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2014年07月の記事は以下のとおりです。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察19

「亡命編」を含めたエーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝シリーズでは、地球教の扱いに相当なまでに苦慮している様子が伺えます。
全てのシリーズで、地球教はその関係者が作中に一切登場せずにその所在だけがクローズアップされ、その状態のまま現在の状況だけが語られるという「顔のない存在」的な役割を強いられています。
2014年7月現在で唯一完結している「海賊編」でも、結局地球教はその存在のみが語られるだけの展開に終始していましたし。
ヴァレンシュタインの認識も含め、一連のシリーズ中における地球教は、何故か現代のキリスト教かイスラム教並みに広範な影響力と民衆からの支持を得ている組織であるかのごとく描かれ、さらに原作とは比較にもならないほど、帝国・同盟両首脳部および一般層に信仰を浸透させることができる辣腕ぶりを誇ってさえいるようです。
原作にもないはずのこんなおかしな設定を追加してしまったがために、地球教を「顔のない存在」としてしか描くことができなくなってしまったというのは皮肉もいいところですね。
原作の設定や描写を見る限り、原作における地球教は、最大限贔屓目に見ても「日本における旧オウム真理教」程度の力しか持っていないというのが実情に近いでしょう。
キリスト教やイスラム教レベルの教義が存在するのかさえも疑わざるをえないくらいなのですし、信者達をサイオキシン麻薬で薬漬けに「しなければならない」という時点で、既に宗教組織としては底も限界も見えてしまっています。
そんなやり方では、一時的に組織を拡大することはできるかもしれませんが、長期的には脱会信者等からその実態が明らかになるなどして布教はどこかで必ず行き詰ってしまいますし、ましてや全世界どころか一国レベルの国政を左右するほどの信徒を獲得するなど、夢物語もいいところでしかないでしょう。
宗教というのは、そういった一種の「強制」を伴うことなく、信徒が自らの意思で進んで帰依するからこそ強大たりえるのですし、それを実現しえる教義や理論というのを必要不可欠とするはずなのですけどね。
どうにもエーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝シリーズの作者氏は、地球教を過大評価しすぎなのではないかとつくづく思えてならないところなのですが。

さて今回は、「フェザーン謀略戦」と称するテロ行為後の動向について検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~116
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11  その12  その13  その14  その15  その16  その17  その18

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/28496/novel_id~116
> 「討伐軍の指揮官は誰です? ミューゼル中将ですか?」
> 「いや、指揮官の名前までは聞いておらぬが……」
> ヴァレンシュタインの問いかけにトリューニヒト委員長、シトレ元帥が表情を変えた。ヴァレンシュタインは表情を消している。はて、ミューゼル中将に関心が有るのか?
>
> 「気を付ける事です」
> 「?」
>
「地球教の軍事力は無きに等しい。そんな彼らが取る手段はテロしかありません。殺人、爆破……、幸い彼らには死ぬ事を恐れない狂信者がいます。戦う事に熱中していると後ろから刺されますよ」
>
> テロの言葉にトリューニヒト委員長、シトレ元帥が顔を顰めた。当然ではある、政府、軍の中枢にある彼らにしてみればテロなどおぞましい代物以外の何物でもあるまい。私だとて彼の言葉に嫌悪感しか感じられない。もしテロが実際に行われれば地球教の連中に対して憎悪を抱くだろう。
>
> 「ミューゼル提督を殺す事で討伐軍を混乱、いや麻痺させようというのだな」
> 「その通りです。彼に警告する事ですね、一つ貸しだと言っておいてください、必ず返せとね」
> ヴァレンシュタインがクスッと笑った。その事に神経が苛立った、妙に反発したくなった。
>
> 「……卿の言う事が当たるかどうか、分かるまい」
> 子供じみた反発だ、馬鹿げている。しかし押さえられなかった……。ヴァレンシュタインも私の感情は分かっただろう、しかし何の反応も見せなかった、私の反発など彼にとってはどうでも良い事なのかもしれない。
>
>『君はミューゼル中将の死を望んでいるのだと思っていたが』
> 「!」
> 「そうですね、望んでいます。死んでくれればと思っていますよ」

> 困惑した様なシトレ元帥の問いかけと何の感情も見えないヴァレンシュタインの答え……。混乱した、訳も分からずスクリーンとヴァレンシュタインを見た。
>
> 『では何故警告するのかね』
> 「さあ、良く分かりません。何でかな……。多分、馬鹿なんでしょう……、感傷を切り捨てられない。……愚劣にも程が有るな、いつか自分を殺すかもしれない人間に忠告するなど……。自分がエーリッヒ・ヴァレンシュタインとして此処で生きているという事を未だに理解できずにいる……」

>
> トリューニヒト委員長、シトレ元帥、私……。皆が困惑する中ヴァレンシュタインだけが無表情にココアを飲んでいる。心此処に在らず、そんな風情だ。先程まで彼に感じた反発は消えていた。この男をどう捉えれば良いのか、まるで分からない……。

ヴァレンシュタインが前世の「佐伯隆二」のスタンスで悩んでいることなど、当のヴァレンシュタイン以外の「読者も含めた」人間にとっては、極めてどうでも良いことでしかありません。
ここで一番問題となるべきなのは、かつて「ヴァンフリートの1時間」とやらでラインハルトを殺せなかったことをヤンに責任転嫁した挙句に罵り倒しまくっていたヴァレンシュタインが、その過去をほっかむりしてラインハルトを助けようとすることに対する矛盾です。
ここでラインハルトが死ぬことがヴァレンシュタインにとっての最大の利益になるという構図は、あの「伝説の17話」当時と全く変わっていないと、他ならぬヴァレンシュタイン自身が明言しているのです。
しかも、ラインハルトに助言をすることが結果的にその利益に反することであると、さらにオマケで追加してしまっています。
ロクに事前情報を提示すらされなかったヤンが「ヴァンフリートの1時間」とやらをやらかしただけで鬼の首でも取ったかのごとく罵り倒すのに、そこまで他人に厳しいスタンスをとる自分自身は、最大の敵を利益に反してでも助けることに躊躇せず、しかもそのことについてただ「読者の頃の自分を捨てきれていない」と検討ハズレな思い悩みを披露するだけで済ませてしまうというわけです。
かつて自身の責任の及ばないところでアレだけ罵られたヤンにしてみれば、これほどまでに「とことん自分に甘く他人に厳しい」最低最悪のダブルスタンダードな態度もないでしょう。
ヤンはその場にいないにしても、その場に居合わせているシトレなどはミハマ・サアヤの報告書を介して「伝説の17話」の経緯を知っているわけなのですから、ヴァレンシュタインの態度のダブルスタンダードぶりに少しくらい疑問を呈して然るべきではありませんか。
しかも当の本人自身、「ラインハルトを助けることは全く利益にならない」と明言しているのですから、それでもなお忠告を行なおうとするヴァレンシュタインに対して「そんなことをする合理的な理由ないしメリットを明示せよ」くらいは命令してもバチは当たらないと思うのですが。
「伝説の17話」以降、責任転嫁の言い訳な後付けのごとく「ラインハルトは危険人物である」と提示し続けてきたのは、他ならぬヴァレンシュタイン自身なのですから。
確かにヴァレンシュタインは馬鹿であるだけでなくキチガイ・狂人と呼ばれるだけの低能な頭の持ち主ではありますが、それは「佐伯隆二」の立場を捨てきれないからでは全くなく、人の上に立つ者として示しのつかないことを、しかも公衆の面前で公然とやらかしていることにその要因の一端があるのです(もちろん、他にも色々とあるのですが(苦笑))。
ここまで矛盾だらけかつ何の利益にもならないことをやらかしておきながら、その言動を誰ひとりとして問題視しないというのはあまりにも異常な光景です。
原作のヤンのごとく「ヴァレンシュタインは矛盾の人である」と設定するのも結構なことですが、それならそれでもっと根源的な大矛盾について口をつぐむことなく「普通ならばとっくの昔に処刑台の露と消えている所業を何度もやらかしているヴァレンシュタインが、誰にも咎められるどころか問題視されることすらなく生き残っているのは原作崩壊レベルな大矛盾もいいところである」くらいはのたまって欲しいところなのですけどね。
まさか作者氏も、ヴァレンシュタインが作中でやっているようなことが「原作世界でも実行可能なことである」などと酔狂なことを考えているわけではあるまいに(苦笑)。

ところで「矛盾」と言えば、常日頃から「自分が生き残ること」をモットーに諸々の活動をしているはずのヴァレンシュタインが、またしても自身の身辺事情についての疎さを露呈しているシーンがありますね↓

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/28496/novel_id~116
> 『ヴァレンシュタイン中将……』
> トリューニヒト委員長が躊躇いがちに声をかけた。しかしそれを遮るようにヴァレンシュタインが話しだした。多分故意にだろう、何か言われるのを嫌ったのかもしれない。
>
>「ミューゼル中将だけじゃありません。テロを効率よく行うには組織の頂点を狙うのがベストです。帝国も同盟も政府、軍の上層部は非常に危険な状況にある。身辺警護が必要です」
>『なるほど、私達も要注意か。しかし一番危険なのはヴァレンシュタイン中将、君だろう』
>
> シトレ元帥の言葉にヴァレンシュタインが僅かに首を傾げた。
>
「私ですか? 非正規の艦隊司令官を殺しても余り意味は無いでしょう」
> 『報復という意味が有るだろう。それに君を一個艦隊の司令官にすぎないとは誰も思っていないよ』
> 『シトレ元帥の言う通りだ。君に死なれては困る』

……ヴァレンシュタインって、「亡命編」だけでも序盤にフロトー中佐に暗殺されかけて同盟に亡命した経緯があり、第6次イゼルローン要塞攻防戦でも直接怨みをぶつけられて殺されかけたことが複数回あるというのに、何故ここまで自身の身辺について何の警戒心も抱こうとしないのでしょうかね?
「自分が生き残る」という観点から言えば、原作知識が通じないことも相まって、原作のラインハルトなどよりも100万倍以上は危険が満ちている要素だというのに。
また原作知識から考えても、ヤンが地球教に暗殺された事例やキュンメル事件等のエピソードを十全に掌握している立場にもあるというのに。
ヴァレンシュタインに竜種の血が流れているとか超サイヤ人としての戦闘力があるとかいった設定でもあるのなら却って理解もできるのですが、実際のヴァレンシュタインにはむしろ逆に「虚弱体質」という要素が付加されてすらいる始末ですし。
本当にヴァレンシュタインが「自分が生き残ること」を最優先事項として考えるのであれば、まず真っ先に警戒しなければならないのは「自分が暗殺・粛清される可能性」であり、自身の身辺警護は全てに優先して行われて然るべきことですらあるはずでしょう。
ヒトラーやスターリンといった歴史上の独裁者達も、「自分が生き残る」ために過剰過ぎるほどの身辺警護で自分の周囲を固め、それでも不安を打ち消すことができずに「先制攻撃的な」大粛清に走るのが常だったりするのですけどね。
結局のところ、ヴァレンシュタインは「自分が生き残ること」を最優先目標として行動していると述べていながら、実際には「自分が殺される可能性」について本当に真剣に考えたことなどないのでしょう。
直接的な生命の危険に晒されていたはずの第6次イゼルローン要塞攻防戦の時ですら、「自分が殺される」とは全く考えてもいなかったようなのですから。
また、バグダッシュやミハマ・サアヤが監視役としてヴァレンシュタインに付いていた時も、「自分を暗殺するかもしれない危険人物」としてマークしていた様子も全くなかったのですし。
そりゃ「神(作者)の祝福」に護られているヴァレンシュタインが他者に殺される可能性なんて「神(作者)の意向」に逆らわない限りはあるはずもないのですし、最悪はそれこそ竜種の血に目覚めたり超サイヤ人に覚醒したりで難を乗り切ることも極めて容易な話ではあるのでしょうけど(爆)。
ただ、当のヴァレンシュタイン自身は自分に「神(作者)の祝福」の護りが施されているという事実を当然知らないわけで、その状態で「自分は決して他者に殺されることはない」と断言できる自信は一体どこから来るのか、という問題は確実にありますね。
「自分が生き残ること」を至上命題としているはずの人間が「自分が(暗殺・粛清をも含めて)殺される可能性」について少しも関心を払うことすらないなんて、矛盾を通り越して「ありえない」話ですらあるのですが。

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/71571/novel_id~116
>『実際には貴族達がフェザーンに攻め込む前に帝国領へ踏み込んでの迎撃戦という事かね?』
> 「いえ、フェザーンは一度貴族達に占領させます」
> シトレと俺の遣り取りに他の三人が、いやシトレを含めて四人が驚いた様な表情を見せた。
>
>
『正気かね、君は』
> レベロが俺を非難した。
> 「正気です、その方が勝ち易いですからね」

> 『しかし』
> 言い募ろうとするレベロを遮った。
>
> 「レベロ委員長、貴族連合なんて烏合の衆ですよ、軍規なんて欠片も有りません。フェザーンを占領したら連中遣りたい放題でしょうね。略奪、暴行、殺人、破壊、フェザーンは無法地帯になります。フェザーン人は大勢死ぬでしょうが心配はいりません。来年はそれを補う子供が沢山生まれます、父親は不明ですが」
>
> 四人の顔が引き攣っている。
> 「もしかするとフェザーンでは貴族達とフェザーン人の間で抗争が起きるかもしれません。結構ですね、大いに結構です。こちらは連中に気付かれる事無く近付く事が出来ますしフェザーンには我々は解放軍だと宣伝出来ます。歓迎されるでしょう、真実を知るまでは」
>
>『君は、正気かね』
> 声が震えていた。その言葉は二度目だぞ、レベロ。
>
「正気です、一度フェザーンを根本から叩き潰さなければなりません。何故なら今のフェザーンは地球教が創ったフェザーンだからです」
> 『……』
>
> 「帝国を見れば分かるでしょう、彼らはルドルフの負の遺産を切り捨てようとしている。一千万人以上殺す事で新しい帝国を創ろうとしているんです。それがどれほど苦しくて痛みを伴う事か……。しかしフェザーンは違う」
> 『……』
>
「フェザーンは変わろうとしていません、自分達が繁栄している所為で危機感が全く無いんです。危険ですよ、このままでは地球教はフェザーンで生き残りかねない」
> 四人が沈黙した、唸り声さえ上げない。
>
> 『……だから潰すというのかね』
>
「その通りです、シトレ元帥。彼らが自らの意思で変わろうとしない以上、我々が潰すしかない。一度叩き潰して彼らに自分達の手で新しい国家を創らせるんです。そうでなければフェザーンは普通の国家になりません」
>
> 地球教とは無関係の人間が何人、いや何万と死ぬだろう。怨め、憎め、罵れ、だが俺は退くつもりは無い。ここまで来た以上、中途半端に終わらせる事は出来ない。
貴族達がルドルフの負の遺産なら地球教と連中が作ったフェザーンは人類の負の遺産に等しい。切り捨て、叩き潰さなければならない……。

「謀略戦」と称するテロを仕掛けられ、自治領主という自国の元首を拉致られた挙句に、こんな上から目線かつ革命家きどりな断定までされてしまうとは、フェザーンも良いツラの皮としか言いようがありませんね。
そもそもヴァレンシュタインは、他ならぬ自分自身がフェザーン相手に「テロ」を仕掛けたという自覚があまりにも無さ過ぎるのではないですかね?
あのヴァレンシュタインのテロ行為は、本来ならば同盟とフェザーンの外交関係を国交断絶レベルにまで確実に破綻させ、両国に政治的・経済的な大打撃を与えた挙句に戦争状態に突入してもおかしくないほどの悪影響をもたらすものですらあります。
「テロ」を仕掛けられたフェザーン側にしてみれば、ヴァレンシュタインは立派な「テロリスト」「犯罪者」でしかないですし、そのヴァレンシュタインをバックアップする同盟は、某北朝鮮などよりもはるかに最悪水準な「テロ国家」以外の何物でもないのです。
その「テロリスト」たるヴァレンシュタインが、フェザーンに対して「彼らが自らの意思で変わろうとしない以上、我々が潰すしかない」だの「フェザーンは普通の国家になりません」だのと意味不明な御託宣をのたまっていることを知ったら、当のフェザーン人は怒りと侮蔑の念を込めてこう言わざるをえないでしょうね。
「お前にだけは言われたくない!」と。
フェザーン側にしてみれば、地球教などよりもヴァレンシュタインのテロ行為とそれをバックアップする同盟政府の方が、はるかに脅威かつ唾棄すべき存在として見られていても何らおかしくないどころか、むしろそれが普通の感覚とすら言えるものですらあるでしょう。
しかも、それが皮肉にも「フェザーンと地球教の関係」というヴァレンシュタインが暴露した情報のインパクト効果を結果的に薄くしてしまい、却って地球教を利することになっている可能性すら否定できないくらいなのですし。
相も変わらず、自分の所業がもたらす深刻な副作用についてとことん無責任かつ無頓着なキチガイ狂人ですね、ヴァレンシュタインは。

それに第一、ルビンスキーのような自治領主府のお偉方はともかく、大多数の一般的なフェザーン人に、地球教に纏わる如何なる責任問題が存在するというのでしょうか?
フェザーンと地球教の関係というのは、あくまでも雲上人たる自治領主府のごく一部の人間と地球教最高幹部クラスとの間のみで成立しているものでしかありません↓

銀英伝3巻 P75下段
<アドリアン・ルビンスキーの執務する自治領主府では職員たちが待合室のほうを見ては、ひそひそとささやきあっている。
 公私ともに多忙をきわめ、身体がふたつ、さもなくば一日が五〇時間ほしいと日常言っている自治領主が、この数日、何を好んで、えたいのしれない宗教家と密談しているのか、部下たちには理解できない。
フェザーン人のなかでも、自治領と地球との間に尋常ならぬ関係があることを知る者は、政治の中枢部に位置する、極少数の人々だけであった。

つまり、それ以外の圧倒的大多数のフェザーン人にとって、地球教はヴァレンシュタインによる暴露が行われるまではせいぜい「取引相手」「客」として接点を持つ程度の存在でしかなかったのですし、場合によってはその存在すら知らなかったという人も少なくなかったでしょう。
そんな大多数のフェザーン人に「フェザーンは地球教によって作られたものであり、これと決別する必要がある」などと言ったところで、彼らは「それはお偉方が勝手にやったことであって、自分らとは何ら関わりのない他人事」としてしか捉えることはないでしょう。
大多数のフェザーン人とは全く関わりのない場所と責任に基づいて行われた問題について、何故当事者意識の持ちようがないフェザーン人が「負の遺産」に対する贖罪意識を背負わなければならないのでしょうか?
しかも、フェザーンは国民ひとりひとりが参政権を持つ民主主義国家ですらないのですから、ますますもって責任意識の持ちようがないはずなのですが。
ヴァレンシュタインは地球教を過大評価するあまり、地球教とフェザーンの関係が「フェザーン人の総意」に基づいて作られたものである、とでも勘違いしているのではないでしょうかね?

また、そもそも「フェザーンは変わろうとしていない」などとほざくヴァレンシュタインは、フェザーンに対してどんな変革を期待していたというのでしょうか?
地球教と決別さえすれば良い、というのであれば、地球教がサイオキシン麻薬を大量に製造し信者達に供与し操っているという事実が暴露された時点で、何の問題もなく普通に達成されそうなものなのですが。
現代日本でも、不祥事を起こし警察捜査のメスが入れられる企業や個人に対し、社会的な村八分が行われる光景がしばしば展開されたりしますが、帝国や同盟はもちろん、フェザーンでも当然同じことが地球教に対して行われるのは確実なのですし、地球教が身近な存在ではないからこそ、大多数のフェザーン人も喜んで地球教を排除にかかることでしょう。
もちろん、地球教との関係を知る自治領主府関係者以外のフェザーン人であっても、たとえば地球教と何らかの取引があったりお得意先として懇意にしたりしている商人や企業の関係者の場合は、有力顧客のひとつが事実上消失することを意味するわけですから、ある程度の経済的な打撃を受けることは当然あるでしょうが、彼らにしても地球教と心中するよりは手を切って生き残る道を選択する者が圧倒的大多数を占めるでしょう。
地球教絡みでフェザーンに必要な変革があるとすれば、この程度のシロモノでしかありえないのです。
ただでさえサイオキシン麻薬に手を染める地球教は、帝国・同盟のみならず一般的なフェザーン人にとっても危険な存在であると認識されるには充分なものがあるでしょうし、別に放っておいても大多数のフェザーン人と地球教の関係は、経済的な要素も含めて自然消滅の方向へ向かうことにならざるをえないはずなのですが……。
「フェザーンと地球教の関係」を象徴する親玉のルビンスキーは、他ならぬヴァレンシュタイン自身が拉致ってしまっているのですし、これ以上フェザーンは地球教に関しては何もしようがないと思うのですけどねぇ。
そんな一連の事情を全て黙殺して「フェザーンは地球教が作ったものなのだから全て潰さなければならない」と地球教と全く無関係の人間の殺戮が行われることを全面肯定するヴァレンシュタインは、第二次世界大戦末期の東京大空襲について「我々は民間人を虐殺していたのではない、日本の軍需工業を破壊していたのだ。それに携わる者は女・子供・老人も含め全て戦闘員だった」などと強弁していたアメリカ空軍のカーチス・ルメイを髣髴とさせるものがあります。
地球教を過大評価し被害妄想にふけるあまり、ヴァレンシュタインはフェザーン人全てが地球教徒にでも見えていたりしたのでしょうかねぇ……。

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/73188/novel_id~116
> 「フェザーンを一度叩き潰すというのは分かるが他に手は無いのかね? このままでは全く無関係の人間まで巻き添えを喰う事になるが」
> 「有りませんね」
> 「……」
> レベロ委員長の問い掛けにヴァレンシュタインが冷淡に答えた。絶句する委員長を見ながら一口オレンジジュースを飲むとフッとヴァレンシュタインが嗤った。
>
> 「貴族連合軍をフェザーンに誘引するのは政治的な理由だけじゃ有りません、軍事的にもフェザーンに誘引せざるを得ないんです、そうしないと勝てません」
> 「……」
> 「貴族連合軍を殲滅するには彼らを一カ所に集めておく必要が有ります。最善の手は彼らを同盟領に引き摺り込み包囲して殲滅する事ですが彼らにそれが通用するかどうか……」
>
> 皆が顔を見合わせた。ややあってホアン委員長が口を開いた。
> 「通用しないのかね?」
> 「その可能性が有ります。彼らは軍を率いていますが軍人ではない、軍事常識が通用しないんです」
> 「……」
>
> 「彼らにはまともな戦略目標などないし作戦も無い。基本的に彼らは烏合の衆です、
纏まって行動するなどという発想は皆無に等しい。イゼルローン要塞経由で同盟領に誘引すればイゼルローン回廊を出た瞬間にバラバラに散りかねない
> 「それは……」
> シトレ元帥が顔を顰めた。
>
> 「そうなったら同盟軍はバラバラに散った貴族連合軍を追いかけなければなりません。同盟領内で追いかけっこが始まりますよ。但し、遊びじゃありません、命懸けの追いかけっこです。一つでも取り逃がせばどうなるか……、
有人惑星に辿り着けばあの馬鹿共は核攻撃をしかねません
> 「馬鹿な!」
> レベロ委員長が吐き捨てたがヴァレンシュタインは苦笑を浮かべてオレンジジュースを一口飲んだ。
>
> 「馬鹿なじゃありません、彼らにとって同盟市民は憎むべき叛徒であり抹殺すべき存在なんです。
核攻撃は有り得ない事じゃありません。そしてそうなったら和平など吹き飛んでしまいます。あとは泥沼の戦争が続くでしょう……」
> 皆が黙り込んだ。確かに和平は吹き飛ぶだろう、そして核攻撃は有り得ない事ではない……。
>
> 「確実に勝つためには彼らを一カ所に集める場所が必要です」
> ヴァレンシュタインが皆を見回した。
> 「それがフェザーンです、連中は甘い果実に集まる虫の様にフェザーンに群がるでしょう。そこを一網打尽にする……。詰まらない感傷は捨ててください、命取りになりますよ。同盟領には一隻たりとも侵入を許すことは出来ないんですから」
> そう言うとヴァレンシュタインはまたサンドイッチを口に運んだ……。

ヴァレンシュタインは、原作の記述や設定のどこをどう見てこんな門閥貴族評を叩き出したのでしょうかね?
確かに門閥貴族の多くに軍事知識がなく烏合の衆であることは、原作のリップシュタット戦役などにも明示されてはいます。
しかし、彼らの行動を見る限り「纏まって行動するなどという発想は皆無に等しい」どころか、むしろ逆に「集団で固まり、徒党を組んで行動するのが常態」と言わんばかりの行動原理すら見えてくるくらいなのですが。
原作のリップシュタット戦役でリッテンハイム侯がブラウンシュヴァイク公と袂を分かち分派行動に出た際も、リッテンハイム侯は貴族連合軍の3分の1相当の戦力で固まり行動していましたし、「ヴェスターラントの虐殺」直前の戦闘でも、貴族連合軍はほぼ全軍「纏まって」行動していました。
フェザーンによってでっち上げられた銀河帝国正統政府が発足した際も、喜んではせ参じる亡命貴族達が少なくなかったですしね。
これらの事例から考えると、原作における大多数の門閥貴族達の行動原理は、「相手が弱者と確信すると居丈高に振る舞うが、本質的には臆病」というのが実態に近いでしょう。
だからこそ集団で徒党を組まざるをえないのですし、単独行動を取るなど論外もいいところなのです。
ましてや、地の利もなければ周囲全てが敵という環境下で、自殺行為そのものでしかない単独行動が取れるほどの「蛮勇」の持ち主が、あの門閥貴族の中にゾロゾロと溢れ返っていたりするのでしょうか?
ヴァレンシュタインが主張するような分散行動を「あの」門閥貴族達が、それも自発的に展開できるくらいならば、原作のラインハルトももう少しは苦戦を余儀なくされたことでしょうね。
それに、あくまで同盟領に門閥貴族達を入れないようにすることを至上命題とするのであれば、回廊の出入口を固めて封鎖し、回廊内を戦場に設定して交戦するという手が普通に使えるはずでしょう。
そうすれば、敵は目の前の敵を粉砕しない限り同盟領へ雪崩れ込むことが出来なくなりますし、待ち伏せ攻撃もやりやすくなります。
特に今回は帝国内部からも協力を受けているのですから侵攻時期も事前に分かるわけですし、周到な準備を整えた上での待ち伏せ&迎撃戦が容易に行えるはずなのですが。
原作にある情報と全く真逆な知識と解釈を、ヴァレンシュタインは一体どうやって導き出したというのでしょうか?
ひょっとして、かつての「佐伯隆二」が所持していたであろう銀英伝の原作小説なりアニメDVDなりブルーレイディスクなりは、数十ページ単位もしくは数百分単位での落丁でもあったのか、そうでなければ一般的なそれとは異なる何か重大な異物が混入していたりでもしていたのでしょうかねぇ(苦笑)。

次回の考察からは、帝国と同盟のフェザーン侵攻を巡る駆け引きについての検証に入ります。

銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察18

一時期は更新ペースが著しく悪化した上、他のシリーズばかり執筆しまくっていたことから「遅筆な田中芳樹のごとく連載を放棄したのか?」という疑惑すら持ち上がっていた「亡命編」も、2014年に入ってからは更新速度が「にじファン」閉鎖前の勢いを取り戻していますね。
この「銀英伝2次創作『亡命編』におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察」も、気がつけば最新話と60話近くも差をつけられているありさまだったりします(T_T)。
そんなわけで、こちらも再び最新話まで追いつくべく、考察を再開したいと思います。
今回は、ヴァレンシュタインがフェザーンで展開した「謀略戦」と称する子供の落書きレベルなテロ活動について取り上げます。
あんなシロモノを「謀略戦」と言えるその神経は相当なまでに太いと言わざるをえないものがあるのですが、この「謀略戦」と称するテロ行為は「伝説の17話」と並ぶ、ヴァレンシュタイン最強の切り札「神(作者)の祝福」の醜悪ぶりを象徴する事件のひとつであると言えます。
原作銀英伝における地球教のテロと同等、いやそれ以下の低レベルぶりを晒している以外の何物でもないのですし。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓

亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~116
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
その1  その2  その3  その4  その5  その6  その7  その8  その9  その10  その11  その12  その13  その14  その15  その16  その17

ヴァレンシュタインが仕掛けた「フェザーン謀略戦」というのは、フェザーンと地球教の関係、そして地球教の実態を全宇宙に公表することで、地球教の殲滅と帝国・同盟の共闘・和平の道を切り開くことを目的としています。
この「謀略戦」とやらの第一の問題点は、そもそも謀略を仕掛けられるターゲットの知的水準が原作と比較してさえもあまりにも低く設定されていることにあります。
たとえば、ヴァレンシュタインとローゼンリッターの面々がフェザーンの自治領主府に乗り込む際、彼らは原作の第7次イゼルローン要塞攻防戦の要領で内部に潜入しているのですが……↓

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/7122/novel_id~116
> ヴィオラ大佐が受付で話をしている。アポは取ってあるのだ、問題は無いだろう。有るとすれば人数が多い事だが何と言って説得するかはヴィオラ大佐に任せるしかない。全員武器はアタッシュケースに入れて持ち歩いている。ローゼンリッターはエンブレムを外しているから判別は出来ない。ここを切り抜けられるか否かが第一関門だ。大丈夫だ、上手くいく。
>
> ヴィオラ大佐が戻ってきた。顔には笑みが有る、小声で話しかけてきた。
> 「上手くいきました。まあ強盗や人攫いがここに来るはずが有りませんからな」
> 「そうですね」
>
イゼルローン要塞と同じか、IDカードを偽造しても調べられる事は無かった。ここに敵が来るはずが無い、その固定観念が警備を形骸化させている……。

確かにフェザーンには、帝国・同盟両国が戦争に明け暮れる中で漁夫の利を得るがごとくの平和を、建国以来の長年にわたって謳歌している歴史があります。
しかしだからと言って、フェザーンの自治領主府が外部からの脅威に無警戒でいるわけがないでしょう。
そもそもフェザーンでは、宇宙歴791年・帝国歴482年にルビンスキーの前任者だった先代の自治領主ワレンコフが、地球教によって暗殺されています。
フェザーンでは初代の自治領主レオポルド・ラープ以来、地球教と手を切るか独自の道を歩むかで葛藤を続けていた歴史的経緯があり、ワレンコフは地球教から独立しようとして地球教から排除されてしまったわけです。
そして、すくなくともルビンスキーはその経緯と真相について地球教から常に聞かされた上で、「もし地球教に逆らったらお前もそうなるぞ」と脅されている立場にあります。
フェザーンと地球教の関係は決して親密かつ親愛に満ちたものなどではなく、常に裏切りを警戒し監視の目が向けられる緊張状態を強いられるものだったのです。
しかも当代の自治領主であるルビンスキーもまた、地球教とは最終的に手を切る心積もりであったことが、原作銀英伝でもはっきりと示されています。
またそうでなくても、そもそも必要最小限の警察しか持たない軍事力皆無なフェザーンとしては、外部からの諜報活動に対する防諜(インテリジェンス)について、帝国・同盟のそれをはるかに凌駕するレベルの能力が常に求められるところでしょう。
これらの事情から考えれば、フェザーンの自治領主府が外部からのテロや諜報活動に対して無警戒でいるなどという前提自体が本来考えられないことなのです。
原作の第7次イゼルローン要塞攻防戦の場合、攻撃は常に外部から行われるものであり、内部からの攻撃はその時まで一度も発生しなかったという「これまでの実績」があったからこそ、その間隙を突くことも可能だったのですが、フェザーン自治領主府の場合は戦争に対する備えが必要ない代わりに、テロや諜報活動について常に目を光らせざるをえない状態にあったわけです。
またそういう環境であったからこそ、原作のルビンスキーもラインハルトのフェザーン侵攻の際に素早く行方を眩ますことができたのでしょうし、自身を暗殺しようとしたケッセルリンクを返り討ちにしたり、ラングを操りつつ逮捕を免れたりといった保身を図ることにも成功したわけでしょう。
原作から考えても、ルビンスキーはヴァレンシュタインなどよりもはるかに「自己保身」について熱心な人間であり、その方面で警戒を怠るというのはありえないことなのです。
この時点で既に、ヴァレンシュタインの「フェザーン謀略戦」というのは、ルビンスキーを原作よりもはるかに無能な存在にしないと到底成立しえない、まさに「子供の落書き」同然の下手な絵図でしかないのです。

さらに笑ってしまうのは、フェザーン自治領主府に帝国高等弁務官レムシャイト伯を誘き出す際の手法です。
何とヴァレンシュタインは、たった1本の通信だけで伯を誘き出したというんですね↓

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/7122/novel_id~116
> 「帝国の高等弁務官事務所に連絡を入れてもらえますか」
> 「承知しました。外にいる連中にやらせます」
> 俺の言葉にヴィオラ大佐が頷いた。時間は九時四十六分。
ヴィオラ大佐が“白狐を誘き出せ”と指示を出している。思わず笑みが漏れた。さて、出てくるかな、白狐。早ければここには十分程で来るはずだ。

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/7257/novel_id~116
> 「条件さえそろえばフェザーンは同盟に擦り寄るのは目に見えている。現時点で独立など持ちかける必要は無い。私の目的は帝国軍を振り回す為であってフェザーンの独立など本当はどうでも良い事なのだと……。そのためにレムシャイド伯に連絡を入れここに呼び寄せたのだと……。伯に猜疑心を植え付けるために……、如何です?」
>
> 「あの通信は卿の差し金だったのか……」
> 呻くようにレムシャイド伯が呟いた。恨みがましい目をしている。少し慰めてやるか。
>
> 「ええ、そうです。エーリッヒ・ヴァレンシュタインが同盟政府の命令で密かに自治領主と接触している。目立つことを避けるため少人数で来ている。今すぐ自治領主府に行けばヴァレンシュタインの身柄を抑え、ルビンスキーの背信を咎め帝国の威を示すことが出来るだろう。ヴァレンシュタインはヴィオラ大佐の名前で面会をしている、急がれたし……。発信者は亡命者の専横を憎む者、確かそんな通信だったはずです、そうでは有りませんか?」
> 「……」
>
>
「功を焦りましたね。こちらの不意を突けると思い、碌に準備もせずにここに来た」
> レムシャイド伯が顔を歪めている。慰めにならなかったな、かえって傷つけてしまったか……。でも今度は大丈夫だ。
>
「私と自治領主閣下、そしてレムシャイド伯の三人で話す必要が有りました。ですがお話ししましょうと誘っても断られると思ったので……」

いやはや、レムシャイト伯もとことん舐められたものですね。
何しろヴァレンシュタインは、レムシャイト伯がたった1本の、それもその場ででっち上げた感すらあるような通信が送られてきただけで、その内容について何ら疑問を抱く事すらなく頭から信じ込み、後先考えずにのこのこと「敵地」にバカ正直に乗り込んでくる低能であると評価していたわけなのですから(苦笑)。
普通、通信の出処が曖昧だったり不明だったりする時点で、通信内容をイキナリ頭から信じ込んだりするような人間はいないでしょう。
最悪、ただそれだけで「根拠のないヨタ話」として捨てられてしまってもおかしくありませんし、そうしないにしても、すくなくともまずは通信の内容が真実であるのか否か調査するのが先決ではありませんか。
そして、調査の結果、通信の内容が真実であると結論付けられたとしても、今度は「これは罠ではないか?」という考えもよぎらないというのはさらに変です。
古今東西、あまりにも美味すぎる話には罠や裏があると言いますが、レムシャイト伯はそんな常識に思いを致すことすらできないほどに低能無能だったというのでしょうか。
まあ、こと「亡命編」におけるレムシャイト伯に限定すれば、まさにヴァレンシュタインの意図通りの低能ぶりを披露しているわけですからそう評価するしかないのでしょうが、原作のレムシャイト伯と言えど、すくなくともここまでバカ正直かつ政治的な駆け引きもできない低能扱いはされていなかったのではないかと思えてならないのですけどね。

また、もし仮にレムシャイト伯が通信の内容を頭から信じ込んでヴァレンシュタイン一派を捕縛すべく動くにしても、わざわざルビンスキーがいる自治領主府の部屋まで乗り込む必要もなかったでしょう。
レムシャイト伯にしてみれば、重要なのはとにかくヴァレンシュタインを捕縛・殺害することであり、何も部屋まで乗り込んでいく必要はないのです。
ヴァレンシュタインがフェザーンの自治領主府にいるのは分かりきっているわけなのですから、建物の入口という入口を全て塞ぎ、空の飛行をも完全に禁止することで完全包囲し、少しずつ包囲網を狭めつつ、自分達に地の利がある有利な場所を戦場にして捕獲作戦を展開するなり、心理的に追い詰めて降伏に追い込むなりすれば良かったのです。
とにかく目的遂行が最優先で手段は問わない、フェザーンと仲違いしてでもヴァレンシュタインを抹殺する、という覚悟があるのであれば、最悪、自治領主府ごとヴァレンシュタインを高性能爆弾なり戦艦の艦砲射撃なりで消し飛ばしてしまう、という手法だって使えないこともなかったでしょうし。
ヴァレンシュタインを捕縛・殺害するならするで、もっと安全確実にことを進める方法はいくらでもあったのに、何故わざわざ自治領主府の部屋までのこのこと出張った挙句に捕縛されてしまうのか、そこも理解に苦しむところです。
ルビンスキーの件もそうですが、ヴァレンシュタインの「謀略戦」というのは、相手が原作よりもはるかに低能無能でないと成立しえないという点において、原作レイプと言っても過言ではないゴミなシロモノでしかないのです。

さて、ヴァレンシュタインの「謀略戦」とやらは、そのお粗末な内容や成功率もさることながら、実はその行為それ自体にも大きな問題を孕んでいます。
そもそも、同盟とフェザーンは別に戦争状態にあるわけではなく、今回の「謀略戦」とやらも戦争ではなく外交儀礼の延長から発生したものでした。
ヴァレンシュタイン一派は、対フェザーンの外交窓口である同盟高等弁務官事務所の一員たるヴィオラ大佐が正式な手続きを通じてルビンスキーに面談を求め、フェザーン側もこれを了承したことに便乗する形で、フェザーンの自治領主府に「完全武装で」潜入した挙句、本来外交儀礼を尽くすべき相手に武器を突きつけて脅しをかけているわけです。
これが「戦争」であれば、原作の第7次イゼルローン要塞攻防戦におけるヤンのごとく、「奇跡」「魔術師」の名で称えられることもあるかもしれません。
ところが今回の「謀略戦」とやらの舞台は「戦争」ではなく「外交」。
しかもヴァレンシュタインの凶行には同盟の高等弁務官事務所が直接関与している上、自治領主府からルビンスキーを拉致して逃亡する際には、ヴァレンシュタイン自ら「生命を脅かされている自分達の生命を守るためにフェザーンを脅せ」などと帝国・同盟の首脳陣に命じる始末です↓

http://www.akatsuki-novels.com/stories/view/8002/novel_id~116
> 「我々はフェザーンではお尋ね者です。今も追われている。場合によっては問答無用で撃沈される可能性も有ります」
> 『口封じかね、追手の中に地球の手の者がいると』
> 「可能性は有るでしょう。
帝国、同盟がこのベリョースカ号の安全に関心を持っている、フェザーンはベリョースカ号の安全と航行の自由を保障する義務が有ると声明を出してください
>
> 提督の言葉にスクリーンの四人が顔を見合わせました。
> 『良いだろう、……そちらはどうかな』
> 『異存ありませんな』
> ブラウンシュバイク公とトリューニヒト委員長が同意しました。それを見てヴァレンシュタイン提督が言葉を続けました。
>
>
「現在同盟の三個艦隊、五万隻がフェザーンに向かっています。もし我々の安全が脅かされた場合、同盟軍三個艦隊にフェザーン本星を攻撃させる、それも宣言してください」
>
> 『フェザーンを攻撃だと。しかも卿ら反乱軍に委ねるというのか』
> ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯が顔を顰めています。コーネフ船長も“馬鹿な、何を考えている!”と詰め寄ろうとしシェーンコップ准将に取り押さえられました。
>
> 「帝国、同盟がフェザーンに対しベリョースカ号の安全と航行の自由を保障するように命じたにもかかわらずフェザーンがそれを守らなかった。当然ですがそれに対しては報復が必要になるでしょう、それを同盟軍が行う」
> 『……』

……何というか、こんな自己一身の安全確保を目的に、武力にものを言わせて他者を脅迫する行為が、ヴァレンシュタイン曰く「謀略戦」の実態というわけですね。
はっきり言いますが、こんなシロモノは「戦争」でもなければ「外交」でもなく、もちろん「謀略戦」などという御大層な名で呼称できるものですらない、ただの「テロ」でしかありません。
しかもこの「テロ」は、その勃発から結末に至るまで、同盟の国家および軍が一丸となってサポートしたものでさえあるのです。
よって同盟的には、一連の「テロ」事件が「ヴァレンシュタインの単独行で行われたものであり、自分達は一切関与するところではない」という言い訳すら展開することができず、ヴァレンシュタインと一蓮托生的に事件の責任を背負わされることになります。
一連のヴァレンシュタインの凶行で特に同盟が大きなダメージを受ける箇所は、その経緯から考えても「外交の信用」です。
何しろ、自分達は必要となれば「外交」の場ですら武器を振り回し、外交相手を「物理的に」脅しつけるような存在である、と万人に向かって宣伝しているも同然なのですから。
当事者であるフェザーンと国交断絶・戦争状態突入になるのはもちろんですが、第三者たる帝国にとっても「同盟という国はとてもマトモな交渉ができるような存在ではない」という認識を抱くに充分過ぎる事象なのです。
「外交の信用」を失うということは、つまるところ「他国とのマトモな外交が一切できなくなる」ことを意味するわけです。
これは同盟およびヴァレンシュタインが目指している「帝国との和平」についても、当然のことながら重大どころか致命的な支障を来す深刻極まる事態を【本来ならば】到来させるものですらあります。
ただでさえヴァレンシュタインは、先の(亡命編における)第7次イゼルローン要塞攻防戦の際に「何百万、何千万人の帝国人を殺してあげますよ」などという「帝国250億無差別虐殺発言」を披露してさえいるのです。
それに今回の「テロ」事件およびそれに伴う「同盟の外交の信用の失墜」が重なればどうなるか?
同盟およびヴァレンシュタインは、帝国と話し合いをするつもりなど最初から全くなく、どちらかが完全に滅ぶまで永遠に戦いを続ける殲滅戦争を遂行するつもりである、などという自分でも意図せざるメッセージを結果として伝えてしまうことにもなりかねないでしょう。
ヴァレンシュタインは、地球教の秘密を公に晒すことと引き換えに、自由惑星同盟という国に「テロ国家」という汚名を被せた挙句、最大の目的である帝国との和平を全てご破算にする行為をやらかしていたわけです。
よくもまあ、こんな【本来ならば】同盟の国益にとっても害にしかならないキチガイな人間を、同盟という国は重用するものですね。
たかだか地球教の実態を暴いた程度のことで、同盟が背負わされる羽目になるこれらのマイナス要素とつり合いが取れるとでもいうのでしょうか?
もちろん、ヴァレンシュタインが繰り出すどんな矛盾も破綻も「神(作者)の祝福」の前には強引にねじ伏せられ、ヴァレンシュタインを礼賛する声に勝手に変わってしまうのですが(笑)。

ヴァレンシュタインが主導する「子供の落書き」レベルの幼稚で浅薄な「テロ行為」を成功と栄光の金箔で飾り立てるために、それ以外の周辺人物の知能水準を原作設定どころか一般常識レベルすらも無視して貶め礼賛させる。
そこではまたしても、「原作知識」とは全く無関係に存在する「神(作者)の祝福」が猛威を振るっているわけです。
挙句の果てに、ヴァレンシュタインは「神(作者)の祝福」を自分の実力と勘違いし、「神(作者)の祝福」を前提とした原作キャラクター批判などをおっぱじめたりするのですから、何とも救いようがないとしか評しようがないのですが。
本当にヴァレンシュタインが有能な人物だというのであれば、作中の登場人物ではなく読者をこそ唸らせるような手腕を披露して欲しいものなのですけどね。

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