映画「ドラゴン・タトゥーの女」感想
映画「ドラゴン・タトゥーの女」観に行ってきました。
スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによるベストセラー小説「ミレニアム」三部作のうち、同名タイトルの第一部を実写映画化したハリウッド版リメイク作品。
この映画、SM強姦やレイプにフェラチオ、アナルセックスなど、15禁どころか18禁指定すらされてもおかしくないレベルのセックス描写がしばしば登場する上、ネコの惨殺体などというグロ映像まで飛び出してくる念の入れようで、当然のことながらR-15に指定されています。
すくなくとも一般向けに公開されているはずの映画で、間接的に性行為を匂わせる濡れ場シーンならともかく、モザイクまでかけられるレベルの露骨なセックス描写なんて、私は今までお目にかかったことがなかったのですけどね。
もちろん、それらは作中のストーリーを構成する重要なパーツではあるのでしょうが、それにしても大胆な描写をしているなぁ、と(^_^;;)。
ちなみに私は、原作は全て未読で、またスウェーデンで先に実写化されたという映画も未視聴の状態で今作に臨んでいます (^^;;)。
物語は、謎の老人の元に、年1回必ず送られてくるという謎の郵送物?に対し、呪詛に満ちた呟きをこぼすところから始まります。
そこから物語は一旦中断し、今時の映画では珍しいオープニングテーマに入るのですが、予告編でも流れていたものでありながら、改めて聴いてもこの音楽はなかなか良いものでしたね。
オープニングテーマが終了した後、物語のスポットは、今作の主人公のひとりであるミカエル・ブルムクヴィストに当てられます。
彼は、月刊誌「ミレニアム」の敏腕ジャーナリスト兼発行責任者兼共同経営者で、スウェーデンの大物実業家のハンス=エリック・ヴェンネルストレムの不正を暴露する記事を書いたものの、そのことで逆に名誉毀損で訴えられた挙句、裁判で有罪判決を受けてしまい、それまでの貯蓄全てを失うレベルの賠償金の支払いまで課せられるという事態に陥っていました。
彼の敗訴と、不正を書かれたヴェンネルストレムによる報復的な圧力によって、月刊誌「
ミレニアム」は大きな危機に直面していました。
敗訴のショックもあり、また「ミレニアム」に負担をかけないようにする配慮も手伝って、雑誌の編集長であるエリカ・ベルジェに一線を引くことを告げるミカエル。
ここで2人は妙に親しげかつ肉体的な接触も含めたスキンシップ行為を行い、この2人がただならぬ関係にあることが観客に明示されます。
そんな彼の元に、冒頭に登場した老人、大財閥ヴァンゲル・グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルと、ヘンリックの顧問弁護士であるディルク・フルーデから、スウェーデンのヘーデスタまで来て欲しいとの連絡を受けます。
不審に思いながらもヘーデスタへとやって来たミカエルは、そこで表向きはヘンリックの評伝を書くという名分で、40年前に起こった親族のハリエット・ヴァンデルの失踪事件について調査して欲しいと依頼されることになります。
初めは嫌な顔をするミカエルですが、ヘンリックはミカエルに対し「ミレニアム」にいた当時の給与の2倍の金を毎月支給する、成功すれば4倍出すという金銭的な優遇条件を提示し、さらにミカエルを失墜させる元凶となったヴェンネルストレムの不正の証拠をも提供すると持ちかけます。
ここまで言われてはミカエルもさすがに承諾せざるを得ず、かくしてミカエルの事件捜査が始まるのでした。
一方、ヘンリックはミカエルに失踪事件の洗い直しを依頼するのに先立ち、ミカエルの身辺調査をミルトン・セキュリティーに依頼していました。
それに応じてミカエルの身辺調査を実地で行い、彼の秘密の何から何まで把握し尽した人物が、今作のもうひとりの主人公であるリスベット・サランデル。
彼女は、鼻と眉にピアスを付け、左の肩から腰にかけてドラゴンのタトゥーを彫りこんでいる非常に変わった女性で、過去の経歴が理由で責任能力が認められない精神的不適応という診断を受けた挙句に後見者をつけられていたりします。
ある日、彼女が自身につけられた後見人であるホルゲル・パルムグレンの元へ帰ってみると、彼が自宅の部屋で倒れているのを発見。
彼はすぐさま病院に収容されるのですが、脳出血で半ば廃人同然の状態となってしまい、リスベットの後見人から外されてしまいます。
そして、新しくリスベットの後見人となったニルス・エリック・ビュルマンは、リスベットを精神異常者だと決めつけ、自身の権限にものを言わせて彼女の財産を全て自分で管理すると宣言します。
これに反発するリスベットでしたが、後見人であるビュルマンに逆らうことはできません。
そしてビュルマンは、その地位とカネを餌にしてリスベットに性的な要求まで行うようになるのですが……。
映画「ドラゴン・タトゥーの女」は、ストーリーのジャンル的には一応推理系ミステリーに属するはずなのですが、原作はともかく、すくなくとも今回の実写映画版ではその部分があまりにも描かれていない感じがありますね。
物語の中核を構成しているハリエットの失踪事件には当然容疑者がおり、重要人物であるはずの彼らは序盤で一通り紹介されてはいくのですが、しかし彼らは物語全体を通じて、真犯人を除きほとんど主人公2人と接点がないんですよね。
名前だけ紹介されたものの、初登場するのがようやく物語中盤頃、という人物までいましたし。
40年前の事件を扱っていることもあり、また既に故人となっている人物もいることから、事件当時の資料漁りがメインになっているという事情もあるにせよ、ロクに描写がないために容疑者の名前をマトモに覚えることすら困難を極めるありさまでした。
物語後半で判明した真犯人ですら、正体が分かるまでほとんど印象に残っていなかったくらいでしたし。
しかも序盤から中盤にかけては、どちらかと言えば主人公2人の軌跡を追っていくストーリーがメインで展開されていた上、2人が邂逅を果たすまでかなりの時間がかかることもあって、さらに容疑者達の存在はストーリーの流れから置き去りにされてしまっています。
真犯人が判明する後半になるとさすがに事件の全体像はおぼろげながらも見えてくるのですが、あまりにも真犯人以外の容疑者達の存在感も印象もなさ過ぎるというか……。
何と言うか、原作小説を予め読んでいるのが最初から前提の上でストーリーが展開されているようにすら見えますね、この映画って。
同じ原作未読のミステリーでも、映画「白夜行」や「麒麟の翼」などは、事件関係者達の存在感も相互関係も素直に理解できたものなのですけどねぇ……(-_-;;)。
一方で、主人公2人を取り巻く人間関係については、メインと言って良いくらい濃密に描かれていることもあって、かなり分かりやすい上にインパクトも多々ありますね。
中でも凶悪なまでに印象に残ったのは、リスベットに最初にカネを請求してきた際にはフェラチオを要求し、2度目はベットに縛り付けてアナルセックスまでやってのけ、当然のごとく逆襲されて惨めな敗残者にまで落ちぶれ果てたビュルマンですね。
彼は自業自得とはいえ、リスベットに強姦現場の動画をネタに脅迫された上、「私は強姦魔の豚野郎です」という刺青まで彫られてしまいましたし。
リスベットのみならず、映倫にまで挑戦状を叩きつけるかのごとき彼の「勇猛果敢な行為」は、ただそれだけで歴史に名を残せるものがあります(苦笑)。
まあリスベットの方も、ミカエル相手に騎乗位セックスを作中2度にわたって繰り広げ、しかもその内1回はモザイク付という、なかなかどうしてビュルマンと互角以上に渡り合えるだけの「戦歴」の持ち主ではあるのですが(爆)。
というかリスベットにヤられたミカエルも、エリカという別の女性と既に関係が深いのに、強引に押し倒された1回目以降も何故リスベットと肉体関係を持ち続けているのか、正直理解に苦しむところではあるのですが。
そのミカエルとエリカの関係も、世間一般では「不倫」と呼ばれる行為に該当する(エリカは既婚者で夫が生存している)わけで、この作品の登場人物は揃いも揃って、良くも悪くも倫理観という言葉とは全く無縁ですね。
今作は三部作の第一部とのことですから、当然人気と予算が許す範囲において第二部以降の続編も製作されることになるのでしょうが、この倫理観の崩壊っぷりもより強烈に反映され続けることになるのでしょうかねぇ。
R-15指定ですら裸足で逃げ出したくなるレベルのセックス&残虐描写が延々と続くので、その手の描写が嫌いな方にはとてもオススメできる作品ではないですね。
また前述のように、原作を何も知らない状態で今作を観賞する場合、特に失踪事件絡みの容疑者達の人間関係を理解するのにかなりの困難が伴います。
その点では「原作ファンのための作品」というのが妥当な評価ということになるでしょうか。