鉄道のターミナル駅といえば、鉄道をはじめとする交通の要衝にして街の経済活動の中心地であり、また人&物の移動と情報の発信基地として大都市機能の中核を担う場所、というのが普通一般的なあり方です。
ところが、九州第3の都市にして人口73万人(2010年5月時点)を誇る熊本市、ひいては熊本県における鉄道交通の中心的存在であるはずの熊本駅は、その常識が全く適用されない稀有な駅だったりします。
熊本市の中心は熊本駅周辺ではなく、そこから2~3㎞も離れた熊本城の周囲、特に通町筋および上通り・下通り・サンロード新市街のアーケード街一帯。
熊本市の公共交通最大の要となっているのもこれまた熊本駅ではなく、熊本城近くにあるバスターミナルの熊本交通センター。
鉄道のターミナル駅は、交通の利便性や効率性などの理由からバスターミナルの機能をも兼ね備えているのが普通なのですが、熊本の場合は両者の機能が切り離されています。
熊本のように鉄道とバスのターミナルが別々に存在するという形態は、全国的にも非常に珍しいのではないでしょうか。
熊本駅のお寒い実態は、1日当たりの利用乗車人数にもはっきりと表れています。
熊本駅の2009年度1日当たりの利用乗車人数は1万人を割り込んでおり、九州7県の県庁所在地におけるターミナル駅では下から2番目、人口が一番少ない佐賀駅よりも下となります(ちなみに最下位は宮崎駅)。
JR九州駅の中では上位10位内にすらランクインされておらず、私鉄を含めればさらに順位は下落します。
その一方、バスターミナルである熊本交通センターの1日当たりの利用者数が熊本駅の実に4倍以上にも達することを考えれば、熊本駅がその都市の規模と比較して如何に貧弱な駅であるかがお分かり頂けるでしょう。
熊本駅がこれほどまでに寂れまくっている最大の理由はその立地にあります。
熊本市の人口は熊本市の中心地から東部・北部に偏って集中しているのに対し、熊本駅があるのは熊本市西部の外れ。
熊本市の人口の大多数を占める北部・東部の住民にとって、熊本駅は中心地への通勤通学や買い物などには全く利用することができませんし、県外への移動に活用しようにも、駅に行くだけで時間と手間がかかってしまう「僻地」にあるわけです。
加えて、熊本では高速道路のインターチェンジ(熊本IC・植木IC・益城熊本空港IC・御船IC)が熊本市の人口密集地帯である東部方面一帯に集中しており利便性が高く、さらに空の玄関口である阿蘇くまもと空港も、熊本市の東にある上益城郡益城町に存在します。
駅の交通の便が悪い一方で他の交通機関は使いやすい場所にある、となれば、駅の利用率が下がるのも自然な流れというものでしょう。
しかも熊本駅は、その立地している場所自体にも大きな問題があります。
熊本駅は東に白川が、西に花岡山がほとんど目と鼻の先に位置しており、両者に挟まれた狭い敷地面積では大規模開発が行いにくく、よって駅前の商業集積が全く進んでいない状態にあるのです。
こと熊本駅周辺だけに限定すると、熊本市よりもはるかに小規模な他都市と比べてさえも「未開発な田舎」に見えてしまうのもこのためです。
さすがに熊本市もこれは問題と考えてはいるようで、熊本駅周辺の再開発計画を色々と立ち上げてはいるようなのですが、なかなか計画通りには進まない状態です。
来年の2011年3月にはいよいよ九州新幹線が全線開業され、熊本駅でも新幹線の乗り入れが可能となります。
熊本駅から新幹線に乗れるようになり、速やかな長距離移動ができるようになれば、それを利用する人も当然多数出てくるわけで、熊本駅周辺の地域活性化にも期待が寄せられます。
ただ、熊本駅の立地条件そのものは全然変わらないわけですし、熊本の住民にとって熊本駅まで行くための交通の便が悪すぎることもこれまた相変わらずだったりするんですよね(-_-;;)。
たとえば、「九州新幹線が全線開業すると熊本駅から博多駅までの移動時間が35分になる」と熊本ではよく喧伝されるのですが、現行でも高速道路を使えば熊本ICから福岡ICまで1時間弱もあれば行けますし、逆に熊本駅自体に行くまでの時間が30分~1時間以上かかる、という問題も健在のままです。
もちろん、福岡よりも距離が大きく離れている上に高速を飛ばしても3時間以上はかかる南の鹿児島市や、博多駅よりさらに先の本州にまで足を伸ばすのであればそれなりの需要は見込めるでしょうが、距離が長くなり過ぎれば今度は熊本駅よりは利便性の良い場所にある阿蘇くまもと空港を利用した方が時間的にも良い、ということになってしまうわけです。
熊本県民のひとりとしては、鉄道の玄関口である熊本駅には是非とも発展して欲しいと願いたいものなのですが、今の状況では何とも難しい話でしょうねぇ(T_T)。