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テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第2話感想

最終話まで週刊連載する予定の、TBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回は2012年10月19日放映分の第2話についての感想です。
ちなみに、初回放送となった第1話の視聴率は、ビデオリサーチの調べによれば11.6%だったのだとか。
正直、話の内容やTBS系列の番組であることを考えても、高いのか低いのか何とも微妙な数値ではありますね(苦笑)。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想

第2話のストーリーは、コミック版「大奥」2巻のP105~P166までの流れに沿ったものとなっています。
大奥へ入った有功と玉栄が、大奥に巣食う3人の御中臈にいびられまくる話ですね。
今回も女版家光の出番は全体的に見るとあまりなかったりするのですが、前回よりは要所要所で出てきて存在感をアピールしていた感じでした。
第2話における原作との違いは以下の通り↓

1.有功が玉栄に対し「大奥へ連れてきたこと」を詫びた際、玉栄が「春日局が旧家光に仕えていた大奥の女達を皆殺しにした可能性」について言及していたこと。
2.猫の若紫の名前の由来(源氏物語から取った)が説明されていたこと。
3.稲葉正勝の妻と子供?の話が盛り込まれていたこと。
4.神原家の面々が全く出てこなかったこと。

とは言え、基本的には第1話同様、原作のエピソードをそのままなぞる形で話は展開していくので、原作を知っている者から見て原作改変的な展開は今のところありません。
神原家の面々については、正直今回のテレビドラマで出てくるのか否かすら不明と言わざるをえないですね。
元々あの面々は「赤面疱瘡のために疲弊し変わっていく農村」を描写するために存在していたようなものですし、テレビドラマ版「大奥」では不必要と判断されている可能性も否めないところで。
出てくる可能性があるとすれば、この先に出てくるであろう「寛永の大飢饉」および女版家光の忍び旅辺りのシーンにでもなるのではないかと。
テレビドラマ版の製作者達としては、あくまでも「大奥」の宮中の話に専念したい、という意図でもあるのではないでしょうかね。

個人的に驚いたのは、玉栄が男共に犯されるという、ある意味18禁指定されても不思議ではない男色描写を、原作と同程度にはきっちりと描いていた点です。
これについては完全に飛ばすか、他のイジメな描写にすり替えるかするのではないかと考えてもいたのですが。
前作映画でも「男同士のキスシーン」なんてシロモノを描写してはいましたが、アレはPG-12やR-15指定も可能で、かつ客層を限定する映画だからこそ可能なのであって、誰もが視聴できることを前提とするテレビドラマでは、規制か何かに引っ掛かってできないのではないかと考えていましたからねぇ。
原作の忠実度、という点では今のところ全く文句のつけようがなく、むしろ原作を知っている人達の方が楽しめるのではないかとすら思いますね。
この路線を最後まで続けるのか、あるいは最後の最後で大どんでん返しでも仕掛けているのかは、今後の話を見ないと何とも言えないところではあるのですが。
完全なオリジナル要素となるであろう稲葉正勝の一家がどうなるのかは、原作を知る者としても興味をそそられるところですし。
まあ、「あの」春日局が蠢動しているとなると、どちらも相当なまでに悲惨な末路を辿っていそうではあるのですけどね。
Wikipediaによれば、史実の稲葉家は稲葉正勝の死後、次男の正則が家を相続したとのことではあるのですが……。

次回の第3話では2巻のラストまで進んで、いよいよ有功と女版家光との仲が進展していく展開になりそうですね。
個人的には、あの子猫の若紫が惨殺される光景がどうなるのか、あまり見たくないながらも見ずにいられないという心境ではあるのですが(T_T)。

コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】

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コミック版「大奥」検証考察もいよいよ10回目。
今回のテーマは【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想

コミック版「大奥」1巻のラストで没日録を読みふけり始めてから、7巻になってようやく現実に戻ってきた徳川8代将軍吉宗。
1巻の初版発行が2005年10月4日で、7巻のそれが2011年7月5日ですから、連載時間的には実に6年近くもの歳月が流れていることになります。
これほどまでの長期間にわたって回想シーンが続いていた作品というのも、そうそうあるものではないでしょう(苦笑)。
しかし、史実でも「中興の祖」として評価され、「大奥」世界でも英明な将軍として扱われているはずの吉宗は、回想シーンが終わるや否や、早速電波なことを主張し始めます↓

「なるほど、赤面疱瘡という病の事さえ無ければ、女は子を産み育て、男が家のために働くのは合理的のようにも思える。だがしかし、血統で家を繋ぐという点から考えると、男系にはいささか無理があるように思われるのだが、いかがじゃ?」
「女系ならばその当主が生むのだから、その子は間違いなく当主の子だ。疑いようはない。しかし、当主が男だとしたらその男の妻なり側室なりの産んだ子が、その男の真の子であるとどうして断言できる? たとえ今の大奥のような場所に女達を囲ったところで、どこかに男の入る隙はできようぞ。常にその家の血統には疑念がつきまとう事になりはせぬか?」
「そう考えると、男が働くのはともかく、家の当主は女である方が道理が通っているように思われるぞ」
(コミック版「大奥」7巻P167~P168)

吉宗って江戸時代中期を生きた人間であるはずなのに、これを読むとまるで現代人が憑依しているとしか思えないですね。
世界の王朝や伝統ある貴族階級などで何故男系が主流なのかというと、その最大の理由は「子孫が増やしやすいから」の一言に尽きます。
「大奥」世界がそうであるように、女性が家長という女系の場合、子孫を直接的に増やすことができるのは当主だけであり、かつ身体的・年齢的に子供を増やすにも大きな制約が存在します。
それに対し、男性が当主の男系であれば、女性を何人も囲うことで理論的には子供を無制限に作ることが可能です。
これは、「血統を維持し家を存続させる」という点で女系よりもはるかに有利となります。
もちろん、これは一夫多妻制や側室制度が認められているという前提あってこそのものではあるのですが。
キリスト教の影響で一夫一妻制が基本原則とし、庶子には基本的に王位継承権が認められなかったヨーロッパ諸国では、しばしば王朝断絶の危機に見舞われており、実際に断絶して余所の国の親戚筋が王位を継承したなどという事例も少なくありません。
そんな事態を避けたいからこそ、東洋やイスラム圏では一夫多妻制や側室制度が認められてきたという歴史的経緯もあったりするわけで、一夫多妻制や側室制度も「男女平等」などという現代的なイデオロギーだけで一方的に切り捨てて良いものなどではないのですけどね。
しかし、一夫多妻制や側室制度よりは「後継者作り」の観点から見て劣るにせよ、一夫一妻制であっても男系であれば、「再婚」という形で別の女性と結ばれることでまた新たに子作りを行うことも可能なのに対し、女系の場合はそれすらもできないのです。
「大奥」世界でも、徳川5代将軍綱吉が「月のもの」が来なくなったために、いくら男性と交わっても子作りが不可能になってしまったという問題が現出していたではありませんか。
しかも、女性は男性と比べてその手の「子作り」の条件がかなりシビアなのですし、ましてや「大奥」世界のごとく女性が男性に代わって外へ働きに出ているような社会システム下ではなおのこと、子作りはいよいよもって至難を極めると言わざるをえないでしょう。
こんな状態で、一体どうやって血統を保ち家を存続させることができるというのでしょうか?

それから吉宗が危惧している「その男の真の子であるとどうして断言できる?」という問題については、「では何故大奥や後宮というものがこの世に存在しているのですか?」で話は終わりですね。
史実の大奥で男子禁制となっていたのは、以前にも述べたように、将軍以外の他の男性の精子が女性の卵子に入ってくる問題を事前に防止・抑止することを最大の目的としているわけです。
もちろん、「史実の」江島生島事件のごとく、不義密通が発生して大問題となる事例もありはするのですが、そういった問題の発生についても、大奥を管理することでゼロにはならずとも「限りなくゼロに近づける」ことは充分に可能です。
要は「リスク管理をきちんとすれば良い」という程度の話でしかないわけです。
そして、そのリスク管理と引き換えにすることで、男系は血統と家双方の存続を保証する後継者作りを、理論的には無制限に行うことが可能となるのです。
これが江戸時代当時の社会にとってどれほどまでの恩恵であるのかは、今更言うまでもありますまい。
そこまでの恩恵があるからこそ、リスク管理だってきちんと行われることになるわけで。
どうもこの辺りの吉宗の発言は、原発がもたらす利益と経済効果を無視して「とにかく原発は危ないから即時全廃すべきだ!」とがなり立てまくる脱原発な方々の思考発想にも通じるものがありますね(苦笑)。
危険があるのであればその危険を限りなくゼロに近づけられるリスク管理を行う、という程度の発想もないのでしょうかね、吉宗には。

それと、これは吉宗に限らず「大奥」世界全体に関わる話でもあるのですが、実は男系と女系の違いというのは、後継者確保の観点以上にもっと深刻な問題が存在します。
それは、「男系から女系に代わることは、血統の断絶・王朝の交代・家の乗っ取りを意味する」と見做されることです。
現実世界において実際に血統が男系から女系に代わった事例としては、18世紀に女帝マリア・テレジアが即位したオーストリア・ハプスブルク家が挙げられます。
マリア・テレジアの父親である神聖ローマ皇帝カール6世は、唯一誕生した男児が出生後1年で死去するなどして男子の後継者に恵まれず、長女のマリア・テレジアを後継者に据えざるをえなくなりました。
彼女はフランスのロレーヌ家、ドイツ名ではロートリンゲン家の当主だったフランツ・シュテファンと結婚し、1740年にハプスブルク家の領国と家督を継ぐこととなります。
彼女の即位はオーストリア継承戦争を誘発することになりましたが、最終的に彼女は対プロイセンを除き勝者となり、以後は彼女の夫や息子が神聖ローマ帝国およびオーストリア帝国の皇帝位を独占することになりました。
その結果、彼女はハプスブルク家最後の男系君主となり、以後のハプスブルク家はロートリンゲン家に取って代わられることになったのです。
家格的には当然のごとくハプスブルクの方が上なので「ハプスブルク=ロートリンゲン家」などと称してはいますが、男系血統の観点から見れば、これは本当のハプスブルク家などではなく、実はロートリンゲン家以外の何物でもないのです。
男系というのは「その家に属する父親」がいて初めて成立するものであり、それが女系に代わるというのは「家が乗っ取られる」ことを意味するのです。
「ハプスブルク=ロートリンゲン家」にしても、その実態は「ロートリンゲン家がハプスブルク家を自称しているだけ」でしかないのですから。
現代の日本でも、天皇家の皇位継承問題で女系を認めるか否かで大いに揉めている事例があるわけですが、これが揉める最大の理由もまた「女系を認めると天皇家が全く別の存在にすり替わってしまう」「日本の歴史上初の王朝交代に繋がってしまう」という懸念があるからです。
世界最古の王朝としての天皇家の存続および「万世一系」の観点から見れば、これが日本古来の伝統と格式を揺るがすものであることは誰の目にも明らかです。
現代でさえ、男系女系にはかくのごとき問題が存在するのですから、ましてや現代よりもはるかに「家」の存続を大事にする江戸時代の人間が、女系問題の恐ろしさを認識していないはずがないでしょう。
男系の血統が女系を認めるということは、つまるところ「自分の家を他人に乗っ取られても良い」と認めてしまうことと同義なのですから。
これから考えると、男系から女系への転換という男女逆転な社会システムの変革を実行してのけた「大奥」世界というものが、いかに愚かしいシロモノであるのかも分かろうというものです。
何しろ、「大奥」世界の人々がが男系から女系へと変わっていった最大の理由が、よりにもよって「家の存続のため」だというのですから。
自家の存続のために、どこの馬の骨ともしれない人間に自家を乗っ取られることを容認するなんて、当時の江戸時代の社会的慣習から見てさえも自殺行為以外の何物でもないのですが。
特に徳川家が男系から女系になるというのは致命傷もいいところで、下手をすれば「徳川を僭称する○○を討伐する」的な大義名分による大規模戦争が頻発する危険性すら多大なまでに存在しえたのです。
実際、女版家光より後に即位した徳川家の将軍達は、その全てが「徳川を僭称する全く別の何か」でしかないわけですし。
まあ、そんな男系女系の本質的な相違と問題点を本当に理解している人間がもし「大奥」世界にひとりでもいたのであれば、たとえいくら「赤面疱瘡」が猛威を振るっていたからといって、女子に家を相続させるなどという行為を社会システムとして容認する愚行などやらかすはずもないのですけどね。
「あの」春日局からして、女系の危険性を理解していたとは到底考えられないのですし。

吉宗の何故か奇妙に現代的な価値観に基づく見当ハズレな主義主張は、以下のような発言にもよく表れています↓

「何という事だ。男子が少ないのがこの国だけの事で外国は男が女と同じ数いると申すのなら、とても鎖国を解く事などできぬわ! 武芸を習っておった時も、紀州時代に戯れに力士を相撲を取った時も思うたことだったが……」
「力士はわざと私に負けよったが、あの剛力……。力自慢の女二人がかりでも敵うものではない。もし今開国したら、我が国はいとも容易く外国に攻め入られ、外国の属国となってしまうに違いない。開国をし、広く外国と交易を…などと思っていた私の考えの甘かった事よ…!!」
(コミック版「大奥」7巻P170~P171)

史実の江戸幕府は「鎖国」なんか一度も行ったことはない、というツッコミについては以前にも指摘済みなので二番煎じになるにしても、「鎖国を解いたら外国が攻めてくるから鎖国を解くことはできない」などと結論するとは驚きですね。
江戸幕府が他国と貿易をする際に、その窓口を長崎の出島に限定し、中国とオランダとのみの交易に専念することができた最大の理由は、17世紀前半当時の日本が世界有数の鉄砲保有国で当時のヨーロッパ諸国にも対抗しうるだけの軍事大国であったからです。
相手から交易を申し込まれてもこれを拒絶し、場合によっては力づくでも排除する姿勢を示すことが可能だったこと、これこそが「鎖国」こと海禁政策を江戸幕府が実現しえた真の原動力なのです。
現に、日本と同じような海禁政策を行っていた清王朝などは、19世紀にイギリスをはじめとするヨーロッパ諸国の圧倒的な武力の前に敗れ、無理矢理開国を強いられていたりします。
自国の意思がどうであろうと、相手国が圧倒的な武力を背景に砲艦外交を展開したり、実際に戦争に訴えたりすれば、否応なく、それも圧倒的に自国に不利な条件下で開国を余儀なくされることになるのです。
ならば「鎖国」で「赤面疱瘡」や男女比率の情報を外に出さないようにすれば……というのも、これまた以前にも述べたようにあまりにも機密保持という概念を知らなさすぎです。
機密というものは「その存在と内容を知っている人間が3桁もいたら隠すこと自体が不可能に近くなる」というのが基本中の基本というべきあり方なのであって、「赤面疱瘡」のような誰もが知っている情報を隠蔽するなど、全知全能の神でもない限りは絵空事の類でしかないでしょう。
ヨーロッパ諸国とて、本気で日本に攻め込みたいと考えるのであれば、国内情報を把握するためのスパイや工作員をいくらでも派遣して情報収集に努めるでしょうし、たとえ限定的であっても交易や交流があれば、それを介して全く情報が漏れないなど到底ありえないことです。
「鎖国」の方針を堅持していさえすれば「鎖国」が無条件で実現しえる、などと考えていたりする辺り、吉宗の発言は「『平和』という言葉を念仏のように唱えてさえいれば無条件に平和が実現する」と考える現代の日本国憲法9条教徒を髣髴とさせるものがありますね。
まあ、「赤面疱瘡」下の日本があまりにも異常な状況に置かれていることを認識でき、「赤面疱瘡」の根絶や男子に対する武芸の奨励などに努めた辺りは、そういった認識すら抱くことができなかった凡百の女性達よりも「相対的に」評価できる面はあるのでしょうけど。

しかしこうして見ると、コミック版「大奥」というのも現代的男女平等やヒューマニズムな価値観から全く脱却できていないのだなぁ、とつくづく感じずにはいられないですね。
そりゃまあ、いくら時代が江戸時代で大奥を舞台にしているとは言っても、現実の商売相手はあくまでも現代人なのですから、ある程度妥協しなければならない要素は当然あるのでしょうが、物語の根幹をなす世界設定や社会システムが現代的男女平等やヒューマニズムな価値観の引き写しでしかなく、当時の価値観とは全く相容れないものになってしまっているというのは正直どうなのかと。
以前からしばしば述べていることですが、いっそ男女逆転の詳細な変遷など全く描くことなく、恋姫無双などのように「最初から男女逆転していることが理屈抜きで当たり前になっている世界なのです」と開き直ってファンタジーに徹していた方が、却って設定面での穴は無くなったのではないかと思えてならないのですけどね。

次回の考察では、男性差別社会と化した「大奥」世界の歪んだ社会文化について検証してみたいと思います。

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第1話感想

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2012年10月12日より始まった、TBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回よりテレビドラマ版の終了まで、その流れと原作からの改変要素について追っていきたいと思います。
今回は10月12日放映分の記念すべき第1話の感想です。
なお、当ブログでは前作映画および原作版の「大奥」についても色々と書いております↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】

第1話のストーリーは、コミック版「大奥」2巻の最初からP107までの話をなぞったものとなっています。
後に「お万の方」となる有功が、本物の家光の代わりとして擁立された女版家光と出会うまでの物語です。
最初は前作映画「大奥」の続きで、徳川8代将軍吉宗が没日録を読み始めるところから始まるのではないかと予想していたのですが、それはなかったですね。
前作映画では「暴れん坊将軍」的な演出もあったわけですし、吉宗にも友情出演程度くらいの出番はあるかと考えていたのですが(^_^;;)。
内容を見る限りでは、これでもかと言わんばかりに原作のストーリーどころか描写までも忠実に再現している感がありましたね。
コミックを片手に作中の描写を比較してみても、登場人物がしゃべっているセリフも、その場その場におけるシーンでの姿勢などもほぼ同じでしたし。
原作と違うシーンと言えば、江戸城の屋敷に閉じ込められた有功と玉栄と明慧の3人が屋敷から一時的に脱走したことと、原作にはあったレイプやセックスの描写が軒並み省略されていたことくらいでしょうか。
まあ後者については、PG-12やR-15指定も可能な映画と異なり、テレビドラマではその手の描写を描きたくても描けない状態にあるのですから、当然と言えば当然の措置ではあるのでしょうけど。

配役を見てみると、個人的には春日局が原作よりも若く、かつ何か違う印象を受けましたね。
原作の春日局は髪が白髪なのですが、テレビドラマ版の春日局は黒髪で、それだけでかなり若いイメージが付きまといましたし。
一応春日局は、史実でも寛永20年9月14日(1643年10月26日)に死去しており、第1話終了時点(寛永17年(1640年)夏)で既に老齢かつ余命3年程度しかないのですから、ここは白髪でも良かったのではないかと思えてならなかったのですが。
登場人物の姿形はもちろんのこと、明慧が澤村伝右衛門に斬られる描写までそっくりそのまま再現しているほどだったのに、春日局だけ何故黒髪に変えてしまったのか、少々疑問なところではありますね。
ひょっとすると、後の話で白髪にして「老い」を表現するという演出でもするのかもしれませんが、それにしても「3年程度でそこまで変わるのか?」という違和感が伴わざるを得ないでしょうし。

ところで春日局と言えば、ラスト付近で原作には全くなかった面白い設定をのたまっていましたね。
曰く「御三家に男子がいない」と。
こんなことは原作の春日局は全く述べてなどいませんでしたし、テレビドラマ版同様に春日局に相談を持ちかけられた松平伊豆守信綱も、これまた春日局の「徳川の血を絶やさぬために……」云々のスローガンに対して「春日局が残したいのは徳川家の血というより、彼女が溺愛した家光公の血筋なのではないか?」という疑問を抱いています。
松平伊豆守信綱がこんな疑問を抱くのも、家光の血筋以外に徳川御三家やその他の傍流の「徳川家の血を引く存在」がいるからに他ならないからでしょう。
だからこそ私も、コミック版「大奥」検証考察2【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】で、件の春日局の対応の問題点を指摘していたわけですし。
では今回、改めて追加された「徳川御三家に男子はいない」は果たして正しいのか?
徳川御三家というのは、江戸幕府の開祖たる徳川家康の9男・10男・11男を始祖とする徳川分家のことを指します。
その始祖の生没年を調べるだけで、この春日局の発言が全くの大嘘であることがすぐに分かってしまうのです。
徳川御三家の始祖の生没年は以下の通り↓

尾張藩の尾張徳川家 始祖・徳川義直
 生誕 慶長5年11月28日(1601年1月2日)
 死没 慶安3年5月7日(1650年6月5日)
紀州藩の紀州徳川家 始祖・徳川頼宣
 生誕 慶長7年3月7日(1602年4月28日)
 死没 寛文11年1月10日(1671年2月19日)
水戸藩の水戸徳川家 始祖・徳川頼房
 生誕 慶長8年8月10日(1603年9月15日)
 死没 寛文元年7月29日(1661年8月23日)

1634年に家光が赤面疱瘡で死んだ時点では当然3者全てが生存しており、かつ彼らは全員家光よりも年上なので、彼らが赤面疱瘡を患う可能性は家光のそれよりもさらに低いと言わざるをえないでしょう。
特に水戸徳川家に至っては、その成立自体が1636年なので、それ以前の時点で始祖たる徳川頼房が死んでしまうと、下手すれば家の存在自体が歴史から消滅してしまうことにもなりかねません。
そして、徳川御三家が創設されたそもそもの目的が「宗家存続」にある以上、将軍位に何かがあった場合は自家の存続や相続よりもそちらが何よりも優先されなければならないのも自明の理というものです。
徳川御三家の始祖が生存している以上、最悪の場合は彼らの中の誰かが徳川将軍になりさえすれば良く、「徳川御三家に男子はいない」云々の発言は何ら成立することがないのです。
何故春日局は、こんなすぐに誰にでも分かるウソなんてついてしまったのですかねぇ。
徳川御三家のお家事情なんて、江戸城に参内する武士であれば誰でもすぐに分かる程度の情報でしかないでしょうに。
この辺りの設定、後日のエピソードでフォローされることがあったりするのでしょうかねぇ。
コミック版「大奥」でさえ、徳川御三家は家光の時代には全く言及すらされていないというのに。

設定面では1話目の段階で早くもミソがついてしまった感がありますが、「原作の忠実度」という点ではなかなかのものがあるのではないかと。
次回予告では有功が素振りをやっているシーン・白猫の若紫、それに玉栄が大奥の男衆に対して「殺してやる」と呟くシーンが出てきますが、ストーリー自体はどこまで進むことになるのやら。

コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】

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コミック版「大奥」検証考察の9回目。
前回の検証考察から既に1年以上も経過してしまいましたが、「大奥」のコミック版も7巻と8巻が刊行され、さらにはテレビドラマ版も放映され続編映画も公開されるとのことで、この度久々に再開の運びとなりました。
なお当ブログでは、2012年10月12日から始まるテレビドラマ版「大奥 有功・家光篇」、および2012年末公開の映画版「大奥 右衛門佐・綱吉篇」も追跡していく予定です。
今回のテーマは【大奥システム的にありえない江島生島事件】
過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】

病弱のために極めて短期間の治世で終わった徳川7代将軍家継の時代、江戸城の大奥を舞台に「江島生島事件」というスキャンダルが発生しています。
この事件は、家継の「生母」である月光院に仕え、地位的にも御年寄という高い身分にあった江島が、主君の名代として前将軍家宣の墓参りをした帰途に、芝居小屋・山村座の芝居を観覧し、その宴会に夢中になるあまりに大奥の門限に遅れてしまい、江戸城の城門で押し問答になってしまったことに端を発したものです。
事件の背景には、純粋に大奥の規律の緩みの他、江戸城内における将軍世継ぎを巡る後継者問題や権力闘争なども絡んでいたとの説がありますが、この事件を通じて当の江島は流罪、および密通を疑われた山村座の生島が遠島処分となった他、山村座や大奥の関係者50名近くが罰せられることになりました。
またこの事件の影響で、家継の「生母」として権勢を誇っていた月光院の勢力が弱まり、前将軍家宣の正室・天英院の勢力が力を盛り返して、その後の次代将軍選定にも少なからぬ影響を与えることとなります。

コミック版「大奥」の世界でも、まるで当然の流れであるかのごとく江島生島事件が発生しており、かつ多少の脚色はあれど史実と同様の結末に至っています。
しかし、史実はまだしも、男女逆転した「大奥」世界においては、実のところ江島生島事件の発生する余地自体が全くないに等しいんですよね。
史実の江島生島事件で問題になったのは、大奥を管理する立場にあるものが密会した、とすくなくともそう解釈される事態になったことにあります。
ところが「大奥」世界においては、そもそも婚姻制度が崩壊してしまっているため、「不倫」「姦通」「重婚」「寝取り」その他ありとあらゆる不道徳な行為が大手を振ってまかり通っているのです。
カネで男を買って種付けセックスをすることが普通に認められている世界で、現代的な価値観に基づいた男女の倫理観が常識となっていることの方が、そもそもおかしなことなのではないのでしょうか?

「大奥」のシステム的な面から見てさえも、江島生島事件が成立しなければならない理由などどこにもありはしません。
そもそも、史実における「大奥」というシステムが成立しえた最大の理由は、将軍の子供を孕める女性を大量に提供することで、世継ぎを可能な限り確保しえることにあります。
そして、「大奥」における規則の大部分は、機械的な言い方をすれば、将軍以外の他の男性の精子が「大奥」の構成員たる女性の卵子に入ってくる問題を事前に防止・抑止することに、その最大の存在意義が認められるわけです。
しかし、男女が逆転した「大奥」世界においては、将軍自身が世継ぎを生むという構造上、いくら「大奥」の男性が不義を働こうが、将軍家の血筋以外の者が生まれてくる余地など最初からどこにもないのですから、男性が品行方正に振る舞わなければならない理由自体がありません。
むしろ、作中でも「金喰い虫」扱いされている大奥は、男達自ら外に出て女性相手に「性の奉仕」でもしてカネを稼いでもらった方が経済的にも恩恵がある上、日本の人口増加の一助にもなって一石二鳥というものでしょう。
しかも過去の「大奥」世界では、実際にそのような政策を行った前例も既に存在しています。
コミック版「大奥」4巻、時の徳川3代将軍家光(女版)の時代に、大奥の男性を解雇させた上で吉原へと送り込み、貧しい女性達を相手に安価で「性の奉仕」をさせた事例があるのです。
この制度がその後どうなったのかについてはコミック版「大奥」にも全く記述がありませんが、吉原への大奥男性の供給が滞ると、その瞬間から女版家光が懸念する「売春費用」が高騰する危険性がある上、そもそも赤面疱瘡が無くならない限りは男性不足の問題が解消することもないわけですから、この制度は後年も存続し続けている可能性が濃厚です。
将軍、ひいては江戸の中央行政自らがこういった政策を積極的に推進している前例が既に存在する以上、江戸時代に跳梁跋扈していた祖法至上主義的な前例踏襲の観点から言ってさえも、大奥の男性が外に出て自らの「性」を売り、カネを稼ぐことを推奨してはならない理由など、世界の果てまで探しても存在しえないのです。
「大奥」世界における大奥は、女版家光の個人的な癇癪と逆恨みの類から生まれた以外の何物でもない「ご内証の方は死ななければならない」などという愚劣な決まり事すらバカ正直に継承してきたくらいに、硬直しきった官僚機構的組織でしかないのですよ?
同じ女版家光が「大奥を活用した男性売春業」を推進している作中事実があるのに、「大奥の男性は清廉潔白でなければならない」などという「祖法を変革する」法体系を、女版家光以外の一体誰が決めたというのでしょうか?
せめて、江戸城の門限破りがメインテーマで、融通が利かないコチコチの法体系で江島達が裁かれるというのであれば、まだ「江島生島事件」が発生しえる理由としては成立しなくもなかったのですが、作中では門限破り自体が単なる難癖の類で「密会」の方こそがメインとして扱われている始末ですからねぇ。
婚姻制度が崩壊した「大奥」世界では悪行ですらない「密会」程度のことで、何故あそこまで大がかりなスキャンダルにならなければならないのか、全くもって理解に苦しむ珍現象と言わざるをえません。

それでもあえて無理にでも「江島生島事件」が発生しえる理由を「大奥」世界に求めるとすれば、それは現代におけるかつての野党時代の民主党にヒントが求められるのではないでしょうか?
野党時代の民主党は、とにかく自民党政権のアラとなれば何でも探しまくり、どんな細かいこと・どうでも良いことであっても声高に非難の声を上げ、大臣の辞任を要求し、それを受け入れなければ審議拒否、受け入れればやはり新たな難癖をつけてやはり審議拒否といった行為を繰り返してきました。
極めつけは、「カップラーメンの値段を間違えた」だの「漢字の読みを間違えた」だの「ボールペンのキャップを口にくわえた」だのといった類の、通常ならばゴシップ記事にもならなさそうな出来事に至るまで、非難の口実として自民党政権を罵り倒し続けました。
そして、そうした難癖の数々を、マスコミの偏向報道によって国民も熱狂的に支持した挙句、ついに2009年の政権交代にまで至ったわけです。
これと全く同じ構図が、「大奥」世界における江島生島事件にも当てはまるのではないでしょうか?
すなわち、誰もがそれは常識の類であると分かってはいるものの、非難の大合唱とそれに伴って発生した「空気」によって、誰も異論が差し挟めない状態となってしまい、それどころか「空気に乗り遅れまい」とむしろ熱狂的なまでに江島生島事件を大事化させていった、というわけです。
もちろん、民主党絡みの騒動自体もそうであるように、天英院や加納久通などといった事件の黒幕達は、全てを承知の上での確信犯でことを進めていったのでしょうけど。
そう考えると、あの事件で右往左往している「大奥」の登場人物達は、実に滑稽かつ哀れな様相を呈しているとしか言いようがないでしょうね。
誰もがごく普通にやっていることについて声高に非難の雄叫びを上げ、常に自分に跳ね返ってくるブーメランを投げまくっていることになるのですから(苦笑)。
まあ、「大奥」世界における日本人達の全般的な思考水準がこの程度でしかないというのであれば、あんなありえない男女逆転な「大奥」世界が生まれるのもある意味納得せざるをえないのですが(爆)。
かくのごとく、婚姻制度が崩壊している「大奥」世界においては、江島生島事件など民主党の「カップラーメン値段当てクイズ」と同レベル以下のシロモノでしかありえないわけですよ。
いくら権力闘争の一環とはいえ、よくもまあこんな事件を引き起こして政敵を蹴落とそうと、天英院や加納久通らは考えられたものですね。
あまりにもバカらしいから逆に成功する可能性が高い、という勝算でも立てていたのかもしれませんが、本当に成功してしまって彼らもさぞかしバカ笑いが止まらなかったことでしょうね。
ひょっとすると、「こんな頭の悪いバカな事件で盛大に右往左往する日本の将来は本当に大丈夫なのだろうか?」と逆に危機感を抱いたかもしれませんが(爆)。

史実における江島生島事件は、現代に比べれば緩い性規範が支配的だったであろう江戸時代とはいえ、それでもまだ「不義密通は悪いこと」という常識や倫理観があったことは確実ですから、ましてや舞台が江戸城大奥ともなれば一大スキャンダルとして成立するのも当然のことでしょう。
しかし、婚姻制度が崩壊し、不義密通が当たり前になってしまっている「大奥」世界においては、江島生島事件における不義密通の疑惑など「日常生活の一部」を構成するごく普通の出来事でしかありえません。
「大奥」世界における社会的文化から考えても、江戸城大奥のシステム的な観点から見ても、江島生島事件は「事件として成立する方が奇妙奇天烈な事案」でしかないのです。
作品的には、男女逆転した大奥を描きつつ史実の江戸時代の歴史をそのままなぞるというコンセプト上、江島生島事件を避けて通ることはできなかったのでしょうが、自分の作り出した世界と江島生島事件が完全に相反するものになってしまっているという事実を、作者氏は気づくことができなかったのでしょうかねぇ。

いよいよ10回目となる次回は、コミック1巻で没日録を読み始めてからようやく現実に戻ってきた、徳川8代将軍吉宗の問題について取り上げていきたいと思います。

テレビドラマ「踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件」感想

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2012年9月1日にフジテレビ系列で放映された、「踊る大捜査線」シリーズの3作目映画「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」と9月7日より公開の4作目映画「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」の間を繋ぐテレビドラマ「踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件」を観賞しました。
実質的には、4作目映画の前日譚といったところになるでしょうか。
4作目映画は、今回のテレビドラマを観賞していないと理解できないエピソードがひょっとすると盛り込まれているかもしれない懸念もあり、まあとりあえずは見ておこうかということになったわけですね。
この手の手法は、「SP 革命篇」「SPEC~天~」などでも既に前例があることでもありますし。
こういうのって、視聴率稼ぎ兼映画の広報の一石二鳥を目的としたテレビ局側の戦略の一環ではあるのでしょうが、正直あざといかなぁという気はしなくもないですねぇ(-_-;;)。

物語冒頭は、青島俊作達湾岸署の面々が、小学生を相手に交通マナーの講習を行っているところから始まります。
講習の内容は、歩行者が赤信号を無視した際に車に撥ねられたり、右側通行をしている自転車が対向してきた自転車との衝突を避けようとしてやはり車に撥ねられたりといったシーンを演出することで、子供達に交通マナーを守ろうと教えるというものでした。
しかし、車に撥ねられるシーンを大々的に演出しようとするあまり、火薬を過剰に使用したり、片輪走行を続けた車が横転して本当の大惨事になってしまったりと、結果は見事に大失敗。
この顛末は、講習を受けた学校から湾岸署へ抗議がいくことになります。
湾岸署では、それまで署長だったスリーアミーゴスのひとり神田総一朗に代わり、キャリアとしての経歴と交渉人(ネゴシエーター)としての実績?から真下正義が、3作目映画のラストから署長に就任しています。
署長としての真下は、刑事課課長に出世した魚住二郎と、スリーアミーゴスの一員である袴田健吾と一緒に「新スリーアミーゴス」のような3人組で行動するのが常でした。
まあこの組み合わせは、物語中盤頃に残りのスリーアミーゴスの登場と共に一部入れ替わることになるのですが。
真下は冒頭で繰り広げられた交通安全教室の不祥事の件で、責任者である青島を詰問しようとするのですが、事あるごとに邪魔が入って延々と手間取った末にようやく始末書を書くよう命じられるありさま。
そんな中、港区台場1丁目で強盗傷害事件が発生したとの署内放送が流れ、青島達は現場へ急行することに。
被害者へ事情聴取をする中、「本庁捜査一課の者」を名乗る男が現れ、後はこちらの管轄だから青島達に退去するよう指示を出します。
その後色々とゴタゴタやっていて少し目を離した隙に、その男は姿を消してしまい、しかも事件現場に立ち入り規制をするために張られていた黄色いテープまでもがいつの間にか無くなっていました。
男は警察の備品を狙う窃盗犯だったわけですね。
しかもその後、「本庁捜査一課の者」を自称する男は湾岸署にも現れ、署内の備品を色々と物色していく始末。
湾岸署の面々が男の行動に不審を抱く中、中国人民警察の中国人刑事で湾岸署へ研修にやってきていた青島の部下の王明才の結婚式が2日後の日曜日に執り行われることが、真下によって発表されます。
事件を半ばそっちのけにして、湾岸署は祝賀ムード一色で盛り上がることになるのですが……。

テレビドラマ「踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件」では、複数の小さな事件が同時並行する形でストーリーが進行していきます。
一応、警察が総出で対応に当たる大きな事件も後半で出ては来るのですが、それでも映画版に比べると小粒な感は否めないところですし。
個人的に笑えたのは、署長となった真下の一派とスリーアミーゴスの絡みですね。
半ばお笑いユニットと化している感のあるスリーアミーゴスもなかなかの小物ぶりを披露していましたが、真下は性格からして「上に立つ人間」にふさわしいものではなく、特に青島らにはあまり強く出られない様を何度も見せつけていました。
その真下が、ことスリーアミーゴスの面々に関しては妙に強気に出て、派閥争いモドキな喧嘩を繰り広げる様子は、大いに笑えるものがありました。
退職していた神田・秋山の2人が指導員として現場に復帰し、真下の派閥から天下り先の確保を餌に袴田を引き抜いて元来のスリーアミーゴスを完全に復活させると、真下も負けじと2人の傘下に入っていた中西修を、将来の刑事課長の地位を提示して引き抜いたりと、なかなかどうして低次元な抗争を繰り広げています。
真下って、以前に「踊る大捜査線」のスピンオフ作品「交渉人 真下正義」では主役を張っていたほどの人物だったはずなのに、今やすっかりお笑いキャラに成り下がってしまったのですねぇ(笑)。
結婚詐欺事件で捜査本部が設置されることが決定した際も、捜査本部の垂れ幕を巡って争っていたりしますし。
この実質2組のスリーアミーゴス抗争、4作目映画でも披露されることになるのでしょうか?

物語後半でメインとなる国際的な結婚詐欺事件は、以前に話題となった結婚詐欺&練炭自殺偽装事件と硫化水素自殺ブーム?をミックスしたものでしょうね。
特に前者の殺人事件は、練炭が硫化水素に変わっただけで手口がほとんど「まんま」でしたし。
ただ、青島も含む湾岸署の男性の多くが同じ犯人に騙されてカネを取られるって、犯人のシン・スヒョンってどれだけの男を相手にしていたのやら。
挙句の果てに、王明才の結婚式の相手までもが同一人物だったというのは、正直話の都合にしても出来過ぎなような気はしなくもないですね。
短期間で結婚詐欺を含めた詐欺行為をやり過ぎでしょうに(苦笑)。
元々結婚詐欺というのは、相手からの信用を得るだけでも相応の時間がかかるものですし、成功すれば少なからぬカネが手に入るものなのですから、短期間で複数以上の男性を相手取らなければならない理由自体もないのではないかと。
そんなに簡単に足がつきそうな詐欺行為を乱発しまくって、シン・スヒョンは一体何がしたかったのかと。
自殺行為以外の何物でもなかったのではないかと思えてならないのですけどね。

物語を最初から最後まで見た限りでは、4作目映画に繋がりそうなネタは以下のようなもの挙げられるでしょうか。

1.室井との結婚話が提示された後、恩田すみれの携帯電話に誰かから電話がかかってきて、体の様子を聞かれたり、相手からの質問に対して「すぐには決められない」と返答するなど深刻な調子で応対していること(親からの電話と考えられるが……)。

2.シン・スヒョンが逮捕された後、恩田すみれが室井に対し「警察を辞めるから結婚は考えていない」と告白するシーン。

3.同じくシン・スヒョン逮捕後、室井が国際犯罪指定捜査室に入るという出世話を蹴ってしまったこと。

4.鳥飼が青島と室井の双方に悪感情をむき出しにしていること。

これらの伏線が4作目映画においてどのような形で反映されることになるのか、答えは9月7日の劇場公開で明らかになる、といったところでしょうか。
ネタ自体は、別に今作を見ていなくても特に支障はなさそうではありましたが。
ちなみに、室井が物語のラストで呟いた「へばなすたっちゃ」というのは東北(秋田)弁で「それがどうした、だからどうした」という意味なのだそうです。
この辺りは、秋田出身で東北大学卒という室井ならではの発言ですね。

今回のテレビドラマ版「踊る大捜査線」は、視聴率21.3%という数字を叩き出すほどの盛況ぶりだったみたいですね。
まさに「踊る大捜査線」の人気の根強さを伺わせるものがありますが、昨今の韓流問題や不祥事の連発などで凋落の一途を辿っているフジテレビ的にも、さぞかしありがたい番組だったことでしょう(苦笑)。
「踊る大捜査線」シリーズ完結編となる映画「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」は、私も映画館で観賞する予定です。

映画版「大奥」2作目の追加キャスティング発表

2012年10月からのテレビドラマ放映を経て年末に劇場公開される、よしながふみ原作マンガ「大奥」の映画版2作目の追加キャスティングが発表されました↓

http://www.cinematoday.jp/page/N0044467
>  [シネマトゥデイ映画ニュース] 堺雅人と菅野美穂が初共演する、人気マンガの映画版第2作『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』の出演陣が追加発表され、尾野真千子、柄本佑、要潤、宮藤官九郎、西田敏行ら豪華キャストの参加が明らかとなった。また同時に劇中ビジュアルも公開された。
>
>  謎の疫病で男女の立場が逆転した大奥が舞台となる本作。続編では多部未華子が3代将軍・家光を演じるテレビドラマと菅野美穂が5代将軍・綱吉を演じる映画が製作され、両方で堺雅人が主演を務めることも話題となっている。堺はドラマと映画で、正反対の性格の一人二役に挑戦。映画では野望を胸に綱吉に巧みに取り入る右衛門佐(えもんのすけ)にふんしており、ビジュアルでも冷徹な眼差しのクールな表情を見せている。
>
>  その右衛門佐と愛憎渦巻く派閥争いを繰り広げる男衆には、豪華キャストが集結。これまで
大河ドラマなどで徳川将軍を演じてきた西田が、綱吉の父・桂昌院として大奥側の人物にふんするほか、原作者に「この人以外に浮かばない」といわしめたエピソードを持つ要が綱吉の側室・伝兵衛を演じる。また二人の対抗派閥である綱吉の正室信平役には宮藤。「木更津キャッツアイ」シリーズで、脚本家として組んできた金子文紀監督とのタッグも見ものだ。
>
>  さらに本作の語り部となり、観客を作品世界に引き込む重要な役・秋元を演じるのは柄本。また女性キャストとして「カーネーション」の好演も記憶に新しい尾野が出演。綱吉の御側用人で、綱吉に愛ともとれる感情を持つ柳沢吉保を演じるということで、菅野をめぐる堺とのバトルにも期待できそうだ。
>
>  そのほか、綱吉との夜伽を命じられる若手として桐山漣、竜星涼、永江祐貴、郭智博、満島真之介、三浦貴大らイケメン俳優たちも出演。プロデューサーである荒木美也子がファーストインプレッションを抱いた役者が勢ぞろいしたというキャスト陣。1作目に負けず劣らずの個性的な面々による、まさに豪華絢爛(けんらん)な共演に、10月オンエア予定のドラマ版ともども期待が高まる。(編集部・入倉功一)
>
> 映画『大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]』は12月22日より全国公開
> テレビドラマ「大奥~誕生~[有功・家光篇]」は10月クールにTBS系列にてオンエア

ざっと見た限りでも、それなりの大物が出演していることが分かりますね。
芸能界については人並み以下に疎い私でさえ名前を知っている西田敏行が出るというだけでも、何となく察しはつきますし(苦笑)。
ただ、制作陣やキャスト面で気合が入っているのはわかるのですが、テレビドラマ版の視聴率および続編映画の興行収益的には果たしてどうなるのでしょうかねぇ。
原作の雰囲気や前作映画を見ても、ハリウッド映画ばりの派手なアクションシーンの類は当然全く存在しないでしょうし、前作映画のようなオリジナルな決闘シーンなどを入れるにしても、派手さよりも舞台演技的なものを演出する方向になるでしょうし。
TBSにしてみれば、久しく途絶えていた時代劇物を放映&劇場公開することになるわけですから、何としても成功させたいところではあるのでしょうけど、果たして一般受けするものになりえるのかは正直疑問がつきないですね。
まあ、昨今のテレビは若年層を切り捨てて高齢者&主婦層に迎合した番組作りに精を出しているようですし、地上波による久々の時代劇となれば、その手の層には受けるものになるかもしれませんが……。
年末公開予定の続編映画の方も、間違いなく「原作読了済みか、または1作目映画&テレビドラマ全て視聴済み」が前提の作品となるでしょうし、やはりテレビドラマの出来が趨勢を左右することになるのではないかと。
私も、1作目映画および原作コミック全て読了しているわけですし、テレビドラマ版&続編映画「大奥」の動向は最後まで注目していきたいところではありますね。

男女逆転「大奥」の続編がTVドラマ&映画で制作決定

すっかり見逃していましたが、2010年に劇場公開された男女逆転「大奥」の続編製作が決定したそうですね。
原作の2巻~4巻に当たる「有功・家光篇」がTBS系列のTVドラマとして2012年10月から、ドラマ終了後の12月に、原作の4巻終盤~6巻前半頃までの物語となる「右衛門佐・綱吉篇」が劇場公開になる予定とのことです↓

http://megalodon.jp/2012-0123-1746-26/www.cinematoday.jp/page/N0038526
>  [シネマトゥデイ映画ニュース] 2010年に公開された映画『大奥』の続編が、映画とテレビドラマで製作されることが発表され、その両方で堺雅人が主演を務めることが明らかになった。原作2~4巻にあたるテレビドラマ「大奥[有功・家光篇]」では多部未華子が3代将軍・家光を、同4~6巻にあたる映画『大奥[右衛門佐・綱吉篇]』では菅野美穂が5代将軍・綱吉を演じる。堺が、多部、菅野と共演するのは今回が初めてだ。
>
>  2004年に連載開始されたよしながふみの原作は、謎の疫病により男女の立場が逆転した江戸時代の大奥を舞台にしたマンガ。二宮和也と柴咲コウが共演した映画第1作では、8代将軍・吉宗の時代を描き、興収23億円というヒットを記録した。待望の続編で描くのは、第1作以前の時代だ。テレビドラマが10月よりTBS系列で放送された後、12月22日より映画版が公開という一大プロジェクトになる。
>
>  ドラマ版では汚れなき心を持つ院主・有功(ありこと)、そして映画版では胸に野望を秘めた、有功にうり二つの男・右衛門佐(えもんのすけ)という一人二役に挑戦する堺は「大河ドラマに参加するときのような、意気込みと緊張感で臨みたいと思っています」とコメントすると、大奥総取締役という役柄に掛けて、「華やかな世界ですが、あくまでも裏方。いい作品になるよう、(将軍役の)お二人を支えながら粉骨砕身力の限りを尽くす所存です」と明かしている。
>
>  その堺に「運命を見据えた、強いまなざし」と評されたドラマ版の多部は、初の女将軍という役どころについて「大きなプロジェクトで重要な役柄を担うことに、とても緊張していますし、不安でいっぱいです」と語れば、「かなしげな、悩ましい吐息」と評された映画版の菅野も「まさか自分が、将軍の役をやらせていただく機会があるなんて、夢にも思いませんでした」と驚きを隠せない。
>
>  現在、すでに衣装合わせは終わったといい、菅野は「将軍の葛藤(かっとう)、孤独、やり切れない運命を、そして、生きている人間だからこそのどうにもならない弱さ、愚かさを、エンターテインメントとして演じられたら良いなと思います」と意気込んでいる。前作に続き、監督は金子文紀が務める。(編集部・福田麗)

あの男女逆転「大奥」の映画版1作目は、それ単体で自己完結するように出来ており、かつ続編を匂わせる描写も全くなかったので、続編が出るかどうかは正直微妙なところではあったんですよね。
特に映画となると、「有功・家光篇」にせよ「右衛門佐・綱吉篇」にせよ、1作目の「水野・吉宗篇」よりもはるかに長い話になりますから、かなりエピソードや途中経過を端折って一種の「ダイジェスト」的なものにでもしないと、せいぜい2時間前後くらいしかない上映時間枠内にはとても収められないという問題もありましたし。
何よりも、延々と江戸城内における政治的駆け引きや陰湿な人間模様ばかり描かれることもあって、映画を盛り上げる派手なアクションやSFX的な描写がまるでないときていますからねぇ。
映画版1作目も、原作にない夜中の決闘の描写を無理矢理に挿入していたくらいなのですから。
そういった条件を鑑みると、続編を制作するならば映画よりもTVドラマの方がはるかに向いていることは確かで、その点では妥当な選択と言えるでしょうか。

しかし、右衛門佐に「有功とうり2つの男」などという設定なんてありましたっけ?
一応、同じ京の出身で、かつ自分のところ挨拶にやってきた右衛門佐の姿に桂昌院が有功の面影を見たという描写はあるのですが、直後に桂昌院は「奴と有功様は似ても似つかない」などと全否定に走っていますし、それ以前にコミック版における両者の顔はそれほど「似ている」という感じでもなかったのですが。
有功と右衛門佐双方と面識があった村瀬とかいう「大奥」の歴史書「没日録」を綴っていた老人も、右衛門佐が有功そっくりとは全く述べていないのですし。
原作で明確に「有功とうり2つの男」と謳われているのは、徳川4代将軍家綱の父親となった「お楽の方」こと捨蔵であって、右衛門佐ではないはずなのですが。
映画&TVドラマ版のオリジナル設定なのでしょうかね、これって。

ちなみに私は、男女逆転「大奥」について映画感想以外にもこれだけの記事を書いていたりするのですが↓

実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】

今回の映画&TVドラマ化で、これら私が提起した問題点の中の何かが補完・解消される、ということが果たして起こりえるでしょうか?
個人的には、作中における女性の男性蔑視思想が醸成されていく過程がきちんと描かれれば、結構面白い上級シャーロキアン的な設定補完になるのではないかと思うのですけど。
健康的な男性が働こうとするのを「赤面疱瘡」の名の下に意図的かつ強引に「押し込め」てしまったり、幼い男子に無理矢理「ジェンダーフリー教育」モドキな女性化教育を施して男性的な要素を取り除こうとしたりとか、そういった「女性による組織的な男性の去勢化」が普通に横行しているような世界でもなければ、そもそも「男女逆転」なんて発生のしようもないのですからねぇ。
目先の女性受けと視聴率狙いに狂っている上に思想自体も左がかっている昨今のテレビ局であれば、鼻に付きまくる女性至上主義的な描写を乱発することで案外簡単に実現してしまいそうな気もしなくはないのですが(苦笑)。

金曜ロードショー「ANOTHER GANTZ」感想

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2011年4月22日に放送された、映画「GANTZ」、および4月23日から公開予定の映画「GANTZ:PERFECT ANSWER」を繋ぐもうひとつのストーリー「ANOTHER GANTZ」を観賞しました。
映画「GANTZ」に登場した人物達が抱える裏の事情や、続編の「GANTZ:PERFECT ANSWER」に繋がる前身・伏線話を盛り込んだアナザーストーリーです。

「ANOTHER GANTZ」は、映画「GANTZ」の内容をダイジェスト的に紹介しつつ、原作にも登場するというルポライター・菊地誠一の視点を中心で物語が進行していきます。
作中では田中星人との戦いで死んだ西丈一郎、あばれんぼう星人・おこりんぼう星人・千手観音・巨大大仏との戦いで加藤に告白し生命を落とした岸本恵、最後まで生き残った鈴木良一のエピソードが語られています。
彼らに取材を試みつつ、黒い球ガンツの真相に迫っていくルポライター・菊地誠一ですが、その最中に黒い服を着た男達に襲撃され、物語終盤では黒服に眉間を撃たれ、そのまま帰らぬ人となってしまいます。
物語序盤で死亡フラグらしき誰かとの語らいが展開されてはいましたが、原作について書かれているWikipediaの記述を読む限りではキーマンとして結構長いこと生きていたらしいので、ここで死ぬというのは驚きでしたね。

作中で語られていた人物エピソードのうち、西丈一郎については、Wikipediaの記述を読む限りで、高校で集団イジメを受けていたり、同じ学校の女子生徒に告白されていたりと、かなり原作の設定をベースにしている感がありましたね。
さすがに、「ラブレターを出した女子生徒を除き、クラスメイトを全員惨殺した」というエピソードだけは省略されていたようですが(苦笑)。
「ANOTHER GANTZ」の映画「GANTZ」ダイジェストシーンでは、PG-12指定を受けていた映画版における残虐シーンは全てカットして紹介されており、たとえば身体が血飛沫と共に飛び散るシーンなどは一切入っていなかったんですよね。
TV放送されるとなれば、やはりその辺りの「規制」は厳しくならざるをえないのでしょうね。

岸本恵の場合は、自身が死ぬことになる戦いの直前における、告白を決意する過程が描かれています。
本人はほとんど何もしゃべっていませんでしたし、ただひたすら行動で心情風景を表現するということに徹していました。
そして、映画「GANTZ」で最後まで生き残り、物語当初は「さえない上に存在感のない中年」だったのが妙に貫禄のある御仁に変貌した感のある鈴木良一のエピソードでは、死に別れた妻の遺影に対し、「お前を生き返らせる」と語りかけるシーンが描写されています。
原作はともかく映画版「GANTZ」では、星人を倒して100点を獲得すると「好きな人を生き返らせる」ことができるらしいので、ガンツメンバーと全く関係のない人も蘇らせられるのではないか、とすくなくとも鈴木良一は考えているようで。

ガンツを追跡していく重田正光、謎の集団のリーダー格らしい黒服、さらには映画「GANTZ」最後の戦いで死んだはずの加藤が何故か生きているなど、続編となる映画「GANTZ:PERFECT ANSWER」へと繋がることになるであろう重要な伏線も出てきています。
これが「GANTZ:PERFECT ANSWER」でどう反映することになるのか、映画本編のお楽しみといったところですね。
もちろん私も、映画「GANTZ:PERFECT ANSWER」は映画館へ観に行く予定です。

コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】

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今回でとりあえず一区切りとなるコミック版「大奥」検証考察の8回目。
暫定的な最終検証となる今回のテーマは【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】についての考察となります。
過去の「大奥」に関する記事はこちら↓

映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】

コミック版「大奥」の世界では、作中の登場人物達が「道ならぬ近親相姦な人間関係」を構築している様子が描かれています。
徳川5代将軍綱吉の時代に大奥の重要幹部となる秋本惣次郎は、実の妹との間に子供を作っていますし、6代将軍家宣の側室で7代将軍家継の父親となる左京(後の月光院)は、実の母親に性交を迫られ2児の子供を儲けていたりしています。
「大奥」世界でも、近親相姦については社会的にも公認されてはいないようで、近親相姦の事実は子供にすら伝えない当事者だけの秘密、ということになるのが常だったようです。
しかしよくよく考えてみれば、元々「大奥」世界では、男女問わず不特定多数の異性と性交を行うことが身分の関係なく常習化しているわけで、近親相姦だけがことさらタブー視されるのも変な話です。
「婚姻制度が崩壊している」と作中でも謳われている「大奥」世界では、近親相姦のみならず「不倫」「姦通」「重婚」「離婚の濫用」その他ありとあらゆる不道徳な行為が社会的に蔓延していたとしても何ら不思議ではないどころか、むしろそうならないとおかしいものですらあるはずです。
婚姻制度の崩壊。
それは「【あの】赤面疱瘡」すらもはるかに凌ぐ、最強最悪なまでの社会的害毒になりえるのです。

婚姻制度の崩壊が社会に何をもたらすのか?
この良くいえば気宇壮大、悪く言えば恐ろしくキチガイな社会実験を、バカ正直かつ忠実にやってのけた国がかつてこの世界に実在しました。
それは、20世紀前半に君臨したレーニン・スターリン統治下のソ連です。
1917年にロシア革命で成立したソビエト共産党&ソ連政府は、政権を運営するに当たって様々な抵抗に遭遇しました。
ソ連政府はその原因が家族・学校・教会にあると考え、自分達に都合の良い社会システムを構築するため、これらを「旧秩序の要塞・伝統文化の砦」と見做し、様々な攻撃を行うようになります。
ニコラス・S・ティマシエフの「ロシアにおける家族廃止の試み」という論文によると、その攻撃は以下のような形で行われました↓

1.従来、「法律婚の要件とされていた教会での結婚式を不要とし、役所での登録だけで婚姻の効力が生ずるものとした。
2.離婚の要件を緩和し、当事者合意の場合はもちろん、一方の請求だけでも裁判所はこれを認めることとした。
3.犯罪であった近親相姦、重婚、姦通を刑法から削除した。
4.堕胎は国立病院で認定された医師の所へ行けば可能となり、医師は希望者には中絶手術に応じなければならないことになった。
5.子供たちは、親の権威よりも共産主義のほうが重要であり、親が反動的態度に出たときは共産主義精神で弾劾せよ、と教えられた。
6.1926年には、「非登録婚」も「登録婚」と法的に変わらないとする新法が制定された。
7.これらの結果により、同居・同一家計・第三者の前での結合宣言・相互扶助と子供の共同教育のうちの一つでも充足すれば、国家はそれを結婚とみなさなければならないこととなった。 これにより「重婚」が合法化され、死亡した夫の財産を登録妻と非登録妻とで分け合うことになった。

これらはまさに婚姻制度を崩壊させ、家族・学校・教会を解体する政策であり、その結果、確かにソ連政府が意図した通りに「旧秩序の要塞・伝統文化の砦」の力は著しく弱められました。
しかしその結果、思いもよらない副作用がソ連全土を襲ったのです↓

1.堕胎と離婚の濫用(1934年の離婚率は37%)の結果、出生率が急減した。それは共産主義国家にとって労働力と兵力の確保を脅かすものとなった。

2.家族・親子関係が弱まった結果、少年非行が急増した。1935年にはソ連の新聞は愚連隊の増加に関する報道や非難で埋まった。彼らは勤労者の住居に侵入し、掠奪し、破壊し、抵抗者は殺戮した。汽車のなかで猥褻な歌を歌い続け、終わるまで乗客を降ろさなかった。学校は授業をさぼった生徒たちに包囲され、先生は殴られ、女性たちは襲われた。

3.性の自由化と女性の解放という壮大なスローガンは、強者と乱暴者を助け、弱者と内気な者を痛めつけることになった。何百万の少女たちの生活がドン・ファンに破壊され、何百万の子供たちが両親の揃った家庭を知らないことになった。

このあまりな惨状には、さすがのソ連政府も根を上げてしまいました。
1934年頃から、これらの結婚制度の破壊および家族・学校・教会の解体政策が、社会の安定と国家の防衛を脅かすものと認識され始めるようになります。
そして今度は一転、結婚や家族の維持が共産主義の基本的なモラルとして称揚されるようになり、また離婚・堕胎の大幅な制限・非登録婚制度の廃止・多産奨励・親の権威の復活などといった方向へ法改正が行われていきました。
かくして、この壮大な社会実験は「完全無欠な大失敗」という悲惨な結果を残して幕を下ろしたのです。

このソ連が「実際に」試みた結婚制度の廃止&家族破壊の実例を鑑みれば、「大奥」世界で事も無げに言われている「婚姻制度の崩壊」という社会現象がいかに凄まじい害悪を生み出すことになるかがお分かり頂けるでしょう。
レーニン・スターリン統治下における当時のソ連は、大量粛清や戦争で自国民を数千万単位のオーダーで平然と虐殺した前科を持つフダ付きの超問題国家です。
ところがそのソ連でさえ、結婚制度の廃止&家族破壊がもたらす社会的弊害には耐えることができず、20年も経たないうちに方針転換を余儀なくされているのです。
これから考えれば、数百万単位の男性人口を奪った「赤面疱瘡」の脅威をすらはるかに上回る社会的害毒を、婚姻制度の崩壊は潜在的に保持していると言っても過言ではないのです。

では、婚姻制度の崩壊は「大奥」世界に一体どのような害悪をもたらすのでしょうか?
まず、「堕胎と離婚の濫用」は当然のように発生します。
「大奥」1巻に登場し、後に徳川8代将軍吉宗付の御中臈になった杉下は、14歳の頃から親によって毎晩売春行為を強要され、18歳で他家に婿へ行ったかと思えば、5年間子供ができないという理由から食事もロクに与えられることなく離縁させられた過去を持っています。
また江戸時代は、一般的には悪名高い「天下の悪法」とされている「生類憐れみの令」の保護対象の中に「人間の乳幼児」が含まれていたことからも分かるように、乳幼児に対する遺棄も数多く行われていた時代でもあります。
史実でさえそういう事情があるところへ、さらに「家族・親子関係が弱まった」という要素が加わるのですから、堕胎・乳幼児遺棄の大量発生は必至というものでしょう。

さらに生き残った子供の大部分も、婚姻制度の崩壊および「赤面疱瘡」の猛威のために「両親の揃った家庭を知らない」わけですから、親の保護を受けることなく犯罪に巻き込まれたり「少年非行が急増」したりする可能性も飛躍的に増大することになります。
そして、「両親の揃った家庭を知らない」子供達や、特に親から売春行為を強要された男子達は、家庭が持つプラスの要素を何ひとつ知ることなく育つわけですから、マトモな家庭を持ち、子供を育てようとする意識もロクに育まれないことになります。
それは当然、「出生率が急減」という結果を招来することになり、江戸時代における乳幼児の死亡率5~7割という高確率も相まって、長期的には「赤面疱瘡」の被害をもはるかに凌ぐ人口激減が発生する事態まで起こりえるのです。
現代日本並、下手すればそれ以下の出生率の中で乳幼児死亡率5~7割、男子に限っては9割以上、という事態が起こると考えれば、これがいかに恐ろしい社会問題になりえるかがお分かり頂けるのではないでしょうか。

かのソ連ですら20年足らずで軌道修正せざるをえなかった政策を、「大奥」世界は何と80年以上も続けているのですから、その社会的害毒は計り知れないものにまでなっていることでしょう。
徳川8代将軍吉宗の時代における当時の日本の人口は、史実だと約3000万人~3100万人ですが、「大奥」世界のそれは500万人に達していればかなり多い部類に入るのではないでしょうか?

そしてさらに滑稽なのは、これほどまでの社会的害毒が発生しているにもかかわらず、「大奥」世界における登場人物のほとんど全てが「これが問題である」という問題意識すら寸毫たりとも抱いていないことです。
そもそも「婚姻制度の崩壊」自体、徳川3代将軍家光の時代に「赤面疱瘡」の大流行にパニくった当時の男連中が、一夫多妻制というもっとも安全確実な道があったにもかかわらず、それを跳ね除けて女性を家の跡取りにしようとする際に「ついでに」導入されたという意味不明な経緯があったりしますからね。
家を存続させるために、家族制度を完全に破壊する「婚姻制度の崩壊」を伴う社会システムを導入するというのですから、その滑稽極まりない愚劣な選択にはもう笑うしかありませんね。
しかも「大奥」4巻P69では「大名の半数近くが女性であった武家社会から、男性はさらに減り続けてゆくのである」とあり、男女比率が徳川8代将軍吉宗の時代まで一貫して1:4であることから、女性人口は男性人口の4倍ものスピードで減少し続けていることが一目瞭然なのです。
男女問わず、これほどまでの人口激減が発生しているにもかかわらず、そして女性の人口激減に「赤面疱瘡」は全く関わっていないにもかかわらず、「大奥」世界の誰ひとりとしてこのことを問題視している形跡すらもありません。
問題意識のないところに改革は起こりえません。
「赤面疱瘡」の問題を改善しただけではすでにどうにもならなくなっている社会的病理が、誰にも気づかれないまま、着実に「大奥」世界を蝕みつつあるのです。

さて、これまで8回にわたって連載されたコミック版「大奥」検証考察シリーズも、既存6巻までで思い浮かんだ検証テーマについては、今回でとりあえず一巡することとなりました。
コミック版「大奥」が完結ないしは打ち切りになるまで、この検証考察シリーズは続けていく予定ですが、続きは7巻が刊行されて以降に再開したいと思います。

コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】

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コミック版「大奥」検証考察7回目。
今回の検証テーマは 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
過去の「大奥」に関する記事はこちら↓

映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】

コミック版「大奥」の世界を見てみると、そこでは女性の男性に対する異常なまでの偏見や差別が横行していることが分かります。
たとえば、徳川3代将軍家光が死去してまもなく「慶安の変」という事件が勃発しています。
「慶安の変」というのは、家光時代に行われた多数の減封・改易によって浪人の身に追いやられ、再仕官の道も閉ざされた武士達の救済を目的に、当時の軍学者だった由井正雪をはじめとする一派が引き起こした討幕未遂事件のことを指します。
その内容は、風の強い日を選んで江戸の町に火を放ちつつ、小石川の幕府火薬庫を爆破して混乱を発生させ、それに乗じて老中や旗本を討ち取り江戸城を占拠、さらに駿府・大坂・京都でも反乱を起こし、最終的に幕府を転覆させるというものでした。
この計画は結局、決行直前に密告者によって幕府側に露見してしまい、決行前に由井正雪一派が幕府によって一網打尽にされるという形で未遂に終わります。
この事件の反省から、幕府は改易を減らすために末期養子の禁を緩和したり、浪人の採用を奨励したりするなど浪人対策に力を入れるようになり、それまでの減封・改易を乱発してきた武断政治から、法律や学問によって世を治める文治主義に移行していくことになります。

コミック版「大奥」の世界でも「慶安の変」は同じように発生しています。
しかもその構成員は「史実同様に」全員男性であり、さらに彼らは「自分達に仕官の口を与えない」と幕府に対する不満と怒りを抱いています。
……この時点ですでにおかしな話なのですが、何故男性が激減しているはずの「大奥」世界で、浪人の「男性」が仕官に苦しむなどという事態が発生しているのでしょうか?
「赤面疱瘡」の蔓延によって男性が激減しているこの世界では、男性は身分を問わず喉から手が出るほど欲しい存在であるはずですし、「慶安の変」当時はまだ女性相続が一時的な措置に過ぎないという認識が強かった時代です。
この当時であれば男性相続にこだわる武家も少なくはなかったでしょうし、お家相続に幕府の認可を必要とする大名家はともかく、それ以外の武家であれば「養子」を取るのにすくなくとも幕府の認可は必要としません(代わりに直接の主君である大名の許可が必要にはなりますが)。
職を失った浪人達と、家の存続のために男性を求める武家。
需要と供給は見事に一致しているわけですし、互いの利害から両者の間で普通に「取引」が成立しそうなものなのですけどね。
皮肉なことに、「赤面疱瘡」で男性人口が激減しているが故に、却って史実ではありえないはずのこういう抜け道が成立してしまったりもするわけです。

しかし現実には、「慶安の変」を画策していた男性達は「史実同様の」不満を並べて討幕を画策していますし、また「慶安の変」鎮定後の事後処理における幕閣達の会話でも、巷に浪人が溢れかえっていることが明示されています。
一体何故、経済の論理から考えても妥当な抜け道が「大奥」世界では成立しえないのか?
その答えは、「慶安の変」後の事後処理に当たっていた幕閣のひとりである酒井忠清(もちろん女性)の発言に表れているのではないでしょうか↓

(「慶安の変」の計画内容を聞いた後)
「ですから、浪人の男どもは皆、江戸から追い出すべきなのです!」
「大体ひとところに男どもがうじゃうじゃと集まって密談をしている図なぞ考えただけでもああおぞましや」
(コミック版「大奥」4巻P67)

……そりゃこんな男性に対する差別・偏見の類が女性社会で大手を振ってまかり通っていたら、武家が浪人達を養子に迎えようとしても、家の中で実質的な権力を握っている女性に反対されることは必至でしょうし、「男性の」浪人が社会に溢れて謀反を画策するのも必然というものでしょう。
この酒井忠清のような女性が決して少数派などでないことは、後の徳川5代将軍綱吉が「遠き戦国の血なまぐさい気風」として【男性そのもの】を断罪した挙句、武家の男性存続禁止令を出したことや、それに対する社会的な不満や悪評が全く出てこなかったこと、そして何よりもたった6年弱しか続かなかったはずの男性存続禁止令がその短期間で慣習化されてしまった作中事実からも窺い知ることができます。
特に元禄赤穂事件で仇として討ち取られる羽目になった吉良上野介義央などは、今際の際でさえ「浅野内匠頭や大石内蔵助が女であればこんなことにはならなかった」などと心の中で嘆いたりする始末でしたし。
コミック版「大奥」の世界は、家の存続や社会的安定などよりもはるかに重要と見做されるレベルの男性差別が存在する社会である、と言えるのではないでしょうか。

また、「赤面疱瘡」の大流行で男性が激減したからといって、男性が子作り以外の仕事を担わなくなった理由も理解に苦しむものがあります。
確かに「赤面疱瘡」は伝染性も致死性の高い病気ではありますが、病気を患う主な年齢層は12~17歳までと極めて限定的です。
もちろん、稀にそれ以上の年齢の男性でも「赤面疱瘡」にかかる場合があることは明示されていますが、それもほとんどの場合は軽い症状で済むということもまた、作中キャラクターによって示されています。
そしてこれが一番重要なことなのですが、「大奥」世界における人間は、このような「赤面疱瘡」の特性を身分の別を問わず誰もが知っているのです。
そこまで正確な知識が社会的に周知されているのであれば、「赤面疱瘡」を患う危険が高い時期だけ社会的に隔離した上で、その後は以前の時代と同じように社会で働かせる、という選択肢がない方がおかしいでしょう。
20歳以上の男性に対してまで、患う可能性が著しく低い「赤面疱瘡」で死なせることを恐れて子作りに専念させなければならない理由がありません。
しかも「大奥」世界においても、カネをもらって子作りを行う行為は「賤業」同然の扱いを受けているのです。
大部分の男性、それも「赤面疱瘡」の脅威が薄れている年配の男性までもが、何故「賤業」という仕事に唯々諾々と従事しなければならないのか?
そこにも私は、「大奥」世界における社会的な男性差別・偏見の意図を感じずにはいられないのですが。

「大奥」世界における男性の地位が低いのは、「赤面疱瘡」そのものが原因なのではなく、「赤面疱瘡」を口実に男性を押さえつけ、自身の権力および社会的地位を確保・維持しようとする女性側の意図と、それを後押しする社会的な政策があったからではないのか?
コミック版「大奥」を読む限り、そういう仮説でも立てないと作中世界の支離滅裂な慣習や作中キャラクターの意味不明な言動の説明などやりようがないのですが、果たして作者本人的にはどんな意図でもって作中世界を構築していたのやら。

さて、コミック版「大奥」検証考察シリーズも、次の回でとりあえず一区切りをつける予定です。
一区切り、というのは、一応次の回で既存6巻までに出てきた検証テーマが一巡するので、そこから先の検証考察は次の巻が出るまでやりようがない、というのが実情なものでして(^^;;)。
コミック版「大奥」検証考察シリーズ自体は、コミック版「大奥」が完結するまで続けたいと考えているのですけどね。
そんなわけで、一応の一区切りとなる次回8回目の検証考察は、「赤面疱瘡」以上に「大奥」世界を蝕む真の社会的病巣について論じてみたいと思います。

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