映画「ストロベリーナイト」感想
映画「ストロベリーナイト」観に行ってきました。
フジテレビ系列で放映された同名テレビドラマシリーズの劇場版。
竹内結子が演じるノンキャリア出世組の女刑事・姫川玲子、および「姫川班」と呼ばれる部下達の活躍を描いた刑事物です。
今作は姫川玲子シリーズのひとつ「インビジブルレイン」という小説が原作なのだとか。
ちなみに私は、過去のテレビドラマシリーズは全く未観賞で今作に臨んでいます。
その視点から見る限りでは、一応テレビドラマ版とは独立したストーリー展開となっていて事件の背景などについては問題なく理解できます。
しかし一方では、主人公である姫川玲子を取り巻く人間関係や過去のエピソードなどについてはほとんど何もフォローされておらず、そちらについては非常に分かりにくい構成でしたね。
作品の世界観や登場人物達について知りたいのであれば、過去のテレビドラマの事前復習は必須ではないかと思われます。
物語は、主人公である姫川玲子のモノローグと、事件の発端と思しき光景が混在する形で描写されていくところから始まり、直後に姫川玲子と菊田和男がバーで飲んでいる?シーンが映し出されます。
菊田和男は、姫川玲子が長年愛用していてすっかりくたびれてしまっている真っ赤なエルメスのバッグについて「買い替えないのか?」と尋ねるのですが、その場では明確な答えが出されることなく、2人は殺人事件発生の報に接することとなります。
殺害現場における被疑者は、何故か左目が切り裂かれている暴力団構成員の男。
ここ最近、全く同じ手口による殺人事件が、それも全く同じ暴力団の人間相手に発生していることから、警察では連続殺人事件と断定し、合同特別捜査本部が設置されます。
しかし、捜査本部設置初めての会議で事件のあらましを説明する段階から、姫川玲子は早々に異議申し立てを行い、暴力団等の組織犯罪を主に扱う組対四課の面々といがみ合うこととなります。
とても「互いに協力して捜査を行う」などという雰囲気ではなく、組対四課は捜査一課とは別個に捜査を行うことを上に提案する始末。
結果、組対四課の提案が採用され、警察の各課は「合同」の名に反し、「情報を共有すること」を条件としつつも全く連携の取りようがない捜査を行うこととなったのでした。
いきなり不穏な気配が漂いまくり、先行き不安な局面から始まった捜査でしたが、会議の終了後、誰もいなくなった会議室に一本の電話が鳴り響きます。
唯一その部屋にいた姫川令子が電話を取ると、コンピュータ音声を繋ぎ合わせたと思しき不審な声が「殺人事件の犯人は柳井健斗」などとしゃべったのでした。
電話は一方的に言葉を伝えた後、何も尋ねることなく一方的に切られてしまいます。
電話の内容をメモっていた姫川玲子は、体調不良だか何かで現在入院している自分の上司で係長の今泉春男の元を訪れ、電話の件を報告します。
ところが今泉春男は、「この件は一旦自分に預けておいてくれ」と不可解な言動を見せます。
さらに翌日、姫川玲子は橋爪俊介から「誰にも見られないよう早朝に公園に来い」命じられ、柳井健斗については一切触れるなと言われてしまいます。
当然のごとく不審を抱かざるをえなかった姫川玲子は、裏にヤバいものがあることを察し、命令に従わず単独での捜査を始めることとなるのですが……。
映画「ストロベリーナイト」最大の特徴は、物語のほぼ全編を通して雨のシーンばかり続くことですね。
物語全体でも数日の時間が経過しているはずなのですが、その大部分で雨または曇り空の天気が続いていました。
雲ひとつない晴れ上がった空が出てくるのは、物語のラストシーンのみです。
映画の原作および副題が「インビジブル『レイン』」なので、意図的に雨を意識した場面作りに精を出していたといったところでしょうか。
柳井健斗のアパートを姫川玲子がひとりで張り込みを行っていたシーンなどは、最低半日~1日程度の時間経過があるような感じだったにもかかわらず、その間ずっとクルマのワイパーを常時回していなければならないほどの雨が続いていたみたいですし。
アレだけ長時間にわたってそんな大雨が降り続いていたら、大雨洪水警報が発令して川が氾濫したり道路の浸水が発生したりで、交通網が大混乱に陥っていてもおかしくないのではないかと、ついついいらざる心配をしてしまったものでした(^^;;)。
もっとも、作中で描写されていない時間帯で、一時的に雨が止んだり小雨になったりしていた可能性はあるわけですし、高台などではそんな雨でも意外と普段とあまり変わらなかったりするものなのですが。
作中のストーリーを見てみると、主人公である姫川玲子の行動にはかなり不可解な要素が否めなかったですね。
彼女は「上司の命令に従順ではない反権力的・真実追及を第一とする思考をする女性」として描かれており、犯人追求に人一倍の情熱を燃やしています。
ここまでならばこの手の刑事物にはありがちな設定なのですが、作中における姫川玲子は、不審な電話で言われていた柳井健斗のことを調べる過程で、指定暴力団・竜崎組の若頭である牧田勲と接触するようになります。
最初は牧田勲が自身の身分を偽っていたこともあり「事件の参考人」程度の接し方だったのですが、竜崎組絡みの暴力沙汰に巻き込まれたことがきっかけとなって、姫川玲子は牧田勲の正体に気付くことになります。
そこまでは良かったのですが、彼女は牧田勲を犯人と見立てて素性を調べ真相を暴くべく迫った際、逆に自分の本質を相手に見抜かれた挙句、「お前が憎む相手を俺が殺してやろうか?」という相手からの申し出に対し「殺して」と同意の返答をしてしまうんですよね。
さらにその直後、2人は互いに抱擁しそのままカーセックスへとしけこむありさま。
あの時点における牧田勲は、姫川玲子にとってはどう控えめに見ても事件の重要参考人、場合によっては真犯人の可能性すら持ちえる存在であることを、彼女は当然のごとく知っていたはずなのに、それを承知でああいう展開になるというのが正直理解に苦しむところなんですよね。
暴力団関係者、それも事件の容疑者にもなりえる存在とそんな関係になることが、自分にとっても警察にとってもどれほどまでに致命的なスキャンダルたりえるのか、一般常識があれば誰でも普通に理解できそうなことでしかないではありませんか。
警察内部でも、姫川玲子と牧田勲の関係が噂され、姫川班の面々が公衆の面前で堂々と糾弾されていた描写すらあったのですし、部下の菊田和男などは、2人がカーセックスにしけこむ場面に居合わせてさえいました。
このシーンの後、姫川玲子は度重なる単独行動と命令違反が問題視され、事件の捜査から外れることとなってしまうのですが、警察内部でのスキャンダルな噂話の方が、実際にはもっと大きな問題だったのではないのかと。
菊田和男も、よくもまあ姫川玲子のカーセックス問題を追及しなかったものだと、逆の意味で感心せざるをえなかったですね(苦笑)。
牧田勲とカーセックスをやらかした時点で、彼女は犯罪捜査にある種の「私情」を持ち込んでいることになるわけですし、警察の人間として完全に失格であるとすら言えてしまうのではないのでしょうか?
物語後半で菊田和男から「あなたは警察として行動しているのですか?」と問いかけられたのに対する返答も、明らかに私情で動いていることを告白しているも同然のシロモノでしかなかったですし。
映画観賞後にWikipediaで調べてみたところ、姫川玲子には17歳の頃にレイプされた過去があるらしいのですが、だからと言ってそれが彼女の「私情」な言動の免罪符になるわけもないのですし、彼女は警察という職種にはあまり向いていない人間であると評さざるをえないですね。
いっそ、カーセックスで結ばれた牧田勲と共に、極道の世界で成り上がっていった方が、彼女の適性的に見てもはるかに良かったのではないのかと(苦笑)。
ミステリー系なストーリーとしては意外な真相で面白かった部分もあったのですが、姫川玲子のカーセックスの一件から、どうにも彼女の言動にはついていけないものがありましたね。
しかも結果的に見れば、彼女は結局自力では事件の真相に辿り着けておらず、真犯人の一種の「自爆」によって幕が下りたようなものでしたし。
この点から言っても、姫川玲子の「有能さ」よりも「常識外れの異常ぶり」の方がはるかに際立った作品であると言えますね。