映画「プリンセストヨトミ」感想
映画「プリンセストヨトミ」観に行ってきました。
作家・万城目学による同名の長篇小説を原作とする、大阪国と会計検査院の間で繰り広げられる駆け引き、および家族の絆を描いた作品です。
TVドラマ&映画版「SP 警視庁警備部警護課第四係」シリーズで好演した堤真一が主人公だったことが、今作をチョイスした最大の理由となりました。
このことは誰も知らない。
2011年7月8日金曜日 午後4時のことである。
大阪が全停止した。
こんなキャッチフレーズから始まる物語冒頭。
各所にひょうたんが掲げられた状態で誰もいなくなった大阪の街を、ひとりの女性が驚愕の表情を浮かべながら歩いている光景が映し出されます。
かくのごとき衝撃的な事態にまで至ったそもそもの遠因は、7月8日から遡ること4日前の7月4日月曜日に、東京の会計検査院から3人の人物がやってきたことにあります。
今作の主人公にして「鬼の松平」の異名を取る会計検査院第六局副長・松平元(まつだいらはじめ)。
冒頭にあった無人の大阪の街を歩いていた会計検査院第六局所属の女性・ミラクル鳥居こと鳥居忠子。
そして、今回の大阪出張が会計検査院第六局としての初仕事になるらしい、日本人とフランス人のハーフの男性・旭ゲーンズブール。
会計検査院とは、国および国の出資する政府関係機関の決算・独立行政法人および国が補助金等の財政援助を与えている地方公共団体の会計などに関する検査を行い、会計検査院法第29条の規定に基づく決算検査報告を作成することを主要な任務としている組織です。
簡単に言えば、公的機関の決算や会計で無駄や不正が行われていないかをチェックするのを仕事とする組織ですね。
法律上は行政機関となるのですが、内閣に対し独立した地位を有していることが日本国憲法第90条第2項および会計検査院法第1条で定められており、国の公的な機関でありながら、立法・行政・司法の三権いずれからも独立しているという非常に特殊な組織でもあります。
会計検査院所属の3人は、大阪の各公的組織の決算・会計を調査するため、東京から大阪へやってきたわけですね。
大阪各所にある公的機関は、緊張の面持ちで会計検査院の面々を迎えます。
もちろんその理由は、陰で色々な不正や無駄などをやらかしているため、それがバレることに戦々恐々としていることにあるのですが。
しかし、最初の調査対象機関である大阪府庁では旭ゲーンズブールによって30万前後の不正支出が、次の空堀中学校ではミラクル鳥居の「怪我の功名」によって事務がらみの不正がそれぞれ暴かれていきます。
大阪府庁と空堀中学校のチェックを終えた会計検査院の一行は、次の調査対象である財団法人OJO(大阪城址整備機構)がある長浜ビルへと向かいます。
この時の調査は何事もなく終わるのですが、ミラクル鳥居の駄々こねで長浜ビルの正面に位置しているお好み焼き屋「太閤」で食事をすることになった際、松平元がOJOに携帯電話を忘れたことから、事態が意外な方向へと動き出します。
「鬼の松平」が携帯を忘れる、という描写は作品冒頭にもあるのですが、この辺りは何となくSPシリーズの「いつも手錠を忘れる」主人公のことを想起せずにはいられませんでしたね(苦笑)。
それはさておき、携帯を取りに再びOJOに行くと、さっきまで働いていた職員達の姿が全くありません。
OJOに電話をかけても目の前にある電話は全く鳴ることがなく、デスクの引き出しの中も空っぽの状態。
不審に思った松平元は、翌日再びOJOを訪ね、昨日の件についての説明を求めるのですが、OJOの経理担当である長宗我部はのらりくらりと質問をかわし、なかなかボロが出てきません。
大阪中の人間に片っ端から電話をかけまくり調査するという手段に打って出ても不正の証拠は何も出てくることがなく、松平元以外の2人は半ば諦めムード。
しかし、OJOの表向きの管理対象である大阪城について調べていった結果、大阪城の緊急脱出用の抜け穴がOJOに通じており、そこから職員が出入りしているのではないかという仮説を、松平元は導き出します。
そして、OJOの長浜ビルのロビーにあった、曰くありげな扉がその出入り口ではないかと踏んだ松平元は、OJOに乗り込み長宗我部に扉を開いて中を見せるよう要求するのですが、長宗我部は頑強にこれを拒否。
業を煮やした松平元がさらに強硬に要求しようとした時、突如後ろから「私がご案内致します」という声がかけられます。
松平元が振り返ると、そこにいたのは何とお好み焼き屋「太閤」の店主・真田幸一。
扉の中は長い廊下が続いており、その先にあったのは国会議事堂モドキな光景。
半ば呆然とする松平元に対し「ここは大阪国議事堂です」と説明をする真田幸一。
そして「大阪国?」と訝しがる松平元に対し、真田幸一は高らかに宣言するのです。
「私は、大阪国総理大臣・真田幸一です」と。
映画「プリンセストヨトミ」で「大阪国」なるものが建国されるに至った起源は、1615年の大坂夏の陣まで遡ります。
この戦いによる当時の大坂城陥落の際、豊臣家の血筋は絶えたとされているのですが、実は豊臣秀頼の幼い息子だった国松が難を逃れ、その血筋は細々ながらも続いていたのでした。
豊臣家は当時の大坂の民から親しまれていたこと、またその後に莫大なカネをかけて大坂城を再建し威勢を誇った徳川家に対する反発も手伝って、国松および豊臣家の血筋を守り抜くことを目的に、大坂城の地下に寄り合い所が作られたのが「大阪国」の起源であるとされています。
その後、明治維新の際に資金不足に陥っていた当時の明治政府が、資金調達を目的に「大阪国」を正式に国として承認する条約を「大阪国」と締結します。
条約では「大阪国はその存在を外部に公表してはならない」とも定められており、またその条約締結の際の文書には、大久保利通や西郷隆盛などといった明治の元勲達の署名もはっきり記されていたりします。
つまり「大阪国」とは日本国という主権国家から承認を受けているれっきとした「国」であるわけですね。
財団法人OJOも、「国」として公に出来ない「大阪国」の隠れ蓑ないしは出先機関であり、また「大阪城址整備機構」なる略称自体も実は全くの偽りで、その読み方もローマ字読みで「オージョ」、つまり「王女=プリンセス」という、映画のタイトルにもなっている「大阪国」が守るべき対象そのものを指す名称だったのです。
まさかそんな読み方をするとは思わなかったので、この辺は結構良い意味で意表を突かれましたね(苦笑)。
ただ、この話だとある疑問が出てきます。
それは、いくら国家の三権から独立した存在だとはいえ、会計検査院に「大阪国」を好き勝手に処分する権限があるのか、という点です。
先にも述べたように、「大阪国」は明治時代に当時の日本政府から国家としての承認を受けている「外国」であり、その領域は日本国の主権が及ぶところではありません。
会計検査院の調査対象はあくまでも「国内限定」であり、「外国」が調査対象、ましてや「取り潰し」の権限まで行使することは本来ありえないのです。
作中で財団法人OJOが調査対象になっているのは、実は「大阪国」の人間で、会計検査院を利用して「大阪国」の存在を外部に知らしめようとしていた旭ゲーンズブールの画策であることが明らかになっているのですが、実際問題、会計検査院ができるのってここまでが限界なはずなんですよね。
「外国」である「大阪国」でどんな不正や会計が行われていようが、そこに「日本国」の会計検査院が口を出したら、それは「他国に対する内政干渉」になってしまうのですから。
唯一、会計検査院が干渉できるところがあるとすれば、それはすくなくとも表面的な法理論上では「日本国の財団法人」として登録されているOJOだけしかないのですが、作中の松平元は明らかに「大阪国」を攻撃の対象にしています。
真田幸一をはじめとする「大阪国」の面々と対峙していた松平元は、一官僚の立場をわきまえずに日本国代表としての「他国に対する宣戦布告」を無断でやっているも同然だったわけで、これってかなり大問題になるんじゃないのかなぁ、と思えてならないのですけどね。
一方の「大阪国」の面々も、自分達が「正規の条約に基づいて日本国から正式に国家承認されている国である」という事実の強みをもっと大々的に主張すべきだったのではないかと。
「国の重み」というのは、たかだか会計検査院程度の組織くらい黙らせられる力を持つものなのですけどね、小なりといえども。
あと、作中における「大阪国」の人間って、物凄く宗教的かつ国家総動員的な体質を持っていますね。
大多数の人間にとっては一度も見たことがないばかりか正体すらも不明な「プリンセストヨトミ(豊臣家の末裔)」のために、あそこまでの総動員が短時間のうちにかけられ、しかもそのことに誰も疑問を持たないときているのですから。
物語のラストで真田幸一が大衆に向かって笑顔を見せた時も、皆熱狂的に歓喜の雄叫びを上げていましたし(苦笑)。
見様によっては、「アメリカ万歳主義」などとしばしば見当違いな揶揄をされるハリウッド映画が裸足で逃げ出してしまうほどの「右翼的」かつ「愛国心礼賛」な作品ですよね、これって。
まあ、作品および作者的にはそういう意図を込めてはいないのでしょうけど。
作品設定的には色々とツッコミどころが満載ですし、派手なアクションシーンやラブロマンスの類も全くありませんが、主演である堤真一・綾瀬はるか・岡田将生の3人の演技で結構点を稼いでいる映画でもありますね。
俳優さん目当てで映画を観る、という人にはオススメの作品かもしれません。