映画「舟を編む」感想
映画「舟を編む」観に行ってきました。
2012年本屋大賞に輝いた三浦しをん原作の同名小説を、松田龍平・宮崎あおい主演で実写化した作品。
物語の始まりは1995年。
出版社の玄武書房・辞書編集部では、長年辞書製作の仕事に携わってきた荒木公平は、辞書編集部を統括している松本朋佑に退職の意思を表明していました。
彼は定年に近い年齢もさることながら、病床にある妻の容態が思わしくなく、妻を介護してやりたいという理由から退職を申し出ていたのでした。
しかし、荒木公平は辞書製作・編纂のベテランであり、かつ彼に代わる人材が現在の辞書編集部には存在しません。
強く留任を迫ってくる松本朋佑の主張を、荒木公平も無視することはできず、仕方なく荒木公平は、自分の後継者となる人材を探し出すことを約束することになるのでした。
しかし、辞書編集部は社内では閑職扱いどころか、人によっては存在すら知らないというほどのお寒い知名度しかなく、人材探しは難航します。
そんなある日、荒木公平と共に後継者探しをしていた西岡正志は、同じ会社の営業部に所属している恋人から「営業部に変人がいる」との話を持ちかけられます。
その変人の名は、馬締光也(まじめみつや)。
荒木公平と西岡正志は、大学では言語学を専攻していたという馬締光也を営業部から呼び出し、「【右】という言葉を説明できるか?」と問います。
これまで同じ問いをかけられた人達は、しどろもどろになって何も説明できないか、相手にするのも面倒と言わんばかりに立ち去っていくのが常でした。
しかし馬締光也は「西を向いた時、北に当たる方が右」と返したのです。
期待していた人材をついに見つけた、と確信した2人は、早速馬締光也を営業部から引き抜き、辞書編集部へ迎えることになります。
馬締光也を迎えた辞書編集部は、松本朋佑主導の下、新しい辞書「大渡海」の製作を打ち出します。
収録予定の見出し語は実に24万語以上、近年新しく生まれた流行語の類も積極的に取り入れるという全く新しい辞書の製作。
やがて馬締光也は、辞書の製作に一生を捧げる決意を固め、辞書作りにのめり込んでいくのでした。
一方、プライベートにおける馬締光也は、「早雲荘」という名のボロアパートで、大家のタケと共に10年もの長きにわたって生活していました。
「早雲荘」には馬締光也と大家のタケ以外は誰も住んでおらず、馬締光也は本が乱雑に積み重ねられた一室を自分の部屋としていました。
しかし、辞書編集部に配属されてからしばらく経ったある日の夜、「早雲荘」で飼われている猫のトラの鳴き声がする2階の物干し場へ行くと、そこには全く見知らぬ女性がトラを抱きかかえ、馬締光也に挨拶を返してきたのです。
その女性は林香具矢(はやしかぐや)といい、大家のタケの孫娘で、タケの世話と板前修行のために「早雲荘」へやってきたのだとか。
彼女に一目惚れしてしまった馬締光也は、彼女のことで頭が一杯になり、仕事に手が付かない日々を過ごすことになります。
そして馬締光也は、自分の恋路を応援してくれる辞書編集部の面々から、恋文を書くことを勧められることになるのですが……。
映画「舟を編む」はとにかくひたすら地味な構成で、奇想天外な展開といったものがまるでありません。
辞書製作の過程で発生する様々なトラブルも、馬締光也絡みのプライベートな事象も、形は違えどどこでも普通に見かけられるものばかりですし。
主人公である馬締光也の人物造形自体、昨今のオタクやニートを髣髴とさせるものがありますからねぇ。
ただそれだけに、主人公およびその他の登場人物達に共感がしやすい構成になっているとは言えるのではないでしょうか?
かく言う私自身、物語後半で発生した辞書の収録単語漏れの騒動などは「ああ、私も似たような経験があるなぁ」とついつい感慨にふけってしまったものでしたし(^^;;)。
ああいうトラブルは、事務職系でも技術職系でもしばしば発生したりするものですからねぇ(T_T)。
それだけに、辞書「大渡海」が完成の日を迎えた時の喜びは、関係者一同、相当なものがあったことでしょう。
単純に見ても、馬締光也が辞書編集部に入ってから「大渡海」が完成するまで、実に15年もの歳月がかかっているのですからねぇ。
宮崎あおいが演じる林香具矢は、映画の前宣伝で大々的に強調されていたイメージと比較すると、出演頻度がかなり少ない印象を受けましたね。
彼女は要所要所では出番があってストーリーを進展させる役割を果たしてはいるのですが、映画全体で見ると、彼女は元々馬締光也と仕事上の接点が少ないのに加え、「専業主婦として家庭を守る」というタイプの女性でもないため、出番がかなり少ないんですよね。
むしろ、2008年?に突入した物語後半になってやっと登場した岸辺みどりなどの方が、出演頻度は逆に高かったのではないかとすら思えてくるくらいです。
馬締光也が林香具矢に惚れる過程とは逆に、林香具矢が馬締光也を好きになる過程というのも今ひとつ分かりにくいものがありますし。
どうにも「何故だか知らないけど、気が付いたら好きになっていた」的な感が拭えないところなんですよね、彼女の馬締光也に対する好意というのは。
物語がひたすら馬締光也の視点メインで進行していて、林香具矢から見た視点というものがほとんどないことも原因ではあるのでしょうけど。
また、「早雲荘」というボロアパートで主人公とヒロインが出会って結ばれるというエピソードは、今作と同じく宮崎あおいがヒロイン役を担当していた映画「神様のカルテ」を髣髴とさせるものがありました。
あちらは既に出会って結婚した後からストーリーが始まっていましたが。
日常生活を扱う人間ドラマが観たいという方にはオススメの作品と言えるでしょうか。