映画「黄金を抱いて翔べ」感想
映画「黄金を抱いて翔べ」観に行ってきました。
大阪のメガバンクにある240億円相当の金塊の強奪を画策する男達の物語を、妻夫木聡を主演に、浅野忠信・西田敏行などの豪華キャストで彩る、高村薫の同名サスペンス小説を原作とするクライム・アクション作品。
今作は、内容的に見る限りではR-15指定されてもおかしくないレベルのバイオレンス&セックス絡みの描写がてんこ盛りなのですが、何故かR-15どころかPG-12指定すらも全く為されていませんね。
前回の「のぼうの城」といい今作といい、この手の規制って一体何を基準に決められているのか、何度考えても疑問が尽きないのですけど…。
物語は、 今作の主人公である幸田弘之の「俺は人のいない土地を探して……」云々のモノローグとビルの間を移動する風景が短時間披露された後、ハングルと思しき外国語を話す2人の男が出会い、喫茶店で会話をしているシーンから始まります。
2人は兄弟の関係にあったらしいのですが、喫茶店から場面が変わった後、弟が兄を銃で撃ち殺すという顛末に至っています。
これらの描写は当然のごとく後々のストーリーと絡んでくることになるのですが、ここで観客の視点はようやくストーリー本筋へと入ることになります。
諸事情あって離れていた生まれ故郷である大阪の街へ20数年ぶりに戻ってきた幸田弘之に、彼の大学時代からの親友で運送会社のトラック運転手をしている北川浩二が接触してきます。
北川浩二は幸田弘之に対し、仮の仕事場と住居を提供すると同時に、とある遠大な計画に参加するよう促します。
その計画とは、大阪にある巨大メガバンクの地下にあるとされる、総額240億円にも上ると言われる金塊を強奪するというもの。
北川浩二は幸田弘之との再会の前に、外車ショーで知り合ったらしい野田という人物を既に仲間に引き入れていました。
彼は件の銀行を担当するシステムエンジニアで、数千万単位の借金を抱え込んでいました。
3人は計画について活発にやり取りを続けていましたが、計画を練るに従い、計画に必要な専門家がまだ必要であるとの結論に達します。
具体的には、銀行内部の地図や内部事情に精通した人間と、陽動作戦や金庫の爆破等に使用する爆弾を製造するエキスパートが。
前者は野田がツテを当たり、かつて銀行のエレベーターの保守管理を担っており、現在は公園清掃員の仕事に従事している斉藤順三なる老人を担ぎ出します。
そして後者は、北川浩二に斡旋された住居の近くに住んでいた朝鮮人のチョウ・リョファンを、幸田弘之が見出すことで確保することになります。
さらに、北川浩二の弟でギャンブル依存症の北川春樹が金塊強奪計画を察知し、北川浩二と幸田弘之は、成り行き上しかたなく彼も仲間に組み入れることに。
かくして、6人の男による大胆不敵な犯行計画が準備されることなったわけなのですが……。
映画「黄金を抱いて翔べ」は、その名だたる顔ぶれが揃った豪華キャストの割には、宣伝も知名度も今ひとつな感のある映画ですね。
浅野忠信・西田敏行なんて、私でさえ名前を知っていて多くの映画やテレビで少なからず顔を見かけるクラスの俳優なのですが。
バイオレンス要素満載な作品であることが、映画の前評に陰を落としていたりでもするのでしょうか?
物語後半では、浅野忠信が演じる北川浩二が、奥さんの北川圭子とおもむろに着衣セックスをする描写までありましたし。
映画「終の信託」でも浅野忠信はそんな役どころを演じていましたが、「マイティ・ソー」や「バトルシップ」などで好漢なキャラクターぶりを披露していた経緯を見てからそれらの描写を見ると、何とも多大な違和感が拭えないところで(^^;;)。
ただその割には、前述のように今作がR-15にもPG-12にも指定されていないのは何とも奇妙な話ではあるのですが……。
今作の大きな特徴は、金塊強奪計画の準備だけでストーリーの7割以上を占めており、かつその準備過程の中で計画とは全く関係のない組織が主人公達にちょっかいを出してきたり、その過程で計画の構成員達が死を余儀なくされたりしているところですね。
面白いのは、それらの組織は別に主人公達の金塊強奪計画を察知した上で計画の妨害を図っているのではなく、あくまでも自分達の利害から主人公達に関与したり襲撃したりしている、という点です。
特にチョウ・リョファン関連では、彼を抹殺すべく北朝鮮系の組織までもが動いており、彼を巡って斉藤順三が情報を売ったり、複数の組織が金目当てに襲撃を画策したりと、彼を味方に引き入れたことによるリスクの発生が半端なものではありませんでした。
北川浩二らにしてみれば、彼が持つ爆弾製造の知識は計画遂行に当たって何としても必要なものではあったのでしょうが、それで多大なリスクを抱え込んだ辺り、果たして彼を引き込んだのは正しいことだったのかと、観客から見てさえも疑問を抱かずにはいられなかったですね。
特に幸田弘之の場合は、そのために自ら重傷を負い、計画遂行に多大な支障をきたすことにまでなってしまったわけですし。
また、北川浩二の弟である北川春樹もまた、ギャンブル絡みで別の組織とトラブルを引き起こしており、そのトバッチリを食らう形で北川浩二の妻と子供が犠牲となっています。
結果、計画の準備が完了するまでに2人が死ぬ形で脱落、さらには幸田弘之が重傷を負うという、コンディションとしては最悪もいいところ、しかも日程の都合で計画の延期も不可能な状態で、彼らは計画の遂行を余儀なくされてしまうことになるわけです。
大規模な犯罪行為を行おうとしているのですから当然リスクはつきものではあるのでしょうが、金塊強奪計画とは元来全く関係ないはずの別件な抗争に巻き込まれる形で計画遂行に支障をきたす羽目になるというのでは、トラブルを持ち込んだ当人はともかく、トバッチリを受けた当事者達は正直たまったものではなかったでしょうね。
作品的に見ても、本筋とは全く関係のない話にあちこち飛び火しまくっていて、話が拡散しすぎている感がどうにも否めなかったところでしたし。
本件であるはずの金塊強奪計画の方が、その準備よりもはるかに「楽」な作業であったようにすら見えてしまったのは、果たして私の気のせいなのでしょうか(^^;;)。
そちらにしても、少なからぬ失敗や行き当たりばったり的なアクシデントが多々あったりしたのですが……。
R-15系的なバイオレンス要素が前面に出ている映画ではありますが、全体的には人間ドラマを重視した作品、ということになるでしょうか。