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2012年10月28日の記事は以下のとおりです。

映画「アルゴ」感想

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映画「アルゴ」観に行ってきました。
1979年に勃発したイランのアメリカ大使館人質事件で実際にあった話を題材とした、映画「ザ・タウン」のベン・アフレックが監督&制作&主演を担うサスペンス作品。
今作は、絞首刑になった人間がクレーンに吊るされているシーンが再現されている等のの残虐シーンが作中に存在するため、PG-12指定を受けています。

1979年11月4日。
同年1月にイランで革命を引き起こした、ルーホッラー・ホメイニ師を首班とする反米イラン政権が、イスラム法学校の学生達を煽動し、同国にあるアメリカ大使館を武力制圧させるという事件が勃発しました。
彼らの目的は、革命の際に国外へ逃亡後、「癌の手術」を名目にアメリカへ入国し受け入れられた、前政権のモハンマド・レザー・パーレビ元国王の身柄引渡にありました。
暴徒と化した学生達の大使館突入に対し、しかし当のアメリカ大使館側は「こちらが銃を撃って人を殺せば皆殺しにされる上に開戦の口実にされてしまう」などと著しく及び腰であり、目と鼻の先に暴徒が迫っても大使館内の書類を処分するための時間稼ぎのみに終始するありさま。
その上、その書類の処分すらまだ完全に終わらないうちにアメリカ大使館は完全に制圧されてしまい、大使館の職員や海兵隊員など52名のアメリカ人が暴徒達の人質とされてしまったのでした。
しかしこの時、来るべき大使館制圧の事態をいち早く察知し、暴徒突入のゴタゴタに乗じて大使館を脱出した6名の男女が存在していました。
彼らは在イランのカナダ大使の私邸へと逃げ込み、自身の身の危険も顧みずに匿ってくれた大使の取り計らいにより、とりあえず一命を取り留めることに成功します。
しかし、イラン側はアメリカ大使館でシュレッダーにかけられた大使館員の名簿を復元したり、各国の大使館に対しても容赦のないしらみ潰しな捜索を行ったりしていることから、彼らが見つかるのは時間の問題と言えました。
この事態を受けたアメリカ本国では、当然のごとく救出のための作戦が検討されることになります。

こういった史実をなぞった流れが最初の20分くらいを使って延々と続き、ようやくベン・アフレック扮する今作の主人公トニー・メンデスが登場することになります。
彼はCIA所属の人間で、人質奪還のプロとしてその実力を評価されている人物です。
ただその一方で、妻とは離婚こそしていないものの子供と共に別居しており、私生活面では少なからぬ問題を抱え込んでいた人物でもあったのですが。
さて、CIAを介してアメリカの国務省から人質救出作戦のアドバイザーとして呼ばれたトニー・メンデスは、6人の大使館員を救出するための作戦会議に参加することになります。
しかしそこで彼は、会議中に出された作戦案に対して次々にミソをつけていき、かつ「では何か良い方法はあるのか?」と尋ねられると、にべもなく「ない」と断言するありさま。
別に彼は6人を救出する気がさらさらなかったのではなく、本当に良案がなかっただけではあったのですが。
その夜、トニー・メンデスは別居中の息子の動向を確認すべく、息子の元へ電話をかけます。
息子は当時アメリカでテレビ放映されていたらしい映画「最後の猿の惑星」を見ていたといい、トニー・メンデスも同じ番組を観賞すべくテレビのチャンネルを合わせます。
しかし、その「最後の猿の惑星」の映像を見ていたトニー・メンデスは、そこから誰もが思いもよらないアイデアを考えついたのでした。
それは何と、架空の映画を作ると称してイランへ渡った後、6人の大使館員をカナダ出身の映画スタッフ要員として国外へ退去させるというもの。
再び行われた作戦会議の席上でトニー・メンデスは自身の作戦案を提示し、その下準備を進めていくことになるのですが……。

映画「アルゴ」では、主人公がアクションシーンを披露するどころか、そもそも自身では銃を一発たりとも発砲することすらありません。
予告編でもアクションシーンらしきものは全く出てきていませんでしたし、その方面について期待すると痛い目に遭うこと必至の作品と言えます。
また、物語の前半はとにかく作戦のための下準備に主人公達が忙殺される描写ばかりが延々と続いている上、「偽映画の製作」というテーマなこともあってややコメディ調なノリも交じっていたりします。
この辺りはやや退屈な描写でもあり、見る人によってはこの時点で「期待外れ」と思わせる要素もあるかもしれません。
しかしこの映画の真骨頂は、作戦の道筋があらかた整って主人公トニー・メンデスがイラン入りする後半以降にあります。
ここから先のストーリーは「イラン側に正体が露見したら一巻の終わり」な緊迫した状態に置かれることになるため、一発の銃弾も飛び交わないながら手に汗握る展開が続くことになります。
アクションシーンやカーチェイスなどといった派手な描写なしに、頭脳戦や心理的駆け引きだけであれだけの緊張感を生み出せる構成は、なかなかに上手いものがありました。

ただ、トニー・メンデスにとっての最大の敵というのは、実はイランではなくアメリカ政府の上層部だったりするんですよね。
アメリカ政府の上層部は、既に発動しているトニー・メンデスが現地で地道に進めていた偽映画作戦を、「軍による大使館人質救出作戦が決まったから」という理由で突然中止を決定した挙句、トニー・メンデスに対して「6人を見捨てて帰国しろ」と命じてくる始末だったんですよね。
さらには、せっかく手配していた航空券の予約を破棄した上に、作戦のために作った架空の映画会社にも閉鎖を命じ、作戦遂行自体を不可能にしてしまうありさま。
アメリカ政府の上層部がこんな決定を下した背景には、間もなく始まる大統領選挙を有利に進めるためという事情が介在していたようなのですが、一度発動している作戦にそんな形で横槍を入れられるのでは、現場としてはたまったものではなかったでしょうね。
しかも、実際にアメリカ政府主導で軍を派遣して実施された人質救出のための「イーグルクロー作戦」は、使用されたヘリで故障が頻発し作戦遂行自体が不可能となってしまった上、撤収時でもヘリがC-130輸送機に激突して死者を出してしまうなど、ほとんど自滅に近い形で失敗に終わってしまい、アメリカ軍史上最悪の作戦のひとつにまで数えられてしまう始末です。
ベトナム戦争辺りから1980年の大統領選挙でレーガン大統領が出てくるまでのアメリカ軍というのは、政治の過剰な軍事作戦への介入のために、悲惨なまでの敗北を何度も強いられる状態にありましたからねぇ(T_T)。
軍事作戦の根幹どころか細部に至るまで政治が決定していたことによる過剰なまでの「文民統制」が、却って健全な軍事運用を妨げた好例と言えるシロモノだったのですが。
作中のごとく、一度決めて動き出した方針を二転三転させるというのも、必敗の法則の最たるものだったりするのですけどねぇ。

頭脳戦や駆け引きが好きという方には、今作はオススメな佳作と言えるのではないかと。

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