銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察6
作者氏の意図的にはメインヒロインとして登場させたであろう「亡命編」オリジナルキャラクターであるミハマ・サアヤ。
しかしあちらのサイトの感想欄では、上司たるバグダッシュ共々非難轟々な惨状を呈するありさまで、「亡命編」における鼻つまみ者的な扱いを受けています。
ところがそのような状態にあるにもかかわらず、非難が頻出するのにあたかも比例するかのように、ミハマ・サアヤの描写は次々と展開され続け、設定もどんどん詳細になっていくという奇怪な状況が続いています。
ミハマ・サアヤに対する作者氏の力の入れようと感想欄のギャップを見た時、私は最初「ミハマ・サアヤというキャラクターは【釣り】【炎上マーケティング】を意図して作られた存在なのではないか?」とすら考えたくらいなんですよね。
わざと読者の反感を煽るような造詣のキャラクターをことさら作り出し、それによってヴァレンシュタインへの同情票を集め読者を惹きつけることを目的とした【釣り具の餌】、それこそミハマ・サアヤが作者氏によって与えられた真の役割なのではないか、と。
もしミハマ・サアヤが本当にそんな意図で作られたキャラクターなのであれば、まさに作者氏の目論見は充分過ぎるほどに達成されたと言えるのでしょうが、ただそれにしてもミハマ・サアヤ絡みの作中描写には奇妙なものが多すぎるとは言わざるをえないところです。
そんなわけで今回の考察では、エーリッヒ・ヴァレンシュタイン本人ではなく、彼の動向について多大なまでに関わっている、「亡命編」のオリジナルキャラクターであるミハマ・サアヤとバグダッシュのコンビについて論じていきたいと思います。
ミハマ・サアヤの評判が著しく悪化したのもヴァンフリート星域会戦以降でしたし、ちょうど次の会戦までを繋ぐ幕間ということで(^^;;)。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓
亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
ミハマ・サアヤという人物は、その序盤の言動を見るだけでも「超弩級の天然が入っている」以外の何物でもない様相を披露しています。
そもそもの出会いからして、ミハマ・サアヤは「原作知識が使えない」はずのヴァレンシュタインにいいようにあしらわれている始末ですからね。
ヴァレンシュタインの監視を始めてからわずか4日で自身の素性がバレたのみならず、バグダッシュが上司であることまでもが筒抜けになっていましたし。
まあこれだけならば、そもそも士官学校を卒業して間もない新人でしかなかった人間に「監視」などという高度な任務を、しかも単独で与えたバグダッシュにこそ一番の責任があると評するところですが、ミハマ・サアヤの暴走はむしろここから始まります。
アルレスハイム星域会戦では、ヴァレンシュタインの言うがままに、作中では「パンドラ文書」などというご大層な名前で呼ばれていたらしいヴァレンシュタインの監視報告書を書き綴ってしまうミハマ・サアヤ。
フェザーンでも、これまたヴァレンシュタインの言うがままにヴァレンシュタインと帝国側の人間との情報交換に加担した上、その詳細を「彼らの想いを汚したくない」「情報部員としては間違っていても人としては正しい姿なのだ」などという個人的な感情から上層部に報告しなかったミハマ・サアヤ。
そしてヴァンフリート星域4=2の補給基地に赴任するよう命じられ、ヴァレンシュタインが(自分の問題を他者に責任転嫁しながら)豹変した際には、「昔のヴァレンシュタインに戻って欲しい」などという感傷に浸りまくるミハマ・サアヤ。
挙句の果てには、フェザーンでの前科を忘れて自分に盗聴器を仕込んだバグダッシュ相手に「自分を信じないなんて酷い」などとなじり、ついには自身の監視対象であるはずのヴァレンシュタインを相手に「私は信じたい」「私を信じて下さい」などとのたまってみせるミハマ・サアヤ。
原作知識の援護が全く受けられない状況下のヴァレンシュタイン相手にここまでの失態を晒してしまうミハマ・サアヤは、すくなくとも「監視者」としては相当なまでの無能者であるとしか評しようがなく、またこんな人間に「監視」などという任務をあてがった「亡命編」のバグダッシュもまた、多大なまでに任命&監督責任が問われなければならないところです。
では、ミハマ・サアヤが乱発しまくった一連の問題だらけな言動は、一体どこから出てきているのか?
それは「プロ意識の完全なる欠如」の一言に尽きます。
そもそも、彼女の「監視者」としての仕事の様子を見ていると、実は監視対象に対して公私混同レベルの感情移入をしているのが一目瞭然だったりするんですよね。
フェザーンでヴァレンシュタインの個人的事情に感動?するあまり、報告書を上げる義務を放棄した一件などはまさにその典型でしたし。
監視対象の事情がどうだろうと、それと自分の仕事内容はきちんと区別した上でほうれんそう(報告・連絡・相談)を遂行することこそが、プロの職業軍人として本来全うすべき基本的な義務というものでしょう。
ましてや、ミハマ・サアヤがヴァレンシュタインに入れ込む動機自体が、監視任務や同盟の動向とは何の関係もない、単なる自己感情を満足させるだけのシロモノでしかないのですからなおのこと。
第一、ヴァレンシュタインがミハマ・サアヤを油断させるための演技の一環として、そういったアピールをしていないという保証が一体どこにあるというのでしょうか?
自分の無害ぶりをアピールし、監視者に「こいつは安全だ」と錯覚させ、自分に対する疑惑を解除させた上で油断を誘いつつ、裏で諸々の工作を展開したり、「決行」の日に備えて準備を進めたりする。
「スパイ容疑」をかけられている相手が本当にスパイなのであれば、むしろそういう「したたかさ」を披露しそうなものですし、監視する側も予めそういう想定をしておく必要が確実にあるはずなのですけどね。
監視されている身であることを充分に承知していながら「私は同盟に仇なすことを画策しています」などという自ら墓穴を掘る自爆発言をやらかして平然としているような奇跡的な低能バカは、それこそヴァレンシュタインくらいなものなのですから(爆)。
監視者としてのミハマ・サアヤの仕事は、そういった可能性をも勘案した上で、ヴァレンシュタインの言動の一切合財全てを疑いながら素性を明らかにし、その全容を余すところなく上層部に報告していく、というものでなければならないはずでしょう。
監視対象の境遇を「理解」するところまではまだ仕事の範疇ですが、そこから同情したり親愛の感情を抱いたり、ましてや上への報告の義務を怠ったりするのは論外です。
仕事に私的感情を持ち込み、公私を混同する点から言っても、ミハマ・サアヤは能力以前の問題でプロの職業軍人として失格であると評さざるをえないのです。
軍人に限らずプロ意識というものは、ただその職に就きさえすれば自動的に備わるなどというシロモノでは決してないのですけどね。
また、元来「監視対象と監視者」という関係でしかないヴァレンシュタインとミハマ・サアヤとの間には、相互信頼関係を構築できる余地自体が【本来ならば】全くないはずなのです。
考察3でも述べましたが、「自分が生き残る」ことが何よりも優先されるヴァレンシュタインにとって、自分の言動を監視しいつでも自分を暗殺できる立ち位置にいるミハマ・サアヤは、原作知識が活用できないことも相まって、本来ラインハルト以上に厄介な脅威かつ警戒すべき存在です。
さらにヴァレンシュタインは、「帝国への逆亡命計画」などという他者に公言できない後ろ暗い秘密を、すくなくとも17話までは(周囲にバレていないと思い込んで)ひとりで抱え込んでいたわけですから、なおのこと監視の目を忌避せざるをえない境遇にあったはずでしょう。
そしてミハマ・サアヤはミハマ・サアヤで、実は暗殺どころか、自分の胸先三寸次第でいつでもヴァレンシュタインを合法的に処刑台へ送ることができるという絶対的な強みがあるのです。
何しろ、もっともらしい証拠と発言を元に「ヴァレンシュタインは帝国のスパイです」という報告書をでっち上げるだけで、ヴァレンシュタインをスパイ容疑で逮捕拘束させ軍法会議にかけることが可能となるのですから。
別に虚偽でなくても、フェザーンでの一件と、ヴァンフリート星域会戦後における自爆発言などは、事実をそのままありのままに書いただけでも【本来ならば】ヴァレンシュタインを処刑台に追いやることが充分に可能な威力を誇っていましたし。
彼女はその立場を利用することで、ヴァレンシュタインに対等の関係どころか自分への服従・隷属を要求することすらも立場上行うことが可能だったのですし、逆にヴァレンシュタインがそれを拒むことはほぼ不可能なのです。
下手に反抗すれば、それを「スパイ容疑の動かぬ証拠」として利用される危険があるのですし、仮にミハマ・サアヤを何らかの形で排除できたとしても、後任の監視者がミハマ・サアヤと全く同じ立場と強みを引き継ぐことになるだけで、ヴァレンシュタインにとって事態は何も改善などされないのですから。
こんな2人の関係で、相互信頼など築ける方が逆にどうかしているでしょう。
表面にこやかに左手で握手を交わしつつ、右手に隠し持った武器を相手に突き込む隙を互いに窺い合う、というのが2人の本当のあるべき姿なのです。
にもかかわらず、ヴァレンシュタインはミハマ・サアヤについて外面だけ見た評価しか行わず安心しきってしまい、「実はそれは自分を騙すための擬態であるかもしれない」という可能性についてすらも全く考慮していませんし、ミハマ・サアヤもヴァレンシュタインに対して「私は信じたい」「私を信じて欲しい」などとのたまう始末。
自分達の置かれている立場に思いを致すことすらなく、小中学生のトモダチ付き合いレベルの関係を何の疑問もなく構築している2人を見ていると、「人間ってここまで『人を疑わない善良なお人良し』になれるのだなぁ」という感慨を抱かずにはいられないのですけどね(苦笑)。
正直、2人共おかしな宗教の勧誘や詐欺商法の類に簡単に引っ掛かりそうな「カモ」にしか見えないのですが(笑)。
ただ、ヴァレンシュタインとミハマ・サアヤは、立場的なものを除いて個人的な性格という面だけで見れば、非常に「お似合い」な男女の組み合わせではあるでしょうね。
ミハマ・サアヤがヴァレンシュタインにあそこまで入れ込むのは、突き詰めれば「自分のため」でしかなく、その点についてはヴァレンシュタインと全く同じなのです。
ヴァレンシュタインがヴァンフリート4=2の補給基地赴任を命じられて発狂した際も、ミハマ・サアヤが考えたのは「ヴァレンシュタインが作った美味しいスイーツをまた食べたい」「今のままでは居心地が悪いから昔に戻ってほしい」というものでしたし、フェザーンでの命令違反や「私を信じて」云々の発言も、任務とは全く無関係の私的感情からです。
ミハマ・サアヤがヴァレンシュタインのことを気にかけるのは、何もヴァレンシュタインのことを想ってのことなどではなく、単なるその場その場の自己都合か、または「こんなに愛しのヴァレンシュタインのことを心から心配し彼に尽くしている(つもりの)私ってス・テ・キ」みたいな自己陶酔の類でしかないわけです。
何でも「自分は正しく他人が悪い」で押し通す自己正当化と他罰主義のモンスタークレーマーであるヴァレンシュタインと、仕事中に公私混同ばかりやらかして自己に都合の良い選択肢を都度優先するミハマ・サアヤ。
形は少し異なりますが、どちらも「自己中心的」「自分のことしか見ていない&考えていない」という点では完全無欠の同類としか言いようがなく、だからこそ2人は「お似合い」であるというわけです。
もちろん、世の中には「同族嫌悪」「近親憎悪」という概念がありますし、自分しか見ていない者同士では相互コミュニケーション自体が全く成り立たないのですから、「お似合い」だからといって気が合うはずも仲良くなれるわけもないのですが。
ただ、「似た者同士でもでもどちらがよりマシなのか?」と問われれば、どう見てもミハマ・サアヤの方に軍配が上がってしまうのですけどね。
ミハマ・サアヤはすくなくとも被害妄想狂ではありませんし、まだ自分の言動を振り返ることができるだけの自省心くらいはかろうじて持ち合わせているわけですが、狂人ヴァレンシュタインにそんなものは全く期待できないのですから(爆)。
次回の考察から再びヴァレンシュタインの言動についての検証に戻ります。