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銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察3

「亡命編」の8話で、ヴァンフリート星系に存在する同盟軍の補給基地へ赴任するよう命じられたエーリッヒ・ヴァレンシュタイン。
原作ではラインハルトとリューネブルクによって壊滅に追い込まれることになっているそこへ赴任する羽目となったヴァレンシュタインは、自らが生き残るために歴史を改変することを決意、そしてここが「亡命編」における重要なターニングポイントとなるのです。
そして同時に、「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦は、ヴァレンシュタインの愚劣な発想・醜悪な性根・滑稽な空回り、およびそれに基づいた思い上がり・責任転嫁・自己正当化・八つ当たり・厚顔無恥と、ヴァレンシュタインの負の側面と本性がこれでもかと言わんばかりに前面に出ているストーリーでもあります。
こんな精神異常と人格破綻を同時にきたしているような「狂人」を無条件で受け入れる同盟って、何と寛大な(それ故に低能かつ御都合主義な)政体なのかと、つくづく痛感せずにはいられなかったですね(笑)。
今回はこのヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインの思考・言動について検証してみたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)

「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦絡みの話を読み進めていて、まず最初に爆笑せざるをえなかったのはこの記述ですね↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/12/
> 此処までは特に原作との乖離は無い。両軍が繞回運動を行なった事、混乱した事、原作どおりだ。酷い戦だよ、ヴァンフリートのような戦い辛い場所で繞回運動だなんて帝国軍も同盟軍も何考えてるんだか……。
>
> 特にロボス、同盟軍の総司令官なのに基地の事なんて何も考えていないだろう。
目先の勝利に夢中になってるとしか思えん。こいつが元帥で宇宙艦隊司令長官なんだからな、同盟の未来は暗いよ。

これを読んだ瞬間にすぐさま入れたツッコミは「お前が言うな!」でしたね(苦笑)。
そもそもヴァレンシュタインがヴァンフリートに赴任せざるをえなくなった最大の原因は、「帝国への逆亡命計画」なる未来図を構築していながら、目先の復讐感情を満足させることに夢中になり、不要不急に自身の有能さを発揮して注目の的になってしまったことにあるわけでしょう。
目先のことばかりに目を奪われて大局的な視野が欠落しているという点では、ヴァレンシュタインもまたロボスと同レベル以下でしかないのです。
そしてさらに笑えるのは、そんな過去の自分の言動を顧みて「あそこでは自分の行動が拙かった」的な自責や自省の類どころが、そもそも「自分の行動が間違っていた」という自覚や認識すらも全くないことです。
ヴァレンシュタインの頭の中では、自分の行動は全て正しく、自己一身の得手勝手な都合でしかない「帝国への逆亡命計画」を妨害するかのような人事を繰り出す他者は人類の敵であるかのごとく全て悪い、ということにでもなっているのでしょう。
その辺りの無反省・自己正当化な性格は、ロボスどころかフォークにすら通じるものがあります。
帝国にせよ同盟にせよ、こんな人間が重鎮になる陣営の未来は、はっきり言って「暗い」どころの騒ぎではないのではないですかねぇ(苦笑)。

さて、原作知識からヴァンフリート4=2の補給基地に赴任することを渋りつつも命令として行かざるをえなくなったヴァレンシュタインは、交換条件とばかりにキャゼルヌに対し大量の物資と人員を要求します。
(すくなくとも同盟軍的には)過剰とすら言える戦力を配備し、来襲するであろう帝国軍を圧倒することで原作の歴史を改変しようとしたわけです。
そして一方、大量の物資を要求されたキャゼルヌもまた、シトレの了承の下、ヴァレンシュタインの要求に応えてくれました。
少佐に昇進したばかり、それも亡命者であるヴァレンシュタインの立場では本来とても要求できるような物量ではないレベルの融通を、ヴァレンシュタインは通してもらったわけですね。
実際、物資を要求されたキャゼルヌは、様々な方面から苦情や嫌味を言われていたみたいですし(10話)。
ところがヴァレンシュタインは、このことに対してキャゼルヌやシトレに感謝するような素振りすら全く示さないばかりか、「こんな程度のことでは足りない」と言わんばかりの態度を貫き通す始末だったりするんですよね。
挙句の果てには、自分に物資を融通することを承認してくれたシトレ一派に対して、こんな疑心暗鬼なことを考えるありさま↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/15/
> 残念だが基地の安全は未だ確保されたわけではない。味方艦隊がヴァンフリート4=2に来ない。本当なら第五艦隊が来るはずだが、未だ来ない……。第五艦隊より帝国軍が先に来るようだと危険だ。いや、危険というより必敗、必死だな……。
>
> 原作では同盟軍第五艦隊がヴァンフリート4=2に最初に来た。第五艦隊司令官ビュコックの判断によるものだった。念のためにヤン・ウェンリーを第五艦隊に置いたが、失敗だったか……。原作どおりビュコックだけにしたほうが良かったか……。
>
> それとも
ヤンはあえて艦隊の移動を遅らせて帝国に俺を殺させる事を考えたか……。帝国軍が俺を殺した後に第五艦隊がその仇を撃つ。勝利も得られるし、目障りな俺も消せる……。有り得ないことではないな、俺がヤンを第五艦隊に送った事を利用してシトレあたりが考えたか……。
>
> ヤンは必要以上に犠牲を払う事を嫌うはずだ。そう思ったから第五艦隊に送ったが誤ったか……。信じべからざるものを信じた、そう言うことか……。慌てるな、此処まできたら第五艦隊が来る事を信じるしかないんだ。

……自分が融通してもらった物資や戦力の数々をすっかり忘れてしまっているとしか思えない発想ですよね、これって。
本気でシトレが、ヴァレンシュタインが考えているようなやり方で見殺しにしたいと考えるのであれば、そもそもヴァレンシュタインのために物資を融通するなんてことをするはずもないでしょう。
ヴァレンシュタインの要求など一切認めず、そのまま身ひとつでヴァレンシュタインをヴァンフリート4=2の補給基地に赴任させて、後は知らん顔を決め込んでいれば良かったわけですし。
第一、たかだかヴァレンシュタインひとりを殺すために基地を丸ごと見捨てるなんて、払うべきリスクが高すぎる上に壮大なコストパフォーマンスの浪費でしかありません。
基地が失われた時点で軍上層部に対する非難は避けられないのですし、それはシトレにとっても手痛いダメージとして返ってこざるをえないのですから。
ましてや、その前にヴァレンシュタインに大量の物資と戦力を送りしかもそれが全て失われたとなれば、「何故わざわざそんなことをしたんだ!」と更なる責任問題にまで発展してしまうことは必至です。
何しろ、ヴァレンシュタインの過剰な要求を認めたのはキャゼルヌであり、それを最終的に承認したのはシトレなのですから、当然火の粉も盛大に降りかからざるをえないわけで。
ヴァンフリートの補給基地に新規配備された大量の物資と戦力を見ただけでも、「今自分を見捨てることはシトレにとっても損失になる」という常識的な結論に、いとも簡単に思い至るはずでしょうに。
せっかく過大な物資や戦力を融通してもらったことも忘れてこんな被害妄想にふけっているのでは、ヴァレンシュタインは「忘恩の徒」「鶏のような記憶力の欠如」のそしりを免れないでしょう。

それでもあくまでヴァレンシュタインが「シトレは自分を抹殺したがっている」と考えるのであれば、本来何よりも最優先で警戒しなければならなかった人物がいます。
それは自身の監視を行っているバグダッシュとミハマ・サアヤです。
この2人は「シトレの承認の下で」ヴァレンシュタインの監視と報告を行っているわけですし、いざとなればすぐにでもヴァレンシュタインを暗殺することができる位置に【常時】いるのです。
この位置的な問題に加え、バグダッシュは原作でも救国軍事会議クーデター側の手先としてヤンを暗殺しようとした作中事実がありますし、ミハマ・サアヤはその彼の部下。
他にも原作には、用兵では不敗を誇ったヤンがあっさりと暗殺に倒れた作中事実や、ラインハルト&キルヒアイスがベーネミュンデ侯爵夫人の刺客によってしばしば生命の危機に晒された事例、さらにはブルース・アッシュビーが会戦の帰趨が決した直後に不可解な戦没を強いられた歴史などもあり、かつそれらの知識を当然ヴァレンシュタインは知っているのですから、それと自分の境遇を重ね合わせることくらい簡単に行えたはずです。
ヴァレンシュタインが抱え込んでいる諸々の原作知識から考えても、バグダッシュとミハマ・サアヤの2人は真っ先に警戒対象にならなければおかしいのです。
当時のバグダッシュとミハマ・サアヤが実際にどんなことを考えていたのかはこの際何ら問題ではなく、ヴァレンシュタインの立場から見てこの2人がどれだけ危険な位置にいるのかだけが問われるのですから。
そもそも「亡命編」におけるヴァレンシュタイン自身、第5次イゼルローン要塞攻防戦の最中に自分の生命を暗殺者に直接狙われた過去があったりするわけですし、「同じことを二度と繰り返させない」ためにも、自分の身辺に対する警戒心は本来過剰過ぎても良いくらい身についていて然るべきはずではありませんか。
戦場のドサクサに紛れてヴァレンシュタインを直接暗殺し「名誉の戦死」的な扱いにでもすれば、会戦の帰趨に関わりなくヴァレンシュタインを「効率良く使い潰す」こともはるかに容易となりますし、その方がコストパフォーマンスも払うべきリスクも大幅に安くて済みます。
ヴァレンシュタインの被害妄想的な思考パターンから言っても、不確実極まりないシトレやヤンの動向などよりも、むしろこちらの可能性にこそ思いを致さなければならなかったはずです。
アレだけ「自分が生き残る」ということに固執しているにもかかわらず、また暗殺者に狙われた過去があるにもかかわらず、自分の身辺に対する警戒心が能天気も極まれりなレベルで甘くかつ薄すぎると断じざるをえないですね。
原作知識も相変わらずロクに使いこなせていないですし、これでは宝の持ち腐れもいいところです。
それともまさか、「基地を丸ごと見捨てでもしない限り、偉大なる不死身の俺様を殺すことはできない」とでもヴァレンシュタインは考えていたりしていたのでしょうか?

まだまだ続きますが今回はここまで。
次回の考察でも、ヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインの言動と思考を追跡します。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察2

「心の内に飼っている獣」の命じるがまま衝動的に動くが故に、一般的な「忍耐」「我慢」という概念とは全く無縁な存在であるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン。
よほどに自己顕示欲が旺盛なのか、ヴァレンシュタインという人物は、目立ってはいけない局面ですら無為無用に目立った言動を披露し周囲からの注目を集め、結果的に自分を危険な方向へと追い詰めてしまう傾向が多々あるんですよね。
「亡命編」の4話~8話辺りまでのストーリーは、そんなヴァレンシュタインの性癖が致命的な形で裏目に出ている回であると言えるのですが、今回はそれについて検証をしてみたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)

「帝国への逆亡命計画」などという同盟への裏切り行為をありえないほど楽観的に画策していたヴァレンシュタインは、しかしその妄想に反して3話の終わりにアルレスハイム星域へと向かう第四艦隊での前線勤務を命じられることになります。
自身の妄想を妨害されたと早合点した挙句に被害妄想じみた怒りに囚われたヴァレンシュタインは、自分に前線勤務することを画策した者達に報復することを考えつきます。
そして、原作知識を利用した助言を行い、自分を監視しているミハマ・サアヤに報告書を書かせることで、ヴァレンシュタインは見事に報復を行うことに成功するのですが……。

一見するとヴァレンシュタインの有能性を示すかに思えるこのエピソードは、しかし実際には、ヴァレンシュタインの無思慮さとヒステリックな性格を露にしているだけでしかないんですよね。
そもそもヴァレンシュタインは、原作知識に基づいてラインハルトに協力すべく「帝国への逆亡命計画」を画策している身であったはずです。
そのために軍に入って職を得た、という選択自体が前回の考察でも述べているように既に間違っているのですが、それにあえて目を瞑るとしても、帝国へ逆亡命するためには必須とも言える絶対条件がひとつ存在します。
それは「自分が同盟内で目立つ存在になってはいけない」
ただでさえヴァレンシュタインは、亡命してきた経緯から「スパイ疑惑」をかけられ監視されている上、「帝国への逆亡命計画」という他者にバレるとマズい秘密を抱え込んでいるわけです。
であれば、その監視の目に対して「自分は無害な存在である」とアピールし続け、仕事についても無難かつ平穏にこなして「こいつは安全だ」と騙し込ませつつ、「決行の日」に向けて密かに準備を進める、という手法を取る必要がヴァレンシュタインには確実にあったはずでしょう。
もし何らかの形で自分が目立ってしまうと、ますます疑いの目で見られて監視の目が強くなったり、逆に「有能」と見做されて注目を浴びたりこき使われたりすることで、「帝国への逆亡命計画」が非常に難しくなる危険性があるのです。
実際、アルレスハイム星域の会戦後も、監視役であるミハマ・サアヤに対して「ヴァレンシュタインを引き続き監視し、どんな小さなことでも報告するように」との命令が、上司たるバグダッシュから伝達されています。
同盟軍に深く関わるようになればなるほど、同盟は「帝国への逆亡命」などを許しはしないでしょうし、一挙手一投足が注目されるような状況下でそんなことが可能なわけもないのです。
にもかかわらずヴァレンシュタインは、目先の報復感情を満足させるためだけに他者からの注目を浴びるような言動を披露することで、結果的には「帝国への逆亡命計画」を自分から破綻させる方向へと舵を切ってしまったわけです。
一般常識で考えるだけでも簡単に理解できる程度のことすら勘案できないほどに、ヴァレンシュタインは考えなしのバカだったのでしょうか?

さて、アルレスハイムでの1件で自業自得的に一際目立つ存在となってしまったヴァレンシュタインは、ほとぼりを冷ますことも兼ねてフェザーンへ行くことを命じられます。
そして、ここでも大人しくしていれば良いものを、またしてもヴァレンシュタインは考えなしの行動に走ってしまうんですよね。
これみよがしに同盟の高等弁務官事務所に届けられた、帝国の高等弁務官府で行われるパーティの招待状に応じ、パーティ現場へノコノコと足を運んでしまうのです。
そして、ここでヴァレンシュタインは旧友であるナイトハルト・ミュラーとの邂逅を果たし、ミハマ・サアヤを介して情報交換をしてしまうんですね(7話)。
自身がスパイ疑惑で未だに監視されている身であり、かつミハマ・サアヤ自身が自分の監視役であることを、他ならぬヴァレンシュタイン自身も充分過ぎるほど承知だったはずでしょうに、どうしてこんな短慮かつ危険な行為に及んだのか理解不能と言わざるをえません。
一般常識はもちろんのこと、スパイアクション映画の類な付け焼刃な知識だけで考えても、自身に危険が及ぶことが余裕で理解できるシチュエーションでしかないのですが(苦笑)。
実際、一連の行為はミハマ・サアヤに仕込まれていた盗聴器の存在(13話で判明)によって軍上層部の耳に入り、それがヴァンフリート4=2への前線勤務命令へと繋がることになるのですし(8話と10話)。
ヴァレンシュタインから原作知識がなくなると、ここまで近視眼かつ判断力皆無な人間にまで成り下がるという好例ですね。

ヴァレンシュタインが密かに考えている「帝国への逆亡命計画」からすればあまりにも「考えなし」の言動丸出しなヴァレンシュタインですが、しかし彼の立場でこういった危険性を予測することはできなかったのでしょうか?
実は一般常識やスパイアクション映画の知識などがヴァレンシュタインに全くなかったとしても、ヴァレンシュタインの立場であればこのことを充分に予測できる材料があるはずなんですよね。
それはもちろん、原作知識。
何しろ原作には、銀英伝1巻でイゼルローン奪取後に辞表を提出したヤンを、発足間もない第13艦隊をネタにシトレが却下するという作中事実が立派に存在するのですからね。
当然、この「シトレの法則」はヴァレンシュタインについても全く同じように適用されるわけで、軍内で有能さを示せば示すほど、その有能さを見込んだシトレがヴァレンシュタインを引き止めようとすることなんて、原作知識があるヴァレンシュタインにとって簡単に予測できるものでしかなかったわけですよ。
ヴァレンシュタインが本当に「帝国への逆亡命」をしたかったのであれば、むしろ逆に「自分は全く使えない人間である」という演出でもすべきだったのです。
にもかかわらず、わざわざ同盟軍に入ってしまった上に自分の有能さをアピールしてしまい、自分で自分の首を絞めているヴァレンシュタイン。
自分が何をしているのかすらも理解できず、周囲に誤解を振りまきまくって勝手にどんどん追い込まれている惨状が、私には何とも滑稽極まりないシロモノに見えてならなかったのですけどねぇ(笑)。

かくのごとく、そもそものスタートからして致命的に間違っているものだから、その後ヴァレンシュタインがシトレ一派を憎む描写があっても「それはただの八つ当たり」「お前の自業自得だろ」という感想しか抱きようがないんですよね。
しかもヴァレンシュタインは、自分が帝国に帰れなくなった最大の原因が「他ならぬ自分自身にある」という事実すら直視せず、ひたすら他人のせいにばかりして自分の言動を顧みることすらしないときているのですから、ますます同情も共感もできなくなってしまうわけです。
「本編」でヴァレンシュタインが批判していたヤンやラインハルトでさえ、自分達の言動を顧みる自責や自省の概念くらい「すくなくとも原作では」普通に持ち合わせていたはずなのですけどねぇ(苦笑)。
何でもかんでも全て他人のせいにして生きていけるヴァレンシュタインは、ある意味凄く幸せな人間であると心から思いますよ、本当に。

何故序盤におけるヴァレンシュタインが、こうまで先の見えない近視眼的な人物として描かれているのか?
身も蓋もないことを言えば「そうしないと作者がストーリーを先に進めることができないから」という事情に尽きるのでしょう。
しかしその結果、ヴァレンシュタインは「考えなしのバカ」というレッテルが貼られることになってしまった上、そのレッテルには「あれだけの原作知識がありながら…」というオマケまで付加される羽目となったわけです。
せめて、何らかのトラブルに巻き込まれて「有能さを発揮しないと自分が死んでしまう」という状況下で「やりたくもないけど才覚を発揮【せざるをえなかった】」という形にすれば、まだヴァレンシュタインの「考えなしな言動」も何とか取り繕えないこともなかったのですけどねぇ。
「能ある鷹は爪を隠す」という格言がありますが、その観点から言えば、全く必要性のない無意味なところで有能さを発揮し、そのくせ肝心なところで最も重要なことを隠蔽してしまうヴァレンシュタインは、到底「能ある鷹」とは言い難く、せっかくの強力な武器であるはずの原作知識すらもロクに使いこなせていない低能であるとしか評しようがありません。

さて次回は、そのヴァレンシュタインの醜悪極まりない本性がこれ以上ないくらい最悪な形で露呈しているヴァンフリート星域会戦について述べてみたいと思います。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察1

「銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)」(以下「本編」)の作者が、同じキャラクターを主人公とした更なるIF話として新規に書き綴っている「亡命編」。
銀英伝世界に転生した日本人の佐伯隆二(25歳)ことエーリッヒ・ヴァレンシュタインが、諸々の事情で帝国から同盟に亡命し、銀英伝の原作知識を駆使して大活躍を演じるという転生物2次創作小説です。
小説一覧はこちら↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/

「本編」でも桁外れなまでの人格破綻と対人コミュニケーション能力の致命的欠如ぶりをこれでもかと言わんばかりに誇示しまくり、設定改竄&御都合主義という「神のお導き」による超展開によって何度も救われていたヴァレンシュタインの惨状は、「亡命編」ではさらに磨きがかかっていて、もはや一種のネタキャラと化している感すらあります。
2012年3月19日現在でアップされている42話時点では、「本編」でしばしば見られていた「原作に対する考察」も皆無なため、正直ヴァレンシュタインの「狂人」「キチガイ」としか評しようのない性格設定やトンデモ言動ばかりが鼻に付くシロモノと化している始末なのですが、個人的にはその支離滅裂な言動にツッコミを入れまくるという、恐らくは作者が全く意図していないであろう形で楽しませて頂いております(苦笑)。
今回は、その作中におけるヴァレンシュタインの問題点について少し。

「亡命編」は、「本編」の第9話から分岐したストーリーとなっており、第五次イゼルローン要塞攻防戦の最中、門閥貴族の一派に生命を狙われたヴァレンシュタインが、庇護を求めて同盟へと亡命することからスタートします。
「本編」でも如何なく発揮されていたヴァレンシュタインの得手勝手ぶりは、2話の時点で早くも顕現します。
ヴァレンシュタインの亡命を受けて、同盟側は「帝国があえて送り込んできたスパイの可能性」を勘案して様々な取調べを行ったり、軍人としての能力を試すために軍事シミュレーションをヴァレンシュタインに課したりしているのですが、それに対するヴァレンシュタインの感想がイキナリ振るっています。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/2/
> ようやく情報部から解放された。これで俺も自由惑星同盟軍、補給担当部第一局第一課員エーリッヒ・ヴァレンシュタイン中尉だ。いやあ長かった、本当に長かった。宇宙では総旗艦ヘクトルで、ハイネセンでは情報部で約一ヵ月半の間ずっと取調べだ。
>
> 連中、俺が兵站専攻だというのがどうしても信じられないらしい。士官学校を五番で卒業する能力を持ちながらどうして兵站なんだと何度も聞きやがる。前線に出たくないからとは言えんよな、身体が弱いからだといったがどうにも信じない。
>
> 両親の事や例の二十万帝国マルクの事を聞いてきたがこいつもなかなか納得してくれない。俺がリメス男爵の孫だなんて言わなくて良かった。誰も信じないし返って胡散臭く思われるだけだ。
>
> おまけにシミュレーションだなんて、
俺はシミュレーションが嫌いなんだ。なんだって人が嫌がることをさせようとする。おまけに相手がワイドボーンにフォーク? 嫌がらせか? 冗談じゃない、あんまり勝敗には拘らないヤンを御願いしたよ。
>
> どうせ負けるのは分かっているからな、最初から撤退戦だ。向こうも気付いたみたいだ、途中で打ち切ってきた。いや助かったよ、あんな撤退戦だなんて辛気臭いシミュレーションは何時までもやりたくない。
>
> しかし、なんだってあんなに俺を睨むのかね。やる気が無いのを怒ったのか? あんただって非常勤参謀と言われているんだからそんなに怒ることは無いだろう。
俺はあんたのファンなんだからもう少し大事にしてくれ。今の時点であんたのファンは俺、アッテンボロー、フレデリカ、そんなもんだ。ユリアンはまだ引き取っていないんだからな。

この一連のモノローグを見てまず愕然とせざるをえなかったのは、自身の亡命を受け入れてくれた同盟に対する感謝の念が全くないことです。
ヴァレンシュタインはあくまでも個人的な都合で同盟に亡命してきただけであり、それを無条件に受け入れなければならない義務など同盟側には全くありません。
もちろん、同盟は昔から帝国からの亡命者を受け入れてきた国是があるのですから最終的に拒否されることはなかったかもしれませんが、それでも自分を受け入れてくれたことに対する感謝の念は当然あって然るべきではあるでしょう。
ヴァレンシュタインが同盟に亡命してきた経緯を考えれば、最悪、ヴァレンシュタインの身柄を帝国との取引材料として利用する、という手段を選択肢のひとつとして検討することも同盟としては充分に可能だったわけなのですから。
そして一方、同盟側がスパイの可能性を懸念してヴァレンシュタインを取り調べるのもこれまた当然のことなのに、それに対して理解を示そうとすらもしない始末。
挙句の果てには、ヴァレンシュタイン個人のことなど知りようもない相手に対して「俺のことを知っていて当然だ」と言わんばかりの不平不満を並べ立てるありさまです。
ここからはっきり読み取れるのは、ヴァレンシュタインが極めて自己中心的な性格をしている上、自分が置かれている立場を自覚&自己客観視することすら満足にできていないという事実です。
この性格設定は、銀英伝原作における門閥貴族達のあり方やアンドリュー・フォークの小児転換性ヒステリーと五十歩百歩なシロモノでしかないではありませんか。
ヴァレンシュタインと彼らの違いは、ヴァレンシュタインに原作知識があるという、ただそれだけなのです。
自分の利害が絡んだり、自分の気に食わないことがあったりすると、周囲の事情も鑑みず暴走しまくるところなんて、他ならぬヴァレンシュタイン自身が罵りまくっているフォーク辺りと全く同じ症状を発症している以外の何物でもないのですし。
あの2人を見ていると「同族嫌悪」や「近親憎悪」という言葉を想起せずにはいられないですね(苦笑)。
それを「亡命編」や「本編」では「心の内に獣を飼っている」などという装飾過剰もはなはだしい美辞麗句を並べ立てて絶賛しているわけですが、普通に考えるならば「狂人」「キチガイ」以外の評価しか与えようがないでしょうに。

ヴァレンシュタインの自己中心主義と同盟をないがしろにする態度は、3話における次のようなモノローグにもよく表れています。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/3/
> 第四艦隊? パストーレ中将かよ、あの無能の代名詞の。しかもアルレスハイム? バグダッシュの野郎、何考えたんだか想像がつくが全く碌でもないことをしてくれる。俺は前線になんか出たくないんだ。
>
> 後方勤務で適当に仕事をしながら弁護士資格を取る。大体三年だな、三年で弁護士になる。その後は軍を辞め弁護士稼業を始める。そして
帝国がラインハルトの手で改革を行ない始めたらフェザーン経由で帝国に戻ろう。そして改革の手伝いをする。それが俺の青写真なんだ。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/3/
> 変更の余地無しか……随分と手際がいいじゃないか。覚えてろよ、この野郎。バグダッシュ、お前もだ。俺はやられた事は数倍にして返さないと気がすまないんだ。俺を第四艦隊に放り込んだ事を後悔させてやる。

原作知識から「近い将来に同盟が滅ぶ」という未来を知っているヴァレンシュタインにしてみれば「どうせ滅ぶ予定の同盟がどうなろうが知ったことか」といったところなのでしょう。
しかしその同盟は、ヴァレンシュタインの個人的都合に基づくものでしかない亡命を受け入れ、軍内に職まで用意してくれたわけです。
原作で幼少時のシェーンコップが同盟に亡命してきた際の経緯などを見ても、亡命者に対する偏見や差別が同盟内に存在することは明らかであり、そんな環境下で亡命早々に職を確保できるヴァレンシュタインが相当なまでに恵まれた境遇にあったことは確実です。
ところがそのヴァレンシュタインは、自身の境遇に感謝することすらもせず、それどころか将来的には帝国に戻るとまで公言する始末。
亡命を受け入れた同盟側にしてみれば、ヴァレンシュタインの計画は自分達に対する裏切り行為も同然ですし、そもそも逆亡命の際に同盟の重要な機密の類まで持ち去られてしまう危険性だってありえます。
「恩を仇で返す」とはまさにこのことですし、ヴァレンシュタインの計画は同盟としては到底許せるものではないでしょう。
また、帝国から同盟への亡命は数多けれど、その逆が極めて微少でしかないことは、それこそ原作知識から容易に理解できることでしかないはずです。
同盟の体面から考えても、機密保持の観点から言っても、同盟はヴァレンシュタインの逆亡命計画を何が何でも阻止せざるをえないわけで、その実現可能性は極めて困難なシロモノであると言わざるをえないのですが。
まさか、原作にも全くない逆亡命計画を原作知識とやらで乗り越えられる、などとはいくらヴァレンシュタインでも考えてはいますまい?

もしそれでもヴァレンシュタインがあくまで逆亡命にこだわるのであれば、彼はそもそも同盟軍内で職を得るべきではありませんでした。
軍に入った時点で機密を外に漏洩しないことを誓約させられるのですし、それに反する動きをしようとするだけでも罰せられるのですから。
本当に逆亡命がしたかったのであれば、同盟にある程度の情報を提供した後に軍に入らず一般人として活動するか、あるいはフェザーンへの亡命斡旋でも頼むべきだったのです。
しかもそれでさえ、同盟の当局から監視の目が向けられることはまず避けられなかったでしょう。
同盟に限らず、国家の安全保障や防諜というのはそうやって保たれているものなのですから。
こんなことは原作知識とやらを持たなくても普通に理解できそうな一般常識でしかないはずなのですが、同盟の実情と未来を熟知しているであろうヴァレンシュタインがそんな簡単なことすらも理解できていないとは、その頭の中身は相当なまでの濃密な香りが漂うお花畑が広がっているとしか評しようがありませんね。
あんなバカげた逆亡命計画が成功するなどと、まさか本気で考えてでもいたのでしょうか、ヴァレンシュタインは。
挙句、「俺は前線になんか出たくないんだ」「俺はやられた事は数倍にして返さないと気がすまないんだ」などと軍上層部に怒りを抱くのに至っては、もはや理屈もへったくれもない単なる逆恨みの類でしかありません。
この後、ヴァレンシュタインは同盟軍から抜けるに抜けられない状況に陥るわけですが、そうなった最大の元凶はヴァレンシュタインの自己中心的な思考と感情的な言動、そして何よりも原作知識さえをも黙殺した見通しの甘さによる自業自得以外の何物でもないのです。
その辺りのことを、ヴァレンシュタインはきちんと理解できているのでしょうかねぇ(-_-;;)。

「亡命編」におけるヴァレンシュタインの珍道中はまだまだ始まったばかり。
この後も延々と続くことになるヴァレンシュタインのトンデモ言動とその他作中キャラクターの「現実を一切直視しない装飾過剰な美辞麗句の数々」は、読者である我々に多種多様なツッコミの楽しみを提供してくれています。
その点でエーリッヒ・ヴァレンシュタインという人物は、高度に熟成された天然サンドバッグお笑い芸人であるとすら言えましょう(爆)。
この面白キャラクターの軌跡を、当ブログでは今後も追跡していきたいと思います。

2次創作「銀河英雄伝説~新たなる潮流」の主人公人物評

銀英伝の2次創作小説「銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)」。
銀英伝の大ファンだったという日本人の佐伯隆二(25歳)が、何故か銀英伝世界に転生し、銀英伝の原作知識を持ったエーリッヒ・ヴァレンシュタインとして活躍するという、いわゆる「紺碧の艦隊」系架空戦記的な歴史改変を売りにした作品です。
小説一覧はこちら↓

銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
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本編は2012年2月11日現在、未だ未完結ながら総計239話にも及ぶ大長編で構成されており、またその内容や銀英伝原作に関する考察は、賛否いずれにせよ、銀英伝を詳細に読み込んだ上で練られていることがよく分かります。
銀英伝ファンか、あるいはタナウツの主旨に賛同できる人間であれば、まず読んでみて損はない2次創作作品であろうと思います。

ただ、人物評も人それぞれで千差万別であることを承知の上で言わせてもらうと、個人的にはこの作品の主人公であるエーリッヒ・ヴァレンシュタインという人物にはまるで共感も好感も抱けない、というのが正直なところだったりします。
そう思うようになった最初のきっかけは、作中におけるヴァレンシュタインの対人コミュニケーション能力がとにかく悪すぎることにあります。
作中のヴァレンシュタインは、その原作知識に基づいた事件や戦争の処理能力から、上司となる人物から何かと頼られることが多いのですが、それに対してヴァレンシュタインは表面的な礼儀作法すらもマトモにこなしている形跡がなく、不平満々な態度を相手の前で堂々と曝け出したりしています。
それどころか、平然と貴族に対して銃口を向けたり、後半になると門閥貴族の面前で堂々とゴールデンバウム体制批判まで展開したりしていますし。
銀英伝の原作設定から考えたら、不敬罪だの大逆罪だのといった罪を着せられて何度処刑台に直行してもおかしくないほどの言動を披露しているにもかかわらず、上司側はそれに対して特に問題視することもなくヴァレンシュタインを重用し続けるんですよね。
好き勝手に振る舞うヴァレンシュタインを受け入れられるほどに上司(リヒテンラーデ候や帝国軍3長官の面々)の人間性ができているのは、原作から乖離し過ぎているのみならず、ヴァレンシュタインの歴史改変とも全く無関係に発生しており、何故彼らの性格設定がこれほどまでに変わっているのかについての理由説明すらもありません。
まず、この構図自体が全く納得できませんでした。

次に引っかかったのは、ヴァレンシュタインがやたらと「奇麗事」にこだわる信念を披露する一方で、自身は謀略に邁進していたこと。
ヴァレンシュタインは、同盟軍に大打撃を与えることに成功した銀英伝原作1巻の同盟軍帝国領侵攻作戦における焦土戦略を「政治的なマイナス面の影響が大きすぎる」と採用せず(第99話)、またその後のリンチを使った原作の救国軍事会議クーデター絡みの謀略を「捕虜交換は紳士協定」だの「人道」だのといった言葉で否定しています(第136話)。
しかし、その前のイゼルローン要塞攻防戦でヤンに自分を消すための謀略を仕掛けられたことに激怒した挙句に同盟相手に謀略戦を展開し、原作同様の帝国領侵攻作戦を行わせたのは他ならぬヴァレンシュタイン自身ではなかったのでしょうか?
しかも第89話の最後では、「お前が俺を殺すために三百万の人間を殺すのなら俺がお前を殺すために三百万の人間を殺してもお前は文句を言えまい。お前が一番嫌がることをやってやる」などとヤンに対する個人的な怒りから大量の人間を殺す宣言までやらかす始末だったんですよね。
自分はこういうことを平気で明言した上に実行までしておきながら、同盟にクーデターを起こさせようとラインハルトが提言したら「紳士協定」だの「人道」だのを並べて拒否するって、それは自分だけを特別扱いしているタチの悪いダブルスタンダード以外の何物でもないでしょう。
謀略を否定するにせよ肯定するにせよ、自分と他人で一貫して同じ論理を適用するのであれば、まだヴァレンシュタインの言動は筋が通っていたのですが、これでは単に自己利益に基づいたその場その場の御都合主義でしかありません。
個人的な復讐心から千万単位の人間を殺すのは「紳士協定」だったり「人道」だったりするのでしょうかね、ヴァレンシュタインの論理では。

で、作中におけるヴァレンシュタインは、原作知識に基づいてラインハルトが抱える諸問題の数々をモノローグで指摘していたりします。
それ自体はタナウツでも過去に指摘されていたものもあって、それなりの説得力はあるのですが、上記2つの問題を鑑みると、さすがに「お前が言うな!」とは言いたくもなってくるんですよね。
ヴァレンシュタインはどう見てもラインハルトと同等、下手すればそれをも上回る人格破綻者ですし、それが周囲に受け入れられているのは、それが周囲にとっても利益をもたらしたことと、何よりも原作から著しく乖離している上にヴァレンシュタインの言動と歴史改変とは何の関係もない原作キャラクターの性格改変の産物によるものでしかないのです。
それに加えてヴァレンシュタインには、絶対的な預言書とすら言える原作知識という必勝の武器まで備わっています。
ここまでヴァレンシュタイン個人の才覚とは全く無縁なところで確立されている御都合主義的な絶対優位を前提に、それを持たない他者に、あたかも絶対に到達しえない高みから見下ろし神の鉄槌でも打ち下すかのような論評を繰り広げるヴァレンシュタインの態度は、どうにも受け入れ難いものがあります。
せめてあの上司達の設定が原作のままで、それをヴァレンシュタインが己の力と謀略と社交辞令の限りを尽くして心酔させていった、とでもいうのならばまだ共感もできたのですけどね。
自分の立場がどれほどまでに恵まれ、他者からは羨望されるものであるのか、ヴァレンシュタインはほんの少しでも考えたことがあるのでしょうか?
作中の言動を見ても、ひたすら被害妄想一歩手前レベルの被害者意識ばかりが前面に出ている始末ですし、自省という言葉ともかなり縁遠い性格をしていますからねぇ(-_-;;)。

また、これはずっと疑問に思っていたことなのですが、どうしてヴァレンシュタインは、自身の知識や戦略の出所、すなわち「自分が転生者であるという事実」を誰にも明かそうとしないのでしょうか?
全宇宙に向けてその事実を大々的に公表するわけはさすがにないにせよ、「これは信頼できる」と判断した1人~極少数の人間にその事実を伝えることで自分の利用価値をアピールしたり適切な助言をしたりする、という選択肢は、むしろない方が却って不自然なのではないかと思うのですが。
ヴァレンシュタインを取り巻く周囲の人間達は、ヴァレンシュタインの才覚に感嘆し頼りにする一方、その神がかり的な予見力に一種の恐怖心すら抱いていました。
ラインハルトやキルヒアイスなども、ヴァレンシュタインのその才覚に恐れを抱いたひとりでしたし、それを恐れるが故に彼らはヴァレンシュタインと反目する羽目になったわけです。
しかし、もしヴァレンシュタインが最初からラインハルトとキルヒアイスに「転生者である自分の事実」を教えていたら、すくなくとも2人はヴァレンシュタインに対して「得体の知れない恐怖」を抱く必要はなくなったはずですし、未来を知りえるヴァレンシュタインの力を利用することで利害関係が成立し、そこから相互信頼を得ることだってできた可能性もあります。
もちろん、最初は当然の反応として「こいつ気は確かか?」「正気か?」的な奇異な目で見られるでしょうが、本来誰も知りえない原作の事実などを当ててみせたり、原作知識に基づいた未来予測を披露したりすれば、相手だって最終的には納得せざるをえないでしょう。
現にヴァレンシュタインはそういう「神がかり的な予測」を作中で何度も披露しているのですから、なおのことその信憑性は高くなるはずです。
しかも未来を知るヴァレンシュタインは元々ラインハルトに仕えるつもりだったわけですからなおのこと、信頼の証として自身の秘密を打ち明けても良かったのではないかと思えてならないのですが。
ところがヴァレンシュタインは、作中の極々親しい人間に対してさえ、自身の転生の秘密を全く明かそうとしないどころか、そもそもほんの一瞬でも考えた形跡すらもないんですよね。
実はヴァレンシュタインって、一見外面の良い友好的な雰囲気に反して、自分以外の人間を一切信頼も信用もしてなどいないのではないか、とすら考えてしまったくらい、頑ななまでに秘密主義に徹し過ぎているのですが。
この辺りも、ヴァレンシュタインの対人コミュニケーション能力に致命的な問題があると私が考える理由のひとつだったりします。

ヴァレンシュタインを見ていると、どうも私は創竜伝の竜堂兄弟を想起せずにはいられないんですよね。
むやみやたらに自己防衛本能が強すぎる、他人を全く信用せず傍若無人に振る舞う、謀略を全否定して夢想的な3流ヒューマニズムを信奉する、全く同じことを自分がやるのはOKだが他人がするのはNGというダブルスタンダード。
全て竜堂兄弟が持っている人格的・思想的な欠陥ですからねぇ(苦笑)。
性格自体もあの兄弟4人のそれを全て合体させたかのようなシロモノですし。
まあ唯一、竜堂兄弟が持つ何よりも最悪の致命的欠陥である「反対しながら代案がない」とだけは無縁なのがせめてもの救いではあるのですが。

あと、エーリッヒ・ヴァレンシュタインの転生元である佐伯隆二という人物は、作中で披露している「原作知識」を見る限りでは、原作小説版ではなくアニメ版のファンだったみたいですね。
カストロプ星系の「アルテミスの首飾り」のエピソードやクラインゲルト子爵領の話なんて、当然のごとく原作小説版には全くありませんし。
そして、だからこそヴァレンシュタインは、作者である田中芳樹という存在に束縛されることなく、アレだけの原作考察ができるのではないかと。
ひょっとすると佐伯隆二は、銀英伝の原作者が田中芳樹であるという、ある意味最も基本中の基本である「原作知識」を知らなかった可能性すらありえます。
創竜伝やアルスラーン戦記などの他の田中作品は一切引き合いに出されていませんし、それどころか田中芳樹の「た」の字すらも全く出てこないのですから。
「絶対作者はそんな細かいことまで考えてねぇよ」と言いたくなるほどの内容ですからねぇ、ヴァレンシュタインの原作考察は。

かくのごとく、主人公には全く共感も好意も持ちようがないのですが、それも含めた総体としての「ひとつの物語」としては読み応えのある面白い作品ではあるので、今後とも注視していきたい2次創作シリーズではありますね。

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