映画「るろうに剣心」感想
映画「るろうに剣心」観に行ってきました。
1994年から5年にわたって週刊少年ジャンプで連載され、その後も根強い人気を誇る和月伸宏の原作マンガ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」を実写映画化した時代劇アクション作品。
連載当時は週刊少年ジャンプの愛読者だったこともあり、原作は当然既読。
ストーリーは原作における「東京編」の「斬左編」「黒笠編」「恵編」をベースとしつつ、原作とは全く別のオリジナル構成で展開されています。
1868年(慶応4年/明治元年)1月に行われた鳥羽・伏見の戦い。
朝廷を擁する新政府軍と、徳川将軍に見捨てられた旧幕府軍が衝突し、凄惨な殺し合いが繰り広げられていました。
数的には圧倒的優勢な旧幕府軍に対し、新政府軍は苦戦を強いられます。
そこへさらに、斎藤一が率いる新撰組三番隊が新たに参戦。
戦局が旧幕府軍に傾きかけたまさにその時、突如ひとりの剣客が単身で新撰組をはじめとする旧幕府軍へ向かっていき、目にも止まらぬ速さと斬撃で次々と旧幕府軍の武士達を屠っていきます。
これに新政府軍は再び勢いづき、戦局は一転して幕府軍有利に。
それでもしばらく殺し合いが続く中、戦場にひとりの伝令がかけつけ、戦いが新政府軍の勝利に終わったことを大声で触れ回るのでした。
戦闘が終了すると、それまで鬼神のごとき強さを振るっていたのとは対照的に、まるで魂が抜けてしまったかのごとく虚ろな様子を見せる剣客。
剣客はその場で剣を地面に突き刺すと、斎藤一が話しかけるのにも返答を返すことなく、その場を後にするのでした。
これが、後に伝説として謳われることになる「人斬り抜刀斎」が、幕末で活躍した最後の姿となるのでした。
一方、勝敗の帰趨が決して無人となった戦場跡では、ひとりの男が息を吹き返していました。
ヨタヨタと戦場を歩く彼は、やがて「人斬り抜刀斎」が地面に突き刺していって剣に触れ、その剣に込められていたと思しき残留思念を垣間見ることになります。
それをきっかけに、彼は「人斬り抜刀斎」にひとかたならぬ執着を抱いていくのでした。
時は流れて1878年(明治11年)。
明治維新から10年の歳月が流れた東京では、武田観柳という名の実業家が「蜘蛛の巣」と呼ばれる新型阿片の開発に成功していました。
武田観柳の弁によれば、「蜘蛛の巣」は従来の阿片よりも依存性が高いとのこと。
彼は「蜘蛛の巣」の製造技術を外に漏らさないようにするため、「蜘蛛の巣」の製造に関わった技術者達を、自身の愛人でもあった高荷恵を除き、手下を使って全て殺させてしまいます。
その際、ひとりの男が逃走に成功するのですが、武田観柳は「奴は人斬り抜刀斎に任せておけ」という謎めいた言葉を残すのでした。
一方、東京の街では、その「人斬り抜刀斎」を名乗る正体不明の人物が、手当たり次第に人を殺害する事件が頻発していました。
件の「人斬り抜刀斎」は、その剣の流派を「神谷活心流」と名乗っており、その情報と共に簡単な人相が描かれた手配書が回されていました。
「神谷活心流」は東京で剣術を教えている道場を営んでいたのですが、その煽りを食らう形で門下生が一斉に離反し、衰退の一途を辿るありさまでした。
その「神谷活心流」の師範代である神谷薫は、ある日、立札に貼られていたその手配書を眺めていたひとりの男を目撃します。
その男の外見が手配書の容貌と似ていたことから、男を「人斬り抜刀斎」と判断した神谷薫は、「神谷活心流」を衰退に追い込んだ元凶を見つけたと言わんばかりの勢いで、男に木刀を突きつけ問答無用に成敗しようとするのでした。
そこで一騒動あった末、彼が街で噂になっている「人斬り抜刀斎」ではないと判断せざるをえなかった神谷薫は、お詫びという形で彼を「神谷活心流」の道場へと案内することになります。
これが、映画の中における神谷薫と、本当の「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心との最初の出会いであり、そしてここから全てが始まることになるわけです。
映画「るろうに剣心」では、原作の「恵編」で黒幕として登場した武田観柳が、原作同様にカネの亡者としての悪役ぶりを大いに披露しています。
しかしその一方で、原作で彼の用心棒として雇われていたはずの御庭番衆御頭・四乃森蒼紫は、今作では一切登場しておらず、序盤の鳥羽・伏見の戦いで生き永らえ「人斬り抜刀斎」の剣を取った鵜堂刃衛が、彼に代わってその役割を担っています。
四乃森蒼紫が劇中で登場しないことについて、映画の脚本制作にも関わったという原作者の和月伸宏は、シネマトゥデイのインタビューで以下のように回答しています↓
http://www.cinematoday.jp/page/N0043764
> [シネマトゥデイ映画ニュース] 実写映画『るろうに剣心』の公開を控え、原作者の和月伸宏が実写化にあたってのエピソードを語るとともに、完成版を観たときの心境を明かした。一人のクリエイターとして「悔しいくらい良いシーンなんですよね」と口にしたのは、主人公・緋村剣心がおなじみの赤い衣装で初登場する映画オリジナルのシーン。「本当にもう『剣心だなあ』って染みこんでくるので、ぜひ観ていただきたいですね」と話す口調にも熱がこもっていた。
>
> 和月も脚本段階から関わったという本作は「人斬(き)り」というテーマが最初に出てくる鵜堂刃衛との戦い、原作でいう1巻と2巻がベース。そこにもう一人の敵である武田観柳のエピソードを交えた構成となっているが、脚本の第1稿は完成したものとはかなり違い、原作の人気キャラクターで剣心の宿敵である四乃森蒼紫も登場していたという。「監督とも話していて、敵が刃衛だけでは寂しいということで、最初は蒼紫を含めた御庭番衆も考えていたんです。ただ、そうすると2時間では収まらなくなってしまって……」と泣く泣くカットしたことを告白すると、「それで、今回は剣心と仲間たちを描いていこうという形になりました」と現在の構成に落ち着いた経緯を明かした。
このインタビューの内容から考えると、四乃森蒼紫は次回作辺りで原作とは違った形で登場する、ということになるのでしょうか?
原作者のインタビューを見る限りでは、明らかに次回作の存在を視野に入れているフシが伺えますし。
まあ、原作からして単行本28巻・完全版22巻分ものエピソードが存在するのですし、今回の映画も原作の序盤付近のストーリーが展開されていただけですから、続編を制作する余地はまだいくらでも存在するわけですが。
とはいえ正直言って、四乃森蒼紫抜きで構成した今作でさえ、実のところ「詰め込み過ぎ」な感が否めなかったりするんですよね。
特にそれを痛感せざるをえなかったのは、原作では「斬左編」を経て剣心の仲間になっていった相楽左之助の扱いですね。
原作の相楽左之助は、かつては新政府側で戦った赤報隊に所属し、隊長である相楽総三を味方に殺されたことから、明治政府や維新志士を憎み、その関係から剣心と対峙した経緯があったのに、映画ではそれらのエピソードは作中で何も語られも生かされもすることなく、ただ彼は自分の強さを武田観柳に売り込むだけのために剣心に喧嘩を売ってくるというありさま。
しかも劇中での戦いでは、剣心は相楽左之助から終始逃げ回っていただけで斬馬刀がへし折られることすらなく、ただ「あんな男(武田観柳)のために尽くすことはない」という剣心の説得?だけであっさり剣を引いて去ってしまう始末。
しかもその後は、特にこれといった心情が描かれることもなく、いつのまにか剣心の仲間になっているという展開で、あまりにも色々なエピソードが省略され過ぎています。
ラストの鵜堂刃衛との戦いの際も、相楽左之助は原作と違って別に重傷を負っていたわけでもなく、剣心と共にラストバトルに臨むことができる状態にあったにもかかわらず、そこでは何故か相楽左之助が戦いに加勢することもなく、原作同様に剣心と鵜堂刃衛との一騎打ちになってしまう状況。
剣心と2人がかりで鵜堂刃衛に挑むなり、剣心が鵜堂刃衛を引きつけている間に人質となっている神谷薫を救出するなり、彼の使い道もそれなりにはあったはずなのですけどね。
この映画で一番ワリを食っていたのは相楽左之助だったのではないかとすら思えてしまうくらいに、原作のエピソードが全く語られずに原作通りの動きを強制されたキャラクターであったと言えます。
こんな扱いになってしまうくらいだったら、相楽左之助も四乃森蒼紫同様に今作で登場させず、その分を他のキャラクターのエピソードに盛り込んでおいた方が良かったのではないでしょうか?
まあ個人的には、「四乃森蒼紫のいない武田観柳」の方がミスマッチな感が拭えないので、彼ではなく原作通りに比留間兄弟でも出して、原作における相楽左之助のエピソードを忠実に踏襲した方が良かったのではないかと思うのですが。
予告編でも売りになっていたアクションシーンの方は、既存の時代劇の殺陣とはまた異なるスピーディな展開になっているものが多く、こちらは充分に見るべきものがありました。
アクションシーン自体で特に不満に思った箇所は、前述の剣心と相楽左之助の対決も含めて特になかったですね。
四乃森蒼紫と彼の部下の御庭番衆がいないために、武田観柳がガトリングガンを乱射しまくるシーンは原作から大幅に改変されていましたが、むしろこちらの方が原作よりも合理的な上に剣心一派の強さが上手く表現できていたくらいでしたし。
武田観柳の屋敷で剣心と相楽左之助を相手に戦っていた武田観柳の部下2人は、何故か「人誅編」に登場する戌亥番神と外印だったりするのですが、続編を想定している作品で、かなり先のストーリーで登場予定のはずの敵キャラを登場させてどうするのでしょうかね?
まあ2人共死んではいないわけですし、再び敵として再登場ということもありはするのでしょうけど。
原作ファンから見てもまずまずな出来ではありますし、アクションシーンを目当てに観賞してもまず損はしない映画ではあろうと思います。
この出来であれば、制作側の意図通りに続編が出てくることにも期待したいところですね。