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テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」 第7話感想

全10話放送予定のTBS系列の金曜ドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」。
今回は2012年11月23日放映分の第7話感想です。
前回第6話の視聴率は9.0%。
前回は諸般の事情でいつもより1時間遅い23時からの放映となっていたはずなのですが、その割にはやや前進したと言える視聴率ではありましたね。
放映が遅くなったことが逆に幸いした要素でもあったりしたのでしょうか?
なお、過去の「大奥」に関する記事はこちらとなります↓

前作映画「大奥」について
映画「大奥」感想&疑問
実写映画版とコミック版1巻の「大奥」比較検証&感想

原作版「大奥」の問題点
コミック版「大奥」検証考察1 【史実に反する「赤面疱瘡」の人口激減】
コミック版「大奥」検証考察2 【徳川分家の存在を黙殺する春日局の専横】
コミック版「大奥」検証考察3 【国内情報が流出する「鎖国」体制の大穴】
コミック版「大奥」検証考察4 【支離滅裂な慣習が満載の男性版「大奥」】
コミック版「大奥」検証考察5 【歴史考証すら蹂躙する一夫多妻制否定論】
コミック版「大奥」検証考察6 【「生類憐みの令」をも凌駕する綱吉の暴政】
コミック版「大奥」検証考察7 【不当に抑圧されている男性の社会的地位】
コミック版「大奥」検証考察8 【国家的な破滅をもたらす婚姻制度の崩壊】
コミック版「大奥」検証考察9 【大奥システム的にありえない江島生島事件】
コミック版「大奥」検証考察10 【現代的価値観に呪縛された吉宗の思考回路】
コミック版「大奥」検証考察11 【排除の論理が蠢く職業的男性差別の非合理】

テレビドラマ「大奥 ~誕生~ 有功・家光篇」
第1話感想  第2話感想  第3話感想  第4話感想  第5話感想  第6話感想

第7話のストーリーは、原作3巻のP128~P196までの内容を担っています。
女版家光がお忍びで江戸城の外を見回る女版家光の描写から始まり、春日局が病で倒れ江戸城内に赤面疱瘡が蔓延したとの村瀬正資の報告を受けて有功がテキパキと指示を出すまでの物語となります。
今話のオリジナルエピソードは以下の通り↓

・玉栄が前髪を落とされるシーン。
・女版家光と寝る直前に「有功との今後の関係」を心配する玉栄と、その心配はないと諭す女版家光。
・お夏の方の悪罵に対し、正面切って言い返す有功(原作では5巻P115における桂昌院の回想シーン、有功は何も言い返さず「ええのや」と受け入れただけ)。
・「玉栄は私の分身」と主張し、「(玉栄が天下人の父親になるという隆光の言について)そうなった方が良いのか?」という女版家光の問いに対し「はい」と答える有功(原作では何も返答しない)。
・八朔の儀に臨んだ後、赤面疱瘡の初期症状を見せる稲葉正則(ラストシーンで完全な赤面疱瘡に)。
・世継問題で「武士の頂点に立つ将軍が女でも構わぬと言うのか!」と激怒する春日局に対し、正面から女版家光を擁護する稲葉正勝。
・春日局の薬断ちの理由が「家光の赤面疱瘡」になっている(原作では「家光の疱瘡」)。
・春日局に関する女版家光と有功との会話。

稲葉正則については、息子か嫁の雪と対立した春日局が冷酷に放った刺客によって一族郎党皆殺しにされるか、赤面疱瘡で死ぬかのいずれかの末路を辿ることになるだろうと当初から予想していたのですが、どうやら後者の線で落ち着いたみたいですね。
作中の稲葉正則には妹がいたので、その死後は妹が稲葉正則を名乗るか、あるいは全く別の男名を名乗るかして、稲葉家を相続するというシナリオになりそうではありますが。

また、春日局の薬断ちの理由が「家光の赤面疱瘡」というのは少々無理がありますね。
ここは原作では「家光の疱瘡」になっていて、原作の2巻で「家光様は以前に疱瘡を患った際には快癒された。疱瘡は一度かかったら二度とかからぬのに、何故赤面疱瘡にかかるのだ!」とお匙を問い詰めるシーンがあったりします。
疱瘡の回復祈願が効いたからこそ薬断ちの誓いを守り続けている、ということになるわけです。
しかし、春日局の願掛け対象が「家光の赤面疱瘡」ということになると、そもそも春日局の願掛けは全く効を奏していなかったことになるのですから、春日局が誓いを守るべき理由自体がそもそも全く成立しえないことになってしまうのですが。
テレビドラマ版では、原作にあったお匙と春日局のやり取りがないため、疱瘡を赤面疱瘡に変更したのでしょうが、全く報われていない願掛けに固執する意味なんて、春日局の主観的に見てさえも果たして存在しえたのかと。

それと、今回個人的に注目していた「ハーレム否定」と「女系相続肯定論の高まり」については、あえて原作のような詳細な説明を避けた感がありありでしたね。
原作では「家の相続のため」「婚姻で大名家の勢力が拡大する」などとモノローグでのたまいまくったのが災いして、武家諸法度などを根拠に盛大なツッコミを私は入れていたりしたものだったのですが(苦笑)。
今回の話では、後継者問題に悩んでいた6人衆の面々達が、短絡的な自己&自家保身目的に女系相続を主張していたような描写になっていて、こちらは意外な説得力を醸し出していました。
何しろ、ひそかに娘に男名を名乗らせて江戸城内に参内させていることがあの時点で露見しようものならば、彼らが打ち首になるのはもちろんのこと、お家断絶の沙汰が当然のごとく下るのは避けられないわけですからねぇ。
かかっているのは自分の生命と自家の命運なのですから、そりゃ春日局の反対を押し切ってでも女系相続の正当性を訴えようとするでしょうね、彼らの立場的には。
もちろん、実際には春日局の発言の方に明確な理と利があるのであって、彼らの判断が目先に固執した浅ましく愚劣な発想であることに変わりはないのですが、彼らがそういう判断を下した背景自体は、愚かであるなりに理解はできるものとなっています。
武家や大名達個人の自己保身が、ああまで愚劣極まりない世界を作り出していったのか、現代も江戸時代も、責任追及を回避したがる人間がやることに何も変わりはないのだなぁ、と。
この辺りの展開は、現代にも通じる「事なかれ主義」「官僚的な自己保身」を想起させるものがあって、別の意味で笑えてくるものがありましたね。
ただまあ、たかだか自己保身程度の発想から、あそこまで大々的な、それも将来に多大な禍根を残しかねない欠陥だらけの社会システムの大変革を遂げさせるというのは、「赤面疱瘡には、人間の思考回路を著しく低下させ、しかもそれを自覚させない症状でも別にあったりするのか?」と皮肉のひとつも言いたくなるところではあったのですが。

あと、前話まではやたらと強気で無意味なまでにサディスティックな悪役ぶりを披露していたはずの春日局で、今作では何故かえらく弱気な惨状を呈していましたね。
特に、菊見の準備をしていたことを咎められた有功が堂々と反論してきたのに返答に窮したシーンでは、原作もそうだったとはいえ違和感を覚えずにはいられないところでした。
今までのサディスティックな春日局であれば、有功の反論に対し「殺りや!」の一言で返し、澤村伝右衛門辺りにその場で有功を始末させてお終いだったのではなかったのかと。
そもそも、有功を「種なし」と見做して女版家光との離縁まで迫っていた春日局が、わざわざ有功を生かしておかなければならない理由自体がないに等しいでしょう。
元々強制的に拉致した身でもあったのですし、用無しになれば即座に殺されるというのは政治の世界では常識なのですから。
有功を殺しておけば、女版家光に対しても「お前の命運は私の手に握られている」「これ以上私に逆らったらどうなるか、分かっているな?」という警告ないしは抑止にも使用できたのですからなおのこと。
にもかかわらず、女版家光をあそこまで自由にさせ、有功に至っては決して少なくない俸給まで与えていたというのですから驚きです。
一面では「目的のためには手段を選ばないマキャベリスト」的に描かれているかと思えば、別の場面では変に自由を許して造反されてしまったりと、どうにも中途半端な人格を持たされてしまっている感が多々ありますね、春日局は。
元々原作でもその傾向はあったのですが、テレビドラマ版ではなまじサディスティックな面が強調されているために、さらにそんなチグハグなイメージが強くなってしまっているのではないかと。

来週の第8話でいよいよ春日局は死ぬことになるようなのですが、春日局に纏わるこれらの矛盾は果たして整合されることになるのでしょうかねぇ。
あと、稲葉正則の死後における稲葉家がその後どうなるのか、そして原作とは大幅に異なる設定を持つ稲葉正勝の動向についてもいささか気になるところです。

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