映画「ダーク・シャドウ」感想
映画「ダーク・シャドウ」観に行ってきました。
ジョニー・デップとティム・バートン監督が8度目のタッグを組んだ、一風変わったヴァンパイアホラー作品。
作中では下ネタな会話と血を吸うことによる流血シーン、さらには何とも微妙なセックス描写(?)が展開されていることもあってか、この映画はPG-12指定されています。
1760年に新天地を求めてイギリスのリバプールからアメリカへと渡ったコリンズ家。
当時はまだイギリスの植民地だったアメリカのメイン州で水産業を立ち上げ、たちまちのうちに財を成し地方の名士としての地位と立場を確立します。
コリンズ一家は自らの権勢の象徴として、自分達が住んでいる町に、家名を冠した「コリンズポート」という名を与え、さらに「コリンウッド」と呼ばれる巨大な屋敷を建造します。
今作の主人公でもあるバーナバス・コリンズは、そのコリンズ家のひとり息子で一家の跡取りでもあり、両親にも恵まれ町一番の大富豪として幸せな日々を送っていました。
ところが、彼がアンジェリーク・ブシャールという名の女性と一時的に付き合ってしまったことから、彼の不幸が始まってしまいます。
バーナバスはアンジェリークをフッてしまい、ジョゼット・デュプレという別の女性と恋仲になるのですが、どうしてもバーナバスのことが諦められないアンジェリークは、いかがわしい黒魔術に手を染め、バーナバスのみならずコリンズ一家を不幸に陥れることを決意します。
まずはバーナバスの両親達の頭上に建物に飾られている彫像を落下させて殺害。
さらには、バーナバスの恋人になっていたジョゼットに催眠術?のようなものをかけ、自殺の名所のような岬に導き身を投げさせて殺してしまうのでした。
ジョゼットの死に間に合わなかったバーナバスは、自身も後を追うように岬からフリーフォールして自殺しようとします。
果たしてバーナバスは崖下の地面に叩きつけられるのですが、何とバーナバスは全く無傷で起き上がってしまいます。
そしてバーナバスは、自分の身体がヴァンパイアのそれに変えられてしまったことに気づいて愕然とするのでした。
まんまとバーナバスを不幸のどん底に突き落とすことに成功したアンジェリークは、トドメとばかりに「あいつはヴァンパイアだ」と民衆を扇動し、バーナバスを生きたまま棺の中に閉じ込めてしまい、鎖をかけて地面の中に埋めてしまうのでした。
時は流れて1972年。
コリンズポートの町へと向かう列車の中に、冒頭で岬に身を投げて死んだジョゼットと瓜ふたつの女性が乗車していました。
彼女は、今ではすっかり没落してしまったコリンズ家で家庭教師の職に就くため、コリンズポートへと向かっていたのでした。
彼女は面接の練習の際、列車の中にあったウィンタースポーツ?のポスターを見て、自分のことを「ヴィクトリア・ウィンターズ」と名乗ります。
その直前に「マギー……」と言いかけていたことから、別に本名があることがどことなく伺えるのですが……。
ヒッチハイクを経て何とかコリンウッド邸に辿り着いたヴィクトリアは、当代のコリンズ一族の家長であるエリザベス・コリンズ・ストッダードと面接を行い、とりあえず住み込みで家庭教師をすることを許可されます。
さらにヴィクトリアは家の者達を紹介されるのですが、どいつもこいつも退嬰的だったり奇矯な人格をしていたりとロクなものではありませんでした。
そしてその夜、ヴィクトリアは冒頭で死んだはずのジョゼットの幽霊と出会い、「彼が戻ってくる」という謎のメッセージと、彼女が後ろ向きに落下していくイメージ像を見せられることとなります。
同時刻、森の中で工事を行っていたらしい一団が、工事の最中に鎖に縛り付けられた棺を発見します。
工事の一団は、作業の邪魔になることから棺を地中から掘り出し、棺の鎖を外してその蓋を開けてしまいます。
すると、たちまちのうちに中から現れた存在によって次々と殺されていく工事現場の作業員達。
その場にいた作業員11人全員の血を吸い尽くしたのが、冒頭で棺に閉じ込められていたバーナバス・コリンズその人だったのです。
長きにわたる眠りから目覚めたバーナバスは、その足でかつての自分の住居であるコリンウッド邸へと向かうこととなるのですが……。
映画「ダーク・シャドウ」の主人公バーナバス・コリンズは、当の本人も含めて「200年の時を経て目覚めた」と主張しているのですが、彼を捕縛させた魔女アンジェリークの発言によれば、実際に眠っていた期間は196年とのことなのだそうです。
バーナバスが目覚めた年は1972年で確定しているわけですから、バーナバスが魔女アンジェリークによって棺の中に閉じ込められたのは1776年ということになります。
1776年当時のアメリカと言えば、7月4日のアメリカ独立宣言に象徴されるようにイギリスを相手取った独立戦争の真っ只中にあり、当時のメイン州は独立した州ではなく、独立宣言に署名した13州のひとつマサチューセッツ州の飛び地という位置付けでした。
当時の情勢から考えると、コリンズ家のみならずメイン州全体が否応無くアメリカ独立戦争の渦中にある可能性が高かったはずで、そんな緊急事態の最中に、町の指導的立場にあったはずのバーナバスを魔女狩りで葬ったりしている余裕なんてありえなかったはずなのですけどねぇ(苦笑)。
またバーナバスは、1972年に目覚めた際、アメリカのことを当然のように「国」として認識しており、イギリスに対する帰属意識すらも全く見せておりません。
1776年当時のアメリカは、まだ他国によって承認された国ではなく、イギリスを支持する「王党派」という存在も少なくなかったにもかかわらずです。
コリンズ家はアメリカ独立を推進する「独立派」の立場にあったのかもしれませんが、それならばアメリカがイギリスから独立し大国となっていることに何らかの感慨くらいあっても良さそうなものですし、逆に「王党派」であってもそれはそれで嘆き悲しむ等の何らかの反応があって然るべきだったのではないのかと。
どちらにも属さない中立の立場というのは、どちらかに属する以上に至難を極める難しい選択を迫られることになるでしょうし。
こういうのって「歴史が浅い国」ならではの話ではあるのでしょうけど、「200年ぶりに蘇って時代の流れについていけていないバーナバス」という描写をしたかったのであれば、この「国」の問題は避けて通れなかったのではないかと思えてならないのですけどね。
作中の描写を見ていくと、今作は全体的にジョニー・デップが演じるバーナバス・コリンズと、魔女アンジェリーク・ブシャールの2人を主軸に据えている感が多々ありましたね。
ヴィクトリアなどは、作品の位置付け的には「バーナバスの恋人役」というメインヒロイン的なものを担っているはずなのですが、それにしては出番が少なく存在感も今ひとつだったりします。
序盤から思わせぶりに出てきた割には、バーナバスが棺から覚醒して以降はしばらくの間作中に登場すらしなかったくらいでしたし。
むしろ、当代の家長だったエリザベスの方が、バーナバスとの駆け引きなどもあって出番が多かったくらいですからねぇ。
ラストの対アンジェリーク戦でさえロクに活躍することもなく、冒頭の自殺と全く同じシチュエーションでようやく出てくるありさまでした。
正規のメインヒロインのはずなのに何この扱いは、と思わず嘆かざるをえなかったところですね。
彼女はラストでバーナバスによってヴァンパイアにされていましたが、これって次回作で活躍する伏線だったりするのでしょうか?
作中において本当にヒロイン的な存在感があったのは、ヴィクトリアではなくエリザベスとアンジェリークの方でしたね。
エリザベスは家長という立場もあったのでしょうが、バーナバスと対等にわたり合っていましたし、最終決戦でも映画「ターミネーター2」のサラ・コナーを髣髴とさせるようなショットガン乱射を繰り広げていました。
今作における「戦うヒロイン」的な役柄は、間違いなく彼女に冠されるべきものだったでしょう。
またアンジェリークの方は、全体を通じてとにかく出番が多い上にバーナバスに次ぐ存在感があり、ヤンデレ的なストーカー悪役ぶりを如何なく発揮しておりました。
特に物語中盤で展開されたバーナバスとの「お互いを壁に叩きつけ部屋を破壊しまくりながら繰り広げられるセックス描写?」は、笑いを取りに行っているのかエロスを表現しているのか何とも判断に苦しむものがあって、それ故逆に強い印象が残ったものでした(苦笑)。
アンジェリークはネタキャラとして見る分にはなかなかに楽しめる人物ではありますが、男性的に見て確かに間違っても恋人にしてはならないキャラクターですね。
個人的に少し疑問に思ったのは、対アンジェリーク戦の最終局面で、デヴィッド・コリンズの母親の幽霊が発した音響攻撃?によってアンジェリークが致命傷を被るという描写ですね。
正直、私はあれでアンジェリークが死ぬとは全く思っていなかったので、「あれ?これで終わり?」と疑問を持ってしまったものでした。
何しろ、その少し前には、アンジェリークがバーナバスによって1階から2階の床を突き破って天井に叩きつけられるという描写が展開されていて、しかもそれでさえアンジェリークは平気で立ち上がっていたのですから。
バーナバスと幽霊の攻撃によるダメージって、どちらも同じか、むしろバーナバスの方が大きかったようにすら見えるのですが。
音響攻撃でシャンデリアにぶつかった際、シャンデリアの突起物で身体を貫かれていた、というのであればまだ理解もできたのですが、そういう風にも全く見えなかったですし。
それまでのダメージが蓄積していてアレがトドメになったという可能性もありますが、それにしてもアレで死ぬというのは見た目的にちょっと納得がいかなかったですね。
ラストは明らかに続編を匂わせるような終わり方をしているのですが、果たして続編は製作されるのでしょうかねぇ。