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2012年11月18日の記事は以下のとおりです。

映画「任侠ヘルパー」感想

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映画「任侠ヘルパー」観に行ってきました。
諸々の事情からヤクザが介護ヘルパーとして働くという奇抜な設定が話題となった、2009年にフジテレビ系列で放映された草彅剛主演の同名テレビドラマの映画化作品。
テレビドラマ版については、映画館での宣伝からその存在自体を知ったくらいなので当然のことながら全く未視聴。
ただ、設定自体はテレビドラマ版と一応の繋がりはあるものの、ストーリー自体はテレビドラマ版とは別個になっているので、作品単独でも充分に観賞可能な映画ではありますね。

かつては指定暴力団「隼会」に所属していた、草彅剛が扮する今作の主人公・翼彦一は、映画の冒頭では組織を抜けて堅気となり、とあるコンビニで働きながら細々と生活していました。
客商売にはおよそ向かないレベルの愛想のなさっぷりを披露していたため、客からも同じバイト仲間?からも見下されバカにされる日々ではあったのですが。
しかしその日常は、コンビニにヘルメットをかぶった強盗が押し入り、バイト仲間にナイフを突きつけてカネを要求されたことから終わりを告げることになります。
ヤクザ時代に培ってきた修羅場での経験を生かし、いともあっさりと強盗を返り討ちにしてヘルメットを奪い取る翼彦一。
しかし、そこにあったのは老人の顔で、明らかに食い詰めて犯行に及んだことが丸分かりな風体でした。
そんな老人に翼彦一は何か同情するものでも見出したのか、自分から老人のバックをかすめ取ってコンビニのカネを入れ、老人に手渡してこの場を去るよう促すのでした。
しかし、そんな一連の出来事は全てコンビニに設置されていた監視カメラに録画されており、翼彦一はコンビニをクビになった上で警察に逮捕されることとなります。
一度は警察に従順に従うそぶりを見せていた翼彦一は、警官達の一瞬の隙を突いて逃亡し、警察に追われながらトンネルを走る描写が展開されます。
まあ、その直後には刑務所の中で囚人として過ごす翼彦一が映し出されていたので、直後にまた捕まったであろうことは想像に難くないのですが(苦笑)。

刑期を過ごしていた刑務所の中で、翼彦一は冒頭のコンビニで強盗に押し入っていた老人と再会することになります。
その老人の名は蔦井雄三といい、刺青もしっかり彫り込んでいる元極道者。
彼は翼彦一からもらったカネを競馬で全部スッてしまった挙句、別件で逮捕され刑務所へ収監されたのだとか。
蔦井雄三は自分と同じ「元極道」という境遇に共感でもしたのか、翼彦一に将棋の駒を渡し、自分が元いた大海市を牛耳っている「極鵬会」という組を訪ねるよう促します。
そして後日、蔦井雄三は老齢に加えて病を患っていたことから死去。
翼彦一が出所するその日、彼の遺体は棺に入れられ火葬場なり墓場なりへ運ばれていったのでした。

刑期を終えて出所した翼彦一は、しかしその直後、冒頭のコンビニで自分と共に仕事をしていた山際成次という若者と出くわし、「男気に惚れたから舎弟にしてくれ」と懇願されることになります。
最初は拒絶していた翼彦一でしたが、あまりにもしつこい上に、その直後に蔦井雄三の娘にして遺族でもある蔦井葉子から形式的な挨拶を受けたこともあり、なし崩し的に舎弟として扱っていくことに。
そして、自身と蔦井雄三の事例から、元極道として堅気で生きていくが困難であると思い知らされた翼彦一は、今は亡き蔦井雄三の勧めに従い、大海市へと向かうことになるのですが……。

映画「任侠ヘルパー」では、まさにゴミ溜めのごとき施設に老人達を隔離し、生活保護のカネだけをふんたくって私腹を肥やす暴力団が登場します。
それどころか、一応は法的に何の問題もない高級老人介護施設でさえも、老人達を半ば機械的に扱い、薬を使って黙らせたりする傾向があることが普通に描かれていたりします。
人をモノとしてしか見ていない凄まじく非人道的な話ではあるのですが、しかし実際問題として、こういったことは現実の介護施設の現場で本当に行われていることのように思えてならないですね。
実際、生活保護の支給は暴力団や悪質なNPO法人の資金源になっているとされ問題にもなっており、作中で展開された「介護や借金を餌にした貧困ビジネス」も普通に横行しているのだとか。
介護ヘルパーによる老人イジメなども一時期話題となりましたが、それも老人を人間ではなく「金のなる木」と見做す風潮が原因でしょうし、根は同じところにあるような感が多々あります。
日本のみならず世界各国の主要国全てで、高齢化社会は誰にとっても避けて通れない深刻な問題となりつつありますし、今後似たようなケースはいくらでも出てくるでしょう。
もちろん、作中における翼彦一のごとく、老人のことを親身に考え老人のためになる介護を真剣に行っている良識的な施設もあることはあるでしょうけど。
出演者の顔ぶれに加え、どう見ても軽いノリの舎弟っぷりを披露している山際成次や正真正銘軽い頭な持ち主の仙道茜などのキャラクターがいることから、一見するとギャグ調な作品っぽく見えるのですが、作品のテーマには意外に重いものがあり、良い意味で予想を裏切る内容ではありましたね。

ただ、個人的に少々疑問に思ったのは、物語終盤における「極鵬会」の面々達の行動ですね。
貧困ビジネスの一環として自分に与えられた「うみねこの家」を焼かれたことから、翼彦一は介護施設建設の入札?会場で「極鵬会」に対して大々的に喧嘩を打ってビジネスを壊してしまった翼彦一は、「極鵬会」の総力を挙げて追われる存在となってしまいます。
そして、放火された「うみねこの家」で老人達が戻ってきた光景を目の当たりにした翼彦一は、老人達が「極鵬会」の目に留められ襲撃されることのないよう、自分の身を「極鵬会」に晒しその身を犠牲にすることを決断します。
果たして彼は「極鵬会」の組員達によって集団リンチに遭い、今まさにどこかへ連れ去られ殺されようとしていたのですが、そこへ異変を察知した八代照夫と蔦井葉子の2人が駆けつけ、八代照夫が「極鵬会」に向かって啖呵を切ることになります。
そしてそれに恐れを抱いたのか、「極鵬会」の面々達はそれ以上の危害を誰にも加えることなく、捨て台詞を吐きながら退散することになるのですが……。
しかし「極鵬会」の面々にしてみれば、たかだか八代照夫の啖呵程度のことで撤退する必要など、実はどこにもなかったりします。
その時の八代照夫は既に大海市の議員を辞職していることを宣言していましたし、その理由が彼自身の女性問題であることも、彼自身の口から既に公のものとなっていました。
となれば、あの場における八代照夫はただの一介の弁護士であるに過ぎず、「極鵬会」にしてみればその場で殺してしまっても何ら問題のない存在でしかない、ということになります。
むしろ「極鵬会」としては、翼彦一に集団リンチを加えていた現場を八代照夫と蔦井葉子に目撃されていることになるわけですから、2人を見逃すと後々厄介な問題にも発展しかねない局面でさえあるわけです。
既に「極鵬会」は、翼彦一を殺すためにどこかへ連れて行く段階に入っていたのですし、あの場には2人以外に目撃者もいなかったのですから、殺すべき対象をひとりから3人に増やしたところで何の支障もなかったはずでしょう。
口封じを目的にした殺人行為なんて、仮にもヤクザや暴力団を名乗っている面々ともあろう者達であれば常日頃から行っているビジネスでしかないのですし。
もちろん、2人を殺す際にはそれなりに合理的な理由で自分達の犯行がバレないような細工をする必要もあるでしょうが、そんなものは後からいくらでもでっち上げることも容易なことでしかないでしょう。
さし当たっては、八代照夫と蔦井葉子の関係を利用して心中に見せかけて殺すとか、何ならコンクリ詰めなり死体を処分するなりして「行方不明」にしても良かったでしょうし。
映画「悪の教典」の蓮実聖司辺りならば簡単に実行してのけそうなものなのですが、仮にも非合法行為を生業とする暴力団の面々が、その程度のことすらも実行どころか思いつきさえしないとは驚きです。
あの場は弁護士である八代照夫が得意とする法律など何も機能しておらず、完全無欠な「極鵬会」のテリトリー下にあったのですから、既にひとりの人間の殺害を実行しようとしていた「極鵬会」が2人を追加で抹殺するなど、赤子の手をひねるよりもはるかに容易なことだったようにしか思えないのですが。
あれでは「極鵬会」は、極道にあるまじき「アマちゃん&事なかれ主義の集団」でしかないではありませんか。
あの場で3人が助かるシナリオにするならするで、もう少し「極鵬会」側がそうせざるをえないような「物理的な力の明示(八代照夫の背後から警察が大挙して出現しようとしていたとか)」の類の演出が必要だったのではないかと。

テレビドラマ版か草彅剛のファンであればもちろん、介護問題について考えたい方であれば必見の映画ではないかと思います。

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