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2011年06月15日の記事は以下のとおりです。

映画「星守る犬」感想

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映画「星守る犬」観に行ってきました。
双葉社が発行する青年漫画雑誌「漫画アクション」で連載されていた、村上たかし原作の同名ベストセラーコミックを映画化した感動作。
北海道でワゴン車と共に遺体で見つかった身元不明の中年男性と飼い犬ハッピーの足跡を訪ね歩き、その旅路に思いをはせる姿を描く作品です。

この映画の主人公・奥津京介は、北海道名寄市役所の福祉課に勤務する青年。
彼は幼少時に両親を事故で、祖母を病気で立て続けに亡くした過去を持ち、唯一の肉親だった祖父にも先立たれ、今ではひとり暮らしをしています。
過去の経緯から、人と積極的に関わることを避け、小説などの本の世界に没頭する性格で、映画冒頭にその趣味のありようが描写されています。
そんなある日、警察から福祉課へ、一台のワゴン車と共に身元不明の中年男性の遺体が発見されたとの連絡が入ります。
福祉課はそういった遺体を引き取り弔うことも生業としているため、連絡してきた警官に先導される形で、奥津京介は同僚と共に遺体発見現場へと向かいます。
現場に辿り着いて検分を進める奥津京介は、放置されたワゴン車とそばに盛り土がされていることに気づきます。
警官によると、それは遺体のそばに寄り添って死んでいた秋田犬を弔った墓であるとのこと。
その時、突如吹きぬけた風で、ワゴン車の下にあった数枚の紙切れが奥津京介の足元に飛ばされてきました。
それはレシートやリサイクルショップの買取証であり、特に買取証には名前や住所も記されていたことから、死んだ男の身元を特定する手がかりになるのではないかと考えられました。
ところが電話で関係各所に連絡を取っても、個人情報保護などを理由に具体的な情報を引き出すことはできず、それ以上の調査は行き詰ってしまいます。
結局、福祉課としては手がかりがないということで、身元不明の遺体を「無縁仏」として処理する判断を下します。
しかし、どうしても身元不明の男性と秋田犬の正体が気になる奥津京介は、ついに有給休暇を取り、リサイクルショップに書かれていた住所へ単身向かうことを決意。
祖父から譲り受けた愛車であるワーゲンビートルに乗り込み、自腹で一路、単身東京へと向かうのでした。

買取証に書かれていた東京の住所と名前は、結局のところ身元不明の遺体とは全くの別人であることが判明。
若干は落胆しつつも、残ったレシートに書かれている店とリサイクルショップを回って北海道に戻ろうと考えた奥津京介ですが、東京に土地勘がないこともあって間違って一方通行路に入り込んでしまい、対向車に怒鳴られながら車を擦ってしまいます。
車の傷を見て落胆する奥津京介の前に、突如「悪い男達に追いかけられている!」などと叫ぶ少女が現れ、車に乗せてくれるよう奥津京介に迫ります。
半ば急かされる形で少女を乗せた奥津京介は、少女を警察へ連れて行こうとしますが、いざ警察署に着くと今度は「おなかが痛いから病院に連れてって!」などと言い出す始末。
目に見える範囲に病院があったのでそこまで歩いていくよう奥津京介が促すと、ようやく少女は本当の事情を話し始めます。
何でも少女こと川村有希は、新人アーティストのオーディションを受けるために旭川から上京してきたものの、旅費も尽きて困窮していたところだったとのこと。
旭川ナンバーだった奥津京介のワーゲンビートルを見つけ「これだ!」と閃いた川村有希は、奥津京介に対し自分を実家のある北海道まで一緒に連れて帰って欲しいと懇願します。
奥津京介は川村有希の身勝手な態度に辟易しながらも、結局、奥津京介は旅の道連れに、北海道までの旅路を進めていくことになります。

映画「星守る犬」における旅の旅程は以下の通りです。

東京

福島県いわき市

岩手県遠野市

青森県弘前市

北海道石狩市

北海道名寄市

今作は2010年8月~10月に撮影が行われたとのことで、震災前の風景が映し出されています。
映画の風景は今現在のそれとはもう違うのかと思うと、作品本来の意図とは違う視点でも切なくなってきましたね。
特に福島県いわき市のエピソードでは、すぐ後ろが海岸であるコンビニが出ていましたし、そこで泳ぐ子供達の姿も映し出されていました。
今となっては、もはや収録不可能な光景ですね(T_T)。

主人公である奥津京介が身元不明の男性である「おとうさん」と秋田犬ハッピーに興味を抱いた理由は、自身も以前にクロという犬を飼っていたことにありました。
クロは、祖母が死んで間もない時期に祖父が奥津京介に飼い与えた犬で、奥津京介は最初の頃こそ可愛がっていたものの、次第にウザがり、邪険に扱うようになっていきます。
その理由については物語後半で明かされるのですが、「クロを愛してしまうと、いつかまた深い傷を負うのが怖かった」というものだったとのこと。
しかし祖父の死後、福祉課に就職した奥津京介を見届けて使命を全うしたかのごとく衰弱し、息を引き取ったクロを見て、奥津京介には「クロに愛情を注いでやれなかった」という後悔が残るのでした。
本当に犬を心の底から可愛がっていたとしても、「もっと可愛がってあげれば良かった」的な後悔は犬好きであれば誰もが思うことですから、奥津京介の後悔はなおのこと深かったであろうことは想像に難くありません。
奥津京介の考え方は結局のところ、クロにとっても自分自身にとっても不幸な結果しか残さなかったわけです。
しかし、件の「おとうさん」とハッピーは最後まで行動を共にし、2人寄り添うように亡くなっていたわけです。
彼らの関係は如何なるものだったのか、奥津京介が多大な興味を抱くのは当然のことだったと言えるでしょう。

映画「星守る犬」では、ペットに対する飼い主のスタンスがこれほどまでに得手勝手なものなのかということについても色々と考えさせられました。
主人公が個人的事情からペットを邪険にしていた件では、まだ主人公に悔恨の情が見られたから救いもあるのですが、秋田犬であるハッピーの方は壊滅的なまでに「ひどい」の一言に尽きますからねぇ。
自分から犬を飼いたいと言って父親を説得しながら、犬が大きくなったからといってその世話を父親に押し付けてしまう娘。
実家がある青森の弘前で、離婚した父親およびハッピーのことなど最初からなかったかのごとく普通に家から出かけている光景を見た時は「さすがに自分勝手が過ぎるのでは?」とついつい考えずにはいられませんでした。
主人公と異なり、彼女には何の悔恨の念もなさそうな雰囲気でしたし、父親共々犬のことなど忘れ去ってしまっているのではないかなぁと。
主人公についても言えることではあるのですが、最初「だけ」可愛がって「飽きた」「面倒臭い」などの理由から犬の面倒を見なくなる飼い主達というのは、ある意味ペット達にとってこれ以上ない残酷な仕打ちをしていると言っても良いのですけどね。

あと物語終盤、ハッピーが近づいてきただけで「野犬だ!」と騒ぎ立てた挙句、ハッピーに薪を全力で投げつけてきた親子についても、「いささか過剰反応過ぎないか?」という感想を抱きました。
確かに、長い間泥まみれ雪まみれ水まみれになって外見が著しく汚れていたハッピーには「可愛い」ではなく「何だこいつ」的な目を向けてしまうかもしれません。
しかし、あの状況では別にハッピーは誰かに吠え掛かったり噛み付いたりしたわけではなく、また唸り声を上げるでもなく、ただ普通に近づいてきただけでしかなかったわけです。
ただそれだけのことだったのに、あそこまで騒いだ挙句にハッピーに薪を叩き付けて致命傷を負わせなければならないことだったのでしょうか?
キャンプ場で犬や猫を見かけるなどさして珍しいことでもないわけですし、あの状況だったら、ある程度は警戒したり距離を置いたりしつつ様子を見るのが常道だったと思うのですが。
あの親子、ハッピーが野犬だったのかどうかが問題だったのではなく、元々相当なレベルの「犬嫌い」だったのではないか、とすら考えてしまったほどです。

私自身が大の犬好きということもありますが、「おとうさん」とハッピーのやり取りはやはり感情移入せずにはいられませんでしたね。
特に北海道石狩市の海辺にあるレストランのオーナーにハッピーを預けようとしながら、ハッピーが「置いて行くな!」と言わんばかりに吠えまくって追いかけようとする光景と、その光景を見て「互いに不幸になる」と分かっていながらハッピーを抱きしめ連れて行くことを決意するシーンは、映画で感動することなどほとんどない私でさえ思わずこみ上げるものがありました。
最初から明示されている結末は確かに悲劇的なものではありましたが、作中でも言われているように、ふたりは短いながらも素晴らしい時間を過ごしたと言えるでしょう。

ただのアンハッピーエンド物ではなく、悲劇的なはずの「おとうさん」とハッピーに勇気づけられ、未来に希望が抱ける終わり方をしています。
犬好きな方はもちろんのこと、そうでない方にも是非観て貰いたい映画ですね。

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