銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察9
「亡命編」のストーリーを読んでいると、せっかく設定したはずの「亡命」というコンセプトがまるで生かされていないような感が多々ありますね。
原作「銀英伝」におけるメルカッツやシェーンコップの同盟内での立場や境遇を見れば分かるように、亡命者というのはそもそも基本的に何もしていなくても他者から差別や偏見の目で見られ冷遇されるものですし、下手に才覚を発揮すればするほど、むしろ「あいつは何か企んでいるのではないか?」などといった猜疑心を向けられ、痛くもない腹を悪戯に探られることすら珍しくありません。
ところが「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタインの場合、そのようなハンディキャップがまるで機能しておらず、軍の階級は一般的な士官学校卒業者以上の昇進速度を誇り、権限に至ってはその階級にすら見合わないほどに強大だったりします。
何しろ、少佐の階級で基地全体の軍事力増強や総指揮を事実上担っていたり、大佐や准将の階級で全軍の指針や作戦を決定・実行させたりしているのですから。
特に亡命初期はロクな後ろ盾もなく監視の目すら向けられていたくらいなのに、アレだけ好き勝手な言動を披露して処分どころか大多数の周囲から警戒すらされないというのは不自然もいいところなのではないか、とどうにも思えてならないのですけど。
特にヴァンフリートの自爆発言や前回検証した上官侮辱罪の件などは、別に亡命者でなくても軍人であれば即刻逮捕拘禁に値する事案なのですし、それについてすら大多数の周囲から反発さえもなく逆に同情されるばかり、というのはさすがにどうなのかと。
原作のヤンですら、自分が同盟の上層部と違う考え方を持っているために疎まれていましたし、当の本人にもその自覚くらいはあったというのに。
「亡命者」としてのヴァレンシュタインの立場と境遇を、ヴァレンシュタイン自身も含めた作中の登場人物達全員が完全に忘れ去っているとしか思えないところですね。
それでは引き続き、第6次イゼルローン要塞攻防戦におけるヴァレンシュタインの言動について検証していきたいと思います。
なお、「亡命編」のストーリーおよび過去の考察については以下のリンク先を参照↓
亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/
銀英伝2次創作「亡命編」におけるエーリッヒ・ヴァレンシュタイン考察
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-570.html(その1)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-571.html(その2)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-577.html(その3)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-585.html(その4)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-592.html(その5)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-604.html(その6)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-608.html(その7)
https://www.tanautsu.net/blog/archives/weblog-entry-614.html(その8)
作戦会議という公の場で上官侮辱罪という軍法違反行為を公然とやらかしたヴァレンシュタインですが、当然のごとく行われた神(作者)の介入により、周囲どころか当のロボスですらその事実に全く気づくことなく、ヴァレンシュタインは自身でも全く気づくことなく第二の危機を回避することに成功してしまいました。
とはいえ、そこは万年被害妄想狂患者であるヴァレンシュタインですから、幸運などという概念にすら当てはまらない神(作者)の奇跡に感謝どころか疑問を抱きすらするはずもなく、ここぞとばかりにロボスとフォークを罵り倒しにかかります↓
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> 今思い出しても酷い会議だった、うんざりだ。フォークの馬鹿は原作通りだ。他人をけなすことでしか自分の存在をアピールできない。ロボスは自分の出世に夢中で周囲が見えていない。あの二人が遠征軍を動かす? 冗談としか思えんな。
>
> フォークは軍人としては終わりだな。恐らく病気療養で予備役だ。当分は出てこられない。出てきても作戦参謀になることはないだろう。その方が本人にも周囲の人間にも良い。あの男に作戦立案を任せるのは危険すぎる。
>
> 問題はロボスだな……。今回の会議で考えを改めればよいが果たしてどうなるか……。頭を冷やして冷静になれば出来るはずだ。だが出世にのみ囚われると視野が狭くなる……。
>
> 難しい事じゃないんだ、下の人間を上手く使う、そう思うだけで良い。そう思えればグリーンヒル参謀長とも上手くいくはずなんだが、シトレとロボスの立ち位置があまりにも違いすぎる事がそれを阻んでいる。
>
> シトレが強すぎるんだ、ロボスはどうしても自分の力で勝ちたいと思ってしまうのだろう。だから素直にグリーンヒルの協力を得られない。そうなるとあの作戦案をそのまま実施する可能性が出てくる……。
相も変わらず、自分にもそっくりそのまま当てはまるブーメラン発言でもってロボスとフォークを評している滑稽極まりないヴァレンシュタインですね(苦笑)。
「他人をけなすことでしか自分の存在をアピールできない」も「周囲が見えていない」も、これまでのヴァレンシュタインの言動そのものにはっきりと表れているでしょうに(爆)。
この2つの要素がヴァレンシュタインになかったならば、そもそもヴァレンシュタインが今日の状況を迎えることもなく、ラインハルトの台頭と共に帝国へ逆亡命するという当初の構想を問題なく達成することだってできたはずなのですから。
それに「頭を冷やして冷静になれば出来るはずだ」って、いくら相手がロボスだからとは言え自分にできないことを他人に要求して良いものではないでしょうに(爆)。
常に「自分は正しく他人が悪い」を地で行くヴァレンシュタインは、その欲求を満たすための思考ばかりやっていて、一度も「頭を冷やして冷静にな」った試しなどないではありませんか(笑)。
たまに反省のそぶりらしきものを見せたかと思えば、自分の責任を他の誰かに擦りつけて見当ハズレなタワゴトを吹聴することばかりに汲々とする始末ですし。
ロボスが自分の進言(という名の罵倒)を受け入れないのを「シトレが強すぎる」せいにしているところにも、それは窺えます。
あんな上官侮辱罪ものの罵倒をやらかした人間の言うことなど、マトモに聞きいれる方が逆におかしいでしょう。
普通に考えてみても、あんな罵倒をするような人間にはそれだけで感情的な反発が来るものですし、進言内容の是非を問わず、また軍に関わらず、ああいう罵倒行為は組織の秩序と士気に致命的な悪影響を与えかねないのですから。
仮にその意見に一定の理があり受け入れるに値するものであったにしても、それは「ヴァレンシュタインの進言を受け入れた」という形ではなく、別の人間が改めて進言して……という形にならざるをえないのですが。
というか、そもそもヴァレンシュタイン自身、部下から同じことをやられたら躊躇なくロボスと同じことをするか、それこそ上官侮辱罪を振り回して相手を叩き潰す対応を取るのが最初から目に見えているのですけどね(苦笑)。
にもかかわらず、その自身の性格から目を背けてさらに運命論のごとき支離滅裂な妄言を口にするに至ってはねぇ……↓
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/26/
> それにしても酷い遠征だ。敵を目前にして味方の意志が統一されていない。こんな遠征軍が存在するなんてありえん話だ。何でこんなことになったのか、さっぱりだ。ヴァンフリートで勝ったことが拙かったのかもしれない。あそこで負けていたほうが同盟軍のまとまりは良かった可能性がある……。やはり俺のせいなのかな……。まったくうんざりだな。ボヤキしか出てこない。
ではもしヴァンフリートで勝利していなかったとしたら、ヴァレンシュタインはロボスを罵倒していなかったとでも言うのでしょうか?
元々ヴァレンシュタインは、「フォークを重用していた」という原作知識からロボスに対する軽侮の念を隠そうともしていませんでしたし、そもそも同族嫌悪・近親憎悪の観点から言っても、自制心なきヴァレンシュタインはロボスを敵視せざるをえない境遇にあるはずなのですが。
ロボスがシトレに対抗意識を持っていたのは事実でしょうが、それとヴァレンシュタインの上官侮辱罪ものの罵倒は全く何の関係もない話です。
ロボスの置かれている立場や状況がどうだろうと、ヴァレンシュタインが自らの衝動の赴くままにロボスを罵倒し拒絶されるのは確実だった、と言わざるをえないのですが。
例によって例のごとく、反省のピントがズレまくっているとしか言いようのない話ですね。
もちろん、常に「自分が正しく他人が悪い」を通さなければならないヴァレンシュタインとしては、自身の罵倒に非があったなどと認めるわけにはいかないのでしょうけど。
ロボスの他者を拒絶する頑なな対応と、何よりもヴァレンシュタインがやらかした上官侮辱罪の効用により、総司令部は士気も低く不安と不穏な空気に包まれていました。
軍に限らず、自分の上に立つ者を公然と侮辱した者を何ら罰することなく放置すればそうなるのは当たり前です。
そんなことをすれば、その侮辱が実は正当なものであるということを、当の侮辱された人間が認めているも同然となり、上官の地位と権威、さらには軍の秩序自体が崩壊することにもなりかねないのですから。
ロボスは軍規から言っても自己一身の保身のためにもヴァレンシュタインを処断しなければならなかったのですが、もちろん神(作者)の介入のためにその手を使うことができません。
周囲もまた、「貴官の主張内容にも一理はあるが、貴官の行為は上官侮辱罪を立派に構成していて…」とヴァレンシュタインを責めるなど思いもよらず、ひたすらロボスにのみ非難の目を向けヴァレンシュタインには全面的な同情と共感を注ぐ始末。
自分が何を言っても処断されないと確信したヴァレンシュタインは、ここぞとばかりにさらにロボスの感情を刺激する行為に及ぶこととなります。
今度は一転して下手に出て、ロボスに要塞前面での戦闘を避けより有利な星系での決戦をするよう進言するのですが、ロボスはそれを当然のごとく拒否。
その理由をヴァレンシュタインが分析する場面があるのですが、それが正直言ってまた振るっているんですよね↓
http://ncode.syosetu.com/n5722ba/27/
> 「でも、あの作戦案は本当に凄いです。私だけじゃありません。皆そう思っているはずです」
> 私は慰めを言ったつもりは有りません。本当にそう思ったんです。ですがヴァレンシュタイン大佐は私の言葉に苦笑しただけでした。
>
> 「何も考えつかなかったんです。もうどうにもならない、思い切って撤退を進言しようと……。そこまで考えて、もしかしたらと思いました……」
> 「……」
> 大佐が溜息を吐いて天井を見ました。
>
> 「あの作戦案を採用しても帝国との間に艦隊決戦が起きるという保証は有りません。そして勝てるという保証もない。あれはイゼルローン要塞攻略を先延ばしにしただけなんです。上手く行けば要塞攻略が出来る、その程度のものです」
> 「……」
>
> 「それでも作戦案としては壮大ですし、見栄えも良い。ロボス元帥としても勝算の少ない作戦案にかけるよりは受け入れやすいと思ったのですが、まさか自分が更迭されることをあそこまで恐れていたとは……」
> 大佐が疲れたような声を出して首を横に振りました。
>
> 「ヴァンフリートで勝ったのは失敗でした」
> 「大佐……」
> 「あそこで負けておけばロボス元帥もああまで思い込むことはなかった……」
> ヴァレンシュタイン大佐の声は呟くように小さくなりました。納得いきません、あそこで負ければ大勢の戦死者が出ていたはずです。
この期に及んでも、自分の罵倒がロボスに決定的に拒絶されるようになった真の原因だとは思いもよらないヴァレンシュタインって……。
ああいうことをやらかした後で「自分の言っていることはロボスにも理があるのだから素直に受け入れてもらえるだろう」って、それはいくら何でも虫が良すぎるというものです。
自分があんな風に罵倒されたらどう対応するか、という観点から考えただけでも、自分の言動に多大な問題があることを「常人ならば」普通に理解できそうなものなのですが。
自分のことについてはアレほどまで被害妄想全開状態なのに、他人の話になると相手が聖人君子のごとき人格者であることを平然と要求するのですね、ヴァレンシュタインは。
「自分に甘く他人に厳しい」って、それは上に立つべき人間が絶対になってはいけない最低最悪の人格であり、それこそロボスやフォークと同レベルでしかないでしょうに。
まあだからこそヴァレンシュタインは、自分と同類であるロボスやフォークをあそこまで否定するのでしょうけど。
というよりここはむしろ、ああいう下手に出たこと自体が「拒絶されることを前提とした謀略」である、とでものたまっていた方が、ヴァレンシュタインの立場的にはまだ説得力があったのではないですかね?
例の上官侮辱罪の一件で、ヴァレンシュタインとロボスの関係は修復不可能なレベルまで完全に決裂しました。
ならば、ロボスを陥れる最善の方法としては、わざと理に叶った作戦案を懇切丁寧にロボスに提示し、それを「提案したのがヴァレンシュタインだから」と感情的に拒絶させるという策を使えば良いわけです。
そうすれば、作戦案が理に叶っていればいるほど、拒絶されることでロボスのイメージダウンと自分への同情票を同時に獲得することができ、さらに後日作戦が失敗した暁には「何故自分の策を採用しなかった」と居丈高にロボスを罵り倒すこともできたはずです。
相手が感情的であればあるほど、この手の策は極めて有効に作用します。
この描写を読んだ時、私はてっきり「ああ、これはロボスに対する確信犯的な嫌がらせだな」とすら考えてむしろ感心すらしたくらいなのですが、何故そこでわざわざ偽善者ぶらなければならないのか、実に理解に苦しむものがありましたね。
まあ、このような策は「自分が何を発言しても相手から罰せられたり権力や暴力で弾圧されたりすることがない」という前提が必要不可欠であり、ネット上の議論などであればともかく、軍内で通用するはずなど【本来ならば】全くありえないのですが。
次回からは、「亡命編」のオリジナル設定である自由惑星同盟軍規定第214条が提示されて以降の検証に移ります。
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まあ、一介の出来る(という事にしとかないと話が進みませんのでそういう事にしといて下さい)士官、しかもついこないだ亡命して来たばっかのがどうしてあそこまででかい口が叩けてでかい事が出来てしまうのが不思議ではありました(棒
ジークマイスター提督程の手土産があった訳でも無く、それに何より亡命篇に入ってからお世辞にも円満とは程遠い性格異常者ぶりが悪化しているというのに。
本来この亡命篇で軍人として何かを成したいのであれば、出来る限り敵を作らない言動と地道な根回しを繰り返し、意見を求められれば必ず実のある言葉で応えるのと見事なまでの責任回避を両立する位でないと……ああ、そんなもん前世が一介の小市民に過ぎなかった人間には絶対に無理だw