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映画「カラスの親指」感想

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映画「カラスの親指」観に行ってきました。
道尾秀介の同名小説を実写化した、阿部寛と村上ショージが主演を担う人間ドラマ作品。

物語最初の舞台は競馬場。
競馬場の馬券売り場で、あからさまに初心者な風体の長身な男がひとり、何の馬券を買うべきか迷う様子を見せていました。
そんな男に近づき声をかける、こちらは小柄な男。
彼は自己紹介の後、「この馬券を買うといいよ」ととある馬券を勧め、その場を後にします。
そんな2人の様子を後ろから眺めていた、ユースケ・サンタマリアが扮する優男。
競馬場のレース結果はどうやら小柄な男の忠告通りの内容になったらしく、競馬場の客席で喜ぶ長身の男の前に、優男は注意を呼び掛けます。
実は先の小柄な男の言動は詐欺の一環であり、このまま換金所へ行けばさっきの男がやってきて分け前を求めてくることになると。
その優男によれば、小柄な男の詐欺の手法は、あらかじめ全ての馬券を複数の人間にひとつずつ教え、当たった人間をターゲットにしてカネをせびるというものなのだそうで。
そんなことになっては面倒だから、その当たり馬券は俺が買おうと優男は申し出てきます。
もちろん、そんな優男の親切ぶりには当然のごとく理由がありました。
優男は、長身の男が持っていた馬券が実は配当金400倍以上もの当たり馬券であることを知っており、長身の男の無知ぶりに乗じて、本来の配当金の10分の1以下の金額でその馬券を買おうとしていたわけです。
最初は渋っていた長身の男でしたが、何やら急いでいるらしい男は電話でせっつかれていたようで、優男の言うがままに馬券を売ってしまい、その場を後にします。
優男はしてやったりと言わんばかりにさっさと換金所へと向かい、馬券の両替を行なおうとします。
ところが換金所のATM?は、優男の馬券に対して「この馬券は換金できません」という応答を返すばかり。
不審に思った優男が馬券をよくよく調べてみると、何と馬券の表面はシールによる二重構造になっており、シールをめくったら全く違う馬券が出てきたのでした。
長身の男を騙したつもりで、本当に騙されたのは実は優男の方だったのです(苦笑)。
優男を騙した一連の詐欺は、長身の男と、長身の男に最初に話しかけてきた小柄な男が共謀したものだったというわけですね。

今作の主人公で阿部寛が演じる長身の男の名は武沢竹夫といい、小柄な男からは「タケ」と呼ばれていました。
一方、村上ショージが扮する小柄な男の方は入川鉄巳といい、タケからは「テツ」という愛称をつけられていました。
2人はコンビを組んでおり、冒頭の競馬場での一件のように詐欺行為に手を染めることで生計を立てていました。
基本的にはタケの方がベテランの本職詐欺師で、テツはオタオタしながらその手伝いをする素人な相棒といった感じです。
競馬場の詐欺で大金を手にし、近くのタンメン屋?でささやかな祝杯を上げていた2人は、しかしその最中で、自分達が借りているアパートの一室が火事になっているのを目撃します。
するとタケは顔を青ざめさせ、テツの手を引っ張ってその場を後にし、火事になったアパートへ戻ることなく公園の遊具の下で野宿をするのでした。
そしてタケは、自分が詐欺師になった経緯をテツに語り始めます。
元々は普通のサラリーマンだったタケは、しかし会社の同僚がこしらえた借金の連帯保証人になってしまい、闇金から借金の返済を迫られた過去がありました。
そして闇金を牛耳るヒグチという男の手下として借金の取り立て役を任され、借金の返済を迫った先の女性を自殺にまで追い込んでしまったのです。
その行為にウンザリしたタケは、ヒグチの事務所から金貸しのリストを密かにちょろまかし、それを警察に持って行ってヒグチもろとも闇金組織を壊滅させることに成功。
しかしその直後、タケの家が火事に見舞われ、その際に彼の唯一の肉親だった娘が他界することとなってしまいます。
そこにヒグチの影を見出さざるをえなかったタケはただひとり逃亡、その後はまともな職に就くこともなくいつの間にか詐欺師になったとのことでした。

その後、別の場所で新たな一軒家を拠点として確保し、心機一転と言わんばかりに詐欺稼業を再開したタケとテツの2人は、詐欺のターゲットを物色している最中、目星をつけていたターゲットにスリを働いた少女を目撃します。
とっさに2人は助けに入り、少女を逃がすことに成功。
ひとまず落ち着いたところで2人が事情を聞くと、今いるアパートの家賃が払えず、近いうちに追い出される公算が高いことから、一発逆転的にスリに走ったとのこと。
その少女に何か感じるものがあったのか、タケは少女に対し、アパートを追い出されたら新たに確保した自分の拠点に来るよう少女に促すのでした。
これが、タケにとっても少女にとっても大きな転換点となるのですが……。

映画「カラスの親指」は、ラスト30分の思わぬ展開と伏線の回収ぶりが光る作品ですね。
それまでの映画の世界観が根底から覆る衝撃の展開でしたし、そこに至るまでの伏線の積み重ねがまた丁寧かつ大量に行われています。
これほどまでの大逆転ぶりは、今年観賞した邦画作品の中でもダントツの凄さで、観客として見てさえ思わず「これは騙された!」と唸らざるをえないほどに秀逸な出来です。
洋画も含めた映画全体で見ても、今作に匹敵するだけの大逆転をこなしてみせた作品は「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」くらいなものでしたし。
映画の評価はラスト30分の展開でその大部分が決まる、というのが私の持論なのですが、今作はその定義に見事に当てはまった構成ですね。
人間ドラマ的な面白さ以上に、ミステリー的な要素も少なくない作品と言えるのではないかと。

逆に今作で一番悲惨な役どころを演じる羽目になったのは、物語中盤で主人公達の平和な生活を乱したと見做され、詐欺のターゲットとして狙われることになるヒグチ一派でしょうね。
物語ラストで披露される真相から見れば、彼らは一方的に冤罪をかぶせられ危険視された挙句に先制攻撃を受ける羽目になっていたわけなのですから。
もちろん、彼らもそれなりに非道なことをやらかしまくっていた前歴があるのですし、作中でも言われていたように本当にタケ達を襲撃する可能性も決してなくはなかったのですが。
ここでさらに笑えたのは、ヤクザの一員が主人公達の素性に探りを入れた際に■■を指さしてやり返した台詞「私は○○○○の△△△なんです」でしたね。
あれを言われた時、黒幕の人は内心大爆笑していたのではないですかねぇ。
良くも悪くも、確かに凄く良い思い出になったのではないかと思えてならないのですが(苦笑)。

今作では「阿部寛主演」というのが映画広報の際の売り文句のひとつとなっていましたが、作中ではどちらかと言えば村上ショージのキャラクターぶりの方が光っていた感じではありましたね。
何でも村上ショージは、今作が初めて本格的な俳優としてデビューした映画となるのだそうで。
あの最後まで飄々としていたキャラクターぶりは、私は嫌いではないですね。
今作の雰囲気にも良く合っていましたし。
両者のファンと人間ドラマ&ミステリー好きな方は、今作を見る価値があるのではないかと。

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