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2010年12月28日の記事は以下のとおりです。

実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

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2010年10月に公開された映画「大奥」の原作となるコミック版「大奥」の1巻を購読しました。
男性人口の激減による男女逆転の江戸時代を描いた「大奥」の世界観には、宣伝を聞いただけでも疑問が多く、映画版を観てもその謎と疑問は解消されるどころか逆に増大する一方だったので、原作も当たってみることにしたわけですね。
今回は、映画版のストーリーの大部分を担っているコミック版「大奥」1巻との比較検証も兼ねて論じてみたいと思います。

コミック版「大奥」1巻だけを読んだ限りでは、映画版「大奥」はコミック版1巻のストーリーをほぼ忠実に再現している、というのが第一の感想ですね。
「赤面疱瘡」に関する説明から、水野佑之進の記録上の死→進吉に名を変えてヒロインと結ばれるという結末までの流れはほぼ同じ。
映画版で由来に関する説明が全くなかった「ご内証の方は大罪人として死ななければならない」という設定についても、1巻では「家光の時代に春日局が決めた」という以外の説明がなく、こちらもやはり説明不足の感は否定できません。
その由来は2巻以降で説明されているのでしょうが、映画版はこの説明不足な部分までそっくり忠実に移植しているわけです。
これから考えると、「大奥」は2巻以降の話も実写化される可能性があるのではないかという予測を立てたくもなってしまいますね。
1巻と同じく映画公開されるのか、TVドラマ形式になるのかは微妙なところですが。

その一方で、映画版「大奥」における徳川8代将軍吉宗に関するエピソードは、原作よりも大幅に強化されていたことが判明。
緑の草原を疾走する初登場の乗馬シーンと、家来1人を連れて江戸の町をお忍びで散策するシーンという、時代劇TVドラマ「暴れん坊将軍」を彷彿とさせる描写は原作には存在しません。
私はてっきり「原作にもそういう描写があった」とばかり考えていたのですけど、アレって映画制作スタッフのオリジナルシーンだったわけですね。
「露骨に狙っているなぁ」とは映画観賞当時から思っていましたが(笑)。

他にも、作中で水野佑之進が出世するきっかけとなった「鶴岡との一騎打ち」後のエピソード「鶴岡が水野佑之進を闇討ちした挙句に切腹する」シーンが映画版のみに存在したり、逆に大奥の「呉服の間」でなくなった針を探す原作のエピソードが映画版では省略されていたりと、ところどころで細かい部分での改変はありますね。
本筋の流れにはあまり関わらない部分ですが。

それと、原作・映画版共に「大奥には将軍護衛の役目もある」という設定があるようなのですが、どちらにも台詞やモノローグ以外でそれを裏付ける描写というものが全くと言って良いほどないですね。
そもそも、史実の江戸幕府には「書院番」という将軍の身を守る現代のSPのような役職が立派に存在していますし、江戸城および要地を警護する「大番」という役職も存在します。
他の役職と仕事が重複する、という一事だけでも、男性版「大奥」は非効率もいいところで全く存在価値が見出せません。
また作中でも、将軍護衛の役割を担っているはずの「大奥」の人間が、常に将軍に付きっきりで護衛しているような描写が全くありません。
将軍暗殺の刺客なんていつどこで襲い掛かるか知れたものではないのですし、護衛ならば「寝所」のみならずありとあらゆるところで付きっきりの護衛をやらないとマズいのではないかと思うのですけどね。
8代将軍吉宗の周囲にいる人間も基本的に女性ばかりですし、こんな状態で「大奥」の人間が将軍の護衛なんてできるわけがないでしょう。
これならば、男性の多くを「書院番」や「大番」に回し、訓練を重ねさせて錬度を高めた上で「専業の護衛」として任に当たらせた方がはるかに効率的です。
後宮システムとして全く機能しない男性版「大奥」が存続していること自体、壮大な無駄としか言いようがないのですが。

男性版「大奥」が将軍護衛の役割も担っている、という話を聞いた時に私が真っ先に連想したのは、神聖ローマ帝国(現在のドイツ)の領邦国家のひとつであるプロイセン王国の君主だった「兵隊王」フリードリヒ・ヴィルヘルム1世(在位1713年~1740年)が創設した「巨人連隊(ポツダム巨人軍)」だったりします。
「巨人連隊」はとにかく「背が高い」男性ばかりを身分も出自も問わず集めて編成された連隊で、その構成員には莫大な契約金や給与・待遇などが保証され、閲兵などの訓練が徹底して施されました。
長身の男性を集める際にはカネを駆使した取引だけでなく、拉致誘拐などの強引な手段まで使われた上、知的障害者などまでもが問答無用で徴兵されたりしたため、その戦闘能力および費用対効果については多くの疑問が持たれていました。
何しろこの「巨人連隊」、実戦に参加したことはただの一度としてなく、兵達も隙あらば脱走しようと常に目を光らせていたばかりか、王の暗殺に動いたことすらあるというのですから、多額の維持費に対してのその「使えなさ」ぶりは想像を絶するものがあります。
軍隊としての機能性という観点から見ればこれほどまでに「無駄」としか言いようのない連隊もなく、実際、フリードリヒ・ヴィルヘルム1世個人の道楽とまで酷評されていた「巨人連隊」は、その息子であるフリードリヒ大王(在位1740年~1786年)の代になって廃止されています。
その「巨人連隊」をさらに上回る「無駄」を、男性版「大奥」は多大にやらかしているようにしか思えないんですよね。
後宮システムとしても将軍護衛としても全く使えない男性版「大奥」の存在意義って一体何なのか、ますます疑問に駆られてしまうところです。

「大奥」の世界観には他にもまだ多くの疑問があるのですが、果たして2巻以降には私が納得できるだけの解答が用意されているのでしょうか?

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