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2012年03月20日の記事は以下のとおりです。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察1

「銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)」(以下「本編」)の作者が、同じキャラクターを主人公とした更なるIF話として新規に書き綴っている「亡命編」。
銀英伝世界に転生した日本人の佐伯隆二(25歳)ことエーリッヒ・ヴァレンシュタインが、諸々の事情で帝国から同盟に亡命し、銀英伝の原作知識を駆使して大活躍を演じるという転生物2次創作小説です。
小説一覧はこちら↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/

「本編」でも桁外れなまでの人格破綻と対人コミュニケーション能力の致命的欠如ぶりをこれでもかと言わんばかりに誇示しまくり、設定改竄&御都合主義という「神のお導き」による超展開によって何度も救われていたヴァレンシュタインの惨状は、「亡命編」ではさらに磨きがかかっていて、もはや一種のネタキャラと化している感すらあります。
2012年3月19日現在でアップされている42話時点では、「本編」でしばしば見られていた「原作に対する考察」も皆無なため、正直ヴァレンシュタインの「狂人」「キチガイ」としか評しようのない性格設定やトンデモ言動ばかりが鼻に付くシロモノと化している始末なのですが、個人的にはその支離滅裂な言動にツッコミを入れまくるという、恐らくは作者が全く意図していないであろう形で楽しませて頂いております(苦笑)。
今回は、その作中におけるヴァレンシュタインの問題点について少し。

「亡命編」は、「本編」の第9話から分岐したストーリーとなっており、第五次イゼルローン要塞攻防戦の最中、門閥貴族の一派に生命を狙われたヴァレンシュタインが、庇護を求めて同盟へと亡命することからスタートします。
「本編」でも如何なく発揮されていたヴァレンシュタインの得手勝手ぶりは、2話の時点で早くも顕現します。
ヴァレンシュタインの亡命を受けて、同盟側は「帝国があえて送り込んできたスパイの可能性」を勘案して様々な取調べを行ったり、軍人としての能力を試すために軍事シミュレーションをヴァレンシュタインに課したりしているのですが、それに対するヴァレンシュタインの感想がイキナリ振るっています。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/2/
> ようやく情報部から解放された。これで俺も自由惑星同盟軍、補給担当部第一局第一課員エーリッヒ・ヴァレンシュタイン中尉だ。いやあ長かった、本当に長かった。宇宙では総旗艦ヘクトルで、ハイネセンでは情報部で約一ヵ月半の間ずっと取調べだ。
>
> 連中、俺が兵站専攻だというのがどうしても信じられないらしい。士官学校を五番で卒業する能力を持ちながらどうして兵站なんだと何度も聞きやがる。前線に出たくないからとは言えんよな、身体が弱いからだといったがどうにも信じない。
>
> 両親の事や例の二十万帝国マルクの事を聞いてきたがこいつもなかなか納得してくれない。俺がリメス男爵の孫だなんて言わなくて良かった。誰も信じないし返って胡散臭く思われるだけだ。
>
> おまけにシミュレーションだなんて、
俺はシミュレーションが嫌いなんだ。なんだって人が嫌がることをさせようとする。おまけに相手がワイドボーンにフォーク? 嫌がらせか? 冗談じゃない、あんまり勝敗には拘らないヤンを御願いしたよ。
>
> どうせ負けるのは分かっているからな、最初から撤退戦だ。向こうも気付いたみたいだ、途中で打ち切ってきた。いや助かったよ、あんな撤退戦だなんて辛気臭いシミュレーションは何時までもやりたくない。
>
> しかし、なんだってあんなに俺を睨むのかね。やる気が無いのを怒ったのか? あんただって非常勤参謀と言われているんだからそんなに怒ることは無いだろう。
俺はあんたのファンなんだからもう少し大事にしてくれ。今の時点であんたのファンは俺、アッテンボロー、フレデリカ、そんなもんだ。ユリアンはまだ引き取っていないんだからな。

この一連のモノローグを見てまず愕然とせざるをえなかったのは、自身の亡命を受け入れてくれた同盟に対する感謝の念が全くないことです。
ヴァレンシュタインはあくまでも個人的な都合で同盟に亡命してきただけであり、それを無条件に受け入れなければならない義務など同盟側には全くありません。
もちろん、同盟は昔から帝国からの亡命者を受け入れてきた国是があるのですから最終的に拒否されることはなかったかもしれませんが、それでも自分を受け入れてくれたことに対する感謝の念は当然あって然るべきではあるでしょう。
ヴァレンシュタインが同盟に亡命してきた経緯を考えれば、最悪、ヴァレンシュタインの身柄を帝国との取引材料として利用する、という手段を選択肢のひとつとして検討することも同盟としては充分に可能だったわけなのですから。
そして一方、同盟側がスパイの可能性を懸念してヴァレンシュタインを取り調べるのもこれまた当然のことなのに、それに対して理解を示そうとすらもしない始末。
挙句の果てには、ヴァレンシュタイン個人のことなど知りようもない相手に対して「俺のことを知っていて当然だ」と言わんばかりの不平不満を並べ立てるありさまです。
ここからはっきり読み取れるのは、ヴァレンシュタインが極めて自己中心的な性格をしている上、自分が置かれている立場を自覚&自己客観視することすら満足にできていないという事実です。
この性格設定は、銀英伝原作における門閥貴族達のあり方やアンドリュー・フォークの小児転換性ヒステリーと五十歩百歩なシロモノでしかないではありませんか。
ヴァレンシュタインと彼らの違いは、ヴァレンシュタインに原作知識があるという、ただそれだけなのです。
自分の利害が絡んだり、自分の気に食わないことがあったりすると、周囲の事情も鑑みず暴走しまくるところなんて、他ならぬヴァレンシュタイン自身が罵りまくっているフォーク辺りと全く同じ症状を発症している以外の何物でもないのですし。
あの2人を見ていると「同族嫌悪」や「近親憎悪」という言葉を想起せずにはいられないですね(苦笑)。
それを「亡命編」や「本編」では「心の内に獣を飼っている」などという装飾過剰もはなはだしい美辞麗句を並べ立てて絶賛しているわけですが、普通に考えるならば「狂人」「キチガイ」以外の評価しか与えようがないでしょうに。

ヴァレンシュタインの自己中心主義と同盟をないがしろにする態度は、3話における次のようなモノローグにもよく表れています。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/3/
> 第四艦隊? パストーレ中将かよ、あの無能の代名詞の。しかもアルレスハイム? バグダッシュの野郎、何考えたんだか想像がつくが全く碌でもないことをしてくれる。俺は前線になんか出たくないんだ。
>
> 後方勤務で適当に仕事をしながら弁護士資格を取る。大体三年だな、三年で弁護士になる。その後は軍を辞め弁護士稼業を始める。そして
帝国がラインハルトの手で改革を行ない始めたらフェザーン経由で帝国に戻ろう。そして改革の手伝いをする。それが俺の青写真なんだ。

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/3/
> 変更の余地無しか……随分と手際がいいじゃないか。覚えてろよ、この野郎。バグダッシュ、お前もだ。俺はやられた事は数倍にして返さないと気がすまないんだ。俺を第四艦隊に放り込んだ事を後悔させてやる。

原作知識から「近い将来に同盟が滅ぶ」という未来を知っているヴァレンシュタインにしてみれば「どうせ滅ぶ予定の同盟がどうなろうが知ったことか」といったところなのでしょう。
しかしその同盟は、ヴァレンシュタインの個人的都合に基づくものでしかない亡命を受け入れ、軍内に職まで用意してくれたわけです。
原作で幼少時のシェーンコップが同盟に亡命してきた際の経緯などを見ても、亡命者に対する偏見や差別が同盟内に存在することは明らかであり、そんな環境下で亡命早々に職を確保できるヴァレンシュタインが相当なまでに恵まれた境遇にあったことは確実です。
ところがそのヴァレンシュタインは、自身の境遇に感謝することすらもせず、それどころか将来的には帝国に戻るとまで公言する始末。
亡命を受け入れた同盟側にしてみれば、ヴァレンシュタインの計画は自分達に対する裏切り行為も同然ですし、そもそも逆亡命の際に同盟の重要な機密の類まで持ち去られてしまう危険性だってありえます。
「恩を仇で返す」とはまさにこのことですし、ヴァレンシュタインの計画は同盟としては到底許せるものではないでしょう。
また、帝国から同盟への亡命は数多けれど、その逆が極めて微少でしかないことは、それこそ原作知識から容易に理解できることでしかないはずです。
同盟の体面から考えても、機密保持の観点から言っても、同盟はヴァレンシュタインの逆亡命計画を何が何でも阻止せざるをえないわけで、その実現可能性は極めて困難なシロモノであると言わざるをえないのですが。
まさか、原作にも全くない逆亡命計画を原作知識とやらで乗り越えられる、などとはいくらヴァレンシュタインでも考えてはいますまい?

もしそれでもヴァレンシュタインがあくまで逆亡命にこだわるのであれば、彼はそもそも同盟軍内で職を得るべきではありませんでした。
軍に入った時点で機密を外に漏洩しないことを誓約させられるのですし、それに反する動きをしようとするだけでも罰せられるのですから。
本当に逆亡命がしたかったのであれば、同盟にある程度の情報を提供した後に軍に入らず一般人として活動するか、あるいはフェザーンへの亡命斡旋でも頼むべきだったのです。
しかもそれでさえ、同盟の当局から監視の目が向けられることはまず避けられなかったでしょう。
同盟に限らず、国家の安全保障や防諜というのはそうやって保たれているものなのですから。
こんなことは原作知識とやらを持たなくても普通に理解できそうな一般常識でしかないはずなのですが、同盟の実情と未来を熟知しているであろうヴァレンシュタインがそんな簡単なことすらも理解できていないとは、その頭の中身は相当なまでの濃密な香りが漂うお花畑が広がっているとしか評しようがありませんね。
あんなバカげた逆亡命計画が成功するなどと、まさか本気で考えてでもいたのでしょうか、ヴァレンシュタインは。
挙句、「俺は前線になんか出たくないんだ」「俺はやられた事は数倍にして返さないと気がすまないんだ」などと軍上層部に怒りを抱くのに至っては、もはや理屈もへったくれもない単なる逆恨みの類でしかありません。
この後、ヴァレンシュタインは同盟軍から抜けるに抜けられない状況に陥るわけですが、そうなった最大の元凶はヴァレンシュタインの自己中心的な思考と感情的な言動、そして何よりも原作知識さえをも黙殺した見通しの甘さによる自業自得以外の何物でもないのです。
その辺りのことを、ヴァレンシュタインはきちんと理解できているのでしょうかねぇ(-_-;;)。

「亡命編」におけるヴァレンシュタインの珍道中はまだまだ始まったばかり。
この後も延々と続くことになるヴァレンシュタインのトンデモ言動とその他作中キャラクターの「現実を一切直視しない装飾過剰な美辞麗句の数々」は、読者である我々に多種多様なツッコミの楽しみを提供してくれています。
その点でエーリッヒ・ヴァレンシュタインという人物は、高度に熟成された天然サンドバッグお笑い芸人であるとすら言えましょう(爆)。
この面白キャラクターの軌跡を、当ブログでは今後も追跡していきたいと思います。

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