銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察3
「亡命編」の8話で、ヴァンフリート星系に存在する同盟軍の補給基地へ赴任するよう命じられたエーリッヒ・ヴァレンシュタイン。
原作ではラインハルトとリューネブルクによって壊滅に追い込まれることになっているそこへ赴任する羽目となったヴァレンシュタインは、自らが生き残るために歴史を改変することを決意、そしてここが「亡命編」における重要なターニングポイントとなるのです。
そして同時に、「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦は、ヴァレンシュタインの愚劣な発想・醜悪な性根・滑稽な空回り、およびそれに基づいた思い上がり・責任転嫁・自己正当化・八つ当たり・厚顔無恥と、ヴァレンシュタインの負の側面と本性がこれでもかと言わんばかりに前面に出ているストーリーでもあります。
こんな精神異常と人格破綻を同時にきたしているような「狂人」を無条件で受け入れる同盟って、何と寛大な(それ故に低能かつ御都合主義な)政体なのかと、つくづく痛感せずにはいられなかったですね(笑)。
今回はこのヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインの思考・言動について検証してみたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓
亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
「亡命編」におけるヴァンフリート星域会戦絡みの話を読み進めていて、まず最初に爆笑せざるをえなかったのはこの記述ですね↓
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/12/
> 此処までは特に原作との乖離は無い。両軍が繞回運動を行なった事、混乱した事、原作どおりだ。酷い戦だよ、ヴァンフリートのような戦い辛い場所で繞回運動だなんて帝国軍も同盟軍も何考えてるんだか……。
>
> 特にロボス、同盟軍の総司令官なのに基地の事なんて何も考えていないだろう。目先の勝利に夢中になってるとしか思えん。こいつが元帥で宇宙艦隊司令長官なんだからな、同盟の未来は暗いよ。
これを読んだ瞬間にすぐさま入れたツッコミは「お前が言うな!」でしたね(苦笑)。
そもそもヴァレンシュタインがヴァンフリートに赴任せざるをえなくなった最大の原因は、「帝国への逆亡命計画」なる未来図を構築していながら、目先の復讐感情を満足させることに夢中になり、不要不急に自身の有能さを発揮して注目の的になってしまったことにあるわけでしょう。
目先のことばかりに目を奪われて大局的な視野が欠落しているという点では、ヴァレンシュタインもまたロボスと同レベル以下でしかないのです。
そしてさらに笑えるのは、そんな過去の自分の言動を顧みて「あそこでは自分の行動が拙かった」的な自責や自省の類どころが、そもそも「自分の行動が間違っていた」という自覚や認識すらも全くないことです。
ヴァレンシュタインの頭の中では、自分の行動は全て正しく、自己一身の得手勝手な都合でしかない「帝国への逆亡命計画」を妨害するかのような人事を繰り出す他者は人類の敵であるかのごとく全て悪い、ということにでもなっているのでしょう。
その辺りの無反省・自己正当化な性格は、ロボスどころかフォークにすら通じるものがあります。
帝国にせよ同盟にせよ、こんな人間が重鎮になる陣営の未来は、はっきり言って「暗い」どころの騒ぎではないのではないですかねぇ(苦笑)。
さて、原作知識からヴァンフリート4=2の補給基地に赴任することを渋りつつも命令として行かざるをえなくなったヴァレンシュタインは、交換条件とばかりにキャゼルヌに対し大量の物資と人員を要求します。
(すくなくとも同盟軍的には)過剰とすら言える戦力を配備し、来襲するであろう帝国軍を圧倒することで原作の歴史を改変しようとしたわけです。
そして一方、大量の物資を要求されたキャゼルヌもまた、シトレの了承の下、ヴァレンシュタインの要求に応えてくれました。
少佐に昇進したばかり、それも亡命者であるヴァレンシュタインの立場では本来とても要求できるような物量ではないレベルの融通を、ヴァレンシュタインは通してもらったわけですね。
実際、物資を要求されたキャゼルヌは、様々な方面から苦情や嫌味を言われていたみたいですし(10話)。
ところがヴァレンシュタインは、このことに対してキャゼルヌやシトレに感謝するような素振りすら全く示さないばかりか、「こんな程度のことでは足りない」と言わんばかりの態度を貫き通す始末だったりするんですよね。
挙句の果てには、自分に物資を融通することを承認してくれたシトレ一派に対して、こんな疑心暗鬼なことを考えるありさま↓
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/15/
> 残念だが基地の安全は未だ確保されたわけではない。味方艦隊がヴァンフリート4=2に来ない。本当なら第五艦隊が来るはずだが、未だ来ない……。第五艦隊より帝国軍が先に来るようだと危険だ。いや、危険というより必敗、必死だな……。
>
> 原作では同盟軍第五艦隊がヴァンフリート4=2に最初に来た。第五艦隊司令官ビュコックの判断によるものだった。念のためにヤン・ウェンリーを第五艦隊に置いたが、失敗だったか……。原作どおりビュコックだけにしたほうが良かったか……。
>
> それともヤンはあえて艦隊の移動を遅らせて帝国に俺を殺させる事を考えたか……。帝国軍が俺を殺した後に第五艦隊がその仇を撃つ。勝利も得られるし、目障りな俺も消せる……。有り得ないことではないな、俺がヤンを第五艦隊に送った事を利用してシトレあたりが考えたか……。
>
> ヤンは必要以上に犠牲を払う事を嫌うはずだ。そう思ったから第五艦隊に送ったが誤ったか……。信じべからざるものを信じた、そう言うことか……。慌てるな、此処まできたら第五艦隊が来る事を信じるしかないんだ。
……自分が融通してもらった物資や戦力の数々をすっかり忘れてしまっているとしか思えない発想ですよね、これって。
本気でシトレが、ヴァレンシュタインが考えているようなやり方で見殺しにしたいと考えるのであれば、そもそもヴァレンシュタインのために物資を融通するなんてことをするはずもないでしょう。
ヴァレンシュタインの要求など一切認めず、そのまま身ひとつでヴァレンシュタインをヴァンフリート4=2の補給基地に赴任させて、後は知らん顔を決め込んでいれば良かったわけですし。
第一、たかだかヴァレンシュタインひとりを殺すために基地を丸ごと見捨てるなんて、払うべきリスクが高すぎる上に壮大なコストパフォーマンスの浪費でしかありません。
基地が失われた時点で軍上層部に対する非難は避けられないのですし、それはシトレにとっても手痛いダメージとして返ってこざるをえないのですから。
ましてや、その前にヴァレンシュタインに大量の物資と戦力を送りしかもそれが全て失われたとなれば、「何故わざわざそんなことをしたんだ!」と更なる責任問題にまで発展してしまうことは必至です。
何しろ、ヴァレンシュタインの過剰な要求を認めたのはキャゼルヌであり、それを最終的に承認したのはシトレなのですから、当然火の粉も盛大に降りかからざるをえないわけで。
ヴァンフリートの補給基地に新規配備された大量の物資と戦力を見ただけでも、「今自分を見捨てることはシトレにとっても損失になる」という常識的な結論に、いとも簡単に思い至るはずでしょうに。
せっかく過大な物資や戦力を融通してもらったことも忘れてこんな被害妄想にふけっているのでは、ヴァレンシュタインは「忘恩の徒」「鶏のような記憶力の欠如」のそしりを免れないでしょう。
それでもあくまでヴァレンシュタインが「シトレは自分を抹殺したがっている」と考えるのであれば、本来何よりも最優先で警戒しなければならなかった人物がいます。
それは自身の監視を行っているバグダッシュとミハマ・サアヤです。
この2人は「シトレの承認の下で」ヴァレンシュタインの監視と報告を行っているわけですし、いざとなればすぐにでもヴァレンシュタインを暗殺することができる位置に【常時】いるのです。
この位置的な問題に加え、バグダッシュは原作でも救国軍事会議クーデター側の手先としてヤンを暗殺しようとした作中事実がありますし、ミハマ・サアヤはその彼の部下。
他にも原作には、用兵では不敗を誇ったヤンがあっさりと暗殺に倒れた作中事実や、ラインハルト&キルヒアイスがベーネミュンデ侯爵夫人の刺客によってしばしば生命の危機に晒された事例、さらにはブルース・アッシュビーが会戦の帰趨が決した直後に不可解な戦没を強いられた歴史などもあり、かつそれらの知識を当然ヴァレンシュタインは知っているのですから、それと自分の境遇を重ね合わせることくらい簡単に行えたはずです。
ヴァレンシュタインが抱え込んでいる諸々の原作知識から考えても、バグダッシュとミハマ・サアヤの2人は真っ先に警戒対象にならなければおかしいのです。
当時のバグダッシュとミハマ・サアヤが実際にどんなことを考えていたのかはこの際何ら問題ではなく、ヴァレンシュタインの立場から見てこの2人がどれだけ危険な位置にいるのかだけが問われるのですから。
そもそも「亡命編」におけるヴァレンシュタイン自身、第5次イゼルローン要塞攻防戦の最中に自分の生命を暗殺者に直接狙われた過去があったりするわけですし、「同じことを二度と繰り返させない」ためにも、自分の身辺に対する警戒心は本来過剰過ぎても良いくらい身についていて然るべきはずではありませんか。
戦場のドサクサに紛れてヴァレンシュタインを直接暗殺し「名誉の戦死」的な扱いにでもすれば、会戦の帰趨に関わりなくヴァレンシュタインを「効率良く使い潰す」こともはるかに容易となりますし、その方がコストパフォーマンスも払うべきリスクも大幅に安くて済みます。
ヴァレンシュタインの被害妄想的な思考パターンから言っても、不確実極まりないシトレやヤンの動向などよりも、むしろこちらの可能性にこそ思いを致さなければならなかったはずです。
アレだけ「自分が生き残る」ということに固執しているにもかかわらず、また暗殺者に狙われた過去があるにもかかわらず、自分の身辺に対する警戒心が能天気も極まれりなレベルで甘くかつ薄すぎると断じざるをえないですね。
原作知識も相変わらずロクに使いこなせていないですし、これでは宝の持ち腐れもいいところです。
それともまさか、「基地を丸ごと見捨てでもしない限り、偉大なる不死身の俺様を殺すことはできない」とでもヴァレンシュタインは考えていたりしていたのでしょうか?
まだまだ続きますが今回はここまで。
次回の考察でも、ヴァンフリート星域会戦におけるヴァレンシュタインの言動と思考を追跡します。