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2013年03月18日の記事は以下のとおりです。

映画「ひまわりと子犬の7日間」感想

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映画「ひまわりと子犬の7日間」観に行ってきました。
2007年に宮崎県中央保健所で実際にあった話をまとめた山下由美のノンフィクション小説「奇跡の母子犬」を基にした、保健所における殺処分がテーマとなる犬と人間の物語。
映画「ゴールデンスランバー」「日輪の遺産」、そして男女逆転「大奥」のテレビドラマ版2作目映画版で一人二役を演じた堺雅人が主演を担っています。

今作の冒頭では、物語の中で大きく取り上げられ、終盤近くで「ひまわり」と名付けられることになる一匹の雌犬の前半生が、登場人物の肉声が一言も発せられることなく語られていきます。
その雌犬は、とある老夫婦の家で3匹の子犬の中の1匹として生まれ、貰い手があった2匹と違ってそのまま家に残り、母親犬と共に幼少期を過ごしていました。
しかし、母親犬は黒い大きな犬から我が子を守るべく争いになり、体格の違いもあってそのまま他界してしまいます。
ただ一匹、老夫婦の家に残った雌犬は、老夫婦の愛情を一身に受け、健やかに成長していきます。
ところがある日、年老いた老婆が突然亡くなってしまい、一人残された老人もまた、親戚筋だか子供の家族だかによって老人ホームに入れられることになってしまいます。
残された雌犬は、飼い主恋しさに繋がれた鎖から強引に抜け出し、微かな匂いを頼りに老人ホームへと向かう飼い主の追跡を始めるのですが、おりしも降ってきた大雨によってその匂いすらもかき消され、追跡の手がかりを完全に失ってしまいます。
失意の中で数日かけてようやく家に戻ってきた雌犬が見たのは、飼い主に家を委ねられた近親者の意向?によって家の家財道具が次々と運ばれていく光景でした。
雌犬は引っ越し業者によってスコップなどを叩きつけられて追い払われてしまい、野良犬としての生活を余儀なくされてしまうのでした。

ここで舞台は変わり、今作の主人公である神崎彰司にスポットが当てられることになります。
彼は元々動物園の飼育員で、経営不振でそこが閉鎖された後は宮崎県東部保健所に勤務している中年男性。
同じ動物園の飼育員仲間という関係で知り合い結ばれた妻・神崎千夏を、5年前の交通事故で失った2児の父親でもあります。
宮崎県東部保健所では、3ヶ月毎に数人の職員の持ち回りで犬猫が「保護管理」されている保健所へ出向く決まりがあり、2007年2月は神崎彰司と彼の後輩である佐々木一也の持ち回り月となっていました。
しかし、保健所へ出向くに際し、神崎彰司は自分の上司である桜井から注意を受けます。
神崎彰司が保健所の保護管理を行っている間だけ、犬猫へのエサ代が急増していると。
これは、神崎彰司が独断で犬や猫の保護期間を延ばし、里親を探すべく尽力しているための副産物だったのですが、保健所の官僚的なルール上では立派な違反行為となるのです。
それだけでなく、保健所のエサ代も国民の税金から支出されているので、下手に犬猫を生かし続けると「税金の無駄」と保健所が世間から叩かれるという問題もあるわけなのでした。
結果、神崎彰司は犬猫の余計な延命はしないと約束させられることになります。
そんな中で保健所に出向する日々を続けていた最中の2月7日、神崎彰司と佐々木一也は、野良犬が畑を荒らしているという農家からの依頼で、同じ職員である安岡と3人で野良犬捕獲に乗り出すことになります。
そこで彼らは、生まれて1~2ヶ月程度とおぼしき3匹の子犬と、子犬を必死になって守ろうとする母親犬に出会うこととなるのですが……。

映画「ひまわりと子犬の7日間」は、タイトルに「7日間」と謳っているのに反して、実際には物語冒頭の雌犬&子犬と神崎彰司が出会った日時から換算しても3倍の21日間、物語全体で見ると2007年2月をほぼ丸々使用した期間が費やされています。
ではタイトルにもなっている「7日間」が何を意味するのかというと、これは作中の保健所がルールとして規定している「犬を預かってから殺処分するまでの保護期間」のことを指しているのです。
この7日間の間に保健所は里親を募集し、里親が見つかれば晴れてその犬は引き取られることになるのですが、もし見つからない場合は殺処分ということになるわけです。
ところが今作の主人公である神崎彰司は、保健所の真実を否応なく突きつけられることになった娘の神崎里美とのやり取りを経て、本来ならば捕獲から7日後の2月14日には殺処分をしなければならないところを、自分が保健所を管理できる1ヶ月間の期限一杯(2月28日)まで無断で延長し、何とか雌犬と子犬「全て」を助けようとするんですよね。
ちなみに、この一見短いように思われる「7日間」という期間は、しかし全国的に見るとまだ長い部類に入るのだそうで、地域によっては3~5日程度で殺処分が行われるところもあるのだとか。
かといって、それが可哀想だからと悪戯に保護期間を延ばしても、作中でも言われているようにエサ代をはじめとする費用がバカにならなくなりますし、世間からも「税金の無駄」と叩かれる問題があったりするわけです。
保健所における動物への殺処分がひとつの「必要悪」として存在する、という厳然たる事実を、今作の特に前半部では否応なく登場人物と観客に突きつける構図になっています。
単純に「可哀想だから」で終わる話でもなければ、それに代わる代替案も簡単には構築出来ないし、仮にたまたま代替案があったとしても、そのリスクと責任が当然のごとく問われる。
だからこそ、動物の殺処分問題は難しいのですし、作中の登場人物達も大いに頭を悩ませることになるわけです。

今作で大きな問題となっているのは、単に「犬を助けたい」ということではなく、「人間不信に陥り威嚇してばかりいる心を閉ざした母親犬」をも「子犬と一緒に」助けようとする点にあったりします。
生まれて間もない子犬だけならば引き取り手もたくさんいたでしょうが、神崎父子は「子犬だけでなく母親犬も一緒でなければならない」と考えるわけですね。
これはどちらかと言えば、母親犬よりも神崎父子側の家庭事情によるところが大きいでしょう。
神崎家は交通事故で母親が他界しているわけですし、特に娘の神崎里美は母親犬に自分の母親を重ねていたのでしょう。
作中における神崎里美の言動からも、その傾向は明らかに伺えましたし。
一方で、犬に限らず動物の母性本能というのは人間と異なり、自分の子供について結構割り切っているところがあったりしますからねぇ。
生まれた直後から一定期間は確かに子供を育て守るべく尽力するものの、中途で死んでしまったり自分の管理から離れた子供のことをいつまでも気にすることはないですし、ある程度子供が育ってくれば子育てを止めるばかりか、場合によっては自分から強引に引き離すべく邪険に扱ったりするようになることも珍しくなかったりします。
この辺りはむしろ、理性と記憶力というものを持ち、かつ長期間にわたる保護・育成のための時間を必要とする人間の方が、一般的な動物のグローバルスタンダード(苦笑)からすれば「不自然」かつ「異常」なのでしょうね。
そう考えると、神崎家の面々が子犬と一緒に母親犬をも助けようとする行動は、神崎家の面々が思い描く理想を母親犬に押し付けている、という一面も多分にあったのではないかと。
でなければ、一連の問題は「子犬だけ引き取って母親を殺処分する」という方向に安易な決着で落ち着いた可能性が高かったわけですし。
もちろん、彼らが母親犬を助けようとした行為自体は、それで他者に危害が加わるのでなければ何ら責められる筋合いのものではないのですけどね。
神崎彰司が結果的に保健所のルールを破ることになってしまった問題については、また別の評価もあるかもしれませんが。

今作の物語は特に奇抜なものではなく、むしろ日本全国の保健所その他でいくらでも起こっていそうな「ごくありふれた話」です。
今作で「奇跡」と呼ばれる要素があるとすれば、それは「心を閉ざした母親犬が全くの他人に心を開いた」という事実のみにあるのであって、それ以上でも以外でもないのですから。
保健所で毎年10万単位で動物が殺処分されている事実も、それを回避すべく犬や猫を引き取る里親の存在も「ごくありふれた話」ですし、保健所の人間が犬猫を可哀想と引き取る光景も稀有とは言い難いものがあるでしょう。
ただまあ、こういった保健所の殺処分を巡る問題が「ごくありふれた話」でしかないという事実自体が、現実の構造的な歪みを象徴していると言えるのかもしれないのですが。
かく言う私の実家や親戚の家でも、複数匹の犬や猫を飼っていますし、ペットのことを最優先に考える傾向にあるのは作中の神崎家と同じだったりしますから、物語前半で披露された殺処分の現実と光景は、たとえ「必要悪」と分かっていても積極的には認め難い悲しい話ですね。
ましてや、自分の娘相手に「動物と心の交流がしたいから飼育員になった」とまで語るほどに動物好きな主人公が、職務として殺処分をしなければならないというのは、心身を切り刻まれるレベルの苦しみが伴ったであろうことは想像に難くありません。
私も見ていて「たまらんな、これは(T_T)」と考えざるをえなかったくらいでしたし。
「必要悪」であっても、いやむしろそうだからこそ、その「必要悪」たる殺処分が限りなく根絶されることを願わずにはいられないですね。

ストーリーの結末自体はそこまで暗い内容ではないものの、物語序盤では殺処分の描写や子犬が寒波で死んでしまうシーンなどがあったりするので、動物好きな方には涙なくして観賞できない作品ですね。
保健所の現実を否応なく突きつけられもしますし。
ただ今作は、むしろ本当にペットのことについて真剣に考えられる人こそが観賞すべきなのではないか、と私はそう考えますね。

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