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映画「北のカナリアたち」感想

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映画「北のカナリアたち」観に行ってきました。
湊かなえの短編集「往復書簡」に収録されている短編小説のひとつ「二十年後の宿題」を原作とする、吉永小百合主演のヒューマン・サスペンス作品。

今作の冒頭では、雪が降り注ぐ離島でキャリーバッグを引き摺りながら移動している女性の姿が映し出されます。
彼女の名前は北島はるといい、離島にある小学校で教師をしていました。
しかし、島でとある事件が起こったことをきっかけに悪い噂が流れたことから、彼女は島民から避けられるようになってしまい、結果的に島を離れなくてはならなくなってしまいました。
ただひとり港へと向かう北島はるの前方に、彼女の教え子のひとりだった鈴木信人が姿を現します。
自分を見送りに来てくれたのかと思ったのであろう北島はるは、「のぶちゃん!」と鈴木信人へ歩み寄ろうとするのですが、当の鈴木信人はそばにあった石を拾い、北島はるに目がけて投げつけます。
石は狙い違わず北島はるの頭に命中。
額から血を流し、半ば呆然とする北島はるを尻目に、鈴木信人は謝罪の言葉もなくその場から足早に去っていくのでした。

それから20年後。
島を離れて以来、東京の国会図書館で勤続していた北島はるは、定年退職の時を迎えていました。
職場の人に「今までお疲れ様でした」と見送られ、自宅へと戻ってきた北島はるでしたが、そこへ警察の人間2人が彼女を訪ねてきます。
警察が彼女の元を訪ねてきた理由は、彼女のかつての教え子で、冒頭のシーンで石を投げつけてきた鈴木信人に絡むものでした。
鈴木信人は殺人事件を起こして行方を眩ましており、しかも彼の家には北島はるの現住所と連絡先が書かれていた紙が貼られていたというのです。
当然警察は「鈴木信人から何か連絡がありましたか?」と質問してくるのですが、北島はるは「20年前に島を離れて以来、連絡は取っていない」と返答。
関わりがあったのが20年も前ということもあってか、警察もそれ以上北島はるを疑うこともなく、部屋に置かれていた草津温泉のパンフレットを見て「旅行へ行くんですかぁ」などと雑談に興じたりしていました。
一応、去り際には「もし鈴木信人から連絡があったら、私の元へご連絡を」と連絡先の名刺を渡してはいましたが。
しかし、これをきっかけとして北島はるは、かつての教え子達6人の元をひとりひとり訪ねるべく、単身北海道へと向かうことになります。
まずは6人の中で唯一結婚し姓を変えている、戸田(旧姓:酒井)真奈美の元を訪ねることになるのですが……。

映画「北のカナリアたち」は、主演である吉永小百合をはじめとする豪華キャストもさることながら、3100人のオーディションから選抜されたという子役のチョイスもなかなかのものがありますね。
公式サイトのINTRODUCTIONページによると、この子役達は「天使の歌声を持っているか否か」で選定されたようなのですが、成人後の役を担う俳優さん達と比較しても、幼少時の面影や背格好などの構図がそのまま被せられるようなチョイスになっています。
おかげで物語のラストにおける旧小学校で全員が一堂に会した際も、幼少時と成人後の組み合わせが分からなくなるということは全くなかったですね。
この辺りの作りこみはなかなかに上手いのではないかと思いました。
また、ストーリーが進行するにつれて、20年前の事件の全貌や、当時における登場人物達の心情が少しずつ明らかになっていく構成になっており、その過程も丁寧に描かれているため、人間ドラマとしてのみならずミステリー的な視点でも楽しむことができます。
ラストで6人全員が一堂に会するシーンは、ややご都合主義的な展開であってもやはり感動的なものではありますし。
さらには、実はその演出自体が北島はるが最初から画策していたものだった、などというオマケまでつきますし。
物語序盤における警察とのやり取りで出てきた「鈴木信人とは連絡を取っていない」云々自体が実は全くのウソだった、という展開は、あの冒頭の石投げシーンも相まって最初の時点で気づけるものではなかったですからねぇ(苦笑)。
この辺り、本当に展開の仕方が上手く、私も見事に騙されてしまいました(T_T)。

今作における主人公である北島はるという人物は、良くも悪くも「自分よりも他人のことを優先に考える」人間ですね。
病で余命半年の夫・北島行夫のために北海道の離島へとやってきたり、自殺しようとしていた警官・阿部英輔を不倫の噂を流されてまで無理にでも引き留めようとしたり。
彼女にしてみれば、相手が自ら死の道を歩もうとしていることが我慢ならなかったのでしょうし、そんな道を選ぶことなく幸せになって欲しかったというのが本音であったのでしょう。
ただ彼女の場合、特に20年前はそれが完全に空回りしていて、結果的に周囲の人間を却って不幸にしていた感が多々ありますね。
彼女が6人の生徒達に歌を教えていた件などはまさにその典型で、アレのために6人の生徒達は内部分裂を引き起こした上、それを改善するために主催したバーベキューで北島行夫が死んでしまった上、北島はるの不倫話が村中に広がってしまったことで、生徒達の心の傷が修復不能までに悪化してしまったのですから。
自分のやることなすことがことごとく最悪の方向へと転がっていく様を見て、当時の彼女はさぞかし絶望せざるをえなかったのではないかなぁ、とつくづく思わずにはいられなかったですね。
下手すれば、それこそ彼女自身が自殺してもおかしくはなかったでしょうし。
しかし、それでも6人の生徒達にとっての北島はるは、やはりなくてはならない存在であったし、彼女と別れる羽目になった後もそれは変わらなかったのでしょう。
彼らは全員、自分達の家族に少なからぬ問題を抱え込んでおり、自分のことを真剣に見てくれる者は北島はるを除き誰もいなかったわけなのですから。
作中のごとき不幸な事件があってもなお北島はるが6人の生徒達から慕われていた理由は、彼女が初めて自分達と真剣に向き合ってくれる「本当の母親」のごとき存在だったからでしょう。
ただ、それでも北島はると出会ったことが6人の生徒達にとって本当に良かったことなのか否かは、物語の全体像を見ると結構疑問に思わざるをえない部分も多々あったりするのですが。
幼少時の心の傷を20年間も抱え込んで生きていかなくてはならなかった、という事実は、その後の人生に間違いなく多大な負の影響を与えるものとなりえるのですからねぇ。
もしあの6人の生徒達が、北島はると出会うことのない幼少期を過ごしていたら一体どのような人生を歩むことになっていたのか、というIF話は少々興味をそそられるところです。

あと、物語とは全く関係ないのですが、今作で北島行夫を演じていた柴田恭兵って、映画「エイトレンジャー」に出演していた舘ひろし共々、すっかり人間が丸くなった役柄が似合うようになってしまったのだなぁ、と往年の「あぶない刑事」ファンとしては考えずにいられなかったですね。
個人的にはあちらのキャラクター像の方が好きなのですけど、今作や「エイトレンジャー」のような描写のされ方も似合っていた辺り、2人ともすっかり年を取ってしまったのだなぁ、と。
年月の経過や人の老いというのはこういうところにも表れるものなのか、とついつい考えてしまったものでした(T_T)。

感動的かつハッピーエンドな人間ドラマが見たいという方はオススメな作品ですね。
あと、ミステリー好きな人も意外にその面白さを感じられるところがあるかもしれません。

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