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ハリウッド映画は「アメリカ万歳」ばかりなのか?

ハリウッド映画について述べられる際、「アレはアメリカ万歳映画ばかり」的な評価がよく聞かれます。
確かに1996年公開映画「インディペンデンス・ディ」や1998年公開映画「アルマゲドン」、2001年公開映画「パール・ハーバー」など、その手の作品がハリウッド映画の中に存在し、かつ興行的には大ヒットして大きな成功を収めているのは事実です。

しかし、実際のハリウッド映画は、巷でよく言われているほどに「アメリカ万歳映画」で溢れかえっているのでしょうか?
私は色々なハリウッド映画を観てきましたが、ハリウッド映画の中には逆にアメリカの政府や社会を批判する意図で製作されたものも少なからず存在します。
たとえば、1980年代に映画公開された「ランボー」「ランボー 怒りの脱出」は、ベトナム戦争から帰還した兵士達の視点から、自分達を冷遇したり罵倒を浴びせたりするアメリカ社会に対する批判が、主人公ランボーによって展開されています。
初期の「ランボー」シリーズには「アメリカ万歳」的な雰囲気は微塵もなく、むしろアメリカ社会は一種の「敵」として描かれてすらいるのです。

また、映画「ロボコップ」シリーズでは、近未来のアメリカ社会のあり方をブラックユーモア的な暗さで描いていますし、「ロボコップ」1作目の監督を担っていたポール・バーホーベンは、1997年にアメリカ帝国主義を皮肉ることを目的にした映画「スターシップ・トゥルーパーズ」を製作しています。
「ロボコップ」で描かれているあの荒廃した犯罪都市デトロイトの描写のどこをどう見たら「アメリカ万歳」的な解釈ができるというのでしょうか?

アメリカが国家組織の総力を挙げて一個人を陥れていく恐ろしさを描いた1998年公開映画「エネミー・オブ・アメリカ」という作品もあります。
この映画では、犯罪とテロの撲滅を目的に、政府による全国民に対するプライバシーの侵害を合法化する「通信の保安とプライバシー法」という法案の成立をめぐり、NSA(アメリカ国家安全保障局)が暗殺・盗聴・冤罪のなすりつけ等のありとあらゆる手段を使って一個人の人生を破滅させるストーリーが描かれており、悪役にされたNSAにしてみればこれほど不愉快な映画もないでしょう。
また、アメリカでは同時多発テロ事件後に「アメリカ愛国者法」という法律が成立しているのですが、この法律は作中に登場する「通信の保安とプライバシー法」と主旨が同じだったりします。

21世紀に入ってからも、アメリカCIAの暗部を描いた「ボーン・アイデンティティー」「ボーン・スプレマシー」「ボーン・アルティメイタム」の3部作映画が大ヒットを記録していますし、イラク戦争開戦の発端である大量破壊兵器問題を批判的に扱っている映画「グリーン・ゾーン」も公開されています。
特に「グリーン・ゾーン」は実際の歴史的事件を映画の舞台にしているだけに、政治イデオロギー的な要素がかなり強い作品です。

繰り返しになりますが、確かにハリウッド映画には「アメリカ万歳」的な映画「も」ありますし、それが興行的に大きな成功を収めていることも事実でしょう。
しかし、ハリウッド映画にはそれと同じくらいにアメリカの政府や社会に対する懐疑的・批判的な作品も少なからず存在しますし、またそれ以前にアメリカ社会のあり方とは何の関係もない純粋な娯楽作品も多いのです。
色々な主旨の映画があって、結果的にバランスが取れている。その懐の広さこそがハリウッド映画の大きな魅力であると言えるのではないでしょうか。
にもかかわらず、何故ごく一部の映画のみをクローズアップして「ハリウッド映画はアメリカ万歳ばかり」などと評価されなければならないのか、私はそこが以前から疑問に思えてならないんですよね。
巷のハリウッド映画評にはおかしな予断と偏見でも入っているのではないか、そう思えてならないのですが。

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コメント

すずこ

ランキングから来ました。
がんばってください!

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  • 2010/08/27 14:35:00

猫遊軒猫八

自分が子供の頃は冷戦時だったのでスタローンやシュワルツェネッガーのアクション映画は頻繁にテレビで放映されていましたね。
現実にも大韓航空機撃墜事件やラングーン事件があって共産国は怖いもんだと思ってました。
これらの映画はラストで反戦厭戦を謳っていても肝心なのはアクションシーンなので
……だってベトナム兵やソ連兵を大量にブチ殺しちゃうワケで、結果アメリカを礼賛していると言えます。
そんな冷戦真っ只中に作られたのがウォーレン・ベイテイの"REDS"で実在したアメリカ人のジャーナリストで
社会主義者、ジョン・リードの半生を描いたもので革命時のロシアにリードが渡って人生を翻弄されるという傑作です。
まぁ冷戦時とはいえこんな映画も作られていました。
ハリウッド映画はやっぱりアメリカで上映されてアメリカ人が楽しむために作られているので「トラ!トラ!トラ!」や「1941」、
最近だと「硫黄島からの手紙」は向こうでは評判よくなかったみたいです。日本人からすると面白いんだけど。

冒険風ライダー(管理人)

>すずこさん
 ありがとうございますm(__)m。

>猫遊軒猫八さん
 アメリカで製作される映画なのですから、アメリカの強さを強調し肯定&礼賛する映画が多く作られる、という構図そのものは私も理解できます。
 というより、むしろその方が健全なんですよね。残虐シーンと「日本が全面的に悪かった」と言わんばかりの結末ばかり持ってこようとする日本の反戦映画を見ていても、全く面白くないどころか虫唾が走りますし。
 イラク戦争の大量破壊兵器問題を否定的に扱った映画「グリーン・ゾーン」なども、アメリカでは評判が悪いみたいですからねぇ。まあこれはアメリカ人に限ったことではないでしょうが、自国のことを悪し様に言われて気分の良い人はあまりいないでしょう。
 この点に関しては、日本はむしろアメリカの「万歳」ぶりをもう少し見習うべきなのではないかとすら、私は思えてならないのですが。「日本版ダイ・ハード」と喧伝された映画「ホワイトアウト」は面白かったですし。

蟹の人

ハリウッドの「アメリカ万歳路線」って、割と近年に入ってから増えたものだと思いますよ。70年代アメリカン・ニューシネマの反体制路線の反動で。
そもそもハリウッドはかつて「赤狩り」をくぐり抜けてきたこともあってリベラル派が主流ですから、本来はアメリカ万歳映画なんて少数派なんですよね。むしろごく一部の大衆向け超大作限定というべきでしょう。だから「ハリウッド映画=アメリカ万歳」なんて認識の方がおかしいのではないかと。
その大衆向け超大作映画にしても、大統領の陰謀や政府の陰謀系の映画も少なくありません。
というより、むしろ「Xファイル」みたいな作品がブレイクしたり、エリア51のような都市伝説がまことしやかに語られるように、「政府は秘密で何か企んでいる」というのがアメリカ人の基本認識でしょう。
一見して「アメリカ万歳映画」のように見えても、実際は「ID4」のように政府がUFOの存在を秘匿していたり、「アルマゲドン」のように政府やNASAのエリートを差し置いて民間人の主人公が活躍したりといった映画の方が主流ですから、アメリカ人もそう単純ではないのです。中には「ザ・コア」や「ユニバーサル・ソルジャー」「スピーシーズ」などのように、アメリカ政府や軍の極秘実験が事件の元凶なんて作品も少なからずありますし。
ごく最近も米軍的な地球の軍隊が異星人にボロ負けする「アバター」が大ヒットしましたしね。
あと、銃規制がなかなか進まないのも、アメリカ人が基本的に政府を信用してないからって事もあるそうです。

冒険風ライダー(管理人)

> そもそもハリウッドはかつて「赤狩り」をくぐり抜けてきたこともあってリベラル派が主流ですから、本来はアメリカ万歳映画なんて少数派なんですよね。むしろごく一部の大衆向け超大作限定というべきでしょう。だから「ハリウッド映画=アメリカ万歳」なんて認識の方がおかしいのではないかと。

 ところが実際には、そのごく一部の少数派であるはずの映画の評価が、そのままハリウッド映画全体の評価にまでなってしまっているんですよね。Web上の映画評を見ても、「ハリウッド映画=アメリカ万歳」という認識が当然であるかのごとく語られているところが多い一方、「ハリウッド映画はアメリカ社会や政府に批判的」などという評価はほとんど見られませんし。
 興行的な成功と反響が観客に強烈なインパクトを与えているのかと考えたこともあったのですが、しばしば反米的と言われる「アバター」などはギネスブッククラスの記録的な大ヒットを飛ばしているわけですし、他のアメリカ批判的な映画もそこそこの成功は収めているわけですからねぇ。
 一体何が原因で「ハリウッド映画=アメリカ万歳」的な「その実態と著しく異なる」評価がまかりとおっているのか、その疑問から今回のブログ記事を書いたわけです。

> その大衆向け超大作映画にしても、大統領の陰謀や政府の陰謀系の映画も少なくありません。
> というより、むしろ「Xファイル」みたいな作品がブレイクしたり、エリア51のような都市伝説がまことしやかに語られるように、「政府は秘密で何か企んでいる」というのがアメリカ人の基本認識でしょう。

 最近リメイクされた「特攻野郎Aチーム」なども、主人公の四人組はアメリカ軍から冤罪を着せられ、軍から逃走して追っ手と戦ったりしていますし、巷で言われているのとは逆に「政府や社会に対する反体制」こそがアメリカのエンターテイメント作品の特徴であるとすら言えるのかもしれませんね。
 ただ、ここで言う「反体制」というのは日本におけるそれとは少し違っていて、彼らは政府や社会について批判したり反撃したりすることはあっても、「アメリカという国そのもの」については否定しないんですよね。むしろ「アメリカという国を【より良く】するために」政府や社会の問題点や矛盾を批判する、というスタンスです。
 アメリカ政府や組織を批判している映画でも、そこで描かれている政府や組織の悪役達は「アメリカという国を【如何にしてより良く】していくか」という考えの下に行動している、という設定がすくなくありません。もちろん、そこには自分自身や所属組織の利害が絡んでいることも多々ありますし、その方法論もえげつないシロモノになっていたり、「結果として」やり方が間違っていて破滅に至るものだったりすることがほとんどなわけなのですが、確信犯で「アメリカという国そのもの」を破滅に追い込もう、というところまで考える「政府および関連組織所属の悪役」は意外に少ないのではないでしょうか。
 このいわゆる「【アメリカという国】に対する愛国心」的なものが、他の国の映画ファンからは「アメリカ万歳」と解釈されてしまうのではないか、という可能性もあるかもしれませんね。

猫遊軒猫八

アメリカで反体制的な映画やテレビ作品が製作されてヒットするのはまず独立戦争により独立を勝ち取ったことと
南北戦争によりアメリカ人の中にもワシントンの連邦中央政府を快く思わない人たちが潜在的に存在するからですね。
後者の作品(例えば爆発デューク)には密造酒をアメ車を飛ばして運搬する話で黒人が全く出てきません。
町山智浩さんのUSAカニバケツが勉強になります、ハイ。

蟹の人

> 一体何が原因で「ハリウッド映画=アメリカ万歳」的な「その実態と著しく異なる」評価がまかりとおっているのか、その疑問から今回のブログ記事を書いたわけです。

その辺、私の見方はシンプルで、ネットの普及によって「皮相的にしか物を見られない批評・感想が増殖している」といったことではないかと。
私もさほど映画史に詳しいわけでもないですが、そんな私でも呆れるほど知識のない「自称評論家」もいますからねえ。

>ただ、ここで言う「反体制」というのは日本におけるそれとは少し違っていて、彼らは政府や社会について批判したり反撃したりすることはあっても、「アメリカという国そのもの」については否定しないんですよね。むしろ「アメリカという国を【より良く】するために」政府や社会の問題点や矛盾を批判する、というスタンスです。

安保闘争の頃はともかく、現在においてその点は日本の場合も同じでしょう。「より良く」という認識の違いでそうではないように見えるだけで。
先日の「非実在青少年」騒動の時も、問題に真摯に向き合ったのはもっぱらネット上で「反日」扱いされているような政党ばかりでしたし。

> 確信犯で「アメリカという国そのもの」を破滅に追い込もう、というところまで考える「政府および関連組織所属の悪役」は意外に少ないのではないでしょうか。

その辺は日本映画の場合も同じですね。日本には松本清張のようないわゆる「社会派」作品の伝統がありますから、社会や体制の矛盾が事件のきっかけ、という作品が多数です。

そもそもこの問題は、日本とアメリカの社会の成り立ちそのものが違うので、そこから分析する必要があるのではないでしょうか。
猫遊軒猫八もおっしゃってますが、アメリカは独立で自治を勝ち取った社会であり、また移民社会でもあるので、個人と政府との関係性が日本とはかなり違います。
基本的にアメリカ人は自立心が強く、政府を信用してないからこそ、常にメディアが強く結束を呼びかけているという側面があるのでしょう。
そういう側面を知らずに上っ面だけで判断する人が「ハリウッド映画はアメリカ万歳映画ばかり」という誤認をするのではないでしょうか。

冒険風ライダー(管理人)

> その辺、私の見方はシンプルで、ネットの普及によって「皮相的にしか物を見られない批評・感想が増殖している」といったことではないかと。
> 私もさほど映画史に詳しいわけでもないですが、そんな私でも呆れるほど知識のない「自称評論家」もいますからねえ。

 どちらかと言えばネット普及前の方が「皮相的にしか物を見られない批評・感想」的なものは多かったのではないでしょうか?
 たとえば、劇場公開された平成ガメラシリーズなどは、当時「自衛隊が全面協力した」というただそれだけの理由で、朝日新聞や赤旗などから「戦争映画だ!」的な「皮相的にしか物を見られない批判」を受けていましたし、1998年公開映画「プライド・運命の瞬間」の劇場公開の際にも、中身を吟味しようとすらせずに「A級戦犯を賛美するのか!」的な上映反対運動を起こす人間が続出しました。時代的に見ても、これらの評価は間違いなくネットがまだそれほど普及していなかった時代のものですよね。
 また、これは映画ではありませんが、やはり戦前の日本を歴史改変して勝利させる架空戦記に対して、「戦前の日本を賛美している」的な「架空戦記批判の中でも特に表層的かつ的外れな評価」が叩きつけられていたことがありましたし、これについては、今に至るもネットと疎遠な田中芳樹や、後に雑誌で映画批評を書いたりしていた山本弘なども加担していました。
 この手の皮相的な批判というのは、ネットよりも既存メディアの方が影響も拡散効果も大きいのではないかと。

> 安保闘争の頃はともかく、現在においてその点は日本の場合も同じでしょう。「より良く」という認識の違いでそうではないように見えるだけで。
> 先日の「非実在青少年」騒動の時も、問題に真摯に向き合ったのはもっぱらネット上で「反日」扱いされているような政党ばかりでしたし。

 しかし日本映画の場合、先に挙げた事例のように、戦前の日本や自衛隊を少しでも肯定的に描こうとすると、たちまちのうちに「右翼」「軍国主義者」のレッテルが貼られて非難の大合唱が起こるというパターンがすっかり常習化していますからねぇ(-_-;;)。
 最近はさすがにその手の勢力も衰退傾向にありますが、この「右翼&軍国主義的なものは存在すらも許さない」的な空気は、映画のみならずエンターテイメント作品全般を縛る一種の「自主規制」として機能している側面が未だにあるのではないかと、私は思えてならないのですが。

> そもそもこの問題は、日本とアメリカの社会の成り立ちそのものが違うので、そこから分析する必要があるのではないでしょうか。
> 猫遊軒猫八もおっしゃってますが、アメリカは独立で自治を勝ち取った社会であり、また移民社会でもあるので、個人と政府との関係性が日本とはかなり違います。
> 基本的にアメリカ人は自立心が強く、政府を信用してないからこそ、常にメディアが強く結束を呼びかけているという側面があるのでしょう。
> そういう側面を知らずに上っ面だけで判断する人が「ハリウッド映画はアメリカ万歳映画ばかり」という誤認をするのではないでしょうか。

 そうですね。アメリカは「人種の坩堝」な上に人種や宗教上の問題などから内部に色々な対立があるので、国民をひとつの共通項でまとめるために外部に敵を作ろうとする、という説は私も良く聞きます。
 同じような問題は多民族国家な上に地域によって言語体系すらも異なる中国も抱えていますし、その点ではむしろ、内部に民族や宗教的な対立がこれといって存在しない日本の方が世界的に見れば突然変異的(であるが故に幸福)な国であるとすら言えます。
 ひとりひとりが「その国の国民」としての意識をごく自然かつ普通に持っている、というのは国としての強みであり、また国民にとっても利益になる大変貴重な国家的無形財産だと私は思うのですけど、「それが当たり前」という環境で生きていると、その尊さはなかなか理解できないものですからねぇ(-_-;;)。

タッスル

アメリカ万歳の意味はアメリカが正しいとかじゃ無くて、勧善懲悪でラストがハッピーエンドに成って、気持ちよく見終えれるような映画の事を指してるんじゃないですか?
逆の映画はヒッチコックとか。
アイアンマンとかがアメリカ万歳にあたると思うのですが。
自分の個人的な意見ですいません。

  • 2016/01/29 23:28:00

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