福島第1原発の放射能漏れ事故を受けて、原発を危険視し排除しようとする風潮が世界的に蔓延しています。
私が住む九州でも、つい先日に九州電力が、玄海原子力発電所の2号機と3号機の再稼動を延期し、場合によっては電力不足に陥るので計画停電の可能性があることを発表したばかりです。
この発表自体、九州電力の「今原発を再稼動して非難の矢面に立ちたくない」「ほとぼりが冷めた時に再開しよう」的自己保身な思惑が見え隠れしているのですが、そもそも現状、原発を止めることに将来的な展望というものを果たして見出すことができるのでしょうか?
こと原発の依存率が少なくない日本のような国の場合、代替エネルギーの開発と実用化なしに原発を廃止すると、国力及び国民生活の水準を低下させるというデメリットが少なくありません。
現時点では、電力を安価に大量&安定供給できる発電方法は原子力だけです。
現状で原子力と並ぶ電力の大量安定供給の要となっているのは火力発電ですが、火力発電には発電コストと環境への影響、それにエネルギー安全保障の面で問題を抱えています。
コスト面で原子力発電と火力発電を比較すると、同じ100kW(キロワット)の発電所を1年間運転するのに、原子力発電がウラン21トンで済むのに対し、火力発電は石油で146万トン、天然ガス(LNG)で93万トン、石炭で221万トンもの燃料を必要とするのです。
これらの購入・輸送・貯蔵にかかるコストと手間は、原子力発電のそれをはるかに凌駕しますし、それは当然、電気料金として一般庶民に跳ね返ってくることになります。
また火力発電は他の発電方法に比べて非常に多くの二酸化炭素を排出しており、環境に対する負荷が最も大きいとされています。
さらには主要な燃料となる石油や天然ガスの安定供給が輸入先の国情および相場価格の変動に左右されるという問題を抱えています。
資源小国である日本のエネルギー安全保障の観点から言っても、火力発電への依存が賢明な選択であるとはとても言えたものではありません。
では他の発電方法はどうなのか?
まず、水力と地熱については、環境への負荷がバカになりません。
水力発電にはダム式発電と水路式発電がありますが、ダム式発電は山間の町や村その他自然を軒並み潰して建設しなければならず、水路式発電の方は、取水口から下流側の流量が少なくなることから河川としての機能や生態系を破壊するリスクが伴います。
地熱発電は、建設時におけるボーリング作業による騒音・熱水と蒸気の採取による地盤沈下・土砂流出による河川および温泉の水質汚濁と土壌汚染と、こちらも公害の問題が無視できません。
温泉を売りにしている観光地が隣接している場合は景観や温泉に悪い影響を与えることも多いとされており、建設反対運動が盛り上がることもしばしばです。
これらの環境負荷および犠牲となる対象住民への補償問題が絡むこともあり、建設コストが飛躍的に大きなものになります。
特に地熱発電は、発電コストが一番高い発電方法としても有名です。
地元住民の犠牲の元に成り立ち、かつ反対運動と常に対峙しなければならない、という点において、水力発電と地熱発電は多大な問題を抱えています。
自然でクリーンなエネルギーの代表格とされる風力発電と太陽光発電。
しかしこの2つは、天候によって発電できるエネルギーが著しく左右されてしまい、電力の安定供給に向かないという問題が存在します。
風の強弱や晴れ曇りで発電量が左右され、場合によっては発電量不足で停電が発生する、というのでは、使用側としても安心できたものではないでしょう。
加えて風力発電の場合は、風車のブレードに鳥が巻き込まれて死んでしまうバードストライクや、風車の回転音による騒音・低周波の公害問題もあります。
また両者共に、現段階では発電できる電力自体も決して多いとは言えず、大電力を作るためには膨大な面積の土地を必要とします。
さらにこれは風力・太陽光のみならず自然エネルギーを利用する発電全てに言えることなのですが、発電設備自体の安全対策とメンテナンスにかかる費用と手間が商業面で大きな負担になっていることも大きな課題です。
確かに将来性が高い発電方法とは言えるのですが、さらなる発電効率の向上と安定化、そして発電設備自体の耐久性および軽量・コンパクト化が今後も求められ続けることになるでしょう。
かくのごとく、原子力発電と火力発電以外の自然エネルギーについても、環境に対する多大な負荷があったり、大量発電&安定供給に適していなかったり、コストパフォーマンスが割に合わなかったりと問題が少なくなく、解決すべき技術的な課題がまだまだ山積しているのが実情です。
もちろん、自然エネルギーを使った発電システムの技術的な改良・発展は、日進月歩の速さで現在も進行されています。
たとえば風力発電のバードストライク・低周波問題の対策としては、以下のような5枚羽の風車がすでに販売されているそうで↓
スパイラルマグナス風車
http://www.mecaro.jp/product.html
また、洋上での風力発電基地を行い、水素燃料の抽出と漁業養殖を行うという構想もあり↓
次世代カーボンファイバーで洋上風力発電基地を!
http://ameblo.jp/ghostripon/entry-10291984643.html
さらに神戸大学では、高効率ジャイロ式波力発電システムが商品実用化に向けて動いているようで↓
波力発電「実用化にめど」 すさみでの08年度実験終了
http://www.agara.co.jp/modules/dailynews/article.php?storyid=165013
こういった自然エネルギーの研究開発の流れは、今回の東日本大震災およびそれに伴う原発問題・電力不足の事情も手伝って、今後ますます加速することになるであろうことは間違いありません。
そして、将来的には自然エネルギーの開発がさらに進み、いずれは原発に代わるクリーンな代替エネルギーとして脚光を浴びることになる日も来るでしょうし、その時初めて「原発の全廃」を現実的な議題として掲げることも可能となるでしょう。
しかし現時点では、コストパフォーマンス・大量発電・安定供給・環境への影響を全て含めた総合評価で原発に勝る発電はないと言って良く、短所も含めて原発と付き合わざるをえないのです。
今最も避けなければならないのは、原発の危険性を針小棒大かつネガティブに煽り立てる偏向報道に踊らされ、九州電力のごとく、代替案もなしに一時の感情で原発を排除しようとすることです。
計画停電が行われている今の関東地方の現状を鑑みれば、「自粛」ムードと同様に「無駄」とされる娯楽が「節電自粛」の名の下に抑制され、交通システムの混乱や工場の操業停止などが頻発するのは明らかです。
それに対する不安と萎縮は確実に経済規模の縮小と大不況を到来させるものでしかなく、百害あって一利なしの愚行でしかありません。
福島第1原発の事故ばかりがクローズアップされていますが、東北にある他の原発が、地震の際に安全に停止したことはもっと評価されても良いはずです。
地震と津波の規模から考えれば、被害に遭った全ての稼動中の原発が福島第1と同じかそれ以上の惨状に陥ったとしても不思議はなかったわけですし。
特に宮城県牡鹿郡女川町と石巻市にまたがる女川原発は、震源が近く、また福島第1と同じく地震と津波のダブルアタックに晒されながら、主要施設への被害は微少で済み、今では地元民の避難所として活用されるという頑強ぶりです。
原発設計の段階から地震&津波対策が考慮された立地だったことが幸いした、とのことですが↓
http://megalodon.jp/2011-0325-1037-11/sankei.jp.msn.com/affairs/news/110324/dst11032422350077-n1.htm
http://megalodon.jp/2011-0325-1459-24/sankei.jp.msn.com/affairs/news/110324/dst11032422350077-n2.htm
福島第1と女川、天と地ほどに異なる結果を招いた2つの原発は、原発がきちんと安全に管理することができること、しかしその安全管理を怠れば大惨事を招くという手痛い教訓にして今後の対策に生かすべき実例なのです。
原発が危険だというのであれば、ただただ「危険だ危険だ」と喚きたてて問題から目を背け排除するのではなく、悲観的に危機を想定して何重にも対策を練り、いざ危機が迫った際には楽観的に対処していく、ということが求められるのではないかと思うのですけどね。
原発を過度に危険視したり、逆に絶対安全だと妄信したりせず、危険と安全の両面について正確な知識を持ち、代替エネルギーの開発に全力を注ぎながら、危機管理と事故対策を常に強化し続けること。
それが、すくなくとも代替エネルギーが商用実用化されるその日までの当面の間、原発と付き合っていかなければならない我々が、同じことを二度と繰り返さないように実行していくべき事なのではないでしょうか。