネタ&炎上マーケティング戦略」といった類の作外の「大人の事情」的な要素を除外して物語内の設定に原因を求めるならば、ヴァレンシュタインの(今世だけでなく前世も含めた)家族や育てられた環境に致命的な問題があったということになるのでしょうが、それでもここまで酷いものになるのかなぁ、と。
あるいはもっと単純に、過去に何らかの理由で頭でも強打したショックから、脳の理性や感情を司る機能が回復不能なまでにおかしくなった、という事情も考えられなくはないかもしれませんが……。
今回より、「亡命編」における第6次イゼルローン要塞攻防戦で繰り広げられたヴァレンシュタインのキチガイ言動について検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-604.html(その6)

ヴァンフリート星域会戦後の自爆発言で、本人が全く自覚することすらなく発生していたヴァレンシュタイン最大の危機は、「神(作者)の介入」によるものなのか、それに関わった登場人物全てが原作ですらありえないレベルの桁外れな無能低能&お人好しぶりを如何なく発揮したがために、誰ひとりとしてその存在に気づくことさえもなくひっそりと終息してしまいました。
自分が致命的な失態を犯したことも、類稀な幸運で命拾いしたこともこれまた当然のごとく知ることがないまま、能天気なヴァレンシュタインは「会戦を勝利に導いた英雄」として称賛され、二階級段階昇進を果たすこととなります。
もちろん、超重度の万年被害妄想狂患者である狂人ヴァレンシュタインがその結果に感謝も満足もするはずなどなく、不平不満を並べ立てるのは当然のお約束なのですが、そのヴァレンシュタインと同様に不満を抱いたのが、ヴァンフリート星域会戦でロクに活躍することができず嘲笑の的となった宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボスです。
引き続き第6次イゼルローン要塞攻防戦を指揮することとなったロボスは、その腹いせとばかりにヴァレンシュタインとその一派を自分から引き離し隔離することとなります。
それに対するヴァレンシュタインの反応がこれ↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/20/
> 頭を切り替えよう、参謀は百人は居るのだが俺が居る部屋には三人しか居ない。俺とサアヤとヤンだ。部屋が狭いわけではない、少なくともあと五十人くらいは入りそうな部屋なのだが三人……。滅入るよな。
>
> 想像はつくだろう。ロボス元帥に追っ払われたわけだ。彼はヴァンフリートで俺達に赤っ恥をかかされたと思っている。バグダッシュは相変わらず世渡り上手なんだな、上手い事ロボスの機嫌を取ったらしい、あの横着者め。グリーンヒル参謀長は俺達のことをとりなそうとしてくれたようだが無駄だった。
>
>
心の狭い男だ、ドジを踏んだのは自分だろう。それなのに他人に当たるとは……。宇宙艦隊司令長官がそれで務まるのかよ。笑って許すぐらいの器量は欲しいもんだ。
>
>
まあ、俺も他人の事は言えない。今回はヤンにかなり当り散らした。まあ分かっているんだ、ヤンは反対されると強く押し切れないタイプだって事は。でもな、あそこまで俺を警戒しておいて、それで約束したのに一時間遅れた。おまけに結果は最悪、そのくせ周囲は大勝利だと浮かれている。何処が嬉しいんだ? ぶち切れたくもなる。
>
> しかしね、
まあちょっとやりすぎたのは事実だ、反省もしている。おまけにロボスに疎まれて俺と同室なった。ヤンにしてみれば踏んだり蹴ったりだろう。悪いと思っている。

「心の狭い男だ、ドジを踏んだのは自分だろう。それなのに他人に当たるとは……」って、発言した瞬間にブーメランとなって自分自身に跳ね返っているという自覚はないのですかねぇ、ヴァレンシュタインは(笑)。
これまで検証してきたように、ヴァンフリート星域会戦でラインハルトを取り逃した最大の原因は、他ならぬヴァレンシュタイン自身がラインハルトに関する情報提供と補殺目的の提示を怠ったことにあるのですし、1時間遅れた件に関しても、ヴァレンシュタインが救援のための無線通信を乱発したことに問題がある可能性が少なくないわけでしょう。
それにヤンは、なすべきことをやらなかったヴァレンシュタインと違って、すくなくともビュコックに対して補給基地へ向かうように進言すること自体はきちんと行っていたわけですし、それに反対されるのも、ビュコックがその発言を採用するか否かを決定するのも、基本的にヤンの一作戦参謀としての権限ではどうにもならない話です。
そして、そんな場合に強気に出れないヤンの性格も、当時のヤンとビュコックの関係も知悉していながらヤンを配置するよう手配したのも、これまたヴァレンシュタイン本人なのですから、当然その責任もまたヴァレンシュタインに帰するものでしかありません。
この3つの問題がない状態でそれでも同盟軍がしくじったというという想定であれば、ヴァレンシュタインの罵倒にもある程度の正当性が見出せるのでしょうが、現実は全くそうではないのです。
責任論の観点から言えば、ヴァンフリート星域会戦の失敗の責任は、どう少なく見積もっても95%以上、実際のところは限りなく100%近い数値でヴァレンシュタインに帰するものなのですから、その事実を無視してアレだけヤンを責めたのは、ロボスがヴァレンシュタインを遠ざける理由よりもはるかに不当もいいところです。
ヴァレンシュタインが本当に反省すべきなのは「ヤンを責めすぎた」ことではなく、「不当な理由と言いがかりでヤンを責めた」ことそれ自体にあるのです。
「ヤンを責めすぎた」では、「ヤンを責めた」こと自体は正しいことだったと断定しているも同然ですし、それでは結局「本当の原因と問題から目を背けている」以外の何物でもなく、本当の反省とは到底言えたものではないでしょうに。
「ドジを踏んだのは自分だろう。それなのに他人に当たるとは……」とは、むしろ逆にヤンこそがヴァレンシュタインに対して発言すべき台詞であるとしか評しようがないのですが。

そして私がさらにウンザリせずにいられないのは、自分の責任についてここまで無自覚な上に甘過ぎるスタンスを取っているヴァレンシュタインが、他人の過ちを糾弾する際には自分の時と比較にならないほど厳格極まりない態度を示していることです。
「亡命編」ではなく「本編」の話になるのですが、ヴァレンシュタインがラインハルトに愛想を尽かして敵対することを決意した際、こんなことをのたまっていたりするんですよね↓

http://ncode.syosetu.com/n4887n/66/
> 2だが、一番いいのはこれだ。門閥貴族たちを潰せる可能性は一番高い。しかし問題は俺とラインハルトの関係が修復可能とは思えないことだ。向こうは俺にかなり不満を持っているようだし、今回の件で負い目も持っている。いずれその負い目が憎悪に変わらないという保障はどこにも無い。
>
> こっちもいい加減愛想が尽きた。
欠点があるのは判っている、人間的に未熟なのもだ。しかし結局のところ原作で得た知識でしかなかった。実際にその未熟さのせいで殺されかけた俺の身にもなって欲しい。おまけに謝罪一つ無い、いや謝罪は無くても大丈夫かの一言ぐらい有ってもいいだろう。
>
> この状態でラインハルトの部下になっても碌な事にはならんだろう。いずれ衝突するのは確実だ。門閥貴族が没落すれば退役してもいいが、そこまで持つだろうか。その前にキルヒアイスのように死なないと誰が言えるだろう?

さて、「亡命編」におけるヴァレンシュタインは、たとえその内実がピント外れ過ぎる反省ではあったにせよ、ヤンに対して「悪かった」とは思っていたわけですよね?
ならば、そのヤンに対して全く謝罪しようともせず、もちろん「大丈夫か」の一言をかけようとすらも考えないヴァレンシュタインは、「本編」における【人間的に未熟な】ラインハルトと一体何が違うというのでしょうか?
しかも実際には、ヤンに対するヴァレンシュタインの罵倒責めは冤罪レベルで不当もいいところだったのですから、本来ヴァレンシュタインは、ヤンに対して謝罪どころか土下座までして許しを請うたり慰謝料を支払ったりしても良いくらいなのです。
ヴァレンシュタインの「未熟」などという言葉では到底収まることのない、幼稚園児以下のワガママと狂人的な電波思考に基づいて、八つ当たりと責任転嫁のターゲットにされたヤンこそ、いい面の皮でしかないでしょう。
自分と他人でここまであからさまに違うダブルスタンダードな態度を、しかもそれを整合するための具体的な理由すらも全く提示することがないからこそ、ヴァレンシュタインは人格的にも全く信用ならないのですが。
原作におけるヤンやラインハルト&キルヒアイスも、すくなくとも狂人ヴァレンシュタインなどよりは、自分に対してそれなりに厳しい態度を取っていたと思うのですけどねぇ(-_-;;)。
ヴァレンシュタインが同じく罵りまくっているロボスやフォークなどは、まさに「自分には甘いくせに他人にはとてつもなく厳しい性格」な人間であるが故に周囲&読者から白眼視されているのですし、一般的に見てさえもそんな性格の人間なんて、「人間的な未熟さを露呈している」どころか「傍迷惑なキチガイ狂人」以外の何物でもないでしょうに。
この期に及んでも、とことんまでに自分自身のことを自己客観視できない人間なのですね、ヴァレンシュタインは。

ところで、これまでの考察でも何度か書いているのですが、私は以前から「ヴァレンシュタインは何故『自身が転生者である事実』を徹底的にひた隠しにするのか?」という疑問をずっと抱き続けています。
あまりにも秘密主義に徹しすぎるので、「実はこいつは元々人間不信的な精神的障害か疾患でも抱え込んでいて、自分以外の他者を誰ひとりとして信じることができない体質なのではないか?」とすら考えたくらいでしたし。
これまでは「本編」も含めてヴァレンシュタインが転生の問題を秘密にする件について語る描写が全くなかったため、その理由については推測の域を出ることがなかったのですが、「亡命編」の22話でついにヴァレンシュタインが自身の転生問題について語っている場面が登場しました。
で、その部分が以下のようなモノローグとして表現されているのですが…↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/22/
> ラインハルトが皇帝になれるか、宇宙を統一できるかだが、難しいんだよな。此処での足踏みは大きい。それに次の戦いでミュッケンベルガーがコケるとさらに帝国は混乱するだろう。頭が痛いよ……。俺、何やってるんだろう……。
>
> おまけにヤンもサアヤも何かにつけて俺を胡散臭そうな眼で見る。何でそんな事を知っている? お前は何者だ? 口には出さないけどな、分かるんだよ……。
しょうがないだろう、転生者なんだから……。
>
>
せっかく教えてやっても感謝される事なんて無い。縁起の悪い事を言うやつは歓迎されない。そのうちカサンドラのようになるかもしれない。疎まれて殺されるか……。ヴァンフリートで死んでれば良かったか……。そうなればラインハルトが皇帝になって宇宙を統一した。その方がましだったな……。人類にとっても俺にとっても。
>
>
いっそ転生者だと言ってみるか……。そんな事言ったって誰も信じないよな。八方塞だ……。俺、何やってんだろう……。段々馬鹿らしくなって来た。具合悪いって言って早退するか?

……何ですか、この支離滅裂な論理は?
「本編」でも「亡命編」でも、持ち前の原作知識とやらを盛大に振る舞い、周囲から称賛と恐怖混じりの注目を浴びると共に多大な恩恵まで享受していたのは、一体どこの誰だったというのでしょうか?
ヴァレンシュタインと彼が持つ原作知識のために、「本編」および「亡命編」のラインハルト&キルヒアイスは本来被るはずもない災厄と破滅の運命を押しつけられたというのに、何とまあ被害者意識に満ちた発想であることか。
そこまで転生者としての自分の立場と原作知識が疎ましかったのであれば、そもそも原作知識など封印して何の才幹も披露することなく、また原作に関わる政治や軍事に関与することもなく、ごく普通の一般庶民としての人生を送っていれば良かったでしょうに。
ヴァレンシュタインが原作知識を駆使して原作の歴史を変えたのは、他の誰でもない自分のためでしょう。
誰に強制されたわけでもなく自分の意思で、原作知識を当然の権利であるかのごとく使い倒して(客観的に見れば)非常に恵まれた地位と立場にあるにもかかわらず、その原作知識に対してすら感謝するどころか不満さえ抱くヴァレンシュタイン。
こんな愚劣な思考で動いているのであれば、ヴァレンシュタインが同盟に亡命した際に謝意ではなく不平満々な態度を示していたのも納得ですね。
原作知識という「絶対的な世界の理」を持つ自分が他者と比べてどれだけ恵まれているのか、ヴァレンシュタインはもう少し思いを致し、その境遇に感謝すべきなのではないのかとすら思えてならないのですが。

そしてさらに問題なのは、一方では原作の歴史を変えるレベルで原作知識を使うことに躊躇がないくせに、他方では「転生者であるという事実」をありとあらゆる人間から隠すという、ヴァレンシュタインの非常に中途半端なスタンスにあります。
「本編」でも「亡命編」でも、ヴァレンシュタインは原作知識に基づいた的確な予測と判断で周囲を驚愕させ、その見識を称賛される一方、なまじ才幹があるラインハルトやキルヒアイス、ヤンなどから恐怖と警戒の目で見られるという問題を抱え込んでいました。
その恐怖の根源は、ヴァレンシュタインの神がかった(ように見える)手腕や才覚がどこから来るものであるのか理解できず、得体のしれない存在を見る目でヴァレンシュタインを評価せざるをえなかったことに尽きます。
「こいつは不気味だ」「何を考えているのか分からない」と見做される人間に恐怖と警戒心を抱くのは、動物の本能的に見ても至極当然のことなのですから。
しかし、もしヴァレンシュタインが自身の秘密を明かし、その原作知識を売り込みにかかっていれば、彼らの恐怖と警戒心を解消させると共に強固な信頼関係を獲得することも充分に可能だったのです。
もちろん、最初は当然のごとく「お前は何を言っているんだ?」という目で見られるかもしれませんが、原作知識を持つヴァレンシュタインがその存在を立証するのは極めて容易なことです。
実際、作中でもヴァレンシュタインの「預言」や「奇跡」は実地で何度も立証されているわけですしね。
そして一方、転生および原作知識の秘密は、何も全ての人間に共有させる必要もありません。
ヴァレンシュタインが自分の人生を託すべきごく限られた人間、「本編」ではラインハルト&キルヒアイス、「亡命編」ではシトレとヤン辺りにのみ、「信頼の証」「自分達だけの秘密」として教えれば良いのです。
原作知識から考えても、彼らならばヴァレンシュタインの秘密を「非科学的だ!」の一言で頭ごなしにイキナリ否定することはないでしょうし、立場的にも才覚の面で見ても、すくなくともヴァレンシュタイン単独の場合よりもはるかに有効に原作知識を活用することが可能だったでしょう。
何よりも、そういった有益な知識を供給してくれるヴァレンシュタインに、大きな利用価値を確実に見出してくれるはずですし、上手くいけばヴァレンシュタインが永遠に持つことのないであろう「恩義」というものも感じてくれたかもしれないのです。
何でもかんでも被害妄想を抱き、「恩は踏み倒すもの」「恩には仇で報いるべき」という信念でも持っているとしか思えないヴァレンシュタインには到底理解できない概念なのでしょうが、すくなくとも銀英伝世界ではヴァレンシュタインと違って「恩には感謝する」人間の方が数的には多いものでしてね(爆)。
自身の秘密をヴァレンシュタインが「限られた他者」に打ち明けるだけで、これだけの恩恵をヴァレンシュタインは得ることができたのです。

一方、そういった選択肢を取らなかったことで、ヴァレンシュタインがどれほどまでの不利益を被ってきたのかは、「本編」および「亡命編」の惨状を見れば一目瞭然でしょう。
「本編」でヴァレンシュタインがラインハルト&キルヒアイスと決別してしまったのも、「亡命編」でヴァレンシュタインが周囲、特にヤンから警戒されるようになったのも、突き詰めれば全てヴァレンシュタインの秘密主義が最大の元凶です。
そしてさらに「亡命編」では、ラインハルトの情報を同盟軍首脳部に事前に提供しなかったがために、ヴァレンシュタインが悔いても悔やみきれない「ヴァンフリート星域会戦におけるラインハルト取り逃がし」という結果を招くことになったわけでしょう。
これにしても、ヴァレンシュタインが自身の秘密とラインハルトによってもたらされる未来図を提示して殲滅を促していれば、目的が達成できた公算はかなり高いものになったはずなのですが。
「縁起の悪い事を言うやつは歓迎されない」「そんな事言ったって誰も信じない」というのは、転生という事実を目の当たりにしながら「科学教」という名の新興宗教の教義に呪縛されているヴァレンシュタインの、それこそ非合理的かつ「非科学的な」思い込みに過ぎないのです。
そもそも「非科学的」というのであれば、先のヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインの自爆発言の数々に、作中の登場人物の誰ひとりとして何の疑問も疑念も抱かず、その重要性に気づきすらもしなかったことこそが、奇妙奇天烈な超怪奇現象以外の何物でもないのですし(笑)。
あの時点では誰も知りえない原作知識の話をあれだけ披露しても裏付けひとつ必要なく素直に信じてもらえるのであれば、「ヴァレンシュタインが転生者である」という突拍子もない秘密の告白だってすぐさま信じてもらえるでしょうよ(爆)。
正直、作中の描写から考えてもあまりにも無理のあり過ぎる論理としか評しようがなく、「転生の秘密を隠さなければならない理由」としては全く成り立っていないですね、ヴァレンシュタインの説明は。

それにしても、「転生」などという超常現象を目の当たりにしてさえ、「科学」の論理に束縛されて「非常識な【常識的判断】」をしてしまうというヴァレンシュタインの滑稽極まりない光景は、同じ田中作品である創竜伝や薬師寺シリーズで幾度も繰り返された「オカルトを否定しながらオカルトに依存する」あの構図をついつい想起してしまうものがありますね。
「科学」というのは事実を否定する学問などではないのですし、いくら科学的に説明不能な超常現象であっても、それが目の前に事実として現れた時、道を譲るべきは「科学」の方なのであって、「事実」を「科学」に合わせるなど本末転倒もはなはだしいのですが。
科学で本当に重要なのは「結論」そのものではなく「結論までに至る検証過程」なのであって、その過程を経て得られた「結論」だけを取り出し、ある種の権威として盲目的に信奉し他者を攻撃する武器として振り回すがごとき行為は、中世ヨーロッパの魔女狩りと同じシロモノでしかなく、むしろ科学を貶めるものですらあるでしょうに。
田中芳樹もそうなのでしょうが、ヴァレンシュタインもまた、その手の「科学の宗教的教義」の信奉者であると言えるのではないかと
「転生」などという一見不可解な現象を、証明の過程を経て他者を納得・信用させる、実はこれも立派な「科学」の手法なのですけどね。
まあ、科学の手法というのは相当なまでの根気と忍耐を必要とするものですから「それと全く無縁な人生を歩んできた狂人ヴァレンシュタインに果たして実践できるものなのか?」と問われると、私としては無条件で否定的な回答を返さざるをえないところではあるのですが(苦笑)。

次回も引き続き、第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインの言動について検証を続ける予定です。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察6

作者氏の意図的にはメインヒロインとして登場させたであろう「亡命編」オリジナルキャラクターであるミハマ・サアヤ。
しかしあちらのサイトの感想欄では、上司たるバグダッシュ共々非難轟々な惨状を呈するありさまで、「亡命編」における鼻つまみ者的な扱いを受けています。
ところがそのような状態にあるにもかかわらず、非難が頻出するのにあたかも比例するかのように、ミハマ・サアヤの描写は次々と展開され続け、設定もどんどん詳細になっていくという奇怪な状況が続いています。
ミハマ・サアヤに対する作者氏の力の入れようと感想欄のギャップを見た時、私は最初「ミハマ・サアヤというキャラクターは【釣り】【炎上マーケティング】を意図して作られた存在なのではないか?」とすら考えたくらいなんですよね。
わざと読者の反感を煽るような造詣のキャラクターをことさら作り出し、それによってヴァレンシュタインへの同情票を集め読者を惹きつけることを目的とした【釣り具の餌】、それこそミハマ・サアヤが作者氏によって与えられた真の役割なのではないか、と。
もしミハマ・サアヤが本当にそんな意図で作られたキャラクターなのであれば、まさに作者氏の目論見は充分過ぎるほどに達成されたと言えるのでしょうが、ただそれにしてもミハマ・サアヤ絡みの作中描写には奇妙なものが多すぎるとは言わざるをえないところです。
そんなわけで今回の考察では、エーリッヒ・ヴァレンシュタイン本人ではなく、彼の動向について多大なまでに関わっている、「亡命編」のオリジナルキャラクターであるミハマ・サアヤとバグダッシュのコンビについて論じていきたいと思います。
ミハマ・サアヤの評判が著しく悪化したのもヴァンフリート星域会戦以降でしたし、ちょうど次の会戦までを繋ぐ幕間ということで(^^;;)。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)

ミハマ・サアヤという人物は、その序盤の言動を見るだけでも「超弩級の天然が入っている」以外の何物でもない様相を披露しています。
そもそもの出会いからして、ミハマ・サアヤは「原作知識が使えない」はずのヴァレンシュタインにいいようにあしらわれている始末ですからね。
ヴァレンシュタインの監視を始めてからわずか4日で自身の素性がバレたのみならず、バグダッシュが上司であることまでもが筒抜けになっていましたし。
まあこれだけならば、そもそも士官学校を卒業して間もない新人でしかなかった人間に「監視」などという高度な任務を、しかも単独で与えたバグダッシュにこそ一番の責任があると評するところですが、ミハマ・サアヤの暴走はむしろここから始まります。
アルレスハイム星域会戦では、ヴァレンシュタインの言うがままに、作中では「パンドラ文書」などというご大層な名前で呼ばれていたらしいヴァレンシュタインの監視報告書を書き綴ってしまうミハマ・サアヤ。
フェザーンでも、これまたヴァレンシュタインの言うがままにヴァレンシュタインと帝国側の人間との情報交換に加担した上、その詳細を「彼らの想いを汚したくない」「情報部員としては間違っていても人としては正しい姿なのだ」などという個人的な感情から上層部に報告しなかったミハマ・サアヤ。
そしてヴァンフリート星域4=2の補給基地に赴任するよう命じられ、ヴァレンシュタインが(自分の問題を他者に責任転嫁しながら)豹変した際には、「昔のヴァレンシュタインに戻って欲しい」などという感傷に浸りまくるミハマ・サアヤ。
挙句の果てには、フェザーンでの前科を忘れて自分に盗聴器を仕込んだバグダッシュ相手に「自分を信じないなんて酷い」などとなじり、ついには自身の監視対象であるはずのヴァレンシュタインを相手に「私は信じたい」「私を信じて下さい」などとのたまってみせるミハマ・サアヤ。
原作知識の援護が全く受けられない状況下のヴァレンシュタイン相手にここまでの失態を晒してしまうミハマ・サアヤは、すくなくとも「監視者」としては相当なまでの無能者であるとしか評しようがなく、またこんな人間に「監視」などという任務をあてがった「亡命編」のバグダッシュもまた、多大なまでに任命&監督責任が問われなければならないところです。

では、ミハマ・サアヤが乱発しまくった一連の問題だらけな言動は、一体どこから出てきているのか?
それは「プロ意識の完全なる欠如」の一言に尽きます。
そもそも、彼女の「監視者」としての仕事の様子を見ていると、実は監視対象に対して公私混同レベルの感情移入をしているのが一目瞭然だったりするんですよね。
フェザーンでヴァレンシュタインの個人的事情に感動?するあまり、報告書を上げる義務を放棄した一件などはまさにその典型でしたし。
監視対象の事情がどうだろうと、それと自分の仕事内容はきちんと区別した上でほうれんそう(報告・連絡・相談)を遂行することこそが、プロの職業軍人として本来全うすべき基本的な義務というものでしょう。
ましてや、ミハマ・サアヤがヴァレンシュタインに入れ込む動機自体が、監視任務や同盟の動向とは何の関係もない、単なる自己感情を満足させるだけのシロモノでしかないのですからなおのこと。
第一、ヴァレンシュタインがミハマ・サアヤを油断させるための演技の一環として、そういったアピールをしていないという保証が一体どこにあるというのでしょうか?
自分の無害ぶりをアピールし、監視者に「こいつは安全だ」と錯覚させ、自分に対する疑惑を解除させた上で油断を誘いつつ、裏で諸々の工作を展開したり、「決行」の日に備えて準備を進めたりする。
「スパイ容疑」をかけられている相手が本当にスパイなのであれば、むしろそういう「したたかさ」を披露しそうなものですし、監視する側も予めそういう想定をしておく必要が確実にあるはずなのですけどね。
監視されている身であることを充分に承知していながら「私は同盟に仇なすことを画策しています」などという自ら墓穴を掘る自爆発言をやらかして平然としているような奇跡的な低能バカは、それこそヴァレンシュタインくらいなものなのですから(爆)。
監視者としてのミハマ・サアヤの仕事は、そういった可能性をも勘案した上で、ヴァレンシュタインの言動の一切合財全てを疑いながら素性を明らかにし、その全容を余すところなく上層部に報告していく、というものでなければならないはずでしょう。
監視対象の境遇を「理解」するところまではまだ仕事の範疇ですが、そこから同情したり親愛の感情を抱いたり、ましてや上への報告の義務を怠ったりするのは論外です。
仕事に私的感情を持ち込み、公私を混同する点から言っても、ミハマ・サアヤは能力以前の問題でプロの職業軍人として失格であると評さざるをえないのです。
軍人に限らずプロ意識というものは、ただその職に就きさえすれば自動的に備わるなどというシロモノでは決してないのですけどね。

また、元来「監視対象と監視者」という関係でしかないヴァレンシュタインとミハマ・サアヤとの間には、相互信頼関係を構築できる余地自体が【本来ならば】全くないはずなのです。
考察3でも述べましたが、「自分が生き残る」ことが何よりも優先されるヴァレンシュタインにとって、自分の言動を監視しいつでも自分を暗殺できる立ち位置にいるミハマ・サアヤは、原作知識が活用できないことも相まって、本来ラインハルト以上に厄介な脅威かつ警戒すべき存在です。
さらにヴァレンシュタインは、「帝国への逆亡命計画」などという他者に公言できない後ろ暗い秘密を、すくなくとも17話までは(周囲にバレていないと思い込んで)ひとりで抱え込んでいたわけですから、なおのこと監視の目を忌避せざるをえない境遇にあったはずでしょう。
そしてミハマ・サアヤはミハマ・サアヤで、実は暗殺どころか、自分の胸先三寸次第でいつでもヴァレンシュタインを合法的に処刑台へ送ることができるという絶対的な強みがあるのです。
何しろ、もっともらしい証拠と発言を元に「ヴァレンシュタインは帝国のスパイです」という報告書をでっち上げるだけで、ヴァレンシュタインをスパイ容疑で逮捕拘束させ軍法会議にかけることが可能となるのですから。
別に虚偽でなくても、フェザーンでの一件と、ヴァンフリート星域会戦後における自爆発言などは、事実をそのままありのままに書いただけでも【本来ならば】ヴァレンシュタインを処刑台に追いやることが充分に可能な威力を誇っていましたし。
彼女はその立場を利用することで、ヴァレンシュタインに対等の関係どころか自分への服従・隷属を要求することすらも立場上行うことが可能だったのですし、逆にヴァレンシュタインがそれを拒むことはほぼ不可能なのです。
下手に反抗すれば、それを「スパイ容疑の動かぬ証拠」として利用される危険があるのですし、仮にミハマ・サアヤを何らかの形で排除できたとしても、後任の監視者がミハマ・サアヤと全く同じ立場と強みを引き継ぐことになるだけで、ヴァレンシュタインにとって事態は何も改善などされないのですから。
こんな2人の関係で、相互信頼など築ける方が逆にどうかしているでしょう。
表面にこやかに左手で握手を交わしつつ、右手に隠し持った武器を相手に突き込む隙を互いに窺い合う、というのが2人の本当のあるべき姿なのです。
にもかかわらず、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤについて外面だけ見た評価しか行わず安心しきってしまい、「実はそれは自分を騙すための擬態であるかもしれない」という可能性についてすらも全く考慮していませんし、ミハマ・サアヤもヴァレンシュタインに対して「私は信じたい」「私を信じて欲しい」などとのたまう始末。
自分達の置かれている立場に思いを致すことすらなく、小中学生のトモダチ付き合いレベルの関係を何の疑問もなく構築している2人を見ていると、「人間ってここまで『人を疑わない善良なお人良し』になれるのだなぁ」という感慨を抱かずにはいられないのですけどね(苦笑)。
正直、2人共おかしな宗教の勧誘や詐欺商法の類に簡単に引っ掛かりそうな「カモ」にしか見えないのですが(笑)。

ただ、ヴァレンシュタインとミハマ・サアヤは、立場的なものを除いて個人的な性格という面だけで見れば、非常に「お似合い」な男女の組み合わせではあるでしょうね。
ミハマ・サアヤがヴァレンシュタインにあそこまで入れ込むのは、突き詰めれば「自分のため」でしかなく、その点についてはヴァレンシュタインと全く同じなのです。
ヴァレンシュタインがヴァンフリート4=2の補給基地赴任を命じられて発狂した際も、ミハマ・サアヤが考えたのは「ヴァレンシュタインが作った美味しいスイーツをまた食べたい」「今のままでは居心地が悪いから昔に戻ってほしい」というものでしたし、フェザーンでの命令違反や「私を信じて」云々の発言も、任務とは全く無関係の私的感情からです。
ミハマ・サアヤがヴァレンシュタインのことを気にかけるのは、何もヴァレンシュタインのことを想ってのことなどではなく、単なるその場その場の自己都合か、または「こんなに愛しのヴァレンシュタインのことを心から心配し彼に尽くしている(つもりの)私ってス・テ・キ」みたいな自己陶酔の類でしかないわけです。
何でも「自分は正しく他人が悪い」で押し通す自己正当化と他罰主義のモンスタークレーマーであるヴァレンシュタインと、仕事中に公私混同ばかりやらかして自己に都合の良い選択肢を都度優先するミハマ・サアヤ。
形は少し異なりますが、どちらも「自己中心的」「自分のことしか見ていない&考えていない」という点では完全無欠の同類としか言いようがなく、だからこそ2人は「お似合い」であるというわけです。
もちろん、世の中には「同族嫌悪」「近親憎悪」という概念がありますし、自分しか見ていない者同士では相互コミュニケーション自体が全く成り立たないのですから、「お似合い」だからといって気が合うはずも仲良くなれるわけもないのですが。
ただ、「似た者同士でもでもどちらがよりマシなのか?」と問われれば、どう見てもミハマ・サアヤの方に軍配が上がってしまうのですけどね。
ミハマ・サアヤはすくなくとも被害妄想狂ではありませんし、まだ自分の言動を振り返ることができるだけの自省心くらいはかろうじて持ち合わせているわけですが、狂人ヴァレンシュタインにそんなものは全く期待できないのですから(爆)。

次回の考察から再びヴァレンシュタインの言動についての検証に戻ります。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察5

「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦についての最後の考察は、いよいよそのグランドフィナーレを極彩色かつ悪趣味な形で派手に飾り立てることとなる、エーリッヒ・ヴァレンシュタインが吐き散らしまくっていた愚劣極まりない罵倒内容について検証していきたいと思います。
これまでの考察で検証してきたような自身の問題に全く気づけない、もしくは知っていながらその事実を直視することなく、「全て他人が悪い」という自己正当化と責任転嫁ばかりに終始する、能力的にも人格的にも「多大」などという程度の言葉ではとても表現できないほどに問題がありまくるヴァレンシュタインは、もう理屈もへったくれもない論理でもって周囲の人間全てを罵倒しまくった挙句、ついにはそれこそ自身の立場どころか生命すらも危うくしかねない致命的な発言までも繰り出してしまうことになります。
こんなキチガイをわざわざ重用しなければならないとは、それほどまでに「亡命編」における同盟という国家は低能かつ善良すぎるお人好し集団なのかと、思わず嘆かずにはいられませんでしたね(苦笑)。
さて、前置きはこのくらいにして、検証を始めていくことに致しましょう。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)

「自己正当化&責任転嫁」という自身の欲望を満たすべく、ヴァレンシュタインが最初に選んだ口撃のターゲットはヤンでした。
ヴァレンシュタインはヤンに対し、ビュコック艦隊の来援が「自分の予想より一時間遅かった」などという理由でもってヤンを詰問し始めたのです。
前回の考察でも検証したように、このヴァレンシュタインの言い分自体に全く正当性がないのですが、そのことに気づかずよほどのハイテンションにでもなっているのか、ヴァレンシュタインは更なる不可解な言いがかりを披露し始めます↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/17/
> ヴァレンシュタインが薄く笑った。
> 「なるほど、ではヤン中佐の独断ですか……」
> 「馬鹿な事を言うな! ヴァレンシュタイン少佐! 一体何が気に入らないんだ。戦争は勝ったんだ、一時間の遅延など目くじらを立てるほどのことでもないだろう」
>
> 俺の叱責にもヴァレンシュタインは笑みを消さなかった。
> 「勝ったと喜べる気分じゃないんですよ、バグダッシュ少佐。
エル・ファシルでも一度有りましたね、中佐。あの時も中佐は味方を見殺しにした
> 今度はエル・ファシルか、何故そんなに絡む? 一体何が気に入らないんだ……。
>
> 「何を言っている、あれは
リンチ少将達がヤン中佐に民間人を押し付けて逃げたんだ。見殺しにされたのはヤン中佐のほうだろう」
> 俺はヤン中佐を弁護しながら横目で中佐を見た。中佐の身体が微かに震えている。怒り? それとも恐怖?
>
> 「バグダッシュ少佐、
ヤン中佐は知っていましたよ、リンチ少将が自分達を置き去りにして逃げることをね。その上で彼らを利用したんです。リンチ少将のした事とヤン中佐のした事にどれだけの違いがあるんです。五十歩百歩でしょう

こんな阿呆な形での活用しかされないなんて、私はヴァレンシュタインが持っているとされる「原作知識」とやらに心から同情せざるをえないですね(T_T)。
エル・ファシル脱出時におけるリンチは、本来自分が率先して守らなければならない民間人とヤンを見捨てたばかりか、自身の任務も放擲して逃走を行ったわけですよね。
そういうことをやらかした上司を、見捨てられた側のヤンが守ってやらなければならない理由や法的根拠が一体どこにあるというのでしょうか?
しかも民間人脱出のための準備に忙殺されていたであろうヤンは、リンチに直接諫言を行える場にもいなかったわけですし。
リンチはリンチで、まさか民間人とヤンを見捨てることを当のヤンに懇切丁寧に教えてやるわけもないのですから、この件に関してヤンは全くのノータッチということになります。
となればヤンは、リンチが見捨てた民間人および自分の生命を助けるために奔走せざるをえなかったでしょうし、そのためにいちいち手段など問うてはいられなかったでしょう。
しかも、リンチがヤンに与えた最後の命令は「民間人脱出計画の立案と実行」なのですから、実はヤンはリンチの命令にすらも全く背いていないことになります。
自身の任務を放棄し敵前逃亡したリンチと、上司の命令を最後まで忠実に守って実行したヤン。
両者の行動には、誰が見ても明々白々でしかない絶対的かつ圧倒的な格差があるとしか思えないのですけどねぇ。

そしてさらに笑止なのは、リンチとヤンのやっていることが同じだと断罪する他ならぬヴァレンシュタイン自身がもしヤンと同じ立場に立たされた場合、確実にヤンと同じことをするであろうということです。
何故なら、リンチの敵前逃亡によって危機に晒されたのは民間人だけでなく、ヤン自身も同じだったからです。
ヤンが民間人脱出をやってのけたのは、もちろん民間人保護のためでもあったでしょうが、同時に自分自身を助けるためでもあったのです。
そしてヴァレンシュタイン自身もまた、自分の生命を守り生き残るために、原作の流れを変えてラインハルトを殺そうとすらしたわけでしょう。
エル・ファシルにおけるヤンの行為と同じなのは、リンチの敵前逃亡などではなく、ヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタイン自身の選択なのです。
それから考えれば、もしエル・ファシルの脱出におけるヤンの立場にヴァレンシュタインがあった場合、彼がヤンと全く同じ行動を取ってリンチを見捨てるであろうことは確実なわけです。
またヴァレンシュタインの性格から言っても、自分を見捨てて危機に晒すような上司に対して何の報復もしないとは到底考えられません。
リンチを見捨てるどころか、むしろ嬉々として帝国軍に捕まるような取り計らいをすらするでしょうね、ヴァレンシュタインならば(笑)。
実際、この先のストーリーでも、ロボスとフォークをその地位から叩き出すような行為をヴァレンシュタインは平気で行っているのですから。
もちろん、「自分が生き残ること」を至上命題とするヴァレンシュタインにとって、そういった行為は無条件に正しいとされる行為なのでしょう。
しかしそれならば、他ならぬ自分自身の行動原理と照らし合わせても妥当としか言いようのないヤンの行為について、何故ヴァレンシュタインがそこまで罵り倒すのか、およそ理解不能と言わざるをえないのですけど。
それって、普通に考えたら「自分だけを特別扱いするダブルスタンダード」としか評されないのではないですかね?

さて、ヴァレンシュタイン個人の被害妄想に立脚した私怨に満ちた罵倒に対し、しかしヤンはいっそ紳士的とすら評しても良いくらい律儀な弁明を行います。
ビュコックにヴァンフリート4=2への転進するよう進言はしたが、他の参謀に反対され意見を通せず、それ故に1時間はロスしたであろうと。
状況から言っても、ヴァレンシュタインが持つ原作知識から見ても充分に起こりえる話であり、何よりも前回の考察で述べたように当時の2人の関係とヤンの性格を読み間違えたヴァレンシュタインにこそ最大の問題と責任があったことを鑑みれば、すくなくともヤン「だけ」に全面的な非があると責めるのは酷というものでしょう。
しかし、その事実を突きつけられてもなお、ヴァレンシュタインは全く納得しようとしません。
それもそのはずで、そんなことを認めてしまったら、ヴァレンシュタインが最大の目的としている「自己正当化&責任転嫁」の欲望が達成できないことになってしまうではありませんか(苦笑)。
何が何でも「自分に問題がある」と認めるわけにはいかない、他人に責任をなすりつけ罵りまくりたい。
そんな風に懊悩するヴァレンシュタインの様子を根本的に勘違いしたバグダッシュから、話の流れとは全く関係のない「救いの手」が差し伸べられました。
バグダッシュは、ヴァレンシュタインを帝国に帰すわけにはいかないから前線勤務を命じたという事情をヴァレンシュタインに話したのですね。
ところが何を血迷ったのか、ヴァレンシュタインは自分以外の人間には全く理解できない理論を駆使して周囲の人間全てを罵倒し始めた挙句、ついには致命的な発言まで繰り出してしまったのです↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/17/
> 「よくもそんな愚劣な事を考えたものだ。自分達が何をしたのか、まるで分かっていない」
> 「少佐……」
> ヴァレンシュタインの口調が変わった。口調だけではない、表情も変わった。さっきまで有った冷笑は無い、有るのは侮蔑と憎悪だけだ。その変化に皆が息を呑んだ。
>
> 「私はヴァンフリート4=2へ行きたくなかった。行けばあの男と戦う事になる。だから行きたくなかった」
> 「あの男?」
> 恐る恐るといった感じのミハマ中尉の問いかけにヴァレンシュタインは黙って頷いた。
>
> 「
ラインハルト・フォン・ミューゼル准将、戦争の天才、覇王の才を持つ男……。門閥貴族を憎み、帝国を変える事が出来る男です。私の望みは彼と共に帝国を変える事だった
>

(中略)
>
>
「第五艦隊の来援が一時間遅れた……。あの一時間が有ればグリンメルスハウゼン艦隊を殲滅できた、逃げ場を失ったラインハルトを捕殺できたはずだった」
> ヴァレンシュタインは呻くように言って天を仰いだ。両手は強く握り締められている。
>
> 「最悪の結果ですよ、ラインハルト・フォン・ミューゼルは脱出しジークフリード・キルヒアイスは戦死した。ラインハルトは絶対私を許さない」
> ジークフリード・キルヒアイス? その名前に不審を感じたのは俺だけではなかった。他の二人も訝しそうな表情をしている。俺達の様子に気付いたのだろう、ヴァレンシュタインが冷笑を浮かべながら話し始めた。
>

(中略)
>
> 「
貴官らの愚劣さによって私は地獄に落とされた。唯一掴んだ蜘蛛の糸もそこに居るヤン中佐が断ち切った。貴官らは私の死刑執行命令書にサインをしたわけです。これがヴァンフリート星域の会戦の真実ですよ。ハイネセンに戻ったらシトレ本部長に伝えて下さい、ヴァレンシュタインを地獄に叩き落したと」
> 冷笑と諦観、相容れないはずの二つが入り混じった不思議な口調だった。

……よくもまあ、ここまで自爆同然の発言をやらかして平然としていられるものだなぁと、もう呆れるのを通り越していっそ絶賛すらしてやりたくなってしまいましたね。
実はここでヴァレンシュタインは、自身の未来どころか生命すらをも破滅に追いやりかねない致命的な発言を2つもやらかしているのです。
ひとつは、このタイミングでラインハルトの情報および自分の真の戦略目的を公言してしまったこと。
そもそもこの時点まで、ラインハルトに関する軍事的才能などについての詳細な情報は、同盟国内の誰ひとりとして知る機会すら全くありませんでした。
当然、その将来的な脅威や来るべき未来図などは、ヴァレンシュタイン以外に、ヴァンフリート星域会戦当時における「亡命編」の世界で知っている者などいるはずがありません。
そういった人物を捕殺することがヴァレンシュタインの真の戦略目的だったというのであれば、それは会戦前にヴァレンシュタイン自ら同盟軍首脳部に対し情報を提供し、その殲滅を最優先するように周知徹底させなければならないことだったはずです。
存在すら知らない人間の殲滅なんてできるわけもないのですから。
ところがヴァレンシュタインは、自分が当然やるべき責務を怠ったのですから、これでは失敗するのが当たり前で、むしろ成功などする方が逆に奇跡の類なのです。
そしてここが重要なのですが、ヴァレンシュタインがそのような公言を行ったことにより、ヴァレンシュタインが同盟軍に対して本来提供すべき情報を故意に隠蔽していたという事実を、当の同盟軍側が知ることとなってしまったのです。
一般企業でさえ、上層部にほうれんそう(報告・連絡・相談)を怠って不祥事を招いた人間は、相応の責任を問われる事態に充分なりえるのです。
ましてや、これが軍であればなおのこと、重罪に問われても文句は言えないはずです。
この時点でヴァレンシュタインは、情報を隠蔽され不確実な軍事行動を強いられた同盟軍から、何らかの罪に問われるであろうことが【本来ならば】確実だったわけです。

そして、より致命的なふたつめは、そのラインハルトに仕えることが自分の望みであると自分から公言してしまったこと。
本来考えるまでもないことなのですが、このヴァレンシュタインの発言は「自分が帝国のスパイである」と自分から公言しているも同然です。
ラインハルトの下につこうとするヴァレンシュタインが、ラインハルトに対して同盟について自分が得た経験と知識を提供しないわけがないのですから。
ヴァレンシュタインは「俺がブラウンシュヴァイク公などに仕えるわけがないだろう!」と怒り狂っていますが、同盟側にしてみれば、情報提供する相手がブラウンシュヴァイク公だろうがラインハルトだろうが「帝国に同盟の内部情報が持ち去られてしまう」という点では何も変わりません。
元々スパイ疑惑がかけられ監視されていたヴァレンシュタインは、これで晴れて「帝国のスパイ」としての地位を自ら確立することとなってしまうわけです。
こちらは同盟側にとっては「現時点ではまず真偽を確認するところから始めなければならない未確定なラインハルト関連情報」の隠蔽問題よりもはるかに切実な事件となりえますので、【本来ならば】ヴァレンシュタインは、この言質を元に逮捕拘禁されて軍法会議にかけられ、最悪銃殺刑に処されたとしても文句は言えないのです。
何しろ同盟側から見れば、誰からも強制されていないのに「自分はスパイになるのが望みである」と当の本人が堂々と公言しているも同然なわけなのですから。
ヴァンフリート星域会戦を戦勝に導いた功績など全部帳消しになるどころか、自身の立場や生命すらも危うくなりかねない失態を、ヴァレンシュタインは【本来ならば】演じていたことになるわけです。

では何故、【本来ならば】罪に問われるはずだったヴァレンシュタインが全くそうなることなく、順当に二階級段階昇進などをしているのか?
もちろん、「ヴァレンシュタインが密かに暗躍してそういう事態を未然に防いだ」などということは全くなく、単に同盟軍上層部がヴァレンシュタインの発言の意味すらも全く理解しえなかったほどの「常識外れのバカ」かつ「人を疑うことすら知らないレベルの重度のお人好し」だった、という以外の結論など出ようはずもありません。
何しろ、一連のヴァレンシュタインの言動は報告書として上げられシトレやキャゼルヌもきちんと検分している(19話)のに、それでもヴァレンシュタインに嫌疑をかけることすら全く思いもよらないのですから。
彼らは一体何のためにヴァレンシュタインを監視していたというのでしょうか?
別の意味で「国家」や「軍隊」の体を為していませんし、原作「銀英伝」の自由惑星同盟だって、いくら何でもここまで酷くはなかっただろうにと思えてならなかったのですけどね(爆)。
たかだかヴァレンシュタインごときのキチガイな言動を正当化する【だけ】のためなどに、ここまで同盟軍および原作主要登場人物達は徹底的に貶められなければならないのでしょうかねぇ(-_-;;)。

ヴァレンシュタインが同盟軍に入らなければ。
ヴァレンシュタインが同盟軍内で目立つような言動を披露などしなければ。
ヴァンフリート4=2の補給基地赴任を命じられた時点でヴァレンシュタインがラインハルトの情報を同盟軍に公表し殲滅を促していれば。
そして何よりも、原作知識を過信せずに正しく使いこなしていれば。
ヴァレンシュタインがラインハルトと「望まない直接対決」を強いられる羽目になり、ヴァンフリート星域会戦でラインハルトを取り逃がすまでに至ったのは、そのほとんどがヴァレンシュタイン自身の責任に帰する問題以外の何物でもありません。
これこそが、ヴァレンシュタインがひたすら目を背け続けた、ヴァンフリート星域会戦の【本当の】真実なのですよ(苦笑)。
屁理屈の類にすらも全くなっていない愚劣で非現実的な「迷推理」ばかり披露し空回りを続けてでも他人に八つ当たりしまくり、自己正当化と責任転嫁に汲々としてばかりいる、人並みの羞恥心すらもない思い上がりと厚顔無恥を地で行くヴァレンシュタインには、おそらく永遠に理解できないであろうことなのでしょうけどね。

さて、これで「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦についての考察はとりあえず終了ですが、「亡命編」のストーリーはこれ以降もまだまだ続きます。
当然、「亡命編」が完結するか中途放棄されるまで、ヴァレンシュタインの笑える珍道中も続くことになるわけですが、次回の考察では少し幕間的な話をしてみたいと思います。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察4

「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦自体は、転生者たるエーリッヒ・ヴァレンシュタインの原作知識に基づいた介入によって原作と異なり同盟側の勝利に帰するのですが、それに対するヴァレンシュタインのリアクションが、吉本新喜劇もビックリの真剣お笑いギャグそのもので、私がヴァレンシュタインを完全にネタキャラ扱いするようになったのも実はここからだったりするんですよね(苦笑)。
あまりにも桁外れな「狂人キチガイ」ぶりを発揮しすぎていて、正直、作者氏がヴァレンシュタインというキャラクターについて一体どのような役柄を託しているのかについても考えざるをえなかったところです。
もし一連の考察で私が述べている通りのイメージ(「狂人や精神異常者の魅力を描く」とか)をベースに作者氏がヴァレンシュタインを造形しているというのであれば、「亡命編」のみならず「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」という一連のシリーズは、二次創作どころか小説としての最高傑作としか評しようがないのですが、現実はどう考えても違うと思いますしねぇ(爆)。
それでは前回に引き続き、今回も「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタインの思考と言動について追跡していきます。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)

ヴァンフリート星域会戦を勝利に導くことができたヴァレンシュタインでしたが、彼には大きな不満がありました。
キルヒアイスは戦場で戦死したものの、彼が個人的に最大の目的としていたラインハルトの抹殺が達成できなかったのです。
正確に言うと、戦場においてラインハルトの死体が確認できなかった(キルヒアイスの死体はヴァレンシュタイン本人が確認した)ことと、当時のラインハルトの乗艦だったタンホイザーがヴァンフリート4=2から無事に脱出したことが確認されたため、そのように推測されたというわけなのですが。
この事態に発狂したヴァレンシュタインは、「偉大なる俺様の作戦案は神の采配のごとく完璧だった」というありえない前提の下、愚かしくも自分の作戦にケチをつけることになった「絶対神たる自分への反逆者」を糾弾することに全力を傾けることになります。
前回の考察でも述べたようなおよそ見当ハズレな推理からシトレとヤンに白羽の矢を叩きつけたヴァレンシュタインは、常識的に見て到底考えられないほどに愚劣な論理でもってヤンを上から目線で八つ当たり同然に罵り倒すこととなるわけですが……。

このヴァレンシュタインの考えは、今更言うまでもないでしょうが全く正当なものではありえません。
ヴァンフリート星域会戦における勝敗の帰趨が決した後、ヴァレンシュタインはこんなモノローグを心の中で語っています↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/16/
> どう考えてもおかしい。第五艦隊がヴァンフリート4=2に来るのが俺の予想より一時間遅かった。原作ではミュッケンベルガーがヴァンフリート4=2に向かうのが三時間遅かったとある。三時間有れば余裕を持って第五艦隊を待ち受けられたということだろう。
>
> 艦隊の布陣を整えるのに一時間かけたとする。だとすると同盟軍第五艦隊は帝国軍主力部隊が来る二時間前にはヴァンフリート4=2に来た事になる。だがこの世界では同盟軍が来たのは帝国軍主力部隊が来る一時間前だ。
>
> 二時間あればヴァンフリート4=2に停泊中のグリンメルスハウゼン艦隊を殲滅できた。行き場を失ったラインハルトも捕殺できたはずだ……。だが現実にはラインハルトは逃げている……。
>
> 俺の記憶違いなのか? それともこの世界では同盟軍第五艦隊が遅れる要因、或いは帝国軍が原作より早くやってくる何かが有ったのか……。
気になるのはヤンだ、俺が戦闘中に感じたヤンへの疑惑……。俺を殺すために敢えて艦隊の移動を遅らせた……。
>
> 否定したいと思う、ヤンがそんな事をするはずがない。
しかし俺の知る限り原作とこの世界の違いといえば第五艦隊のヤンの存在しかない……。奴を第五艦隊に配属させたのが失敗だったという事か……。

このヴァレンシュタインの「推理」には致命的な間違いがひとつあります。
それは「ミュッケンベルガーがヴァンフリート4=2に向かうのが三時間遅かった」という原作の作中事実が、「亡命編」でも無条件にそのまま適用されると考えていたことにあります。
実はヴァレンシュタインは、「ビュコックの第五艦隊にヤンを配属させた」ということ以外にもうひとつ、原作には全くなかったことをやっているんですよね。
それがこれ↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/13/
> 戦闘が始まって既に十二時間が経ちました。基地からは同盟軍に対して悲鳴のような救援要請が出ています。“帝国軍が大規模陸上部隊をもって基地を攻撃中。被害甚大、至急救援を請う、急がれたし”
>
(中略)
>
> もう分かったと思います。あの救援要請は嘘です、被害甚大なのは帝国軍のほうです。救援を欲しがっているのも帝国軍でしょう。実際、この救援要請を出した通信オペレータは笑い過ぎて涙を流していました。今年最大の冗談だそうです。
実際今も一時間おきに救援要請を出しますがその度に司令室には笑い声が起きます。

作中では、4月3日の時点でヴァレンシュタインの決断により最初の救援要請通信が送られており(12話)、以後、4月7日に基地に攻め込んできた帝国軍が撤退して以降も通信が続けられていたであろうことから、総計すると最低でも総計30~40回、4月3日時点から「1時間おきに…」出していたと考えると実に100回以上もの救援要請通信が行われていたと考えられます。
では原作ではどのような形で救援要請を行っていたのかというと↓

銀英伝外伝3巻 P73下段
<「ヴァンフリート4=2の後方基地からの緊急通信です」
 それが最初であった。ヴァンフリート4=2の奇怪な状況が、味方である同盟軍のもとに、通信となってもたらされたのは。それまで、用心しつつ
幾度か発した通信波は、ヴァンフリート4の巨大なガス体やその影響によって、遮断されていたのである>

原作のビュコック艦隊が緊急通信を受け取ったのは4月5日ですので、これ以降も当然「味方が受信してくれることを期待した通信」は行われていたでしょうが、それでも「慎重に行わざるをえなかった」と記載されているわけですから、すくなくとも「亡命編」のそれよりは発信回数が少なかったであろうことは確実です。
しかも基地での戦闘中に至っては、記載がない上に同盟軍劣勢でゴタゴタしていたこともあり、そもそも救援要請通信がきちんと出されていたのか否かすらも不明というありさま。
どう贔屓目に見ても、「亡命編」におけるヴァンフリート4=2から発信されていた救援要請通信は、原作のそれよりも圧倒的に多いであろうことが推察されるわけです。
何しろヴァレンシュタインは、敵に通信が傍受される危険性などおかまいなしに、とにかくビュコック艦隊を当てにして通信を乱発させていたのですから。
では、そこまで通信回数が多いと一体どのような事態が起こりえるのか?
そこから想定される最悪の予測は、「ミュッケンベルガー艦隊がビュコック艦隊よりも先に救援要請通信を傍受してしまう」というものです。
そもそも原作のヴァンフリート星域会戦からして、通信波によって自軍の所在が帝国軍に知られるとマズイという理由から、連絡が慎重に行われていたという事情があるのに、その状況を無視してのこの通信の乱発は、それだけで原作の歴史を変えてしまうのに充分過ぎる要素です。
実際、同盟軍が発した救援要請通信は、ヴァンフリート4=2に駐屯しているグリンメルスハウゼン艦隊の司令部でもしっかり傍受されていましたし、彼らが無能で味方にそのことを知らせなかったにしても、何らかのまぐれ当たりでミュッケンベルガー艦隊がその通信を「原作よりも早く」【直接に】傍受してしまった可能性だってありえるのです。
そうなればミュッケンベルガーとしては当然のことながら「救援要請通信を受けた同盟軍はヴァンフリート4=2にやってくる」と察知できるでしょうし、そうなれば「救援にやってくるであろう同盟軍に先んじてヴァンフリート4=2に先着し、逐次投入でやってくる同盟軍を各個撃破しよう」という発想へと普通に行き着くはずです。
実際、原作でも第五艦隊の動きを察知したミュッケンベルガーは、まさにそういう決断を下していたわけなのですから↓

銀英伝外伝3巻 P86下段~P87上段
<一万隻をこす戦力が、外縁部から星系内部へ移動してきたのである。多少の時差はあっても、気づかれないはずがなかった。両軍ともに、敵の動向を探るための努力はしていたのである。ミュッケンベルガー元帥も、けっして無為無能な男ではなく、同盟軍の行動が、ヴァンフリート4=2宙域を目標としてのものであることを見ぬいた。
 帝国軍首脳部、ことにミュッケンベルガー元帥にしてみれば、あえて危険を犯して、グリンメルスハウゼン艦隊を救出するだけの価値など認めてはいない。だが、
叛乱軍こと同盟軍の動向が、かなりの確度で明白になった以上、それに対応せずにすむはずがなかったのである。
 ミュッケンベルガーは、ヴァンフリート4=2の宙域に、全軍の主力を集中移動するように命じた。この命令は、戦術上、ほぼ正しいものであったが、残念なことに、ややタイミングが遅かったであろう。
彼が三時間ほど早くこの命令を出していれば、まず同盟軍第五艦隊を正面から邀撃して壊滅させ、つぎつぎとやってくる同盟軍を各個撃破して、全面勝利を手に入れえたはずである。だが、そうはならず、帝国軍主力は、第五艦隊の動きに追随する形で、ヴァンフリート4=2宙域へと進撃していった。>

戦場とは不確定要素に満ちた「生き物」なのであり、それは原作知識のごとき「未来の預言書」的なものがあっても例外ではありません。
ましてや、その「未来の預言書」と少しでも違うことをやっている時点で、戦場に与える影響も原作からのズレも充分に多大かつ未確定なものへとなりえるではないですか。
救援通信要請を乱発しまくっている時点で、ヴァレンシュタインは「原作よりも早くミュッケンベルガーが動くかもしれない」という危険性に気づくべきだったのです。
もちろん、これはあくまで可能性の問題ですから、「亡命編」におけるミュッケンベルガーが、ヴァレンシュタインによって乱発されまくった救援要請通信を【幸運にも】全く傍受することなく、原作と寸分の狂いもなく動いていた可能性も決して考えられないことではないでしょう。
正直、いくら近いとは言え、グリンメルスハウゼン艦隊司令部や現地の地上軍がああも簡単に傍受できかつ内容も完全に把握できてしまうような通信を、ミュッケンベルガー艦隊が暗号解読も含めて全くキャッチできなかったとは非常に考えにくいのですが……。
ただいずれにしても、被害妄想に満ち満ちた愚劣な推論でもってヤンとシトレを罵倒しまくっていたヴァレンシュタインの立場的には、本来この可能性【も】一緒に、あるいはそれ以上に考慮しなければならなかったはずなのですがね。

そして、実はこちらがより致命的な問題なのですが、そもそもヤンがビュコック艦隊にいること自体がヴァレンシュタインの要求によるものである、という作中事実があります。
ヴァレンシュタインにしてみれば、ヤンとビュコックは原作でもお互い信頼が厚く頼りになる戦友的な間柄にあったので、ヤンにビュコックを補佐させておけば間違いは生じない、という考えだったのでしょう。
しかし、2人がそのような関係になったのは、銀英伝1巻の第7次イゼルローン要塞攻防戦でヤンがイゼルローン要塞を無血奪取して以降の話です。
それに先立つヴァンフリート星域会戦時点では、2人は未だ面識すらもなく、お互いの名声を聞き及んでいた程度の関係に過ぎませんでした。
当然、この時点では互いに相手の人格や性格すらも全く知らないわけですし、ビュコックにしてみればヤンは単なる新参の一作戦参謀でしかなく、ヤンから見たビュコックも「おっかない親父さん」程度の存在でしかなかったでしょう。
また、アスターテ会戦以前のヤンが「3回忠告を受け入れられなければ『給料分の仕事はしたさ』であっさり引き下がってしまう」ような人間だったことも、これまたヴァレンシュタインは原作知識から当然熟知していたはずです。
お互い初対面で相手のことも「過去の名声」以上のものは分からず、原作1巻以降のような確固たる信頼関係が構築されているわけでもない。
そんな状態で「ビュコックにヤンをつければ確実に上手く行く」などと考える方が変というものでしょうに。
間違った原作知識の使い方をしている自分自身のことを一切顧みず、ひたすら「自分を見捨てにかかった!」などという被害妄想をベースにヤンとシトレを罵り倒すヴァレンシュタインの滑稽な惨状が、私には何とも笑えるシロモノに見えて仕方がなかったのですけどね。

こんな被害妄想と視野狭窄と責任転嫁に彩られたバカげた「迷推理」を開陳しまくった、ヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインの狂気に満ちたお笑いひとり漫才劇は、いよいよそのグランドフィナーレに向けて最大戦速で突撃を敢行することになります。
その全容については、「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦編最後の考察となる次回で明らかにしたいと思います。

ページ移動

  • ページ
  • 1
  • 2
  • 3

ユーティリティ

2024年11月

- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ページ

  • ページが登録されていません。

ユーザー

新着画像

新着トラックバック

Re:デスクトップパソコンの買い換え戦略 ハードウェア編
2024/11/19 from ヘッドレスト モニター 取り付け
Re:映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」感想
2014/11/27 from 黄昏のシネマハウス
Re:映画「プリンセストヨトミ」感想
2014/10/22 from とつぜんブログ
Re:映画「ひみつのアッコちゃん」感想
2014/10/19 from cinema-days 映画な日々
Re:映画「崖っぷちの男」感想
2014/10/13 from ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画

Feed