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2012年10月10日の記事は以下のとおりです。

コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】

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コミック版「大奥」検証考察の9回目。
前回の検証考察から既に1年以上も経過してしまいましたが、「大奥」のコミック版も7巻と8巻が刊行され、さらにはテレビドラマ版も放映され続編映画も公開されるとのことで、この度久々に再開の運びとなりました。
なお当ブログでは、2012年10月12日から始まるテレビドラマ版「大奥 有功・家光篇」、および2012年末公開の映画版「大奥 右衛門佐・綱吉篇」も追跡していく予定です。
今回のテーマは【大奥システム的にありえない江島生島事件】
過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】

病弱のために極めて短期間の治世で終わった徳川7代将軍家継の時代、江戸城の大奥を舞台に「江島生島事件」というスキャンダルが発生しています。
この事件は、家継の「生母」である月光院に仕え、地位的にも御年寄という高い身分にあった江島が、主君の名代として前将軍家宣の墓参りをした帰途に、芝居小屋・山村座の芝居を観覧し、その宴会に夢中になるあまりに大奥の門限に遅れてしまい、江戸城の城門で押し問答になってしまったことに端を発したものです。
事件の背景には、純粋に大奥の規律の緩みの他、江戸城内における将軍世継ぎを巡る後継者問題や権力闘争なども絡んでいたとの説がありますが、この事件を通じて当の江島は流罪、および密通を疑われた山村座の生島が遠島処分となった他、山村座や大奥の関係者50名近くが罰せられることになりました。
またこの事件の影響で、家継の「生母」として権勢を誇っていた月光院の勢力が弱まり、前将軍家宣の正室・天英院の勢力が力を盛り返して、その後の次代将軍選定にも少なからぬ影響を与えることとなります。

コミック版「大奥」の世界でも、まるで当然の流れであるかのごとく江島生島事件が発生しており、かつ多少の脚色はあれど史実と同様の結末に至っています。
しかし、史実はまだしも、男女逆転した「大奥」世界においては、実のところ江島生島事件の発生する余地自体が全くないに等しいんですよね。
史実の江島生島事件で問題になったのは、大奥を管理する立場にあるものが密会した、とすくなくともそう解釈される事態になったことにあります。
ところが「大奥」世界においては、そもそも婚姻制度が崩壊してしまっているため、「不倫」「姦通」「重婚」「寝取り」その他ありとあらゆる不道徳な行為が大手を振ってまかり通っているのです。
カネで男を買って種付けセックスをすることが普通に認められている世界で、現代的な価値観に基づいた男女の倫理観が常識となっていることの方が、そもそもおかしなことなのではないのでしょうか?

「大奥」のシステム的な面から見てさえも、江島生島事件が成立しなければならない理由などどこにもありはしません。
そもそも、史実における「大奥」というシステムが成立しえた最大の理由は、将軍の子供を孕める女性を大量に提供することで、世継ぎを可能な限り確保しえることにあります。
そして、「大奥」における規則の大部分は、機械的な言い方をすれば、将軍以外の他の男性の精子が「大奥」の構成員たる女性の卵子に入ってくる問題を事前に防止・抑止することに、その最大の存在意義が認められるわけです。
しかし、男女が逆転した「大奥」世界においては、将軍自身が世継ぎを生むという構造上、いくら「大奥」の男性が不義を働こうが、将軍家の血筋以外の者が生まれてくる余地など最初からどこにもないのですから、男性が品行方正に振る舞わなければならない理由自体がありません。
むしろ、作中でも「金喰い虫」扱いされている大奥は、男達自ら外に出て女性相手に「性の奉仕」でもしてカネを稼いでもらった方が経済的にも恩恵がある上、日本の人口増加の一助にもなって一石二鳥というものでしょう。
しかも過去の「大奥」世界では、実際にそのような政策を行った前例も既に存在しています。
コミック版「大奥」4巻、時の徳川3代将軍家光(女版)の時代に、大奥の男性を解雇させた上で吉原へと送り込み、貧しい女性達を相手に安価で「性の奉仕」をさせた事例があるのです。
この制度がその後どうなったのかについてはコミック版「大奥」にも全く記述がありませんが、吉原への大奥男性の供給が滞ると、その瞬間から女版家光が懸念する「売春費用」が高騰する危険性がある上、そもそも赤面疱瘡が無くならない限りは男性不足の問題が解消することもないわけですから、この制度は後年も存続し続けている可能性が濃厚です。
将軍、ひいては江戸の中央行政自らがこういった政策を積極的に推進している前例が既に存在する以上、江戸時代に跳梁跋扈していた祖法至上主義的な前例踏襲の観点から言ってさえも、大奥の男性が外に出て自らの「性」を売り、カネを稼ぐことを推奨してはならない理由など、世界の果てまで探しても存在しえないのです。
「大奥」世界における大奥は、女版家光の個人的な癇癪と逆恨みの類から生まれた以外の何物でもない「ご内証の方は死ななければならない」などという愚劣な決まり事すらバカ正直に継承してきたくらいに、硬直しきった官僚機構的組織でしかないのですよ?
同じ女版家光が「大奥を活用した男性売春業」を推進している作中事実があるのに、「大奥の男性は清廉潔白でなければならない」などという「祖法を変革する」法体系を、女版家光以外の一体誰が決めたというのでしょうか?
せめて、江戸城の門限破りがメインテーマで、融通が利かないコチコチの法体系で江島達が裁かれるというのであれば、まだ「江島生島事件」が発生しえる理由としては成立しなくもなかったのですが、作中では門限破り自体が単なる難癖の類で「密会」の方こそがメインとして扱われている始末ですからねぇ。
婚姻制度が崩壊した「大奥」世界では悪行ですらない「密会」程度のことで、何故あそこまで大がかりなスキャンダルにならなければならないのか、全くもって理解に苦しむ珍現象と言わざるをえません。

それでもあえて無理にでも「江島生島事件」が発生しえる理由を「大奥」世界に求めるとすれば、それは現代におけるかつての野党時代の民主党にヒントが求められるのではないでしょうか?
野党時代の民主党は、とにかく自民党政権のアラとなれば何でも探しまくり、どんな細かいこと・どうでも良いことであっても声高に非難の声を上げ、大臣の辞任を要求し、それを受け入れなければ審議拒否、受け入れればやはり新たな難癖をつけてやはり審議拒否といった行為を繰り返してきました。
極めつけは、「カップラーメンの値段を間違えた」だの「漢字の読みを間違えた」だの「ボールペンのキャップを口にくわえた」だのといった類の、通常ならばゴシップ記事にもならなさそうな出来事に至るまで、非難の口実として自民党政権を罵り倒し続けました。
そして、そうした難癖の数々を、マスコミの偏向報道によって国民も熱狂的に支持した挙句、ついに2009年の政権交代にまで至ったわけです。
これと全く同じ構図が、「大奥」世界における江島生島事件にも当てはまるのではないでしょうか?
すなわち、誰もがそれは常識の類であると分かってはいるものの、非難の大合唱とそれに伴って発生した「空気」によって、誰も異論が差し挟めない状態となってしまい、それどころか「空気に乗り遅れまい」とむしろ熱狂的なまでに江島生島事件を大事化させていった、というわけです。
もちろん、民主党絡みの騒動自体もそうであるように、天英院や加納久通などといった事件の黒幕達は、全てを承知の上での確信犯でことを進めていったのでしょうけど。
そう考えると、あの事件で右往左往している「大奥」の登場人物達は、実に滑稽かつ哀れな様相を呈しているとしか言いようがないでしょうね。
誰もがごく普通にやっていることについて声高に非難の雄叫びを上げ、常に自分に跳ね返ってくるブーメランを投げまくっていることになるのですから(苦笑)。
まあ、「大奥」世界における日本人達の全般的な思考水準がこの程度でしかないというのであれば、あんなありえない男女逆転な「大奥」世界が生まれるのもある意味納得せざるをえないのですが(爆)。
かくのごとく、婚姻制度が崩壊している「大奥」世界においては、江島生島事件など民主党の「カップラーメン値段当てクイズ」と同レベル以下のシロモノでしかありえないわけですよ。
いくら権力闘争の一環とはいえ、よくもまあこんな事件を引き起こして政敵を蹴落とそうと、天英院や加納久通らは考えられたものですね。
あまりにもバカらしいから逆に成功する可能性が高い、という勝算でも立てていたのかもしれませんが、本当に成功してしまって彼らもさぞかしバカ笑いが止まらなかったことでしょうね。
ひょっとすると、「こんな頭の悪いバカな事件で盛大に右往左往する日本の将来は本当に大丈夫なのだろうか?」と逆に危機感を抱いたかもしれませんが(爆)。

史実における江島生島事件は、現代に比べれば緩い性規範が支配的だったであろう江戸時代とはいえ、それでもまだ「不義密通は悪いこと」という常識や倫理観があったことは確実ですから、ましてや舞台が江戸城大奥ともなれば一大スキャンダルとして成立するのも当然のことでしょう。
しかし、婚姻制度が崩壊し、不義密通が当たり前になってしまっている「大奥」世界においては、江島生島事件における不義密通の疑惑など「日常生活の一部」を構成するごく普通の出来事でしかありえません。
「大奥」世界における社会的文化から考えても、江戸城大奥のシステム的な観点から見ても、江島生島事件は「事件として成立する方が奇妙奇天烈な事案」でしかないのです。
作品的には、男女逆転した大奥を描きつつ史実の江戸時代の歴史をそのままなぞるというコンセプト上、江島生島事件を避けて通ることはできなかったのでしょうが、自分の作り出した世界と江島生島事件が完全に相反するものになってしまっているという事実を、作者氏は気づくことができなかったのでしょうかねぇ。

いよいよ10回目となる次回は、コミック1巻で没日録を読み始めてからようやく現実に戻ってきた、徳川8代将軍吉宗の問題について取り上げていきたいと思います。

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