映画「SPEC~天~」感想
映画「SPEC~天~」観に行ってきました。
特殊能力を題材にした独特の世界観で人気を集めたTBS系列のテレビドラマ「SPEC(スペック) ~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿」の続編作品です。
今作は、テレビドラマ版のラストからそのまま続くストーリーな上、テレビドラマ版の設定が分かっていないと意味不明なエピソード話がかなりの数出てきます。
冒頭からして、主人公である当麻紗綾(とうまさや)が左手を三角巾で吊るしているという特殊な光景が当たり前のように描かれていますし、主人公の性格設定や周囲の人間関係についても当然のごとく何の説明もありません。
また作中では、「津田助広(つだすけひろ)」と名乗る人物の本物が出現するというエピソードが出てくるのですが、これも初見の人間には一体何のことやら不明なシロモノです。
よって、テレビドラマ版について知らない方は、事前にテレビドラマ版の予習をしておくことが確実に求められる作品であると言えるでしょう。
間違っても、今作単独で楽しめる映画などではありえません。
かくいう私自身も、テレビドラマ版「SPEC」は全く視聴していなかったこともあり、あえて予備知識も入れることなく白紙の状態で今作を観賞してみたのですが、そもそも冒頭15分の時点で「今どんな状況で、何故そんな事態が発生しているのか?」からして全く分からなくなってくるという惨状を呈するありさまでした。
過去のシリーズも全部観ないと話そのものが全く理解できないという点では、映画「SP」シリーズ2部作に近いものがあります。
「海猿」シリーズや「麒麟の翼」などは、同じテレビドラマ版からの続きものであっても映画単独で充分に楽しめるストーリー構成だっただけに、今作でも同じように楽しめることを期待していたのですけどねぇ(-_-;;)。
映画の冒頭では、2014年11月3日の海辺?に佇むひとりの女性が手紙を読み始める描写が映し出された後、「ファティマの預言」なるものの説明が行われます。
「ファティマの預言」というのは、1917年にポルトガルのファティマに聖母マリアが突如出現して残したという3つの預言のことを指すそうです。
第一の預言は当時繰り広げられていた、当時は欧州大戦という名で呼ばれていた第一次世界大戦の終焉を、第二の預言は第二次世界大戦の勃発についてそれぞれ語られており、最後となる第三の預言はバチカン教皇庁によって厳重に管理されているとのこと。
第三の預言は「1981年に教皇が暗殺されることを示したものだった」と発表されましたが、過去の預言との文脈から言っても辻褄が合わないという疑問で説明は締めくくられていました。
この、いかにもおどろおどろしく出てきた預言の解説が終わり、海に浮かぶクルーザーが突如氷結する描写が繰り広げられた後、舞台は当麻紗綾と瀬文焚流(せぶみたける)が属する警視庁公安部公安第五課の未詳事件特別対策係、通称「未詳(ミショウ)」の一室で自分達の趣味にそれぞれ没頭している様子が描かれます。
瀬文焚流は机の上に○分の1ジオラマか何かを置いて桶狭間の戦い?を再現しようと躍起になっており、当麻紗綾は自身の好物らしい餃子の模型を作っている最中といったところ。
やがて2人は、互いの行為にブチキレて体を張った殴り合いを演じることになるのですが、そんな2人の元に、何故か警視庁のお偉方が2人やってきました。
「未詳」が担当しているSPEC(特殊能力)持つ人間「スペックホルダー(SPEC HOLDER)」について話があるとのことで、その場にいる人間が2人に注目します。
2人が話そうとしていたのは、「ファティマの預言」の話の後に出てきたクルーザーの氷結事件についてでした。
ところが説明を受けている最中に2人が突然狂い出し、外部のスペックホルダーのSPECに操られているかのごとき様相を呈し始めます。
ひとしきりその状態が続き、好き勝手にしゃべくり倒した後に2人は元の状態に戻るのですが、操られていた間のことは何も覚えていないありさま。
新たなスペックホルダー達の蠢動を感じざるをえなかった当麻紗綾と瀬文焚流の2人は、問題となったクルーザーの調査へと向かうのですが……。
映画「SPEC~天~」の宣伝では、「真実を疑え」「未来を掴め」「人気シリーズ完全映画化! 最強の敵。仲間の死。そして全ての謎に終止符が打たれる」などといったキャッチフレーズが使われています。
ところが実際に映画を観てみると、「SPEC」シリーズは全然終わっていないどころか、今後も続ける気満々であることがはっきりと明示されているんですよね。
特にエンドロール開始以降はその手のネタが次々と頻出するありさま。
作中最大の敵だった一十一(にのまえじゅういち)のクローンが実は1体ではなく複数あったことが明示され、4体のクローンが登場したかと思いきや、その場にいた白いタキシード?の謎の男が片手を振っただけであっさり消し飛んでしまったり、何故か国会議事堂が砂に埋もれて廃墟と化している未来?が明示されていたりと、「全ての謎に終止符が打たれる」どころが、逆に「新たな謎」が出てきてしまう始末。
トドメは、当麻紗綾と瀬文焚流が並んで立っている場面で、「この物語における起承転【けつ】の最後の文字は『結』ではなく『欠』」などと主張して、続編があることを問答無用に示唆してしまっていました。
冒頭に出てきた「ファティマ第三の預言」とやらも、結局作中では内容がある程度明らかになっただけで、結局預言が具現化していたような描写もなかったですし。
宣伝文句に偽りがあり過ぎますし、ただでさえ意味不明な展開が多すぎた中でこれではちょっとねぇ……。
観客を舐めまくっているとしか思えなかったですね、あのエンドロールは。
当麻紗綾と瀬文焚流が作中で繰り広げまくっていたドツキ漫才なギャグの連発はむしろ清涼剤的な効果もあったと思うのですが、肝心の話の内容がここまで分かりにくいというのは予想外もいいところでした。
「SPEC」と同じくテレビドラマ版視聴前提だった「SP」シリーズでさえ、すくなくとも作中で繰り広げられたミッション内容程度くらいは理解でき、かつ「テレビドラマ版も面白そうだからそちらも観賞してみようか」と関心を持たせてくれるだけの構成ではあったのですが……。
しょっちゅうテレビドラマ版とリンクしたエピソードが繰り広げられたことも、初見者である私にとっては分かりにくさに拍車をかけるシロモノでしかありませんでしたし。
テレビドラマ版からのファンであればそれでも問題なく楽しめるのかもしれませんが、そうでない人達については、すくなくとも予備知識なしにイキナリ今作を観賞することのないよう、これは強く忠告しておきます。