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2012年06月08日の記事は以下のとおりです。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察12

二次創作には「メアリー・スー」と呼ばれる用語があります。
「メアリー・スー」とは、原作の登場人物をはるかに凌ぐ実力と優秀さを兼ね備え、原作の主人公をもそっちのけにして万能的に活躍し、主人公も含めた原作キャラクターや読者から無条件に畏怖・礼賛されるオリジナルキャラクターの総称です。
この用語の由来は、「スタートレック」の二次創作に登場した女性のオリジナルキャラクター「メアリー・スー大尉」にあるのだとか。
欧米の二次創作では、「メアリー・スー」は物語の世界観を破壊しかねないという理由からその存在そのものが忌み嫌われ、敬遠される傾向にあるのだそうですが、日本では一次創作からして「メアリー・スー」のごとき万能系の主人公が登場し他を圧倒して活躍する作品も珍しくない(創竜伝や薬師寺シリーズもそうですし)ためか、意外と受け入れられているフシが多々ありますね。
そして、「本編」も「亡命編」も含めた「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」もまた、典型的過ぎるほどに「メアリー・スー」の系譜に属する二次創作であると言えるでしょう。
この「メアリー・スー」のオリジナルキャラクターが持つ特性を、ヴァレンシュタインは軒並み踏襲している始末ですからねぇ(苦笑)。
以下のページでは、自分が作成した二次創作の「メアリー・スー度」を診断することができるのですが、作者氏自身の性格や意向が絡む要素を抜きにして「作中に表れている主人公の傾向」のみに限定しても、かなりの項目にチェックが入ってしまいますし↓

Mary Sueテスト
http://iwatam-server.sakura.ne.jp/column/marysue/test.html

同じサイトの別ページでは、「メアリー・スー」が良くない&嫌われる理由について、以下のようなメッセージが込められているからだと書かれています↓

http://iwatam-server.sakura.ne.jp/column/marysue/index.html
<今の自分は酷い扱いを受けているけど、本当は秘めた能力を持っている。自分がこんな扱いを受けているのは、単に自分の能力を発揮する機会を与えられなかっただけだ。今みたいに周囲に悪い人しかいないのではなく、良き理解者がいればもっと活躍できるのに。

思わず笑ってしまったのですが、これってヴァレンシュタインが常日頃抱いている被害妄想そのものでもありますよね。
ヴァレンシュタインはまさに、「自分のことを理解できない他人が悪い」「自分の意図を忠実に実行できない他人が悪い」「自分の意に沿わない他人は無条件で悪だから何をしても良い」「だから常に自分は正しく他人が悪い」的なことばかり主張し、自分の責任や失態を免罪すると共に他者を罵倒しまくっているのですから。
しかし、作中におけるヴァレンシュタインの言動が正当化されるためには、どう考えても「良き理解者」どころか「全知全能の神」でも味方につけないと不可能なレベルであるようにしか見えないのが何とも言えないところで(T_T)。
ヴァレンシュタインが「メアリー・スー」を貫くなら貫くで、もう少し読者にその有能さを納得させられるだけの理論的説得力や物語的な必然性といったものが伴っていて欲しいものなのですけど。
また、「メアリー・スー」は作者の願望や理想が投影されたものでもあるそうなのですが、「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝」の作者氏は、あんなシロモノになりたいとかアレが理想像であるとか本気で考えていたりするのですかねぇ……。
いくら希少価値があるからと言っても、狂人やキチガイに魅力を感じ憧れを抱くというのも考えものではあるのですが。

それでは、今回より第6次イゼルローン要塞攻防戦が終結して以降の話を検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11

暴言と失態を重ねるたびに何故か周囲から絶賛され昇進していく、原作「銀英伝」のビッテンフェルトすらも凌ぐ文字通りの「奇跡の人」ヴァレンシュタイン。
38話の軍法会議で、本来ならばありえるはずもない無罪判決を「神(作者)の奇跡」によって勝ち取ってしまったヴァレンシュタインは、しかしそのことについて神(作者)に感謝もしなければ悔い改めることもなく、相変わらずの「我が身を省みぬ狂人」ぶりを披露してくれています。
特に、ミュッケンベルガーが辞任して空位になった帝国軍宇宙艦隊司令長官の後任に誰が就くのかについて聞かれた際にこんな回答を返したことなどは、軍における自分とロボスの関係自体をすっかり忘れてしまっているのではないかとすら危惧せざるをえないほどなのですが↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/40/
> 部屋が静まり返りました。准将のいう事は分かりますが私にはどうしても納得いかないことが有ります。
> 「准将、周囲の提督達はどうでしょう。素直に命令に従うんでしょうか?」
>
> 私の問いかけに何人かが頷きました。そうです、いきなり陸戦部隊の指揮官が司令長官になると言っても提督達は納得できないと思うのです。准将は私の質問に軽く頷きました。
>
>
「従わなければ首にすれば良い。そして若い指揮官を抜擢すれば良いんです」
> 「若い指揮官?」
> 「ええ、今帝国で本当に実力が有るのは大佐から少将クラスに集中しているんです。彼らを抜擢して新たな宇宙艦隊を編成すればいい」
> 「……」

じゃあ何故ロボスは、上官侮辱行為だの214条発動の進言だのを行ったヴァレンシュタインを処断することができなかったのでしょうかねぇ(笑)。
「従わなければ首にすれば良い」というのであれば、当然ロボスもヴァレンシュタインに対してそれが行えたはずなのに。
ヴァレンシュタインがロボスに対して行っていたことは誰の目にも明らかな軍規違反だったのであり、またヴァレンシュタインがロボスに露骨なまでの反抗の意思を示していたのもこれまた明白だったのですから。
その際にヴァレンシュタインが自己正当化の手段として掲げていた「司令官は無能低能&無責任だ」程度の言い訳ならば、オフレッサーが自分達の上官になることに不満を持つ軍人であれば誰だって言うでしょうよ。
上記引用にもある通り、「いきなり陸戦部隊の指揮官が司令長官になると言っても提督達は納得できないと思う」事態は当然発生しえるのですから。
つまりヴァレンシュタインは、「あの場における自分は上官たるロボスに排除されて当然の人間だった」と自分から告白しているも同然であるということになってしまうわけです(爆)。
せっかく「神(作者)の奇跡」で無罪判決を恵んでもらったというのに、その正当性を自分から破壊するような言動を披露しているようでは世話はないですね。
まあそれ以前に、あの当時のヴァレンシュタインの立場で「自分は何故ロボスから処断されなかったのだろう?」と少しも疑問に思わないのは論外もいいところなのですが(苦笑)。

自分の身に起こっている「神(作者)の奇跡」を「望外の幸運」として感謝するどころか至極当然のものとすら認識しているヴァレンシュタインの傾向は、同盟軍における宇宙艦隊司令長官の後任人事話の際にも垣間見ることができます。
ここでヴァレンシュタインの恰好の被害妄想サンドバッグにされてしまっているのは、同盟軍ナンバー1の統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥です↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/41/
> 「なら、お前は誰が司令長官に相応しいと思うんだ」
> 「シトレ元帥です」
> 「な、お前何を言っているのか、分かっているのか?」
> ワイドボーンの声が上ずった。まあ驚くのも無理はないが……。
>
> 軍人トップの統合作戦本部長、シトレ元帥が将兵の信頼を取り戻すためナンバー・ツーの宇宙艦隊司令長官に降格する。本来ありえない人事だ。だがだからこそ良い、周囲もシトレが本気だと思うだろう。彼の“威”はおそらく同盟全軍を覆うはずだ。その前で反抗するような馬鹿な指揮官など現れるはずがない。オフレッサーにも十分に対抗できるだろう。
>
> 俺がその事を話すとワイドボーンは唸り声をあげて考え込んだ。
> 「これがベストの選択ですよ」
> 「それをシトレ元帥に伝えろと言うのか?」
> 「私は意見を求められたから答えただけです。どうするかは准将が決めれば良い。伝えるか、握りつぶすか……」
> 「……」
>
> 「これから自由惑星同盟軍は強大な敵を迎える事になる。保身が大切なら統合作戦本部長に留まれば良い。同盟が大切なら自ら火の粉を被るぐらいの覚悟を見せて欲しいですね」
>
> 蒼白になっているワイドボーンを見ながら思った。
シトレ、俺がお前を信用できない理由、それはお前が他人を利用しようとばかり考えることだ。他人を死地に追いやることばかり考えていないで、たまには自分で死地に立ってみろ。お前が宇宙艦隊司令長官になるなら少しは信頼しても良い……。

もうここまで来ると、ヴァレンシュタインは常に被害妄想を抱いていないと死んでしまう病気の類でも患っているのではないか、とすら思えてきてしまいますね(苦笑)。
シトレが第5次イゼルローン要塞攻防戦の際に宇宙艦隊司令長官の職にあったという作中事実を、まさかヴァレンシュタインが知らないわけはないでしょう。
別に原作知識とやらがなくても、「亡命編」の世界の人間であれば誰でも普通に理解できる「過去の作中事実」でしかないのですから。
「たまには自分で死地に立ってみろ」も何も、シトレはとっくの昔にヴァレンシュタインが所望する宇宙艦隊司令長官の職を経た上で現在の地位にあるわけなのですから、「お前が戦争に行け」論的な批判など最初から当てはまりようがないのですが。
そもそも軍に限らず、組織の長というのは「組織全体の方針を決める」「人を使っていく」ことをメインの仕事としているのであり、その観点から見ればシトレは自分の職務を忠実にこなしているだけでしかありません。
むしろ、その立場にある者が他者を使うことなく自分で全ての仕事を処理していくことの方が、人材を死蔵させ下の者の仕事を奪うという二重の意味で迷惑極まりない話なのであり、一般的な評価でも「本来やるべき仕事をしていない」と見做されて然るべき行為なのです。
人の上に立つ者には人の下で働く者とは別の責任と義務があるのであり、それは決して楽なものでも軽いものでもないということくらい、よほどのバカでもない限りは分かりそうなものなのですけどね。

それにヴァレンシュタインにとってのシトレは、「死地に追いやる」どころか、むしろ「一生の恩人」とすら言って良いほどの恩恵をヴァレンシュタインに与えているはずではありませんか。
7話におけるフェザーンで帝国軍人であるミュラーと秘密の会話を交わしていた件では、そのことを報告しなかったミハマ・サアヤ共々、法的にも政治的にも本来ならばスパイ容疑で処断されても文句は言えない局面でした。
しかしシトレは、それでもヴァレンシュタインを「殺すには惜しい有用な人材」であると考え、彼に本当の同盟人になってもらおうと意図してヴァンフリート4=2への赴任を命じたわけです。
しかも、ヴァレンシュタインの要望に100%応え、大規模な戦力を増強させるという便宜を図ってまで。
それでヴァレンシュタインがヴァンフリート星域会戦を勝利に導き、シトレの意図通りになったかと思いきや、今度は「伝説の17話」で極刑ものの自爆発言を繰り出してしまう始末。
シトレにしてみれば、せっかくヴァレンシュタインを登用し要望まで全部聞いてやったにもかかわらず、自分と同盟の双方に対する裏切りの意思まで表明され憎まれる羽目となったのですから、「あれだけのことをしてやったのに」「自分の方こそ裏切られた」と激怒しても良さそうなものだったのですけどね。
そしてさらに38話では、どう見ても214条発動の緊急避難性を何も証明できていないヴァレンシュタインに対し、わざわざ無罪判決を出してしまうという「贔屓の引き倒し」もはなはだしい茶番&八百長行為すらも堂々とやらかしてくれたシトレ。
これらの過去の経緯を鑑みれば、ヴァレンシュタインはシトレに対し「一生かかっても返せないほどの恩恵を与えてくれた恩人である」と絶賛すらして然るべきはずでしょう。
いくら「神(作者)の奇跡」という絶対的な力の恩恵だからとは言え、異様なまでに理解のあるシトレがヴァレンシュタインを贔屓していなければ、ヴァレンシュタインはとっくの昔に「亡命編」の世界からの退場を余儀なくされていたのは確実なのですから。
にもかかわらず、ヴァレンシュタインは「自分に対する最大の良き理解者」でさえあるはずのシトレにすら、一片の感謝の意も示さないどころか憎悪すらしているときているのですから、その想像を絶する被害妄想狂ぶりにはもう呆れるのを通り越して笑うしかありません。
自分がいかに原作知識や能力とは全く無関係なところから、それも常識ではありえないレベルで恩恵を享受している立場にあるのか、ヴァレンシュタインは一度死んでみないと理解できないのですかねぇ(笑)。

その後、ヴァレンシュタインはシトレに呼ばれ、トリューニヒトとレベロも交えた秘密の会合に参加することになります。
そこでヴァレンシュタインは、自身が初めて原作の流れに介入したアルレスハイム星域会戦以降における政治の舞台裏を知ることになります。
しかし、そこはやはりヴァレンシュタイン、他人を罵り自分を正当化するのは相変わらずのようで↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/43/
> 「彼には正直失望した。あの情報漏洩事件を個人的な野心のために利用しようとしたのだ。あの事件の危険性を全く分かっていなかった」
> トリューニヒトが首を振っている。ワインの不味さを嘆いている感じだな。シトレが顔を顰めた。つまりシトレにも関わりが有る……。
>
> ロボスはあの事件をシトレの追い落としのために利用しようとしたという事か。何をした? まさかとは思うが警察と通じたか? 俺が疑問に思っているとトリューニヒトが言葉を続けた。
>
> 「自分の野心を果たそうとするのは結構だが、せめて国家の利益を優先するぐらいの節度は持って欲しいよ。そうじゃないかね、准将」
> 節度なんて持ってんのか、お前が。持っているのは変節度だろう。
>
> しかし国家の利益という事は単純にトリューニヒトの所に駆け込んでこの件でシトレに責任を取らせ自分を統合作戦本部長にと言ったわけではないな。警察と裏で通じた……、一つ間違えば軍を叩きだされるだろう。となると捜査妨害、そんなところか……。
>
> 「節度がどうかは分かりませんが、国家の利益を図りつつ自分の野心も果たす。上に立とうとするならその程度の器量は欲しいですね」
> 「全くだ。その点君は違う。あの時私達を助けてくれたからね。国家の危機を放置しなかった。大したものだと思ったよ」
>
>
突き落としたのも俺だけどね。大笑いだったな、全員あの件で地獄を見ただろう。訳もなく人を疑うからだ、少しは反省しろ。まあ俺も痛い目を見たけどな。俺はもう一度笑みを浮かべてサンドイッチをつまんだ。今度はハムサンドだ。マスタードが結構効いてる。

「訳もなく人を疑う」も何も、当時のアンタは「帝国への逆亡命計画」などという、他者に露見したら重罪に問われること確実な後ろ暗い陰謀を普通に画策していたのではありませんでしたっけ?
しかもフェザーンでは、同盟側が抱いていたスパイ疑惑をわざわざ裏付けるような軽挙妄動に及んでいましたし、「伝説の17話」では同盟を裏切る意思表示までしていたのですから、同盟側のヴァレンシュタインに対する疑惑は全くもって正しいものだったと言わざるをえないところなのですが。
それを「少しは反省しろ」って、少しどころではなく本当に反省すべきなのは、目先の、それも逆恨みの類でしかない怒りに駆られて軽挙妄動した挙句、結果として自分の「帝国への逆亡命計画」を頓挫させてしまったヴァレンシュタイン自身でしょうに。
「あの時あんなバカな行動に走らなければ…」といった類の自省心を、ヴァレンシュタインは一片たりとも持ち合わせていないのか……とは今更問うまでもなかったですね(苦笑)。
上記引用のほんの少し前では、こんなことを平気で述べてもいたわけですし↓

http://ncode.syosetu.com/n5722ba/42/
> 溜息が出る思いだった。発端はアルレスハイム星域の会戦だった。あそこでサイオキシン麻薬の件を俺が指摘した。その事がこの二人を結びつけロボスの失脚に繋がった。何のことは無い、俺が此処にいるのは必然だったのだ。にこやかに俺を見るトリューニヒトとシトレを見て思った、俺も同じ穴のムジナだと……。

ヴァレンシュタインの自業自得な軽挙妄動がなければ「帝国への逆亡命計画」の発動で帝国に帰れたかもしれず、シトレの異常なまでの「贔屓の引き倒し」がなければとっくの昔に処刑されていたことを鑑みれば、42~43話におけるヴァレンシュタインが置かれている状況は必然でも何でもありません。
狂人ヴァレンシュタインの狂気な言動と「神(作者)の奇跡」のコラボレーションによる超怪奇現象、それがこれまでのストーリーから導き出される正しい評価というものでしょう。
そして、そのような異常事態を作中の誰ひとりとして認識できないという事実こそが、この作品の醜悪な本質を表しているものであると言えるのかもしれません。

次回は引き続き、シトレ・トリューニヒト・レベロの3者と会合するヴァレンシュタインの主張を検証していきます。

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