映画「トータル・リコール」感想
映画「トータル・リコール」観に行ってきました。
1990年にアーノルド・シュワルツェネッガー主演で劇場公開された、同名アメリカ映画のリメイク作品。
今作ではコリン・ファレルが主人公を担っています。
リメイク版「トータル・リコール」では、旧作のそれとは世界設定が大きく異なっています。
旧作「トータル・リコール」では、人類が火星に進出し、火星のエネルギーを採取し火星を牛耳っているエネルギー会社との戦いが繰り広げられるのですが、リメイク版の舞台はあくまでも地球。
作中の地球は、21世紀末に勃発した世界大戦で大量の化学兵器が使用された結果、大気中に致死性の猛毒が充満したことでほとんどの地域が居住不能となってしまい、人類はわずか2箇所の居住可能区域に集中して生活するようになっています。
現在のイギリスにあるブリテン諸島を中心に、限られた富裕層が居住するブリテン連邦。
貧民層がひしめき合いながら居住するオーストラリア大陸のコロニー。
この両者を繋ぐ唯一のルートは、地球の内部をくり抜き、核を通して地球の表と裏を繋ぐ「フォール」と呼ばれる地中エレベーター。
この「フォール」は数万単位の人間やロボットすらも運搬できる能力を有しています。
「フォール」の地球の表から裏まで移動する際にかかる所要時間は、だいたい30分~1時間といったところになるでしょうか。
コロニーの労働者の中には、「フォール」に乗ってブリテン連邦まで移動し、そこで単純労働に勤しむ者も数多く存在しました。
今作の主人公であるダグラス・クエイドもまた、すくなくとも作中の序盤ではそんな労働者のひとりとして働いている人間のひとりでした。
ここ最近、ダグラス・クエイドは毎晩おかしな夢を見ることに悩まされていました。
その夢の内容とは、どこかの施設と思しき場所で、全く知らない女性と逃亡する中、追手に撃たれて女性と離れ離れになってしまい、自身は追手達に捕縛されてしまうというもの。
夢から覚めたダグラス・クエイドは、彼の身を案じた妻のローリーとセックスに及ぼうとするものの、直後にローリーが電話で呼び出されてしまい、結局何もすることがないまま、単身「フォール」へと向かうのでした。
ダグラス・クエイドは、シンセティックという治安維持目的のロボット大量生産の仕事に携わっており、真面目な勤務で昇進のチャンスを掴んでいました。
しかし、貧民層のコロニー出身という出自が仇となってしまい、彼の昇進はブリテン連邦出身の対立候補によって見送られてしまうのでした。
やるせない気分になったダグラス・クエイドは、ふと街中で見たリコール社の宣伝を思い出します。
リコール社は、客の都合に応じた都合の良い記憶を植え付けることで、客に疑似体験を楽しませることを生業とする企業。
ダグラス・クエイドの友人兼勤務会社での同僚であるハリーの反対を押し切り、彼はリコール社を訪問。
そしてスタッフに対し、「諜報員として活躍する」という記憶を植え付けることを依頼するのでした。
しかし、いざ記憶を植え付ける作業へ入ろうとした時、突如機械がアラートを発し、スタッフ達は作業を中断。
さらにその直後、今度は大勢の武装警官達がリコール社内へとなだれ込み、リコール社のスタッフ達を撃ち殺してダグラス・クエイドに銃を突きつけてくるではありませんか。
自分が何故銃を突き付けられなければならないのか、混乱に陥るダグラス・クエイドでしたが、今度はその彼自身の身の上に異変が起こります。
なんと彼は、類稀なる戦闘技術を発揮し、複数の武装警官達をその手で壊滅させてしまうのです。
当然、そんな戦闘技術を身につけた覚えもないダグラス・クエイドは、リコール社の惨劇がニュースで大々的に報じられる中、身を隠すように自宅へと戻ることに。
混乱しながらも帰宅したダグラス・クエイドは、妻のローリーに事情を説明。
半信半疑ながらも、とりあえずダグラス・クエイドと抱擁するローリー。
ところが、ここでローリーは突如、ダグラス・クエイドを絞め殺そうとし、2人はそのまま戦闘に突入してしまいます。
そしてローリーは、驚くべきことをダグラス・クエイドに告げるのでした。
自分はダグラス・クエイドの妻ではなく監視役であり、彼の名前も偽名、経歴も全て偽の記録と記憶によってでっち上げられたものであると。
衝撃を受けざるをえなかったダグラス・クエイドは、すっかり恐怖の存在となりおおせてしまったローリーの魔の手から脱出、逃避行を余儀なくされることになるのですが……。
映画「トータル・リコール」では、主人公の妻であるローリー役を、映画「アンダーワールド」シリーズの主演として有名なケイト・ベッキンセールが演じています。
疑問の余地なくその影響なのでしょけど、作中におけるローリーは、ほとんどまんま「アンダーワールド」シリーズの主人公にして女性ヴァンパイアのセリーンそのものです。
アクションシーンはもちろんのこと、黒ずくめの服装を終始身に纏っているところも全く同じで、他の治安部隊達と比べても明らかに浮いていましたし。
明らかに「アンダーワールド」を意識して造形されているのが丸分かりなキャラクターでしたね(苦笑)。
1990年版「トータル・リコール」と異なり、彼女は終盤まで生き残り続けて最後まで主人公達の脅威であり続けます。
ただ、あのラストのダグラス・クエイド襲撃は、正直何がやりたかったのかよく分からないところはありましたね。
あの時点では、ローリーの上司でコロニー侵略の総指揮を担っていたコーヘイゲンは既に死んでいた上、「フォール」も破壊されて侵略の勝敗の帰趨も決していたのですから、彼女がダグラス・クエイドを殺す意味なんて何もなかったも同然だったのですが。
ローリーにとって、コーヘイゲンの命令は、命令権者が死んで状況が激変してさえも何が何でも遂行しなければならないものだったのでしょうか?
ラスボスたるコーヘイゲンが生きていた中で死んだ1990年版のローリーの方については、そんな疑問を抱く必要もなかったのですが……。
また、コーヘイゲンがオーストラリアのコロニーを侵略する意思をアレだけ明確に表明した上、「フォール」を使った侵略経路まで最初から判明していたにもかかわらず、ダグラス・クエイド以外に「フォール」の破壊を意図した人間がコロニー側にいなかったのも少々疑問ではありました。
ブリテン連邦とコロニーを繋ぐ唯一の道である「フォール」を破壊すれば、敵側の侵攻意図を挫き、少なくとも一定の時間を稼ぐことは充分に可能なことは誰の目にも明らかなのですから。
現地のブリテン連邦の治安維持部隊が「フォール」を死守していたような感じもまるでなく、コロニーの住民達はただただパニックに陥って逃げ惑っていただけでしかありませんでしたし。
それ以前に、既に実質的な従属という形でコロニーを支配下に置いているブリテン連邦が、わざわざ数万の大兵力を派遣してコロニー相手に侵略と殺戮を行わなければならない必然性がまるでなかったりするんですよね。
ブリテン連邦が必要としている「コロニーの労働力」にしても、既に「フォール」を介して大量に送られているような状態なのですし、単純労働者が必要なのであれば、それ専用のロボットを大量増産するという方法だって使えるはずでしょう。
あの世界では、治安維持目的のロボットが普通に作れるだけの技術力が既に確立されているのですからなおのこと。
また、ブリテン連邦の土地が少ないからコロニーの土地獲得を目的としているのであれば、元々ブリテン連邦側はあそこまで強権力が行使できるのですから、合法的な経済活動と権力の行使で「フォール」を中心に自分達の居住区域を少しずつ広げていく方が却って効率が良さそうなものなのですが。
ダグラス・クエイドを使ってレジスタンスの壊滅にも成功した後であればなおのこと、彼らに悪のレッテル貼りをすることで、コロニーの住民達に「ブリテン連邦こそが正義」と信じさせることも可能なわけなのですし。
あの時点で、ブリテン連邦がコロニーを、それも力づくで侵略などしなくてはならない理由は何もないはずなのですが。
アクションシーンや演出などでは1990年版に勝りますが、ストーリー設定や説得力などは1990年版の方に軍配が上がる、といったところになるでしょうか。
個人的には、1990年版「トータル・リコール」に「アンダーワールド」的な要素をミックスした作品として楽しんでいましたね、今作は。