映画「脳男」感想
映画「脳男」観に行ってきました。
首藤瓜於の同名小説を原作とする、生田斗真主演のバイオレンス・ミステリー作品。
バイオレンスの名が示す通り、今作は人から切り取られた舌の描写や、爆弾で阿鼻叫喚の地獄絵図のごとく人が次々と死んでいくなどといった描写があったりするため、PG-12指定されています。
今作の主人公は、とある病院で精神科医を務めている鷲谷真梨子(わしやまりこ)。
今作における彼女は、「脳男」の精神鑑定と正体を突き詰める役を担っています。
ある日、仕事から帰ろうとしていた鷲谷真梨子は、バスに乗り込もうとするもギリギリのところで間に合わず、バスに乗っていた小学生達にからかわれながらバスを見送る羽目となります。
元来自分が乗るはずだったバスを見送っていたところ、彼女は次にバスが停車したバス停で、口に血の跡がついている女性が乗り込む姿を目撃します。
その女性を乗せ、バスが出発した次の瞬間、突如バスは轟音を立てて爆発炎上!
しばらくは周囲の人間共々茫然としていた鷲谷真梨子でしたが、バスからよろよろと歩き出てきた子供を見るや、ハッと我に返り子供の元に駆け付け、「早く救急車を!」と叫び始めます。
周囲は騒然となり、ただちに警察による現場検証が開始されました。
しかし、事件の物珍しさもあってか、周囲の野次馬達は携帯を片手に現場の写真を撮ろうとするありさま。
現場検証に当たっていた刑事のひとり・茶屋(ちゃや)は、そんな野次馬に腹を立て、野次馬のひとりが現場に向けていた携帯を取り上げ、その場で叩き壊してしまいます。
当然、周囲は彼に非難の目を向けるのですが、彼は平然としていました。
茶屋は、今回の事件を起こした犯人を憎悪し、何が何でも自分で検挙すべく、執念を燃やしていたのでした。
今回の爆破事件は単独で発生したものではなく、個人をターゲットとし、そのターゲットの舌を切り取った上で爆殺するという同じ手口が既に何度も実行されていた、連続性・関連性の極めて強いテロ事件でもありました。
事件で使用されている爆弾はありふれた市販の製品を元に構成されており、物流ルートの追跡が事実上不可能であることから、警察の捜査は難航していました。
しかし、爆発物のスペシャリストである黒田雄高の調査結果により、爆弾製造の際に特殊な素材が使用されていることが判明し、これが容疑者を割り出す大きな手掛かりとなります。
その特殊な素材の購入者リストを入手した茶屋は、ひとりずつ購入者を洗い出していき、ついに有力な容疑者とそのアジトの割り出しに成功するのでした。
部下の広野と共にアジトへと向かう茶屋。
アジトでは侵入者を想定していたのか、入口に爆弾が設置されており、ドアを開けると同時に爆発に巻き込まれた広野は、2階から地面に叩きつけられてしまいます。
重傷ながらも意識はある広野の無事を確認した茶屋は、アジトの中でひとりたたずむ男に対し銃を向け、爆破事件の共犯者としてその身柄を確保することになります。
連続爆破事件があまりにも犠牲が大きく異常性のあるものであったことから、その男は精神科医による精神鑑定を受けることになりました。
その精神鑑定を受けることとなったのは鷲谷真梨子。
彼女は、鈴木一郎という露骨な偽名を名乗るその男の鑑定結果に興味を持ち、彼の素性を調べ上げていくことになるのですが……。
映画「脳男」は、「脳男」に出会いその正体や誕生に至るまでの経緯を把握するためのパートと、「脳男」と警察と爆破テロ犯との3つ巴の戦いが繰り広げられるパートの2つに分かれるストーリー構成となっています。
前半は、主人公である鷲谷真梨子、および「脳男」こと鈴木一郎(本名:入陶大威(いりすたけきみ))の過去や生い立ちなどがメインで語られており、どちらかと言えばやや退屈な展開が続きます。
一応、ミステリー的な謎解き要素を入れることで、話にそれなりの起伏や演出を盛り込んではいますが。
そして後半、特に病院が爆弾魔に襲撃されてからは、とにかく緊迫感に満ちたストーリーが展開されることになります。
派手な爆破シーンやアクションシーンがてんこ盛りな上、誰が最終的に勝つのか全く予測不可能な話の進め方でしたし。
世界観の解説に終始する前半とアクションメインの後半という今作の構成は、映画「インセプション」と比較的良く似た構成であると言えるでしょうか。
映画の製作者達も、宣伝などで「衝撃のラスト30分」と豪語していましたが、確かにそれにふさわしい出来ではありましたね。
個人的に「ちょっとそれは違うだろ」と考えずにいられなかったのは、鷲谷真梨子が数年?かけて更生させ社会復帰させた自分の弟を殺した犯人を「脳男」が殺した際の、鷲谷真梨子の激情ですね。
あの犯人は、上辺だけの更生した態度を見せつけることで鷲谷真梨子を騙していたのであり、「脳男」があの犯人を殺害していなかったら、かつて弟が殺された時の惨劇を、しかも彼女自身の手で再現することにもなりかねなかったのです。
にもかかわらず、鷲谷真梨子が殺された犯人ではなく「脳男」に対して「私が長年かけて築いてきたものを壊した」などと怒りをぶつける光景は、「脳男」にしてみれば八つ当たりもいいところだったでしょう。
あの犯人が再び犯行を繰り返すことを見抜けなかったのは明らかに鷲谷真梨子の大失点だったのですし、それは精神科医としての自身の責任を問われ、下手すれば自分の地位も立場も失いかねないほどのものですらあったはずです。
もし「脳男」があの犯人を殺さなかったら、鷲谷真梨子はまさにそういう立場に追いやられていたかもしれないのですし。
自分の無能と見る目の無さを、綺麗事を並べて誤魔化していた以外の何物でもなかったのではないですかね、あの時の鷲谷真梨子の態度は。
その前にも鷲谷真梨子は、爆弾魔を殺そうとしていた「脳男」を制止して動きをとめ、ここぞとばかりに爆弾を起爆させようとした爆弾魔の行動によって、結果的に自分達を危険に晒すことにもなっていたのですし。
何というか、作中後半における鷲谷真梨子は、「無能な働き者」の代名詞な言動に終始していたと言っても過言ではないのではなかったかと。
ミステリーとして見てもアクションシーン等の演出面でも、映画館で見てまず損はない良作ですね。