映画「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝(3D版)」感想
2013年新作映画観賞のトップを飾る作品は「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝」。
明王朝時代の中国大陸を舞台とする、ツイ・ハーク監督製作によるジェット・リー主演の中国アクション映画です。
この作品は日本やアメリカとの合作では完全無欠の中国映画とのことなのですが、個人的に中国映画は今まで不思議と全く縁がなかったんですよね。
唯一中国的な要素が前面に出ていた作品で馴染み深かった映画「幽幻道士」シリーズも、実際は台湾の作品だったわけですし。
劇場で観賞した中国映画としては、2009年公開映画「レッドクリフ PartⅡ -未来への最終決戦-」以来になるでしょうか。
なお、今作はPG-12指定作品で、かつ熊本では3D版でしか上映されていないため、3D版での観賞となりました。
明王朝時代の中国大陸では、東廠(とうしょう)および西廠(せいしょう)と呼ばれる特務機関が専横を振るっていました。
東廠は朝廷内の役人達の動向を監視する機関であるのに対し、西廠は一般人を監視する機関とされ、共に他者から恐れられる存在となっていました。
今作の物語は、東廠の長官が五軍の都督府長を粛清しようとする場面から始まります。
東廠の長官が都督府長を処刑させようとしたまさにその時、突如巨大な丸太が壁を突き破り、兵達は大混乱に陥ります。
さらに、その混乱に乗じて3人の暗殺者達が東廠の長官や兵達に襲い掛かります。
東廠の長官はその老獪な外見に反して凄腕の剣技を披露する実力者ではあったのですが、奮戦むなしく、暗殺者のひとりで今作の主人公でもあるジャオにあえなく討ち取られてしまいます。
主を失ってしまった東廠は対策会議で事態の収集を図ろうとしますが、そこへ西廠の督主であるユーが訪れ、東廠の重鎮達を嘲笑います。
ユーは皇帝の正妻である貴妃とも関係を持つ宦官でもあり、貴妃の意に沿わぬ人物を片っ端から始末することで今の地位を築いてきた人物です。
そんなユーに東廠の面々は怒り狂うのですが、ユーは彼らの怒りを意に介することなく、その場を後にするのでした。
その直後、貴妃に呼び出されたユーは、後宮に仕えている女官4人が身籠ったことを貴妃に報告していました。
ユーはそのうち3人を葬ったのですが、残りのひとりの逃走を許していました。
彼は自分以外の女性が皇帝の子を孕むことを何よりも憎む貴妃の意を受け、残りひとりの女官スーを捕縛すべく、スーが逃亡したとされる谷へ大隊を派遣するのでした。
スーは谷を流れる川の渡し船で一般乗客を装い逃走を続けていましたが、ユーが放った大隊の検問であえなく御用となり、今まさにその首を刎ねられんとしていました。
西廠が放った大隊の存在に気づき、ひそかに追跡していたジャオを含めた3人の暗殺者達は、スーを助けるべく戦闘を開始しようとします。
しかし、彼らが姿を現すよりも前に、顔を隠した謎の人物が突如兵達に襲い掛かり、自身のことを「ジャオ」と名乗り、あっという間に彼らを制圧してスーを救出するのでした。
その人物の正体はリンという女性で、ジャオとは何らかの関係を伺わせるものがあったのですが……。
リンはスーを明王朝の手の届かない場所へ送るべく、明王朝の西北国境にある宿場へと向かうことになります。
その宿場の名は「龍門宿」。
ここが、今作における主戦場となるのです。
映画「ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝」は、冒頭のオープニングの時点で「ああ、中国映画だな」ということがよく分かるシロモノですね。
洋画ならばアルファベット、邦画ならば日本語が並べられるスタッフロールで、誰の目にも明らかな中国語が並んでいましたし、音楽もどことなく聞き慣れないものだったりしましたから。
洋画の「エクスペンダブルズ」シリーズにも出演していたジェット・リーが主演とのことだったので、てっきり「中国的な雰囲気を持つハリウッド映画」とばかり考えていたものだったのですが。
というか今回は、数年ぶりの中国映画ということもあり、ジェット・リー以外に知っている俳優さんが誰もいなかったりします(苦笑)。
中国映画ではそれなりに有名どころを集めているようなのですが、中国映画なんてめったに見ない私の視点では知らない人ばかりですし。
今作の場合、映画の冒頭数分の時点で「しまった、映画のチョイスを間違えた!」と考えてしまった人が意外に多いのではないかなぁ、とついつい考えてしまったものでしたね。
作中で繰り広げられるアクションシーンは、ハリウッドとはまた一味違った味を出しています。
やたらと暗器類を駆使したり、さしてダッシュもしていないのに舞空術でもやっているかのごとく高い跳躍力を見せつけたりと、科学考証的にはツッコミどころ満載なアクションが披露されています。
確かに演出的にはハリウッドよりもスピード感はありますし、それなりに「見れる」ものにはなっているのですが、ただ、やはりどこか「違う」感はどうにも否めないですね。
迫力に欠けている、というのとは少し違うのですが、どこか根本的な部分でハリウッドに遠く及ばない要素があるというか……。
銃撃シーンやカーチェイスが皆無なことではないと思うのですが、この辺りは何とも言えないところではありますね。
人間ドラマも、大味なハリウッドアクション映画と大同小異といったところでしかないですし。
個人的にこの作品で納得がいかなかったのは、物語終盤で「皇帝の子供を身籠った」として貴妃から追手が差し向けられていたはずの元後宮の女官スーの真の正体が判明したことですね。
実はあの女官スーは西廠の督主ユーの密偵で、最終的に彼女は主人公達を裏切ってユーと共に主人公と対峙するんですよね。
その際には「皇帝の子供を身籠った」という設定もどこかに消えてしまっていて、ピアノ線のような武器を駆使して主人公達を窮地に追い詰めていくのですが……。
しかし、そもそもユーをはじめとする西廠の面々達は、貴妃の命令に基づいてスーの身柄を確保することを最優先課題としていたのではないのでしょうか?
第一、作中でもスーは一度西廠が敷いた検問に引っかかってしまい、これみよがしに斬り殺される寸前までいっていたわけですし。
これが完全なフェイクだということになってしまうと、西廠は一体何のためにあんな大部隊を用意してはるばる龍門へ遠征までしていたのか、全く理解不能になってしまうのですが。
自分達に刃向ってくるジャオの始末を目的とするのであれば、そもそも龍門への遠征を敢行する必要それ自体がまるでなく、西廠のみならず明王朝の軍団そのものまで動員できる紫禁城周辺に罠でも仕掛けて待ち伏せていた方がはるかに効率が良いのですし。
「敵を騙すにはまず味方から」の論理を駆使していたにしても、ユーとスーを除く西廠の遠征軍が全滅した後に暴露されてもそれは宝の持ち腐れもいいところですし、払う必要のない犠牲が多すぎるとしか評しようがないでしょう。
スーが主人公達を裏切って大功を挙げるつもりだったのであれば、もっと効率良く主人公達を各個撃破できる局面が他にもたくさんあったのではないかと思えてならないところです。
特にジャオとリンについては、1対1で相対していた局面が作中でも複数個所にあったわけですし、彼女が裏切るまで誰も彼女のことを疑ってもいなかったわけなのですから、いくらでも裏のかきようはあったのではないのかと。
どう見ても後付で裏切りエピソードが追加されたとしか考えられないほどに、スーの裏切りは物語の辻褄が合わず必然性にも欠け、かつタイミングも最悪だったとしか言いようがありませんでした。
裏切りエピソードを描きたかったのであれば、もう少し物語の整合性や全体像というものに配慮して欲しかったところですね。
日本ではマイナーな部類に入る中国映画ということもあり、結構観る人を選びそうな作品です。
あの奇抜なアクションシーンが受けられるか否かで、今作の評価は個々人で大きく変わってきそうではありますね。