様々な物議を醸していた東京都青少年健全育成条例改正案が、都議会本会議で可決、成立しました。
来年7月までに施行されるとのこと。
http://megalodon.jp/2010-1215-1759-59/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101215-00000634-yom-soci
この条例は、規制対象の定義が曖昧で拡大解釈が可能なことから、過剰な自主規制をはじめとする出版業界の萎縮や言論統制に繋がるという指摘が数多く行われています。
2010年11月に東京都議会に提出された東京都青少年健全育成条例改正案の条文は以下のPDFファイルにまとめられているのですが↓
http://yama-ben.cocolog-nifty.com/20101122seishounenjourei.pdf
ここで問題となっているのは、東京都青少年健全育成条例の第7条「図書類等の販売及び興行の自主規制」、第8条「不健全な図書類等の指定」、第9条「表示図書類の販売等の制限」の適用範囲に、以下の項目が追加されることです。
漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
まず、何故「実写を除く」という文言が入っているのかが意味不明です。
「青少年の健全な成長」を促したいのであれば、実際に被害者もいる「実写」をまず規制すべきであるはずなのに、それが最初から対象外になっています。
現実より空想を優先的に裁くかのごとき条文になっているのが、この条例に多大な反発が集まる大きな理由でしょう。
次に、この条文では「漫画、アニメーションその他の画像」内における「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為」に該当する表現それ自体を無条件に規制する内容となっています。
たとえば「ドラえもんにおけるしずかちゃんの全裸シーン」などは、作品内では一種のギャグとして描かれているもので、「青少年の性」を意識したものでは全然ないのですが、この条例では問答無用で規制の対象とされます。
また、少女マンガ等でよく描かれる同性愛・ボーイズラブな描写や、キスシーンなどが描かれている男女間の恋愛物を扱った作品も規制の対象たりえます。
さらには、たとえ不倫や売春を「悪」として糾弾するという主旨の作品であっても、その中で不倫や売春の描写を少しでも入れようものならば、その表現自体が「違法」とされて即座に規制されることになります。
こんなのが「青少年の健全な成長」とやらを助けるシロモノになるとは到底思えないのですけどね。
そして一番問題なのが、この条例における規制にするか否かについての判断基準が、東京都の恣意によっていくらでも左右されてしまうということ。
上で挙げた規制対象となりえる描写は、東京都が「規制する」といえば規制の対象となり、「規制の対象外」とすれば放置される、といった得手勝手な御都合主義が可能なのです。
これでは東京都の意向によっていくらでも拡大解釈が可能ですし、場合によっては出版社その他企業を脅したり、「袖の下」を要求したりするための道具として使用される危険性すら存在します。
そうでなくても、言論・思想の自由を規制する法律は、本来は共産主義者のみを規制するための法律だったはずの戦前の治安維持法が、いつのまにか宗教や右翼団体や自由主義者に対する弾圧にまで適用されていった例を見れば分かるように、とかく拡大解釈が付き纏うシロモノです。
また、法規制の適用を警戒するあまり、出版社その他企業側の方で法規制以上の自主規制が行われる可能性は極めて高く、またその弊害も大変大きなものがあります。
何故こんな問題だらけの条例をわざわざ通さなければならないのか、理解に苦しむものがありますね。
ところで、この東京都青少年健全育成条例改正案については、我らが田中芳樹が一体どのような態度を取ることになるかが注目されます。
かつての田中芳樹には、「マンガ読んでなかったら小説書く方には進んでなかった」と発言していたり、蔵書にマンガが1000冊以上あることが紹介されていたりと、とにかくマンガ愛好家であることを告白している過去がありますから、それだけを見ると今回の条例にも普通に反対しているように思われます。
しかし、同時に田中芳樹は薬師寺シリーズ8巻「水妖日にご用心」にて、自身の過去の発言を棚に上げて麻生太郎氏のことを「マンガしか読んでない人」などと罵倒していた前科もあり、マンガに対するスタンスが昔と異なっている可能性も完全には否定できないんですよね。
まあ、今回の条例は田中芳樹がさぞかし大嫌いであろう石原慎太郎東京都知事が鳴り物入りで推進していたという経緯もありますし、マンガに対する思い入れよりもむしろそちらに対する悪感情から反対を絶叫しそうな気もするのですが(苦笑)。
次の薬師寺シリーズ最新刊辺りでまたしても登場することになるのでしょうかねぇ>東京都知事。