映画「アイアン・スカイ」感想(DVD観賞)
映画「アイアン・スカイ」をレンタルDVDで観賞しました。
日本では2012年9月に公開された、フィンランド・ドイツ・オーストラリアの3国合作映画です。
出自からしてかなりマイナーな映画ながら、世界各国の映画ファンやSFマニアな方々には熱い支持を集めている作品のようで、出資を募るや否や、あっという間に1億ドルものカンパが集まった逸話があるのだとか。
今作は劇場公開当時、熊本で上映されている映画館が皆無だったため、仕方なくレンタル開始を待っての観賞となりました。
なお、今作は銃撃を受けて血まみれになる男のシーンがあるためか、PG-12指定されています。
2018年。
アメリカは実に50年ぶりとなる月への探査船派遣を行っていました。
その探査船リバティ号は、地球から見えることのない月面の裏側へ着陸。
着陸直後、着陸を記念してのものなのか、探査船から中年女性と「Yes She Can(イエス・シー・キャン)」という文字が書かれた垂れ幕?が下ろされます。
明らかにオバマ大統領の「Yes We Can(イエス・ウィー・キャン)」のパクリかパロディとしか思えないこの演出で、まずはこの映画の立ち位置がある程度観客に明示されることになります。
今作のアメリカ大統領は女性が担っているため、「We」の部分が「She」になっているわけですね(苦笑)。
それはさておき、この探査船の目的は、月面にあるとされる「ヘリウム3」と呼ばれる資源の調査と確保にありました。
ところが、着陸したリバティ号から「ヘリウム3」の探索を開始したサンダース船長は、そこで驚くべき光景を目撃します。
何とそこでは、どう見ても人工的に作られたものにしか見えない道路や建物が存在しており、装甲車と思しきクルマまで走っていたのでした。
目的のモノ以上の発見をしたサンダース船長は歓喜し、もうひとりの乗組員ジェームズ・ワシントンにこちらへ来るよう促すのですが、その直後、背後から迫ってきた黒ずくめの男に銃で頭を撃たれ、生命を落としてしまいます。
危険を察知したジェームズ・ワシントンは、すぐさまリバティ号へ戻ろうとするのですが、黒ずくめの男達はロケットランチャーのようなものをぶっ放し、リバティ号を完全破壊してしまいます。
その衝撃で吹き飛ばされたジェームズ・ワシントンは、黒ずくめの男の集団に包囲され、あえなく囚われの身となってしまうのでした。
黒ずくめの男達の正体は、かつてドイツを支配したナチス・ドイツの残党達の末裔。
彼らは1945年、第二次世界大戦の敗戦時に、自前のUFO?を使って月の裏側へと逃れていたのでした。
彼らに捕縛されたジェームズ・ワシントンは、地球からの侵略の尖兵ではないかと疑われ、月面総統と呼ばれているウォルフガング・コーツフライシュの元へ引っ立てられます。
ジェームズ・ワシントンが纏っていた宇宙服のマスクを取ったナチスの末裔達は、彼が黒人であることに驚愕するのでした。
しかし、あくまでもジェームズ・ワシントンを地球からの奇襲部隊の尖兵であると考えるナチスの末裔達は、彼をリヒター博士の元へと連れて行き尋問させます。
しかし、ジェームズ・ワシントンが所持していたスマートフォンに、彼らは注目の目を向けることになります。
ナチスの末裔達は、月面に居住することができるほどのテクノロジーを持つ一方で、コンピュータ技術に関しては1940年代の水準からほとんど進化しておらず、現代から見ればアンティーク同然の原始的なコンピュータしか知らなかったのでした。
スマートフォンに着目した彼らは、それを最終兵器「神々の黄昏」号の起動システムとして利用しようと考えるのですが……。
映画「アイアン・スカイ」は、作中のあちこちにコメディネタや政治風刺を意図したネタがちりばめられていますね。
冒頭の「Yes She Can(イエス・シー・キャン)」ネタもそうなのですが、 特にアメリカに対する風刺はかなり高レベルなものがあります。
アメリカ大統領を女性にして、かつ選挙参謀にやたらとヒステリックで色情魔(笑)なヴィヴィアン・ワグナーに据えた登場人物設定も、なかなかにクるものがありましたし。
物語後半に至ってはさらに強烈な政治風刺が披露されており、アメリカ所有の宇宙戦艦の名称が「ジョージ・W・ブッシュ」だったり、宇宙技術の軍事利用を禁じる宇宙平和条約に違反して宇宙戦艦を建造した他国に対し、自国のことを棚に上げて罵り倒していたり、「お前の国だって守ってなかったじゃないか!」という切り替えしに対して「アメリカはいつもそうだからいいの!」と開き直るなど、なかなかにやりたい放題を貫いています。
ちなみに、作中で宇宙平和条約をバカ正直に墨守していた国はフィンランド1国だけだったのだそうで、日本もしっかりと宇宙戦艦を保持しているんですね(爆)。
作中の日本はちゃんと憲法改正を行い軍事活動関連の法整備を整えることができたようで、その点ではなかなかにめでたい限りではあります(笑)。
さらにラストでナチスの脅威が去り、各国の首脳陣が拍手で祝った次の瞬間に、月面にある「ヘリウム3」を巡ってたちまちのうちに乱闘が生じ、そのまま全面核戦争に雪崩れ込む展開は、「国が一致団結するためには絶対悪な敵が必要」「戦争が終われば内紛が始まる」という政治のセオリーを忠実に再現していたりします。
……まあ、あの乱闘騒ぎからそのまま全面核戦争へ直行するというのも、正直考えものではあるのですが(-_-;;)。
あそこまでアメリカをコケにしまくる政治風刺をちりばめまくった映画というのも、なかなかお目にかかれないのではないかと。
あのアメリカ合衆国大統領やヴィヴィアン・ワグナーのヒステリックぶりに比べれば、ナチスの末裔達の方がはるかにマトモに見えてしまうくらいですからねぇ(苦笑)。
それにしても、月面と地球を自由に移動できるだけの技術力を持つはずのナチスの末裔達が、スマートフォンやiPadどころか、1980年代レベルの骨董品なパソコンすらも持ちえなかったというのはなかなかに凄い話ですね。
一応、アメリカが1960~70年代に推進していたアポロ計画で使用されたコンピュータも、現代から見ればそこらのスマートフォンにも劣るレベルの性能でしかなかったようなので、技術的にはそれでも不可能な話ではないのでしょうけど。
月面のナチスは70年以上もずっと戦時体制を敷いていたみたいですし、いわゆる「ハコモノ」絡みの技術が奇形的に発達していたのでしょうね。
ナチスの末裔達は、核ミサイルなどはるかに凌ぐ、月面の一部を欠けさせるほどの威力を誇るキャノン砲を実戦配備していたりしますし。
作中における戦い方を見ていると、ナチスの末裔達はひたすら地球に隕石を投げつけまくる遠距離攻撃に徹してさえいれば、それだけで楽勝できたのではないかと考えられなくもないのですけどね。
地上の戦闘機の類は完全に無力化できるのですし、いくら地球側が複数隻の宇宙戦艦を所持していると言っても、ナチス側がひたすら遠距離攻撃による地上攻撃を繰り出しまくれば、地球側も地上を守るための防戦一方にならざるをえないでしょう。
せっかくアレだけ圧倒的有利なアドバンテージを持っているのに、それを無視してわざわざバカ正直に地球側とドッグファイトを演じる必要もないでしょうに、つくづくナチスの面々は戦い方を知らないなぁ、と思わずにはいられなかったですね。
この辺りは、政治には明るくても軍事には暗く、ドイツ軍へのあまりの政治介入から「独ソ戦における【ソ連軍】最高の司令官」「スターリンの回し者」とまで呼ばれるに至ったアドルフ・ヒトラーの系譜を受け継ぐものだったりするのでしょうか?
SF的な演出もそれなりのものはありますが、どちらかと言えばやはりコメディやパロディを楽しみたい方向けの作品ですね。