映画「わさお」感想
映画「わさお」観に行ってきました。
青森県西津軽郡にある鰺ヶ沢町(あじがさわまち)を舞台に、ネットで有名になった秋田犬長毛種のブサかわ犬・わさおの半生を描いたハートフルドラマ。
薬師丸ひろ子が22年ぶりに主演を演じ、また主人公である「わさお」を、代替犬を使うことなく本物のブサかわ犬である「きくやわさお」が自ら演じたということでも話題になった作品です。
物語は、過去に行われた鯵ヶ沢町のトライアスロン大会の際、両親と姉弟の4人家族が映し出されるところから始まります。
その中の末っ子の少年アキラは片手にシロという白い子犬を、片手に赤いボールを持ち、選手達の応援をしていました。
しかしその時、ふとした拍子に赤いボールが道路に転げ落ち、それを取ろうとシロが道路に飛び出してしまいます。
そこへ、お約束のように登場し、シロを跳ね飛ばさんと迫ってくる車。
事態に気づいた母親が道路に飛び出してシロを庇い、結果、シロの代わりに母親が交通事故に遭い半身不随となってしまいます。
そのことにショックを受けたアキラは子犬を飼う気を無くしてしまい、シロに対して半泣きになりながら「おまえなんかどっかに行っちゃえ!」という罵倒を投げつけ、子犬は東京の親戚にもらわれていってしまいます。
しかし、アキラのことが忘れられないシロは、親戚のオバサンが玄関先で配達人?の相手をしている隙を突いて空いていた窓から脱走し、鯵ヶ沢町までの長い旅に出ることになります。
月日は流れ、鯵ヶ沢町では畑が何者かに荒らされる被害が出ていました。
被害状況から見てクマか大きな野犬ではないかという疑惑が駆け巡り、住民が対処に追われる中、白いライオンのような犬が町のあちこちで目撃されるようになります。
鯵ヶ沢町の海辺でイカ焼き屋を経営し、元捨て犬だった4匹の犬を飼っていた薬師丸ひろ子演じる菊谷セツ子の前にも、この白いライオンのような犬が現れます。
もちろん、この犬の正体は、東京から鯵ヶ沢町までの長い旅を経て成長したシロだったりするのですが。
菊谷セツ子が初めてシロを見た際の感想は「ギリギリな犬」「わさわさしてる」。
菊谷セツ子はこれまで拾ってきた犬達と同じように「ギリギリな犬」と接し、当初は餌をやろうとしても拒否されていた「ギリギリな犬」も、ナギサという老犬が普通に食べる様子を目撃したからなのか、やがて餌を食べるようになります。
菊谷セツ子はこの「ギリギリな犬」に「わさお」という名前をつけ、なにかと世話をしていくことになるのですが……。
内容を見る限り、映画「わさお」はわさおファンを意識して製作された作品、というイメージがありますね。
作中で展開されるわさお関連のエピソードは、明らかにわさお関連のブログで取り上げられたネタを元に作られています。
たとえば、菊谷セツ子がわさおと初めて出会うシーンなのですが、これはわさおがブサかわ犬として全国的に有名になる発端となったブログ記事をベースにしていたりするんですよね↓
イカの町で出会ったモジャモジャ犬「わさお」 ― メレンゲが腐るほど恋したい
http://d.hatena.ne.jp/mereco/20080526/p1
両者が出会った場所からして、上記のブログ記事に掲載されているこの画像の風景そのものでしたし↓
また、わさおとの初対面の際における菊谷セツ子の第一声もまた、件のブログ記事を執筆したブログ主であるメレ子さんの第一声「なんか犬としてもギリギリな感じの犬がいるー!」とほぼ同じものだったりします。
「わさお」という名前自体もこの時メレ子さんが仮に名付けたものですし。
実際のわさおは国道沿いで捨てられていたのを拾われたらしく、最初は「レオ」と名付けられていたようなのですが、飼い主である菊谷節子さんが「わさお」という名前を一発で気に入り、正式名称も2009年初頭に「わさお」へ改名したのだとか。
その辺りの経緯はこちらに載っています↓
レオがわさおになった理由(わけ) ― わさお通信:今日のしっぽ
http://www.toonippo.co.jp/blog/wasao/2009/01/24213145.html
さらに作中では、菊谷セツ子が元々飼っていた4匹の犬のうち、ナギサという老齢の犬が天寿を全うすることになるのですが、こちらも実際に菊谷商店でわさおと一緒に飼われていたチビという老犬のエピソードをベースにしたものです。
元ネタはこちら↓
チビ永眠 ― わさお通信:今日のしっぽ
http://www.toonippo.co.jp/blog/wasao/2010/05/02194623.html
ここでは、ナギサの死期が近いことを悟った菊谷夫妻がつきっきりで見守りつつも、夜も遅いこともあってついうたた寝してしまった間にナギサが逝ってしまうのですが、夜中にどこからともなく出てきたわさおがナギサの死を看取り、菊谷夫妻も朝になって残された毛からそのことを知る、というストーリーが展開されます。
ちょっと目を離してしまった間に老犬が逝ってしまい最期を看取りそこなう、というパターンは、実は私の実家でも似たようなことが過去にあったので、この辺りの話は個人的に他のシーンよりも飼い主に感情移入して観ていましたね。
この話の元ネタとなった老犬のチビは、昼過ぎ頃に永眠したということもあってか、飼い主とわさおにきちんと看取られての最期だったようですが。
作中に登場した動物達は、本犬役を演じた「きくやわさお」のみならず、菊谷商店で飼われていた4匹の犬や、菊谷商店の周囲にたむろしていた猫達も含めて、皆自由にのびのびしている感がありましたね。
飼い主が海岸で犬達の放し飼いにして好きに走らせたりする描写がありますし、菊谷商店に居つくようになって以降のわさおも基本は放し飼いです。
製作者達も、犬達の自然な様子を撮りたいという意図から、あえて訓練を受けていない犬を選んだとのことで、その辺りはさすが上手く表現できているのではないかと思いました。
ただ、主演という割には、思ったよりもわさおの出番が少なかったような印象は否めませんね。
特に物語中盤付近における鯵ヶ沢トライアスロン大会などでは、わさおはほとんどストーリーに絡むことがありませんでしたし、それ以外にも小さなエピソードを大量に詰め込み過ぎているような感もあります。
この辺りに「訓練された犬」ではなく本犬自身が出演、ということで生じる問題や限界などがありそうですね。
動物映画でありながら悲劇的な結末で終わらない、という点において、映画「わさお」は愛犬家にとってはある意味「安心して観れる作品」だったりします。
忠犬ハチ公や今年の6月公開予定の映画「星守る犬」などのように「飼い主・飼い犬のどちらか、もしくは双方共に死をもって終わる」的な悲劇的結末だと、確かに感動的ではあるかもしれませんが同時に悲しくもなってくるので、個人的にはあまり好きにはなれないんですよね。
悲劇で終わらない動物映画って最近少ないので、そういう観点から見ると、映画「わさお」は動物映画としては希少な部類の作品と言えるのかもしれません。