映画「BRAVE HEARTS/ブレイブハーツ 海猿」感想
映画「BRAVE HEARTS/ブレイブハーツ 海猿」観に行ってきました。
海難事故の救助に奮闘する海上保安官達の姿を描く、同名漫画原作の人気シリーズ劇場版第4弾。
劇場版の「海猿」シリーズは、前作「THE LAST MESSAGE/ザ・ラストメッセージ 海猿」および前々作「LIMIT OF LOVE/リミット・オブ・ラブ 海猿」において「シリーズ完結編」を謳い文句にした宣伝が盛んに行われていましたが、その謳い文句を2度も裏切った形で劇場公開された今作では、さすがに同じキャッチフレーズを使う気にはなれなかったみたいですね(苦笑)。
製作側としては、今作の観客動員数と興行収益が成功レベルに到達すれば、また続編を作る気満々なのでしょうし、その判断自体は正しいと思うのですが、どことなく「大人の世界&事情」が垣間見られる光景ではあります(^_^;;)。
前作も前々作もそうでしたが、今作も映画単体だけで楽しめる仕様となっており、これまでの「海猿」シリーズを知らない方でも問題なく観賞することができます。
今作が現実世界で前作から2年後に劇場公開されているのに合わせたものなのか、作中時間においても前作の「レガリア」の事故より2年の時間が経過している今作の舞台。
「海猿」シリーズの主人公である仙崎大輔は、前作まで所属していた海上保安庁の第十管区から「第三管区海上保安本部羽田特殊救難基地」こと特殊救難隊、通称「特救隊」に自ら志願し配属されていました。
「特救隊」は、全国各地で発生する非常に特殊で危険な救助活動を行うことを目的とする、海難救助のスペシャリスト達で構成されている部隊を指します。
「特救隊」の誕生は、1974年11月に東京湾で発生した、LPG・石油混載タンカーの「第十雄洋丸」とリベリア船籍の貨物船「パシフィック・アレス」が衝突・爆発炎上して総計30名以上の乗組員が犠牲となった「第十雄洋丸事件」を発端としており、当初は5名で発足、現在は1隊につき6名で構成される、第一から第六までの6隊36名で構成されています。
形式上は海上保安庁の第三管区に所属していますが、出動地域に制限はなく、海上保安庁の各管区からの出動要請に基づいて全国各地で救助活動を行う部隊とされています。
第十管区の機動救難隊で隊長になる話も持ち上がっていた仙崎大輔は、しかしその話を断り、後輩の吉岡哲也と共に「特救隊」の第二隊へと異動してきたのでした。
作中で最初に展開される「特救隊」第二隊の任務は、台風が接近している中で発生した大阪湾で事故を起こし沈没しつつあるコンテナ船での救難活動。
暴風雨が吹き荒れる中、既に大きく斜めに傾斜し積載されたコンテナ群が今にも海に転げ落ちそうになっている船の救出作業は、当然のことながら至難を極めるものがありました。
それでも「特救隊」第二隊の面々は、ヘリを巧みに船に接近させ、船上にいた2人を救助することに成功します。
しかし2人をヘリまで引き上げた直後、仙崎大輔は未だ船上にいた人がいるのを発見。
既に船はいつ沈没してもおかしくない危険な状況になっていたのですが、周囲が止めるのも聞かずに仙崎大輔は船上の人を救助にかかります。
しかし彼は、傾いた船に叩きつけられる荒波に飲み込まれ、さらにその上からはコンテナが落下しまくり、救助は全く不可能な状態に。
結果、その船員1名が犠牲になるという形で、作中の「特救隊」第二隊の任務は終了となってしまうのでした。
現場となった大阪湾から、「特救隊」への出動要請が行われた第五管区の本部へ帰還後、第二隊の副隊長である嶋一彦から「判断が甘い」「特救隊に必要なのはスキルと技術だ」と責められることになります。
同時に前々作および前作の救難活動で、最終的に仙崎大輔自身が同僚達から救助された件について触れられ、「それによって結果的に仲間を危険に晒した」「助かったのは運が良かっただけだ」とまで言われてしまいます。
しかし仙崎大輔は、「海難救助の際には諦めない心が必要だ」と反論し、結局両者はこの場では物別れに終わってしまうのでした。
仙崎大輔は、前作でバディとして海難救助を共にし、今では第五管区に異動になった服部拓也と一時の邂逅を果たしつつ、第三管区へと戻ることになります。
前作から2年の歳月は、仙崎大輔の私生活にも一定の変化を与えていました。
妻である仙崎環菜は長男の仙崎大洋に続く2人目の子供を身篭っており、後輩の吉岡哲也には付き合ってそれなりの月日が経つCA(キャビンアテンダント)の恋人が出来ていました。
仙崎夫妻は、吉岡哲也と恋人の矢部美香の関係を応援しており、吉岡哲也は既に結婚の決意まで固め告白する気満々ですらいるのですが、矢部美香は何故か結婚に乗り気ではありません。
実際、吉岡哲也は矢部美香に何度も「結婚してくれ」と迫っており、その都度矢部美香は何度もはぐらかし、遂には明確に拒否の意思を示し別れまで告げる始末。
表向きには仕事や収入を口実に挙げていた矢部美香には、それとは別の結婚したくない本当の理由があるようではあったのですが……。
そんな折、矢部美香がCAとして登場していた、シドニー発羽田空港行きのG-WING206便にエンジントラブルが発生。
マスコミの生中継で日本中が注目し、吉岡哲也が矢部美香の安否に気を揉む中、G-WING206便の乗客乗員346名の救助作戦が開始されることになるのですが……。
映画「BRAVE HEARTS/ブレイブハーツ 海猿」では、予告編でも公開されている「ジャンボジェットの海上着水」に至るまでのストーリーがかなり長いですね。
むしろ、そちらの方がメインなのではないかと思えるほど、ジャンボジェットを巡る動向に多くの時間が割かれている感すらあります。
最初は他の飛行機の着陸を禁止した上で羽田空港の滑走路に着陸させようとしたのですが、飛行機の胴体右側の降着装置が故障して車輪が出てこなかったことで、この作戦は失敗に終わってしまいます。
そして今度は、下川嵓の提案で海上着水が提案されるも、懸案が多すぎて一旦はボツになってしまい、かといって代案も浮かばす皆が頭を抱えているところで、仙崎大輔が海上着水の修正案を提示し、それによって作戦決行になった、という過程が延々と描かれています。
まあ実際問題、「ジャンボジェットの海上着水」というのは「着水から沈没まで20分程度しかない」と作中でも言われているように実は最悪の手段もいいところなのですし、可能な限り安全確実な救出手段を行いたいと考えるのも、救助する側としては至極当然のことではあるのですが。
作中の救助活動の際にも、中央部で2つに割れてしまったジャンボジェットは、コックピットを含む前部は「機体が一旦コックピットを頭にして垂直に立った直後に水没」という映画「タイタニック」を髣髴とさせるようなパターンで、後部は乗員乗客の大部分が退去したのを見計らったように割れた部分から水が流入する形で、それぞれ短時間のうちに水深60mの海の底に沈んでいきましたし。
一歩間違えれば大勢の犠牲者が出ることは確実の救出劇であり、確かに危険と言われるだけのことはありました。
物語中盤のハイライトは、官民問わず全て一丸となって救助活動に邁進する光景ですね。
一連の救助作戦は当初、警察・消防・海上保安庁・空港関係者などの組織や国家機構だけで主導されていたのですが、海上着水が決定されると民間の漁船や病院などにも協力要請がもたらされ、彼らも救助活動に協力していくことになります。
海上に即席で設置された誘導灯をパイロットが見出してから、海上着水した飛行機に向けて多くの船が動き出す光景は、まさに圧巻かつ感動的なものでした。
この辺りは、東日本大震災における日本の団結力の強さを再現しているかのようにも見えましたね。
製作側も意図してこういう描写を作ってはいたのでしょうけど。
作品全体で見ると、今作では前作「THE LAST MESSAGE/ザ・ラストメッセージ 海猿」でほとんど活躍の場がなかった吉岡哲也が、その鬱憤を晴らすかのごとく、下手すれば仙崎大輔をも凌ぐ勢いで見せ場がありましたね。
特に物語終盤付近では、ほとんど彼の独壇場的な感すらありましたし。
そして、これまでの劇場版「海猿」シリーズでも顕著に出ていた「生きるか死ぬかの手に汗握るギリギリの状況を描く上手さ」は今作でも健在です。
特に今作は、序盤の大阪湾の救助活動で船員のひとりが救助に失敗して死んでいることもあり、「ひょっとすると……」という考えは前作よりも強いものがありましたし。
あの「どうせ助かるのだろうけど、でももしや……」という感触を観客に抱かせる演出の巧みさはなかなかのものがあります。
これを「御都合主義ないしはファン向けのリップサービス」と見るか「安心して楽しめる」と解釈するかは、意見の分かれるところではあるでしょうけど。
「海猿」シリーズのファンの方々はもちろんのこと、人間ドラマや映画ならではの迫力ある演出を楽しみたい方などにも、今作は間違いなく楽しめる作品ではないかと思います。