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2010年10月01日の記事は以下のとおりです。

映画「大奥」感想&疑問

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映画「大奥」観に行ってきました。
男女逆転の江戸時代を舞台に繰り広げられる男性版「大奥」を巡る物語。
ちょうど映画の日ということもあり、今回は金曜日の映画観賞となりました。

この作品は当然のことながらアクションやSFX系の映画などではなく、私の好みとなる映画のジャンルからは大きく外れるものでした。
それを承知の上であえてこの映画を観に行ったのは、ひとつにはこの映画のテーマのひとつである「男女逆転」がどのような歴史的背景の元、どのような過程を経て成立しえたのか、という命題に興味を抱いたからです。
作中では徳川幕府第3代将軍家光の時代に、男性にしか発症しない、真っ赤な発疹が全身に広がり高熱を発して死んでいく「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」という原因不明の奇病が日本中で爆発的に蔓延したことにより、男性の人口が女性の4分の1以下になったことが明示されています。
この病の致死率は80%、つまり「5人にひとりしか助からない」という設定です。
この結果、人口で女性の占める割合が圧倒的となったことにより男女逆転が発生し、男性が一種の「種馬」として珍重される女系社会へと変わっていった、とされているわけです。

しかし、ここで大きな疑問が出てきます。
まず、「赤面疱瘡」という奇病は、作中の舞台となっている第7代将軍家継~第8代将軍吉宗の時代に至るまで治療法が全く確立されていないということ。
そして「赤面疱瘡」は、その時代に至っても相変わらず猛威を振るい続けており、それによって男性の多くが昔ほどではないにせよ死に至っている状態にあることが作中でも明示されているのです。
致死率80%の病気が80年以上にわたって猛威を振るい続ける、という設定では、「男女逆転」どころか、下手をすれば「男性絶滅」などという事態にすら至っても何ら不思議なことではありません。
しかも作中では、「赤面疱瘡」の患者に対する隔離政策すらもあまり行われていないようで、男性版「吉原」で「赤面疱瘡」を患っている十代の少年が主人と思しき人間から仕事を言い渡されて街中へと向かう描写が普通に描かれていました。
また一方、数少ない男性達にも特に「赤面疱瘡」対策としての外出規制等が行われている様子もありません。
「赤面疱瘡」の恐怖がおどろおどろしく描かれ、治療法も確立されていない割には、予防対策的なものが全くなく、また病に対する偏見や社会的迫害・隔離といったものも存在しないときているわけです。
これでよくもまあ、「男性絶滅」という事態に至らないものだと逆に感心すらしてしまいましたね。

次に疑問に思ったのが、男性版「大奥」の存在意義そのものです。
前述のように、映画「大奥」の世界では、希少種となっている男性が子種の供給源として重宝されているという設定があります。
作中では、主人公が子種を欲しがる女性達を相手にボランティアで性行為を行っている描写がありますし、男性版「大奥」に入っている男性のひとりもまた、親から命じられてカネを取り多くの女性と性交を行っていたと主人公に告白しているシーンがあります。
男性が女性の4分の1しかいないわけですから、厳格な一夫一妻制では女性の大半が子作りどころか結婚すらもできないわけで、子種獲得が目的の「売春婦」ならぬ「売春夫」的な商売が成立するのは自然の流れです。
というより、普通に考えれば「一夫多妻制」が成立したって何らおかしなことではないどころかむしろ合理的ですらありえますよね、この世界って。

それに対して、ひとりの女性に多くの男性を侍らせる「一妻多夫制」としかいいようがない男性版「大奥」を成立させなければならない理由というのは一体何なのでしょうか?
史実の「大奥」に限らず、諸外国で見られる「後宮」の類であれば、多くの女性を侍らせることで、世継ぎを多く産ませることができるという大きなメリットがありますし、そもそもそれが存在意義でもあるわけです。
しかし男性版「大奥」では、いくら男性を多く増やしたところで、子供が産めるのはあくまでも女性側の将軍ただひとりだけなのですから、世継ぎ対策としては全く使い物になりません。
もちろん、作中の「大奥」には世継ぎ対策だけでなく、将軍の身の回りの世話や護衛をするなどの役目もあり、そのための人員も少なくないのですが、それは別に男性版「大奥」が特に担わなければならない理由はなく、女性でも充分に代替が利くものでしかありません。
最大の存在意義がないも同然であるにもかかわらず、何故「大奥」という一種の「後宮システム」があの世界で成立し存続しているのか? その疑問こそが今回、私が映画「大奥」を観に行くことを最終的に決断するに至った最大の動機だったりします。
残念ながら、作中における男性版「大奥」も、その点については「無駄な贅沢だからこそ存在する」ということが強調されているだけで、私が抱いていた謎は解けるどころか却って深まるばかりでしたが(-_-;;)。

あと、作中における支離滅裂な慣習もいいところの設定として、「ご内証の方」という概念が挙げられます。
映画「大奥」における「ご内証の方」というのは、未婚の女将軍に対する初めての相手となる男性を指す言葉で、「ご内証の方」は将軍を破瓜させる罪人として死を与えられる定めにあります。
そして主人公は、8代将軍となる吉宗に見初められ「ご内証の方」として選ばれてしまうわけです。
……何と言うか、これほどまでに「女性としての潔癖症」丸出しの慣習というのも非常に珍しい限りですね(苦笑)。
史実の「大奥」にも「内証の方」という言葉があるのですが、こちらは「将軍のお手つき」、つまり「将軍と直接性交した女性」という意味合いの言葉に過ぎず、ましてや「初めて性交した者には罪人としての死が与えられる」的な慣習などありません。
正直、あまりにも意味不明過ぎる慣習で、「ひょっとしてこれは時の政敵を抹殺するだけのために勝手にでっち上げられたものが放ったらかしにされているだけなんじゃ……」などという疑惑まで浮かんでしまったほどです。

かくのごとく、世界設定面ではあまりにもツッコミどころ満載で、それ故に設定検証は逆に楽しめる作品ですね。
かく言う私自身、半分はそれが目当てだったようなものでしたし(苦笑)。
ただ、そこまで設定面で深く考える人もあまりいないでしょうし、もっと手軽に18禁エロゲー「恋姫無双」の江戸時代男女逆転版とでも解釈しておいた方が素直に作品を楽しめるかもしれません。
まあ「恋姫無双」は社会システムまで改変されてはいませんでしたけど。

世界設定面以外の作中描写で特に強く印象に残ったシーンは2つ。
ひとつ目は「大奥」の男同士で何度も繰り広げられた男色描写、特に主人公による「男同士」のキスシーンで、このシーンはさすがの私も少々ビビりました。
男女同士の濃厚なキスシーンや残虐シーンなどは特にハリウッド映画で何度も見慣れていたのでそれなりに免疫もあるのですが、男同士のキスシーンはすくなくともこれまで私が観てきたハリウッド映画には全く存在しなかったので完全に意表を突かれたというか(^^;;)。
この間観に行った映画「十三人の刺客」にもオマケ程度の扱いながら男色描写がありましたし、この辺りはキリスト教圏に比べて同性愛を罪悪視していない日本ならではのものと言えるのかもしれませんね。
二つ目は第8代将軍吉宗の初登場シーン。
緑の草原を舞台に白馬にまたがって疾走する初登場シーンは、明らかに時代劇TVドラマ「暴れん坊将軍」のオープニングテーマを意識している以外の何物でもありませんでした。
そりゃ「吉宗」と聞いて連想する第一印象と言えば確かにアレではあるのですけど、あまりにあからさま過ぎるパロディで、心の中で笑わずにはいられませんでしたね。

それと、銀英伝舞台版でアンネローゼ役を担当する白羽ゆりが「大奥」でも出演しているという事前情報があったので確認したところ、確かに主人公の姉役として作中で登場していました。
作中における出番は序盤と終盤のわずかな時間しかなかった上、台詞もほとんどありませんでしたが。

時代劇と男性同士による同性愛が好きという方、または世界設定面にツッコミを入れまくりたいという方には、映画「大奥」は間違いなく一押しの作品と言えるでしょう。

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