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「らいとすたっふ」が銀英伝の電子書籍化を公式発表

「あの」銀英伝が、2012年3月1日より電子書籍として販売されることが「らいとすたっふ」公式サイドより発表されました。
電子書籍の名称は「らいとすたっふ文庫」、対応機種はiPhone/iPad、Andoroid搭載の携帯端末になるとのことだそうですが…↓

http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2012/02/post-f5a4.html
>  私の会社でマネージメントをしております作家、田中さんの著作につきましては、以前より、読者の皆さまから電子書籍化の要望が数多く寄せられていました。
>  しかし、
田中さん本人が根っからのアナログ人間で、電子書籍について否定的な考えをもっていたことから、その実現は難しいとお答えしていました。
>  それに、電子書籍を取り巻く環境は、まだまだ変化が大きく、私の会社のような零細企業としては、参入には慎重にならざるを得ませんでした。
>
>  とはいえ、電子書籍には紙の本にはない多くのメリットが存在しますし、このまま紙媒体のみの流通というのも読者の皆さまの選択肢を狭めてしまうことになります。
>  この点を繰り返し、
田中さんに説明した結果、このたびついに田中作品の電子書籍版の出版が実現することとなりました。
>
>  ただ、その際の条件として「電子書籍を商売にしている会社に丸投げするのではなく、できる限り、君たちがやりなさい」と指示がありました。そのため、既存の電子書籍問屋さんとの提携ではなく、私の会社が出版元となって電子書籍の販売を行うことになりました。

正直、私は「らいとすたっふ」が田中作品の電子書籍化を推進するとは思ってもいませんでしたね。
何しろ社長氏は、2004年と2010年に、自身のブログで電子書籍に対する懸念と問題点の指摘を行っていたのですから↓

2004年
http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2004/05/post_4.html
http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2004/05/post_11.html

2010年
http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2010/02/post-717b.html
http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2010/05/post-813e.html
http://a-hiro.cocolog-nifty.com/diary/2010/05/post-330d.html

どちらかと言えば「技術的な問題などに対する懸念表明」的なものではあったのですが、これらの記事を読んでも、社長氏自身も電子書籍導入に消極的であったことが伺えます。
それに加えて、社長氏自身も述べているように、他ならぬ田中芳樹自身がネットすらマトモにやらないレベルのアナログ人間で、かつ電子書籍導入に否定的であるという事情もありましたし。
さらには「らいとすたっふ」側が電子書籍を導入する動きをこれまで欠片も見せていなかったこともあり、田中作品の電子書籍導入は当面難しいものがあるだろう、というのが私の考えでもありました。
それだけに、今回の「らいとすたっふ」の公式発表は私も寝耳に水でした。
ブログ記事の内容を読む限りでは、今回の電子書籍導入は社長氏の方が熱心に推進していて、あまり乗り気でない田中芳樹を何度も説得して実現にこぎつけたみたいですね。
アレだけ電子書籍に懸念を表明していたはずの社長氏が、一体いつの間に自身の主張を180度変えたというというのでしょうか?
社長氏が懸念を表明していた問題点の数々も、ある程度の改善はされつつも、未だ完全な解決にまでは至っていないというのが実情だというのに。
まあ昨今の出版業界も、長く続いている不況で台所事情が苦しくなっているという話は私もよく聞きますし、稼ぎ頭であるはずの田中芳樹もさらに遅筆に磨きがかかる惨状を呈していますから、その煽りを受けて転向せざるをえなくなったのかもしれませんが。

今回の電子書籍化でまず真っ先に浮上しそうな問題点としては、その料金設定にあるでしょうね。
銀英伝の電子書籍は、以下のような料金設定で販売されるとのことですが↓

> ■予定価格帯
>
100円〜600円。
> 『銀河英雄伝説① 黎明篇』は、
450円でのリリースを予定しております。
>
> ※当社の電子書籍は、カバー絵や挿画のないシンプルなものになります。

これに対し、現在銀英伝の最新版を刊行している創元SF文庫の一般的な販売価格は、巻毎でややバラつきがありますが、だいたい770円~840円といったところです。
これを考えると、「らいとすたっふ」側の電子書籍の販売価格は、明らかに創元SF文庫、ひいては東京創元社の利害に直結するものにもなりかねないのではないかと。
価格だけを見れば、どう考えても「らいとすたっふ」の電子書籍版の方に軍配が上がってしまうのですからね。
東京創元社側にしてみれば、せっかく自分のところで扱っている貴重な金ヅルを奪われる、と解釈しても不思議ではなく、最悪、「らいとすたっふ」に対して何らかの報復措置(著書の宣伝を一切行わない、今後一切田中作品および「らいとすたっふ」所属の作品を扱わないようにするなど)に打って出てくる可能性すらありえます。
また東京創元社だけでなく、田中作品を多く扱っている講談社や光文社などでも「自分のところでも同じことをやられたら…」と危機感と警戒心を持つことになるかもしれません。
これまで色々と世話にもなっているわけですし、それら既存の出版社とは何らかの利害調整をしておかないと、正直マズイことにもなりかねないのではないかと思えてならないのですが……。

日本で電子書籍がなかなか広まらない理由のひとつに、既存の出版社および印刷会社による既得権益死守がある、というのはよく聞く話です。
電子書籍は紙媒体に比べて利益率が低く儲けが少ない上、印刷会社などは仕事を取られてしまうことにもなりかねません。
だから大手出版社などでは、電子書籍を全く作らないか、作っても料金設定を意図的に高くしたり、購入手続きをわざと煩雑にしたりするなどして、既得権益を侵害しない範囲内で電子書籍を普及させようとするわけですね。
正直、良い傾向であるとはとても言えたものではないのですが、彼らも自分達の生活がかかっているのですから必死にならざるをえないわけで。
その意味では、「らいとすたっふ」の今回の価格設定の試みは、やり方によってはそういった電子書籍のあり方に一石を投じるひとつの社会実験にもなりえるかもしれません。
今後一体どうなるのか、予測がつかないところではあります。

しかしまあ、大手出版社の電子書籍に対する態度にも問題があるにしても、だからといって「らいとすたっふ」サイドのやり方が褒められたものであるとは到底言えたものではないのですけどね。
銀英伝の再販ってこれで通算何回目なのでしょうか?
私が知っているだけでも、最初の徳間ノベルズから徳間文庫、徳間デュアル文庫、創元SF文庫へと移転してさらに今回の電子書籍化ときているのですけど。
特に、徳間デュアル文庫で銀英伝が再販、それも各巻を2~3冊に分割して刊行するなどというアゴキな手法が取られた際には、「ファイナルバージョン」などと銘打たれてまでいたはずでしたよねぇ(苦笑)。
今でも「アレは一体何だったのか?」と思えてならないのですが(爆)。
田中芳樹と「らいとすたっふ」のこれまでの所業を鑑みると、今回の電子書籍化もまた、一連の再販戦略の延長線上で行われているようにしか見えないところがまた何とも言えないところでして(-_-;;)。
もちろん、「らいとすたっふ」はあくまでも営利企業であり、慈善事業で作家のマネージメントをやっているわけではないのですから、「企業として金儲けのことを考えて何が悪い!」とは当然主張するでしょうし、違法行為に手を染めているのでもなければ、それが悪いことだとは私も思いません。
しかし田中芳樹は、かつて己の著書でこんなことを述べていたはずなのですけどねぇ↓

イギリス病のすすめ・文庫版 P215~P216
<土屋:
 それともう一つ、日本はイギリス病を輸入しないといけないね、イギリス病にかからないといけないんじゃないか、それは
やっぱり「美しく老いる」ことなんだよね。その渦中にあったイギリスは、美しいなんて思ってられなかったと思うけどね。覚悟はあったとしてもいきなりのイギリス病だったし。……でも、今になってみると、やっぱりああいうふうに停滞をするということ、停滞をしなくちゃいけないということ……要するに、「進歩し続けることが唯一の道」みたいな考え方を、どこかで転換させなきゃいけないんじゃないか。かといって退化しろというわけじゃないけどさ。(笑)もともとそれは無理だしね。退化するわきゃないし、退化できるわけがないけど。
田中:
 永遠に全力疾走できるわけはないのに、そう思って走ってきて、一度でも転ぶともうレースに参加できない、という感じでずっとやってきたから
……やっぱりこれは「イギリス病のすすめ」ってのがいいかもしれない。少なくとも歩くとか休むとかっていう選択ができるようにしておきたいですね。
土屋:
 だからね、
貧乏になろうよ、国を挙げて貧乏になりましょうよ、って。おれは貧乏だけどね。(笑)
田中:
 
日本全体がもともと貧乏だったんだし。(笑)ちょっときれいごとすぎるけど、「清貧」って言葉もあるくらいだから。日本人自身も、そのほうが気楽かもしれない。
土屋:
 金持ちだから世界中で悪いことやるわけで、「貧乏になりゃあいいじゃないか」ってね。>

他人様に対しては「美しく老いよう」「貧乏になりましょうよ」などというタワゴトに全面同意して一緒にお説教までしておきながら、自身は金儲けに邁進するって、それはいくら何でも自分勝手が過ぎるのではないかと。
「らいとすたっふ」のなりふり構わぬ金儲け至上主義的な企業戦略を見て、「美しく老いよう」「貧乏になりましょうよ」とはほんの少しでも思ったことがないのでしょうかねぇ、田中芳樹は(爆)。
「らいとすたっふ」は銀英伝のみならず、他の田中作品についても「電子書籍化」という名の下に金儲けの道具としてとことんまで使い倒すつもりのようですし、田中芳樹の価値観的には今の「らいとすたっふ」にこそ「イギリス病のすすめ」が必要なのではないのかなぁ、と(笑)。

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