映画「闇金ウシジマくん」感想
映画「闇金ウシジマくん」観に行ってきました。
小学館発行の青年マンガ雑誌「ビッグコミックスピリッツ」で不定期連載されている、真鍋昌平原作の同名マンガを実写化した作品。
2010年に実写化されたテレビドラマシリーズの続編で、キャストもテレビドラマ版をそのまま踏襲しています。
作中には女性の裸やレイプシーンなどが描写されていることもあり、PG-12指定されていますね。
なお、私は原作未読・テレビドラマ版未視聴で今作に臨んでいます。
とある一部上場企業の社長・二宮が主催するセレブパーティ。
持ち前のネットワークとコネクションを駆使して二宮を口説くことで、そのセレブパーティに出席した、イベントサークル「BUMPS」の代表である小川純は、セレブパーティに参加している金持ち達に取り入り、自分が主催するイベントで多額の資金を提供してくれるスポンサーを集めることを画策していました。
小川純は、FX長者として成り上がった猪俣なる人物を二宮から紹介されます。
「シャンパンを10分以内に一気飲みして見せたら1000万円出す」という猪俣の挑戦に応じ、見事勝利を勝ち取ってみせる小川純。
シャンパンに2・3滴残されていたことを理由に100万円に値切られはしましたが、それでも小川純は猪俣の名刺を渡され、何とか資金調達のための新たなコネクションを獲得したかに見えました。
ところが、セレブパーティが盛り上がりを見せ始めた中、突如3人の男が会場に現れます。
彼らは会場の雰囲気を無視してズカズカとパーティ会場へ押し入り、猪俣に対し、過去に借金していたことを理由に750万円もの現金を、今すぐこの場で全額支払うよう命じるのでした。
猪俣はFX長者であり億単位のカネを動かせると豪語していましたが、さすがにセレブパーティに参加している席上でそんな大金を、しかも現金で持ち歩いているわけもありません。
猪俣は後日の返済を約束するのですが、男達のリーダー格にしてカウカウファイナンスの社長である丑嶋馨は「借金まみれの奴に明日がくるかどうかなんて分からない、今日返せ」と聞く耳を持とうとしません。
そして丑嶋馨は、猪俣を問答無用の暴力で脅した挙句、「今この場で500万のカネを貸す人間がいたらお前を信用してやる」と宣言するのでした。
猪俣は周囲のパーティ参加者にすがるかのようにカネの催促を行うのですが、丑嶋馨の暴力と雰囲気に圧倒されていた上、求められる金額が金額ということもあり、誰もその要求に応えようとはしませんでした。
結果、猪俣は問答無用で3人の男達に強制連行され、セレブパーティの会場を後にする羽目となったのでした。
しかし、せっかく得られた金ヅルを突然潰されてしまう形になった小川純は、納得できないままに彼らの後を追います。
それに対して丑嶋馨は、「金は奪うか奪われるかだ、お前のように媚びて恵んでもらうものじゃない」と突き離し、猪俣を連行し去っていくのでした。
3つの携帯電話に3000以上ものアドレスを持つ小川純は、その広範なネットワークを駆使して「BUMPS」主催のコンサートを開催し、それを土台にして成り上がるという野望を抱いていました。
ルックスが良く人気が高い「ゴレンジャイ」というダンスユニットを結成させ、女性ファンを中心に集客活動を行っていた彼は、コンサートを行うための会場を借りる交渉を行っている真っ最中でした。
ところがある日、会場主のオーナーが突如、以前からの支払スケジュールを反故にして今日中に会場の賃貸料300万円を全額納めろと小川純に命令してきます。
突然の命令な上、300万円もの大金をイキナリ用意できるわけもなく、また過去に多くの借金を踏み倒してきた前科の数々を抱え込んでいることから、小川純は頭を抱えて悩むことになります。
冒頭のパーティで100万円の資金提供を約束してくれた猪俣も、丑嶋馨に連れ去られて以降は音信不通となってしまい、名刺に書かれていた連絡先も応答がなくなってしまうありさま。
そこへ、小川純の幼馴染である通称ネッシーこと根岸裕太に、違法な闇金業者にカネを借りることを進言されるのでした。
その忠告に従って小川純がカネを借りに行った先は、何と冒頭で猪俣を連行していった丑嶋馨が社長を務めるカウカウファイナンス。
「10日で5割、賭け事の場合は1日3割」などという違法以外の何物でもない超高率な利息でカネを貸すことを説明され、小川純はその条件でカネを借りることになるのですが……。
映画「闇金ウシジマくん」を観賞していて思ったのは、「この主人公、本当に闇金の借金取りを生業にしているのか?」「この作品構成で『闇金』というテーマにこだわる必要があるのか?」というものでしたね。
明らかに「闇金の回収」が目的とは思えない行動が目立ち過ぎです。
特に、FX長者である猪俣を丑嶋馨達が問答無用で脅したてるシーンなどはその典型で、彼らはわざと「自分達に借金の返済が行えない状況」を作り出して借金回収に臨んでいたとしか思えないんですよね。
かつてはその日暮らしにも困窮する生活を送っていたにしても、猪俣はFXで多額の資金を稼ぎ出し、億単位のカネが動かせる生活ができるようにまでなった身分だったはずです。
冒頭のセレブパーティーでも、彼は小川純相手に1000万円もの資金提供を即興で申し出たりしているわけですし。
丑嶋馨が通告してきた750万円の借金返済にしても、あのような場ではなく自宅を強襲したり、カネを銀行等から引き落としたタイミングなどを狙ったりするだけで、彼らはより確実な借金返済を行うことが可能だったはずでしょう。
猪俣の言動自体が全て虚言で、あのセレブパーティーにもわざわざ借金まみれで参加していたなどという事実でもない限り、彼の手元にはFXで稼いだ返済可能な資金が確実にあるはずなのですから。
にもかかわらず、丑嶋馨達があのような「借金取りのセオリー」に反した強硬手段を、それも衆人環視の場でやってのけたということは、つまるところ彼らの本当の目的は「借金取り」ではない、ということにもなりかねないでしょう。
作中の描写を見る限りでは、借金返済を怠った人間に対して制裁を科し、全財産を没収した上で身元不明の状態にして人知れず殺害する、というのが彼らの本当の目的だったとしか思えないところなんですよね。
750万円というのは確かに大金ではあるでしょうが、億単位のカネを持つ人間相手に暴力を振るって強制連行してまで回収すべき金額であるとは到底考えられないのですし。
また、彼らは一部上場企業の社長が主催するセレブパーティー、という衆人環視の目がある中で猪俣を脅しつけ強制連行まで行っているわけですが、その行為によって、セレブパーティーを主催したあの社長は、結果的に自分の顔を潰される羽目になったわけですよね。
作中では丑嶋馨達の暴力の前に事なかれ主義な対応を決めざるをえなかったにしても、あのまま黙って大人しく泣き寝入りを決め込むなんて、あの社長的には到底ありえない対応であるはずなのですが。
猪俣という上客を連れ去られた上、自分が主催するセレブパーティーの眼前で繰り広げられた犯罪行為を黙認したとなれば、自分自身どころか、下手すれば会社の信用問題にまで直結する事態にも発展しかねないのですから。
あの場には猪俣や小川純以外にも多くのパーティー参加者がいて、状況証拠や目撃情報にも事欠かないわけですし。
物語中盤で、借金取り行為で被害届を出され、前科がつくどころか起訴されることにすら危機感を持って対処していた丑嶋馨が、あの公衆の面前でやらかした犯罪行為の数々に無頓着だったというのはおかしいでしょう。
不法侵入と器物破損だけでも、丑嶋馨達が訴えられるのに充分な訴追事由となりえるわけですし、そこから闇金問題にガサ入れされてしまう可能性は濃厚にあるのですから。
後から示談金を支払って解決する問題とは思えませんし、仮にそんな解決法に頼ったとしても、その示談金の金額は猪俣の借金請求額よりも多いものとなりかねないでしょう。
闇金の借金取りが本職であるはずの彼らのあの場での行動は、しかし借金取りとしては完全無欠の失格以外の何物でもありません。
だから私は、「そもそも彼らは本当に借金取りを生業にしていたのか?」という疑問すら抱かざるをえなかったんですよね。
彼らの行動は、むしろ一昔前の時代劇で散々披露されていた悪代官や悪徳商人を成敗する勧善懲悪主人公のそれを連想させるものすらありますし。
作中における彼らの行動を見る限り、「闇金ウシジマくん」というよりも「制裁ウシジマくん」の方が、彼らの実情に正しく沿っている作品タイトルなのではないかと思えてならないのですけどね、私は。
あと、物語中盤で小川純がカウカウファイナンスに対する被害届攻勢をかけていた際、被害届を取り下げるのと引き換えに250万円ものカネをカウカウファイナンス関係者から引き出させることに成功しているのですが、何故その後小川純はバカ正直に被害届を取り下げてしまったのでしょうか?
丑嶋馨をはじめとするカウカウファイナンスの手口を、小川純は物語冒頭から実地で目の当たりにさせられていたはずですし、彼らを警察から自由にすれば、いずれ自分に対して借金回収と報復の手が及ぶことくらい、冒頭の手口からいくらでも察することが可能なはずでしょう。
また、小川純が被害届を取り下げることなく、カウカウファイナンスが警察の手によって壊滅させられれば、小川純はカウカウファイナンスからせしめた250万円をそのまま自分のものにしてしまうことも可能なのです。
となれば小川純は、250万円をせしめた後に約束を反故にし、警察の手でカウカウファイナンスを壊滅に追いやることこそが、あの場における唯一の選択肢であるべきだったのではないのかと。
司令塔である丑嶋馨がいない状態では、さしものカウカウファイナンスといえども十全の実力を発揮することはできないでしょうし。
元々被害届を出して喧嘩を売った時点で、カウカウファイナンス側の怒りと憎悪は確実に買っている上、当の小川純自身、冒頭の猪俣の件もあってカウカウファイナンスを「あんな悪党は滅びて当然」とまで考えていたくらいなのですから、被害届を取り下げるべき理由などどこにもないといっても過言ではないのですが。
というか、カウカウファイナンスを壊滅に追い込むことで目先の250万円を自分のものにする、というだけでも、カウカウファイナンスに被害届を出した小川純の目的は充分に達成できていたはずでしょうに。
出さなくても良い変な温情を出して被害届を取り下げてしまったばっかりに、彼は見事に身の破滅を招くことになったわけなのですから、妙なところで甘いよなぁとつくづく思わずにはいられなかったですね(-_-;;)。
小川純の幼馴染として登場する鈴木美來がラストで若干明るい展望だった以外は、軒並み暗いストーリーのオンパレードでしたね、今作は。
その鈴木美來にしても、母親の性格が最悪な上、丑嶋馨には母親の借金の取り立てを情け容赦なく求められ、小川純からは「ウリ(売春)をやって金を稼いでくれ」などと迫られたりと、不幸な目に遭いまくっているわけですが。
人間の負の部分を描くダークな展開を売りにしているという点では、映画「スマグラー おまえの未来を運べ」にも通じるものがあります。
内容が内容だけに、観る人を選別しそうな映画と言えるでしょうね。
宮嵜
たしかに、そうですね
私も非常に、暗いイメージのストーリーだと、思います、