映画「007 スカイフォール」感想
映画「007 スカイフォール」観に行ってきました。
「007」のコードネームを持つイギリスMI6の老練なスパイのジェームズ・ボンドの活躍を描いた、人気スパイアクションシリーズ第23作目。
映画「カウボーイ&エイリアン」「ドラゴン・タトゥーの女」等で主演を担っているダニエル・クレイグが、6代目ジェームズ・ボンドを演じています。
今作で登場する舞台は、トルコのイスタンブール・中国の上海・そしてイギリス(ロンドンとスコットランド)となります。
物語冒頭は、トルコのイスタンブールでMI6の工作員が何者かによって殺害され、テロ組織に潜伏している全NATO諸国に属する工作員達のリストが入っているハードディスクが奪われたところから始まります。
これまでのシリーズと同様に今作でも当然のごとく主人公であるジェームズ・ボンドは、今回の仕事でコンビを組んでいたイヴ・マネーペニーと共に犯人の追跡を開始。
かくして映画始まって早々に、イスタンブールの街中を舞台としたカーチェイス等の追跡劇が展開されます。
しかし、成り行きで乗った列車の屋根の上でジェームズ・ボンドが犯人と格闘している最中、MI6の責任者であるMの命令で狙撃してきたイヴの銃弾で、ジェームズ・ボンドは列車が渡っていた橋の上から断崖の下にあった川へと落下してしまいます。
しかも、犯人は当然のごとく逃がしてしまうという最悪の結果に。
その後、ジェームズ・ボンドの身柄は捜索にもかかわらず見つかることなく、MI6の公式記録上では「ジェームズ・ボンド殉死」と記されることになるのでした。
それからしばらく経ち、MI6はハードディスクが奪われた責任を追及されており、組織の改編とMの交代が議会で議論されていました。
そんな中、Mが議会からMI6の本部へ帰ろうとする途上で、MI6のサーバがハッキングを受けた上、MI6の本部も爆破されてしまうという事件が発生します。
犯行に及んだのは言うまでもなく、冒頭でハードディスクを奪った一味です。
MI6のサーバがハッキングされたことで、ハードディスクの中身も解読されてしまい、犯人グループは1週間毎にリストの中から5人を選んで名前をサイト上で公表すると宣言します。
一方、橋から落ちたもののやはり無事だったジェームズ・ボンドは、南国のリゾートっぽい場所でバカンスを楽しんでいました。
しかし、MI6の本部が爆破されたというニュースを聞きつけるにおよび、彼はMI6の復帰を決意。
Mの自宅で忽然と姿を現し、Mに対して自身の復帰を高らかに宣言するのでした。
Mは復帰するためには再テストを受ける必要があると言い、本部が爆破されたことで別の場所に移されたMI6の新たな本拠地へジェームズ・ボンドを案内することになります。
そこでジェームズ・ボンドは再テストを受け、自身に浴びせられた銃弾を元にハードディスク強奪犯を割り出し、その強奪犯が現れるとされる中国の上海へと赴くことになるのですが……。
映画「007」シリーズは、1962年に映画版第1作目が公開されて以降、「スカイフォール」で23作目を数えるという、相当なまでの長期にわたるシリーズとなっています。
しかし、いくらこれまで総計6人がジェームズ・ボンド役を代替わりしてこなしてきたとはいえ、他ならぬ作中のジェームズ・ボンド自身がかなりの高齢な設定となってしまっています。
作中でも、「あなた方のやり方は古い」的な批判をジェームズ・ボンドやMI6は散々受けてきたわけですし。
このままの設定で行くと、作中のジェームズ・ボンドはどんどん年を重ねていくことになりますし、それでもシリーズを継続させた場合、下手すると齢100歳を超えたジェームズ・ボンドが現役で活躍を続けるなどという滑稽な事態にもなりかねないでしょう。
そうなると、ジェームズ・ボンドの存在そのものが「不死」という秘密を抱えることになってしまいますから、それを狙って世界各国の諜報機関やマフィア系組織がジェームズ・ボンドの身柄を手に入れるべく蠢動を始める、などというオカルティックな展開にも発展しかねないのではないかと(苦笑)。
生年月日をずらせばこの問題は解消できるかもしれませんが、ただそれをやると、老齢のジェームズ・ボンドが今度は若返ったり、ハッカー的なジェームズ・ボンドが誕生したりと、これまでのストーリーとの整合性がない変な方向へ行ってしまう可能性もなきにしもあらず。
下手をすれば、それが「007」シリーズのイメージを破壊することにもなりかねないわけですし、シリーズ継続もだんだんと難しいものになっていっているのではないですかねぇ。
今作では、「007」シリーズの特色でもあった「秘密兵器」と「ボンドガール」の占める割合がかなり低いものとなっていますね。
作中に登場した「秘密兵器」と言えば、指紋認証でジェームズ・ボンド以外の人間には使用できず、かつ自身の居場所を伝える送信機能を持つ銃だけ。
それでも活躍していたと言えば言えるのですが、奇抜な「秘密兵器」が活躍していたこれまでのシリーズ作品と比較すると、いかにも「地味」なイメージが拭えないところです。
ベレニス・マーロウが扮した「ボンドガール」のセヴリンに至っては、物語中盤でようやく登場してジェームズ・ボンドとバスルームセックスにしけこんだかと思いきや、さしたる活躍もないままに敵方のラウル・シルヴァに撃ち殺されるという末路を辿るというだけの出番しかありませんでした。
今までの「ボンドガール」って、ジェームズ・ボンドと一緒に最後まで行動を共にし、場合によっては一緒にアクションを演じたりして活躍するパターンも少なくなかったと思うのですけどねぇ。
むしろ、ラウル・シルヴァやジェームズ・ボンドと深い関わりのあるMの方が作中での露出度ははるかに高く、「彼女こそが今作における真のボンドガールなのでは?」とすら考えたくらいでしたし。
作品全体の雰囲気やテーマでも「過去と向き合う」的な要素が強い作品ですし、その点では既存のシリーズ作品とはやや異なる赴きがあるかもしれません。
あと、今作のラスボスであるラウル・シルヴァは、やっていることが世界的なレベルで大掛かりな割には、その動機や目的があまりにも小さすぎるという感が否めないですね。
MI6本部を爆破したり、イギリス議会に殴り込みをかけるなどといった大胆な犯行を重ねていたその真の理由が「かつて自分を見捨てたMに対する復讐」でしかないって……。
最初にそれが明示された物語中盤頃は、「それは真の目的を隠すためのダミーなのではないか?」と考えていたのですが、結局彼は最後まで「Mへの復讐」に固執し続けていましたし。
ラストなんて、当の本人の精神面以外には何ら物理的な利益をもたらすことがなかったであろう「ジェームズ・ボンドの実家であるスカイフォールへの襲撃」まで実行するありさまでした。
ラウル・シルヴァが単に「Mの死」を望むのであれば、より少ない犠牲で確実に実現しえる手段など他にいくらでも存在しえたはずなのに、一番犠牲が大きく不確実な手段の選択肢をわざわざ選んでいるとしか思えなかったですからねぇ、アレは。
ラウル・シルヴァにしてみれば、そこまでの犠牲を払ってでもMを自分の手で直接殺害することを望んでいた、ということになるのでしょうけど。
しかも、結果的にスカイフォールの戦いでMが流れ弾?に当たって死んでしまったことを鑑みると、ラウル・シルヴァは(自分が一番望んだ形ではなかったにせよ)結果的に自らの復讐を見事に成就したことになってしまいます。
その点でジェームズ・ボンドは、ラウル・シルヴァを殺すことには成功したものの、Mを守り彼の復讐を妨げるという目的を達成できていないわけで、爽快感が売りのスパイアクション映画的には何ともすっきりしない結末と言わざるをえないところです。
「ダイ・ハード」や「ダイ・ハード3」のように「復讐や政治的テロに見せかけて実は……」的なワンクッションでもあった方が、ここでは却って良かったのではないかと思えてならないのですけどね。
作中で繰り広げられるアクションシーンについては、さすが「007」シリーズというだけのことはあり、それなりに見応えはあるものとなっています。
冒頭からいきなりカーチェイスが始まることもあって退屈はしないですし。
これまでのシリーズのファンがアクション映画が好みの方にはオススメの作品ですね。