映画「ロボット」感想(DVD観賞)
映画「ロボット」をレンタルDVDで観賞しました。
日本では2012年5月に公開されたインド・ボリウッド映画で、世界最高の頭脳と能力を持つ人造人間が暴れ回る、ラジニカーント主演のSFアクション作品です。
今作では劇場公開時に熊本では全く上映されておらず、今回そのリベンジを果たす形での観賞となりました。
ちなみに、私がインド・ボリウッド映画を観賞するのは、実は今回が初めてとなります。
インド・ボリウッド映画って、「あの」ハリウッドすらも超える数の映画を製作しているという割には、日本ではあまり劇場公開されておらず、どうにもマイナーなイメージが拭えないところなんですよね。
もう少し劇場公開されても良さそうな気はするのですが……。
今作の主人公であるバシーガランは、実に10年にもおよぶ歳月をかけて、1体のロボットを製作していました。
製作は順調に進み、製作の時点で既に自立歩行はもちろんのこと、格闘技まで問題なくこなし、さらには会話の方法を学んだり歌を歌ったりすることまでできるという高性能ぶりを披露しています。
恋人であるサナですら門前払いをして研究に没頭したために怒りを買って別れ話を切り出されるにまで至ってしまうという副作用はあったものの、ロボットはめでたく完成の日を迎えます。
スピード:1テラヘルツ・メモリー:1ゼタバイト(ゼタはテラの10億倍)という、スペックからして凄まじい能力を誇るそのロボットは、バシーガランの母親によって「チッティ」と名付けられることになります。
最初は、間からの指示を字面通りに解釈し融通の利かない様を見せたり、電話帳の中身を丸暗記して驚異の記憶力を見せつけたりと、いかにもロボットらしい言動を披露するチッティ。
そしてバシーガランは、ロボット工学の要人達?を集めた発表会で、チッティの存在を世に知らしめるのでした。
しかし、発表会の場でそれを面白くなさそうに眺めるひとりの男がいました。
AIRD(人工知能開発局)の局長であるボラ教授です。
彼もまた人工知能を持つロボットの製作を生業としていたのですが、バシーガランと異なり開発がまるで上手く行っておらず、自身が為し得ない成功を達成したバシーガランを妬んでいたのでした。
彼は、男の嫉妬丸出しで、バシーガランに一泡吹かせることを決意するのでした。
そんな中、チッティの桁外れな高性能ぶりに目をつけたサナは、大学?の試験対策のための家庭教師としてチッティを使うことを思いつき、バシーガランに頼み込んで2日ばかりチッティを借りることに成功します。
しかしサナは、大学で好き放題やりまくっているチンピラ学生達と対立し、チッティは彼女を守るべくチートな奮闘を展開しまくることに。
その後、チッティの調整を終えたバシーガランは、AIRDからチッティの承認をもらうべく、AIRDの審査会に臨むこととなるのですが……。
映画「ロボット」は、全体構成の3分の2近くを「チッティの能力披露と変遷の過程」に注ぎ込んでいますね。
序盤は基本的な性能の披露から始まり、中盤にかけてはチンピラとの格闘、火災現場における人助けと、ロボットの性能とそれ故のイザコザに関する描写に終始しています。
個人的に少々疑問を持ったのは、火災現場で風呂に入っていたセルビという女性をチッティが助けた際、衆人環視の前で裸を晒す羽目となった彼女が、報道陣から逃げ出した挙句にタンクローリーに轢かれて死亡した責任がチッティの責任にされてしまったことですね。
あれってどう見ても、チッティではなく裸の女性にカメラを突きつけたマスコミの方に問題があったのではないかと思えてならなかったのですが。
日本やアメリカであればまず真っ先に人権問題に発展しかねない報道だったのですが、ああいうパパラッチ以下レベルでしかない報道手法がインドでは許されるとでも言うのですかねぇ(苦笑)。
今作特有の描写で言えば、チッティがサナを誘拐して逃亡していた際に、サナという人質がいることが分かっていながら、そんなことお構いなしに銃を乱射しまくっていた警官達の描写もなかなかにクるものがありました。
クルマの真横という至近距離からマシンガンをぶっ放しまくるという描写までありましたし。
あれだけ銃を乱射しまくってサナが死亡どころか負傷すらもしなかったのは、単なる奇跡かご都合主義以外の何物でもなかったでしょう。
いくらあの時点ではチッティの驚異的な性能が周知だったとは言え、人質もろとも殺してしまえとあっさり突き抜けてしまえる作中におけるインドの警察機構は、日本やアメリカとはまた違った組織であることをまざまざと見せつけてくれます(爆)。
日本やアメリカの映画で同じような場面に遭遇した際には、必要以上に人質に対する配慮を示して行動を束縛されたり、そこを犯人側に付け込まれて好き勝手されたりする描写が展開されるのが常だったりするのですが。
特に日本なんて、硬直しきった警察機構や官僚組織のあり方が、しばしば映画のみならずエンタメ作品のテーマとして取り上げられたりするくらいなのですからねぇ。
そんな苦悩とは全く無縁な作中におけるインドの警察機構は、日本人から見たらある意味羨望に値するものですらあるのかもしれません。
あと、せっかくチッティをバシーガランから離反させて自分の意のままに操れるチャンスを得たにも関わらず、結果的にチッティに惨たらしく殺されてしまうボラ教授が、あまりにもマヌケに見えてならなかったですね。
彼は、チッティのプログラムを書き換えて好き勝手に暴れ回るよう仕向けた際に、自分にだけは絶対に逆らわない&逆らえないようにするためのセーフティプログラムを全く組み込んでいなかったんですよね。
プログラムの中に主人に対する絶対服従を仕込み、自分達に逆らおうとした際には強制的な措置でもってその行動を抑止するという手法は、映画だと「ロボコップ」辺りで既に描かれている、誰でも考えるべき手垢の付いたシロモノでしかないはずなのに。
チッティを助けたのだから自分は大丈夫だろうと、何の根拠もなく信じ込んでいたのですかねぇ、ボラ教授は。
そんなものは何の安全保障にもならないと、彼ならば他ならぬ自分自身の経験から理解できたはずでしょうに。
あれだけのことをやって黒幕的な雰囲気を醸し出しておきながら、その末路がセーフティネットの張りそこないによる自業自得な自滅というのは、いささか竜頭蛇尾もいいところだったのではないのかと。
しかし今作の真骨頂は、物語後半50分ほどで展開されるアクションシーンにあります。
逃走するチッティとそれを追う警察との戦いと、チッティによって製作された大量の「チッティ軍団」の暴走ぶりは、確かにハリウッド映画も顔負けな要素がふんだんに盛り込まれています。
確かにあんなアクションシーンは、日本映画どころかアクション映画の本場ハリウッドでさえもなかなか思いつけるものではないでしょう。
というか、一体どうやったらあんな超高度な組体操モドキなアクションシーンを考えつくものなのかと(苦笑)。
当然のごとく警察は全くの無力で、チッティ軍団に対抗しえるのは、バシーガランの知略とコンピュータワームを駆使したIT戦術のみというありさま。
圧倒的な力を誇るチッティ軍団と、それを相手に頭脳戦を挑むバシーガランの熾烈な頭脳戦は、製作費37億円もかけているというだけあってなかなかの出来ではあります。
これがしかし日本ではマイナーな映画でしかないという辺りに、インド・ボリウッド映画に対する日本での評価というのが垣間見えて、何とも泣けてくる話ではありますね(T_T)。
もう少し洗練されれば、インド・ボリウッド映画はすくなくとも韓流映画や中国映画などよりは日本のみならず世界にも通じるものになりそうな気がしてならないのですが。
インド・ボリウッド映画の魅力を知りたい方にはオススメの一品と言えるでしょうか。