自称SF作家の「サーラの冒険」シリーズ書評 後編
- 2010/07/29 00:00
- カテゴリー:「と学会」ウォッチング, 山本弘
前回に引き続き「サーラの冒険」シリーズについて。
今回は4巻から10年近くも放置されていた5巻と6巻および外伝についての感想と全体総括です。
さすがに10年以上も放置されていただけあって、過去4巻とは文体や特徴が変わっていますね。
特に大きく変わったと思うのは、作品におけるメインシナリオ部分を構成する後半部分に入るまでがとにかく長く、かつ退屈に感じられるようになったこと。
プロローグから一気にメインシナリオまで行けば良いのに、あちこち寄り道しまくっているような描写がとにかく多いんですよね。
作中キャラクターの設定を掘り下げて色々と詰め込んでいるようなのですが、本筋と全く関係ないエピソードも少なくなく、「いつになったら本筋の話が始まるんだ」とイライラさせられます。
また、6巻では敵の本拠地を襲撃するにあたり作戦会議が開かれるのですが、ここで敵の全容を長い説明とページを割いて全て説明し尽くしています。
ストーリー的には、確かに作戦会議や敵に関する説明は当然行われるべきものでしょう。
しかし小説を読む読者の視点から見たら、そんなある意味退屈な話は、実際に敵に遭遇した際に「こんな説明が会議の際に行われていた」的な描写のひとつも入れれば事足りることでしかありません。
そもそも未登場かつ未知の敵について一気に説明されてしまうと、読者的には「敵の正体を知っていく過程を追う」楽しみを大きく殺がれてしまいますし、また敵の戦闘シーンが発生する毎に「この敵はどんな奴だったっけ?」と前のページをいちいち確認しなければならないなどの余計な手間も発生してしまいます。
「戦慄のミレニアム」と同じ図式で、「そんなのを【読者に】説明するのは後でも良いから早く話を進めてくれ」とウンザリさせられました。
あと、3巻の「少女レイプ」ネタにも言えることなのですけど、全体的にエロネタが多いですね。
特に主人公のサーラとヒロインのデルは、物語終了時点でさえ14歳前後であるにもかかわらず、「他所の男(女)と寝た」的な会話を互いに堂々と交わしているくらいですし。
主義主張は年相応に青臭くて世間知らずな潔癖症的な正義感に満ちているのに、エロに関してはそこらの大人よりも抵抗感がないというのはかなりアンバランスなような…。
「戦慄のミレニアム」と「サーラの冒険」を読んでみて何となく見えてきた自称SF作家の問題点は、「起承転結」の「起」と「承」が上手く書けていない、ということですね。
「転」と「結」については出来が悪いわけではなく、それなりに内容も考えられていて「読者を納得させる」構図になっているのですが、そこに至るまでの「起」と「承」が無意味に長い上に本筋からの脱線も多く、しかもウンチクだけで全ての設定を無理矢理に説明しようとするスタンスが目立つために「読者が入口で閉口し立ち往生する」シロモノになってしまっているんですよね。
これから考えると、山本弘の小説は「作者&作品のことを全く知らない新規読者に作品を手に取らせ読ませ作品世界に惹きこむ」ことをロクに考慮していないシロモノであると言えます。
何でも良いからまずはとにかく読者の関心を惹かなければ、小説の内容がどれだけ良くても「そもそも読んでもらえない」というのにねぇ。
しかし、では山本弘が以上のような問題点を是正できるのか、と問われれば、それは到底無理な話であると断定せざるをえないんですよね(笑)。
周知のように山本弘は、アルマゲ論争でも散々主張していたように「読者による脳内補完」というものを全否定するというスタンスを頑ななまでに堅持しています。
となると、山本弘が執筆する作品の設定は、「読者による脳内補完」など一切出てくる余地がないように、作者自身が何から何まで一切合財全てキッチリ書き綴らなければならず、それがあの長々としたウンチク&脱線エピソードの大量生産という弊害を生み出しているのです。
簡単に言えば、山本弘は「評論を書く手法で小説を執筆している」わけですね。
他人の著書を嘲笑う「と学会会長」を本職とする山本弘にとって、その執筆スタンスを否定することは、「と学会会長」としての地位および活動をも全否定する一種の自殺行為に他なりません。
すくなくとも山本弘的には、たかだか片手間な副業に過ぎない自称SF作家業ごときのために本職を犠牲にしてまでやるべきことではないことでしょう(爆)。
それにしても、山本弘は「サーラの冒険」4巻と5巻の空白期間となる10年もの間、一体どこで何をしていたというのでしょうか?
田中芳樹ばりに遅筆な作品執筆スタイルを気取ったところで、作品が売れるわけでもないでしょうに(苦笑)。
やはり、自称SF作家業よりも「と学会会長」の方がカネになる、という「志の低い」理由でも根底にあるのでしょうかね?