テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第5話感想
全10話放送予定のTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回はちょうどテレビドラマ版の折り返し地点となる、2012年11月9日放映分の第5話の感想です。
前回第4話の視聴率は7.6%で、著しくダウンした前回のそれよりもさらに低くなってしまっています。
何かこのテレビドラマ版「大奥」って、初回放映から視聴率が右肩下がりの一途を辿っているのですが、やはり話が全体的に暗すぎるのと、現時点では大奥の外の話を除外しすぎて「男女逆転」という作品の売りの必然性に今ひとつ説得力がないことが、一般視聴者を敬遠させていたりでもするのでしょうかねぇ。
原作には忠実すぎるくらいに忠実なので原作ファンには受けそうなものなのですが、それで新規のファンを獲得するにはやや力不足ということなのかなぁ、と。
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓
前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想
原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想 第2話感想 第3話感想 第4話感想
第5話は、コミック版「大奥」3巻のP73~P93までのストーリーが展開されています。
しかし、原作のページ範囲を見ても分かるように、第5話はこれまでの話と比較しても原作ストーリーの進行が遅く、かつオリジナルエピソードの多い回となっています。
原作の内容的に見ると、捨蔵が大奥に上がってから女版家光が出産するまでのエピソードしかないのですし。
前回の第4話もオリジナルエピソードが少なからず盛り込まれていた回ではありましたが、今回はそれ以上に原作ストーリーの補完とオリジナルエピソードに終始した話であると言えます。
今回作中で披露されたオリジナルエピソードは以下の通り↓
・捨蔵と春日局&稲葉正勝とのやり取り。
・有功に捨蔵の後見役を担わせるよう春日局が画策。
・有功による捨蔵への指導と、それに疑問を抱き怒りを抱く玉栄。
・自身が大奥に来るまでの経緯を捨蔵に話す有功と、捨蔵を穏やかに脅す玉栄。
・有功と女版家光の語らい。
・稲葉正勝の妻子が、春日局を訪ねて江戸城へ来訪し、シカトを決め込んだ春日局を待ち続ける様子を稲葉正勝が陰から伺う。
・女版家光との褥に捨蔵が臨む前の有功の激励。
・3話で殺害された若紫とよく似た白猫を稲葉正勝が拾い、さらにそれが有功の下に居つく。
・その白猫に若紫の面影を見出し、同様する玉栄と、その様子を見て玉栄の所業を見抜いた有功。
オリジナルエピソードは、原作に描写がなかったり「気づいたらこうなっていた」的な部分に状況的な説明や補完をする構成となっているので、原作ファンであれば「ああ、あの描写の裏にはこういう事情があったのか!」と納得することしきりな展開になっています。
ただ、それで新規のテレビドラマ視聴者まで引き込めるものになっているのかというと、そこには疑問符を付けざるをえない一面が否めないところなのですが。
ああいうのって、「原作を知っているからこそ納得できる」という要素が少なくなく、逆に全く知らない人間からすれば無用な説明が長々と展開されているだけのように見えることすらあるわけですからねぇ。
ただでさえテレビドラマ版「大奥」では、陰々滅々とした話が第1話から延々と続いているのですし、原作のストーリーに忠実である限り、この傾向が最終話まで緩和される見込みはまるでないときているのですから。
ひたすら原作ファン向けに製作しているとしか思えないこの構成は、視聴率獲得という観点から見れば全くの逆効果でしかないような気が……。
テレビドラマ版の完全なオリジナルエピソードである「稲葉正勝の妻子と春日局」絡みの話ですが、あれほどまでに「戦のない平和な世の中」とやらに拘泥し、そのためならば多くの犠牲を払うことも辞さない春日局ともあろう者が、たかだか稲葉正勝の妻ごときにああまで逃げ腰なスタンスになってしまうというのはどうにも解せないですね。
稲葉正勝の安否の確認などという、下手すれば大奥の最高機密にも抵触しかねない行為に及んでいる稲葉正勝の妻の雪は、春日局にとってはまさに「邪魔者」以外の何物でもないはずなのですし、何故さっさと澤村伝右衛門辺りに斬り殺させないのか疑問に思えて仕方がないのですが。
別に彼女が死んでも、稲葉家の存続自体は既に長男と長女がいるわけですから何の問題もないわけですし、そもそも春日局にとっての雪は「他家から嫁いできた余所者」でしかなく、殺しても何の支障もない存在でしかないでしょうに。
「戦のない平和な世の中」ために血も涙もない犠牲を払うことに躊躇しない春日局が、身内に対しては何と甘いことよ、と考えずにはいられなかったですね(苦笑)。
まあそれを言ってしまうと、そもそも女版家光に対しても、ああまで「自由」を許していること自体、自分の意のままに操り世継ぎを産ませるという観点から見れば非効率も甚だしい限りではあるのですが。
自分の命令が神の信託であるがごとく絶対的なものであると教育し、少しでも自分の命令に背いたら半殺しクラスの虐待を行うことで躾けを行い、自我というものを殺しつくして自分の意のままに動かせる奴隷人形のごとく女版家光を育てていれば、あんな回りくどいことをする必要も手間もなかったはずでしょうに。
過去の歴史を紐解いても、皇帝や国王を傀儡として利用する人間は、常にそういう人間を自分の意のままにできるように堕落させたり強制的に従えたりしてきたものなのですし。
春日局に対してすらワガママ放題に振る舞ったりしている女版家光の態度を黙認するなど、他ならぬ春日局の立場や信念から言えば到底考えられない愚行でしかないはずなのですけどね。
ラストシーンにおける有功と玉栄の会話は、原作2巻のP198~P200における2人のやり取りをトレースしてきたものですね。
原作ではやや唐突だった感のある「有功が玉栄の所業に気づく過程」を、テレビドラマ版では詳細に描いていて、この点に関しては原作よりも描写が上手いと言えますね。
ただ、若紫を殺して角南重郷を自害に追いやったことを「今日まで悪いこととは思っていなかった」というのは、さすがにどうなのかと思わずにいられなかったのですが。
第3話では、「計画通り!」と言わんばかりの悪人的な笑いの表情を浮かべていた玉栄だったのですから、てっきり「悪を背負う覚悟と信念で一連の所業を行っていた」とばかり考えていた私としては拍子抜けもいいところでした。
ここは下手に設定補完な説明を入れたがために、却って玉栄の考えなしな覚悟のなさと小人ぶりが浮き彫りになってしまった感があります。
まあここでは、「お前はいい子や」と玉栄に話しかける有功の方が逆に不気味に見えたくらいでしたが。
原作では憐みの感情のみ発せられていたであろうあの発言は、表情といい口調といい、何らかの悪意が明らかに感じられたものでしたからねぇ、あの有功からは。
次回の第6話は、次回予告を見る限りでは、捨蔵が転んで半身不随になり、さらに玉栄が女版家光の御中臈になるところまでのストーリーのようですね。
大奥の外における他の武家の様子もようやく描かれることになりそうで。
テレビドラマ版でも描かれることになるであろう「大奥」世界における社会システムの改変は、果たして原作よりも説得力のあるものになりえるのでしょうかねぇ。