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2012年04月26日の記事は以下のとおりです。

映画「わが母の記」感想

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映画「わが母の記」観に行ってきました。
作家・井上靖の同名小説を原作に役所広司・樹木希林・宮崎あおいが主演を演じる、高度成長期の古き良き昭和の時代を舞台とした人間ドラマ作品。
今作は本来、2012年4月28日公開予定の映画なのですが、今回もたまたま試写会に当選することとなり、公開予定日に先行しての観賞となりました。
まあ、今回はほんの数日程度の違いでしかなかったですけどね(^^;;)。

土砂降りの雨が降る中、幼い妹2人と共に雨宿りをする母親を、少し離れたところでただひとり見つめる自分――。
1959年、役所広司が演じる今作の主人公にして小説家の伊上洪作は、老齢で身体の容態が思わしくない父親の隼人を見舞うべく他の家族と共に訪問していた、現在の静岡県伊豆市湯ヶ島にある郷里の実家で、昔見た母親の八重の光景について回想していました。
洪作は、5歳の頃に2人の妹を連れて当時は日本領だった台北へと行ってしまい、以後13歳になるまで自分のことを放置していた母親に対する恨みとわだかまりをずっと抱き続けていました。
母親は自分だけを捨てていった、と洪作は考えたわけですね。
八重がそうするに至った本当の理由については物語後半で明らかとなるのですが、今作はこの「母子関係の葛藤と心情」が大きなテーマのひとつとなっていきます。
さて、もう長くないであろうことが確実な父親と半ば「最後の別れ」的な対面をした洪作は、ついさっき自分に言った発言を二度も繰り返す母親に「困ったものだ」的な苦笑いを浮かべていました。
実はこの頃からすでに、八重の老人ボケは既に進行しつつあったのですが。
洪作は東京ではそれなりに売れている小説家で、その東京の家では、まもなく売り出す予定の洪作の新刊に、洪作の家族が一家総出で検印を押し続けていました。
……ただし、洪作の三女である琴子を除いて。
湯ヶ島から帰ってきて、家族に加えて編集者も共にした夕食会でも全く姿を見せようとしない琴子に怒りを覚えた洪作は、琴子の部屋へ直接怒鳴り込みに行く亭主関白ぶりを見せつけます。
琴子は琴子で、父親に対する反抗心丸出しな様子を隠そうともしませんし。
ところがその日の深夜、昼に見舞いに行った父親・隼人の容態が急変し、そのまま逝去したとの連絡が伊上家にもたらされます。
ささやかながらも一族総出の葬儀が行われる中、父親に対する反発も手伝ってか、琴子は八重に話しかけ、洪作絡みの話題にしばしの時を費やすのでした。

以後、1960年、1963年、1966年……と時間が過ぎていき、1973年に八重が亡くなるまで物語は続いていくことになります。
時が進むにしたがって八重の老人ボケの症状はますます酷さを増していきます。
1966年頃になると、もう現在の息子の顔すらも忘れ、ただひたすら昔の思い出を途切れ途切れかつ脈絡もなく思い出しながら、たちの悪い放浪癖で家族をハラハラさせるような状態にまで至ってしまいます。
洪作も琴子もその他の家族の面々も、それぞれの人生を歩みつつ、そんな八重の様子を時には気にかけ、時には激怒しつつ見守っていくのですが……。

映画「わが母の記」は、認知症の実態を描いているという点においては、映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」に近いものがあります。
ただ、あの作品が「マーガレット・サッチャーの現状と本人の視点」に重点を置きすぎて観客の期待からは大きく外れた形で終始していたのに対し、今回は最初から「母親の認知症」を前面に出し、かつ母親周辺の人々にスポットを当てている点が、違うと言えば違うところですが。
今作では「認知症を患っている母親本人の視点」というものは一切登場せず、あくまでも「認知症の母親を見る周囲の視点」だけでストーリーが進んでいきます。
認知症患者の物忘れや奇行ぶりに振り回され悩まされ続ける家族の様子もよく描かれており、その点では地に足のついた現実味のある物語に仕上がっています。
ただ、全体的に淡々と進みすぎた感があり、特に1973年に八重が死ぬことになるラストを飾る「八重とのお別れ」の描写は「あれ? これで終わり?」的なあっけなさがありましたね。
あまりにあっけなさ過ぎてエンドロール後に何かあるのかと期待していたら、結局そちらでも何もなかったですし。
まあ正直、あの段階だと洪作と八重絡みのしがらみも終わってしまっていますし、あれ以外に締めようもなかったというのが実情ではあったのでしょうが、あそこはもう少し何かを感じさせる終わり方でも良かったのではないかと。

物語のハイライトは、やはり何といっても1969年の2つのシーンですね。
ひとつは、「洪作が少年時代に自作したものの本人ですら忘れていた詩の内容を八重が全て諳んじて、洪作が号泣するシーン」。
琴子との会話で出てきた少年時代の詩のエピソードがああいう形で繋がる点も見事の一言に尽きましたし、また洪作の「男泣き」も役所広司ならではの安定した上手い演技でした。
ふたつ目は、予告編でもある程度明示されていた「海辺で洪作が八重をおんぶするシーン」。
こちらは、終盤で徘徊していた八重が、人の良いトラックの運ちゃんに乗せられて海に向かったという情報が出た時点で「ああ、あのシーンが来るな」と簡単に予想はついたのですが、琴子に連れられた八重が洪作に背負われ、2人で一緒に海を歩くシーンは確かに充分絵になる描写でした。
映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」ほどのサプライズ感はさすがになかったものの、家族愛を表現する描写としては邦画の中でもトップクラスに入るものなのではないでしょうか。

ただこの映画、アクションシーンのような派手な描写は全くないですし、人間ドラマとしても全体的に起伏が少な過ぎる感が否めないので、正直言って「観る人を選ぶ」作品ではありますね。
出演俳優は豪華ですし演技も上手いので、俳優のファンの方々には一見の価値があるでしょうけど、果たして一般向けなのかと言われると……。
内容から考えるとシニア層&主婦層向けの作品、ということになりますかねぇ、やっぱり。

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