映画「プラチナデータ」感想
映画「プラチナデータ」観に行ってきました。
東野圭吾の同名小説を原作とし、男女逆転「大奥」1作目および「GANTZ」二部作で主演を担った二宮和也、および豊川悦司の2人を中心とするサスペンス・ストーリーが展開されます。
映画の冒頭は、児童連続殺人事件の現場に、警視庁捜査一課の浅間玲司が駆けつけるところから始まります。
一連の児童連続殺人事件は捜査が難航しており、警察は未だ容疑者を検挙することもできずにいました。
しかし、被害者の遺体に付着していた髪の毛を元に、警視庁特殊解析研究所(SARI)の主任解析官・神楽龍平が、自身で開発したDNA捜査システムを元に犯人像を割り出します。
そのDNA捜査システムは、登録されたDNAの持ち主を割り出し、DNAを元に真犯人個人の血液型・年齢等はもちろんのこと、詳細な容姿・体型に至るまで再現するという優れ物。
結果、あっという間に真犯人は割り出され、周到な準備と包囲によって、真犯人はいともたやすく逮捕されてしまったのでした。
これが端緒となり、1年後には全国民にDNAの提供が義務付けられるDNA法案が通過する運びとなったのでした。
児童連続殺人事件から3ヶ月後。
全国民のDNA登録が進んでいく中、警察はDNA登録を行わない犯罪者による連続殺人事件に手を焼いていました。
犯行現場等から検出されたDNAは、登録されているDNAに類似するものがなく、同一手口の殺人事件が13件発生していることから、この事件は「Not Found13」という通称で呼ばれていました。
そんな中、神楽龍平と共にDNA捜査システムの開発の創設者である蓼科耕作と、妹の蓼科早樹が何者かによって殺害されるという事件が発生します。
事件の手口が「Not Found13」と同一であったことから、この事件も「Not Found13」関連のものではないかと推察されたのですが、浅間玲司は被害者のパターンがこれまでの事件と異なることから犯人は別にいると考えます。
事件の現場となった新世紀大学病院には多数の防犯カメラが設置されていたことから、浅間玲司は防犯カメラの解析を元に容疑者の割り出しを進めていきます。
一方、同僚を殺された形となった神楽龍平もまた、DNA捜査システムを使って真犯人を割り出すべくシステムを起動させます。
ところが、その捜査の双方で、全く思いもよらぬ人物が重要参考人として浮上することになります。
それは何と、DNA捜査システムを開発した神楽龍平その人だったのでした……。
映画「プラチナデータ」では、「もしこんなシステムがあったらこういう捜査が可能になるのと同時にこういった問題が発生する」というテーマが描かれています。
DNAや指紋等を使用した犯罪捜査自体は、警察も20年以上も前から行っており、精度についても年々向上の一途を辿っています。
ただ、その精度については疑問符が上がることもしばしばで、DNA捜査が決めてとなって有罪判決が下された被疑者が後に逆転無罪を勝ち取るなどといった事例も過去には発生していたりします。
精度の問題だけでなく、DNAサンプルを採取する際に全く別人のDNAが付着したことに気付かないまま捜査が進められたり、サンプルの取り違えでこれまた全く別人が被疑者として挙げられたりといったヒューマンエラーの問題もあったりしますし、DNA「だけ」で犯罪捜査の全てが決まる、などという未来はまだまだ少なからぬ時間が必要ではあるでしょう。
しかし、作中のようなDNA捜査システム自体は、現時点ではともかく将来的には充分に出現が想定されるものではありますし、これを基にしたシステムというのも現実味のある話とは言えるのではないかと。
個人的に興味深かったのは、作中のDNA捜査システムと街中の防犯・防災カメラのシステムを融合する形で構築されている社会的な監視システムの存在ですね。
このシステムは、人が溢れ返っている街中においてもピンポイントで特定の人物を発見できるという優れ物で、物語前半における神楽龍平の逃亡劇においてその威力を存分に発揮しています。
人混みに紛れる形で逃走を始めたはずの神楽龍平をいともあっさりと発見してしまったこのシステムは、犯罪捜査や犯人追跡などにはかなり使い勝手が良いでしょうね。
監視システムの脅威というテーマを扱った映画自体は昔からそれなりの数はあって、私が知っている範囲でも、1999年公開映画「エネミー・オブ・アメリカ」や2008年公開映画「イーグル・アイ」などが印象に残っていますし、邦画でも「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」や映画版「ワイルド7」などの事例があります。
今作ではその脅威的な監視システムに、さらにDNA照合システムを組み合わせることでさらに特定の人物をピンポイントで割り出せるようにしているわけですね。
ただ一方では、防犯・防災カメラがロクに設置されていない街外れや無人地帯などではその実力を十全に発揮することができず、結果として追跡ができなくなってしまうなどの脆弱性をも抱え込んでしまっていたりもするのですが(-_-;;)。
携帯電話のGPS機能を利用した追跡システムとか、人工衛星を駆使した空からの監視システムとかいったものもあのシステムに組み合わせれば、作中で披露されたシステムの欠点を補って余りある強力無比なものができそうな感じではあるのですけどね。
DNA捜査システム以上に実現性の高い技術なのですし、これらの組み合わせはむしろない方が不思議な気はするのですが。
作中におけるDNA捜査システムの問題は、システム自体の技術的な欠陥ではなく、それを扱う人間の不完全さに焦点が当てられている感が多々ありましたね。
物語後半で大々的にクローズアップされた「真のプラチナデータ」問題などは、まさにその典型と言えるシロモノでしたし。
技術的には完璧であるはずのシステムが、それを運用する人間側の都合によって歪められる、というのは皮肉もいいところではあるのですが、同時に「確かにそういうことを考える人間は確実に出てくるだろうなぁ」という説得力は大いにありました。
ただ、「真のプラチナデータ」の対象者が本当に犯罪捜査から逃れたいと考えるのであれば、そもそも最初からDNA登録をしないか、それが無理というのであれば偽造のDNAを登録すればそれで済む問題でしかないのではないか、という疑問がないことはないですね。
彼らは世間的にもVIPや権力者なのですし、権力と財力と暴力を駆使して事実を歪めたり偽造したりすることも容易に行える立場にあるはずなのですから。
彼らの立場的には、バカ正直かつ素直にDNA登録などをやっていることの方がおかしな話なのではないかと思えてならなかったのですけどね、私は。
あと、ミステリー的な観点から見ると、真犯人が作中で展開していた殺人事件の動機が今ひとつ弱いのではないか、というのが少々気になりました。
真犯人の犯行動機というのが全て「自身の(殺人とは関係のない)犯行の隠蔽ないし口封じ」ばかりで、怨みとか金目当てとかいった「積極的な動機」がないんですよね。
告白の字面だけを追っていくと、その残虐性はかなりのものがあるはずなのに、どこか意志薄弱な雰囲気が漂いまくっていたことも、動機の弱さを強調する要素が多分に含まれていましたし。
ラストで披露された犯行告白の際も、自己主張が弱かった上にほとんど自滅の体で返り討ちに遭ったようなものがありましたからねぇ(苦笑)。
連続殺人事件の黒幕?にしては、どうにも「締まらない」印象が拭えないところなのですが。
物語前半および中盤の逃走劇は演出的にもそれなりに見応えがありますし、事件の真相や神楽龍平の正体など、上手い落としどころに落としている作品ではあります。
ミステリーや人間ドラマが好きな方は、観ても損はない映画と言えるのではないでしょうか。