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版権の出版社移転事情に見る田中芳樹の欺瞞な実態

久々に「らいとすたっふ」社長氏のツイートから。

http://twitter.com/adachi_hiro/status/251804630747582465
<(1/5)ずいぶん前のことになるけど、田中さんがとある出版社から自作をすべて引き上げたことがある。理由は、その出版社のトップが「今後は新人発掘、育成よりも、現在活躍している作家に作品を書いてもらい、それを大々的に売ることで収益を上げていきたい」と言ったから。>

http://twitter.com/adachi_hiro/status/251804744203501568
<(2/5)田中さんいわく、「自分はデビュー当時、まったく売れなかった。でも、そのとき売れていたほかの作家さんの収益があったおかげで、出版社も自分の作品を出し続けてくれた。幸い、いま自分の作品は売れている。ならば、なぜ自分の作品であがった収益で、新人の作品を出してくれないのだ」と。>

http://twitter.com/adachi_hiro/status/251804781478281217
<(3/5)ふだんは超のんびりの田中さんだけど、このときの行動は早かった。秘書の私に版権引き上げの通達文を作らせ、自ら作品の移籍先を探してきた。出版社を変えるのは作家側のわがままだけど、そのせいで入手困難な作品を出してしまっては読者に申し訳ない、ということだった。>

http://twitter.com/adachi_hiro/status/251804821915566080
<(4/5)なにが言いたいかというと、出版社は「売れていない作品を切る」だけが能じゃないでしょ。と思うのだ。雑誌、編集部、事業部、全社。どこまで範囲を広げるかは、さまざまなケースがあると思うけど、トータルで黒字ならいいじゃない。というくらいの懐の広さが欲しい、ということ。

http://twitter.com/adachi_hiro/status/251805140368117760
<(5/5)ちなみに、うちの会社は作家のマネージメントをやっているけど、管理料率は破格に安い(はず)。それも田中さんの「新人さんのために使う金は、田中作品の運用で得られた金で賄って良い」という考えによる。遅筆だし、外見ださいし、偏屈親父だけど、うちの親分は本当にかっこいいと思う。>

文章だけを読めば、いかにも立派なことをのたまっているようなエピソードであるかのごとく見えます。
しかし、その「新人さんのために使う金は、田中作品の運用で得られた金で賄って良い」の実態が、己の作品の再販乱発を繰り返したり、パチンコに己の作品を売り渡したりといった惨状を呈しているのは正直どうなのかと。
他の新人作家達のために【自ら積極的に新刊を執筆し売上を獲得していく】、というのであれば完全無欠の美談でしたし、せめて政治家や企業の金儲け至上主義的な考え方をあれほどまでにボロクソに論うことなく「カネ儲けに手段を選ぶ必要はない、何事かを成し遂げるためにはまずはカネだ!」的な主張でも開陳するのであれば、すくなくとも主義主張の一貫性くらいは認めることができたはずなのですが……。
田中芳樹が散々なまでに罵倒しまくっている企業や政治家や官僚にしたところで、自分以外の他者のために、なりふり構わぬ金儲けや老後の天下り確保などに走っているという側面は、多かれ少なかれ確実にあるのですけどね。
「自分の家族を養うため」から「社員や同僚の生活を守るため」といったものまで、その手の目的は色々とあるでしょうし。
新人作家を1人前にするためならば、片手間の再販乱発で読者からカネを巻き上げたり、自身で批判していたはずのパチンコに己の作品を売りとばしたりしても良いというのでしょうかね。
それでは結局、すくなくとも合法的な範囲内で金儲けや天下りに精を出している政治家や官僚・企業などを批判することはできないのではないかと思うのですが。

それに田中芳樹にソデにされた出版社は出版社で、自社の経営を維持したり社員を食べさせたりしていかなくてはならない、という事情もあるでしょう。
そりゃ出版社だって、できることならば新人をベストセラー作家レベルまで育成して、長期的な利益が確保したいでしょう。
しかし、バブル崩壊後の長きにわたる不況に出版業界特有の問題から来る「本が売れない」問題は、そういった「経済的・心理的な余裕」を出版社から根こそぎ奪ってしまっています。
出版社に限らず、昨今の企業にとっては「明日の不確実な利益」よりも「目先の確実な利益」の方が、自分達の生き残り戦略から見ても重要なのです。
もちろん、そのような目先の利益に固執したやり方は、短期的には何とかなっても長期的には確実に行き詰る手法でしかないのですが、彼らとて背に腹は代えられないのです。
会社が潰れてしまえば、新人作家の育成どころか、下手すれば自分達自身が路頭に迷うことにすらもなりかねないのですから。
だからこそ、企業は熟練社員の給与カットやクビ切り、さらには新人社員の雇用抑制などといったリストラ策を延々と実行していかざるをえない問題もあったりするわけで。
田中芳樹は、「自分の信念」という名のワガママによって出版社の減収をもたらし、さらには出版社の社員や、今後新人作家を育成していくべき立場にあったであろう編集者達を窮地に追い込んでいたかもしれないのですが、その辺りのことは考えたことはないのでしょうかね?
前述の再販乱発&パチンコの件と併せ、どうにも中途半端かつ青臭い動機と結果になっている感が否めないところなのですが……。

ただ一方で、田中芳樹や社長氏らの言うがごとく、「売れないからと言って無条件に切るべきではない」という考えも分からなくはありません。
新人作家にも生活があるのですし、また経済的な余裕をもって作品を執筆することでベストセラーを生み出す可能性も否定はできないのですから。
一種の「教育費」となるであろう新人作家の育成にかかる手間と費用をケチり、既存の「完成品」のみを使って売上至上主義的な商売をする出版社に対し、「何て奴らだ」「文化を育成するという視点はないのか」と憤るのは、まああの面々の思想的傾向から考えても当然と言えば当然なわけで。
しかし、田中芳樹はかつて薬師寺シリーズでこんなことを述べていたりしていたはずなんですよね↓

薬師寺シリーズ2巻「東京ナイトメア」 講談社ノベルズ版P60上段~P61下段
<「西太平洋」ということばで、私は思わず涼子の顔を見た。涼子がみじかく説明する。
「石油開発公団から融資を受けてる会社よ」
「石油開発公団から資金を借りるのは、いくつかの石油探査会社なんだけど、この会社そのものが、公団からの出資でつくられたものなの。社長以下、役員すべてが天下リ」
 そうつけくわえたのはジャッキーさんだ。女ことばそのままだが、きびきびした説明ぶりが、何とも奇妙な感じだった。
「しかも、石油が出なかったら、公団から借りた資金は一円も返さなくていいのよ」
「……まさか」
「あら、ほんとよ。
何千億円借りていようと、石油が出なかったら一円も返さなくていいの。法律でもちゃんとそうなってるの」
 ジャッキーさんは、むずかしい表情になり、トルコ石らしい指輪をはめた太い指で書類をめくった。
「この西太平洋石油開発とかいう会社は、公団から四〇〇〇億円ほど借りてるのね。でもって、石油は一滴も出てないから、もちろん一円も返さなくていい。まじめに働いて石油が出たら借金を返さなくちゃならないんだから、何もしないで遊んでいるほうが得なわけよね。よくもつごうのいいこと考えたもんね」
「何にいくら費ったと思う?」
「さあね、でも、仮に半分しか本来の目的――油田を発見するために費っていないとすれば、二〇〇〇億円がどこかヤミに消えたってことだわね」
 これが先進国のできごとだろうか。私は頭痛がしてきた。
国民が支払う税を、役人が好きかってに浪費して、罰せられることがない。そういう国を後進国というのではないだろうか。

石油の採掘だって、新人作家の育成と共通する部分は結構あったりするのですけどね。
新人作家を養い得るだけのベストセラー作家が出てくる確率が1%あるかどうかの新人作家の育成と、莫大なカネと手間を費やす中で商業ベース運用しえるものがこれまた1%あるかどうかの石油採掘は、どちらも「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」の論理にならざるをえないのですし、「投資」するカネと手間の多くが【無駄】になることを前提としているものなのですから。
新人作家の育成にしても、愚劣な編集者が経費を私的に流用したり着服したりするケースもゼロではありえないでしょうし、また真面目にやっていても教え方が下手だったりモノにならなかったりで徒労だけで終わるケースだっていくらでもあるものでしょう。
教育や投資というのは、どちらも「少なからぬ無駄金と手間」が発生し、かつその多くがモノにならないことが少なくなく、しかしたったひとつの成功が全ての赤字をひっくり返すだけの価値を持つものなのです。
しかも石油採掘の場合は、単なる利益だけでなくエネルギー安全保障や国民生活にも関わってくるものなのですから、究極的には「国民にエネルギーが供給され社会活動と国民生活が潤うのであれば、石油採掘自体が赤字でも【トータルで黒字】になる」というところまで行くのです。
だからこそ、「石油採掘に失敗しても国にカネを返さなくても良い」というルールだって出てくるのですけどね。
桁外れの費用と99%の失敗を前提とする石油採掘は、元々「利潤」を重視しなければならない民間企業では不向きなのですし。
ところが田中芳樹は、新人作家の育成については「新人という【無駄】があってもいいじゃないか、その育成もせず利益に走るとは何と狭量な」と出版社と決別しておきながら、それと似た性質を持つ石油採掘に関しては、「そんなものは無駄だからやめろ」とまさに自分が批判してやまない出版社と全く同じことを主張しているわけです(苦笑)。
それとも、田中芳樹がこだわる「新人作家の育成」という行為は、件の石油採掘と同じく「後進国」の所業だったりするのでしょうかねぇ(爆)。
まあ、再販乱発とパチンコ売り飛ばしが「後進国」の所業でしかないのは確実なのですが(笑)。

如何にも「美談」風に語られている件のエピソードは、しかしその意図に反して田中芳樹の狭量とダブスタぶりを露呈してしまっただけなのではないですかね?
自身の作品を自分で愚弄する行為の数々を披露したり、作品内における政治・社会批判をくっちゃべったりさえしていなければ、そういう惨状を呈することもなかったのに、とはつくづく思わざるをえないですね(T_T)。

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