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テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 全体的総括

全10話構成で放映されたTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
全話が揃い、いよいよ新作映画版「大奥 ~永遠~ 右衛門佐・綱吉篇」の劇場観賞も控える今回は、第1話から最終話までの全体的な構成と感想をまとめてみたいと思います。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
コミック版「大奥」検証考察11 【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想  第6話感想  第7話感想  第8話感想  第9話感想  最終話感想

まず、全体的な視聴率の傾向について見てみましょう。
テレビドラマ版「大奥」各話の視聴率は、それぞれ以下のようになっています↓

第1話 …… 11.6%
第2話 …… 10.6%
第3話 ……  7.9%
第4話 ……  7.6%
第5話 ……  8.9%
第6話 ……  9.0%
第7話 ……  7.1%
第8話 ……  7.0%
第9話 ……  7.0%
最終話 ……  8.3%
平均値 ……  8.6%

こうやって並べてみると、結局、初回放映分で記録した最高視聴率を、ついに超えることができなかったという感が多々ありますねぇ、テレビドラマ版「大奥」は。
他のテレビドラマと比較しても、この平均視聴率は下から数えた方が早い部類に入るのではないでしょうか?
視聴率が低い水準で推移した理由としては、やはり何と言っても「男女逆転・大奥」というキャッチフレーズが一般、特に男性受けしないことが一番響いているのではないかと。
ただでさえ男女共同参画とやらの弊害で、男女平等を通り越して「女尊男卑」の感すら漂わせている現代の風潮でこのキャッチフレーズは、表面的に見ただけでも男性側の反発を招くに充分なものがあるのですから。
実際には女性側にもそれなりの葛藤や苦しみがあるにしても、そんなものは忌避の感情を一時的にせよねじ伏せてある程度観賞しないと分からないわけですし、そこまでして「大奥」なる番組を観てみようと考える人は、こと男性の場合はかなりの少数派だったのではないでしょうかねぇ。
私のように、男女逆転なるものが実現している「大奥」世界の政治・社会システムに疑問を抱き、作品検証のためにコミック全巻購入した上、テレビドラマ版まで完全視聴するなんて「物好き」が、そうそう世の中に溢れているとも思えませんし(苦笑)。
その他の理由としては、全体的に「男女の性の問題」を扱っているために、家族一同、特に子供を交えての観賞というのがやりにくい構成だったことも災いしているかもしれません。
どう見ても、年端の行かない子供の教育的には確実に良くなさそうな内容ですしねぇ、アレは(-_-;;)。
番組内容が視聴者層をかなり限定的なものにしてしまったというのが、テレビドラマ版「大奥」が低視聴率に終始した最大の元凶と言えるのではないでしょうか。

原作との比較という観点から見ると、テレビドラマ版の原作に対する忠実度は相当なものがあると評することができますね。
特に前半は、コミック版と読み比べながら観賞しても全く同じ展開と台詞が続いていたりしましたし。
逆に後半ではオリジナル要素が激増の一途を辿っていましたが、こちらも「やっつけ仕事」的に大幅に省略されていた感のある原作ストーリーの穴を上手く補完する形で進行していました。
「原作レイプ」とは全く無縁の構成なので、原作ファン的には問題なく観賞できるテレビドラマだったと言えるでしょう。
ただ、これで原作を知らない全く新規の視聴者を獲得できるのかと問われれば、前述のキャッチフレーズの問題もあって難しいものがあるかもしれないのですが。
個人的に少々気になったのは、「赤面疱瘡」によって男性が激減し女性中心の社会になっていく過程の描写が、原作と比較して弱く説得力が少ないのではないかという点ですね。
原作では神原家がその手のエピソードを担っていたのですが、テレビドラマ版では神原家がいなくなってしまったため、「庶民の視点から見た社会的変遷」というものが軒並み削除されているのが痛いところで。
神原家は、話の本筋である「大奥」絡みのストーリーとはまるで絡んでこないエピソードばかりなので削除されたのでしょうが、一方で「赤面疱瘡」および男女人口比率の歪みを解説するためのツールとしては重要性の高いツールでもあったのですけどね。
まあこの辺りは、もっと単純に「予算の都合」という要素も働いていたのかもしれませんが。
神原家のエピソードを挿入するとなると、相当程度の配役を配置しなければなりませんし、農村風景なども詳細に描写しないといけなくなるわけで。
昨今のテレビ局が悪戯に製作費をケチっている懐事情はもはや周知の事実なのですし、今回のテレビドラマ版もその弊害を免れることはできなかったのではないかと。

徳川4代将軍家綱のエピソードなどは軒並み削除されてしまったのですが、これって復活することはたぶんないのでしょうねぇ(T_T)。
原作からして1話分程度の内容しかなく、ドラマ化する際には相当な部分をオリジナルストーリーで補完しなければなりませんし、
6代将軍家宣および7代将軍家継の時代が舞台となる江島生島事件辺りのストーリーは、次作映画からの更なる続編として、次作映画の公開終了後に出てくる可能性もあるかもしれませんが。
徳川4代将軍家綱は、元々その治世や知名度からして、3代と5代に挟まれる形であまりパッとしないものがありますからねぇ(-_-;;)。
まあ次作映画がヒットした場合は「映画の前日譚」という形で新規にドラマ化される可能性もなくはないでしょうが、そこまで次作映画がヒットするのかと言われると正直微妙なところではないかと。

今回のテレビドラマ版で「基本は善良だがどことなく暗い世捨て人」的な役柄の有功役を担った堺雅人は、次作映画では全く正反対な野心家である右衛門佐(えもんのすけ)役を演じることとなります。
テレビドラマ版でそれなりに好演していた堺雅人が映画版ではどんな顔を見せてくれるのか、その部分が両作品を観賞する際の楽しみのひとつでもあるでしょうね。

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 最終話感想

全10話で構成されるTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
いよいよ最終回となる今回は、2012年12月14日放映分である第10話の感想となります。
前回第9話の視聴率は、最低記録を更新した前々回第8話と同じ7.0%。
結局、視聴率的には下から数えた方が早い低調な番組ということになりそうですね、今回のテレビドラマ版「大奥」は。
もっとも、一連の「大奥」シリーズは元来映画こそが本命なのでしょうから、「映画の番宣」としてはそれなりのものはあったかもしれないのですが。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
コミック版「大奥」検証考察11 【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想  第6話感想  第7話感想  第8話感想  第9話感想

最終話は、原作4巻P34~P57までのエピソードで構成されています。
女版家光が死ぬまでのストーリーであり、また同時に次作映画「大奥 ~永遠~ 右衛門佐・綱吉篇」の布石ともなる話でもあります。
この区間は、テレビドラマ版には全く登場しない神原家のエピソードが少なからぬページが割かれているいるため、今話における原作ストーリーは実質ほとんど存在せず、当然のごとく今回もテレビドラマ版オリジナルエピソードが中心となっています。
今回のオリジナルエピソードは以下の通り↓

・女版家光の出産の朗報に接し、姫であることを最初は嘆くが、報告者の発言で考え直し喜ぶ玉栄。
・玉栄に出産祝いを述べつつも、どこか突き放したかのような態度を取る有功。
・徳子姫(後の徳川5代将軍綱吉)を相手に子煩悩ぶりを発揮し可愛がる玉栄。
・「有功との間に子供が生まれていたら……」という仮定の話をする女版家光。
・長女の千代姫(後の徳川4代将軍家綱)と次女長子姫(後の徳川綱重)が学問を学んでいるシーン。
・千代姫の教育を女版家光から依頼される有功。
・澤村伝右衛門と共に静かに酒を酌み交わすシーンで、「出家しろと言われたのに何故大奥に留まったのか?」と質問される稲葉正勝。
・徳子姫と戯れている最中に突如病に倒れる女版家光。
・女版家光の「わしは死ぬのか?」という問いに対し、自分の娘をダシにするお夏の方と玉栄、そしてただ小さく頷く有功。
・後継者問題について「長幼の序」を説く有功。
・大奥の男達を吉原に送り込んだ政策の結果を報告する有功。
・徳子姫が次代の将軍に選ばれなかったことを嘆き悲しみ、有功に八つ当たりする玉栄。
・女版家光への殉死後、息子の亡霊と会話を交わす稲葉正勝の亡霊。
・亡き稲葉正勝の手紙を稲葉家に届ける澤村伝右衛門。
・出家して桂昌院となった玉栄との別れの際、礼を述べる有功。
・自身の死に際、「共に死のう」という以前の約束を破棄して有功に千代姫の後見を依頼する女版家光。

原作ではほとんど「やっつけ仕事」だったかのごとく駆け足かつ省略し過ぎな女版家光の晩年でしたが、テレビドラマ版は相当程度のエピソードを追加していますね。
何しろ原作では、たったの1ページで女版家光は唐突に病死してしまっていましたし(苦笑)。
物語的な必然性がどうとかいう以前に、単なる史実との辻褄合わせのために死んだとしか思えない描写でしたからねぇ、原作における女版家光の死は。
その点テレビドラマ版は、女版家光が死に至るまでの過程をきちんと描いていて、原作の補完としてはそれなりのものがありはしますね。
女版家光死後の後継問題も「いつの間にか決まっていた」的な扱いでしたが、こちらでは有功の助言で女版家光が決断するという形で描かれていましたし。
ただ、結果として玉栄の意を踏みにじる形となった有功を、よくまあ玉栄は恨むことすらなく別れの挨拶ができたものだよなぁ、とは思わずにいられなかったですね。
玉栄は、アレだけ徳子姫を将軍にすることを熱望し、お夏の方への対抗意識に満ち満ちていたわけなのですから、その道を阻んだ有功に対して殺意すら抱いてもおかしくなかったのではないかと思えてならなかったのですが。
徳子姫が後に5代目の将軍になれる未来なんて、あの当時の玉栄に分かるはずもないのですし。
徳子姫の存在があってさえ、とことん有功を尊崇してやまないのですねぇ、玉栄は。

それと、前話で有功と女版家光の双方から「死ぬな」と言われていたにもかかわらず、稲葉正勝は結局原作同様に殉死してしまっていましたね。
稲葉家というオリジナルな存在も登場していたのですし、テレビドラマ版では実家に戻って余生を過ごすシナリオでもあるかと当初は予測したりもしていたのですが。
澤村伝右衛門と酒を酌み交わしたシーンでのやり取りが、そのまま稲葉正勝の死亡フラグとなっていました。
原作にもあった、殉死後の稲葉正勝に対する有功の発言「あなたも…上様に恋した男の一人だったのでしょうか…」は、テレビドラマ版では愛情ではなく忠誠心という形で発露されており、この落としどころは上手いものがあるのではないかと思いました。
原作では何を意図していたのかも不明な台詞でしたし。
原作補完という点から言えば、テレビドラマ版「大奥」はまずまずの出来であると言えるでしょう。

しかし、女版家光の死の間際における玉栄とお夏の方との張り合いぶりは、正直笑わずにいられないものがありましたね。
両者共、女版家光ではなく自身および娘の今後の権勢にばかり目が向いていることが誰の目にも分かる対応ぶりでしたし。
まあアレがあったからこそ、ただひとり淡々と女版家光のことを思いやる有功の言動が光もするわけですが。

今回でテレビドラマ版「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」は完結を迎え、次の舞台はいよいよ2012年12月22日公開映画「大奥 ~永遠~ 右衛門佐・綱吉篇」へと向かうことになります。
全体的に暗い話が続いていたテレビドラマ版とはまた違った面白さがあちらにはありそうではありますが、さて肝心の出来は一体どうなることやら。
当然私も、次作映画は観賞する予定です。

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第9話感想

全10話放送予定のTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
残り2話となった今回は、2012年12月7日放映分の第9話感想です。
前回第8話の視聴率は、前々回最低記録を更新した第7話をさらに下回る7.0%。
正直、ここまで視聴率が上がらないというのは、もう番組の出来がどうとかいう以前にテレビの集客力自体が衰退しているとしか評しようがないですね。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
コミック版「大奥」検証考察11 【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想  第6話感想  第7話感想  第8話感想

第9話は、ほぼ全編にわたってオリジナルストーリーが展開されています。
原作的には4巻P12~P33までの管轄となるのですが、この区間にはテレビドラマ版には全く登場しない神原家のエピソードも存在するため、原作ストーリーの観点から見るとほとんど進んでいなかったりするんですよね。
今回のオリジナルエピソードは以下の通り↓

・女版家光の公表後における稲葉正勝と有功との会話。
・稲葉正勝と澤村伝右衛門の酒盛りと昔の回想、さらに有功からの伝言が稲葉正勝に伝えられる。
・女版稲葉正則の動向。
・「御内証の方」ができた理由についての女版家光の(原作よりはもっともらしい)解説。
・女版家光に夜伽の相手に指名されるも、女版家光の懐妊により夜伽がお流れになる。
・お夏の方と玉栄の確執。
・「今度こそ(女版家光に)子供を産ませてみせる」と意気込む玉栄と、どこか達観している感のある有功。
・有功のお褥辞退願いの後、稲葉正勝に話しかけ、「そなたは死ぬことなく僧になって息子の菩提を弔え」と述べる女版家光。

前作映画「大奥」ではおよそ意味不明な概念として登場していた「御内証の方」がここでやっと出てきましたが、この導入に関する説明は原作よりはまだ「理性的に見える」シロモノではありましたね。
まあ原作では、どう見ても女版家光のヒステリックな癇癪とヤクザの言いがかり的な動機から生まれたものでしかなかったのですから、少しばかり理論武装らしきことをのたまうだけで大抵はマトモなように見えてしまうものではあるのですが(苦笑)。
とはいえ、テレビドラマ版のそれも、少し考えればすぐさまボロを晒すようなシロモノでしかないのですけどね。
何しろ、「一瞬たりとも何者かが将軍の上に立つことは許さぬ」「ひいては将軍の、徳川の威光を守ることにもなろう」などという女版家光の言が事実なのであれば、そもそも「叛逆者」の類にすら該当する「御内証の方」は、御白洲裁判にでもかけて打ち首獄門の上、その死と晒し首を公衆の面前で知らしめる必要が当然のごとく発生するはずでしょう。
もちろん、当時の法体系から言えば「御内証の方」本人だけでなくその親類縁者も同罪とならざるをえないので、当然それらの人々も同じ目に遭わせなければなりません。
女将軍の初体験が「将軍の身体に傷をつける」と定義され、それが叛逆罪なり将軍暗殺未遂罪なりに匹敵する大罪と見做されるのであれば、「何者かが将軍の上に立つこと」を許さず「将軍の、徳川の威光を守る」ためにも当然そこまでやらなければならないわけです。
将軍側に何ら後ろ暗いところがなく「御内証の方」を悪として断罪するのであれば、「御内証の方」は世間一般にその存在を晒して家族もろとも公然と処刑すべきなのです。
それをせずに「内々に死罪にする」などと文字通り女々しいタワゴトをのたまっている時点で、それを執り行うべき女将軍側に後ろ暗い事情があることを自分から白状しているも同然ではありませんか。
むろん、「御内証の方」を叛逆罪として公然と処刑などしようものならば、そもそも大奥に入ろうとするものなど誰もいなくなってしまうでしょう。
自分のみならず、家族や親戚までもが処刑に巻き込まれ御家断絶の事態にまで発展しかねず、さらには自身や家の名誉までもが汚され後世に至るまで断罪され続けることにもなるのですからなおのこと。
まあ女版家光も、そのような現実と後ろ暗さをある程度自覚しているからこそ、「御内証の方」は【内々に】死罪にしろとのたまっているのでしょうけどね。
そもそも、「御内証の方」の実態が世間一般に知れわたろうものならば、将軍家そのものが笑い物にされて、それこそ「将軍の、徳川の威光」を多大なまでに損壊することにもなりかねないのですし(爆)。
女版家光個人のレイプな初体験はいざ知らず、女版家光が言うところの「初体験」自体は女性であれば誰もが通る道でしょうに、そんなものにわざわざ死を与えるなんて、如何なる社会常識で考えてさえ頭の具合を疑われても仕方のない話でしかないのですから。
それとも「大奥」世界の女将軍とやらは、世間一般の女性達全てに対しても「自分の処女を奪った男は殺せ!」ということを社会通念として推奨しているとでもいうのでしょうかねぇ(苦笑)。

テレビドラマ版「大奥」も、残すはいよいよ最終話のみ。
予告編を見る限り、テレビドラマ版「大奥」は女版家光の死とその後日談が若干展開されることでもって完結し、次作の映画版「大奥 ~永遠~ 右衛門佐・綱吉篇」へと繋がっていくことになりそうですね。
徳川4代将軍家綱のエピソード、特に「明暦の大火」辺りの話は完全にすっ飛ばすつもりのようで。
今話の終盤で有功と女版家光がそれぞれ「死ぬな」と稲葉正勝相手に明言していた効果は、果たして「女版家光の死に際して追い腹を切った稲葉正勝」という原作の流れを改変することができるのでしょうか?

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第8話感想

全10話放送予定のTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
いよいよ残り3回となり、ラストも見えてきた今回は2012年11月30日放映分の第8話感想です。
前回第7話の視聴率は、これまでの放映分では最低記録となる7.1%。
内容的には「動物の死」や陰惨なイジメなどは特に描かれていないのですし、必ずしも悪いものではなかったはずなのですが、一体何が災いしていたのでしょうか?
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
コミック版「大奥」検証考察11 【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想  第6話感想  第7話感想

第8話は、原作3巻P197から4巻P11までのストーリーとなります。
お楽の方が死亡後、春日局が危篤状態に陥り死ぬシーンから、公の場における女版家光のお披露目までが描かれています。
ただ一方で、これまでの話ではスルーされていたエピソードが順番を入れ替える形で出てきていたりもしますね。
今話のオリジナル要素は以下の通り↓

・春日局の看病について「何故!?」と問い質しにきた玉栄と、それに答える有功。
・有功に触れることを嫌がる矢島。
・有功に自分の過去を話す春日局(内容は原作3巻P44~P47のエピソード)。
・稲葉正則の死で、妹の「のの」が代わりに稲葉正則に成り替わる。
・「自分を恨んでいるであろう?」と有功に返答を求め、かつ「平和のために手段を問わなかった」と告白する春日局。
・その春日局に対し、自身の心境を語る有功。
・春日局の死の間際に回想シーン(内容は原作3巻P51~P52のエピソード)、および女版家光との会話。
・春日局の死で稲葉正勝が号泣するシーン。

いよいよ男女逆転が公然と歴史の表舞台に出てくることなった今回のストーリー展開で、しかし多大なまでの違和感を覚えざるをえないのは、男性が減って女性が圧倒的多数になって社会的な実権を掌握していく過程が原作と比較して圧倒的に少なく、登場人物の説明だけで強引に片づけているために、その必然性や切実感が今ひとつ弱い感が否めないことですね。
原作だとこれは、神原家のエピソードでそれなりなレベルで語られることではあるのですが、神原家はテレビドラマ版には全く出てきていないのですし。
代わりに出してきたのが稲葉正勝の一家ということになるのでしょうが、作中に出てくる赤面疱瘡の脅威と社会的な男女逆転の変遷を示す描写が少ない上に規模が小さすぎることもあって、見様によっては「単にお家存続の危機にある個々の武家が、お家取潰しの沙汰が下ることを避けるための自己保身的な手段として女性を男性に見せかけているだけ」でしかないようにも解釈できたりしてしまいます。
作中の赤面疱瘡は、全身が赤くなる不治の奇病としての部分ばかりが強調されていて、その驚異的な感染力や人口激減などについては全く何も描かれていません。
本当に赤面疱瘡の脅威を描くのであれば、映画の「アウトブレイク」や「感染列島」のごとく、人から人へ次々と集団感染していく様をきっちり描き、若い男性が次から次へと大量にバタバタ死んでいく描写でも織り交ぜないと説得力など出しようがないでしょうに。
まあその点については原作でも甘い描写に終始してはいるのですが、その原作と比較してさえも、登場人物の説明にその大部分を依存している赤面疱瘡の脅威の描かれ方は、個人的な嘆きとしてはともかく、社会的な切実感や緊迫感といったものがまるで伝わってこないシロモノにしかなっていないのですが。
作中の赤面疱瘡は、江戸時代の四大飢饉(寛永・享保・天明・天保)の犠牲者数の総計をさらに2~3倍しただけの数の人口を減らしているというのに。
「大奥」世界の世界観にも関わってくるであろうその辺りの事情を、登場人物の説明や解説だけで終わらせてしまうというのは正直どうなのかと。
身も蓋もないことを言えば、番組制作の予算がないからそんな描写に終始しているのでしょうけど、もう少し何とかならなかったのでしょうかねぇ。

今話は全体的に、原作ストーリーの引き伸ばしとオリジナル要素を織り交ぜて時間稼ぎでもしているかのような構成でしたね。
原作を知っているからというのもあるかもしれないのですが、どうにも退屈な展開が延々と続いているような印象が拭えなかったです。
個人的には今まで一番面白くなかったエピソード回でしたね、今話は。
残りはあと2話で、次回は有功が大奥総取締に就任するまでの話となるようなのですが、今回のような「引き伸ばし感」満載なストーリーは勘弁願いたいものです。

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第7話感想

全10話放送予定のTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回は2012年11月23日放映分の第7話感想です。
前回第6話の視聴率は9.0%。
前回は諸般の事情でいつもより1時間遅い23時からの放映となっていたはずなのですが、その割にはやや前進したと言える視聴率ではありましたね。
放映が遅くなったことが逆に幸いした要素でもあったりしたのでしょうか?
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
コミック版「大奥」検証考察11 【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想  第6話感想

第7話のストーリーは、原作3巻のP128~P196までの内容を担っています。
女版家光がお忍びで江戸城の外を見回る女版家光の描写から始まり、春日局が病で倒れ江戸城内に赤面疱瘡が蔓延したとの村瀬正資の報告を受けて有功がテキパキと指示を出すまでの物語となります。
今話のオリジナルエピソードは以下の通り↓

・玉栄が前髪を落とされるシーン。
・女版家光と寝る直前に「有功との今後の関係」を心配する玉栄と、その心配はないと諭す女版家光。
・お夏の方の悪罵に対し、正面切って言い返す有功(原作では5巻P115における桂昌院の回想シーン、有功は何も言い返さず「ええのや」と受け入れただけ)。
・「玉栄は私の分身」と主張し、「(玉栄が天下人の父親になるという隆光の言について)そうなった方が良いのか?」という女版家光の問いに対し「はい」と答える有功(原作では何も返答しない)。
・八朔の儀に臨んだ後、赤面疱瘡の初期症状を見せる稲葉正則(ラストシーンで完全な赤面疱瘡に)。
・世継問題で「武士の頂点に立つ将軍が女でも構わぬと言うのか!」と激怒する春日局に対し、正面から女版家光を擁護する稲葉正勝。
・春日局の薬断ちの理由が「家光の赤面疱瘡」になっている(原作では「家光の疱瘡」)。
・春日局に関する女版家光と有功との会話。

稲葉正則については、息子か嫁の雪と対立した春日局が冷酷に放った刺客によって一族郎党皆殺しにされるか、赤面疱瘡で死ぬかのいずれかの末路を辿ることになるだろうと当初から予想していたのですが、どうやら後者の線で落ち着いたみたいですね。
作中の稲葉正則には妹がいたので、その死後は妹が稲葉正則を名乗るか、あるいは全く別の男名を名乗るかして、稲葉家を相続するというシナリオになりそうではありますが。

また、春日局の薬断ちの理由が「家光の赤面疱瘡」というのは少々無理がありますね。
ここは原作では「家光の疱瘡」になっていて、原作の2巻で「家光様は以前に疱瘡を患った際には快癒された。疱瘡は一度かかったら二度とかからぬのに、何故赤面疱瘡にかかるのだ!」とお匙を問い詰めるシーンがあったりします。
疱瘡の回復祈願が効いたからこそ薬断ちの誓いを守り続けている、ということになるわけです。
しかし、春日局の願掛け対象が「家光の赤面疱瘡」ということになると、そもそも春日局の願掛けは全く効を奏していなかったことになるのですから、春日局が誓いを守るべき理由自体がそもそも全く成立しえないことになってしまうのですが。
テレビドラマ版では、原作にあったお匙と春日局のやり取りがないため、疱瘡を赤面疱瘡に変更したのでしょうが、全く報われていない願掛けに固執する意味なんて、春日局の主観的に見てさえも果たして存在しえたのかと。

それと、今回個人的に注目していた「ハーレム否定」と「女系相続肯定論の高まり」については、あえて原作のような詳細な説明を避けた感がありありでしたね。
原作では「家の相続のため」「婚姻で大名家の勢力が拡大する」などとモノローグでのたまいまくったのが災いして、武家諸法度などを根拠に盛大なツッコミを私は入れていたりしたものだったのですが(苦笑)。
今回の話では、後継者問題に悩んでいた6人衆の面々達が、短絡的な自己&自家保身目的に女系相続を主張していたような描写になっていて、こちらは意外な説得力を醸し出していました。
何しろ、ひそかに娘に男名を名乗らせて江戸城内に参内させていることがあの時点で露見しようものならば、彼らが打ち首になるのはもちろんのこと、お家断絶の沙汰が当然のごとく下るのは避けられないわけですからねぇ。
かかっているのは自分の生命と自家の命運なのですから、そりゃ春日局の反対を押し切ってでも女系相続の正当性を訴えようとするでしょうね、彼らの立場的には。
もちろん、実際には春日局の発言の方に明確な理と利があるのであって、彼らの判断が目先に固執した浅ましく愚劣な発想であることに変わりはないのですが、彼らがそういう判断を下した背景自体は、愚かであるなりに理解はできるものとなっています。
武家や大名達個人の自己保身が、ああまで愚劣極まりない世界を作り出していったのか、現代も江戸時代も、責任追及を回避したがる人間がやることに何も変わりはないのだなぁ、と。
この辺りの展開は、現代にも通じる「事なかれ主義」「官僚的な自己保身」を想起させるものがあって、別の意味で笑えてくるものがありましたね。
ただまあ、たかだか自己保身程度の発想から、あそこまで大々的な、それも将来に多大な禍根を残しかねない欠陥だらけの社会システムの大変革を遂げさせるというのは、「赤面疱瘡には、人間の思考回路を著しく低下させ、しかもそれを自覚させない症状でも別にあったりするのか?」と皮肉のひとつも言いたくなるところではあったのですが。

あと、前話まではやたらと強気で無意味なまでにサディスティックな悪役ぶりを披露していたはずの春日局で、今作では何故かえらく弱気な惨状を呈していましたね。
特に、菊見の準備をしていたことを咎められた有功が堂々と反論してきたのに返答に窮したシーンでは、原作もそうだったとはいえ違和感を覚えずにはいられないところでした。
今までのサディスティックな春日局であれば、有功の反論に対し「殺りや!」の一言で返し、澤村伝右衛門辺りにその場で有功を始末させてお終いだったのではなかったのかと。
そもそも、有功を「種なし」と見做して女版家光との離縁まで迫っていた春日局が、わざわざ有功を生かしておかなければならない理由自体がないに等しいでしょう。
元々強制的に拉致した身でもあったのですし、用無しになれば即座に殺されるというのは政治の世界では常識なのですから。
有功を殺しておけば、女版家光に対しても「お前の命運は私の手に握られている」「これ以上私に逆らったらどうなるか、分かっているな?」という警告ないしは抑止にも使用できたのですからなおのこと。
にもかかわらず、女版家光をあそこまで自由にさせ、有功に至っては決して少なくない俸給まで与えていたというのですから驚きです。
一面では「目的のためには手段を選ばないマキャベリスト」的に描かれているかと思えば、別の場面では変に自由を許して造反されてしまったりと、どうにも中途半端な人格を持たされてしまっている感が多々ありますね、春日局は。
元々原作でもその傾向はあったのですが、テレビドラマ版ではなまじサディスティックな面が強調されているために、さらにそんなチグハグなイメージが強くなってしまっているのではないかと。

来週の第8話でいよいよ春日局は死ぬことになるようなのですが、春日局に纏わるこれらの矛盾は果たして整合されることになるのでしょうかねぇ。
あと、稲葉正則の死後における稲葉家がその後どうなるのか、そして原作とは大幅に異なる設定を持つ稲葉正勝の動向についてもいささか気になるところです。

コミック版「大奥」検証考察11 【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】

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コミック版「大奥」検証考察11回目。
今回のテーマは【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】です。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想  第6話感想

コミック版「大奥」では、時代が下るのに比例する形で、男性差別の度合いが苛烈さを増していきます。
徳川9代将軍家重の時代になると、男性はもはや「日陰者」として生きていかざるをえない存在にまで落ちぶれ果てているようです。
8巻では、ただ単に「男だから」という理由だけで客からも同僚の女性達からも忌避された挙句、料亭「かね清」をクビにされてしまう善次郎(後に大奥へ入った際には芳三と名乗る)のエピソードが描かれています。
「赤面疱瘡」が原因で男性人口が激減したのと、女性が労働の主要な担い手となったことで、女性の発言権が増大し重要な社会的地位をも占めるようになったこと自体は、作中でも少なからず描かれているように別に不思議でも何でもないでしょう。
しかし、女性の発言権増大や権利伸長だけでは、労働の場から男性を排除すべき理由などには到底なりえませんし、ましてや男性差別が跳梁跋扈する理由にもならないのです。
にもかかわらず、時代が下るにしたがって「大奥」世界における男性差別が悪化の一途を辿っているのは一体何故なのでしょうか?

コミック版「大奥」における作中の描写を見ても、「大奥」世界で男性差別が発生しえる発端になったと「かろうじてレベル」でも解釈しえる事件やエピソードは、実のところ「慶安の変」と「元禄赤穂事件」の2つしか存在しません。
しかもこの2つでは、どちらも「血生臭く乱暴者な気風の象徴」として男性が忌避されているわけです。
ところが、8巻で描かれている「享保の大飢饉」では、女性達の手による米問屋の打ち壊しなどが全国規模で大々的かつ公然と行われていたりします。
また、家光時代に発生した「寛永の大飢饉」でも、男女人口比率が1:5にまで落ち込もうという最中に一揆の気運が高まろうとしていたという描写もあります。
江戸城の面々が心の底から忌避していたであろう「血生臭く乱暴者な気風」とやらは、女性側も普通に持ち合わせている、という厳然たる事実の存在がこれで証明されてしまっているわけで、何とも滑稽な話であるとしか言いようがないのですけどね(苦笑)。
さらに言えば、「大奥」世界における「元禄赤穂事件」で吉良家討ち入りを敢行した赤穂浪士47名の中には、女性も5人は含まれていたことが作中でも明示されている(「大奥」5巻P193)わけで、その事実を無視・黙殺して「男性の気質」だけに全ての責を負わせている綱吉の裁断は、現実を直視しない不当かつ愚劣極まるシロモノでしかなかったのですし。
そして何よりも問題なのは、「慶安の変」にしても「元禄赤穂事件」にしても、それはあくまでも武士階級の人間が起こしたものであり、その裁断の範囲もまた武士階級に限定されるものでしかない、ということです。
江戸時代は士農工商に代表される身分制度が幅を利かせていたのであり、武士・農民・商人でそれぞれ別個の規範が適用されるのが一般的でした。
武家を統制するための規範だった「武家諸法度」が農民の行動規範を拘束などするわけもなく、逆に農民統制を目的とする「慶安御触書」が武士に対して適用されるケースがあるわけもなかったのですから。
つまり、士農工商における「士」以外の階級で男性差別が横行しなければならない理由と経緯については、作中では全く描かれていないということになってしまうわけです。
こんな状態で「大奥」世界の社会において男性差別が横行している様子が描かれても、読者側としてはひたすら「?」マークを浮かべ続けなければならないことになってしまうのですが。

さて、「大奥」世界における男性差別がいかに歪なシロモノであるのかについて、8巻に登場していた料亭「かね清」絡みのエピソードを見てみることにしましょう。
実のところ、料亭で板前の男性が排除されるというただその一事だけでも、「大奥」世界の男性差別があまりにも非合理かつ無理筋なシロモノであることを証明して余りあります。
料亭における板前というのは、基本的に「同じ味と形の料理を常に変わることなく提供し続けることが可能であること」を必須とする職種です。
ところが女性の場合、生理の影響で体温が一定ではなく、また味覚も力加減も不安定に変化することから、「同じ味と形の料理を常に変わることなく提供し続ける」という用途には、男性と比較しても到底適しているとは言えません。
また、昔の板前というのは当然のごとく現代のような機械化された便利な環境があるわけでもないので、料理の素材の調達・運搬・下ごしらえに至るまでとにかく重労働をこなさなければならず、その点においても女性にはあまり向いていません。
男女平等&労働環境の利便化が進んだ現代においてさえも、すし屋や料亭の板前には女性よりも男性の方がはるかに多いのはそのためなのです。
身体的な問題が大きく影響しているのですから、男性が女性よりも数が少なくなったからと言って、男性排除の論理を働かせて良いものなどでは、板前という職種は全くありえないわけです。
ところが「大奥」世界では、そのありえないはずの男性排除の論理が大手を振ってまかり通っているなどという、何とも奇妙奇天烈な珍現象が現出しているのです。
しかもその理由がまた振るっていて、「男がいること自体がダメ」とか「(女性の)月のもの等の話がやりにくい」などといった、板前としての職のあり方や料理の味などとは全く何の関係もない、現代で言えば「一国の首相のカップラーメン値段当てクイズ」のごとくどうでも良いシロモノでしかないときています。
この「かね清」という料亭って、もし創業100年以上の伝統を誇っている店だったのであれば、赤面疱瘡で男女逆転が起こった際に、一体どんな珍論を駆使して男女の身体的な格差および板前の伝統と慣習を覆していったのか、つくづく疑問に思えてならなかったですね。
その際に「かね清」の料理の質は、間違いなくガタ落ちもいいところなレベルまで落ちたのではないかと思えてならないのですが(苦笑)。
これが史実の江戸時代であれば、元来男性の方が身体的・技術的にも向いている上に男性オンリーに近い板前の世界で、女性が台頭するのは至難を極める上に伝統・慣習的にも受け入れ難いものがあるからということで他の男性板前達の反感を買う、という構図が簡単に成立しえるのですけどね。
こういうのって、男女の人口比が変わったからと言って単純に逆転しえるものではないですし、ましてや、男性排除の論理を働かせなければならない必然性もないに等しいはずなのですけどねぇ(-_-;;)。

上記の板前の事例のごとく、人口・権力的な男女逆転が発生したからと言って、単純に連動させて逆転できるものではない伝統・慣習といったものは他にも色々あります。
女人禁制の伝統がある相撲などはその典型ですね。
そもそも、相撲が女人禁制となったのには、主に2つの理由があると言われています。
ひとつは神道における「穢れ」思想の影響によるもので、女性の生理や出産時における出血が不浄のものであるとされ、「神事」とされる相撲がそれによって穢されると考えられていたこと。
もうひとつは、「神事」で祭られている神が実は女性の神であり、同性である女性がその領域に近づくと女神の嫉妬や怒りを招くと考えられていたこと。
相撲に限らず、日本における女人禁制のほとんどが、上記2つの理由で軒並み説明可能だったりします。
江戸時代以前には、比叡山や大峰山などといった特殊な山が女人禁制とされていましたが、これには「山はそれ自体が女神である」と考えられていたことから後者の理由が当てはまるのですし。
で、こういった女人禁制などの伝統や慣習などは、男女逆転が発生したからと言ってそうそう変えられるものでもなければ、簡単に変えて良いシロモノなどでもありえないはずなんですよね。
現代でさえ、女人禁制を伝統や慣習として堅持しているところがあったりするのですし。
こういうのって、「大奥」世界においては一体どのような扱いになっているのでしょうかねぇ。
7巻P170~171で徳川8代将軍吉宗が男性力士と相撲を取った回想シーンがあるところを見ると、どうやら相撲については女人禁制がそれなりに機能していたようではあるようなのですが……。

どうにも「大奥」世界というのは、男女逆転に伴う伝統や慣習への影響や変革というものをあまりにも軽く考え過ぎているきらいが多々ありますね。
板前と相撲の事例のごとく、一方では男女逆転を安易に適用していたかと思えば、他方では何故か都合良く男性メインの形態が続いていたりと、チグハグな社会システムが出現するありさまですし。
結局、コミック版「大奥」という作品は、史実における伝統や慣習などといった社会システムのあり方や、それが出来るに至る経緯や必然性といったものについて寸毫たりとも考えることなく、ただ「男女逆転が起これば全ての慣習が自動的に逆さまになる」などというありえない前提で作中の世界を描こうとするから、世界設定のことごとくがおかしなシロモノとなり果ててしまうのでしょう。
男性差別に至っては、それがあの世界で出てくる理由も必然性も全くないに等しいのですし。
そういったものを出すなら出すで、作中のごときコジツケな屁理屈などではなく、もう少しマトモな理論と必然性といったものを捻出して欲しかったところなのですが。

次回の考察は、2012年12月3日に刊行されるらしいコミック版「大奥」9巻を購入して以降に披露してみたいと思います。

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第6話感想

全10話放送予定のTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回の記事は、2012年11月16日放映分の第6話感想となります。
前回第5話の視聴率は8.9%。
今まで続いていた視聴率最低記録の更新は回避され、今まで右肩下がりだった視聴率がようやく持ち直した感じではありますね。
とはいっても、初回および2回目放映分の視聴率までは回復しきれておらず、またここからさらに回復するのか、再度反転して落ちていくのかは正直不透明な情勢ではあるのですが。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想

第6話が担当している原作のページ範囲は、コミック版「大奥」3巻のP94~P127まで。
女版家光と捨蔵改めお楽の方の間に女児が生まれてから、有功が玉栄に女版家光と子を為してくれるよう依頼するシーンまでのストーリーが展開されます。
今回は女版家光と有功絡みの本筋のストーリーについては特にオリジナル要素がなかったのですが、その分、稲葉正勝絡みのオリジナルストーリーがかなり前面に出ていた感がありましたね。
今回の話におけるテレビドラマ版オリジナルエピソードは以下の通り↓

・女版家光の出産後、春日局が捨蔵改めお楽の方に「お腹様」であることを告げ、次こそ男児を産むよう促す。
・有頂天になって柿を取ろうとしたお楽の方が、頭を打って半身不随に(原作では柿は話に絡んでこない)。
・お楽の方の半身不随後、女版家光と有功の逢瀬を許した春日局に対し、稲葉正勝がその意図について問い質す。
・家光に扮する稲葉正勝と、元服の儀のために江戸城へ参内した息子の稲葉正則の対面、さらに無難に儀式が終わろうとした際、息子を自分に近づけさせアドリブで語りかける稲葉正勝。
・対面が終わった後、母親に報告を行う稲葉正則と、春日局から「二度と同じことをするな」と警告される稲葉正勝。

話が進む度に思うのですけど、このテレビドラマ版「大奥」では、春日局のサディスティックな悪役ぶりが無意味なまでに前面に出まくっているような感が多々ありますね。
女版家光と有功の逢瀬を許した意図を稲葉正勝に問われているシーンでは、わざわざ自分から他者の憎しみを買うかのごとき振る舞いを稲葉正勝相手に披露していたりしていますし。
春日局に破滅願望でもあるのでなければ、アレって単に稲葉正勝をイビっていただけでしかないのですが。
原作の春日局も相当なまでの悪党ではありましたが、原作の方はあくまでも「必要に応じて手段を選ばない」だったのに対して、テレビドラマ版の方ではそうでない局面においてさえも残虐性が浮き彫りになっています。
よほどにストレスでも溜まっていたのか、それとも老い先短い自分の寿命に苛立ってでもいたのか、はたまた息子をイビることで自分が権力者であることの再確認でもしたかったのかは知りませんが、傍目には実に無意味なことをしているよなぁ、と。
原作と違って春日局の思想的背景が、現時点では全く語られていないため、なおのことサディスティックな一面だけがクローズアップされてしまっていますし。
稲葉正則の元服の儀で、稲葉正勝が春日局の言いつけに背いてアドリブな言動を披露していたのも、息子に対する愛着もさることながら、間違いなく春日局に対する反発も一役買っていたことでしょう。
あの2人、だんだんと反感と対立を深めつつあるようなのですけど、稲葉家の面々共々、今後一体どうなっていくのでしょうかねぇ。
何となく、自分に逆らう息子に対する制裁を目的に、稲葉家に呪いをかけたり殲滅を命じたりする春日局、という構図が思い浮かばずにはいられないのですが(苦笑)。

あと、玉栄に女版家光の側に上がるよう依頼してきた有功の表情が、明らかに腹に一物あるかのごときシロモノだったのが印象に残りました。
前回の話で玉栄に対して「お前はええ子や」と発言していた際の表情と言い、有功って玉栄に対して実は凄まじいまでの悪意や負の感情を抱いているのではないか、とすら解釈せざるをえないところだったのですけど。
有功を演じている堺雅人の表情の作り方は結構上手いものがありますが、自分のことを心から慕ってくれている第一の忠臣である玉栄に対して、わざわざそんな不気味な表情や声色をすることもなかろうに、とは考えずにいられなかったですね。
そして当の玉栄の方では、そんな有功の不気味さに果たして気づけているのでしょうか?
まあ、あの忠臣ぶりを見るにつけ、「まさか有功様が自分に悪意など抱くはずがないだろう」と頭から決めてかかっていそうではあるのですけど(苦笑)。
有功絡み以外になると、玉栄も春日局ばりに手段を選ばぬ悪党ぶりを披露しているものなのですが、主である有功の前では純粋無垢な赤子同前でしかない、ということになるのでしょうかねぇ。

次回第7話で、いよいよ原作でも支離滅裂な論理の塊だった「一夫多妻の否定」「女性に家の後を継がせる」の話が出てくるみたいですね。
春日局も次話で倒れることになるようですし。
正直、あの場面で披露されることになる男女逆転の政治的・論理的正当性については、原作以上のものを出すことはできそうにもありませんが、どんな形で盛り上げていくことになるのでしょうかねぇ。

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第5話感想

全10話放送予定のTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回はちょうどテレビドラマ版の折り返し地点となる、2012年11月9日放映分の第5話の感想です。
前回第4話の視聴率は7.6%で、著しくダウンした前回のそれよりもさらに低くなってしまっています。
何かこのテレビドラマ版「大奥」って、初回放映から視聴率が右肩下がりの一途を辿っているのですが、やはり話が全体的に暗すぎるのと、現時点では大奥の外の話を除外しすぎて「男女逆転」という作品の売りの必然性に今ひとつ説得力がないことが、一般視聴者を敬遠させていたりでもするのでしょうかねぇ。
原作には忠実すぎるくらいに忠実なので原作ファンには受けそうなものなのですが、それで新規のファンを獲得するにはやや力不足ということなのかなぁ、と。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想

第5話は、コミック版「大奥」3巻のP73~P93までのストーリーが展開されています。
しかし、原作のページ範囲を見ても分かるように、第5話はこれまでの話と比較しても原作ストーリーの進行が遅く、かつオリジナルエピソードの多い回となっています。
原作の内容的に見ると、捨蔵が大奥に上がってから女版家光が出産するまでのエピソードしかないのですし。
前回の第4話もオリジナルエピソードが少なからず盛り込まれていた回ではありましたが、今回はそれ以上に原作ストーリーの補完とオリジナルエピソードに終始した話であると言えます。
今回作中で披露されたオリジナルエピソードは以下の通り↓

・捨蔵と春日局&稲葉正勝とのやり取り。
・有功に捨蔵の後見役を担わせるよう春日局が画策。
・有功による捨蔵への指導と、それに疑問を抱き怒りを抱く玉栄。
・自身が大奥に来るまでの経緯を捨蔵に話す有功と、捨蔵を穏やかに脅す玉栄。
・有功と女版家光の語らい。
・稲葉正勝の妻子が、春日局を訪ねて江戸城へ来訪し、シカトを決め込んだ春日局を待ち続ける様子を稲葉正勝が陰から伺う。
・女版家光との褥に捨蔵が臨む前の有功の激励。
・3話で殺害された若紫とよく似た白猫を稲葉正勝が拾い、さらにそれが有功の下に居つく。
・その白猫に若紫の面影を見出し、同様する玉栄と、その様子を見て玉栄の所業を見抜いた有功。

オリジナルエピソードは、原作に描写がなかったり「気づいたらこうなっていた」的な部分に状況的な説明や補完をする構成となっているので、原作ファンであれば「ああ、あの描写の裏にはこういう事情があったのか!」と納得することしきりな展開になっています。
ただ、それで新規のテレビドラマ視聴者まで引き込めるものになっているのかというと、そこには疑問符を付けざるをえない一面が否めないところなのですが。
ああいうのって、「原作を知っているからこそ納得できる」という要素が少なくなく、逆に全く知らない人間からすれば無用な説明が長々と展開されているだけのように見えることすらあるわけですからねぇ。
ただでさえテレビドラマ版「大奥」では、陰々滅々とした話が第1話から延々と続いているのですし、原作のストーリーに忠実である限り、この傾向が最終話まで緩和される見込みはまるでないときているのですから。
ひたすら原作ファン向けに製作しているとしか思えないこの構成は、視聴率獲得という観点から見れば全くの逆効果でしかないような気が……。

テレビドラマ版の完全なオリジナルエピソードである「稲葉正勝の妻子と春日局」絡みの話ですが、あれほどまでに「戦のない平和な世の中」とやらに拘泥し、そのためならば多くの犠牲を払うことも辞さない春日局ともあろう者が、たかだか稲葉正勝の妻ごときにああまで逃げ腰なスタンスになってしまうというのはどうにも解せないですね。
稲葉正勝の安否の確認などという、下手すれば大奥の最高機密にも抵触しかねない行為に及んでいる稲葉正勝の妻の雪は、春日局にとってはまさに「邪魔者」以外の何物でもないはずなのですし、何故さっさと澤村伝右衛門辺りに斬り殺させないのか疑問に思えて仕方がないのですが。
別に彼女が死んでも、稲葉家の存続自体は既に長男と長女がいるわけですから何の問題もないわけですし、そもそも春日局にとっての雪は「他家から嫁いできた余所者」でしかなく、殺しても何の支障もない存在でしかないでしょうに。
「戦のない平和な世の中」ために血も涙もない犠牲を払うことに躊躇しない春日局が、身内に対しては何と甘いことよ、と考えずにはいられなかったですね(苦笑)。
まあそれを言ってしまうと、そもそも女版家光に対しても、ああまで「自由」を許していること自体、自分の意のままに操り世継ぎを産ませるという観点から見れば非効率も甚だしい限りではあるのですが。
自分の命令が神の信託であるがごとく絶対的なものであると教育し、少しでも自分の命令に背いたら半殺しクラスの虐待を行うことで躾けを行い、自我というものを殺しつくして自分の意のままに動かせる奴隷人形のごとく女版家光を育てていれば、あんな回りくどいことをする必要も手間もなかったはずでしょうに。
過去の歴史を紐解いても、皇帝や国王を傀儡として利用する人間は、常にそういう人間を自分の意のままにできるように堕落させたり強制的に従えたりしてきたものなのですし。
春日局に対してすらワガママ放題に振る舞ったりしている女版家光の態度を黙認するなど、他ならぬ春日局の立場や信念から言えば到底考えられない愚行でしかないはずなのですけどね。

ラストシーンにおける有功と玉栄の会話は、原作2巻のP198~P200における2人のやり取りをトレースしてきたものですね。
原作ではやや唐突だった感のある「有功が玉栄の所業に気づく過程」を、テレビドラマ版では詳細に描いていて、この点に関しては原作よりも描写が上手いと言えますね。
ただ、若紫を殺して角南重郷を自害に追いやったことを「今日まで悪いこととは思っていなかった」というのは、さすがにどうなのかと思わずにいられなかったのですが。
第3話では、「計画通り!」と言わんばかりの悪人的な笑いの表情を浮かべていた玉栄だったのですから、てっきり「悪を背負う覚悟と信念で一連の所業を行っていた」とばかり考えていた私としては拍子抜けもいいところでした。
ここは下手に設定補完な説明を入れたがために、却って玉栄の考えなしな覚悟のなさと小人ぶりが浮き彫りになってしまった感があります。
まあここでは、「お前はいい子や」と玉栄に話しかける有功の方が逆に不気味に見えたくらいでしたが。
原作では憐みの感情のみ発せられていたであろうあの発言は、表情といい口調といい、何らかの悪意が明らかに感じられたものでしたからねぇ、あの有功からは。

次回の第6話は、次回予告を見る限りでは、捨蔵が転んで半身不随になり、さらに玉栄が女版家光の御中臈になるところまでのストーリーのようですね。
大奥の外における他の武家の様子もようやく描かれることになりそうで。
テレビドラマ版でも描かれることになるであろう「大奥」世界における社会システムの改変は、果たして原作よりも説得力のあるものになりえるのでしょうかねぇ。

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第4話感想

ドラマの話数に合わせて全10回を予定している、TBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」の視聴感想。
今回は2012年11月2日放映分の第4話です。
前回第3話の視聴率は7.9%とのことで、これまで一番低い記録を叩き出してしまっています。
これはやはり、前々回第2話の次回予告時点で猫殺しに切腹・回想におけるレイプシーンなどといった暗い話が提示されていたことが大きかったのではないかと。
第3話の内容自体は、玉栄の悪人的な振る舞いやラストシーンなど、見どころも決して少なくはなかったのですが……。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想

第4話は、原作3巻の始めからP72までのストーリーを担っています。
女版家光と有功が邂逅してから1年が経過し、2人の間に子供が生まれないからと業を煮やした春日局が、有功に女版家光から自主的に離れるよう強要して有功がそれを実行するまでの話となります。
第4話は全体的にオリジナルなエピソードが多く、前半部分の多くがオリジナルストーリーに割かれている感がありますね。

・夜に女版家光と有功が海について雑談後、世継ぎが生まれた後のことについて夢を語っている。
・この先の暗い未来を暗示する有功の伊勢物語の講義と稲葉正勝の訪問。
・稲葉正勝の7回忌における、稲葉正勝の妻・雪と春日局の会話。
・稲葉正勝の7回忌のことを当の本人に報告する春日局と、妻&子供のことを案じる稲葉正勝。

女版家光と有功が語っている海の話は、原作を知る人間からすれば何とも切ない話ではありました。
女版家光は27歳で死去するのですし、2人が徳川家の「呪縛」から解放されることなんて死ぬまでないわけで。
悲恋になるのが分かりきっている展開が何とも泣ける話ではあります(T_T)。
一方で、稲葉正勝の妻が生きていたというのは正直驚きではありました。
私はてっきり、稲葉正勝の妻は夫の生存を疑っていることから、真相に辿り着かれることを危惧した春日局によって既に殺されていて、回想シーンの中だけで生きる過去の人になっているとばかり考えていましたし。
まあひょっとすると、これからの展開でまさにそういう末路を辿ることになるのかもしれないのですけど。
稲葉正勝には2人の兄妹がいたのですが、どう見ても兄の方は赤面疱瘡で確実に死にそうな感がありありですね(苦笑)。

ところで、これは原作からずっと疑問に思っていたことのひとつだったのですが、春日局が女版家光を懐妊させるという目的を達成するために、わざわざ有功を女版家光から引き離さなければならない理由って、具体的にどんなものがあるというのでしょうか?
そもそも春日局は、女版家光が懐妊さえするのであれば相方の男は誰でも良いという考えの持ち主であるようなのですから、女版家光に毎日複数の男性と無差別に乱交することを強要させても良かったのではないのかと。
有功と一緒に寝るのはかまわないが、他の男とも褥を共にしろと命じて乱交させたとしても、それで女版家光が懐妊さえすれば目的は達成できるのですし、その方が「男の側に種がない」などという懸念も払拭できて一石二鳥だったはずなのですが。
女版家光をレイプした男の子供でさえ、春日局が涙を流して喜んでいたことを考えれば、「乱交」という選択肢を春日局が考えてはならない理由などどこにもないでしょう。
有功を引き離してまで新たに女版家光にあてがった男がまたしても「種なし」だった、という【春日局の視点から見れば】惨憺たる結果に終わる可能性だって充分に存在しえるのですし。
女版家光も有功も、春日局に連れられてきた経緯を鑑みれば、そのあたりの事情は最初から重々承知だったはずでしょうに。
「戦のない平和な世の中をつくる」などと豪語し、女版家光や有功態度を披露するのであれば、女版家光も、有功も含めた他の男性も、文字通り「子を作るための道具」として扱い、片っ端から男をとっかえひっかえ女版家光に叩きつけてレイプ&乱交三昧やらせまくって無理矢理にでも懐妊させる、という手段に打って出る方が【春日局の考え的には】はるかに理に適っていると言えるではありませんか。
何故作中のような迂遠でまだるっこしい方法などを春日局が採用しているのか、はなはだ理解に苦しむと言わざるをえないですね。
「戦のない平和な世の中をつくる」のであれば手段は問わないのではなかったのですかねぇ、春日局的には。

しかし、今回のテレビドラマ版「大奥」って、「大奥」の外にある社会情勢や社会システムの現状などについては可能な限り避けて通る方針のようですね。
今回出てきた捨蔵の話で、ようやく大奥の外における社会情勢が断片的ながら出てきたくらいですし。
通常の大奥話と異なり、今回の「大奥」は大奥外部の社会システムの説明なしには成立しえない面が少なくないのですが、この辺り、今後の話で一体どのように収束させていくつもりなのでしょうかね?

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第3話感想

最終話まで週刊連載する予定の、TBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回は2012年10月26日放映分の第3話についての感想となります。
前回第2話の視聴率は、ビデオリサーチの調べによれば10.6%で、第1話の11.6%よりはやや下がった感じです。
まあ初回放送では、番組内容の確認や「御祝儀」的な意味合いでの視聴も多いので、元々視聴率が高くなる傾向にはあるのですが。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
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コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想

第3話は、江戸城の中を火の用心で歩き回っていた男が、突然木霊した赤子の泣き声に仰天し、その発生源と思しき部屋を開けた後、悲鳴を上げて逃げるという描写から始まります。
一体何のことかと思っていたら、女版家光が澤村伝右衛門に女性の髪を切らせまくっていたエピソードの一部だったわけですね。
今回のストーリーは、コミック版「大奥」2巻のP167からラストまでの話が語られており、原作2巻の話全てがこれで出揃うことになります。
今まで出番が少なかった女版家光がようやく前面に出てきて、いよいよ有功との仲を深く進展させていくことになります。

1.澤村伝右衛門が女性の髪を携えている様子を、有功が自分で直接目撃(原作では「玉栄から聞いた話」)。
2.嫌がる様子の猫の若紫を抱いて「上様」と呟く角南重郷を目撃する有功と玉栄。
3.角南重郷の切腹後、有功が夜中に念仏を唱え、角南重郷の遺体が運ばれるシーン。
4.有功が女装を命じられた際、稲葉正勝に女版家光の過去の事情を尋ねる。
5.御中臈が女装で踊る中、有功が姿を見せる前に女版家光が場の解散を命じた後、有功が女装をすることなく登場(原作では有功が女装して登場後に女版家光が場の解散を命じる)。
6.有功が女版家光の髷を切り、刀を取り上げる。

若干話を変えている部分はありますが、今回も基本的に原作の流れをそのまま踏襲しています。
それにしてもやっぱり出てきましたねぇ、猫の若紫が玉栄に殺され、角南重郷が濡れ衣を着せられるシーン。
まあ、殺された若紫の描写が猫というよりは「白いタオル」のようにしか見えなかったのは、その手の自主規制でも働いていたりしたのでしょうけど。
角南重郷の死後、その遺体に手を合わせる大奥の男衆から一人離れ、ニンマリとほくそ笑む玉栄の描写は、原作以上に悪人っぽく見えてなかなかに良かったですね。
このエピソードは、原作では徳川5代将軍綱吉の時代でも大きな伏線となって生きてきますし、当然次作映画でも活用されることになるでしょうから割愛することはできなかったのでしょうけど、内容的には何らかの規制を受けて割愛されたり大幅変更されたりしてもおかしくなかったエピソードですからねぇ。
よくまあ原作以上に忠実にこのエピソードを再現することができたものだと。
まあ、この後の女版家光のレイプ回想シーン共々、描写については可能な限りソフトなものにはなっていましたけど。

ただ、有功が結局女装をすることなく、しかも場の解散を命じた後で女版家光の前に現れるというのは、さすがにちょっとどうなのかとは思わなくもなかったですね。
あの場の有功って、明らかに女版家光の勅命に背いていることになってしまいますから、癇に障った女版家光に直接手打ちにされたり、角南重郷に対するがごとく切腹を命じたりする危険性も多大にあったのではなかったかと。
有功自身にもそうなる覚悟はあったのかもしれませんが、ここは原作通りに女装をした上で女版家光に迫っていた方が、すくなくとも表面的には勅命に逆らっていない分、安全確実だったのではないのでしょうか?
そもそも、あの場で有功がわざわざ女版家光の勅命に正面から逆らわなければならない理由自体がまるでないのですし。
このエピソードの改変って、有功というよりはそれを演じている堺雅人の事情が何か関係していたのではないかと、ついつい考えてしまったものでした。
最初から女装やゲイ的な要素を売りにしているのであればともかく、一般的には「女装をする男性俳優」なんて、似合っていようがいまいがイメージダウンもいいところでしょうからねぇ(苦笑)。
ましてや、彼には今後も次作映画およびその他の作品にも出演しなければならないのですから、なおのことその手のイメージについては気にせざるをえない部分もあるでしょうし。
まあ、もっと単純に「いくら女装メイクをしても全く板につかなかった」という事情もあったのかもしれないのですが。

次回からはコミック版「大奥」3巻のエピソードが始まることになるのですが、さてこちらはいったいどうなることやら。
3巻は寛永の大飢饉や政治の裁断など、大奥の外でのエピソードも多くなってくるのですが、今までの話では大奥以外のエピソードは可能な限り割愛していたりしますからねぇ。
さすがに3巻では無視することもできなくなってくるのではないかと思うのですが……。

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